WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第9話.15)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-15 ****


「それは又、どう言う?」

 思わず、聞き返したのは立花先生である。

「うん?あぁ、直接の原因は SF 映画を観ての事らしいが、自分が剣道で防具を着けている体験と、何か妙なイメージ的なリンクが有ったらしくてね。そこから結果的に、他の SF 作品から工学とか、兵器関係に迄(まで)、興味が広がったらしい。何年か前には、天野重工ではパワード・スーツの開発とか研究はしてないのかって、聞かれた事も有ったなぁ。」

 合いの手を入れる様に、塚元校長が問い掛ける。

「それで、この学校に?」

「まぁ、そう言う事だ。」

 次に、立花先生が問い掛ける。

「兵器開発部で鬼塚さん達が、HDG の開発をやっている事は、入学前に天野さんには知らせてなかったんですよね?」

「そんな、余計な事は言わんよ。実際に入学する迄(まで)は、飽くまで部外者だからね。」

「天野さんが入部した時、緒美…鬼塚さんが天野さんの事を『パワード・スーツに造詣(ぞうけい)が深い、希有(けう)な人材』って評していたんですが。…成る程、そう言う流れなんですね。 実際、天野さんが、どうしてあんな風にパワード・スーツに興味を持ったのかは、疑問に思っていました。」

 立花先生は、テーブルに置かれたコーヒー・カップに手を伸ばす。
 そして、塚元校長は微笑んで、天野理事長に言うのだった。

パワード・スーツ?その事に就いては、わたしは良く分かりませんけど。天野さんが、中学時代の理不尽に負けなかったのも、今回、学校を救って呉れたのも、剣道で心を鍛えていたお陰ではないですか。 わたしは、そう思いますけれど。だから、間違いだった、何て仰(おっしゃ)ったら、天野さんが可哀想ですよ。」

「そう言って貰えると、幾分、気は楽だが。その所為(せい)で危ない真似をされるのは、身内としては、どうもね。」

 その天野理事長の答えを聞いて、立花先生が一言。

「天野さんは、祖父は身内だからって特別扱いはしない、って言ってましたよ。」

「そんなのは、立前(たてまえ)だよ。わたしの、ね。」

「でしょうね。」

 透(す)かさず塚元校長に同意されて、天野理事長は「ふふっ」と、少し笑った。そして、言葉を続ける。

「でも、まぁ。今回の件では、茜で良かったのかも知れん。立場上、余所(よそ)様のお嬢さんを、矢面に立たせる訳(わけ)にもゆかん…と、こんな事を言ったら、今度は娘…茜の母親が怒るだろうがね。」

「所で理事長。そんな世間話の為に、立花先生に残って貰った訳(わけ)では無いのでしょう?」

 話題が本筋から外れて行くのを、塚元校長が軌道修正する。天野理事長は、コーヒーをもう一口飲んで、話題を変えるのだった。

「では、本題に入ろうか。立花先生に聞いておきたいのは、今後の見通しと言うか、進め方に就いてだな。」

「と、言われますと?」

「あの子達に、どこまでやらせるべきか、と言う事だよ。我々としても、実戦データの取得迄(まで)、学生にやらせる事は考えていない。早早に、本社か防衛軍に運用試験を移管したい所だが、その見通しに関して、どう思う?」

「先程のお話だと、理事長は軍への移管は慎重に、とのお考えでは?」

「そう考えてはいるが、生徒の身の安全には代えられんだろう。」

「そうですか。まぁ、軍であれ、本社であれ、HDG の試験を移管するには、早くて三ヶ月、長ければ半年位(ぐらい)は、移行に時間を取られるのは覚悟しないと。」

「そんなにか?」

「はい。先程、鬼塚さんが言っていた様に、現在の HDG が動かせるのは、天野さんの能力に負う所が大きいので。パワード・スーツの運用に就いてのビジョンが有って、正確にシステムの仕様を理解し、しかも、人並み以上に身体も動かせる、そんな人材は本社にも防衛軍にも、そうはいないと思いますので。」

