WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第15話.09)

第15話・ブリジット・ボードレールと天野 茜(アマノ アカネ)

**** 15-09 ****


Ruby、ロボット・アーム展開。」

 音声コマンドで、茜が指示を出す。その指示を Ruby が復唱すると、機体の後方からロボット・アームを格納するドアが開く、軽い振動が伝わって来るのだ。同時に、AMF の機速が空気抵抗の増加に因って、グングンと低下していく様が、数値としても表示されていた。それに対し失速してしまわないように Ruby は、エンジンの出力を増やして機速の維持を計るのだ。
 機体背面前方の端側を起点にアームが起き上がり、ロボット・アーム全体が格納部から露出すると、アームは前方へ向かってスイングしていく。
 同時に機体下面でも背面側と同様に、もう一対のロボット・アームが展開していく。AMF には、機体背面と下面に一対ずつ、合計四本のロボット・アームが装備されているのだ。
 二対のアームが展開を完了すると、機体側の格納部ドアは閉鎖される。
 それら一連の動作が実行される間、当然、機体上下の気流は乱され、機体には不規則な振動や機軸の揺れが発生するのだが、それらを補正する操舵を Ruby が瞬時に行う事で、機体は大きく姿勢を崩す事無く水平飛行を維持しているのだ。これをパイロットが手動操縦で代替するのは、恐らく非常に困難な作業であろう。
 その AMF の様子は、速度を合わせて並んで飛行している社有機の機内から、観測がされていた。

「あの下側のアームって、必要なのかしら?」

 AMF の様子をモニターしている日比野が、ポツリと言ったのだ。因(ちな)みに、日比野と樹里の両名は機内通話用のヘッド・セットを装着していないので、発言が通信に乗る事は無い。これは機内の通話回線をデータ・リンクの通話回線に接続している一方で、発話者を成(な)る可(べ)く制限する為の措置である。但し、モニター用の器材から音声が出力されているので、日比野と樹里の両名にも、通話自体は聞こえている。
 ここで、社有機の機内配置を紹介しておこう。
 社有機客室の通常の配置は、中央の通路を挟んで左右に一席ずつ、八列の座席が設置されており、最大で十六名の搭乗が可能になっている。勿論、重要な乗客を迎える場合等、乗客が少人数で座席間隔に余裕が欲しい場合は、必要に応じて座席数を少なく設定する事が可能だし、逆に座席間隔を詰めれば更に二列の座席の追加も可能である。
 今回の試験飛行の随伴ミッションの場合は、通常の座席は前側の五列が降ろされて、先(ま)ず、先頭部右列に AMF の外部操縦装置一式が設置されているのだ。AMF の操縦装置正面には AMF から送信されて来る画像を表示するディスプレイが設置されており、操縦要員はそのディスプレイに表示される画像や各種作動データを参照し乍(なが)ら、同装置に装備された操縦桿やスロットル・レバー、フットペダルを操作するのだが、社有機が AMF と並行して飛行する際は右側の窓から AMF の挙動を確認し乍(なが)ら操縦する場合も有るのだ。加納は非常事態が起きた際に何時(いつ)でも外部から AMF の操縦が出来る様に、その席に着いて AMF の挙動と作動データの値を監視している。
 その操縦装置の背後側には、右側の壁に沿って測定・記録関連の器機を固定した机が設置されており、観測・記録要員である日比野と樹里の二人が、その右舷側窓の方へ向いた席に着いている。座席自体は通常のリクライニングシートではなく、もっと簡素な物が取り付けられているのだが、シートベルトで身体の固定は可能となっている。座席の向きは進行方向へ変える事は出来、離着陸の際はシートの向きを進行方向へ変えるか、日比野と樹里が後部に残された通常の座席へと移動するのだ。
 試験の監督者役である飯田部長と緒美は当然、離着陸の際には後部の通常座席へ、と言う事になるのだが、上空での水平飛行中は観測机の前後両端に設置されているポールやハンドルを掴(つか)んで立っているか、左舷側の壁部に設置された簡易的な座席に腰を下ろす事になる。それは『座席』と言うよりは『腰掛け』と呼んだ方が適切な代物(しろもの)で、勿論、シートベルトなど無い。
 試験飛行観測中の座背の順番は前から、加納、日比野、樹里の順であり、加納と日比野の間に飯田部長が立ち、樹里の背後か右手側に緒美が立って、飯田部長と緒美は観測机上のディスプレイや窓の外の様子を眺(なが)め乍(なが)ら試験飛行の監督を行うのだ。
 少々長い説明となったが、先刻の日比野の所感に対して、緒美がヘッド・セットのマイクを口元から外して、日比野に答えるのだ。

