WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第15話.06)

第15話・ブリジット・ボードレールと天野 茜(アマノ アカネ)

**** 15-06 ****


 休憩の時間が終わると、茜とブリジットは再(ふたた)び、HDG を各自に接続してシミュレーションの再開である。
 ここからは HDG 同士での模擬空戦ではなく、仮想エイリアン・ドローンとの空中戦シミュレーションの予定となっていた。それはシミュレーター上で仮想の武装を用いての、射撃戦を想定したシミュレーションである。『射撃戦』とは言っても、エイリアン・ドローンには『飛び道具』の武装が無いので、向こうから撃って来る事は無い。だからエイリアン・ドローンの斬撃を受けないように距離を取りつつの、HDG 側からの一方的な攻撃とならなければならないのだ。
 HDG 側の制限としては、『航空機モード』の儘(まま)で応戦する、と言う制限が条件で、つまり HDG が手持ちの武装を使用しないので、射撃軸線は前方への固定となる。
 茜の AMF には胴体の固定武装として、左インテーク側面に荷電粒子ビーム砲が一門と、胴体背部に格納されたレーザー砲が一門、装備されている。AMF の背部レーザー砲は長射程用の武装なので、今回の空中戦シミュレーションで使用されるのは荷電粒子ビーム砲の一択なのだ。
 ブリジットの HDG-B01 が使用するのは本来は手持ち用の武装なのだが、それは飛行ユニットの武装用ジョイントに固定した状態でも『射撃モード』での荷電粒子ビームが発射可能で、これが固定武装として使用されるのだ。

「それじゃ、二人共。準備はいい?」

 ブリジットと茜がそれぞれ、樹里の呼び掛けに答えると、樹里は説明を続ける。

「オーケー。今回も離陸の部分は省略して、高度は千五百メートルからスタートします。エイリアン・ドローンは三機、出現するから、全機、やっつけてね。 それじゃ、シミュレーション、スタート。」

 樹里の『スタート』の声と共に、ブリジットの視界は空中の仮想視界に切り替わる。右、左と視界を確認すると、左側に茜の AMF を発見する。今度は距離が可成り近く、AMF と HDG-B01 との機体間隔は三十メートル程だろうか、AMF のその機体は相応に大きく見えるのだ。

