WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第15話.05)

第15話・ブリジット・ボードレールと天野 茜(アマノ アカネ)

**** 15-05 ****


「それじゃ、此方(こちら)も午後のメニューを始めましょうか。天野さん、ボードレールさん、準備、お願いね。城ノ内さん達は、モニターと記録の方を。」

 緒美の指示で、各自が、それぞれの担当器材へと向かう。AMF は第三格納庫の、ほぼ中央に駐機されており、部室の在る東端側から見て、AMF の手前側に HDG-B01 用の飛行ユニットが AMF とは逆の南向きに、更にその手前側に HDG-B01 がメンテナンス・リグに接続されて東向きに置かれている。
 AMF と HDG-B01 用の飛行ユニットとの間に長机が置かれ、その上にシミュレーションの状況をモニターする為の器材が設置されていた。
 HDG-B01 へと向かうブリジットに、そのあとを追った直美が声を掛ける。

「それじゃ、B号機のメンテナンス・リグは、わたしが操作するわ、ブリジット。」

「お願いします、副部長。」

 HDG への接続は、装着者(ドライバー)が一人では完結しない。装着完了後にメンテナンス・リグから、HDG を解放する操作がリグの側からしか出来ない仕様だからだ。普段は、その操作を瑠菜か佳奈が行っているのだが、今回は二人共が AMF のメンテナンスに関するレクチャーを受けに行って、現場に不在なのである。
 一方で茜の方は、HDG が AMF に接続された儘(まま)にしてあるので、リグからの開放操作は不要なのだ。

 HDG-B01 を装着したブリジットは、メンテナンス・リグから解放されると、飛行ユニットが接続されたリグへと歩いて移動し、自身の HDG を飛行ユニットに接続する。それらの作業も、飛行ユニットのリグを直美が操作して、行われたのである。
 定位置に立ったブリジットの HDG-B01 に対し、メンテナンス・リグに吊された飛行ユニットが降ろされ、HDG-B01 の飛行ユニット専用の背部ジョイントに飛行ユニットが接続されると、再び飛行ユニットはリグに因って吊り上げられて、シミュレーターとしての運転準備が完了する。
 HDG-B01 には、A01 と同様に Ruby とコアを同一とする AI が搭載されており、B号機の飛行ユニットにも同仕様の AI が搭載されている。何(いず)れも Ruby の様に会話する機能は有していないが、飛行ユニットに搭載された AI がB号機に対する飛行シミュレーションの機能を提供するのだ。但し、シミュレーター・ソフトの起動や細かい設定は、外部から行う必要が有る。

ボードレールさん、B01 のシミュレーター・モード起動するね。」

 ブリジットが装着しているヘッド・ギアのレシーバーから、樹里の声が聞こえて来る。

「はい。どうぞ、お願いします。」

 ブリジットが声を返すと、飛行ユニット本体へ HDG-B01 が引き上げられ、ブリジットの頭部に飛行ユニットの機体の一部が被せられる。その内側はスクリーンになっており、シミュレーションの仮想視界は、そこに投影されるのだ。現在はシミュレーター・ソフトの初期画面が表示されている。

Ruby も、AMF のシミュレーター・モード、起動して。」

「ハイ、AMF シミュレーター・モード、起動します。」

 レシーバーから、樹里と Ruby との遣り取りが、ブリジットにも聞こえて来る。ブリジットは確認の為、声を上げた。

「B01 より、通話の確認です。茜、聞こえてる?」

「此方(こちら) A01、聞こえてます。樹里さんの方は、大丈夫ですよね?」

「大丈夫、聞こえてる。 取り敢えず、設定の説明するね。離陸の部分は省略して、高度千メートルでの飛行状態から開始。A01 と B01 が二百メートルの間隔で、北向きに並んで飛行中の状態です。じゃ、実行。」

 樹里が宣言すると、ブリジットの視界がシミュレーターの設定確認画面から、空中の仮想視界に切り替わる。ブリジットは右から左へと見回して、左手側に小さく見える AMF の機影を目視したのだ。仮想 AMF は、現実の AMF とは違って、機首部分を閉鎖した航空機らしい形態で飛行をしている。
 AMF のシミュレーション情報はデータ・リンクにて HDG-B01 の飛行ユニットに送られ、同時に HDG-B01 のシミュレーション情報も Ruby に送られているので、個別に演算を実行している二機の AI が、お互いの状況を参照し乍(なが)らのシミュレーションが可能になっているのだ。