「空中に浮いた状態で、上側だけのアームを振り回すと、発生したモーメントで機体のバランスが保てないんですよ。」

「物理的に?」

 苦笑いで聞き返す日比野に、今度は横から飯田部長が補足するのだ。飯田部長も緒美と同様に、発声がマイクに拾われないように配慮している。

「あのアーム、長さが十メートル位、あるからね。そのモーメントを補正する為に、下部にもアームが有るんだよ。」

 飯田部長の説明に続いて、緒美も言うのだ。

「元々のアイデアでは、下側のは脚だったんですよ。徒(ただ)、空中に浮いてるから脚は不要なので、それで腕になった、って言う経緯でして。」

「成る程。」

 一先(ひとま)ず日比野が納得すると、そこに茜からの報告が入る。

「ロボット・アーム、標準位置へ展開完了。現状で、飛行に支障は有りません。」

 緒美は窓の外へと視線を移すと、ヘッド・セットのマイクを口元へと戻し、茜に問い掛ける。

「天野さん、外観的にも問題は無かった様に見えたけど、振動とか揺れは酷くなかった?」

「はい、大丈夫でしたね。勿論、多少の揺れは有りましたけど、その都度(つど)、Ruby が上手に補正して呉れました。」

「オーケー。それじゃ、アームを格納して、次のメニューへ行きましょうか。」

 そこで、茜が予定外の事を言い出すのだ。

「あの。さっき気が付いたんですけど、アームを展開した状態での機首部の解放って、無人飛行時の確認項目に入ってましたでしょうか? アームを自由に振り回すのには機首部が邪魔になるので、アームを使う様な接近戦をするなら、機首部は解放した状態になる気がするんですけど。」

 茜の発言を聞いて、緒美は視線を飯田部長へと向け、それを受けて飯田部長は加納に声を掛けるのだ。

「加納さん?」

 加納は、直ぐに声を返す。

「わたしは『航空機モード』に限定しての検証と教示(ティーチング)を担当していましたので、空中での機首部の解放は確認項目に無かったですね。」

 続いて、緒美が何時(いつ)もの、優しい声色(こわいろ)で茜に言うのだ。

「天野さん、そう言う事は事前に、打ち合わせの時に言ってね。」

「すみません。打ち合わせの時には、気が付かなかったもので。」

 素直に謝る茜に、飯田部長が言う。

「なに、謝る事はないさ。茜君、ちょっと、待ってて呉れ。 TGZ01 飯田より、ベース。実松課長、ちょっと宜しいですか?」

 飯田部長がテスト・ベースに控えている実松課長を呼び出すと、少し間を置いて実松課長が応じるのだ。

「あーもしもし、実松です。何でしょうか?飯田部長。」

「先程の遣り取り、聞こえていたと思いますが、アームを展開した状態で飛行中に機首部を解放するのは、設計の方(ほう)での検証は、如何(いかが)な具合です?」

「あーはい、はい。一応、気流解析シミュレーションでの演算結果は、問題無しって事になってます。支障が無ければ、実機での検証をお願いしたい。勿論、やる、やらないの判断は、現場にお任せします。どうぞ。」

