WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第9話.02)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-02 ****


「わたし達で、迎撃するべきです。防衛軍の戦闘機が来る前に。」

「ダメよ。許可出来ません。」

 緒美は即座に、クラウディアの提案を拒否した。
 それに間を置かず、ブリジットはクラウディアを睨み付けて、声を上げる。

「大体、何が『わたし達で、』よ。HDG が使えるのは、今は茜だけじゃない! あなた、茜に嫌がらせがしたいだけなんじゃないの?」

 真っ直ぐクラウディアを見詰めて、緒美は微笑み乍(なが)ら言った。

「天野さんやボードレールさん、それにカルテッリエリさん、あなたにも、実戦をさせる為にテスト・ドライバーに選んだ訳(わけ)じゃないの。もしも、実戦をする必要が有るのなら、その時はわたしがやります。」

 すると、緒美の、その発言に対して、樹里が口を挟むのだった。

「残念ですが部長、HDG のパラメータは、天野さんに合わせて調整してあるので、部長が使うのは、直ぐには無理です。」

「解ってます、城ノ内さん。だから、今回は全員、避難します。もう、時間が無いわね。天野さん、ボードレールさんはその格好の儘(まま)で移動しましょう。」

「あの、Ruby は? Ruby はどうするんですか?部長。」

 茜にそう尋(たず)ねられ、初めて緒美の表情が強張(こわば)った。

Ruby は…仕方が無いわ。ここに置いて行くしか。」

「せめて、コアだけでも外して、一緒に避難出来ませんか?樹里さん。」

「無理よ、正規の手続きを踏んで Ruby を停止させるだけで三十分は掛かるのに、LMF からコアを外すなんて、三時間は必要よ。」

「そう…ですか。」

 がっくりと肩を落とす茜を、ブリジットは慰める様に後ろから肩に手を回して引き寄せる。そして、何か閃(ひらめ)いた様に、ブリジットは提案する。

「あの、Ruby には自律行動を許可しておけば、危険な状態になれば逃げるなり、反撃するなり出来るんじゃないですか?部長。」

 ブリジットの、その提案には、Ruby 自身が回答する。

「ブリジット、それは無理です。自律行動で回避機動は実行可能ですが、ドライバーに因る操作が無い場合、緒美か智子の許可が無ければ反撃は行えません。わたしだけの判断では、攻撃的な行動は行えない様に規定されています。 わたしの事はお気になさらず、皆さんは早く避難して下さい。」

「そんな…。」

 茜とブリジットは揃って、視線を緒美の方へ向ける。緒美は真面目な顔で、言うのだった。

「格納庫に入っていれば、LMF はエイリアン・ドローンに見付からないかも知れないし、防衛軍の攻撃に巻き込まれたとしても、LMF の中に格納されていれば、Ruby の本体は、そう簡単に壊れる物じゃ無い筈(はず)よ。」

 緒美の気休めとも取れる説明に、クラウディアが語気を強めて反論する。

Ruby のコアは無事かも知れませんけど、コアの外側に有るライブラリのメモリーやデータが破損したら、Ruby の疑似人格を構成する大半の情報が失われます。ですよね?城ノ内先輩。」

「そうね。」

 樹里は目を閉じて、短い言葉でクラウディアの意見に同意すると、大きく息を吐(は)いた。それ迄(まで)、クラウディアの背後に立って様子を見ていた維月が、樹里が敢えて言わなかったであろう内容を、説明する。

「もしも、そうなったら、Ruby を再構成しても、今の Ruby とは違う人格になるでしょうね。Ruby の人格は経験の蓄積に因って構成されてるから。理屈上は、Ruby が起動して以降と同じ出来事を、同じ順番で経験させれば、同じ人格が出来上がる筈(はず)だけど、そんなの現実には無理だから。」

「イツキ…頭を撫でないで。」

 席に座った儘(まま)だったクラウディアの背後から、彼女の頭の上に乗せられた維月の手を、クラウディアは払い除けてそう言うと、維月は微笑んで詫びるのだった。

「あぁ、ゴメン、ゴメン。」

 すると、再び、Ruby の合成音声が響く。

「わたしの処遇に就いて、議論は必要ありません。わたしは飽くまで製造物であって、この人格も擬似的な物です。それよりも、皆さんの安全の方が優先されます。早急に避難される事を、強くお薦めします。」

