WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第8話.13)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-13 ****


 そして、一息吐(つ)いてから、樹里は話を続けた。

「それで、祖父の遺品の中に、わたし用のプログラミングのテキストが有りまして。祖母の話だと、祖父がわたしと約束した後から、子供でも解る様なテキストを作ってくれていたそうです。」

「お祖父様は、あなたに教えるのを楽しみにしていたんでしょうね。」

「らしいですね。 それで、祖父の持っていたマシンとか、雑誌や専門書とかの資料一式、わたしが譲り受ける事になしまして。わたしは祖父の作って呉れたテキストで、マシンの操作とかプログラミングの基礎を勉強して、その後は、祖父から譲り受けた本とか、ネットの情報を頼りに独学で~って言う感じです。 特に、小六の頃は、ネットで専門的な事を質問し捲(まく)ってたり。皆さん、親切に教えて呉れたので、あの時期に随分と理解が進みました。」

「あ。」

 突然、安藤が目を丸くして、短く声を上げた。樹里は少し驚いて、安藤の方へ目を向ける。

「何ですか?安藤さん。」

「いえ、ちょっと唐突に、少し昔の事を思い出して。 樹里ちゃんが小六って、五年くらい前の事よね?」

「そう、ですね。それが何か?」

「わたしが入社した年の事だから、良く覚えてる…いや、今まで忘れてたんだけど。あの年、ネットで、ソフト関連で、やけに専門的な事ばっかり聞いてる自称小学生が居るって話題、有ったのよね。ネットの一部、主にソフト開発クラスタ界隈(かいわい)で。うちの課でも、こんな事聞いて来る小学生なんか居る訳(わけ)無いだろうとか、言ってたんだけど。」

 樹里は安藤の話に心当たりが有ったので、視線を一度宙に上げ、再び安藤へと戻した。

「あぁ~…その、自称小学生のハンドル・ネームとか覚えてます?安藤さん。」

「えぇっと…確かね『JJ』とか『ジュリエット』とか…え?『ジュリ…エット』?」

 樹里は照れ臭そうに笑い乍(なが)ら、言った。

「あはは、それ、わたしです。」

「あ、あぁ~、あぁ、成る程ね。いや、何だか納得したわ、凄く。うん、あはは、あぁ、そうか、そうかぁ~。 じゃぁ、あれは、矢っ張り、本当に小学生だったんだ~。」

 安藤は一度手を打って、大きく頷(うなず)いた。そこで、二人の会話を聞いていた恵が、少し茶化し気味に割って入る。

「意外と城ノ内さんは、昔から有名人だったのね~。」

「いえ、変に有名になりそうだったから、そうなる前に、ネットで質問するのを止めたんですよ。恵先輩。」

 興味津々と言った体(てい)で、身を乗り出す勢いで安藤が問い掛ける。

「そうよね、秋位(ぐらい)からパッタリ、質問が上がらなくなったから、それはそれで話題になった物だったけど、当時は。 そのあとは、どうしてたの?」

「あぁ~そのあと、中学生になってからは…年齢を誤魔化して、企業とかが主催のプログラム・コンテストとかに応募してました。腕試しに。」

「それで?優勝し捲(まく)ってたとか?」

 瞳を輝かせ、安藤が追求する。それに、少し困った様に樹里は答えた。

「いえ、さっき言った通り、応募する為に年齢を誤魔化してたので。 プログラムの出来は良かったらしいんですが、参加規定以下の歳だったのがばれて自動的に不合格になったり、ばれる前にこちらから受賞を辞退したり、で。そんな訳(わけ)で、受賞歴とか華々しい物は一切有りませんよ。賞金云云(うんぬん)の話も有ったんですけど、幸い、両親も特に欲を出さなかった物で~。 まぁ、今考えてみれば勿体無(もったいな)かったよね~って、母とは話す事が有りますけど。」

「城ノ内さんのそう言うお話、初めて聞いたわね。」

 今度は緒美が、ポツリと言った。それに、恵が付け加える。

「城ノ内さんは、普段、自分の事は余り話さないものね。」

「う~ん、特に聞かれた事も無かったので。それに、普段は聞き役に回る方が多いと言うか。」

「あはは、その辺り、城ノ内さんは『お姉さん気質』なのよね。」

 恵が笑ってそう言うと、樹里も微笑んで答えた。

「かも、ですね。実際、弟と妹が居ますので、その所為(せい)でしょうか?」

「あぁ、樹里ちゃん、『お姉ちゃん』だったんだ。樹里ちゃんの妹と弟なら、その二人も優秀なんでしょうね~。」

「いいえ、それが二人とも両親に似て、普通の女の子と男の子ですよ。家族には、わたしだけがこっち方面に填(はま)っちゃったのは、お爺ちゃんの隔世遺伝なんだって言われてます。」

 そう安藤に答えて、樹里は笑った。

「コックピット・ブロックの接続、完了しました。」

 突然、天幕下に Ruby の合成音が響く。樹里達が雑談をしている間に、自律制御で Ruby はコックピット・ブロックの再接続作業を進めていたのだ。勿論、樹里は雑談をし乍(なが)らも、その状況をコンソールでモニターしていたのだが。
 そして、丁度(ちょうど)、タイミングを同じくして、トランスポーター二号車が、畑中の運転で一号車の後方へと移動されて来て、停車した。

「オーケー。それじゃ、次はトランスポーター二号車の荷台に、自律制御、中間モードで上がってちょうだい。そのあとで、スリープ・モードへの移行作業をやって貰うから。」

 緒美は、ヘッド・セットのマイクで Ruby へ指示を伝える。それに対する Ruby の返事は、少し意外な内容だった。

「分かりました。その前に、『ゼットちゃん』と少しお話しする事は、可能でしょうか?」

 『ゼットちゃん』とは、安藤の設計三課でのニックネームである。

「あぁ、いいわよ。ちょっと待ってね。」

 Ruby が安藤の事を『渾名(あだな)』で呼ぶ事を知っている緒美は、躊躇(ちゅうちょ)無く自分のヘッド・セットを外して、安藤へと差し出し、言った。

「どうぞ、安藤さん。」

「ありがと。」

 安藤は腕を伸ばし、樹里の背中越しにヘッド・セットを受け取ると、首に掛けていた試験機材の制御班との連絡用ヘッド・セットを外し、緒美から受け取った Ruby のコマンド用ヘッド・セットを装着する。

「ハァイ、Ruby。安藤です、何かご用?」

「ハイ。今日の試験の様子は、ご覧になっていましたか?」

「勿論、最初から最後迄(まで)、緒美ちゃんや樹里ちゃんと一緒に見てたわよ。」

「それでは、『ゼットちゃん』の評定を聞かせて下さい。」

「さっき、立花先生にもお話ししたんだけど、ログの解析にそれなりの時間が掛かるから、正式な評価は可成り先になるんだけど。」

「それは承知しています。」

「じゃぁ、わたしの個人的な感想でいいのね?」

「ハイ、構いません。」

「そう…ね。わたしが見た限り、何も問題は無かったわね。主任にも、そう報告しようかと思っているの。」

「分かりました。ありがとうございます。」

「いいえ、いいのよ。学校に戻って、あなたが会社のネットワークに接続したら、また、お話ししましょうね、Ruby。」

「ハイ。楽しみにしています。」

「それじゃ、コマンドを緒美ちゃんに返すわね。」

 そう言うと、安藤はヘッド・セットを外し、緒美へと差し出すのだった。

「ありがとう、緒美ちゃん。」


- to be continued …-

 

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