WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第12話.02)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-02 ****


「ごめんなさい、笑っちゃって。え~と、何(なん)て説明するかな。瑠菜さんが『語弊(ごへい)』って言ったのは、『好き』には種類が有るからなの。」

「『好き』の種類ですか? 好意が有る、好感を持っている、他の意味が有りますか?」

「意味はそれで合ってる、けど、対象に依っては、ニュアンスが変わるって言うか…。」

「ニュアンス、ですか?」

「う~ん、難しいわね。」

 恵が説明に困っていると、瑠菜が Ruby に尋(たず)ねる。

Ruby は『恋』って、解る?」

「あぁっ、瑠菜さん、そのワードは出さないで説明しようと思ってたのに。」

「えっ?それって、無理じゃありません?」

「そうかな~やっぱり。」

 腕組みをして恵が考え込む一方で、Ruby は自身の認識に就いて述べる。

「恋、愛、或いは恋愛、言葉は知っていますが、結論として、その概念をわたしが理解出来るとは、考えられません。それらは人間の、特定の心理状態を表す言葉だと定義されます。わたしの疑似人格は、感情的な活動が制限されていますので、人間の心理状態の、完全な再現は出来ません。ですので、恋愛に関わる概念を、わたしが理解する事は不可能です。」

 恵は俯(うつむ)いていた顔を上げ、Ruby に言う。

「そうね、Ruby。じゃ、あなたの理解している、言葉としての『恋愛』の定義を教えて。」

「ハイ、わたしの言語ライブラリには、恋愛とは、特定の男女間で、お互いに引かれ合う心理状態と、定義されています。」

「そう。一般的にはそうだけど、それは男女…異性間とだけ、とは限らないのよ。その上で、『好き』って言葉には、『恋愛感情が有る』って言う意味を含める場合が有るの。これで、さっきのあなたの疑問は、大体、繋(つな)がったかしら?」

「つまり、恵が『ブリジットは茜が好きだ』と言ったのを、『ブリジットは茜に恋愛感情を持っている』と受け取られる可能性が有る事を指して『語弊(ごへい)が有る』と、瑠菜は指摘した訳(わけ)ですね。しかも、その場合の『恋愛』は、同性間での『恋愛』と言う事になり、それは一般的な『恋愛』だとは言えないので、その意味も含めると『語弊(ごへい)』が二重に発生すると考えられます。」

「そう言う事~。」

 そう言って、瑠菜は拍手をする。その一方で恵は、微笑んで、少し長く息を吐(は)くのだった。そして、Ruby が一つの疑問を呈するのだ。

「お話の流れは、理解出来るのですが。しかしながら、『一般的な好き』と『恋愛的な好き』を、或いは同性間や異性間での『好き』を、区別する必要が有るのでしょうか?」

「そうね…。」

 恵は少し上を見て考え、そして話すのだった。

「…人の気持ちには、色んな種類の『好き』が有って、それぞれにその度合いや、質の違いを感じるのよね。でも Ruby、あなたの場合は、区別する必要は無いんだと思うわ。あなたに取っては、その位(くらい)シンプルに、全部を纏(まと)めて、『好き』でいいんじゃないかしら? その内、安藤さんや井上主任みたいな、大人の女性にも訊(き)いてみるといいかもね。」

「それは、興味深いですね。しかし、何故、女性限定なのでしょうか?」

 その Ruby の返事を聞いて、瑠菜は笑って言った。

「あはは、男の人は、そんな事、訊(き)かれても、ビックリして答えられないんじゃないですか?」

 恵も、笑って答える。

「うふふ、そうね。 でも、Ruby と恋愛に就いてお話し出来るとは、思ってもみなかったわ。」

「言われてみれば、その手の話、誰もしませんからね、うちの部だと。」

 そう、瑠菜が言ったあとで、ふと、恵は佳奈が戻って来ていない事に気が付いたのだった。

「あ、そう言えば。古寺さん、戻って来ないわね。どうしたのかしら?」

 恵は真面目な顔で、視線を入り口の方へと向ける。釣られて、瑠菜も視線を入り口の方へと向けつつ言った。

「まさか、新島先輩に付いて行っちゃったかな…。」

「まさか…。」

 すると、外階段を登る足音が、ドアの向こう側から聞こえて来るのだった。だが、直ぐに二人は、その足音を不審に思うのだった。

「あれ? 足音、一人じゃないですね?」

 ポツリと瑠菜が言った通り、外階段を上がる足音は、明らかに複数人だったのだ。そして間も無く、部室のドアが開く。

「戻りました~。」

 そう言って佳奈がドアを開き、部室内に入って来ると、その後ろには緒美の姿が有ったのだ。
 恵は一息を吐(つ)いて、言うのだった。

「何(なん)だ、部長でしたか。」

「どうかした?森村ちゃん。」

 緒美は部室の奥へと進み、恵の席の後ろを通過する。佳奈は、元の通りに、瑠菜の隣の席に着くのだった。

「ちょうど、新島先輩と入れ違いで、部長が戻って来たんですよ~。」

「ああ、そうだったの。じゃ、副部長からボードレールさんの件は聞いた?」

 佳奈の説明を受けて、恵が緒美に問い掛ける。緒美は席に着いてから、答えた。

「大凡(おおよそ)は。その件は新島ちゃんに、任せたわ。」

「あれ?部長。天野は? 一緒だったんじゃないです?」

「ああ、天野さんは、何だかを取りに、一旦、寮へ戻るって。」

「そう。 それで、理事長の方は、どうだったの? ああ、それに、立花先生は?」

 恵は席を立つと、緒美に問い掛け乍(なが)ら、部室奥のシンクの方へ、お茶の準備に向かった。
 その様子を見て、佳奈がスッと席を立つと、恵の方へ駆け寄る。

「あ、恵先輩。お手伝いします~。」

「あら、ありがと。」

「何時(いつ)も悪いね、森村ちゃん。」

 緒美は振り向いて、恵に声を掛けた。恵は微笑んで、計量した紅茶の茶葉をティーポットに入れている。佳奈は人数分のカップを、シンク横の棚から取り出して、流水で濯(ゆす)いでいた。

