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Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第14話.12)

第14話・天野 茜(アマノ アカネ)とクラウディア・カルテッリエリ

**** 14-12 ****


 翌日、2072年9月29日・木曜日。本来は、この日から10月3日・月曜日迄(まで)が試験休みの予定だったのだが、先日のエイリアン・ドローン襲撃事件の発生に因り、前期期末試験の最終日が順延となってしまったのだ。
 その試験も無事に終わり、茜とブリジットが部室の在る第三格納庫へとやって来たのは、午前十一時半頃の事である。
 二人が二階に有る部室の入り口へと上がる外階段に足を掛けた時、視界の先、階段を上(のぼ)り切った踊り場に、二人の人影が有るのに気が付いたのだ。その二人が維月とクラウディアである事が判明する迄(まで)、然程(さほど)、時間は要しなかった。そして、先方も茜とブリジットが階段を上がって来る事に、直ぐに気が付いたのである。
 踊り場の手摺りに寄り掛かる様に立っている維月が、先に声を掛けて来る。

「天野さん。どうだった?手応えの程は。」

 同じペースで階段を上(のぼ)り乍(なが)ら、茜は微笑んで聞き返す。

「試験の、ですか?」

「勿論。」

「まあ大体、解答は書けたと思いますけど。維月さんは?」

「そうね。去年よりは、出来たと思うの。」

 茜は階段をほぼ上(のぼ)り切り、クラウディアにも訊(き)いてみる。

「クラウディは? どうだった?」

 部室のドア側へ背中を向け、手摺(てす)りの支柱を掴(つか)んで立っているクラウディアは、一瞬、視線を茜に向けたあと、視線を空へと向け直し、少しぶっきら棒に答える。

「アカネやイツキに、勝てたとは思えない出来ね。今回は。」

「まあ、邪魔も入ったし、さ。今回は。」

 少しだけ苦笑いで維月が、そう声を掛けると、大きな溜息を吐(つ)いて、クラウディアが言うのだ。

「気休めはいいわ、イツキ。それに、邪魔が入ったのは、最後の一教科だけじゃない。」

「まあ、そうだね~。」

 『気休め』である事を取り繕(つくろ)う事無く、素直に認める維月である。そこでブリジットが、話題を変えるべく、維月に問い掛けるのだった。

「所で、維月さん。開いてないんですか?部室。」

「そうなの。早く来過ぎちゃったね~。」

 第三格納庫のセキュリティを一手に担(にな)っていた Ruby が居なくなって以降、各ドアやシャッターの施錠制御は、旧式のカードリーダー型モジュールに交換されていたのだ。そのカードキーは、三年生達が管理しているのだが、普段なら緒美か恵が真っ先に来て居て、部室の解錠をして呉れていたのである。
 茜は二段ほど階段を降りると、踊り場に腰を下ろし、鞄を足元に置いて言った。

「取り敢えず、部長達が来るの、待ちましょうか。」

 その言葉に、一度は「そうね。」と応えた維月だったが、その直ぐあと、「あ。」と声を上げ、続けて言うのだ。

「ひょっとしたら鬼塚先輩達、お昼食べてから、こっちに来るのかも。」

 茜が足を置いているのと同じ段に、手摺(てす)りに背を向けて、それに寄り掛かる様に立っているブリジットが、維月の発言を受けて言う。

「ああー、時間的にそうかも、ですね。」

 そう言ったあと、ブリジットは視線を茜に移し、声を掛ける。

「そんな所に座ってると、汚れるよ、制服。」

「大丈夫よ、乾いてるから。それに、もう直(じき)、衣替えだしね。」

 その茜の返事を聞いて、維月が声を上げるのだ。

「そうか~もう、冬服か~。あと一月(ひとつき)は夏服でもいい感じだよね。」

「そうですか?これから段々、朝は冷えて来るんじゃないです? 昼間は、まだ暫(しばら)くジャケットは要らないでしょうけど。」

 ブリジットが維月に言葉を返すと、今度は茜がブリジットに向かって言うのだ。

「まあ、その辺りの感じ方は、個人差も有るでしょ、ブリジット。」

「そうだけどさ~。」

 そんな話をしていると、突然、クラウディアが日本語の「あ。」の様な、ドイツ語の「Ah.」の様な、何方(どちら)とも付かない発音で、声を上げたのだ。

「どうしたの?クラウディア。」

 維月が問い掛けると、クラウディアは答える。

「部長さん達。来たわよ。」

 維月とブリジットは振り向き、茜は立ち上がってブリジットの下の段へ降りて手摺(てすり)り側に移動し、眼下の歩道へと、それぞれが視線を移すのだった。クラウディアの言った通り、緒美と恵、そして直美の三名に加えて立花先生が、歩いて来るのが見える。そして、外階段に居る茜達に気付いた恵が、右手を振って見せたのである。
 そうして間も無く、外階段を上がってきた四名の内、先頭の恵が声を掛けて来るのだ。

