WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第15話.01)

第15話・ブリジット・ボードレールと天野 茜(アマノ アカネ)

**** 15-01 ****


 2072年9月30日・金曜日。前期期末試験の最終日、その翌日である。
 試験期間中は休止していた各部活動も、試験期間が終了した前日の放課後より、それぞれの活動が再開されていた。一方で各学年の昼間の授業は『試験休み』の扱いとなり、本来は土日を挟んで平日の三日間、つまり 9月29日の木曜日から 10月1日の月曜日までの間が『試験休み』の予定だったのだ。だが、試験の最終日が一日ずれた事に因り、この 30日からが『試験休み』の扱いとなったのである。しかし 10月2日の火曜日から授業が再開される予定が変わる事はなく、『試験休み』の期間が一日減じてしまった、その皺寄(しわよ)せは教職員へと向かい、土日の何方(どちら)かで休日出勤をして試験の採点などの事務処理をする事で日程の変更は吸収されたのだった。
 因(ちな)みに、学校側のカレンダーとしては、後期の開始は 10月6日の木曜日とされており、制服の冬服への切り替えも、その日に合わせて行われるのが通例なのだった。但し、前期の終業式とか、後期の始業式の様な学校側の式典は、何も無いのが天神ヶ﨑高校の流儀なのである。『試験休み』が終わると、通常通りに淡々と授業が実施されるのだ。

 この日の兵器開発部の活動としては、HDG-A01 用航空戦闘能力拡張装備である AMF(Aerial Mobile Frame:空中機動フレーム)の搬入作業が、いよいよ実施される予定だった。これは元々が、この日に予定されていたもので、試験の最終日が一日ずれ込んだ影響で、この日に順延された訳(わけ)ではない。
 天野重工からは AMF の受け入れ準備の為に、例によって畑中達、試作部の人員が工具や資材を積載したトランスポーターで、前日の夕方に天神ヶ﨑高校へと移動して来ていた。その陸路移動組の荷物の中には、HDG-B01 用の拡張装備である『レールガン』が含まれており、試作工場から空路で移動して来る HDG-A01 と AMF が到着する迄(まで)の午前中の間に、畑中達は HDG-B01 の飛行ユニットへの『レールガン』取り付け作業を開始していたのである。
 AMF の飛行試験は月曜日、10月3日に予定されているのだが、その映像記録の為にチェイス機として使用する天神ヶ﨑高校のレプリカ零式戦や、飛行機部所属の軽飛行機に、それぞれ撮影用の器材を取り付ける作業や、当の AMF のセットアップ調整等、出張で来校している畑中達には土曜日も日曜日も関係の無いスケジュールが組まれていた。勿論、この出張が終われば、代休が取得出来るのではあるが。
 この時、兵器開発部のメンバーは、と言うと。受け取る器材に関する取り扱いに就いてのレクチャー受けたり、畑中達の『レールガン』取り付け作業の補助をして注意点の説明を受けたり、実際の物品と受領品目録とを突き合わせて確認をしたりと、分担して朝から忙しく動き回っていたのだった。

「折角(せっかく)の試験休みなのに、ゆっくり朝寝坊も出来ないなんて、運動部みたいよね。」

 そう、ぼやいていたのは瑠菜だったのだが、それには直美が「動いた分は手当が付くんだから、運動部よりは優(まし)でしょ。」と、そう言って笑うのだった。

 第三格納庫で朝八時から、それぞれが作業を始めて二時間程が経過し、受領品目録の現物チェックを終えた緒美が腰を伸ばし乍(なが)ら、同じく作業をしていた恵に声を掛けた。

「そろそろ、AMF が到着する時間よね。」

「予定通りなら。」

「遅れるって情報は来て無いっぽいから、予定通りじゃないかしら。」

 緒美と恵の二人は、解放されている南側の大扉の方へと歩き出す。二人が向かった方向では、天野理事長と前園先生、そして実松(サネマツ)課長の三人が、毎度の如く何やら立ち話をしているのだった。
 緒美が近寄って来るのに気付いた前園先生が、彼女に声を掛けて来る。

