WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第12話.18)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-18 ****


「あと、手の空いてる人は、モニターを監視して。何か気が付いた事が有ったら、遠慮無く言ってね。」

 緒美の指示に従い、恵と直美、そしてブリジットと立花先生が、観測機が撮影している状況を映しているモニターの前へと進む。モニターには、滑走路を往復する様に移動する高機動モードの LMF と、それに繰り返し攻撃を加えるトライアングルの姿が映されていた。

「副部長、『アイロン』にオプションのガン・ポッドを付けて、茜の援護に出る訳(わけ)にはいきませんか?」

 ブリジットが、悔し気(げ)に、直美に提案すると、直美は即答する。

「ダメ。 気持ちは分かるけど、流石にそれは無茶よ。」

 続いて、立花先生もブリジットに言うのだった。

「大体、軸線の調整も、射撃訓練もしてないのに、役に立つ訳(わけ)ないでしょ。却って、天野さんの足を引っ張るのがオチよ。ここは堪(こら)えなさい。」

 そして、恵が気休めを言うのである。

「取り敢えず、ディフェンス・フィールドが有効に働いているみたいだし。防衛軍が来る迄(まで)、十分(じゅうぶん)、時間は稼げるんじゃないかしら。」

 確かに、トライアングルが仕掛ける斬撃は、その全てがディフェンス・フィールドの効果に因って、青白い閃光に弾き返されていた。トライアングル達は、LMF の三メートル圏内に近付く事すら不可能な状況である。

「井上君、ちょっといいかい?」

 少し離れた場所で防衛省と連絡を取っていた天野理事長と秘書の加納が、クラウディアと維月に近寄り、声を掛けて来る。維月は、振り向いて応えた。

「あ、はい。何でしょうか?理事長。」

「済まないんだが、防衛省の役人に、あのモニター映像を見せてやる事は出来ないかな?」

 その問い掛けに、モニターを監視していた立花先生が、横から口を挟(はさ)む。

「どうされたんです?」

「いや、ここにエイリアン・ドローンが居る事を、どうにも信じて呉れてない様子でね。手続きやら、確認がどうのと言うばかりで、話にならんのだ。」

 それには、維月が聞き返す。

「携帯で動画でも撮って、送って差し上げたら如何(いかが)ですか?」

「それは不味(まず)い、HDG も一緒に写っている画像データが流出でもしたら、色色と後(あと)が面倒だ。成(な)る丈(だけ)、そう言う物を外部に残したくない。」

「そう言う事でしたら…どこかの適当なサーバーに、観測機の画像データをストリーミングでアップして、そこを見て貰う?って、感じかしら。ねぇ、クラウディア。」

 その維月の思い付きに、クラウディアが顔を上げ、コメントを返す。

「そうね、データ・リンク上の撮影動画をストリーミングのデータへ変換するのに、少々、ディレイが起きるけど、それで良ければ。ディレイって言っても、コンマ何秒って程度だと思うけど。」

 維月に向けられた、そのコメントに、天野理事長は素早く反応する。

「ああ、その程度の遅延なら構わないよ。兎に角、こちらの状況が、伝わればいいんだ。」

「でしたら、適当な変換モジュールを持ってますから、ささっと、仕掛けを作っちゃいましょう。」

 クラウディアが愛用のモバイル PC の、キーボードへ向かおうとするので維月が呼び止める。

「ちょっと待ちなさいよ、サーバーはどうするの?クラウディア。」

「そんなの、学校のサーバーでいいでしょ? 構いませんよね?理事長。」

 振り向いて、クラウディアは天野理事長に問い掛ける。それに、天野理事長は即答した。

「ああ、構わないよ。サーバーの管理責任者に連絡を…。」

 そう言い掛けた天野理事長に、クラウディアは笑って断るのだった。

「ああーいいです、学校のサーバーになら、侵入(アクセス)した事が有りますから。許可を頂ければ、此方(こちら)で適当にやっちゃいます。用が済んだら、あとで、ちゃんと消しておきますから。」

 クラウディは、そう言い乍(なが)ら、猛然とキーをタイプし始める。一方で、維月は苦笑いで、それを見ていたのだった。その様子を「ハハハ」と笑って、天野理事長はクラウディアに声を掛けた。