「一年生の方が、早く終わったのかしらね、試験。」

 言い乍(なが)ら、恵はカードキーを取り出し、壁面のキーパネルにカードを翳(かざ)し、ドアを解錠した。
 続いて、立花先生が問い掛けて来た。

「貴方(あなた)達、お昼は?」

「いえ、まだですけど~。」

 そう維月が答えた時に、部室へと入って行く緒美達がそれぞれに、鞄の他に売店の紙袋を持っている事に、茜は気付いたのだ。

「先輩方は、お昼、それですか?」

 部室に入ると、中央長机の上に置かれた紙袋を指差し、茜は尋(たず)ねた。この時点で、紙袋の中身はパンとかサンドイッチの類(たぐい)であろうとは、維月を含む一年生達には見当が付いたのだ。
 茜の問い掛けには恵が、お茶の用意をし乍(なが)ら答える。

「そうよ~。」

「瑠菜達は、学食へ行ったみたいだけど。貴方達も、先に済ませて来なさい。」

 恵の返事に続いて、こちらは席に着いた直美が、紙袋を開きつつ言ったのだ。因(ちな)みに、直美が紙袋から取り出したのは、ハンバーガーである。そして、直美に続いて緒美が言うのである。

「部活の方は、お昼を済ませてからにしましょう。食事に行くなら、鞄とか、部室(ここ)に置いて行くといいわ。」

 そう言われて、維月がクラウディアに問い掛ける。

「どうする?クラウディア。」

「学食まで行くの?管理棟よ。」

 学食が遠い事に難色を示すクラウディアの声を聞いて、ブリジットは茜に言うのだ。

「だったら、売店の方が近いよね。」

「わたし達もパンとか、買って来る?」

 そんな遣り取りに、立花先生は言うのだった。

「その辺りは、お好きになさい。時間は有るんだから。」

「パン、買って来るのなら、紅茶を用意しておいてあげるわよ。」

 緒美達の紅茶を淹(い)れ乍(なが)ら、茜達に恵が提案するのだった。そんな恵に、直美が声を掛ける。

「あ、わたし、コーヒーの方がいいな。」

「だったら、自分で淹(い)れなさい。」

 透(す)かさず緒美が、直美へ声を返す。それが特段に厳しい語感ではなかったので、緒美の言を恵は気に留めず、立花先生に尋(たず)ねるのだ。

「先生も、コーヒーがいいですか?」

「うん。 あ、自分でやるよ?」

「いいです、いいです。任せてください。好きでやってるんですから~。」

 不思議と楽し気(げ)に動き回る恵へ、直美が声を掛けるのだった。

「何時(いつ)も、すまないねぇ。」

「あはは、何言ってるの。」

 笑い飛ばす恵の様子には緒美も、くすりと笑うのだった。
 一方で茜は、ブリジットに提案するのだ。

「それじゃ、わたし達は、学食へ行こうか。」

「そうね、急がなくていいなら。」

 そして茜とブリジットは、それぞれの鞄を部室の隅へと置くのだった。
 そんな二人に、恵は声を掛けるのだ。

「部長の言った事は、気にしなくていいのよ、茜ちゃん。」

 恵は、緒美が直美に対して言った事で、一年生達が自分に遠慮したのでは?と、受け取ったのである。
 慌てて茜は、それを否定する。

「ああ、そう言う事じゃないです。自由意志による決定ですから。時間が有るなら、学食で落ち着いて食べたいな、って。」

「そう? なら、いいけど。」

「クラウディアと維月さんは、どうします?」

 茜は、ダメ元でクラウディアも誘ってみたのだ。それに対して、維月は敢えて、判断をクラウディアに委(ゆだ)ねるのだった。

「どうする?わたしは、どっちでもいいけど。」

「それじゃ、わたし達も行きましょうか。学食。」

 ほぼ即答だったクラウディアの返事を聞いて、維月は微笑んで視線を茜へと送るのだった。それに対して、茜は口角を引き上げて見せ、返事としたのである。頭上で交わされる、そんな遣り取りの気配を察知したクラウディアは、維月に向かって言うのだ。

「何よ、イツキ。文句でも有る?」

「無い、無い。何も、言ってないでしょ? さあ、学食へ行こう、行こう。」

 維月は笑顔を崩さず、クラウディアの背中を優しく叩いたのだ。
 そうして一年生達四名は、クラウディア、維月、ブリジットの順で部室から出て行き、最後に茜が部室内の緒美に声を掛ける。

「それでは部長、昼食、行って来ます。」

「はい、ごゆっくり。部活は、午後一時からって事でいいから。 瑠菜さん達に会えたら、伝えておいて。」

「分かりました。」

 緒美に返事をして、茜は静かにドアを閉めた。それから間も無く、四人が外階段を降りて行く足音が聞こえ、それも段々と小さくなっていく。そして最初に口を開いたのは、直美だった。