「茜は、そんなに優秀かね?」

「優秀ですよ。この学校の、学年トップの成績は、伊達ではないでしょう。ですよね?校長先生。」

 立花先生に話を振られた塚元校長は、胸を張って答える。

「勿論。記憶力のコンテストみたいな、そんな教え方は、当校はしておりませんので。天野さんの中間試験での成績は、それは立派な物でしたよ。」

 塚元校長のコメントを聞いて、天野理事長は腕組みをし、顎(あご)を引く様にして言う。

「う~む、そう言う事になると、当面はあの子達に頼らざるを得ない、と言う事か。大人としては、聊(いささ)か情け無い話しだが…とは言え、スケジュールには、余り余裕が無いしなぁ。」

「スケジュール?」

 塚元校長が、天野理事長に聞き返す。ここで天野理事長が口走ったのは、『R作戦』用のデバイス開発のスケジュールの意味だったのだが、そうであろう事に立花先生は気が付いていた。一方の塚元校長は『R作戦』の事自体を、知らされてはいなかった。勿論、無闇に口外は出来ない事柄なので、天野理事長は歯切れの悪い返事しか出来ない。

「あぁ、それはだな。申し訳(わけ)無いが…。」

 その様子を見て、塚元校長も直ぐに事情を察するのだった。

「あら、会社の方(ほう)の秘密事項でしたら、深くは追求いたしません。聞かなかった事にしますけど、立花先生は御存じの件?」

「いえ、わたしも詳しい事は…。」

「そう。なら、わたしだけ仲間外れではないのね、良かった。」

 塚元校長は、そう言うと「うふふ」と笑うのだった。

「済まないね、校長。」

「いいえ、今に始まった事じゃ、ありませんから。」

「ともあれ、もう少し、状況を見乍(なが)ら考える事にしよう。しかし、場合に依っては、我々の方が覚悟を決めねばならん時が、来るかも知れん。成(な)る可(べ)く、そうはならん様に手は打って行く積もりだが。」

 立花先生は、少し身を乗り出す様にして天野理事長に問い掛ける。

「昨日みたいな事が、そう度度(たびたび)起きる物でしょうか?」

「これは今朝、防衛省と昨日の件で話した際に聞いた事なんだが。 どうやら、連中はここに来て、襲撃の降下ルートを変えた様なんだ。今までは所謂(いわゆる)『北極ルート』だったのだが、この四月にロシアの防空レーダーが稼働を始めただろう? あれの運用が軌道に乗って来て以降、迎撃の効率が可成り上昇していたからな。それに対応して、何(いず)れは降下ルートを変えて来るんじゃないか、と予測はされていたんだが。」

「それが、実際に? 確かに、『太平洋ルート』に、って噂は耳にしてましたけど。」

「いや、『アジア大陸ルート』、『中連』上空から降りて来たらしい。連中は余っ程、海は嫌いと見えるな。」

 ここで、天野理事長が言う『中連』とは、『中華連合』の事である。四十年程前に共産党政権の経済政策の失敗が原因で『中華人民共和国』が崩壊し、十年程の混乱の時期を経た結果、四つの地域に分裂してそれぞれが自治政府を樹立していた。以来、四つの政府は再統一を目指しつつも、主導権争いと足の引っ張り合いを繰り返しており、辛うじて内戦への発展だけは回避している様な状況が現在まで続いている。一方で対外的には一つの国家であると主張はしている物の、連邦政府の成立さえ儘(まま)ならない状況故に、『連邦』ではなく『連合』と呼ばれているのだった。実の所、それぞれの地方自治政府内部でも、「再統一派」と「民族自立派」の意見が対立している上に、周辺各国が曾(かつ)ての様な大国化を恐れて、表に裏に干渉を繰り返すので、一向に情勢が安定しない儘(まま)、時間だけが経過していたのである。
 そんな状況なので、四つの自治政府が連携した防空体制など築ける筈(はず)も無く、そこをエイリアン・ドローンに付け込まれた格好になったのだ。

