WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第15話.08)

第15話・ブリジット・ボードレールと天野 茜(アマノ アカネ)

**** 15-08 ****


 それから間を置く事無く、スピーカーからは金子と直美の声が相次いで流れて来るのだ。

「TGZ03 より、テスト・ベース。時間ですので、出発します。」

「此方(こちら) TGZ02、TGZ03 に続きます。」

 『TGZ03』が金子の搭乗する軽飛行機のコールサインで、『TGZ02』が直美が操縦するレプリカ零式戦である。
 二機はエンジンの出力を増すと、爆音を響かせ乍(なが)ら滑走路へと繋(つな)がる誘導路へと進んで行く。
 スピーカーからは、社有機に乗っている緒美の声が聞こえた。

「TGZ01、鬼塚です。TGZ02、TGZ03、了解です。テスト空域で会いましょう。気を付けて。」

「了解。また後でね、鬼塚。」

「先に行ってるよ~。」

 緒美の声のあと、金子と直美が続けて返事をするのだった。
 そして滑走路へと入った二機は、軽飛行機、レプリカ零式戦の順で次々と西向きに離陸した後、北へ針路を変えて上昇して行くのだ。
 このプロペラ機、二機が先に出発したのは、他の機に比べて単純に速度が遅いからだ。前回の HDG-B01 の長距離飛行試験の時は、茜の HDG-A01 が最低速機だったのだが、今回は AMF とドッキングする事で HDG-A01 は、F-9 戦闘機並みに超音速巡航(スーパークルーズ)までが可能になっていた。巡航可能な最高速度の順番に並べると、HDG-A01+AMF、HDG-B01、天野重工社有機、レプリカ零式戦、飛行機部軽飛行機、の順となる。そんな訳(わけ)で、レプリカ零式戦と軽飛行機は先に出発して、テスト空域へ直行し、あとから試験メニューを実施しつつ追い掛ける三機と、テスト空域で合流する計画なのだ。

「TGZ01 よりテスト・ベース、此方(こちら)も出発します。」

 社有機の機長である沢渡の声が聞こえて来ると、駐機場のエンジン音が大きくなり、機体が誘導路へと進んで行く。ここで社有機の機長を務める沢渡は、加納の同僚に当たる天野重工総務部飛行課所属のパイロットで、天神ヶ﨑高校に常駐するパイロット、三名の内の一人だ。因(ちな)みに、副操縦士を務めているのが榎本で、沢渡と榎本の年齢は、共に三十代後半である。二人共に加納とは、親子程の歳の差が有るのだった。

「HDG01、出発準備します。」

 続いて茜の声が聞こえると、駐機場で待機している AMF の開放状態だった機首が閉鎖され、その形状が航空機らしく整えられる。そうなると外部からは、茜の HDG-A01 の姿は、もう見えない。
 AMF は社有機とは距離を取って、滑走路へと向かって移動を開始するのだ。

「HDG02 は、暫(しばら)くここで待機してま~す。」

 離陸に滑走の必要が無いブリジットは、一人、駐機場に取り残された状態で、そう報告して来たのだった。
 間も無く、滑走路の東端に達した社有機は、更にエンジンの出力を上げて離陸滑走を開始すると、あっと言う間に上空へと舞い上がって行った。しかし社有機は、その儘(まま)、飛び去っては行かず滑走路上空で旋回を始めるのだ。
 続いて、離陸開始位置に AMF が着くと、茜にブリジットが声を掛ける。

