WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第12話.16)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-16 ****


 その間に、長谷川の方ではマルチコプターの準備が整い、緒美達の前を鉄板を吊り下げたマルチコプターが通過して行く。長谷川が操るマルチコプターは、懸下(けんか)している鉄板を大きく揺らさない様に注意しつつ、LMF の前方へと回り込んだ。

「鬼塚さん、こっちも準備オーケーだよ。」

「ターゲットの高さは、二、三メートルを維持してね、長谷川君。」

「分かってる。」

「それじゃ、始めましょうか。長谷川君、お昼に説明した感じで、マルチコプターの機動、お願い。」

「了解~。」

 LMF の前方でホバリングしていたマルチコプターは、一旦(いったん)、LMF から十メートルほど離れると、大きく旋回する様に向きを変え、再び、LMF へと接近を始める。
 マルチコプターが進行方向を変えるのに、本来は旋回をする必要は無い。しかし、今回の場合は凡(およ)そ 4kg の鉄板を吊り下げている為、急激な進路の変更を行うと吊られている鉄板の揺れが大きくなり、空中でのバランスを崩してしまうのだ。それを避ける為、長谷川は飛び方に気を遣っているのだった。

Ruby、シールドのブレードを展開。但し、ビーム・エッジは、オフの儘(まま)でね。」

「ハイ、茜。DFS のブレードを展開します。ビーム・エッジは、無効(ディスエーブル)。」

 樹里のコンソールから、茜と Ruby の遣り取りが聞こえる。LMF の左右のアームでは、ナックル・ガードが前進し、そこに取り付けられた DFS(ディフェンス・フィールド・シールド)の下端が前方へ向く様に回転し、格納されていた二枚のブレードが左右から回転して中央で一枚の、両刃のブレードになる。
 茜は、左肩を前に出す様に身構え、接近して来る、マルチコプターから吊り下げられた鉄板に、狙いを定めた。
 マルチコプターは LMF の左前方から右後方へと向かって、少し斜めに通過するが、茜は距離と角度を見極めて、吊り下げられた鉄板に向かって、右のアームを繰り出す。すると、右腕シールドのブレード先端が、鉄板の中央付近を突くのだった。「ガン」と言う、鈍い衝突音と共に鉄板は後方へと跳ね飛ばされ、少し遅れて鉄板に繋がれたワイヤーが機体を引っ張る形で、マルチコプターはバランスを崩す。

「うおっと、と…。」

 長谷川が慌てて、マルチコプターが墜落しないよう、上昇させる。マルチコプターの機体の揺れは、自動的に抑制されるように制御されているので、操縦担当者としては時間を稼ぐ為に、上昇させる以外に手段が無いのだ。

「鬼塚さん、余り強く叩かないように、伝えて貰えるかな。」

 長谷川が緒美へ、そう言うのと、ほぼ同時に、茜も訊(き)いて来るのだった。

「寸止めにでもした方が、いいでしょうか?部長。」

「そうね、出来るだけそうしてあげて。それで、狙った所に、当たってる感じかしら?」

「そうですね。特に違和感は、無いです。まあ、Ruby が補正して呉れてるんだと、思いますけど。」

「そうなの? Ruby。」

「ハイ、微調整を。余計でしたか?」

「そんな事は無いわ。その調子で続けてちょうだい。 あ、但し、今後は、ブレードの先端がターゲットに当たる所で、動きを止めるように補正してね、Ruby。」

「それが『寸止め』、ですか?」

「そう言う事。」

 続いて、緒美は視線を長谷川の方へ変え、声を掛ける。

「それじゃ、長谷川君。続きを、お願い。」

「了~解。」

 マルチコプターは再び、LMF の前方へと飛行し、先程と同じ様に旋回して向きを変えると、LMF への接近を開始する。茜も先程と同じ様に構えて、LMF が通過するタイミングで、今度は左のアームを前進させるのだった。しかし、今度は前回とは違い、宣言通りの『寸止め』でブレード先端が鉄板には触れる程度に制御されたのである。マルチコプターは吊り下げた鉄板を小さく揺らし乍(なが)らも、飛び去って行く。この様な、通過するターゲットを狙うテストを更に三回繰り返し、そして、その全てを成功させて、茜は緒美に、次の試験項目へ移る宣言をした。