「兎に角…。」

 Ruby に次いで、緒美が少し大きな声を上げると、そこで一息を吐(つ)き、そして言った。

「…今は、避難しましょう。Ruby も自分の為に、みんなに危険な目に遭って欲しくは無いのよ。」

 その言葉を聞いて、座っていたクラウディアが両手を机に突いて立ち上がり、声を上げるのだった。

「先輩方は!この学校が壊されてもいいんですか?…わたしは、ここに来て、まだ三ヶ月だけど、ここが好きですよ。だから、嫌です。一部でもここが壊されるのは、嫌なんです。」

「それは、わたしも嫌だけど。だからといって、下級生に危険な行動をさせると言う選択肢は、ここの責任者としては有り得ません。全員、シェルターへ避難するのよ、急ぎましょう。」

 クラウディアが言い終わると直ぐに、緒美は決然と言葉を返すのだった。しかし、緒美に避難を指示されても尚(なお)、誰もがその場に足を止(とど)めた儘(まま)だった。沈黙の儘(まま)、そこに居た誰に取っても異様に長く感じられた数秒が経過し、最初に動いたのは、茜だった。
 茜はブリジットと共に、インナー・スーツから着替える為に隣室へ行く途中で、部室の奥、南側の二階通路出口の前に立っていたが、踵(きびす)を返して北側の二階通路への出口へと歩いて行き、ドアノブに手を掛ける。

「天野さん。」

 緒美が呼び止めると、茜はドアノブに手を掛けた儘(まま)、振り向いて言った。

「部長の立場は、解ります。でも、わたしは、お爺ちゃんが作った、この学校が壊されるのは、矢っ張り嫌です。わたしに出来る事が有るなら、やります。」

 そう言い終わると、茜はドアを開き、何時(いつ)も格納庫へと降りるのに使う階段に通じる、二階通路へと出て行った。

「しょうがないなぁ~。メンテナンス・リグ、起動しないと。」

 茜の後を追って、瑠菜が部室奥、北側の出口へと向かう。そして、佳奈が瑠菜の後を追うのだった。

「瑠菜さん、古寺さん…。」

 緒美の呼び掛けに一度、立ち止まった瑠菜は振り向かずに言った。

「わたしも、この学校が壊されるのは嫌です。」

 佳奈は振り向いて、にっこりと笑い、言う。

「部長、ごめんなさい~。」

 そして、二人は茜を追って部室を出て行った。
 次いでブリジットが、部室奥側の窓中央上部に取り付けられた Ruby の端末である、小型カメラに向かって声を掛ける。

Ruby、LMF を起動して。わたしが乗れば、茜の援護射撃ぐらい出来るんでしょう?」

  Ruby は、即座にブリジットの呼び掛けに答える。

「ブリジット、LMF を起動するには緒美か智子の承認が必要です。 LMF を起動しても宜しいですか?緒美。」

 Ruby に LMF の起動承認を確認されるも、緒美は目を閉じて黙っていた。

「部長!お願いします。茜だけに、危ない事をさせられません。」

 ブリジットに声を掛けられても、緒美は少し俯(うつむ)き、右手の人差し指を額に当てて、何かを考えているのか、黙った儘(まま)だった。恵はそんな緒美に寄り添う様に近づき、緒美の背中にそっと左手を当てた。

「緒美ちゃん。」

 緒美は一度、大きく息を吐(は)くと、顔を上げて言った。

「いいわ、Ruby、LMF を起動して。」

「ハイ。LMF を起動します。」

「ありがとうございます!部長。」

 ブリジットは、そう言い残すと、二階通路へと飛び出して行った。
 その様子を見て、くすりと笑った直美が、緒美に問い掛けるのだった。

「いいの?本当に。」

 そう聞かれて、緒美は直美の顔を見詰めて言葉を返す。

「あなたも、こうしなさいって、言うんでしょ、新島ちゃん。」

「わたしは、何も言ってないでしょ。」

「言わなくても、顔に書いてある。」

 怒るでもなく、笑うでもなく、真顔で言い返した直美に、緒美は満面の笑みで答えた。
 その時、部室の入り口側の外階段を、勢い良く駆け上がって来る、複数の足音が聞こえて来たのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。