「B01 より、左側に AMF を視認。」

 ブリジットが報告すると、直ぐに茜の声が返って来る。

「A01 より、右側の B01 を視認しました。暫(しばら)く、この編隊を維持しましょう、ブリジット。」

 続いて、茜に報告する Ruby の合成音声が聞こえる。

「前方、方位 0 に敵機を捕捉。機数、三。現在の相対速度で一分の距離です。」

「聞こえた?ブリジット。」

 茜が問い掛けて来るので、ブリジットは即答する。

「聞こえてる。早速、来たわね。真っ正面で、同高度、と。」

 そうブリジットが言うと、樹里の声が割り込んで来るのだ。

「ま、最初だから。一番、シンプルな設定よ。」

 そんな樹里の言葉に、茜が突っ込む。

「シンプル過ぎません?樹里さん。 それに、AMF には F-9 みたいに、機首に捜索レーダーは無いのに、行き成り捕捉って…あ、データ・リンクって事ですか。」

 その茜の自問自答に答えたのは、緒美である。

「そう言う事。防衛軍が捕捉した情報が、データ・リンクで回って来てると思ってちょうだい。」

 緒美は説明を省略したが、防衛軍の戦闘機や空中警戒機、或いは地上防空レーダーが捕捉した戦術情報は統合され、防衛軍のデータ・リンクで共有されるのだ。

「分かりました。 じゃ、ブリジット、AMF の方が先制を掛けるわ。荷電粒子ビーム砲の射程、こっちの方が長いから。」

「了解。一撃したら、エイリアン・ドローンは多分、左右に散開(ブレイク)するだろうから、向かって右へ逃げる奴を、わたしが追うわね。」

 ブリジットの提案に、茜が応える。

「じゃ、その線で。先頭、中央のから狙うね。もう直(す)ぐ、こっちの射程に入る。…5…4…3…。」

 茜がカウントダウンを始めると、ブリジットもズームで拡大した敵編隊の、向かって右端の一機を射程外ではあるが、ロックオンする。

「…2…1…発射。」

 瞬間、前方へ向かって青白い閃光が走ると、三機編隊の中央の一機がガクンと姿勢を崩し、そして落下して行く。間を置かず、両脇の機体は左右へと別れ、逃走を始めるのだ。
 仮想エイリアン・ドローンの反応は二人の予想通りだったが、射軸が固定された武装では自身の側方へと逃走する目標を狙う事は出来ない。HDG であれば、腕を振り、上半身を捻(ねじ)れば、真横の目標にでも追従が可能なのだが、今回は『航空機モード』で、との制限事項が存在するのだ。
 ブリジットが向かって右へと離脱した仮想エイリアン・ドローン追おうか、一瞬の間を逡巡(しゅんじゅん)していると、茜から声が掛かる。

「ブリジット、取り敢えず一度、離れるわよ。」

「え、この儘(まま)、追い掛けた方が良くない?」

「彼方(あちら)は直ぐに反転して、斬撃を仕掛けて来る筈(はず)だから。こっちとしては一度距離を置いて、目標の側面から後方に位置を取った方が、射撃はやり易いわ。此方(こちら)は接近戦をしない条件だから、わざわざ相手の間合いに入る事はないのよ。」

「了解。」

「それじゃ、速度を 12 迄(まで)加速して、十秒後に左右に分かれましょう。そのあとは各個に追撃、目標の側面から後方に回り込む感じで。 行きましょう。」

 ブリジットの左側方に位置して居た AMF は加速すると、スッと前方へと出て行く。ブリジットは先行しようとする AMF に並ぼうと、思考制御で自身も加速を指示した。
 直進し乍(なが)らもブリジットは、TIS(Tactical Information Screen :戦術情報画面)を開いて、仮想エイリアン・ドローンの動向をチェックする。茜の予想通り、自機の後方へと回った仮想エイリアン・ドローン達は、反転してブリジットと茜の編隊を追い掛けて来ていた。しかし、速度的には AMF も HDG-B01 も、エイリアン・ドローンとは能力差は無く、寧(むし)ろ、AMF の最高速度はエイリアン・ドローンのそれを凌駕(りょうが)しているので、何(いず)れにせよ両機がエイリアン・ドローンに追い付かれる心配は無かった。
 十秒後、予定通りに茜とブリジットは二手に別れ、仮想エイリアン・ドローンの側面から後方へと、大きく回り込む様に旋回を続ける。上空から見下ろして、AMF は反時計回りに、HDG-B01 は時計回りに旋回をしているのだが、仮想エイリアン・ドローンも漫然と直進を続けている訳(わけ)も無く、右へ左へと進路を変えて形勢の逆転を狙うのだ。
 何度目かの進路変更を経て、二機の仮想エイリアン・ドローンは互いに交差するように、その進路を定める。その儘(まま)、仮想エイリアン・ドローンの飛行経路が交差していれば茜が追っていた仮想エイリアン・ドローンがブリジットの後方へ、ブリジットの追っていた仮想エイリアン・ドローンが茜の後方へと達した筈(はず)だったのだが、そうなるよりも一足早く AMF が追跡していた仮想エイリアン・ドローンを、その荷電粒子ビーム砲の射程に捉えたのだった。

「追い付いた。」

 一言、呟(つぶや)いた茜は直様(すぐさま)、目標をロックオンすると荷電粒子ビームを発射する。
 仮想視界の中で射撃を受けた仮想エイリアン・ドローンが砕け散ると、ブリジットが追って来たもう一機が、鋭角に進路を変えるのだ。茜は咄嗟(とっさ)に、その残存一機に照準を合わせようとするのだが、相対速度が速過ぎた為、AMF は一旦(いったん)、残存エイリアン・ドローンの飛行経路後方を通過するのだった。茜の右方向へと飛び去ったエイリアン・ドローンは格闘戦形態へと変形する事で一気に減速し、ブリジットの HDG-B01 へと急接近を企図する。

「ブリジット!」

 レシーバーからの、茜の呼び掛けを聞く迄(まで)もなく、ブリジットは状況を把握している。まだ少し射程には遠かった目標が、その急減速に因って射程へと飛び込んで来たのだ。