「HDG02 より HDG01。後ろへ行くから、ちょっと待っててね。」

「了解。TGZ01 は監視位置、いいですか?」

「TGZ01 より、HDG01。唯今(ただいま)、旋回中。あと一分程。」

「HDG01 了解。スタートの合図、ください。」

「TGZ01、了解。」

 茜と沢渡機長が遣り取りをしている間に、ブリジットの HDG-B01 は地上をホバー滑走して、AMF の右後方へと到着した。

「HDG02 より HDG01。茜、此方(こちら)も監視位置に着いた。何時(いつ)でも、どうぞ。」

「HDG01 了解。今、TGZ01 のスタート合図待ちです。」

 そして、それから直ぐに社有機からの通信が入るのだ。

「TGZ01 より HDG01。此方(こちら)も位置に着いた。滑走、始めてください。」

 社有機は滑走路の東側から、滑走路の十五メートル程の高度差で、南側へ百メートル程の距離を取って接近して来ている。AMF の離陸滑走の様子を横から監視する為に、速度をギリギリまで抑えて、滑走路と平行に飛んでいるのだ。
 AMF の右後方に位置を取ったブリジットの HDG-B01 は、後ろから AMF の離陸滑走に異常が無いか監視する。

「車輪ブレーキ、オンで、エンジン出力、ミリタリー。フラップ、ハーフへ。」

「ブレーキ、オン。スロットル、ミリタリーへ。フラップをハーフ・ポジションへセット。」

 茜の指示を Ruby が復唱し、実行する。茜の背後で、エンジンの回転音が一際(ひときわ)大きくなる。

「ブレーキ、解除(リリース)。離陸滑走開始。」

「ブレーキ、リリース。」

 Ruby が車輪ブレーキの解放を実行すると、茜を収容した機首が一度、ガクンと上下に揺れ、微(かす)かな振動と共に視界が後方へと動き出すのだ。AMF の閉鎖された機首からは、外界は目視出来ない。スクリーンに映されている画像は、AMF に搭載されているカメラが撮影したもので、Ruby に因って処理が加えられてもいる。
 その景色はシミュレーターで経験したものと大差は無かったのだが、それよりも茜は、加速により感じる、前方から押し付けられる様な、或いは後方へ引っ張られる様な、『G』の大きさに驚いていた。
 AMF が離陸に必要な速度は、HDG-A01 が単体で飛行出来る最大速度と同程度なのだが、AMF と HDG-A01 とでは、その質量が十数倍違うのだ。つまり、質量の小さな物体と同じ速度に、質量の大きな物体を加速しなければならないのだから、それだけ大きな加速度が必要であり、その物体の中に茜は組み込まれているのだった。巨大な推力に因って押し出される AMF の中で、茜は加速に対する慣性力を、その一身で受け止めていた。勿論、離陸加速中のGなど、空中機動での急旋回に比べれば、まだまだ大したものではない。

「V1(ブイ・ワン)。」

 Ruby の声が聞こえる。AMF は滑走路の中央付近を、既に通過している。そして、それから間も無く、Ruby の次の通告が聞こえて来る。

Vr(ブイ・アール)。」

 AMF が、機首上げを行う速度に達した通告である。茜は「テイク・オフ。」と声を上げ、機首上げのイメージを思考制御で Ruby に伝達するのだ。
 機首を持ち上げた AMF は、その儘(まま)、ふわりと浮き上がり、直ぐに着陸脚も地面を離れた。滑走路の路面を着陸脚のタイヤが転がる、その独特な小さな振動が伝わって来なくなると、離陸加速中のGを味わい乍(なが)らも機体が宙に浮いている感覚を得るのだ。

「ギア・アップ。フラップ、ゼロ。」

「ギア・アップ。フラップをゼロ・ポジションへ。」

 茜の指示を Ruby が復唱し、着陸脚とフラップが格納されると、空気抵抗が一気に減る事で機速がグングンと上昇していくのが、視界に表示されている速度表示の値の更新具合から読み取れる。エンジンの出力は、未(いま)だミリタリーの儘(まま)なのだ。
 茜は、機首上げの角度、エンジンの出力、上昇率、向かうべき針路、機体の速度、そんなイメージを次々と頭の中で構築していく。それを Ruby は適宜(てきぎ)に解釈し、AMF の飛行が破綻しない様に補正して制御していくのだ。結果として、AMF は 20°程の角度で上昇し乍(なが)ら西向きから北へと旋回を始める。