「鬼塚君、検品は終わりかい?」

「はい、前園先生。」

 笑顔で応えた緒美は、実松課長に問い掛けるのだ。

「実松課長、AMF の到着、遅延の情報は無いですよね?」

「ああ、聞いとらんよ。そう言えば、そろそろ、か。」

 五人は格納庫の外へと歩いて出ると、良く晴れた空を見上げる。そして間も無く、東の空からジェット機のエンジン音が聞こえて来るのだった。天野理事長が、声を上げる。

「おう、来たみたいだぞ。定刻だな。」

 暫(しばら)くは音が聞こえるのみで、機影は見えなかったのだが、一分もしない内に二機のジェット機が目視できる様になる。並んで飛んでいる二機は、東側から学校の上空へと接近して来るのだが、向かって左側の、F-9戦闘機と同様の前進翼の機影が AMF である。その右隣の機体は随伴機として飛来した天野重工所有の社用機で、天野理事長が移動に使用しているのと同型機である。
 天野重工は同型の社用機を四機、保有しており、その内の二機が天神ヶ﨑高校に、残りの二機が東京の飛行場に配置され、本社総務部に所属する飛行課に依って運用されている。天神ヶ﨑高校と東京の飛行場と、何方(どちら)も一機は予備機の扱いだが、各機体の飛行時間が極端に偏らないよう、定期的に機体を入れ替えて運用されているのだ。天神ヶ﨑高校に配置されている機体が、主に天野理事長の移動に使用されているのは周知の通りだが、必要に応じて航空機事業の業務での、試験飛行の随伴機を務めたりもするのだ。
 AMF と随伴機の二機は、滑走路の上空を五百メートル程の高度で西へと通過し、南へと旋回し乍(なが)ら更に高度を落としていった。ここで『滑走路の上空五百メートル』とは、海抜高度や、開けた市街地に対する高度ではない事に注意をされたい。それは天神ヶ﨑高校の敷地が、山の中腹に所在するからだ。
 高度と速度を落とし乍(なが)ら、滑走路の南側上空を東向きに通過する AMF は着陸脚を展開する。そして滑走路の東端方向へ回り込む様に、大きく旋回して AMF は着陸態勢に入るのだった。随伴機は AMF の左後方、つまり南側を少し上に位置して、速度を合わせて AMF を追跡し、監視を続けている。

「あれ、自動操縦で飛んでるのよね?」

 恵が、不思議そうに緒美に問い掛けた。緒美は微笑んで、恵に応える。

「大丈夫よ。いざとなったら、チェイス機の方から操縦出来る仕掛けだそうだから。」

 その会話を聞いて、実松課長が振り向いて言うのだ。

「試作工場の方で、何度も離着陸の試験はやって有るから。心配は要らないよ。」

「それは聞いてますけど、この目で見る迄(まで)は実感が持てなくて。」

 申し訳無さそうに恵が言葉を返すと、「ははは、そりゃあ仕方無いな。」と笑って、実松課長は前を向くのだった。
 そして、その時、格納庫中に居た筈(はず)の全員が大扉の方に出て来ていた事に、緒美は気付いたのだ。
 一方で、AMF は順調に高度を落とし、滑走路の東端に接近して来る。時折、機体を『ゆらり』と揺らすのだが、概(おおむ)ねはスムーズにアプローチを続けるのだった。機首を持ち上げた姿勢で滑走路の東端上空を通過すると、間も無く着陸脚が路面に接地し、バウンドする事無く機首を降ろすと直ぐに AMF は逆噴射(スラスト・リバーサー)を作動させた。滑走路上で急減速する AMF を上空の随伴機が追い越して飛び去ると、AMF は滑走路の中央を過ぎた辺りで、ほぼ停止したのだった。
 それは、そこで完全に静止した訳(わけ)ではない。再び推力を上げて滑走路の南端まで進むと、右折して誘導路へと入り、随伴機の為に滑走路を空けて、AMF 自身は格納庫前の駐機場へと誘導路を自力で進んで行くのだ。

