WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第11話.06)

第11話・天野 茜(アマノ アカネ)とブリジット・ボードレール

**** 11-06 ****


 そして浮上戦車(ホバー・タンク)三番車の車内では、車長である元木一曹が、五百メートル先に立てられた白い旗の下で対面し、横一線に並ぶ浮上戦車(ホバー・タンク)に向かって一礼する茜の HDG を装着した姿を、正面のメインパネルで見乍(なが)ら、インカムに感想を漏らすのだった。

「おぉ、可愛い事するじゃないの。礼儀正しいねぇ。」

「こっちも姿勢制御で、お辞儀、返しましょうか?元木一曹。」

「あはは、まぁ、やめとこう。こっちが浮かれてるみたいで、隊長が怒りそうだ。」

「そうですね。しかし、あっち側の通信が聴けないのは残念ですよね。」

「何(なん)でよ?」

「だって、可愛い悲鳴とか、聴けたかも知れないじゃないですか。」

「日下部~。」

「何(なん)ですか?」

「…お前、趣味悪いよ。」

「スミマセン…。」

 そこに、大久保一尉の指示が三輌の各車長へと、聞こえて来る。

「指揮所より全車へ。では、第一回戦開始。先(ま)ずは、小手調べだ。一番、二番、三番の順で単縦陣、突撃。行け。」

 元木一曹のヘッド・セットには、続いて藤田三尉の返事が聞こえる。

「了解。一番車、単縦陣先頭、行きます。」

 続いて、二番車の車長である二宮一曹の声が聞こえる。

「二番車、一番車の後ろに着きます。」

 そして、元木一曹が通信に応える。

「三番車、二番車の後方に着きます。」

 その元木一曹の通信への返事を聞いて、運転席から日下部三曹が、インカムで確認して来るのだった。

「単縦陣、ですか?」

「そうだ、出せ。」

「了解。二番車の後ろに着きます。」

 三輌の浮上戦車(ホバー・タンク)は、縦一列に並んで、HDG へと向かって加速して行く。
 そして、先頭車輌の藤田三尉からの指示が飛ぶ。

「一番車より各車、目標に動き無し。目標が手持ちのランチャーを構えたら、一番は右、二番は左へ展開して注意を引くから、三番車が仕留めなさい。」

 それを聞いた、三番車車長の元木一曹は「了解。」と返事をした後、運転席の日下部三曹にインカムで伝える。

「日下部、初(しょ)っ端(ぱな)に一番美味しい役が回ってきたぞ。前、二輌が左右に展開したら、突撃だ。」

「いやっほう~。」

 日下部三曹は、低い声で呟(つぶや)く様に、そう応えるのだった。


 一方、戦車隊の正面に立つ茜には、緒美からの通信が聞こえていた。

「仮想敵戦車隊、真っ直ぐ、一列になって突っ込んで行ってるわ。」

 茜はフェイス・シールドを降ろし、CPBL(荷電粒子ビーム・ランチャー)のフォア・グリップを起こし、銃身を下げた儘(まま)で、両側のマニピュレータで保持する。
 そして、少し戯(おど)けた口調で緒美に言った。

「見えてます。ジェット・ストリーム、って?」

「あはは、知ってる、それ。でも、踏み台にしちゃ、駄目よ。」

「解ってます。五メートル圏内に入られたら、負けですもんね。何か、指示は有りますか?部長。」

「任せるわ。天野さんのセンスで動いて。」

「では。行きます。」

 茜は CPBL銃口を下げた儘(まま)、地面を蹴って、二歩、三歩と前方へ向かって跳び出す。
 対向している浮上戦車(ホバー・タンク)一番車では、砲塔内のメインパネルで、その様子を見て藤田三尉が呟(つぶや)く。

「正面、突っ込んで来るわね。」

 その言葉を受け、一番車の運転席では、松下二曹が声を上げる。

「何よ馬鹿にして。チキン・レースでも仕掛けてる積もりでしょうか? この儘(まま)、跳ね飛ばしてやりましょうか、藤田三尉。」

「冗談は、よしなさい。」

 そして、藤田三尉が通信で指示を伝えるのだった。

「目標、接近。意外に相対速度が速い。一番車、右へ転進。」

 一番車が右へと進路を変えると、それに合わせて二番車が左へと進路を変更する。茜が六歩目の地面を蹴った、その瞬間、左右に分かれた浮上戦車(ホバー・タンク)が残した土煙の中から三番車が飛び出して来るのだった。
 しかし、三番車の砲塔内では、車長である元木一曹が視界の開けたメインパネルの中に、茜の HDG の姿を見付けられず、声を上げた。

「目標、ロスト!どこ行った?」

 元木一曹は砲塔上の視察装置(ペリスコープ)を左右に旋回させ、HDG の姿を探そうとするが、間も無く、車内に模擬被弾を知らせる「ピー」と言う、アラームの連続音が聞こえて来たのだった。

「おい、嘘だろぉ…。日下部、止めろ。」

 三番車がその場に停車し、視察装置(ペリスコープ)に因って確認出来る視界が、その背後に迄(まで)回った時、漸(ようや)く、元木一曹は HDG の姿を確認したのだ。そこに、大久保一尉からの通信が入る。

