WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第13話.06)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-06 ****


 そうして、緒美と恵、直美、金子と武東の五名はB号機用の飛行ユニットが吊り下げられた、メンテナンス・リグの前へと立ったのである。

「大きさ的には、ハンググライダー位(くらい)かしら、形状的にも。」

 武東の第一声である。続いて、金子は飛行ユニットの周囲を、機体を見上げ乍(なが)らぐるりと一周しつつコメントする。

「そうね。でも、エンジンが付いてるし、エルロンやフラップらしき機構も見えるね。」

 緒美の立つ場所へ戻って、金子は緒美に話し掛ける。

「空力的に飛びそうな形よね、鬼塚。 あの赤いヤツのよりは、わたし達には馴染み深い感じで、いいわ。」

「ああ、A号機のは、完全に推力だけで飛んでるから。B号機用のは、機動にも空力を利用するから、燃費もいい筈(はず)なのよ。」

「でしょうね。これで、どの位、飛べるの?」

「燃料はA号機の倍、積むんだけど。仕様上は、それで二時間位(ぐらい)。因(ちな)みに、A号機の航続時間は三十分程度ね。」

「三十分? それじゃ、大して役に立たないじゃん。」

 その金子のコメントに、直美が反応する。

「いやいや、A号機は、そもそも飛行する仕様じゃなかったから。地表をホバー走行したり、ジャンプの補助程度にスラスター・ユニットを使う構想だったの。」

 続いて、緒美が説明する。

「基本的に、A号機のジェット・エンジンは、電源としての役割がメインだった筈(はず)なのよ。」

「それにしては、派手に飛び回ってたじゃない?」

 その金子の問いに、緒美は苦笑いで答えるのだった。

「これの基礎データを集める為に、敢えてA号機のスラスター・ユニットを、オーバー・スペックで設計したらしいのよね、本社の人が。 これは、あとで聞いた話だけど。」

「うっわぁ~予算、大丈夫だったのかな?」

「さあ、当初の予算の枠からは出てない、って実松課長からは聞いてるけど、実際の所は知らないわ。 まあ、でも、A号機の飛行性能のお陰で、実際に助かった局面も有るのは事実だし。その意味では、本社の設計課の人には、先見の明が有ったって事よね。」

「へぇ~。」

 感心気(げ)に声を漏らす金子の一方で、武東が緒美に尋(たず)ねる。

「所で、これ、どうやって操縦するの?」

「ああ、ドッキングした HDG 側から、思考制御で、ね。」

 緒美の、その答えに、金子が聞き返す。

「思考制御って、スロットル何パーセント、エルロン何度、って操縦系統の動作を頭の中で考える訳(わけ)?」

 緒美はくすりと笑って、答える。

「まさか、そんな煩雑(はんざつ)な事はしないわよ。 装着者(ドライバー)が考えるのは、例えばスピードなら、加速とか減速。高度なら、上昇とか下降。あとは姿勢とか、飛行経路とか、そんな要素を HDG の AI が読み取って、直接の必要な操縦制御は AI が自律的に実行するの。」

「そんなので、上手くいくの?」

 訝(いぶか)し気(げ)に尋(たず)ねる武東に、直美が答える。

「実際に、A号機はその制御方法で、空中機動が出来てるよ。」

「本社の開発じゃ、軽飛行機の操縦系統を改造して、思考制御と AI の組合せで操縦が出来るかに就いて、検証済みだそうよ。こっちの機体での実機検証は、明後日(あさって)から、だけど。先(ま)ずは低空や滑空で試験し乍(なが)ら、段々と高度を上げていく予定なの。」