「完璧な着陸だったんじゃない? あれで自動操縦?」

 何時(いつ)の間にか緒美の右隣に来て居たのは、飛行機部部長の金子である。その声に驚いたのは、声を掛けられた緒美ではなく、緒美の左隣に立っていた恵の方だった。

「金子さん、何時(いつ)から居たの?」

「んふふ~わたしがこんな面白そうなイベント、見逃す筈(はず)ないじゃない?」

 無邪気に答える金子に、緒美が冷静に言葉を返す。

「ないじゃない?って云われても知らないわ、そんなの。」

「相変わらず、鬼塚はつれないよなぁ~。」

 そう言って苦笑いする金子は、今度は前方に立っている前園先生に声を掛けるのだ。

「前園先生、飛行機(うちの)部にもジェット機、何とかなりませんか? F-9 とか。」

「無茶言うんじゃないよ、金子君。」

 振り向いた前園先生は、半笑いで応えるのだった。そこで天野理事長が振り向き、金子に向かって言うのだ。

「飛行機部に F-9 を渡すのは無理だが、それに近い事が先先(さきざき)、起きるかもしれんから。まぁ、楽しみにておくと良いよ、金子君。」

 その言葉に反応したのは、緒美の方が早かった。

「どう言う事でしょうか?理事長。」

 天野理事長は無邪気に笑って、言った。

「あははは、今は、まだ秘密だ。鬼塚君も楽しみにしてて呉れ。」

「何だか良く分からないですけど、信じちゃいますよ、理事長!」

 弾んだ声で金子がそう言うと、天野理事長はもう一度「ははは。」と笑うのだった。
 そんな折(おり)、先程、滑走路上空を通過した随伴機が旋回して東側へと戻り、今度は着陸態勢を取って滑走路へと降りて来る。随伴機も特に危な気(げ)の無いスムーズな着陸を披露すると、AMF を追う様に誘導路から駐機場へと移動して行くのだった。
 そこで前園先生が振り向き、金子に尋ねるのだ。

「金子君、今の随伴機の方、着陸はどうだった?」

「今のですか?悪くはないですけど…何時(いつ)も見てる加納さんのに比べると、見劣りはしますよね。」

 その金子のコメントには、驚いて天野理事長が聞き返す。

「ほう、分かるのかい?」

「勿論、風の具合とかにも因りますけど。加納さんの場合、アプローチでもう少し、ギリギリまで減速してますし、だからもっと手前で接地して、制動距離も短いですよね。 先に降りて来た、自動操縦って云われてた機体の方が、加納さんっぽかった気がします。」

「そうか。成る程な。」

 満面の笑顔で天野理事長が応えると、前園先生も笑って「流石、飛行機部部長だな、金子君。」と声を掛けて来るのだった。そこで透(す)かさず、金子は卒業後の配属先に就いてアピールをするのだ。

「わたし、卒業後には、総務部飛行課配属を希望してますので、宜しくお願いします!理事長。」

 それには苦笑いで、天野理事長は言葉を返すのだった。

「わたしの一存で、人事がどうこうは、ならないがね。ま、キミなら心配しなくても、希望通りにいくんじゃないかな。」

 続いて、前園先生。

「学校として、推薦状は書いてやるから。だから、ちゃんと卒業できるように、単位だけは絶対に落とすんじゃないぞ、金子君。」

「はい。それは、勿論。」

 ニヤリと笑って、金子は答えた。
 そんな遣り取りをしている間に、AMF と随伴機は誘導路を通過して格納庫前の駐機エリアへと移動して来るのだ。
 随伴機は第二格納庫の前で停止して胴体のドアを開き、機内から数人の乗客が降りているのが、少し遠くに見える。
 一方で、AMF は第三格納庫の前へと、ゆっくりと進んで来るのだ。緒美達の背後では、南側の大扉が更に大きく開けられる音が響き、畑中が AMF 到着の見物人達に声を掛けるのである。

「すいませーん、AMF は、その儘(まま)、格納庫(ハンガー)に入りますから、道を空けてくださーい。エンジンが稼働してますから、AMF の前に立つと吸い込まれますのでー。」

 目の前では、AMF が機首の向きを第三格納庫の方へと向けつつある。

「おお、マズイ、マズイ。皆(みんな)、あっちへ行こう。」

 そう実松課長が声を掛けると、一同は揃(そろ)って西側へと向かって移動を開始する。その一団に向かって、畑中が声を上げるのだ。

「瑠菜君、LMF 用に使ってた地上電源ケーブル、準備しといてー。」

「ああ、はい、畑中先輩。」

 見物人の一団の中から畑中に声を返すと、瑠菜は一団を離れて駆け足で格納庫の中へと向かった。「わたしも手伝う~。」と声を上げ、佳奈が瑠菜の後を追うのだ。
 西側へと向かう、その一団の先頭部では、先に随伴機から降りて来た五名が、天野理事長達と挨拶を交わしている。その五名とは、飯田部長と担当秘書の蒲田、理事長秘書の加納、そして開発部設計三課からの出張組である安藤と日比野の二人である。因みに、秘書の加納は珍しく飛行服を着用しているのだが、それは誰の目にも普段のスーツ姿よりは似合って見えたのだ。