「それで、西側、九州の方から襲撃して来た訳(わけ)ですか。」

「ああ。従来通りなら北側、ルートを変えて来るなら東南側からと踏んでいた防衛軍は、予想外の西側からの襲撃に慌てたらしい。それで、昨日は対応が後手後手になった様子だ。」

「と、言う事は。今後はこの辺りも、襲撃事件が増えるのでしょうか?」

「今迄(まで)はロシア側からの情報提供も有って、日本海上空で迎撃出来ていたが、東シナ海側だと『中連』の協力は期待出来ないし、それで日本領空に入られたら、九州迄(まで)はあっという間だ。そうなれば、この辺りも、安心は出来んな。」

 天野理事長と立花先生の遣り取りを聞いていた塚元校長が、一言、漏らす。

「それは物騒なお話ですね。」

「そこで、今朝、防衛省に、Ruby がここに有る事を知らせておいた。今迄(まで)は、特に明かしてはいなかったんだがな。 取り敢えず、これで、この周辺の対処については、優先して呉れると思う。」

「防衛軍が守ってくれるのは、Ruby なんですか?学校ではなくて。」

 立花先生は眉間に皺を寄せて、聞き返した。

「以前も言ったと思うが、Ruby は国家機密級のプロジェクトだからね。今朝の報告で、それが被害を受けそうになっていたと知って、彼方(あちら)側のお役人も泡を食っていた様子だったよ。防衛軍の現場の指揮官は、勿論、そんな事は知らないから、昨日は、この辺りの対処を後回しにしたのだろうがね。」

「今後は、防衛軍も対応が変わってくるだろう、と?」

「そう、願いたいがね。」

「そもそも、Ruby って、どう言ったプロジェクトなんでしょうか?…と、お聞きしても、教えては頂けないんでしょうね、理事長。」

 駄目で元元とばかりに、諦め顔で聞いてみる立花先生である。それに対する天野理事長の返答は、予想通りの答えだった。

「生憎(あいにく)と、それはまだ明かせないな。何(いず)れは、話す事になるとは思うが。済まないね、立花先生。」

「いえ。 唯(ただ)、そんな大事な物を、今回は実戦に使ってしまいましたし、あの子達が預かっていて、本当に Ruby の教育になっているのかどうか。」

「それに関しては、問題は無い。Ruby は何(いず)れ、実戦に投入される予定の物だし、Ruby の育成状況については、井上主任からも順調だとの報告を受けている。」

「実戦に、ですか? Ruby を?」

 意外な天野理事長の発言を聞いて、立花先生は身を乗り出して聞き返した。

「何を驚く事が有る。現に、LMF に搭載しているんだから、至極当然の事だろう。まぁ、勿論、LMF に搭載する為に、開発している訳(わけ)ではないが。」

「そう言われれば、その通りですが。わたしもあの子達も、Ruby を兵器として認識しては、いなかったですね。」

 立花先生は上体を引いて、虚脱気味に言うのだった。一方で天野理事長も、少し考えてから、言った。

「そう言えば、先刻も茜が、Ruby の身を案じて、の様な事を言っていたな。Ruby の事を、過剰に人(ひと)扱いする傾向が出る事には留意すべきと、井上主任も言っていたが。あの子達を無用に煩悶(はんもん)させる事も無いだろうから、さっきの事は聞かなかった事にしておいてくれ、立花先生。」

「それは、構いませんが…。」

 表情を曇らせる立花先生の隣で、黙って聞いていた塚元校長が溜息を一つ吐(つ)いて、言った。

「政治だか軍事だか、そう言う物と関わると、何でも秘密、秘密。息苦しいったら、ありませんわね。」

 塚元校長の正面に座る天野理事長は、唯(ただ)、渋い顔をするのみだった。

 

- to be continued …-

 

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