WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第15話.04)

第15話・ブリジット・ボードレールと天野 茜(アマノ アカネ)

**** 15-04 ****


 徒歩で学食の在る管理棟へと向かった兵器開発部メンバーと立花先生とは別に、天野理事長や本社からの出張組は南側の大扉から外へ出て、自動車で管理棟へと向かったのだった。これは、作業服姿の大人が大勢、校内をゾロゾロと移動するのはどうか、と言う懸念への対策であり、それ以上の理由は無い。
 そんな訳(わけ)で、一足先に学食に到着した本社出張組一同は、成(な)る可(べ)く端のテーブルに着いたのだ。
 一番奥のテーブルの、一番奥の席に天野理事長が座り、その隣に前園先生、そして実松課長が、天野理事長の向かい側に飯田部長が、その隣に理事長秘書の加納、そして現場リーダーの畑中と言う席順である。これは正直言って、二十六歳の畑中に取っては貧乏籤(くじ)だった。会長とその担当秘書、事業統括部部長に、学生時代の恩師、そして伝説的な設計課長、そんな面々と同席しての食事では、何を食べても味なんか分からなかったのだ。
 畑中の背後の席には、飯田部長の担当秘書である蒲田に、開発部設計三課の安藤や日比野、同じく試作部の大塚に、婚約者である倉森らが居たので、出来れば其方(そちら)のテーブルの方が、どんなに気楽だったろうか。兎に角、早く食事を済ませ、早早(そうそう)に席を立って第三格納庫に戻ろうかと考えもしたが、実際にはなかなか、そうもいかないのである。
 そんな中、天野理事長が加納に尋ねるのだ。

「それで、茜は見込みが有りそうかね?加納君。」

 加納は食事の手を止め、答える。

「茜さんが直接、AMF の操縦をする訳(わけ)でもありませんので、恐怖感が強くないのなら、問題は無いかと。正直、もう少し怖がるものかと、最初は思っていたのですが。想像以上に肝(きも)の据(す)わった、と言いますか度胸が有ると言いますか。何とも、凄いお嬢さんですね、としか。はい。」

 すると、飯田部長が笑って言うのだ。

「あははは、そりゃそうだ。幾ら HDG を装備してるからって、単身でエイリアン・ドローンに斬り掛かって行くんだから、度胸が無い訳(わけ)がないですな。」

 これは飯田部長の思い違いで、厳密には茜から斬り掛かって行った事は、実戦の中では無い。茜が BES(ベス)でエイリアン・ドローンを斬り伏せたのは、全て向こうが斬り掛かって来たのを返り討ちにしたケースなのである。緒美がこの席に居れば、そんな細かい突っ込みもしただろうが、幸か不幸か、この席には、そんな切り返しの出来る者(もの)は居なかった。
 そして、今度は前園先生が加納に尋(たず)ねる。

「ここへの着陸は、そんなに度胸が要るものですか?加納さん。」

「ええ、それは、もう。大人のパイロットだって、初めてここに降りるとなったら、可成り怖いですよ。ウチの飛行課の者(もの)にだって、ここに来るのを嫌がる者(もの)は居ますからね。兎に角、回数降りて、慣らさないと。」

 そんな加納の答えに、心配になった天野理事長が言うのだ。

「それじゃ、三十分や一時間程度のシミュレーションじゃ、安心出来ないんじゃないかね?加納君。」

「ああ、いえ。AMF に限って言えば、問題無いと思います。アレの操縦を実際にやってるのは、Ruby の方ですから。寧(むし)ろ、HDG の方からは、細かい操作自体が不可能な仕様ですからね。」

「どう言う事です?それは。」

 前園先生の問い掛けに、加納は振り向いて、背後の席に居る安藤に声を掛けるのだ。

「安藤さん、ちょっと伺(うかが)いたいのですが、宜しいですか?」

「あ、はい、はい。 何でしょう。」

 安藤は不意に呼び掛けられ、慌てて応じる。

Ruby の現在の仕様で、仮にですよ。 HDG の装着者(ドライバー)が、例えば山に激突する、自殺的な飛行コースを思考制御で入力したら、AMF の飛行制御はどうなります?」

「あー…。」

 安藤は暫(しばら)く考えて、答える。

「…その場合、Ruby は山に衝突しない飛行経路に、補正して制御する筈(はず)ですね、はい。」

「意図的に、制御不能な姿勢を取る様に思考したら?」

「それも、Ruby が制御出来る範囲に収まる様、補正します。」

「それでは、故障や破損で Ruby でも機体の制御が不可能になったら?」

「その時は、HDG に飛行ユニットを接続し直して切り離し、HDG の単独飛行に切り替えます。その為に、AMF には HDG の飛行ユニットが格納出来る仕様になってますから。」

