WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第13話.07)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-07 ****


「それじゃ、わたしと、さやと、同じ様な感じか。何と無く、分かったわ。」

 金子は、『武東 さやか』を、名前の上二文字のみで『さや』と呼ぶのである。

「そうなの?」

 緒美の短い問い掛けに、金子は答える。

「そうよ~。さやと同じ学校に行きたくて、わたしはここを選んだんだし。飛行機部に関しては、さやの方が付き合って呉れてるんだけどね。ねぇ、さや。」

「まぁね。わたし達も、中学からの付き合いなのよ。」

 金子に応えて、そう語った武東は、微笑んで恵に問い掛ける。

「あなたも、鬼塚さんとは中学からの付き合いだって聞いてるけど?森村さん。」

「そうね。」

 取り敢えず、同意する返答をした恵だったが、武東が『付き合い』と言う言葉に込めたニュアンスを理解した恵は、言葉を続けた。

「でも、事情は同じ様に見えても、三者三様で、関係の質は随分(ずいぶん)と違うみたいよ、武東さん。」

「そうなの?」

「ええ。」

 そこで金子が、恵と武東の遣り取りに参加して来る。

「あ、何(なん)か、二人で難しい話してない? わたしも、混ぜてよ。」

 一方で、その様な機微に触れる会話には無頓着な緒美が、少し困惑気味に、恵に尋(たず)ねるのだった。

「どう言う事?」

 その問いに対して、少し許(ばか)り答えに窮(きゅう)する恵よりも先に、笑顔で金子が言うのだ。

「あ、その手の話は分からない方が、鬼塚らしくっていいって。」

「そう言う話?」

 と、金子にではなく、緒美は恵に問い掛ける。恵は力(ちから)無く笑って、答えるのだった。

「そうね。大して意味の無い話よ。」

「そう? なら、いいけど。」

「あはは、そうそう。わたしは、細かい事を気にしない鬼塚が好きよ~。」

 笑って、そんな事を言う金子へ、少し睨(にら)む様な視線を向けて緒美は言い返す。

「それは、わたしが無神経だって言いたい訳(わけ)?金子ちゃん。」

「そんな事は言ってないでしょ。わたしは、友達と、言葉の裏を読み合う神経戦なんか、したくないだけよ。」

「それは同感、だけど。」

「でしょ?」

 そんな会話をしていると、武東が金子に声を掛けるのだった。

「所で、部長。 そろそろ、戻りませんか?」

「ん?ああ、そうね。部活の途中で抜け出して来てたんだった。余り、ほったらかしにも出来ないよね。」

 金子は武東の傍(かたわ)らへと移動すると、くるりと身体の向きを緒美の方へと変え、言った。

「長居しちゃったわね。じゃ、また。」

 緒美は頷(うなず)いて、応える。

「ええ、明明後日(しあさって)のフライトの方、宜しくね、金子ちゃん。」

「うん、任せといて。わたしも楽しみにしてる。また、フライトの前日にでも、最終打ち合わせ(ブリーフィング)しましょう。じゃあね~。」

 二人は手を振ると、格納庫の外に止めてある、自転車へと向かったのだ。
 金子と武東の二人を見送り、その姿が見えなくなった頃、緒美は恵に尋(たず)ねた。

「森村ちゃんは、あの二人とは、余り馬が合わないかな。」

「今迄(いままで)、余り話した事は無かったけど。大丈夫、仲良くなれそうよ。」

「そう、なら良かった。」

 恵が微笑んで答えるのを見て、緒美も笑顔を返したのである。

 その後、第三格納庫内では、HDG-B01 の点検終了に続いて、飛行ユニットの接続と取り外しを実施、確認をして、その日の作業は終了となったのである。終了の時刻は、午後七時の少し前だった。