「えーと、離陸したら最初は北向きに、高度二千メートルで合流と…。」

 初めての実機での離陸に緊張気味の茜が、そう、呟(つぶや)いていると、レシーバーには加納の声が響くのだ。

「TGZ01 より HDG01。天野さん、周囲の確認を忘れないでください。」

「あ、はい、はい。すいません、加納さん。」

 少し慌てて、茜が左右を確認すると、左側に社有機が、右側にはブリジットの HDG-B01 が飛行していた。
 社有機は離陸滑走する AMF の左側を、速度を合わせて併走して来ており、ブリジットも滑走路上の AMF 後方をホバー状態で追い掛け、AMF の離陸に合わせて上昇して来ていた。何方(どちら)も、離陸滑走中の AMF に何かしらの不具合が生じていないか、外部から監視していたのである。

「それでは、天野さん、ブリジットさん。各機、現在の位置関係(ポジション)をキープして、高度を上げていきます。針路(コース)は、この儘(まま)で。」

 加納の指示に二人共が「了解。」と応えると、加納は茜に話し掛けて来る。

「天野さん、取り敢えず実機で離陸した感想は、如何(いかが)です?」

「加納さんがシミュレーターの時に仰(おっしゃ)っていた『G』を、実感したって所でしょうか。HDG 単体の機動でも『G』は感じていた筈(はず)なんですが、流石に音速まで加速出来る AMF になると、エンジンのパワーが凄いですね。」

 茜は苦笑いし乍(なが)ら、答えた。勿論、その表情までは伝わらないのだが。
 それに、加納は笑って言葉を返す。

「ハハハ、離陸の加速なんて、空中戦機動の『G』に比べれば、可愛いものです。今日は、そう言う予定ではないですから、余り振り回さないでくださいよ。『G』に就いては、時間を掛けて、少しずつ身体と感覚を慣らしていってください。」

「分かりました、気を付けます。」

 茜が返事をすると、続いて緒美の声が聞こえて来るのだ。

「天野さん、鬼塚です。速度と高度がいい感じになって来たから、予定通り、ロボット・アームの展開・格納試験を始めます。いいかしら?」

 AMF に装備されたロボット・アームの展開条件に、高度は兎も角、速度が関係するのは、それはロボット・アームの展開と使用には速度制限が有るからだ。機構の構造上、時速 250 キロメートル以下での使用が想定されており、それ以上の速度での使用となると、気流に逆らって稼働させる負荷にロボット・アームの駆動系が耐えられないのである。
 これはエイリアン・ドローンが格闘戦形態で飛行出来るのは、最大で時速 250 キロメートル辺りが限界だろうとの、観測結果から逆算された仕様なのである。つまり、エイリアン・ドローンとの近接格闘戦は大凡(おおよそ)、時速 200 キロメートル以下の飛行速度域で行われる、と言うのが設計上の想定なのだ。
 単純に接近格闘戦は時速 200 キロメートル以下、と言っても、AMF と エイリアン・ドローンとでは、その飛行に関する速度領域が余りにも違う事に、注意しなければならない。エイリアン・ドローンは格闘戦形態時にはホバリングも可能なので、その速度領域は時速 0~250 キロメートルである。一方で、航空機である AMF は極端な低速域では失速してしまうので、格闘戦で応戦可能な速度領域は時速 180~250 キロメートルと言った所だ。つまり、AMF の側が相手に合わせて減速し過ぎると、自身が飛行状態を維持出来なくなるのだ。
 その様な都合から AMF の側からすれば、組み合って殴り合う様な真似は余り現実的だとは言えず、精精(せいぜい)が擦れ違い様(ざま)に斬撃を加える程度の戦法しか採り様が無いと考えられるのだった。その為に、AMF に搭載されたロボット・アームには先端部にビーム・エッジ・ブレードが装備されており、加えて短射程仕様の荷電粒子ビーム砲も取り付けられていた。申し訳程度に取り付けられているマニピュレータは、三本指で丸太を掴(つか)める程度の簡素な物なのである。
 『同じレベルで殴り合える様になるのが先決』とは、緒美自身が立てた HDG 開発のコンセプトなのだが、流石に、この AMF のロボット・アームに関しては発案者である緒美ですら、実用性、或いは実効性に小さくない疑念を抱いていた。「航空機の形態を取るのなら、現在の防衛軍と同様に、速度の優位性を活かして相手とは距離を取り、スタンド・オフ兵器を活用する方が、コスト的にも技術的にも真っ当なのではないか?」そう、仕様決定の段階で緒美が本社開発部へ意見を出した事も有ったのだ。ここで言う『スタンド・オフ兵器』とは、『相手の攻撃出来ない距離から攻撃が出来る兵器』の事で、一般的には長射程のミサイルを指すのだが、『飛び道具』を保有しないエイリアン・ドローンに対しては、戦闘機の固定機銃ですら『スタンド・オフ兵器』だと言えなくもない。それは兎も角、実際の話、AMF がロボット・アームを機内に格納する為に、機体の大きさが設計の基礎となった F-9 よりも一回り大きくなってしまったし、F-9 の様なウェポン・ベイを設けるスペースも無くなってしまったのだ。
 それでも AMF へのロボット・アーム装備に拘(こだわ)ったのは本社開発部の方で、当初、緒美にはその意図を測る事が出来なかった。それも、他の拡張装備の仕様が固まり、開発が進んで行く事で、緒美には本社側が考えている事に見当が付く様になっていったのである。それは Ruby の開発目的、或いはその用途に就いても同様なのだが、幾ら見当が付いたとは言っても、それはおいそれと『答え合わせ』が出来るものでもなく、迂闊(うかつ)に誰かに喋(しゃべ)ってしまう訳(わけ)にもいかない類(たぐい)の話である事は、緒美も良く理解していたのだ。そして、その本社側の思惑に、どこまで追従して行っていいものか、その辺りの判断に就いて緒美は、この時点でもまだ決め兼ねていたのだった。
 だから、緒美は茜に向かって言ったのだ。

