WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第13話.03)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-03 ****


 それから少し経って、インナー・スーツに着替えた茜とブリジットが、階段を降りて来る。

「お待たせしました~。」

 茜は普段通りだったが、ブリジットの方は聊(いささ)か緊張した面持ちである。
 メンテナンス・リグに接続された両機へと歩いて来る二人に、緒美が声を掛ける。

「準備が出来てるなら、早速、起動させましょうか。」

 並べられた HDG-A01 と、HDG-B01 の前には搭乗用のステップラダーが既に置かれている。茜とブリジットは、両機の前に立ち、暫(しば)し新しい機体を見上げる。
 そしてブリジットが、ふと、感想を口にするのだ。

「塗装は、白ベースなんですね。」

 HDG-B01 の機体は大部分が白色に塗装されており、一部にライトブルーのラインが入れられている。
 茜が、畑中に向かって尋(たず)ねる。

「このデザインも、飯島さん?ですか。」

「そうだよ~。ぱっと見でA号機と、見分けが付く方がいいだろうってのと、画像で見たブリジット君のイメージ、だってさ。」

「成る程。」

 そう、納得する茜に、ブリジットは訊(き)くのだった。

「成る程、なの?」

「スマートで、スッキリしたイメージ、なんじゃないの?白って。」

「わたしのイメージ…って言われても、ねぇ。」

 ブリジットは、苦笑いである。そして畑中が、微笑んで言うのだった。

「まぁ、飽くまでも、画像を見た飯島さんのイメージだから、ね。」

「あはは、ま、取り敢えず接続してみましょうよ、ブリジット。」

 そう言って、茜は HDG-A01 へのステップラダーを登って行く。ブリジットも、HDG-B01 の前に置かれた、ステップラダーへ向かった。

「接続の手順は、分かる?ブリジット。」

 ステップラダーの頂部に立って、茜はブリジットに問い掛けた。ステップラダーの頂部へと登って来たブリジットが、答える。

「大丈夫。」

 ブリジットが入部して以来、茜が行う HDG 装着のサポートを何度も繰り返して来たのは、この日を見据えての事である。それは勿論、茜も理解していたので、微笑んで声を返した。

「オーケー。」

 茜とブリジットは、それぞれのステップ面に腰を下ろすと、両脚を HDG の腰部リングへと差し込む。その儘(まま)、腰の位置を前方へとずらし、脚部ブロックの上部に足が届くと、一度そこに立ち上がり、身体の向きを変えて、足を左右の脚部ブロックへと嵌(は)め込んだ。そして上体を起こして、インナー・スーツの背部パワー・ユニットを、HDG の背部ブロックへと接続するのだ。

「HDG-A01 接続します。」

「HDG-B01 接続します。」

 二人がそれぞれのインナー・スーツ左手首のスイッチを右手で操作すると、背部パワー・ユニットがロックされ、続いて、腰部リングや脚部ブロック、上部フレームが、それぞれ固定位置へと作動するのだった。
 最後に、茜には佳奈が、ブリジットには瑠菜が、それぞれのヘッド・ギアを装着させ、二人の HDG への接続作業は完了した。茜とブリジットは、それぞれのヘッド・ギアの、ゴーグル型スクリーンを降ろして、機体のステータス情報を確認している。その間に、HDG の前に置かれていたステップラダーは、瑠菜と佳奈、そして恵と直美の手で HDG 前から撤去される。それを終えると、佳奈が HDG-A01 の、瑠菜が HDG-B01 の、それぞれのメンテナンス・リグのコンソールへと移動する。
 そして両機は格納庫の床面へと降ろされ、腰部後方の接続ロックが解放されるのだ。二人は隣に立つお互いの顔を見合わせ、微笑んだ。そして茜が、ブリジットに問い掛ける。

