WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第12話.21)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-21 ****


「ありがとう、緒美。自律行動を開始します。」

 Ruby が緒美に謝意を述べると、茜の背中にはグイッと、上半身が正面へ向く様に力(ちから)が掛かる。その力(ちから)は、茜には逆らえない程、強い。それは、HDG の背部へスラスター・ユニットを再接続する為に、LMF 側から Ruby が HDG を強制的に正面に向かせているのだと、茜には直ぐに理解出来た。茜は、緒美に訴える。

「部長、HDG を切り離しても、わたし、Ruby に向けてなんて撃てませんよ? Ruby に当たったら、どうするんですか!」

 その問い掛けには、Ruby が答える。

「大丈夫です、茜。HDG の照準補正は正確です。それに、例え間違って射撃が逸(そ)れたとしても、わたしのコア・ブロックに当たりさえしなければ問題はありません。遠慮無く、エイリアン・ドローンを狙撃してください。」

Ruby…。」

 茜の背部には、LMF に格納されていた HDG のスラスター・ユニットが接続され、スラスター・ユニットに組み込まれている四基の小型ジェット・エンジンが順番に起動する。上半身を固定する制御が解除され、茜が自由に動ける様になると、Ruby が告げるのだった。

「それでは、HDG との接続を解除します。LMF が動かなくなったら、出来るだけ早くエイリアン・ドローンを狙撃してくださいね、茜。 わたしの事に就いては、心配は不要です。麻里と江利佳が、必ず再起動させて呉れますから。 あとの事は、お任せします、茜。では、HDG 接続解放。」

 LMF 側の制御で、HDG の背部スラスター・ユニットの出力が上げられていくのが、ジェット・エンジンの回転音で茜には分かった。

Ruby!」

 接続部のロックが解放される小さな震動に続いて、茜の装着するヘッド・ギアのスクリーンには、制御と電源が HDG 側に完全復帰した事が表示された。そして茜は、自身の身体が落下する様な感覚を得る。HDG と LMF が完全に分離したのだ。
 茜は、スラスター・ユニットの最大出力で真上へ上昇して、眼下の LMF の様子を確認した。
 高度が上がるに連れ、段段と小さく見える LMF は、人型に近い『起立モード』へと移行し、正面からの攻撃を続けているトライアングルの一機と対峙している。

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STORY of HDG 12-21A

 LMF は加えられる斬撃をディフェンス・フィールドで弾いた後、右のロボット・アームでトライアングルの左腕を、左のロボット・アームでトライアングルの頭部を掴(つか)み、相手の動きを封じようとしていた。掴(つか)まれたトライアングルは、ジタバタと暴れている。

「プラズマ砲に暴発の恐れが有るので、砲身(バレル)をパージします。」

 データ・リンクは維持されているので、茜達には LMF を制御し続ける Ruby の発する合成音声が聞こえた。そして、Ruby が宣言した通り、左右のプラズマ砲が砲塔の接続部から外れ、落下する。

「プラズマ砲発射用の電力を、キャパシタより解放。」

 次の瞬間、機体表面から地面に向かってスパークが走った。LMF に取り付いてるトライアングルとの間にも火花が散るが、トライアングル達が LMF から離れる事は無い。しかし、尚も攻撃を続けるトライアングルに因って、LMF の頭部の様に見える複合センサー・ユニットや、左側ロボット・アームが切り落とされてしまう。それでも、右のロボット・アームで掴(つか)んだ儘(まま)だったトライアングルの腕を、LMF が離す事は無く、Ruby は淡々と LMF の制御を続行していた。

「LMF 作動停止後の燃料漏洩を防止する為、水素燃料供給ラインの全バルブを閉鎖。GPAI-012(ゼロ・トゥエルブ)、緊急シャットダウン、シークエンスを開始。」

 燃料の供給を自ら遮断した LMF は、間も無く第二メイン・エンジンと APU が停止し、それらに因る発電が不可能になると、LMF は固まった様に動きを止めた。その後も続行される、制御部である Ruby 自身の終了作業は、バッテリーから供給される電力で賄(まかな)われているのだ。そして、全ての制御が終了すると、LMF は膝を折って、垂直に落ちる様に姿勢を崩した。

「わあああああっ!」

 茜は言葉にならない叫び声を上げ、HDG を降下させる。そして遺骸に集(たか)る虫の様に、LMF の機体に群がる三機のトライアングルへと、荷電粒子ビーム・ランチャーの照準を合わせた。続け様(ざま)に、荷電粒子ビームを撃ち込み乍(なが)ら、茜は降下して行った。
 頭部、胸部、そして腹部、尾部へと、荷電粒子ビームを次々に撃ち込まれたトライアングル達は、間も無く動作を停止し、そして沈黙するのだった。
 茜は地上に降りると、静止している LMF へと駆け寄る。