「では、頼んだよ。」

 クラウディアは、PC を操作し乍(なが)ら応える。

「はい。五分、いえ、三分ください。」

 複数のウィンドウを開いて、盛んに PC を操作しているクラウディアの背後に近付き、天野理事長は問い掛けた。

「所で、カルテッリエリ君。学校(うち)のサーバーは、そんなにセキュリティが脆弱だったかね?」

 クラウディアはキーを打つ手を止め、視線を宙に向けて数秒考えて、答えた。

「常識的には、問題の無いレベルだと思いますが。唯(ただ)、常識的なレベルのセキュリティなら、わたし、突破しちゃいますので。」

「そうか、今度、うちのサーバーの管理責任者に、対策をアドバイスしてやって貰えるかな?」

「そう言う御依頼を頂ければ、わたしは構いませんけど。」

 そう答えて、クラウディアは再び、キーボードを叩き始める。

「じゃあ、後日、此方(こちら)の調整が済んだら、又、声を掛けさせて貰うよ。その時は、宜しく頼む。」

「はい、承知しました。」

 その返事をして、一分程の後。クラウディアは顔を上げると、前方のデバッグ用コンソールに就いている樹里の背中に向けて、呼び掛けた。

「城ノ内先輩、そっちのテンポラリ・フォルダに送った実行ファイル、起動してみて貰えますか? アール・ビー・ティー・アール・エス・エグゼ。」

「RB_TRS.exe…ね、有った。じゃ、実行するよ。」

 樹里はコンソールのディスプレイを見詰めた儘(まま)、振り返る事無く応えた。
 クラウディアが樹里へ送った実行ファイルは、樹里のコンソールが HDG や LMF とのデータ・リンク経由で受け取っている球形観測機からの撮影動画データを、ストリーミング・データとして学校のサーバーへ転送する働きをするプログラムである。クラウディアは、このプログラムを短時間で、ゼロから作った訳(わけ)ではない。少し前に自身が言っていた様に、動画を変換して転送するモジュールを、予(あらかじ)め持っていたので、その入出力部分の形式を整える作業をしただけなのだ。何故その様なモジュールを用意していたのか?と、問われるならば、それは勿論、ハッキングの為なのだった。
 それは兎も角、クラウディアは学校のサーバー側にアクセスし、転送されて来た動画が正しく再生されるのかをチェックする。続いて、加納に声を掛けた。

「動画の準備は出来ました。先方へアドレスを送るので、携帯端末を貸してください。あ、メッセージアプリ、開いてくださいね。」

 加納は目配(めくば)せで天野理事長に了承を得てから、メッセージアプリを開いて、携帯端末をクラウディアに手渡した。クラウディアは受け取った携帯端末を手早く操作して、メッセージアプリの本文に転送動画を閲覧する為のアクセス先アドレスを打ち込み、携帯端末を加納の手に返す。

「メッセージの前後に付ける、挨拶とか説明は、其方(そちら)で適当に追加してください。わたしが打ち込んだアドレスにアクセスすれば、観測機一号が撮影した動画が閲覧出来ます。動画データは、先方には残りません。」

「分かりました、ありがとう。」

 一言、礼を述べると、加納氏は猛烈な勢いで、前後の記述を打ち込んでメッセージの体裁を整えた。出来上がった文面を一度、天野理事長に見せ、確認を取った後に送信をしたのだった。そして再度、緒美達からは少し離れると、天野理事長は先程のメッセージを何処(いずこ)かへ送信しては通話連絡をするのを、何度か繰り返したのだ。防衛省や防衛軍の知己(ちき)に状況を説明して、少しでも早く防衛軍を動かそうと画策していたのである。
 その一方で、緒美は振り向いて、クラウディアに問い掛ける。

「と、言う事は、現時点で防衛軍の動きは、まだ、無いのね?カルテッリエリさん。」

「はい。全く、動いてません。エイリアン・ドローンがここに居る事も、把握してない様子ですね。」

「分かった、防衛軍が動き始めたら、教えてね。」

「承知しました。監視を続行します。」

 その頃、茜の方は、と言うと。入れ替わり立ち替わり、斬撃を加えて来る六機のトライアングルを捌(さば)き乍(なが)ら、反撃の機会を窺(うかが)っていたのだ。
 例え、ディフェンス・フィールドに因る防御が万全だったとしても、機械である以上、何時(いつ)、故障が起きるかは分からない。その時に致命傷を負わないよう、茜は出来る限りの回避機動を、行っていたのだ。その為、反撃の態勢を取ろうとすると、別のトライアングルが斬り掛かって来て、それを避(よ)けて反撃の態勢を…と言う終わりの見えない状況が、繰り返されていたのだった。