 緒美の補足説明を聞いて、不審気(げ)に金子は呟(つぶや)く。

「AI の自律制御かぁ~。」

「心配は要らないわ、HDG 本体の手足を動かしてるのだって、或る意味、AI に因る自律制御なんだし。」

 その緒美の発言に、意外そうに武東が聞き返す。

「え? あれは、人が動かしてるんじゃないの?」

 武東の問いに、直美が笑って答える。

「あはは、人の力(ちから)じゃ FSU を動かすのは無理だよ。」

「FSU?」

「フレキシブル・ストラクチャー・ユニット。 ほら、あの手足や腰の部分を繋げてる、リボン状のパーツ。」

 直美は、メンテナンス・リグに接続され、茜やブリジットが接続を解除しようとしている HDG を指差して、武東と金子に説明する。

「あのパーツが曲がったり、伸びたりして、全体として人の動きを再現する訳(わけ)なんだけど…。」

 続いて、緒美が発言する。

「要するに、AI が装着者(ドライバー)の動きたい様に、FSU を動かしてる、って事ね。」

「ちょっと待って…。」

 金子が、声を上げる。

「…その話の流れじゃ、中に人が入ってる必要が無いんじゃないの? 動きの指示なんて、遠隔操作でも出来る訳(わけ)でしょ?」

 その意見には、緒美は苦笑いで答えるのだった。

「う~ん、通信の届く距離とか、それに因るディレイとかが無視出来れば、それも有りよね。実際には、それが無視出来ないんだけど。」

 緒美に続いて、今迄(いままで)黙っていた恵が発言する。

「それに、状況判断とか意志決定とか、今の AI じゃ、まだ人間には敵(かな)わないみたいよね。」

「ああ~、夏休み中に、AI に戦闘シミュレーションをやらせてたんだけど、最初は全然ダメだったのよね。」

 恵の発言を受けての、直美のコメントに、金子は呆(あき)れた様に言うのだった。

「あんた達、そんな事やってたの?夏休み中。」

「ええ~、話したじゃん、寮で、夕食の時。」

 直美に、そう言われて、金子は武東に確認する。

「そうだっけ?」

「うん、聞いた覚えは有るわ。わたしも、忘れてたけど。」

 微笑んで緒美が、話を纏(まと)めるのだった。

「歩いたり走ったり、飛んだり跳ねたりは出来ても、瞬間的に複合的な判断をさせるには、よっぽど高度な AI が必要って事よね。だから、技術的には可能でも、自動車や飛行機の完全自動運転は、未(いま)だに普及してないんだし。」

「まあ、確かに。パイロットを機械に置き換えて、それで事故は減るかも知れないけど、ゼロにはならないよね。器機の故障で、事故が起きる場合だって有る訳(わけ)だし。結局は、その時の責任の所在とか、保険の問題が解決しないから、完全自動運転の技術は採用されてないのよね。」

 溜息混じりに金子が言うと、それに武東が問い掛ける。

「仮に事故を起こした AI の責任を問える、となったら、航空業界はパイロットを解雇して、完全自動操縦を採用するかしら?」

「どうかしら? そんな飛行機に、乗客が乗りたいと思うか、よね。まあ、値段次第かも知れないけど。」

 そう答える金子に、恵が言うのだった。

「事故が起きた時に、責任が AI に有ると判断されて、誰も処罰されなかったら? そんなのは、多分、世の中の人は誰も納得しないでしょ。」

「だろうね~。」

 その遣り取りを聞いて、直美が苦笑いしつつ評するのである。

「結局、責任を取る為に、人間が必要な訳(わけ)か~。」

「あら、人格や判断力が、人間と同等か、それ以上だと客観的に証明されたら、責任を取る人間も必要なくなるかもよ?」

「うわぁ、怖い事言うなよ、鬼塚~。」

 緒美のコメントに、金子は身体を仰(の)け反(ぞ)る様にして反応を返す。そして武東が、言うのだ。

「そんな時代になったら、人間は何の為に存在すればいいのかしらね?」

 その問いには、真面目な顔で、恵が答えるのだった。

「そんなの、その時代の人達が考えればいい事だわ。」

 くすりと笑って、金子が言葉を返す。

「森村さんの、そう言う所、わたしは好きだわ。」

「あら、ありがとう、金子さん。」

 恵は、金子に対して微笑んで見せる。
 そんな折、HDG から離れた茜とブリジットの二人が、格納庫の西側、緒美達から見て奥の方へと歩いて行くのが見えた。それに気が付いた直美が、緒美達から離れて、茜達の方へと歩き出し、二人に声を掛けるのだ。