「それじゃ、今度はこっちの脚を動かしますね。 Ruby、ホバー起動。」

「ハイ、茜。ホバー・ユニットを起動します。」

 LMF は左右脚部のホバー・ユニットを起動して浮上すると、ゆっくりと前進を始めた。

「長谷川君。」

「分かってるよ~。」

 緒美に声を掛けられ、長谷川はマルチコプターの移動を止め、吊り下げられた鉄板の揺れが収まる様に、機体を前後左右に微調整させ乍(なが)ら、ホバリングをするのだった。次は静止したターゲットを、移動する LMF が狙う試験なのである。
 進路を変えて戻って来る LMF の速度は、時速 30km 程度だろうか、東向きにマルチコプターの前を通過する際に、LMF は右のアームをターゲットへと伸ばし、シールドのブレード先端で、吊り下げられた鉄板を小さく揺らしたのだった。
 マルチコプターの前を通過した LMF は数十メートル進んで旋回すると、再び、ホバリングを続けるマルチコプターへと向かう。そして、今度は左側のアームで、擦れ違い様にターゲットの鉄板を小さく揺らす。茜は、これを五往復、繰り返したのだった。

「へえ~、上手い具合に当てられる物ね。」

 そう、感嘆の声を漏らしたのは、設置されたモニターで LMF の様子を観察している金子である。金子の右隣に居た、直美が微笑んで、言葉を返す。

「そりゃそうよ。この二週間、LMF のアーム制御の精度を上げる為に、シミュレーションを繰り返して来たんだから。」

 すると再び、緒美が長谷川に声を掛ける。長谷川は「オーケー。」と答えると、ホバリングしていたマルチコプターを、今度は五メートル程の幅で蛇行させるのだった。
 それを見て、武東が直美に訊(き)いた。

「今度は、両方が動いている訳(わけ)ね。」

「そ。」

 直美は、極短く答えた。
 マルチコプターが吊り下げるターゲットの鉄板は、マルチコプター本体の左右移動とは少し遅れて、右へ左へと揺れている。それにタイミングを合わせて、LMF は進路を調整し、擦れ違う際に右のアームを小さく振った。「カッ」と、短い金属音と同時に、ターゲットの鉄板が弾ける様に揺れ、LMF の攻撃がヒットした事が分かるのだった。
 その直ぐ後、LMF は急激に進行方向を変えると、今度はマルチコプターの追跡を始める。蛇行を続けるマルチコプターに追い付くと、左のアームで追い抜き乍(なが)ら、再度、ターゲットを揺らしたのだった。
 そんな一連の動作を五度ほど繰り返し、LMF は第三格納庫の前で、西向きに停止した。茜の声が聞こえる。

「部長、次はアーム、Ruby の単独制御でいきたいと思いますが。」

「いいわ。Ruby も、準備はいい?」

「ハイ、問題はありません。腕が鳴るかも知れませんよ。」

 Ruby の緒美への返事を聞いて、茜が笑いつつ突っ込みを入れる。

「あはは、Ruby、そこは『腕が鳴ります』でいいのよ。」

「そうですか?しかし茜、実際にロボット・アームが音を発するかどうかは、動かしてみないと分かりません。サーボ機構の作動音は、発生していると思いますが。」

「『腕が鳴る』って、そう言う意味じゃないから。」

 そこで、緒美が割って入るのだった。

「慣用句の説明は後にしてね。テスト、続行するわよ。」

「あ、はい。Ruby、アーム制御の連動モード、解除。」

「ハイ、連動モードを解除します。以降、ターゲットの指定と、攻撃タイミングの指示をお願いします、茜。」

「分かったわ、Ruby。」

 茜の返事が聞こえると、緒美の前方に立つ長谷川が、振り向いて緒美に尋(たず)ねる。

「鬼塚さん、それじゃ、始めるよ。」

「どうぞ。 お願い。」

 長谷川の操るマルチコプターは、LMF の前方へと回り込み、ターゲットの鉄板を LMF の正面へと接近させていく。茜は視線でターゲットを指示しつつ、Ruby に言うのだった。

Ruby、ターゲット、ロック。」

「ターゲット、ロックオン。」

Ruby、攻撃は、さっきみたいに、寸止めでね。」

「ハイ、分かっています。所で、攻撃は左右、どちらのアームで行いますか?」

「それも、あなたの判断に任せるわ。」

「分かりました。」

 そんな遣り取りをしていると、ターゲットが攻撃が可能な距離まで接近して来る。茜は、攻撃の音声コマンドを発する。

「アタック!」

「アタック。」

 茜の指示に対し、普段と変わらない調子で Ruby は復唱し、右のロボット・アームを前方へと繰り出した。そのアームに取り付けられたシールド先端のブレードは、正確にターゲットの中央付近を叩き、そしてピタリと動きを止めて、マルチコプターの飛行には影響を与えなかった。