「何か、気を遣わせちゃったかな?」

「大丈夫でしょ、気にする程の事じゃないわ。」

 そう言って、立花先生はサンドイッチを口へと運ぶ。
 立花先生と直美にコーヒーを出し終えた恵が、緒美の隣の席に着き、緒美に話し掛けるのだ。

「それよりも、カルテッリエリさんが、天野さんと一緒に昼食へ行ったのは、進歩じゃない?」

「それは井上さんが一緒だからじゃないの?」

 そう言い乍(なが)ら、緒美は紙袋から小振りなメロンパンを一つ、取り出すのだった。その一方で、ハンバーガーをほぼ食べ終えたていた直美が緒美に対して反論する。

「いやいや、以前だったら、それでも一緒には行かなかったんじゃない?」

「まあ、何にしても、色々と落ち着いて呉れたのなら、いい事だわ。」

 そう言って、緒美はメロンパンを一囓(かじ)りする。緒美の発言に対して、恵は野菜サラダが挟まれたコッペパンを紙袋から取り出しつつ、コメントするのだ。

「前の、理事長室の時の様子には、ビックリだったものね。」

「それを言ったら、天野の方の話もさ。予(あらかじ)めブリジットから事情は聞いていたけど…何て言うか、あんな裏事情なんて、想像もしないじゃない?」

 ハンバーガーの包み紙を丸めて紙袋へ入れると、直美はコーヒーのカップへと手を伸ばした。
 そして、直美に続いて、立花先生が言うのだ。

「何方(どちら)にしても、あの子達に非が有った訳(わけ)じゃなくて。単に、巻き込まれただけなんだから、二人共、何て言うか、いい方向へ向かって貰いたいわよね。」

「その点、天野は心配無いんじゃないですか?そもそも、気にしてなかった様子ですし。」

 コーヒーを一口飲んで直美が言うと、紅茶に口を付けていた緒美が一言、疑問を呈する。

「そうかしら?」

「そうよね~普通なら、人間不信にでもなりそうな事件だものね。」

 緒美に続いて恵が所感を述べると、それに対して立花先生が応えるのだ。

「そりゃ勿論、天野さんだって傷付いたでしょうけど。 理事長や校長の見解に拠ると、天野さんが剣道をやっていたのがプラスに働いたんだろうって。でも、幾らスポーツやってても、グレる人はグレるんだから。最終的には、本人の資質次第な気はするわよね。 あとは、ブリジットちゃんの存在が大きいのかしら?茜ちゃんの場合。」

「何方(どちら)かと言うと、そっちの方が影響は大きかったんじゃないですか? 何か有った時、大事ですよ。友達の存在って。」

 緒美は、そう言って恵へと視線を送る。それに気付いた恵は、黙って微笑みを返すのだった。
 緒美の過去に就いての事情を恵から聞かされていた立花先生には、その言葉が自身の体験から出た言葉なのだと直感した。だが、その事情を知らない直美には、発せられた言葉以上の意味は届かなかったのである。
 そして直美が、言うのだ。

「それじゃ、その友達を亡くしちゃった、クラウディアの方が悲惨って事?」

「だからこその、彼女の、あの時の取り乱し様(よう)、でしょ?」

 緒美に指摘されて、直美は返す言葉が見付けられず、唯(ただ)、溜息を吐(つ)いたのである。
 そして、恵が言ったのだ。

「まあ、今は大丈夫でしょ。井上さんや、城ノ内さんが居るから、カルテッリエリさんには。」

「そうね。しかし、井上さんをクラウディアちゃんと同室にした采配は、見事としか言えないわね。誰が決めたのかは知らないけど。」

 コーヒーを一口飲んで、そう言った立花先生に、直美が言うのだ。

「それだって、もしも去年、井上が病気になってなかったら、井上とクラウディアは学年が違った訳(わけ)だからさ。四月の頃のクラウディアを、他の一年生がコントロール出来たとは思えないし。 偶然ってのは、なかなかに怖いものだよね。」

「そう言う話なら、例えば、もしも講師役に派遣されて来たのが立花先生じゃなかったら、緒美ちゃんの個人的な研究が本社に取り上げられる事は無かったでしょうし、もしも今年の一年生に天野さんが居なかったら、今頃、わたし達は生きてないかもよ?」

 直美の発言を受けて、恵は『もしも』の可能性を列挙するのだった。それには、何時(いつ)も冷静な緒美も苦笑いを浮かべ、所感を漏らすのだ。

「怖いわね、確かに。」

 そんな遣り取りを、立花先生が評して言うのだった

「過去に向かって『もしも』を使うのは、大して意味の有る事じゃないわ。『もしも』は、未来に向かって使うものよ。」

 それは何気無く、立花先生の口を衝(つ)いて出た言葉だったのだが、緒美達三人の記憶には、深く残る言葉となったのである。

 

- 第14話・了 -

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。