「今日も、稽古(けいこ)、やるの~?」

 その問い掛けに、茜が声を返した。茜は手に竹刀(しない)を、ブリジットは先端にクッションを巻き付けた、長い木製の棒を肩に担ぐ様に携(たずさ)えている。

「はーい、基礎練は反復しておかないと。」

「そうね~、わたしも付き合うわ~。」

 そう言って、直美は駆け足で、茜とブリジットの方へと向かった。
 そして、茜とブリジットは、交互に相手側への『打ち込み』を始めるのだ。但し、『打ち込み』とは言っても、茜もブリジットも防具を着けている訳(わけ)ではないので、身体を打たれないように、それぞれが手にしている竹刀(しない)や槍(やり)を模した棒で、打ち込まれる攻撃を受け、払い除けるのだ。
 この稽古(けいこ)は、主にブリジットの為に行われているので、ブリジットの相手は茜と直美が、交代で務(つと)めるのである。
 そんな様子を、遠目に眺(なが)め乍(なが)ら、金子が言うのだった。

「兵器開発部って、あんな事もやってるの?」

「テスト・ドライバーには、接近戦用の、武装の取り扱いも出来ないとね。その為の練習なのよ。 ここ一週間位、毎日、一、二時間はやってるわね。」

 その緒美の説明に続き、恵が冗談めかして言う。

「あの三人は、兵器開発部(うち)では貴重な体育会系のメンバーなの。」

 その言葉を受け、真面目な表情で金子が応える。

「その様ね。でも、あの天野さん、だっけ? 理事長のお孫さんだって言う。 彼女が体育会系ってのは、ちょっと意外だわ。 彼女でしょ?前期中間試験、ほぼ満点で、一年生トップだったの。」

「あら、金子ちゃん、良く知ってるわね。」

 笑顔で言葉を返す緒美に、金子は微笑んで言った。

「その位の情報は、わたしにだって、入って来るわよ。 そう言えば、あの背の高い子でしょ?バスケ部から引き抜いた、っての。 バスケ部の田中さんが、嘆(なげ)いてたよ~。」

「人聞きの悪い事、言わないで。ボードレールさんは、本人の意志で、バスケ部の方を休部してるだけだから。 って言うか、学科違うのに、田中さんと面識有ったの?金子ちゃん。」

「ああ、毎月、部長会議で顔を合わせるから。飛行機部(うち)は、運動部の括(くく)りだからさ、文化部じゃなくて。 まぁ、その件で彼女がぼやいてたのは、寮で夕食の時だけど。」

 そう言って、溜息を吐(つ)く金子の一方で、緒美と恵の二人は時を揃(そろ)えて「成る程。」と、声を漏らしたのだった。
 因(ちな)みに、『部長会議』とは、グラウンドや体育館等(など)の学校施設を練習で使用するのに、各部活間で使用時間や期間を如何(いか)に融通し合うかの打ち合わせが目的で、生徒会の主催で毎月開催されていた。
 飛行機部としては、パイロットを務める部員の基礎体力トレーニングで利用する、校内のスポーツジムを予約する為に、『部長会議』には毎回参加していたのだ。
 その一方で、文化部の場合は、運動部程、学校施設を取り合う状況が発生しないので、『部長会議』の様な定例の会議は開かれていないのである。

「そう言えば、あの子はどうしてバスケ部を休んで迄(まで)、こっちの活動に参加してるのよ?鬼塚。」

 金子が無邪気に、そう訊(き)いて来るのだが、それには一瞬、緒美は言葉を詰まらせる。

「…そうね。簡単に説明は出来ないんだけど。 矢っ張り、一番の理由は天野さん、よね。ボードレールさんは、天野さんと一緒に居たいのよ。不本意だけど、先日みたいな危険な局面に、遭遇した事が有るから。 彼女達は、中学からの親友?…そんな関係だそうだから。」

「ふうん…。」

 そう応えたあと、緒美には意外な程の笑顔で、金子は言うのだった。

 

- to be continued …-

 

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