「いいわ、天野さん。その調子で、絶対に足を止めないで。相対速度が有る限り、向こうの攻撃はディフェンス・フィールドを越えては来られないわ。」

 気休めなのか激励なのか、どちらなのか良く分からない緒美のコメントが、ヘッド・ギアのレシーバーから聞こえて来る。

「それでも、この儘(まま)じゃ、埒(らち)が明きませんよ。」

 茜の翻(こぼ)す愚痴に、緒美が応える。

「ここは我慢して、きっと反撃のチャンスは有るから。」

「そう、願います。」

 目前に滑走路の西端が迫って来たので、茜は LMF の進路を東向きへと変え、再び加速を始める。視界には六機のトライアングルが、ジグザグに走り乍(なが)ら接近して来るのが見えた。茜は自身も LMF の機体を左右に振りつつ、一番遠くに居るトライアングルに、右手に保持しているランチャーで狙いを定める。
 勿論、狙いを付けたトライアングルも進路を左右に振り乍(なが)ら移動しているので、引き金を引くタイミングが掴めはしない。斬り掛かって来る手前の五機を、縫う様なスラローム機動で躱(かわ)し乍(なが)ら、茜は、六機目のトライアングルに向かって LMF を走らせた。
 そして LMF がトライアングルの攻撃距離にまで接近すると、当然の様に、そのトライアングルは右腕を振り上げる様にして、向かって左側から茜に斬り掛かって来たのだ。擦れ違う瞬間、トライアングルの繰り出すブレードが LMF のディフェンス・フィールドに接触し青白い閃光が発生した、そのタイミングに合わせて、茜は LMF の進路を左側へ寄せるようにイメージをした。思考制御に因って LMF の進路がトライアングルの方向へと変わっても、直様(すぐさま)、衝突する訳(わけ)ではない。しかし、トライアングルはブレードだけではなく、その全身が LMF のディフェンス・フィールドに弾かれ、青白い閃光の残像を残しつつ、茜の視界から左後方へと消えていった。
 茜は左回りにスピンターンの様に機体の向きを変えて LMF を止めると、ディフェンス・フィールドに弾き飛ばされた後、立ち上がろうとしている六機目のトライアングルに向けて、ランチャーのトリガーを引いたのだった。
 連続して二射の荷電粒子ビームを撃ち込まれたトライアングルは、その場で崩れる様に活動を停止した。
 一度、深呼吸をして、茜は残りの五機へと、目を向ける。
 足の止まった LMF へと、一斉に飛び掛かって来るかと思いきや、トライアングル達は奇妙な行動を見せるのだった。LMF の方を向いた儘(まま)、ジグザグに後退(あとずさ)りを始めたのだ。茜の LMF は滑走路のほぼ東端に位置していたが、トライアングル達は滑走路の中央辺り迄(まで)、一気に後退した為、その距離は凡(およ)そ八百メートルには成っただろうか。集まったり、離れたり、それぞれのトライアングルが右往左往している様子が、遠目にであるが観察される。

「何?」

 茜は呆気(あっけ)に取られて、ポツリと、そう一言発したのだ。そこに、緒美からの指示が入る。

「天野さん、向こうが攻撃して来ないのなら、今がチャンスよ!」

「あ、はい。Ruby、前進。」

「ハイ、茜。」

 LMF がホバー・ユニットを再び起動して、トライアングルの集団へ向けて加速を始めると、それに気付いたトライアングル達は、一斉に南側のフェンスへと向かって移動を開始するのだった。
 茜は回避機動を行い乍(なが)ら疾走するトライアングルに向けて、距離を詰めつつ二射、三射とランチャーから荷電粒子ビームを発射する。しかし、地上をジグザグに走るトライアングルには、なかなか命中しないのだ。躱(かわ)された荷電粒子が地面に当たり、土煙やコンクリートの破片を散らす。
 そうこうする内、トライアングルの一機がジャンプし、十メートル程の高さで飛行形態へと変形を始めるのだった。その変形行程には、数秒と掛からないのだが、咄嗟(とっさ)に茜は Ruby に指示をするのだ。

Ruby、ターゲット、ロック!」

 茜は視線で、ジャンプした一機のトライアングルに、照準の追尾を指定した。透(す)かさず、Ruby が応える。

「ターゲット、ロック・オン。」

「プラズマ砲、発射!」

「プラズマ砲、発射。」

 地上では地面を脚で蹴って、右へ左へと素早く機動するトライアングルだったが、空中では地上の様なジグザグ機動は出来ない。どうしても直線的な、或いは放物線的な軌跡を描いて運動する事になるので、自動追尾や照準の未来位置が予測しやすいのだ。
 続けて二度の、落雷の様な轟音が響くと、次の瞬間、空中のトライアングルは粉砕され、その残骸と破片が学校の敷地外の山腹斜面へと散らばる様に落下していった。
 しかし、その間に、残り四機のトライアングルは、滑走路南側のフェンスを乗り越え、或いは破壊して、学校敷地の外、南側斜面の木立の中へと姿を消したのだった。

 

- to be continued …-

 

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