「指揮所より三番車。元木、日下部、お前等(ら)は撃破されたぞ。」

「隊長、何がどうなったんですか?」

「目標は上へジャンプしたんだよ。お前等(ら)の上を飛び越して、上から射撃された。目標は縦にも動けるぞ、注意して第二回戦だ、スタートライン迄(まで)、戻れ。」

「了解。日下部、スタートラインまで後退だ、出して呉れ。」

 運転席の日下部三曹には、大久保一尉からの通信は聞こえていない。なので、指示に従って三番車を動かしつつ、元木一曹にインカムで問い掛けるのだった。

「隊長、何ですって?」

「目標がジャンプして、俺等(ら)の上から射撃したんだと。」

「えぇ~そんなの有りなんですか?」

「有り、なんだろ。縦の動きに注意しろ、だってさ。」

「そりゃ、厄介ですね。」

「だな。」

 三輌の浮上戦車(ホバー・タンク)が、赤い旗の後方へ向かって走行して行くのとは逆方向に、茜の HDG は一歩が五メートル程の跳躍を繰り返し、白い旗の方へと向かっていた。
 その様子を一番車の車内から、HMD を通して見ていた松下二曹が苦苦しく言うのだった。

「さっき、最初はトボトボと駆け足だったのに。」

「引っ掛けだった訳(わけ)ね。」

 そう、インカムで藤田三尉が応えると、大久保一尉からの通信が各車の車長に聞こえて来た。

「指揮所より各車。次は円陣からの波状攻撃だ、目標の縦の機動に注意しろ。行け。」

「了解。一番車、回頭して目標の右、側方へ。囲むわよ。」

 大久保一尉の指示に、藤田三尉は透(す)かさず反応した。それに、松下二曹が応え、浮上戦車(ホバー・タンク)一番車が信地旋回で車体の向きを変えると、その儘(まま)発進する。

「円陣、反時計回りですね。」

「そ。目標も前に出て来た、進路その儘(まま)。」

 一番車に続いて、二番車、三番車が、茜の HDG とは百メートル程の距離を取って、左手側を通過しては後方へと回り込み、茜を中心にして、上から見て反時計回りに HDG を取り囲んで周回し始める。

「囲まれちゃいましたね…。」

 インカムに聞こえて来た茜の声に、指揮所から緒美が応える。

「さっきの縦一列で突撃して来るのよりも一般的な、エイリアン・ドローンの地上での襲撃機動よ。背後から斬り掛かって来るから注意してね。兎に角、円の中心に何時(いつ)までも留まってると危険だわ。」

「試してみましょうか。」

 茜は、そう声を返すと、CPBL を構えて、目の前を横切る一輌に照準を合わせる。すると直ぐに、敵機接近注意の警報音が「ピー、ピー」と繰り返し鳴るのだった。それは、HDG に搭載されたセンサーではなく、LMF に搭載されている Ruby からの情報に因る物である。戦闘域外部から状況を監察している Ruby の、敵味方の位置関係を解析処理した情報が、データ・リンクを通じて、HDG にも共有されているのだ。
 脅威警戒情報は、HDG 背後からの敵機接近を、茜に知らせていた。
 茜は、身体ごと振り向き、斜め左前方から接近して来る浮上戦車(ホバー・タンク)を確認し、右方向へ横跳びする様に地面を蹴った。
 五メートル程の跳躍から着地すると、又、敵機接近注意の警報音が鳴り始める。先程躱(かわ)した一輌とは別の一輌が、再び、斜め後ろから接近して来ていた。

「成る程。」

 茜は、再び地面を蹴って、一ステップで回避するのだが、その後は同じ事の繰り返しになるのである。

「逃げてるだけじゃ、埒(らち)が明かない訳(わけ)ね。」

 再び接近注意の警報音が鳴り始めると、茜は斜面を登る方向へと身体の向きを変え、続けて三歩、跳躍を行う。その間に、右手側を百メートル程の距離を取って斜面を登る様に進行している一輌に CPBL銃口を向ける。
 その車輌は斜面を登りつつ、距離を保った儘(まま)で茜の前方へと回り込み、囲い込みから逃さない様にと、進路を取るのだった。そこで、三歩目の着地をした茜は、身体の向きを翻(ひるがえ)し、今度は右前方へ跳躍しつつ、左前方から斜面を登り乍(なが)ら茜に迫って来ていた一輌に狙いを定め、CPBL の引き金を引いた。茜には、その射撃の判定が命中なのかどうか、直ぐには分からない。
 狙った浮上戦車(ホバー・タンク)の進路、進行方向に対して左側方へ十メートル程離れた位置に着地した茜は、右手下側から斜面を登って来る、別のもう一輌に直様(すぐさま)照準を着け直し、CPBL の引き金を引いたのだった。その一輌が射撃を回避する為に向かって左方向へ急旋回すると、茜が最初に CPBL銃口を向けた浮上戦車(ホバー・タンク)が、前方を横切る様に視界に入って来た。
 咄嗟(とっさ)に、茜は照準をその一輌に合わせ、CPBL の引き金を絞ったのだ。
 第一射から、三射目迄(まで)に要した時間は、凡(およ)そ十秒である。模擬射撃を受けた三輌の浮上戦車(ホバー・タンク)は、間も無く、全車が停車したのだった。

 

- to be continued …-

 

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