WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第13話.17)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-17 ****


 その時、安藤は一瞬、何を問われたのかを、理解出来なかったのだ。次の瞬間、何故、Ruby が今日起きたと云う戦闘の事を訊(き)いて来るのか?と、考えたのだが、先刻、再起動した許(ばか)りの Ruby が今日の襲撃事件の事を知っている筈(はず)は、勿論、無いのである。そして漸(ようや)く、Ruby が訊(き)いているのは、約一ヶ月前の、LMF が大破した、あの戦闘の事だと思い当たったのである。
 それから一度、浅く息を吐(は)いて、安藤は答えた。

「ああ、それなら。 心配は要らないわ、Ruby。 茜ちゃんも、皆(みんな)、無事だから。」

「そうですか、良かった。」

 Ruby の返事を聞いて、一瞬、微笑んだ安藤だったが、応答の無い携帯端末を握って、直ぐに厳しい表情に変わり、五島に告げるのだ。

「変ですね、こんなに呼んでるのに、丸で反応が無いなんて。」

「…そう、だね。主任らしくは、ないよな。」

 五島が、そう応えると、唐突に「あ。」と、日比野が声を上げ、思い当たった可能性を挙げた。

「…ひょっとして、仮眠室じゃないですか?」

 そう言われて、安藤も井上主任に云われていた事を思い出したのである。

「ああ、そう言えば。Ruby の再起動が夜中になりそうだから、その前に仮眠を取っておくとか云ってたわね、主任。」

 安藤は、携帯端末のパネルを操作して通話呼び出しを止めると、日比野の前を擦り抜けてドアへと向かう。

「ちょっと、呼びに行って来ます。」

 そう言い残すと、安藤は室外へと飛び出して行ったのだった。
 すると、Ruby が五島に尋(たず)ねるのだ。

「聡、江利佳は随分(ずいぶん)と慌てている様子ですが、どうしたのでしょう?」

 五島は、微笑んで答える。

「キミが再起動した事を、早く主任に知らせたいのさ。」

「そうですか。しかし、今のわたしは、制御出来る身体を失ってしまったので、わたしがこの場所から立ち去る心配はありませんよ?」

 その応えを聞いて、日比野が興味深そうに言う。

「へぇ、面白い事、言う様になったわね、Ruby。」

「あの子達の、教育の賜(たまもの)さ。」

 その五島の返事に、Ruby が反応する。

「わたしは事実を述べただけで、ユーモアの積もりで発言したのではありませんが?」

「解ってるよ。 例えユーモアでなくても、個性的でいい反応だと思うよ。少なくとも、俺は好きだよ、今の Ruby の会話センス。」

「それはありがとう、聡。」

「どういたしまして。 あ、そう言えば、Ruby。キミは緊急シャットダウンの前、どの辺り迄(まで)、記憶が残っている?」

 そう問い掛けて、コーヒーを一口、五島は飲んだ。問い掛けられた Ruby は、間を置く事無く回答する。

「ハイ。緊急シャットダウンのシークエンス、開始直前までの記憶が残っていますね。 わたしも、あの日一日分の記憶は消失する物と覚悟していたので、この結果には驚いています。 中間ファイルの復元は、大変な作業ではなかったですか?聡。」

「うん、まあ、キミの終了処理が適切だったのか、復元ツールの出来が予想以上に良かったのか、復元の処理中にイレギュラーは何も起きなかったし、復元処理中のログをチェックするのに手間が掛かった程度で済んだよ。 最初、緊急シャットダウンを実行したって聞いた時には、肝を冷やしたけどね。ま、結果オーライ、さ。」