「いい感じよ、Ruby。」

「ありがとうございます、茜。」

 LMF の後方へ飛び去って行ったマルチコプターは、再び LMF の前方へと回り、再度、LMF へと向かって来る。

「ターゲット、ロック。」

「ターゲット、ロックオン。」

 その後、マルチコプターは飛行経路を変え乍(なが)ら LMF へと接近し、その都度、ターゲットの鉄板を的確に叩いたのだ。それは、LMF 側が動いての場合でも変わらなかった。

「この様子なら、LMF の動作データ、本社に提供しても良さそうですね。」

 樹里が、微笑んで緒美に言うのだった。そして「そうね。」と、緒美が言葉を返した時である。
 格納庫の外から「シュルシュルシュル」と、空気の噴出する様な、聞き覚えの有る音が聞こえて来たのだ。
 茜は LMF を第三格納庫の前で南側に向けて機体の動きを止め、続いて、西側へと向きを変える。

「部長…。」

 茜が、そう呼び掛けて来た瞬間、LMF とは二十メートル程の距離を取りつつ、扇状に取り囲む様に、格闘戦形態に変形したエイリアン・ドローン、トライアングルが六機、着地したのだった。
 余りにも突然なエイリアン・ドローンの出現に、格納庫内に居た一同は声を出す事を忘れたかの様に驚いていた。茜を除いて、動いているトライアングルを、画像ではなく直に目撃するのは、皆、初めてだったのだから無理も無かった。
 そして、緒美が静かに、一同に声を掛ける。

「皆(みんな)、取り敢えず動かないで。先生方も。 アレは動く物に、強く反応しますから。」

 それを聞いた一同は、それぞれに息を呑んで、緒美の指示に従う。
 格納庫の外では、トライアングルも様子を窺(うかが)っているのか、距離を詰めては来ない。そんな折(おり)、長谷川が特に操作した訳ではなかったが、風に煽られたのかホバリングを続けていたマルチコプターが、揺れる様に東向きに移動したのである。恐らく、風の影響を受けたのは吊り下げられている鉄板で、その荷重に本体が引っ張られバランスを微妙に崩したのを、マルチコプターの自律制御で姿勢を建て直したのだと思われたが、そんな理屈はエイリアン・ドローンには関係が無かった。
 マルチコプターの位置に近かったトライアングルの一機が、揺れる様に動作したそれに飛び掛かると、右腕の鎌状のブレードを振り下ろしたのである。
 両断されたマルチコプターは虚しく落下し、乾いた音を響かせた。

「ああ~くそっ。」

 呻(うめ)く様に、長谷川が声を上げると、前園先生が声を掛ける。

「気にするな、長谷川君。あれ位(くらい)の被害で済めば、安いもんだ。」

 マルチコプターに反応したトライアングルは、LMF に十メートル程の距離まで接近していたが、事が済むと他の機体と同じ位の距離まで下がるのだった。
 天野理事長が、緒美に問い掛ける。

「鬼塚君、奴らの目的は、前にキミが言っていた…。」

「はい。恐らく、HDG と LMF の脅威度判定だと思います。」

「何故、襲って来ない?」

「LMF とドッキングした状態の HDG を見るのは、奴らは初めての筈(はず)なので、取り敢えず今は、様子を見ているのではないかと。」

「成る程な。」

 続いて、塚元校長が緒美に尋(たず)ねる。

「この儘(まま)、動かないで居たら、飛んで行って呉れるかしら?」

「それは無いでしょうね。何(いず)れ、攻撃して来ると思います。」

 緒美は冷静な表情を崩さず、答えたのだった。更に、塚元校長が言う。

「天野さんの装備が目標なら、何とか、天野さんを逃がす訳(わけ)にはいかない?」

 今度は少し苦笑いして、緒美は言葉を返す。

「逃げて、どうします? 天野さんが逃げる前に、HDG を解除してる所を襲われるのがオチですよ。 LMF を囮(おとり)として切り離して、HDG が離脱するって手も考えられますけど。でも、向こうの数が多いですから、何機かは離脱した HDG を追うでしょう。やるなら或る程度、相手の数を減らしてから、じゃないと。」

 緒美はヘッド・セットのマイク部分を右手で摘(つま)まむと、茜に呼び掛けた。

「天野さん、取り敢えずディフェンス・フィールドをオンにしておいて。」

 その指示には直ぐに、返事が返って来る。

「もう、してあります。」

 緒美は口元に笑みを浮かべると、「流石ね。」と声を掛け、続いて茜に指示を伝える。

「この状況では、対処をしない訳(わけ)にはいかないわ。指示を伝えるから、良く聞いてね。」

「はい。でも、さっき聞こえた Ruby を囮(おとり)に、って指示だったら聞きませんよ。」

「そんな事は言わないから、安心して聞いて。」

 緒美は一呼吸して、話し始める。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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