Ruby! Ruby!」

 茜が呼び掛けても、Ruby が返事をする事は無い。
 LMF は西向きに両膝を突き、右腕で前傾した上体を支えている。右のマニピュレータは、正面に居たトライアングルの腕を、掴(つか)んだ儘(まま)だった。トライアングルに切断されてしまった左腕と複合センサー・ユニットが、LMF の足元周辺に落下している。投棄されたプラズマ砲の砲身も、LMF の足元からは少し離れて転がっていたが、右側の砲身は水際(みずぎわ)に落下しており、砲口部を岸側にして基部側は水没していた。
 LMF からは、何の作動音もしない。LMF の、機体の一部に重なる様に擱座(かくざ)している三機のトライアングルも、完全に沈黙していた。
 HDG 自身の作動音と、LMF の向こうに流れる川の水音の他に、聞こえて来る音は無い。LMF から漏れ出した潤滑油の臭いや、電線の焼けた臭いが、微(かす)かに漂うのに、茜は気が付いた。しかし、その臭いも、川面(かわも)に吹いた風が、吹き飛ばしていくのだった。
 茜は、HDG の左側マニピュレータを格納すると、自身の手で LMF の脚部に触れてみる。涙がポロポロと、不意に零(こぼ)れた。だが、茜は、声を上げなかった。
 それから間も無く、複数のヘリが飛ぶ音が、茜の耳に聞こえて来た。それは、次第に近く、低く聞こえて来る。
 茜は音のする方向、東側の空を見上げた。すると、六機の陸上防衛軍所属の攻撃ヘリが、高速で近付いて来ているのが見えたのだ。
 その攻撃ヘリ達は二機ずつの三隊に分かれると、その内の二隊が南北に分かれ、残りの一隊が低空に降り乍(なが)ら接近して来る。その儘(まま)、直進を続けると、茜の頭上を五十メートル程の高さで通過して行った。

「遅いよ。」

 攻撃ヘリの編隊を見送って、ポツリと茜が翻(こぼ)した。視界の先で、攻撃ヘリの一隊は旋回し乍(なが)ら上昇し、先程分かれた二隊と合流している様子だった。
 そこへ、緒美からの指示が入る。

「天野さん、防衛軍が到着したみたいだから、あなたは戻って。現場の保全は、防衛軍に任せましょう。防衛軍の回収隊が到着する迄(まで)は、警察とかが先に来ると思うけど。」

Ruby はこの儘(まま)に、ですか?」

「わたし達には、どうにも出来ないでしょう? 今、理事長が本社の方(ほう)へ、LMF と Ruby の回収を手配をしてるけど。取り敢えず、天野さんは学校に戻って来てちょうだい。」

「分かりました、今から戻ります。」

 茜は、そう答えると、もう一度、LMF の脚部に左手の指先で触れてから、LMF の方を向いた儘(まま)で、後ろ向きに無言で五歩、離れるのだった。そして、背部のスラスター・ユニットの出力を上げると、両脚で地面を蹴って直上へジャンプする。茜は高度を上げ、学校へと向かったのだ。
 学校へと飛行する途中、茜の視界、左側に先程の攻撃ヘリの編隊が見える。その内の二機が、茜の HDG の方へ進路を変えたのに、彼女は気が付いた。
 茜は、緒美に報告する。

「部長、防衛軍の攻撃ヘリが、わたしを追って来てるみたいです。」

 第三格納庫内部では、その報告を受けた緒美が、視線を天野理事長へと向ける。茜からの通信は、相変わらず樹里のコンソールから音声が出力されていたので、当然、天野理事長にも聞こえていた。天野理事長は、緒美に言うのだった。