「B01、左側に A01、AMF を視認しました。」

 すると、続いて茜の声が聞こえる。

「A01、右側に B01 を視認。」

「はい、連携シミュレーションが正常に進行しているのを確認しました。引き続き、モニターを続行します。それじゃ、部長。」

 樹里に続いて、緒美の声。

「鬼塚です。予定通り、A号機、AMF とB号機とで、模擬空戦をやって貰います。合図をしたら、A号機は機首方位 270、B号機は機首方位 90 で、お互い逆方向へ十秒間飛行。それ以降は自由に機動して、先に相手の背後を取って五秒間、射程距離でロックオン状態を維持した方が勝ち、ってルールは昨日の打ち合わせの通り。いいかしら? シミュレーションだから高度とか速度とか、特に制限は設定しないわ。二人共、先(ま)ずは好きにやってみて。」

「A01、了解です。」

「B01、了解。」

 二人の返事を確認し、緒美は一呼吸置いて、模擬空戦の開始を宣言する。

「では、模擬空戦、スタート。」

 緒美の合図を受けて、シミュレーション状況を表示しているモニター上では、AMF と HDG-B01 が左右に分かれて飛んで行く様子が映し出されている。緒美は二機が逆方向へと飛行する十秒間を、カウントダウンしていく。

「10…9…8…7…。」

 逆方向、仮想空間内では AMF は西へ、HDG-B01 は東へと直進する互いの機体は、速度も高度も変える事無く飛行を続けている。

「…6…5…4…。」

 ブリジットと茜には、緒美が続けるカウントダウンが聞こえている。

「…3…2…1…0、交戦開始(エンゲージ)。」

 AMF は左へ、HDG-B01 は右へと、それぞれが旋回を始め、大きな旋回を続け乍(なが)ら、双方が接近していく。相手の背後に着く為には、取り敢えず一度、進路が交錯しなければならない。
 互いの位置はデータ・リンクで把握出来るのだが、茜からは HDG-B01 は機体が小さい為、目視では捉え辛(づら)い。HDG-B01 の飛行ユニットは全長や翼幅が、AMF に比べて四分の一程度のサイズなのだ。
 逆に、機体の大きな AMF はブリジットには視認がし易く、HDG-B01 の方が小回りが利くので、何方(どちら)かと言えば、ブリジットは自分の方が有利に思えたのだ。一方で、AMF の方が最大出力や最高速度等のスペックが上であり、加えて Ruby が周囲の状況を音声で報告して呉れるので、先程から度度(たびたび)、茜に HDG-B01 の位置を報告する Ruby の声が通信でブリジットにも聞こえていた。

(これじゃ、丸で二対一だわ…。)

 そんな風(ふう)にブリジットが思っている内、互いの進路が或る程度の距離を保った儘(まま)で交差すると、そこから AMF が一足先に機体を横転(ロール)させ、左旋回の儘(まま)で一気に、HDG-B01 の後方へと回り込んで来るのだ。
 ブリジットは自身を右へと傾け、右旋回で振り切ろうとするのだが、AMF はそれに追随しつつ距離を詰めて来るのだった。
 そこで、更に横転(ロール)させて背面飛行の状態から、ブリジットは下向きの宙返り(ループ)へと機動を移し、AMF の下側を通過して後方へと駆け上がる。AMF の後方上空で宙返り(ループ)の頂点に達した HDG-B01 は背面飛行の体勢の儘(まま)、AMF を捕捉したのだ。

「ロックオン!」

 ブリジットは音声コマンドを発して目標のロックオンを指示すると、回避機動で右へ左へと蛇行する AMF をバレル・ロールを打ち乍(なが)ら追跡する。その間、緒美が経過時間をカウントするのだ。

「…3…4…5、はい、そこ迄(まで)。第一回戦終了。」

 緒美の宣言を以(もっ)て AMF は逃走を止めると、AMF と HDG-B01 は並んで北向きへ飛行の進路を定める。

「加納さん、何かコメントは有りますか?」

 緒美が問い掛けると、茜とブリジットのレシーバーから聞こえる声が、加納に代わった。

「えー。ブリジットさん、最後の、縦機動に切り替えたのは、いい判断だと思います。」

「あ、アレはですね。前回、エイリアン・ドローンがやってたのを、真似てみたんですけど。」

 咄嗟(とっさ)に、ブリジットが言葉を返す。

「そうですか。敵の機動でも何でも、使えるものは柔軟に取り入れていっていいです。下側から後方は死角になり易いですから、そこへ簡単に潜り込まれないよう、注意が必要です。 所で、お二人共、高度は意識されてますか? 茜さん、現在の高度は?」

「えっと、現在高度は八百六十四メートル、ですね。 言われてみれば、高度は意識してなかったですね。」

 茜に続いて、ブリジットも答える。

「わたしも、意識してなかったですが…。」

「模擬空戦の開始時、高度は千メートルでしたから、約百三十メートル、高度を失ってしまいましたが。どこで高度を失ったのかは、分かりますか?」

 その加納の問い掛けに、少し考えて、茜が答えるのだ。

「…旋回?ですか。旋回する度(たび)に、少しずつ。」

「そうです。飛行機は重力と揚力、推力と抗力、それぞれのバランスで空中での挙動が決まりますから、旋回する為に単純にバンクすれば揚力の重力に対する成分が減りますから、その分、高度が下がります。旋回が始まれば抵抗も増えますから、速度も落ちます。だから飛行機の場合は、旋回中の高度を維持する意味で揚力を増やす為に、迎え角を大きくしたり、推力を上げたりとか操作するんですが、HDG の思考制御では、直接、そう言った細かい操作の指定は出来ないので、多分、高度を維持して旋回するには、水平面での旋回を意識する必要が有るのではないかと思います。」