「分かりました。ありがとうございます。」

 小さく頭を下げると、加納は向き直り、前園先生に向かって言うのだ。

「そんな訳(わけ)ですので、HDG の装着者(ドライバー)は AMF の操縦に慣熟する必要は有りませんし、意図的に墜落させる事すら出来ません。」

「何ともはや、そうなるともう、人が乗ってる意味が分かりませんな。」

 その前園先生の所感に、加納はニヤリと笑って言う。

「そんな事はありません。装着者(ドライバー)は操縦操作から解放されて、もっと戦術的な、或いは戦略的な思考に専念出来るんですよ。どんな速度や高度で、どんなルートを取って、敵に対してどの位置に自(みずか)らを置いて、どう仕掛けるか、どう躱(かわ)すか、そんな事を、ですね。」

 そして実松課長が発言する。

Ruby を上手(じょうず)に使えば、今は実現してない航空機の完全自動操縦、可能になるんじゃないの?飯田部長。」

 続いて、前園先生である。

「あははは、そうなったら、飛行機の操縦士は、皆(みんな)失業してしまうな。」

 それには加納は何も答えず、静かに笑ったのみだった。その一方で、飯田部長が言うのだ。

「いや、今のコストじゃ、人を雇った方が安いんですよ。割に合いません。」

「そうなんですか?理事長。」

 問い掛ける前園先生に、苦笑いで天野理事長は答える。

「そうなんだよ。 まあ、そう言った事の為に、開発をしている訳(わけ)でもないのでね。」

「アレを何に使う積もりなのか、それは聞いてはいけないのでしたね。」

 残念そうに前園先生が言うと、天野理事長は大きく頷(うなず)いて、言うのだ。

「済まんね。まだ当面は、機密指定の事項なんだ。 まあ、立花先生の話に因ると、鬼塚君辺りは薄々、感付いてるらしいそうなんだが。」

 その発言を聞いて、怪訝(けげん)な顔付きで飯田部長が天野理事長に尋(たず)ねる。

「会長の方から、立花君には既にお話を?」

「いいや。キミが話してないなら、立花先生が知っている筈(はず)はないさ。鬼塚君の方に就いて言えば、真っ当に理屈を積み上げていけば、我々と同じ結論に辿(たど)り着くのは、まあ『当然の帰結』だからね。鬼塚君がそれに気付いたって言うのが本当なら、それは彼女の考え方の正当性を証明している、とも言えるかな。」

「全(まった)く、末恐ろしいお嬢さんですな。」

 そう言って、飯田部長がニヤリと笑うと、前園先生が畑中に向かって笑って言うのだ。

「あははは、しっかりしないと、鬼塚君が入社したら、あっと言う間に追い抜かれるぞ、畑中君。」

 食後のお茶を飲み乍(なが)ら話を聞いていた畑中は、苦笑いを浮かべて言った。

「突然、何ですか、前園先生。 鬼塚君も茜君も、どちらも優秀ですからね、もう、覚悟してますよ。寧(むし)ろ、三十年後とか四十年後、どっちが社長になってるのか、それを楽しみにしてる位です。」

「あははは、そりゃあ、何とも気の長い話だなぁ。残念なのは、我々は、それを見届けられない事ですな、会長。」

 畑中の前に座って居る実松課長が、笑って天野理事長に言うと、彼は微笑んで応える。

「わたし等(ら)がこの世から居なくなったあとの事だ、なる様になればいいさ。まあ、もしも、そんな事になってたらの話だが、その時はキミ達の世代が、あの子達を支えてやって呉れたら嬉しいかな、畑中君。ま、先の事だ、どうなるかなんて、誰にも分からんよ。」

 畑中の前に座って居る高齢者三名は、発言者である天野理事長も含めて穏(おだ)やかに笑っているのだが、迂闊(うかつ)な事を言ってしまったと反省する畑中としては返す言葉も無く、唯(ただ)、恐縮する他無かったのである。