「どう、大丈夫?」

 茜は、それ程大きな声を出した訳(わけ)ではなかったが、その声はブリッジが装着するヘッド・ギアのレシーバーから聞こえたのだ。ブリジットも、声量には注意して答えた。

「うん、大丈夫。でも、立ってるのに浮かんでる様な、変な感じ。」

「ああ、それは、FSU が装備の重量を支えてるから、自分の足腰には負荷が掛かってないのよ。」

「理屈では分かってるんだけど、体感すると、又、印象が違うわね。」

 そう言って、ブリジットは「うふふ」と笑うのだった。
 丁度(ちょうど)その頃、立花先生が格納庫フロアへと戻って来て、緒美達に声を掛けるのである。

「もう起動してるんだ。」

 緒美は振り向いて、立花先生に言葉を返す。

「お戻りですか。 何方(どちら)へ?立花先生。」

「え?ああ、総務の方へね。今日、搬入された物品の、管理関係の書類仕事よ。HDG とか、一応、管理上は本社の資産扱いだからね、学校のじゃなくて。 だから本社からの資産貸し出し扱いの事務手続きとか、こっちでの管理書類の作成とか、色々、やっておかなきゃいけない事が有るのよ。」

 倉庫での検品作業から戻っていた恵が、その説明を聞いて含みの有りそうな笑顔で言う。

「へぇ~それは、ご苦労様です。」

 恵は、立花先生の言う『事務手続き』が嘘だとは思わなかったが、それが今日中に済まさなければならない事だとも思わなかったのだ。同じ事を考えていた直美も、クスクスと笑っている。
 立花先生は怪訝(けげん)な顔付きで、恵に言葉を返す。

「何よ恵ちゃん、引っ掛かる言い方ね。」

「いいえ、深い意味なんて、別に有りませんよ。」

「まあ、いいわ。そういう事にして置いてあげる。」

 立花先生は、視線を茜達、HDG の方へと戻した。
 実際、立花先生の行動にも、恵の言動にも、何方(どちら)にも深い意図などは無かったのだ。唯(ただ)、そんな遣り取りを傍(そば)で聞いていた緒美も、くすりと笑って居たのだった。

「樹里さん、B号機とのデータ・リンクは大丈夫ですか?」

 茜が、デバッグ用コンソールに就く樹里に呼び掛ける。樹里は、装着しているヘッド・セットを介して答えた。

「大丈夫よ、ログは取れてる。 それじゃボードレールさん、動作範囲の設定からやっていきましょうか。」

「ああ、それじゃ…。」

 茜はブリジットの前側へと回り、正面に向かい合って立つのだった。

「わたしの動きに合わせて、動いてみて、ブリジット。最初は真っ直ぐ、しゃがんでみて。」

 ゆっくりと、茜は両膝(ひざ)を曲げ、腰を落としていく。ブリジットは、それを真似てしゃがみ込むのだった。

「こう?」

「そうそう、ゆっくりでいいからね。」

「意外と、動かすのが硬いって言うか、重いのね、これ。」

「最初の内だけよ。HDG が動き方を覚えたら、段々と動作は軽くなって来るわ。」

「しゃがむのは、この辺りが限界、かな。」

「無理はしないで、ブリジット。じゃ、真っ直ぐ立ち上がって。」

 二人は、しゃがむ時に比べて、幾分早く立ち上がった。

「じゃ、次は右脚を上げて、左脚で片脚立ち…。」

 茜の指示で、ブリジットは順番に各間接の動作範囲を確認し、設定していく。
 そんな様子を眺(なが)め乍(なが)ら、畑中は緒美に尋(たず)ねるのだった

「鬼塚君、A号機の動作データを変換すれば、B号機の初期設定とか省略出来るんじゃないの?」

 その問い掛けに緒美が答えるより早く、コンソールを操作する樹里を見ていた日比野が答えるのだった。

「それね、仕様的にはその通りなんだけど。そのデータ変換自体が正しく出来るかが、未検証なのよ、畑中君。もしも変換プログラムにバグでも有ったら、それこそ洒落にならないから。 だから、B号機も普通にセットアップを行って、出来上がった双方のデータを変換して、それぞれお互いの生成データと比較して、変換プログラムの検証をする予定なの。」