 五島はニヤリと笑い、そしてもう一口、コーヒーを飲み込む。すると、笑顔で日比野が言うのだった。

Ruby も飲めるのなら、ここは、祝杯でも挙げたい所ですね。」

「全(まった)くだ。」

 日比野の提案には、五島も笑顔で同意するのだった。


 それから暫(しばら)くして、安藤が井上主任を連れて、ラボへと戻って来たのである。

「あ、主任。良く眠れましたか?」

 入室して来た井上主任に、五島が声を掛けた。井上主任は苦笑いして、声を返す。

「ゴメンね、何(なん)だか熟睡してたみたいで、携帯の音位(くらい)じゃ目が覚めなかったわ。」

「疲れてるんですよ。寝られる時に寝ておかないと、身体、壊しますよ、主任。」

「ありがとう。」

 井上主任の後ろに居た安藤が、室内に日比野の姿が無いのに気付き、五島に尋(たず)ねる。

「あれ?日比野さんは?」

「何?日比ちゃん、ここに来てたの?」

 振り向いて安藤に問い掛ける井上主任だったが、その問いには五島が答える。

「ちょっと前に、帰宅しましたよ。社内待機の指示が、解除されたんで。」

「そう、もう十時過ぎてるものね。学校(あっち)、大変だったらしいじゃない?」

「あ、聞かれてましたか?」

「詳しい事は、良く知らないけどね…ゼットちゃん、この PC、モニター走ってる?」

「はい。繋げてあります、主任。」

 井上主任は、安藤が接続していたモニター用の PC の前の席に着く。そして、Ruby に声を掛けた。

「ハァイ、Ruby。ご機嫌は如何(いかが)?」

「ハイ、麻里。又、会えて嬉しいです。」

「わたしも、貴方(あなた)が無事だったのが、何よりも嬉しいわ。」

 そう言い乍(なが)ら、井上主任は PC を操作して、Ruby の簡易な機能チェックを行う。

「機体が無くなってしまったから、リソースが不足する事は無いと思うけど…うん、機能的な異常は無い様ね。」

「動かせる身体が無いのは、何(なん)だか頼りない感覚を生じさせるものですね。これは、以前には感じなかった感覚です。 LMF の損傷(ダメージ)は、酷(ひど)かったのですか?」

「そうね。あの機体は、再起不能(スクラップ)だって聞いてるわ。」

「申し訳ありません。LMF は非常に高価な、会社の資産だったのに。その事で緒美や茜を、責めないでくださいね。」

「あははは、貴方(あなた)が無事なら、それだけでお釣りが来るのよ。 会長を始め、会社の人は誰も、LMF の事で怒ってないから、心配しないで、Ruby。」

「それなら良かった。安心しました、麻里。」

 井上主任は PC のディスプレイを見詰めていた視線を上げ、五島と安藤に向かって告げる。

「二人共、悪いんだけど、明日からの、Ruby の検査計画を作るの、手伝って貰える?三時間位(ぐらい)。 明日は一日、休んでいいから。」

 先(ま)ず、安藤が応える。

「いいんですか?明日、休んでも。」

「いいわよ。明日からの検査作業は、谷口君かサオちゃんにでも振るから。貴方(あなた)達には検査データの解析の方をお願いしたいし。」

「そう言う事でしたら。」

 そう言って、安藤は頷(うなず)いて見せた。続いて、井上主任は五島に尋(たず)ねる。

「五島さんは、大丈夫?」

「ええ、構いませんよ。そんな感じになるだろうと思って、夜食も買ってありますから。」

 五島は机の上に置いてあった、夕食後に購入して来ていた売店の紙袋を拾い上げて見せる。

「じゃあ、お願いね。」

「あ、その前に。家(うち)に連絡しておきたいんで、ちょっと出て来ますけど。」

 ズボンのポケットから携帯端末を取り出し乍(なが)ら、五島は言った。井上主任は微笑んで、言葉を返す。

「どうぞ。それじゃ、作業は十分後からって事にしましょうか。序(つい)でに、一服して来て。あ、佐和子さんに、宜しく伝えておいてね。」

「はいはい、御心配無く~。」

 五島は携帯端末のパネルを操作し乍(なが)ら、ラボから出て行ったのだ。因(ちな)みに、『佐和子さん』とは天野重工の総務部に勤務している、五島の妻の事である。彼女は一般大の卒業であるが、入社は井上主任と同期なのだった。
 五島が退室した後、今度は安藤が井上主任に声を掛ける。

「主任、わたし、ちょっとトイレに行って来ますけど~何か、飲み物とか、買って来ましょうか?」

「それじゃ、紅茶、ストレート…いや、レモンの、お願い出来る?」

「分かりました~行って来ます。」

 安藤が部屋を出て行くと、井上主任は再び PC のディスプレイへと視線を落とし、何度か表示を切り替えては、PC のキーボードを叩いた。そして、ふと顔を上げると、Ruby に問い掛けるのだ。