 一方で、第三格納庫の茜達の様子である。
 村上と九堂の両名と合流して部室で昼食を済ませた茜とブリジットだが、その折(おり)に村上と九堂には Ruby を紹介したのだ。二人共に、Ruby の概要に就いては茜から聞かされていたのだが、言葉を交わしたのは、勿論、この日が初めてだった。
 その後、四人は支度室に場所を移して茜はインナー・スーツを着直し、ブリジットも午後のシミュレーションに備えてインナー・スーツに着替え、村上と九堂も、それに立ち会ったのだ。その後、四人は揃(そろ)って格納庫フロアへと降り、村上は AMF との待望の対面を果たしたのである。
 そもそもが『戦闘機オタク』な村上である。その彼女が現用の主力戦闘機 F-9 の設計や部品を流用して創られた AMF を目にして、興奮しない訳(わけ)が無い。村上は AMF の諸元に就いて、茜と Ruby に質問を繰り返すのだが、ブリジットと九堂の二人は、そんな光景を少し離れて、微笑ましく眺(なが)めていたのである。
 それから間も無く、三年生と二年生達の兵器開発部のメンバーが、本社からの出張組の内、天神ヶ﨑高校卒業生の三名、つまり畑中、倉森、日比野と共に第三格納庫へと戻って来たのだ。その一団には勿論、一年生であるクラウディアと維月、そして立花先生も含まれている。時刻は丁度(ちょうど)、午後一時位である。

「九堂さん、村上さん、ご苦労様。お休みなのに、悪いわね。」

 外部協力者である二人に、先(ま)ずは緒美が声を掛けたのだ。
 それには、村上は振り向いて頭を下げて応じ、距離的に近かった九堂は声を返した。

「あ、いえ。楽しみにしてましたから~特に敦実が。」

 笑顔で応えた九堂の言葉に、微笑みで返す緒美である。
 一方、その一団の後方から、飛行機部会計の武東が金子と共に前へと出て、そして村上に呼び掛ける。武東は、学食で金子達と合流したのだ。

「敦実ちゃん、メンテナンスのレクチャー、始めて貰うから、こっちいらっしゃい。」

「あ、はい、先輩。それじゃ、又、あとでね、茜ちゃん。」

 村上は、武東の方へと駆け寄る。そして金子は、畑中と倉森に向かって言うのだ。

「それじゃ先輩、レクチャー始めましょうか、お願いします。」

「えーと、金子君と武東君は電気(エレキ)の方だったよね?」

 そう確認されて、武東は聞き返すのだ。

「機械(メカ)と電気(エレキ)で、グループ分けてやります?」

「ああ、いや。マニュアルが機械(メカ)と電気(エレキ)で分かれてないから。それに、お互いが何やってるか、分かった方がいいだろうし、一緒に聞いてて貰えるかな。倉森君は、それでいいかな?」