「ロックオン!」

 咄嗟(とっさ)にブリジットは自機を減速させて、目標との相対速度を低く抑えつつ、荷電粒子ビームを二連射した。それは見事に命中し、仮想エイリアン・ドローンは火を噴き乍(なが)ら、ブリジットの視界の左側を通過し、そして落下して行った。
 撃破した仮想エイリアン・ドローンの行方(ゆくえ)を見送ったブリジットは、自機の姿勢を水平飛行に戻し、AMF と合流して進行方向を北へと向けたのである。

「オーケー、第一回戦終了。シミュレーションは続行しておくけど、その儘(まま)で聞いててね。 加納さん、何かコメントは有りますでしょうか?」

 緒美に続いて、加納の声が聞こえて来る。

「それでは、一点。残存二機を追うのに二手に別れたのは、対処の方法としては余りお薦め出来ません。極力、二機一組での行動を心掛けてください。」

 その言葉に、茜が問い返す。

「そうすると、敵の一機がフリーになっちゃいますけど、いいんでしょうか?」

「構いません。二機編隊の一機は攻撃に集中し、もう一機が周囲の見張りに徹すれば、フリーの敵機が接近して来ても対処出来ます。 今回は二対二になりましたが、これが二対三、二対四と敵の方が数が多かったらどうしますか? 此方(こちら)が二機編隊であれば、敵機の方が数が多くても対処は可能です。勿論、難易度は違いますけどね。」

 続いて、ブリジットが尋(たず)ねる。

「編隊って、どう位置を取ればいいんですか?加納さん。」

「リーダー、一番機に対してウィングマン、二番機は一番機の左右どちらかに百メートル程、後方にも百メートル程。高度差も十メートル程下に付けて、兎に角、二番機は一番機が自由に機動してもぶつからない位置をキープしてください。そこで、周囲の見張りを行います。リーダーは、ウィングマンと機体の性能差が有る場合、ウィングマンを引き離してしまわないように加速や機動に注意を払わなければなりません。それから、攻撃と見張りの分担は、リーダーとウィングマンとで固定されている必要はありません。状況に合わせて、柔軟に役割をスイッチして構いませんので。肝心なのは、一方が攻撃している時に、もう一方が見張りを怠(おこた)らない事ですから。」

 加納の説明が終わると、茜がポツリと言ったのである。

「常に、二対一になるように、と…。」

 その言葉に対して、加納は少し語気を強めて語ったのだ。

「お二人は共に競技者でしたから、一対一でないのは『卑怯』に感じられるかもしれませんが、『戦闘』は『試合』ではありませんので、『イコール・コンディション』である必要は微塵(みじん)も有りはしません。寧(むし)ろ自身と仲間の安全を確保する為に、可能な限り自分達が有利になるよう、状況を作るべきです。 それに、生身(なまみ)で命を賭けて対処している此方(こちら)に対して、ドローンを投入しているエイリアンの方が、そもそも百倍『卑怯』だと言えますよ。」

 今度はブリジットが、問い掛ける。

「あの、単純に疑問なんですが。エイリアン・ドローンは編隊で飛んで来ますが、一撃を加えると単機にばらけますよね。彼方(あちら)は、どうして二機一組とか、そう言う事をしないんでしょうか?」

「向こうサイドの戦術については、わたしは不勉強なので、正直(しょうじき)、お答え出来ません。その件に関しては鬼塚部長か、立花先生が研究されているのでは? 鬼塚部長に代わりますね。」

 そうして少しの間を置いて、レシーバーの声が緒美に代わったのだ。

「…あ、立花先生に代わるから、ちょっと待ってね。」

 そのあと、「え?何…。」との立花先生の声が遠くに聞こえ、「お願いします。」と言う緒美と少々の遣り取りが有ったあと、立花先生が話し出す。

「えーと? ブリジットちゃんにはエイリアン・ドローンが連係攻撃をしない印象みたいだけど、それは誤解です。エイリアン・ドローンも一体の敵に複数で反復攻撃を仕掛けますから、徒(ただ)、バラバラに位置取りをするだけです。その辺りの挙動の違いは、もう、単純に武装の違いが原因だと思います。」