「成る程、そう言う訳(わけ)ですか。」

 日比野の説明に、畑中が納得する一方で、直美が樹里に問い掛ける。

「それよりも、バッテリー駆動だと、A号機の最初の時みたいにならないか、そっちの方が心配だけど。大丈夫よね?城ノ内。」

 茜の HDG-A01 は背部にスラスター・ユニットを装備していて、それを電源としているのだが、ブリジットの HDG-B01 は、まだ HDG-A01 のスラスター・ユニットに該当する装備を接続していなかった。だから直美は、四月の末(すえ)に HDG-A01 を初起動した際の、電源系統の不具合で動作が止まってしまった事例を思い出していたのだ。
 この時点で、HDG-B01 がバッテリー駆動だったのは、HDG-B01 用の該当ユニットが、HDG-A01 用のスラスター・ユニットに比べて著しく大型であるからだ。空中を飛行する事を主眼として開発される HDG-B01 用の飛行ユニットは、搭載されているエンジンも大型で、飛行や空中機動には空力も利用する為に翼も装備していた。その為、地上での動作テストを実施するのに当たっては、はっきり言って邪魔だったのだ。因(ちな)みに、HDG-B01 用の飛行ユニットは、専用のメンテナンス・リグに搭載されて、第三格納庫には搬入済みである。

「大丈夫ですよ、新島先輩。あの件は、ちゃんと原因が特定されて、対策も済んでますから。」

 樹里は微笑んで、直美に答えた。それに対して、日比野が声を掛ける。

「その時は、Ruby の機転で、LMF を使ってA号機を回収したんだっけ?」

「そうですよ。」

 日比野に答える樹里に、直美が言うのである。

「それよ。今は LMF が無いからさ、もしもあの時みたいにB号機が固まっちゃったら、どうやって回収するか、って話よ。」

 その直美の懸念には、恵が答える。

「その心配は要らないんじゃない? 今日は本社の方々もいらっしゃるし、天野さんのA号機も動いてるし。まさか、両方とも止まっちゃう事は無いでしょう。」

「まあ、そうなんだけどさ。」

 直美が苦笑いしつつ、そう言葉を返すと、緒美が振り向いて言うのだった。

「ま、試運転なんだから何が起きるか分からないって事は、覚悟しておきましょう。寧(むし)ろ、何が起きてもいい様に、しっかり監視してて。少しでもおかしな兆候が有ったら、直ぐに声を上げてね、皆(みんな)。」

 先輩達が、そんな会話をしている内に、茜とブリジットは HDG-B01 の動作範囲設定に於ける一連の動作を終えるのだった。そこで、樹里が二人に声を掛ける。

「オーケー、B号機は今の所、異常無しよ。リターン値は、全て正常範囲。」

 続いて緒美が、装着しているヘッド・セットを介して指示を出すのだ。

「それじゃ二人共、歩いて格納庫の外へ行ってみましょうか。」

「分かりました。」

 茜とブリジットは声を揃(そろ)えて返事をすると、搬入の為に開けられた儘(まま)だった南側大扉へ向かって歩き出す。
 歩き始めは、外部から見る限り、茜の HDG-A01 に比べてブリジットの HDG-B01 は、聊(いささ)か歩き方がぎこちない様に見えたが、二人が大扉を潜(くぐ)る頃には、それも解消されていた。それは、HDG-B01 に搭載されている AI が、ブリジットの動きに合わせて、動作の出力やタイミングを調整し、学習した結果なのである。
 茜とブリジットが格納庫の外へ出ると、その日も快晴で、夏は終わりに向かっているとは言え、まだ日差しは強かった。時刻は、もうそろそろ午後四時になろうかと言う所で、茜が西側の空を見ると、太陽が視野に入る高さだった。
 外気温は、この時刻ではまだ 28℃を下回っていなかったが、幸い、インナー・スーツの温度調整機能のお陰で、暑さは感じなかった。

「ブリジットは大丈夫?暑くはない?」

 茜が尋(たず)ねると、ブリジットは微笑んで答える。

「大丈夫よ。インナー・スーツがちゃんと機能してる。」

 そこに、ヘッド・ギアのレシーバーから、緒美の声が聞こえて来るのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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