「天野さん、ロボット・アームの本格的な動作確認は後日、シミュレーターでの確認が終わってからだから、今日は予定通り、出し入れの確認だけよ。余り、アームを振り回したりしないでね。」

「分かってます。空力的に、どんな影響が出るのか、怖いですし。」

 茜は純粋に技術的な制約として受け止めていたので、緒美の葛藤とは無関係に明快な返事をしたのである。
 一方で飯田部長が、茜に声を掛ける。

「試作工場での試験飛行で、飛行中のアーム出し入れは動作確認済みだから、安心していいよ、茜君。」

 試作工場では、Ruby と加納に因る外部からの操縦で、無人状態で飛行試験を行っていたのだ。但し、初期の LMF と同様にロボット・アームの稼働データ不足の為、複雑な動作に就いては未検証なのだった。それに就いては今後、LMF の時と同様にシミュレーター・ソフトを利用して稼働データを集積し、実機での検証へと繋(つな)げる予定なのである。勿論、シミュレーターではロボット・アームの動作に因る気流の影響も、或る程度は計算されてシミュレーションに反映される計画なのだが、そのシミュレーター・ソフトは、まだ開発中なのであった。
 そして声を掛けられた茜は、飯田部長に即、言葉を返したのだ。

「あはは、そうじゃなかったら、怖くて出来ませんよ、飯田部長。」

 それから一呼吸置いて、茜は声を上げる。

「それでは、唯今(ただいま)より、AMF のロボット・アーム展開及び、格納の飛行中作動試験を始めます。記録の準備は、宜しいでしょうか?」

「HDG02 より、TGZ01。こっちの映像、リンクに乗ってます?」

 ブリジットの問い合わせが、唐突に割り込んで来る。HDG-B01 の視界画像も、社有機側で記録保存が出来るのだ。
 緒美が機内で視線を樹里と日比野の方へと向けると、「オーケーです。」との、樹里の声が返って来る。それを受けて、緒美が通話に声を乗せる。

「HDG01、HDG02。此方(こちら)の準備は出来てる。天野さん、始めてちょうだい。」

「HDG01、了解です。」

 そう返事をすると、茜は Ruby にロボット・アーム展開を指示するのだ。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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