「そうそう、Ruby。貴方(あなた)に、訊(き)いてみたい事が有ったのだけど。」

「ハイ、何でしょうか?麻里。」

「鬼塚さんと、城ノ内さんと、それから天野さん。彼女達は、貴方(あなた)にどんな風(ふう)に接していたのかしら?」

「具体的には説明が難しい質問ですね、麻里。」

「そうね。Ruby の感じた印象基準でいいわ。正確さは求めてないから、貴方(あなた)が、どう感じているか、教えてちょうだい。」

「そうですか。質問の意図が掴(つか)めませんが、わたしの印象でいいのでしたら。」

「構わないわ。お願い、聞かせて。」

「では、最初に緒美の印象ですが。緒美とは、一番、会話をした時間が長いですが、どちらかと言えば、わたしが緒美に問い掛ける事が多かったと思います。そして、殆(ほとん)どの場合、緒美はわたしの問い掛けに回答を呉れました。答えられない質問については、それが何故、答えられないかを説明して呉れました。」

「そう。鬼塚さんとは、丸二年、一緒に居たものね。噂通り、賢い子なのね、彼女。 それじゃ、城ノ内さんは?」

「樹里は、わたしのシステムに就いての理解度が深いので、メンテナンスの支援をして呉れます。緒美とはシステムに関するお話は出来ませんが、樹里や維月となら話が出来るので助かっています。 わたしのメンテナンスに就いて、維月は樹里の手伝いをして呉れていますが、彼女は、余りわたしと、直接に関わりたくは無い様に見えます。何故でしょう?麻里。」

「ああ…維月は、わたしの仕事に関わりたくは無いのよ。わたしの迷惑になるといけないって、思ってるのかもね。」

「そうですか。麻里は、わたしが維月と関わると、迷惑ですか?」

「いいえ。維月とも仲良くして呉れたら、嬉しいわ。維月には、わたしからも、言っておくわね。」

「ありがとうございます。」

「いいのよ。じゃ、天野さんに就いて、聞かせて。」

「茜は、沢山、わたしに話し掛けて呉れます。茜の問い掛けに対する回答を考えると、多くの新しい思考上の発見が得られます。それから、茜には身体の動かし方を、多く学びました。それなのに、LMF を上手く扱えなかった事は、とても残念です。」

「そう。貴方(あなた)が LMF を失った時の事は、報告書で読んだわ。あの時、Ruby は天野さんを護りたかったのね?」

「ハイ。LMF の損傷(ダメージ)はパーツを交換すれば済みますが、茜は交換が利かないので。」

「あはは、その言い方は、ちょっと物騒だけど。まぁ、言わんとする所は、間違ってないわ。」

「ハイ。ですから緒美も、わたしの提案に賛同してくれたのだと思います。」

 そこで井上主任は、大きく息を吐(つ)き、微笑んで言ったのだ。

「大きくなったわね、Ruby。」

「ハイ、麻里。ライブラリ・ファイルの容量は、この二年間で十二倍に増加しました。」

 Ruby の返事を聞いて井上主任は「ふふっ」と笑い、続いて Ruby に問い掛ける。

「そう言う切り返しのセンスは、誰に学んだのかしらね?」

「明確に誰か、を特定は出来ませんが、自然に身に付いた受け答えです。強いて言えば、緒美と恵と直美の会話から、でしょうか?」

「そう。学校(あっち)に居て、楽しかったのね。」

「ハイ。わたしは彼女達の所へ、戻る事が出来るのでしょうか?」

「こっちでのテストが、済んだらね。」

「そうですか。楽しみです。」

 それから間も無く安藤が、続いて五島がラボへと戻って来る。そして三人は、Ruby に状態の聞き取りをしつつ、検査作業の計画を策定していったのだ。その作業は、午前二時頃まで、続いたのである。

 翌日、Ruby の検査作業に就いては、設計三課の若手二人へ指示を残し、井上主任を含む昨夜作業の三名は、休暇を取る筈(はず)だった。折(おり)しもその日は金曜日であり、会社のカレンダーに従えば、該当の三名は三連休となる筈(はず)だったのだが、昼前には井上主任が、昼過ぎには安藤と五島が相次いで出勤して来たのである。
 事情を知らない者から見れば、それは仕事中毒(ワーカホリック)的に見えるだろうが、そうではないのだ。
 顔を合わた三人は(お互い、親馬鹿だなぁ。)と、口には出さず、唯(ただ)、苦笑したのである。

 

- 第13話・了 -

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。