 翌日、2072年9月6日・火曜日。天野重工の試作工場から来ていたスタッフ達は、大型のトランスポーター二輌に分乗して、午前中に天神ヶ崎高校を出発したのである。二日目以降、学校に残ったのは、本社から来ている実松課長と日比野、そして試作工場から来ている畑中と大塚の四名である。この四人は、四日目の長距離飛行試験までの立ち会いを済ませて、それぞれが会社へ戻る予定となっている。残された中型のトランスポーターには整備用の工具や機材が積まれており、畑中と大塚は試運転に於ける、トラブル対応要員なのである。又、残されたトランスポーターは、山梨県に在る試作工場へ戻る足でもあるのだ。その帰路には、畑中と大塚の二人が、交代で運転をする事になる。
 一方で、東京の本社へと戻る、実松課長と日比野の二人は、四日目の作業終了後に、会長である天野理事長と共に社用機で移動する段取りとなっていた。

 さて、二日目のメニューは、と言うと。ブリジットの HDG-B01 は予備のバッテリーに交換して、茜の HDG-A01 と地上での模擬戦を中心に、機動動作と消費電力量の確認が行われたのだ。
 模擬戦は、主としてブリジットの慣熟を目的に行われたもので、接近戦用武装の取り回しを確認する事が同時に行われた。これに関して、HDG-A01 側には特に制限は無く、ホバー機動や低空飛行からの斬撃による攻撃等(など)、エイリアン・ドローンからの攻撃を模しての、一時間程の模擬戦が行われたのだった。
 因(ちな)みに、この日はカレンダー的には祝日で、世間は休日である。当然、学校の授業は無いので、テスト・ドライバーである茜とブリジットの、部活動への参加は昼から、となった。一方、出張で来ている畑中達、天野重工のスタッフには休日も関係の無いスケジュールだったので、午前中から飛行ユニットの試運転や点検、整備を行ったのだ。それには緒美達三年生と瑠菜達二年生が、立ち会いや、作業補助として参加したのである。
 ともあれ、二日目のメニューは、特に問題も無く消化されたのだった。


 三日目、2072年9月7日・水曜日。この日は日中に、畑中達の作業で HDG-B01 には、再度、飛行ユニットが接続された。日比野も参加して、その機能点検やソフトウェアのチェックが実施され、放課後からはブリジットが HDG-B01 を装着しての運転試験が開始されたのだ。
 ブリジットは、飛行ユニットが接続された状態でメンテナンス・リグから格納庫の床上に降ろされ、歩行、駆け足からの走行、ジャンプ等での取り回しを、順次確認していった。一通りの確認を終え、地上での行動に慣熟した後、飛行ユニットのエンジン出力を上げて、ホバリングやホバー機動のテストが実行された。
 最初は、主に駐機場(エプロン)でのホバー機動にて、加速や減速、浮揚しての方向転換等の慣熟を実施したのである。その後、滑走路に場所を移して高速ホバー機動の試験を実施している最中(さなか)、高度五メートル程に機体が浮き上がる事態が発生したのだ。それを以(もっ)て、HDG-B01 の飛行ユニットでの、揚力に因る初飛行が記録されたのだった。因(ちな)みに、その際の飛行距離は凡(およ)そ百メートルである。
 その後、滑走路上空での上昇、降下、旋回等の機動を確認し、低空にてエンジン出力を絞っての滑空からの着陸を反復して実施した。高度は最初、三メートルから、五メートル、十メートルと、段階的に増やしていき、最終的には三十メートルからの滑空と着陸迄(まで)を行い、その日の試験は終了となったのである。

 試験の結果としては、確認の出来た低空での飛行性能や操作性は、設計仕様に合致しており、航空機の操縦経験の無いブリジットにも、身体感覚の延長上で十分(じゅうぶん)、コントロールが可能である事が確認されたのだ。
 試験運転の終了後には、当然、畑中達に因って点検がされ、その一方で緒美達は飛行機部の金子を加えて、翌日の長距離飛行試験の打ち合わせを行ったのである。
 又、緒美のみは単独で、飛行機部が所有する、PC 利用のフライト・シミュレーターにて、翌日のチェイス機操縦の予習として、離着陸操作の確認を行ったのだった。


