WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第13話.09)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-09 ****


「あ、来た。 TGZ01 より、TGZ02。其方(そちら)を目視した。」

 その返事は、直ぐに返って来た。

「TGZ02 より、TGZ01。了解、此方(こちら)も視認。」

 それから間も無く、レプリカ零式戦と HDG-B01 の二機は、金子達の左側方に十分(じゅうぶん)な距離を取って、猛スピードで後方へと向かって飛び去って行ったのである。
 レプリカ零式戦と HDG-B01 の飛行速度が凡(およ)そ時速 300 キロメートル、金子機の速度は時速 186 キロメートルなので、時速 486 キロメートルの相対速度で交差した事になる。

「HDG02、もう一度、左旋回を開始しました。」

 樹里がデータ・リンクから得られる情報を告げると、立花先生は身体を右に捻(ねじ)って、後方を確認するのだった。すると、金子機の背後に回り込む様に旋回している、緑色の迷彩柄で塗装されたレプリカ零式戦の機影が見えたのである。
 その機影はどんどんと離れて、小さくなっていったのだが、或る程度、旋回が進んで金子機の右後方へ位置した辺りから、少しずつ接近して来ているのが分かった。そしてそのレプリカ零式戦の左隣には、白く輝くブリジットの HDG-B01 も確認出来たのだ。

「TGZ02 より、TGZ01。其方(そちら)の右側を通過して、高速飛行試験を続行します。」

 緒美からの通信が、聞こえて来る。

「TGZ01 了解。 HDG02、ブリジット、調子はどう?」

 金子がブリジットに声を掛けると、その返事は直ぐに戻って来る。

「HDG02、問題ありません。順調です。」

「オーケー、気を付けてね。」

「はい、ありがとうございます。」

 そうブリジットが応えて間も無く、ブリジットの HDG-B01 と緒美のレプリカ零式戦が並んで、金子機の右側方を追い抜いていったのである。その時点でブリジット達は時速 120 キロメートル以上も優速であり、高速飛行試験を続行して前方へと突き進んで行く二機は、更に加速していた。

「おー、速い、速い。」

 金子は前方へ小さくなっていく、二つの機影見送り乍(なが)ら言った。

「しかし、ブリジットは、ホント、好(い)い度胸してるね~。ほぼ身体、剥(む)き出しで、あのスピードでカッ飛んで行くのは、流石に怖いだろうに。」

 すると隣の席の立花先生が、金子に言うのだった。

「あら、金子さんでも、怖い?」

「ええ、遠慮したいですね、わたしは。こうやって操縦席に座って、操縦する方が、わたしはいいです。」

「あら、そう。 そう言えば、緒美…鬼塚さんの操縦の方(ほう)、金子さん的には、どう?」

「え? ああ、そうですね。流石にもう、危(あぶ)な気(げ)は無いですよ。去年の免許取得以降、毎月二回は、あの零式戦で飛行訓練してますから。それは新島も、ですけど。」

「そう。 ま、これから暫(しばら)く、飛行装備の試験が続く予定だから。その為に、二人には操縦免許を取って貰った訳(わけ)だけど。」

「まぁ、飛行機部(うち)も協力はしますので、必要が有ったら、声を掛けてください、立花先生。 とは言え、スピード的に付いて行けるのは、うちの学校に有るのは、あの零式戦位(ぐらい)ですけど。アレより速いのは、理事長が使ってる社用機、かな。」

「まあ、チェイス機がB号機と同じ最高速度が出る必要は無い、とは思うけど。場合によっては、理事長と加納さんにも協力して貰う事になるのかな。」

 そう言って、立花先生は「ふふ」っと笑うのだった。その後席から、樹里が提案する。

「それよりも、今回は計測機材積んで付いて来てますけど、次回からは何時(いつ)ものコンソールの方に部隊間通信仕様のアンテナを付けて、遠隔でデータ取得とかモニターする事になるんですかね?立花先生。」

「今回には機材が間に合わなかったし、念の為、何かトラブルが有っても成(な)る可(べ)く早く対応が出来る様に、って付いて来たんだけど。 手配は掛けて有るから、機材が届いたら、そうなるわね、樹里ちゃん。」

 立花先生の回答を聞いて、金子が冗談めかして言う。

「あはは、どうせ機材を積み込むなら、社用機の方が広くて、快適だよね。」

 その発言を受けて、樹里が金子に問い掛けるのだった。

「飛行機部の人達は、社用機に乗った事、有るんですか?」

「ああ、うん。流石に操縦はさせて貰えないどね。毎年、飛行機部の一年生が、体験搭乗させて貰ってるのよ。基本、うちに入部して来るのは、飛行機に興味を持ってる人だからね。」

 飛行機の操縦資格は、機種毎(ごと)に取得する必要が有るので、その機種の資格を持たない飛行機部部員が社用機の操縦をさせて貰えないのは当然である。
 それは兎も角、そんな金子の発言内容を意外に思ったのは、立花先生だった。