「いや、ご苦労さん。AMF は道中、どうだった?」

 天野理事長に問い掛けられ、飯田部長が答える。

「離陸から、着陸まで、何の問題も無く。非常時の為に、加納さんには、ずっと待機して貰ってましたが。結局、何も手を出さずじまいでしたよ。」

「そうか、順調だったのなら、何よりだ。加納君も、ご苦労だったね。引き続き、面倒を見てやって呉れ。」

「はい。わたしが不在の間、問題は有りませんでしたか?」

「秘書業務の方は、心配しないでいい。こっちにも代わりの人員は居るんだし、秘書課の皆(みんな)は、それぞれ優秀だからな。なあ、蒲田君。」

「恐縮です、会長。」

 大人達がそんな会話をしていると、飯田部長が緒美と恵を見付け、声を掛けるのだ。

「ああ、鬼塚君、森村君、暫(しばら)くの間(あいだ)、見学させて貰うよ。宜しく頼むね、立花君も。」

 立花先生の姿も見付け、最後に付け加える様に飯田部長は言ったのだ。緒美は黙って会釈をしただけだったが、恵は「先日は、お世話になりました。」と言って微笑むのだった。『先日』とは、勿論、防衛軍との会合の時の事である。
 そして、立花先生は飯田部長の方へと歩み寄って、言った。

「しかし、ここに飯田部長がいらっしゃるのは、何か不思議な感じがしますね。」

「ははは、まあ、ここに来たのは初めてだからなぁ。」

 飯田部長が笑って応じると、前園先生が声を掛けるのだ。

「ああ、飯田君は、天神ヶ﨑に来るのは初めてだったのか。月曜日の飛行試験まで、見ていくんだろう?」

「はい、その予定です。」

 続いて、天野理事長が言うのだった。

「キミは本社(あっち)に居ると、あれやこれやと忙しいだろう? 土、日と、こっちで少し、のんびりして行くといい。蒲田君も、な。」

 そんな会話の背後を AMF が低速で通過し、格納庫の中へと入って行く。そして格納庫の中央付近まで進むと、そこで停止するのだ。AMF が自律制御でエンジンの出力をアイドル状態まで絞ったのを確認して、畑中は地上電源のケーブルを持って待機している瑠菜に声を掛ける。

「オーケー、瑠菜君、地上電源の接続を頼む。プラグはこっちだから~。」

 畑中は AMF の後方から左主翼の付け根付近の下へと駆け寄ると、手際良くアクセス・パネルを開いて見せる。

「あ、まだエンジン、回ってるから。インテークの前は通らないでね。」

「は~い。」

 瑠菜と佳奈は、電源ケーブルを引き摺(ず)って、機体の側方から畑中の居る位置へと近付くと、開かれたアクセス・パネルの中を確認して、そこに設置されたソケットに電源ケーブル先端のプラグを接続し、ロックした。

「地上電源、接続しました~。」

 瑠菜が確認の声を上げると、それに AMF に搭載された AI が応えるのだ。

「外部電源、接続確認。制御電源を外部入力に移行し、メイン・エンジンを停止します。」

 その合成音声を聞いて、瑠菜と佳奈は一瞬、顔を見合わせるのだった。それは、その声に聞き覚えが有ったからで、だから次の瞬間、瑠菜と佳奈の二人は声を揃えて、その声の主に問い掛けたのだ。

Ruby!?」

「ハイ、その声は、瑠菜と佳奈、ですね。お久し振りです。」

 そう応じると間も無く、AMF の左右のエンジンが相次いで停止され、格納庫内は一転して静かになったのだった。そこに再び、Ruby の合成音声が響く。

「先程から、第三格納庫のセキュリティ・システムにアクセスしているのですが、ネットワークに接続が出来ません。建屋側のサブ・コントローラーがダウンしていませんか?」

「ちょっと待って、Ruby。」

 そう答えた瑠菜は AMF の主翼下面から機体後方へと出て、大扉の方から中へと歩いて来る一団の中の、緒美に向かって声を上げたのだ。

「部長ー。これ、Ruby ですー。」

 

- to be continued …-

 

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