 そして四日目、2072年9月8日・木曜日である。緒美や茜達、特別課程の生徒は七時限目の授業を終えてから、部活動へと集まって来ていた。
 この日は当初の予定通り、HDG-B01 の長距離飛行試験を実施するので、茜とブリジットは早早(そうそう)にインナー・スーツへと着替え、それぞれが HDG を装着したのだ。通信の設定を確認し、茜とブリジットの二人が格納庫の外へと出ると、第三格納庫前には二機の飛行機がエンジンを始動させて、既に待機していた。一機は飛行機部の部長、金子が操縦する四人乗りの軽飛行機で、もう一機は天神ヶ崎高校の実習授業で製作された零式戦闘機のレプリカである。普段は第二格納庫に格納されているそのレプリカ機は、管理や整備は飛行機部が行っており、年に数回は飛行機部に因って飛行も実施されているのだ。
 その零式戦の傍(そば)には、茜とブリジットの同級生である村上の姿も在った。村上は零式戦の操縦席に収まった緒美に書類が挟まれたボードを渡し、二言三言を交わした後に、胴体から突き出ていた搭乗用のグリップやステップを格納し、車輪止めを外して機体の後方へと離れて行った。そして、茜とブリジットに向かって手を振っているので、茜とブリジットも右手を挙げて応えたのだ。
 金子が操縦する軽飛行機の方には、前席へは立花先生が、後席には記録用の機材と PC を持って日比野と樹里の二人が乗り込むのが見える。その左隣では、緒美が零式戦の各舵を動かして、操縦系統のチェックを行っていた。
 そして通信にて、金子の声が聞こえて来る。

「TGZ01 より全機へ。それじゃ、昨日のブリーフィングの通り、16時45分テイク・オフで。TGZ02 は、わたしに続いて離陸してね。あとの二人は、滑走路は使わないみたいだから、TGZ02 が離陸したら各個で上がって来てちょうだい。 一応、わたしが編隊長として交通管制とは遣り取りするから、皆(みんな)、わたしの指示には従ってね。」

「TGZ02、了解。」

 金子の通信のあと、緒美の声が聞こて来た。『TGZ02』とは、このフライトでの緒美のコールサインである。
 続いて、ブリジットが応える。

「HDG02、了解。」

 少し慌てて、茜も応えるのだった。

「HDG01、了解です。」

 今迄(いままで)、『了解』と返事をする文化の無かった兵器開発部のメンバー達だったが、今日の試験での通信ではその様に応えると取り決めたのは、昨日の打ち合わせでの事である。
 三人の少々ぎこちない返答に、少し笑った様な金子の声が、もう一度、聞こえて来た。

「オーケー、じゃ、出発するわよ。忘れ物は無いわね~。」

 間も無く、金子機のエンジン音が一段、甲高くなると、その機体はゆっくりと滑走路へと向かって前進を始めた。金子機が誘導路へと入ると、続いて緒美の操縦する零式戦もエンジンの出力を上げ、誘導路へ向けて前進を始めるのだった。
 金子の操縦する機体と緒美の機体は、同じく単発のプロペラ機だったが、そのエンジン音は可成りに異質だった。何方(どちら)も現代風に水素を燃料として稼働していたが、緒美の零式戦はシリンダーとピストンによる往復機関(レシプロ)エンジンで、金子の操る機体はターボプロップ・エンジンを搭載しているのだ。
 茜とブリジットが、誘導路から滑走路へと移動する二機を見送っていると、飛行機部部員達の一列から離れた村上が、茜達の元へと駆け寄って来た。