「あ、そんな特典が有ったんだ、飛行機部。」

「それで、新入部員を釣ってる訳(わけ)じゃ無いですよ。」

 苦笑いで、金子は答えた。
 その後、金子は思い出した様に、操縦桿のトークボタンを押し、茜に呼び掛ける。

「TGZ01 より HDG01。ほったらかしでゴメンね~天野さん。異常無い?退屈だったでしょ。」

「HDG01、異常無し、です。お気遣い無く、金子さん。」

 ここで、HDG の通信機能について、少し解説をしておく。
 HDG 間の通信・通話はデータ・リンクを利用して行っているので、所謂(いわゆる)、無線機の様に発信の際にトークボタンを押す必要が無く、電話の様に常に双方向での会話が可能なのだ。これは HDG には身体的な操縦系統が存在しないので、通話の為にトークボタンを設定しても、それを一一(いちいち)操作する事が困難であるからだ。その為、茜やブリジットが発話した音声は、全て通信に乗って相手側に聞こえている。これは、緒美がコマンド用に使用しているヘッド・セットが接続された携帯型無線機も同様で、それは HDG の個体間データ・リンクに参加して通信が出来る、特製の代物なのである。普段、樹里が必要に応じて使用している、もう一台の同仕様の携帯型無線機は、今回は金子が装着しているヘッド・セットに接続され、緒美達の会話を聞くのに使われている。
 HDG にはデータ・リンクを利用しない、通常の無線機能も装備されていて、其方(そちら)からの発信は、発話に因る音声入力で自動的に発信される機能が存在するのだが、今回はその機能は使用されていない。金子機からの発信を、受信する事のみに、HDG 側の無線機能は使用されているのだ。
 金子機内で緒美達の通信音声のモニターが行われているのは、部隊間通信仕様のデータ・リンク経由で通信データが取得され、日比野が操作している記録器機の方で音声がスピーカーから出力されている。こちら側のデータの流れは、各 HDG 間は個体間通信仕様のデータ・リンクなのだが、HDG-B01 に接続されている飛行ユニットには部隊間通信仕様のアンテナが装備されており、それと金子機機内の記録器機とがデータ・リンクを確立しているのである。茜や緒美が発話した音声データは、個体間通信仕様のデータ・リンクでブリジットの HDG-B01 が取得し、そこから飛行ユニットの部隊間通信仕様のデータ・リンクで金子機の記録器機へと渡って、モニター出力がされているのである。
 少々、説明が錯綜したので整理すると、茜とブリジット、そして緒美の間での会話は全て、金子と金子機内の三名に聞こえているが、金子機機内での会話は茜達には聞こえていない。金子からの通話が茜達に聞こえるのは、金子が操縦桿のトークボタンを押した時だけ、と言う事である。
 そして、茜の発話が続く。

「飛行中のシールドの使い方を研究してたんですが、こう、身体の下に展開しておくと、抵抗が減るって言うか、揚力が稼げるみたいなんです。」

 その発言を受けて、金子と日比野が左側後方の HDG-A01 を確認する。すると、茜は左腕に接続されているディフェンス・フィールド・シールドを腹部の下へ配置して飛行していた。その姿は、サーフボードの上に腹這(はらばい)になっている様にも、金子には見えた。
 金子は、茜に言うのだった。