「分かりました。此方(こちら)で検討します。」

 そう返事をして飯田部長は、緒美の方へ視線を向ける。

「さて、どうするかな?鬼塚君。」

 緒美は少し困った顔で、窓の外の AMF を眺(なが)めつつ答えた。

「う~ん、どうしましょうか。ちょっと、うっかりしてました、ねぇ…。」

 そこに、今度はベースに居る立花先生からの呼び掛けが聞こえて来るのだ。

「鬼塚さん、思い付きで試験メニューを追加するのは、賛成出来ないわ。しっかり事前の検証をして掛からないと、事故の元よ。」

 その発言に苦笑いをして、緒美は言葉を返す。

「あー、いえ、立花先生。その事故が発生した時の為に、飛行中に設計通り機首が開(ひら)けるか、確認しておく必要が有るんですよ。」

「どう言う事?」

 そう声を返して来た立花先生の生真面目(きまじめ)な表情が思い浮かんで、くすりと笑ってから緒美は応えた。

「最悪のケースですけど、飛行中のトラブルで AMF から HDG を切り離さざるを得なくなった場合に、機首部の解放が出来ないと HDG が外へ出られません。勿論、内側から HDG が AMF を破壊する事も可能でしょうけど、そんな余裕すら無い場合も有り得ますから。 徒(ただ)、漠然と飛行中の機首部解放の確認は後回しでいいと思っていたもので、それは、わたしのうっかりミスです。安全に関わる項目なので、早めに確認しておいた方がいいですよね。飯田部長、御意見は?」

 緒美に意見を求められ、飯田部長は一度「う~ん。」と唸(うな)った後で、言ったのだ。

「まあ、立花君の懸念も理解は出来る。事前に検討すべき事が、何か漏れてる事も有り得るから、もう少し慎重になってもいいかも知れないな。大体、AMF が Ruby ごと放棄される様な状況は、会社としては考えたくないし、そう言う事態が起きないのなら、その検証は後回しでもいい理屈にはなる。 ベース、畑中君、試作部の代表としてはどうだろう?」

 飯田部長に指名され、今度は畑中が答えるのだった。

「えー、畑中です。機首部の解放機構に就いては、地上では何度も設計通りに機能する事は確認済みです。空中で条件が違うとすれば、気圧、風圧、温度、加速度って所でしょうけど、その辺りは設計段階で見込んである筈(はず)ですので、我々としては設計を信頼する、としか言えません。」

「分かった、ありがとう畑中君。 副部長、新島君、キミの意見はどうかな?」

 畑中に続いて、飯田部長は直美を指名するのだった。直美は金子と共に、後の試験空域へと先行していて、この場には不在だったのだが、データ・リンクの御陰(おかげ)でこれ迄(まで)の通話の内容は聞こえているのだ。
 少し慌てて、直美は声を返す。

「えっ、わたしですか?」

「ここ迄(まで)の遣り取りは聞いていただろう? 兵器開発部副部長としての意見を聞かせて呉。」

「あー、そうですね。自分としては、鬼塚の意見に乗ります。実松課長が仰(おっしゃ)った様に設計の方(ほう)で検討済みなのでしたら、実機で確認する以外に手段は無いかと。」

「そうか、分かった。 飛行機部部長、金子君、キミの意見は?」

「わたしも、ですか?」

 言葉とは裏腹に、待ってました言わん許(ばか)りに、少し食い気味に金子は声を返して来た。

「飛行機部部長としての見解も、参考迄(まで)に聞いておきたい。」

「そうですか。では、わたしも鬼塚の意見に賛成です。安全に関する確認は、先に済ませておくに限ります。それで問題が起きたなら、それはそれでいいじゃないですか。どうせ、後に送ったって、出るトラブルは出るんだし。だったら、先に出しておいた方が、いいと思いますが。」