「凄いね、二人のそれ。近くで見たのは、初めてだけど。」

 そう言って、村上は二人の周囲をぐるりと回って話し掛けて来る。

「あ、敦(あっ)ちゃん、わたし達の後側、注意してね。スラスターのエンジン、稼働してるから。排気で火傷すると、いけないから。」

「うん、気を付ける。ありがとう、茜ちゃん。」

 そして二人の前側に戻って来た村上は、ブリジットに問い掛けるのだ。

「ブリジットの方、飛行ユニットが重そうだけど。それで、立っていられるの平気?」

「ああ、これ。バランスだけ気を付けてれば、重量は HDG が支えて呉れてるのよ。」

「へえ~。 茜ちゃんの方も装備が凄いって言うか、少し物騒よね。」

 そう言われた茜の HDG-A01 の装備は、右腰の兵装ジョイントに荷電粒子ビーム・ランチャー、左腰側にビーム・エッジ・ソード、そして左腕にはディフェンス・フィールド・シールド、更に、スラスター・ユニットには長時間飛行用の増加燃料タンクを装着と言う具合に、ほぼフル装備の状態だったのだ。

「一応、ブリジットのB号機と、空中での模擬戦も予定されてるからね。」

 その茜の答えは事実だったが、模擬戦で使用する予定の無いビーム・エッジ・ソードの携行に就いては、以前の陸上防衛軍との模擬戦の際の経験を鑑(かんが)みた結果である。
 実はこの時、一時間程前から九州の北西空域で、航空防衛軍とエイリアン・ドローンが交戦状態であると報じられていたのだ。天神ヶ崎高校が所在する地域では避難指示の発令や、警戒情報等は発表されていなかったが、用心に越した事は無いと誰もが思っていた。勿論、自ら戦闘に飛び込んでいく気は、茜にも無かったが、此方(こちら)側の意に反して襲撃される可能性は否定出来なかったのだ。
 村上と、そんな会話をしている内、最大出力にセットした金子機が西向きに滑走を始め、滑走路の真ん中付近で、ふわりと空中に浮き上がるのだった。その儘(まま)上昇を続けた後、滑走路の西端を飛び越えた辺りで着陸脚を収納しつつ左旋回を始め、更に上昇して行った。続いて、緒美が操縦するレプリカ零式戦が滑走を開始する。此方(こちら)も、あっという間に軽々と地面を離れると、着陸脚を収納し乍(なが)ら、金子機を追う様に左旋回をしつつ、上昇して行った。

「それじゃ、わたし達も追い掛けますか、ブリジット。」

「うん。 HDG02 より TGZ01。これより離陸します。」

 そう通信で通告するブリジットに、金子の返事が聞こえる。

「TGZ01 了解。此方(こちら)は、上空で合流まで待機します。」

 その通信は、勿論、茜にも聞こえていて、茜はブリジットから西側へ少し離れ、村上に声を掛けた。

「敦(あっ)ちゃん、ジャンプするから、わたし達から離れててね。」

「うん、行ってらっしゃい。気を付けてね。」

 村上は胸の前へ突き出した両の掌(てのひら)を、左右に振り乍(なが)ら後退(あとずさ)りして行く。

「うん、また後でね。」

 茜は右手を挙げて振り乍(なが)ら、村上が十分(じゅうぶん)に離れたのを確認して、南側に向き直った。

「HDG01 離陸します。」

 そう、通信で通告して少し身を屈(かが)めると、茜は地面を思いっきり蹴って、直上にジャンプした。そして、スラスター・ユニットの出力を上げ、更に上昇して行くのだった。

「HDG02 離陸します。」

 茜のヘッド・ギアに、ブリジットの声が聞こえる。
 ブリジットの HDG-B01 は、飛行ユニットに因るホバリングで地表から離れると、低空での水平飛行へと遷移し、滑走路上空を西向きに進み乍(なが)ら加速して、金子機と同じ様に左旋回と上昇を始めるのだった。

 

- to be continued …-

 

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