「あー、リフティングボディ…にしちゃ低速過ぎるから、凧の原理、かな?」

「はい。だと、思います。模擬戦の空域に着く迄(まで)、もう少し試してみます。」

「TGZ01、了解。」

 通信を終えた金子は、隣席の立花先生に声を掛けた。

「成る程、聞いてはいましたけど、研究熱心な子ですね、天野さん。」

「あはは、でしょう?…所で、金子さん。」

「何(なん)です?立花先生。」

「ちょっと思ったのだけれど。どうして天野さんには、『さん』付け? 緒美ちゃんでさえ、『鬼塚』なのに。」

「あー、鬼塚と新島は、去年の合宿で仲良くなったから、それ以来だけど…あれ?そう言えば、『城ノ内』、『ブリジット』って呼んでたっけ。ゴメンね、ノリで呼んでたわ。」

 そう金子が言うので、後席から樹里が言うのだった。

「わたしは別に、呼び捨てで構いませんけど。金子先輩、案外、天野さんみたいなタイプ、苦手なんじゃないですか?」

 その樹里の指摘に、一度、目を丸くした金子だったが、直ぐに笑って言葉を返した。

「あはは、かも、知んない。」

 そんな具合で三十分程が過ぎて、四機は海岸線から五十キロ程の日本海沖合上空に達したのだった。

 模擬戦実施予定の空域に到達したのは午後五時二十分を回ろうかと言う頃で、太陽の高度も西へ可成り低くなっていた。この日の日没は午後六時十五分頃の見込みなので、復路の飛行時間を三十五分程度と見積もると、日没までに学校へ帰還する為には二十分程で帰路に就かねばならなかった。
 HDG-A01 と HDG-B01 との模擬空戦は、空戦機動を行い乍(なが)ら、お互いの荷電粒子ビーム・ランチャーでロックオンをする、と言う方式で行われたのである。勿論、発砲はしない。
 色々な速度域で機動する相手を捕捉する感覚を、茜とブリジットの双方が体験、確認するだけで、三回戦分の十五分が、あっと言う間に過ぎ去ったのである。四機は再び集合して編隊を組むと、南へ向かう帰路に就いたのである。
 そもそもが HDG-B01 の、長距離飛行での挙動や、連続運転その物の確認が主目的であるので、模擬空戦それ自体は『オマケ』みたいな物である。HDG-A01 が随伴(ずいはん)して来たのも、模擬空戦の相手としての役割よりも、HDG-B01 にトラブルが発生した際の対応を考えての事であり、それはつまり、三度の実戦を熟(こな)して来た茜の HDG-A01 は、それだけの信頼を得ていたと言う事なのだ。
 そして四機が帰路に就いて間も無く、唐突に事態は訪れた。

「TGZ01 より全機へ。今、交通管制から連絡が入ったんだけど…。」

 金子が、通信で全機に呼び掛ける。

「…エイリアン・ドローンの編隊が、対馬の北東辺りから能登半島の方へ向かって、高度一万六千メートル、分速 13.4 キロで接近中だそうよ。真っ直ぐ来ると、今、わたし達が居る空域の上を大体、三十分後に通過する見込みだって事で、退避指示が来たわ。 ま、わたし達は該当空域を離脱してる最中だから、この儘(まま)、学校に向かって飛行を続ける以外に無いけどね。」

 その通信に対して、緒美が応じる。

「分速 13.4 キロで三十分って事は…。」

 緒美の独白の様な通信に、金子が答える。

「エイリアン・ドローン編隊の現在位置は、ざっと四百キロ西ね。ここを通過する三十分後には、わたし達は学校に着いてる頃だから、わたし達には影響は無いわ。高度も違うし、ね。」

 続いて、茜が発言する。

「九州北部のエイリアン・ドローン防空戦、まだ続いてたんですね。」

 そして緒美が、ブリジットに指示を出すのだった。

ボードレールさん、防衛軍の戦術情報、データ・リンクから取得出来る筈(はず)よ。念の為、確認してみてちょうだい。」

「はい、やってみます。」

 ブリジットの返答を聞いて、金子機の機内では、金子が隣席の立花先生に訊(き)くのだった。

「あんな事、言ってますけど。いいんですか?立花先生。」

「大丈夫よ、正式に許可は貰ってるから。」

 立花先生は微笑んで、そう答えたのだが、それを聞いた金子は、苦笑いを浮かべて言うのだった。

「ええ~、そうなんだ。」

 それから間も無く、ブリジットの声が返って来る。

「えーっと、何か表示は出ましたけど…すみません、どう見たらいいのか…。」

 ブリジットは、所謂(いわゆる)『兵器オタク』でも『軍事オタク』でもない、普通の十代女子である。だから行き成り「防衛軍の戦術情報を見ろ」と言われても、容易に理解が出来ないのは当然だった。困惑気味のブリジットの声に、緒美は指示を茜に振り直すのだった。茜と緒美とは『その辺り』の知識レベルが、同等だったからだ。

「天野さん、あなたの方でも、戦術情報が見られるわよね?」

 戦術情報は、部隊間通信仕様のデータ・リンクで情報共有がされているのだが、部隊間通信に参加出来る機体が編隊内に存在すれば、その機体をハブとして個体間通信のデータ・リンクでも戦術情報を利用可能である。
 緒美に言われる迄(まで)もなく、戦術情報をチェックしていた茜は、ブリジットに声を掛ける。

「ブリジット、表示は戦術情報画面、TIS よね?」

 茜の言う『TIS』とは『Tactical Information Screen』の頭文字で、訳すると『戦術情報画面』である。ブリジットは答えた。

「そう、TIS 表示。」

「モードは、HSI? それとも、MAP(マップ)?」

 『HSI』とは『Horizontal Situation Indicator:水平状況表示器』で、『MAP(マップ)』は文字通り『地図』の事だ。

「えーと、HSI モード。」

「HSI だと、表示の中心が自分で、自分が向いてる方向が上になるわ。今、わたし達は南向きに飛んでるから、画面表示の上が南で、下が北になるの。表示の右上に、倍率のスライダーが有るから、それで情報を見られる範囲が調節出来るけど…位置関係を確認するなら、『MAP(マップ)』モードの方が理解し易いから、モードを変えて。」

 ブリジットは茜のアドバイスに従って、ヘッド・ギアのスクリーンに表示されている TIS のモードを、『MAP(マップ)』へと変更する。

「『MAP(マップ)』へ変更したわ、茜。」

「オーケー、先(ま)ず、画面の中央付近に赤い丸のシンボルがあるでしょ?それが自分よ。HSI モードと同じで、右上にスケール調整スライダーが有るから、倍率を下げて広い範囲が見える様に、対馬の辺り迄(まで)、表示される様に調整してみて。」

 ブリジットは、茜の指示通りに、表示を調整してみる。因(ちな)みに、視線に因るカーソルのコントロールと、思考制御での選択決定の組合せで、操作は行われている。

 

- to be continued …-

 

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