WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第8話.12)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-12 ****


「何だよ、気持ち悪いなぁ~俺、何か変な事、言った?安藤さん。」

 理由を聞かれて、安藤は笑いを堪(こら)えつつ言葉を返す。

「ごめんなさい…ちょっと、タイミングが悪かっただけで、変な事は言ってません。あ~、『立花さん』は飯田部長の所へ行くって。」

「畑中先輩、取り敢えず一号車を動かして頂けますか?天野さんが装備を降ろせないので。」

 皆と一緒に笑っていた緒美も、何時(いつ)もの冷静な表情に戻って、畑中に話し掛ける。

「あぁ、そうだった。直ぐにこっちに回して来るから。」

 畑中は慌てて天幕の後方、管理棟横の駐車スペースへと走って行く。
 一方で、スラスター・ユニットの再接続、起動から LMF との接続解除まで一連の作業を終えた茜が、畑中とは入れ替わる様に天幕の前に到着し、声を掛けて来る。

「何だか、楽しそうですね~。」

「あぁ、天野さん、ご苦労様。」

 戻って来た茜に、緒美が労(ねぎら)いの言葉を掛けた。

「何が有ったんですか?」

 茜の質問に、普段通りの笑顔で恵が答える。

「大した事じゃないわ。さっきのはタイミングが命、みたいな笑い所だから、後で聞いても、大して面白い話じゃないと思うの。その場に居合わせなかったのが、残念だったわね。」

「そうですか。それは残念です。」

 その一方で、ヘッド・セットのマイクを通じて、緒美がブリジットに話し掛ける。

「あ、ボードレールさん。コックピット・ブロックを接続するから、LMF の前に移動してちょうだい。接続作業は Ruby の自律制御でやるから、LMF の前に置いたら、降りていいわよ。電源は切らないでおいてね。」

「は~い、移動します。」

 天幕下のモニター・スピーカーから、ブリジットの返事が聞こえた。
 天幕の東側で『アイロン』に乗った儘(まま)待機していたブリジットが、LMF に向かって『アイロン』を走らせると、その後ろからは畑中が運転するトランスポーター一号車が走って来て、天幕の前を右に向きを変えると緒美達の前で停車した。そして、コンテナ後部の扉が地面に向かって、ゆっくりと開く。
 それを確認して、直美は席を立ち、隣の天幕下で佳奈とクラウディアの二人と談笑していた瑠菜に、大きな声で呼び掛けた。

「瑠菜~、HDG のメンテ・リグ立ち上げるよ~。」

「は~い。」

 二人の元を離れて、瑠菜は駆け足で一号車へと向かう。それと入れ替わる様に、一号車の運転席から降りた畑中は、二号車へ向かって駐車スペースへと駆けて行った。

「じゃ、部長。HDG、降ろして来ます。」

「はい。終了作業も気を抜かないでね。」

「はい、分かりました~。」

 茜はクルリと向きを変えると、一号車の後部へと向かって歩き出す。
 そして一号車へと中程辺りまで行った所で、その向こう側に停止している LMF の方から、『アイロン』を降りて天幕の方へと向かうブリジットと、茜は出会(でくわ)すのだった。
 二人は互いに「お疲れ」と言葉を交わすと、試験開始前の様に掌(てのひら)を軽く打ち合わせた。
 そんな様子を、コンソールを操作する手を休めて、樹里は何と無く眺(なが)めていた。そして、不意に、安藤に話し掛ける。

「さっきの、バグ取りが一気に進んだって話、可成の部分、天野さんのお陰、みたいな感じなんですよ。」

「そうなの?」

「はい、天野さんがテストをする様になってから、矢っ張り動かしてみないと解らない不具合って、いっぱい有るみたいで。これが又、天野さんが不具合が見つかる様に動かしてみるのが上手いって言うのか。彼女が仕様を全部理解した上で動かしているからこそ、なんだと思うんですけど。」

 そう言って、樹里は再びコンソールの操作を再開するのだった。
 安藤は一息吐(つ)いて、言った。

「凄いわね。」

「でしょう。あれで、一年生なんだから…」

「あぁ、ごめん。わたしが言ったのは、あなたの事よ、樹里ちゃん。まぁ、確かに天野さんも凄いとは思うけど。」

「わたし…ですか?」

 樹里は再び手を止め、安藤の方へ顔を向ける。

「そうよ。五月初めの電源関連のもそうだったけど、普通、動作の不具合からプログラム上の不正箇所を特定する迄(まで)が一番時間が掛かる物だけど、樹里ちゃん、何時(いつ)も不正箇所に大体の見当(けんとう)を付けて、不具合報告上げてくれてるでしょ。修正作業を担当してる五島(ゴトウ)さんとか、何時(いつ)も助かるって言ってるし。うちの主任も樹里ちゃんの事は、凄く評価してるの。課長なんか、今から人事部に樹里ちゃんの入社後の配属予約を交渉してる位(ぐらい)なんだから。」

「それは、どうも…ですけど、わたし、まだ二年ですよ?」

「それが、つくづく残念なのよねぇ。卒業迄(まで)まだ、一年半も有るなんて。維月ちゃんと、序(つい)でに、クラウディアさんも一緒に、飛び級で卒業させて貰えないかしら。」

「流石に、それは無茶ですよ。」

 樹里と安藤、二人は顔を見合わせて、笑った。

「そう言えば、樹里ちゃんは何時(いつ)頃からプログラミングとか習ってたの? 聞いた事無かったけど、矢っ張り維月ちゃんみたいに、ご両親がそっち系だったり?」

「あぁ、わたしは維月ちゃんみたいなサラブレッド的なのじゃないです。両親はソフト関係とは無縁でしたし。只、母方の祖父が、そっち系のエンジニアだったんですけどね。」

「じゃ、お祖父様から?」

「う~ん…そこは難しい所で、祖父から直接、教わってはいないんですけど。基本は、ほぼ独学ですが…いや、基礎は祖父から習った事になるのかな?」

「なんだか複雑そうね。」

「あ、いえ。それほど難しい話ではないんですが。 母の実家に遊びに行っている内に、祖父のやっている事に興味を持ったのが小学校の一年生頃の事で。その時に、祖父が、わたしが十歳、小四になったら教えてあげるって約束して呉れたんですよ。それ迄(まで)は学校の勉強を、しっかりやりなさい、と。」

「うん、うん。」

「所が、わたしが小三の冬、年が明けて一月の末頃に、祖父が急死してしまいまして。心不全だったかな…。」

「あら、何だか悪い事、聞いちゃったみたいね。ごめんなさい、樹里ちゃん。」

 安藤は慌てて謝意を述べるが、それには樹里は恐縮する他無かった。
 樹里はコンソールの操作を再開しつつ、言った。

「いえ、いいんですよ。もう、何年も前の事ですから。」

 

- to be continued …-

 

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