「分かった、ありがとう金子君。 HDG02、ボードレール君、キミはどう思う?」

 成り行きを見守っていたブリジットが、急に意見を求められ、驚いて声を返す。

「えっ、わたしも?ですか。」

「キミも飛行試験の現場に参加してるんだから、見解を聞かせて呉れ。」

「えー…そうですね。個人的には茜に危険が及ぶなら、避けて欲しい所なんですが。スミマセン、双方の意見が解るので、何方(どちら)とも言えません。」

 そのブリジットの意見には、流石に茜が一言、口を出したくなるのである。

「ちょっと、ブリジット。わたしの心配は、この際いいから。」

「心配するなって言われても、それは無理よ~茜。打ち合わせに無かったテスト項目なんて、危険なのか安全なのか判断付かないもの。判断の付かないものには、不安になるのが人情ってものでしょ。」

「いやいやいや、それを言ったら試作機のテスト飛行自体が、或る程度の危険を含んだものなんだから…。」

 そこに、飯田部長が割って入るのだ。

「あー、ちょっと待って、二人共。それじゃ、ボードレール君は判断保留って事でいいのかな?」

「あ、はい。そう…ですね。それでいいです。」

「分かった。 HDG01、茜君は鬼塚君に賛成でいいのかな?」

 飯田部長の問い掛けに、茜は「はい。」と即答するのだった。そして、飯田部長が意見を纏(まと)めるのだ。

「と言う事は、賛成が五名、反対が二名、判断保留が二名。多数決なら、機首部解放を実行って事になるが…。」

 そこで、今度は立花先生の声が通信に入って来る。

「それ、多数決で決めていい問題ですか?飯田部長。 大体、賛成は四名では?」

「いや、鬼塚君、新島君、金子君、茜君に、実松課長を加えて五名だ。因(ちな)みに、反対はキミ、立花君とわたし。判断保留は畑中君とボードレール君、と言う集計だが。」

 そう、立花先生に飯田部長が説明をしていると、今度は茜が声を上げるのだった。

「あのー、HDG01 より提案が有ります。」

「どうぞ、天野さん。」

 即座に茜へ発言の許可を出すのは、緒美である。それを受け、茜が提案内容を語るのだ。

「はい、ディフェンス・フィールドを有効にすれば、機首部正面の気流は流速が半減する筈(はず)ですし、機首周りの気流は大半がフィールドに沿って流れるので、皆さんが心配されている様な悪影響は、殆(ほとん)ど無いと思うのですが。」

「あー…。」

 そう、思わず緒美が声を漏らすのだった。

「流石ね、天野さん。ディフェンス・フィールドの事は、すっかり忘れてたわ。オーケー、その線でやってみましょう。」

 緒美は茜に言葉を返すと、続いて視線を飯田部長へ向け、微笑んで問い掛ける。

「宜しいですね?飯田部長。」

「いいだろう、やってみようか。」

 飯田部長は、頷(うなず)いて答えたのである。
 一方、第三格納庫内部の一角、テスト・ベースの一席で天野理事長は、上機嫌そうに笑顔を浮かべ、黙って状況を見守っていた。そんな天野理事長に近寄ると、実松課長が抑え気味の声量で、声を掛けるのだ。

「先程、鬼塚君も言ってましたが、流石ですなぁ、茜君。」

「この開発案件で、あの子が果たして来た役割の一端を見た気がするよ。」

 そんな会話をしつつ、二人が眺(なが)めるモニター画面の中で、AMF は機首部の解放を実行していた。その映像は、社有機の機内から撮影された画像である。その様子を観察して、実松課長が小さな声だったが、嬉しそうに声を上げるのだ。

「よし、よし、ちゃんと動いてるじゃないか。」

「設計一課の仕事振りも流石だね、実松課長。」

「いやー、彼処(あそこ)の機構は、ちょっと苦労したんですよ。」

 そう天野理事長に応える実松課長は、実に満面の笑みなのである。

 

- to be continued …-

 

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