「防衛軍の上の方(ほう)とは、話は付いてる。心配はしなくても、いいと思うよ。」

 緒美は、それを茜に伝える。

「天野さん、理事長が心配無いって言ってるわ。その儘(まま)、真っ直ぐ返って来て。」

「分かりました。」

 茜の返事が聞こえると、防衛軍の動向を監視していたクラウディアが声を上げる。

「今、ヘリのパイロットが、司令部に確認してるみたいですね。」

「そんな事まで分かるの?」

 クラウディアの傍(そば)で様子を見ていた維月が、問い掛ける。

「防衛軍の指揮ネットワークに、情報が上がって来ればね。まぁ、大概の情報はここに集まって来るけど。」

「指揮ネット…って、暗号化とかされてないのかしら?」

 クラウディアの回答に、呆(あき)れた様にコメントする維月である。クラウディアは、微笑んで言葉を返す。

「暗号化? してない訳(わけ)、無いでしょ。普通の人には見られないわ、こんなの。わたしが見られてるのは、暗号を解読したからに決まってるじゃない。」

「それ、自慢にはならないからね、クラウディア。」

 溜息混じりに維月が言うと、クラウディアは唇を尖らせて応えるのだった。そして、次に上がってきた情報を読み上げる。

「部長さん、司令部からヘリの方(ほう)へ指示が。『当該機は、天野重工が開発中の試作機。追跡の必要は無し、周囲の警戒に当たれ』だ、そうです。 あと、接近中だった空防の戦闘機隊には、先程、引き返すように指示が出ました。」

 緒美は視線をクラウディアの方へ向けると、微笑んで応えた。

「ありがとう、カルテッリエリさん。もうそろそろ、防衛軍の状況監視は終わっていいわ。足が付かない内に、ログアウトしておいてね。」

「わかりました~。」

 クラウディアが、モバイル PC の終了作業を始める一方で、緒美は茜に呼び掛ける。

「天野さん、追跡して来てるヘリには、司令部から追跡の必要なしって、指示が出たらしいわ。」

「それ、クラウディアからの情報ですか?…あ、確かに。引き返して行くみたいです。」

 その茜からの報告を受け、緒美は格納庫の外の空に目を遣る。現場の上空を飛行する攻撃ヘリの動きには、注意を払っていなかった緒美だったが、それから間も無く、茜の、HDG の姿を目視で確認したのだった。

「天野さん、あなたの姿が目視出来たわ。」

 緒美の、その発言を聞いて、その場に居た殆(ほとん)どのメンバーが、格納庫の外へ視線を向けた。
 茜は、滑走路の路面に対して十メートル程の高度で南側から飛来すると、滑走路上空を横切って、第三格納庫大扉の前に降り立った。そして、格納庫の中へと、歩いて入って来る。

「茜!お帰り。」

 真っ先に、ブリジットが立ち上がって声を掛けた。茜はブリジットに視線を送って、力(ちから)無く笑うと緒美達の五メートル程度前で立ち止まり、天野理事長の方へ向き直って、深々と頭を下げ、言うのだった。

「申し訳有りませんでした。Ruby と LMF を、失ってしまいました。」

 天野理事長が複雑そうな表情で溜息を吐(つ)くと、彼が口を開く前に、緒美が声を上げる。

「あなたの所為(せい)じゃないわ、天野さん。今回の損失は、わたしの判断ミスが原因です。天野さん、あなたは良くやって呉れたわ、ご苦労様。」

 緒美の発言を聞いて苦笑いし、天野理事長が口を開くのだった。

「一人で六機もエイリアン・ドローンを撃破しておいて、何を言ってるんだかな、二人揃(そろ)って。鬼塚君、天野君も、胸を張り給(たま)え。」

 そして、視線を緒美へと移し、天野理事長は尋(たず)ねる。

「参考までに、鬼塚君? キミはどこで判断ミスをしたと、思うのかね?」

 緒美は落ち着いた表情を崩さず、直ぐに答えた。

「はい。逃走したトライングルの追撃を、指示した時点です。あの時点で、HDG と LMF を分離させるべきでした。山を下って行くのに、木立等の障害物が有る事で、移動に制限が掛かる状態のトライアングルを、上空から HDG に攻撃させた方が効果的だったかと。その間に、LMF を自律行動で川向こうへ移動させて、撃ち漏らしの対処とするべきでした。」

「成る程な。しかし、それは今回の経験から得た、キミなりの解決策だ。であれば、経験をするより以前の時点で、その解決策を思い付ける筈(はず)は無い。つまり、それはキミのミスでは無く、その時点での必然だ。だから判断ミスを悔やむ必要は無い。但し、今回の経験と、そこから得た教訓は、今後も大切にしなさい、いいかな?鬼塚君。」

「はい。」

 緒美が返事をすると、一度、頷(うなず)いて、天野理事長は視線を茜に向ける。

「天野君は、先程、Ruby を失ったと言ったが…。」

 そこで視線を樹里の方へ切り替え、天野理事長は尋(たず)ねるのだった。

「城ノ内君、キミは Ruby が失われたと思うかね? 意見を聞かせて呉れ。」

「はい…。」

 樹里は何時(いつ)もの笑顔で、話し始める。

 

- to be continued …-

 

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