 そこに茜が口を挟(はさ)む。

「飛び道具を持っているか、いないか?」

「そうです。エイリアン・ドローンは接近しての斬撃が攻撃、戦法の基本ですから、編隊を組んで同一方向から襲いかかるよりは、色んな方向から斬り掛かった方が成功率は高そうでしょ。 逆に、わたし達のように射撃が攻撃の基本となると、色んな方向から敵機を狙い撃ちすると、流れ弾が味方に当たって『同士討ち』になりかねません。だから、編隊を組んで同一方向から射撃するスタイルの方が安全、って事です。」

 再び、ブリジットの質問である。

「それじゃ、エイリアン・ドローンが飛び道具を持っていないのは何故なんでしょう? 彼方(あちら)側に、その技術が無い筈(はず)はないですよね。」

「そうね。本当の所はエイリアン達に聞いてみないと分からないんだけど、此方(こちら)の勝手な分析としては、ね。先(ま)ず、飛び道具の使用を維持するには、大量の補給が必要なのよ。弾丸やら火薬やらは当然だけど、発射装置自体にもメンテナンスや消耗部品の交換も必要だから。発射するのが火薬を使う実体弾でなくてエネルギー弾だったとしても、消耗品の品目が変わるだけで、何かしらの消耗品は必要になる筈(はず)なの。だから、そう言った手間の掛かる装備は、エイリアン・ドローンには無いのだと思うの。多分、エイリアン達に取って、アレは遠征用の、使い捨ての兵器だから。」

「使い捨て?ですか…あんな複雑そうな物が。」

 驚いて聞き返すブリジットに、半(なか)ば呆(あき)れた様に立花先生は言うのだ。

「その辺りは、わたし達とは感覚が違うのでしょう、としか言えないわよね。勿論、真相は分からないわよ。 取り敢えず、こんな所でいい?緒美ちゃん。」

 立花先生が緒美に話し掛けた部分はヘッド・セットを途中で外したのか、ブリジットと茜のレシーバーには声が遠く聞こえたのだが、直ぐに緒美の声が返って来た。

「それじゃ取り敢えず、さっきの加納さんのアドバイスも頭に入れて、第二回戦、やってみましょうか。最初は天野さんがリーダー役って事で。 城ノ内さん、今度は敵の数を倍にして。」

「分かりました、部長。 敵機の数を、六機に設定します。位置と方位は、どうしましょうか?」

「そうね。出現位置は天野さん達の十キロ前方、高度差はプラス千メートル、飛行方向は東向きって事で。」

 そんな緒美と樹里の遣り取りのあと、少しの間を置いて、再び樹里の声が聞こえて来る。

「設定完了、それじゃ、実行するけど、いい?二人共。」

「A01、了解。」

 透(す)かさず茜の返事が聞こえて来るので、ブリジットも慌てて声を上げるのだ。

「B01 も了解。」

「それじゃ、設定を実行します。頑張ってね。」

 間も無く、ブリジットと茜、それぞれの HDG にデータ・リンクに敵機の情報が表示されるのだった。

 それから一時間強が経過し、第五回戦のシミュレーションを終えて、この日の茜とブリジットのシミュレーター運転は終了したのである。二人は HDG を、それぞれ AMF と飛行ユニットから切り離して、各各(おのおの)のメンテナンス・リグへと HDG を戻し、装備を解除した。時刻は午後四時半を、少し経過していた。
 これでこの日の活動が全て終了、と言う訳(わけ)ではない。
 二階の部室でメンテナンスのレクチャーを受けていたメンバー達が格納庫フロアに降りて来ると、その儘(まま)、実機を使ってのメンテナンス講習が開始されたのである。
 安藤と日比野のソフト担当組は、AMF と Ruby、HDG 各機の AI からのログの吸い出しと、機能確認の作業を開始し、維月とクラウディアは、その作業の補助を担当したのだ。
 インナー・スーツから着替えた茜とブリジットは、緒美と立花先生、樹里、それに加納を加えて、部室にて翌日のシミュレーションに関する打ち合わせである。
 更にその後、格納庫内の片付けなどを終えて、この日の第三格納庫での活動が終了したのは、午後七時頃の事だった。
 こうして、Ruby が天神ヶ﨑高校に帰還した AMF 受領一日目は、無事に終了したのである。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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