 そこで、ブリジットが問い掛けるのだ。

「あのー加納さん。高度は維持しないといけないものなんですか?」

「ああ、はい、基本的には。高度ってのは要するに位置エネルギーで、速度は運動エネルギーです。で、この二つは相互に変換が可能なのは、ジェットコースターを考えれば分かりますよね?ブリジットさん。」

「え?あー…。」

 ブリジットが返事に詰まっていると、透(す)かさず茜が発言するのだ。

「高い位置から降りて加速し、スピードが出たら、その勢いで高い所へ上(のぼ)れる、って事ですよね。」

「あー、はいはい、分かりました。」

 茜の助言で、加納の説明の意図を理解したブリジットである。加納は説明を続ける。

「そう言う事です。ですから安易に高度を失う事は、自分の持っているエネルギーを失う事ですから、不利にしか働きません。そして失った高度を回復する為には、燃料と時間が余計に必要になりますから、そう言う事も頭に入れておいてください。 勿論、何が何でも高度を維持しなければならないと言う事ではありませんよ。加速する為に意図して下降したり、減速する為に敢えて上昇したり、そんな事は普通に有りますので。 兎に角、意味も無く高度や速度を失うと、自分自身が不利になりますから、気を付けてください。今の所、わたしからは、こんな所です。」

 そしてレシーバーからの声が、緒美の声に代わり、二回目の模擬空戦開始を告げる。

「それじゃ、加納さんのアドバイスを頭に入れつつ、第二回戦、さっきと同じ要領でやってみましょうか。いい?二人共。」

「A01、了解です。」

「B01 も了解です。」

「じゃ、第二回戦、スタート。」

 緒美の合図で、先程と同じ様に、茜とブリジットは東西に分かれて、飛行を開始する。十秒後、ブリジットは回り込む様に大きく右旋回を始めるのだが、最小半径での 180°旋回を終えた茜の AMF は、ブリジットの HDG-B01 を目掛けて加速をするのだった。
 ブリジットは対進(ヘッド・オン)を避(さ)けるように、AMF を右側に見乍(なが)ら大きな旋回を続けるが、AMF は HDG-B01 に合わせて進行方向を調整しつつ、加速し乍(なが)らの接近を続けるのだ。両機の位置関係は刻々と変化を続け、最終的には HDG-B01 の四時方向から AMF が接近する状態となったのだが、AMF の方は明らかに速度超過状態であり、あと三秒程で互いの進路が交錯するタイミングで、AMF は急上昇から宙返り(ループ)へと機動を変えたのだ。
 AMF は宙返り(ループ)で高度を上げる事で減速し、HDG-B01 の後方に占位(せんい)した。そして AMF は宙返り(ループ)の頂点位置で機体を横転(ロール)させ、HDG-B01 へ向かって降下しつつ、目標を捕捉する。

「ロックオン。」

 茜の宣言を聞いた時には、ブリジットには既に為(な)す術(すべ)は無くなっていた。後方上空から降下して来る相手には、何方(どちら)へ旋回しても五秒以内に逃げ切る事は出来そうもなかったのだ。
 間も無く、五秒間がカウントアップし、第二回戦は茜の勝利で終了した。

「これで一勝一敗よ、ブリジット。」

 ブリジットのレシーバーに、そんな茜の声が聞こえて来るので、ブリジットもニヤリと笑って言葉を返す。

「お、やる気だね。茜。」

 続いて、落ち着いた声で緒美が言うのだ。

「余り熱くなり過ぎないでね、二人共。じゃ、第三回戦目、準備して。」

 茜とブリジットは、再び高度を合わせて左右に並ぶと、進路を北へと向ける。

 そんな調子で、第十回戦迄(まで)の模擬空戦が実施され、結果は AMF と HDG-B01 とは五対五で、この模擬戦の条件では、AMF と HDG-B01 の能力は互角の様に思われたのである。
 シミュレーターでの模擬空戦開始から第十回戦目が終わった頃には、時間的には一時間強が経過していた。茜とブリジットは、それぞれが一旦(いったん) HDG を解除して、三十分間の休憩となったのだ。
 装着者(ドライバー)二人が休憩中は、ソフト担当の安藤と日比野、そして樹里や維月、クラウディアの五名が、Ruby を始め各機の AI をチェックするなど、忙しく動き回る事になるのである。

 

- to be continued …-

 

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