「紅茶だけど、いい? 瑠菜さんも如何(いかが)?」

 恵の問い掛けに、緒美と瑠菜は、相次いで答えるのだった。

「うん、いいよ。ありがとう。」

「あ、はい、頂きます。」

 そして間も無く、佳奈が人数分のカップと角砂糖の入った瓶をトレイに載せ、長机へと運んだ。恵は、湯沸かしポットで沸騰させたお湯を、ティーポットへと注いでいる。そんな様子を眺(なが)めつつ、緒美は話し始める。

「立花先生は、理事長と校長と、何だかお話が有るそうで、理事長室に残ってるわ。この前と同じで、わたし達だけ、先に帰されたの。」

「ああ、やっぱり、そうなんだ。何の話を、してるのかしらね~。」

 恵はティーポットを持って、元の席へと戻って来る。

「さあ、ねぇ。大人は大人で、色々と打ち合わせたい事が有るんでしょう。」

「それで、理事長は何(なん)て?」

 そう訊(き)いた恵は、席には座らず立った儘(まま)で、ティーポットを時々、長机の上でゆっくりと揺らし乍(なが)ら時間を計っている。

「まぁ、言ってた事は前回と、ほぼ同じよ。訊(き)かれた事は、基本的に、飯田部長のレポートの記載に対して、事実関係を確認されただけだったし。 それで、その飯田部長のレポートが、又、凄かったのよ。事の経緯が細大漏らさず、的確に纏(まと)めてあってね、まぁ、全部は見せて貰えなかったんだけれど。帰りの移動時間、二、三時間で書き上げたそうなんだけど、流石に事業統括部の部長さんともなると、半端な仕事はしないわね。」

「それじゃ、叱られたりはしなかったんです?」

 瑠菜が訊(き)いて来るので、緒美は答える。

「そうね。状況からして、まぁ、仕方が無い、と言う事で納得はして頂けていたみたい。それで、理事長が『もしも又、同じ様な状況になったら、どうする積もりか?』って、天野さんに聞くものだから…。」

「天野は、何(なん)て?」

「HDG が使用出来る状況であれば、同じ事をします、って正直に答えるから。まぁ、理事長、渋い顔してたわ。」

「ありゃ。そこは嘘でも『もう、しません』って、言っておけばいいのに。馬鹿正直だよなぁ、天野。」

 瑠菜が苦笑いして居ると、その向かい側で恵が、均等な濃さになるように、カップに紅茶を交互に注ぎ乍(なが)ら言うのだった

「まぁ、天野さんらしいじゃない。」

「まぁ、ね…でも正直、流石に今回は、HDG の開発を本社に取り上げられるものかと覚悟してたんだけど。そこは当面、今迄(いままで)通りって事らしくて、ちょっと驚いたわ。」

「そうね…はい、どうぞ。」

 恵が、紅茶の入ったティーカップを緒美の前に置く。

「あ、ありがと。」

 瑠菜と佳奈は席を立ち、それぞれがティーカップを取って、自(みずか)らの手前に置くのだった。そして、漸(ようや)く恵は椅子に座り、言ったのである。

「会社の方にも、何か事情が有るのかしらね?」

「それは、勿論そうでしょうけど。でも、ちょっと気味が悪いわね。会社側が、何を考えているのか。」

 そこで、瑠菜が疑問を述べる。

「それにしたって、この間(あいだ)の様な事が、そう度度(たびたび)、起きる物ですかね?」

 それには恵が、直ぐに切り返すのだった。

「もう、二度も起きてるじゃない。」

 そして、紅茶を一口飲んで、緒美が付け加える。

「二週間程の間(あいだ)に、同じ地域にエイリアン・ドローンが飛来するだけでも、可成り異例よ。少なくとも、わたしの知ってる限りでは、今迄(いままで)そんな事は無かったと思う。今迄(いままで)なら最短でも一ヶ月、四週間は、間(あいだ)が空(あ)いてた筈(はず)だわ。」

 緒美の発言で、瑠菜と佳奈の表情が不安で曇ったのに気が付き、恵は話題を変えるべく発言する。

「まぁ、その辺りは、わたし達が考えてみても仕方が無いわ。 それよりも、さっき副部長と、来年の事を少し話してたのよ、部長。」

「来年?」

「わたし達が卒業したあとの、この部活の三役、とか。」

「ああ、瑠菜さんなんかどう?部長やる?来年。」

 緒美は微笑んで、瑠菜に話を振ってみる。瑠菜は慌てて、声を上げた。

「わたし?無理です、無理です。そう言うのは、樹里の方が向いてますって、部長。」

「ええ~やりなよ~瑠菜リン。」

「ちょっと、無責任な事、言わないでよ、佳奈。」

 こうして暫(しばら)くの間(あいだ)、来年の三役人事に就いて、欠席裁判気味の可成り無責任な懇談が続いたのである。

 

- to be continued …-

 

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