 畑中は隣に立つ、電気(エレキ)担当の倉森に聞いてみる。倉森は頷(うなず)くと、言った。

「構いませんよ。わたしもその方がいいと思います。」

「それじゃ、そう言う事で。で、機械(メカ)の方の参加者は…。」

「はい。九堂です、宜しくお願いします。」

「村上です。あの、もうマニュアルが出来てるんですか?」

 目を輝かせて訊(き)いて来る村上の迫力に、少し引き気味に畑中は答えた。

「あーいや、マニュアルって言っても、F-9 のを手直しした程度の物だけどね。通常の点検作業に関しては、共通の項目が多いから。」

「成る程。」

 少し大袈裟(おおげさ)に頷(うなず)いてみせると、村上は眼鏡のブリッジ部を右手の人差し指で押し上げ、眼鏡の位置を直した。それとほぼ同時に、瑠菜が声を上げるのだ。

「あの、わたし達も一応、参加させてください、畑中先輩。」

「おー、はいはい。瑠菜君と古寺君…とすると、合計で六名、って事かな。」

 そこへ、南側の大扉の方から、畑中に呼び掛ける声が聞こえて来るのだった。

「おーい、畑中君。」

 その場の一同が、声の方へと視線を向けると、繋ぎの作業服姿の男性が三名、歩いて来ていた。真っ先に反応したのは、飛行機部部長の金子である。

「ああ、藤元さん。ご苦労様です。並木さん、片平さんも。」

「何か、ご用ですか?藤元さん。」

 畑中は、三人の中で一番年配の藤元に尋(たず)ねる。因(ちな)みに、藤元は四十代前半、並木は三十代後半、片平は二十代後半で、畑中と同年代なのは片平のみである。
 彼等(ら)は学校の職員ではなく、学校に常駐している天野重工の社員なのだが、社有機の整備と管理が主たる業務なのだ。彼等の職場は社有機が保管されている第二格納庫なのだが、飛行機整備の専門職なので、第一格納庫の飛行機部が管理する機体の管理補助や、飛行機部部員に対する整備技術の指導や支援も行っており、飛行機部とは馴染みが深いのだ。
 加えて、滑走路の維持管理も一手に引き受けているので、実際の業務では整備作業よりも草刈りの時間の方が長いのだ、と言ったり言われたりする始末ではある。そんな訳(わけ)で、毎日の FOD(Foreign Object Debris)作業や、定期の草刈り作業については、飛行機部の部員達が当番を決めて応援として参加してもいた。
 FOD 作業とは、滑走路上に小石やネジ等の落下物が有ると、それらが機体に当たったり、ジェット・エンジンが吸い込む等して、損傷を引き起こす恐れが有るので、人が滑走路の端から端までを歩いて落下物の有無をチェックし、異物が落ちていれば回収する作業の事だ。当然、時間も人手も掛かるのだが、同時に、滑走路の路面状態も確認し、舗装の劣化や損傷が有れば、その補修や、或いは工事依頼等も行っているのだ。天神ヶ﨑高校での社有機運航の安全は、彼等(ら)によって支えられているのである。
 因(ちな)みに、飛行機部とは仲の良い現在の兵器開発部だったのだが、第二格納庫の面々とは、これ迄(まで)、殆(ほとん)ど面識が無かった。
 そして、藤元が畑中に答える。

「ああ、加納さんがね、午後からの AMF のメンテナンスのレクチャー、受けておいて呉ってさ。大丈夫かい?」

「あー、生徒さんと一緒で良ければ、わたしは構いませんけど。 あ、マニュアルはデータで渡しますんで、PC かタブレット端末、有ります?」

「有るよー、それも加納さんから、用意するように言われてたからね。」

「じゃ、問題無いです。…って事は合計で九名か。あはは、結構な人数になったな。」

 そこで、緒美が発言するのだった。

「それじゃ、ウチの部室、使ってください。あそこなら空調も効いてますし、一緒に Ruby もお話を聞けますし。」

 緒美の発言受けて、透(す)かさず Ruby が言葉を発するのだ。

「わたしも参加して、いいのですか?秀一。」

 『秀一』とは、畑中の事である。

「いいよ、興味が有るなら。 しかし、名前で呼ばれるのは、相変わらず、何だか『こそばゆい』な。」

「何、照(て)れてるんですか、先輩。Ruby 相手に。」

 そう微笑んで突っ込んだのは、畑中の隣に立っている婚約者の倉森である。

「だって、俺の事、名前で呼ぶのって、親位(くらい)だぜ。」

 婚約者である倉森でさえ、畑中の事は『先輩』が常なのだった。

「じゃ、今度から先輩の事、名前で呼んで差し上げましょうか?」

 微笑んでそう言った倉森に、苦笑いを返し、畑中は言うのだ。

「それこそ照(て)れるから止めて。」

「あーもう、あっついなー今日もー。」

 そう、敢えて大声を上げたのは、整備担当の片平である。この日は九月の末日(まつじつ)とは言え、まだまだ残暑が厳しかったのだが、彼が言ったのは勿論、そう言った意味ではない。畑中と同年代の片平は、妻帯者である他の先輩二名、つまり藤元と並木と違い、独身者である。
 透(す)かさず、片平の隣に居た並木が、笑って片平の背中を『バン、バン』と叩いて言うのだ。

「僻(ひが)むな、僻(ひが)むな。片平も早く、いい相手、見付けるんだな。」

 片平の発言は聞かなかった事にして、畑中は言った。

「時間が勿体無(もったいな)いんで、そろそろ始めようかと思います。それじゃ鬼塚君、部室借りるね。」

「はい、どうぞ。」

「では、参加者は上へ。」

 そう言って畑中と倉森が二階へと上がる階段へ向かうと、恵が駆け足で先回りして言うのだ。

「それじゃ、お茶位は用意しましょうか~。」

「あ、恵ちゃん。御構い無く。」

 咄嗟(とっさ)に倉森が言葉を返すのだが、恵は「大丈夫ですよ。任せてください。」と言い残し、一人で先に階段を駆け上っていったのだ。
 丁度(ちょうど)その頃、格納庫南側大扉の前に自動車が止まり、天野理事長達、偉い人組が第三格納庫に戻って来たのだった。

 

- to be continued …-

 

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