WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第15話.11)

第15話・ブリジット・ボードレールと天野 茜(アマノ アカネ)

**** 15-11 ****


「そうですか。 沢渡さん、この機の燃料は大丈夫でしょうか?」

 社有機の機長である沢渡に問い掛けると、答えは直ぐに返って来た。

「大丈夫ですよ。此方(こちら)は、あと三時間は飛べます。」

「分かりました。」

 もう一度、緒美は大きく息を吐(は)いて、ヘッド・セットのマイクへ向かって言うのだ。

「TGZ01 より、統合作戦指揮管制。桜井一佐、取り敢えず御依頼の件、承(うけたまわ)りました。但し、此方(こちら)の行動をレーダーやデータ・リンクの情報で監視されるのは構いませんが、通信は遮断させて頂きます。此方(こちら)での通話内容に、企業秘密が多分に含まれる事になると思われますので、ご了承ください。必要の有る際は呼び掛けて頂ければ、その都度(つど)、対応はさせて頂きます。宜しいでしょうか?」

 その緒美の要望に対しては、彼女が拍子抜けする程あっさりと、桜井一佐は了承するのだった。

「通信の件、了解しました。防衛軍を代表して、御社の御協力に感謝します。」

「それでは…。」

 緒美が通信を終わろうと声を出した瞬間、茜の声が割り込んで来るのだ。

「あの、すいません。HDG01 ですが、桜井一佐に確認したい事が。」

「何かしら?」

 桜井一佐が返した声は、極めて穏(おだ)やかだった。続いて、茜は尋(たず)ねる。

「迎撃ポイントは日本領空の外になりますが、それは大丈夫なんですよね? その、法的な意味で。」

「ああ、それなら御心配無く。防空識別圏の内側であれば、目標(ターゲット)がエイリアン・ドローンだと確認出来ていれば、撃墜してもいい事になってますから、国際的に。」

 今度はブリジットが、桜井一佐に質問するのだ。

「すいません、HDG02 です。桜井一佐、その、エイリアン・ドローンだって言う確認は、どうやってるんですか?」

「それは軍事機密ですから、民間の方に詳しく説明は出来ませんが。まあ、映像で確認している、とだけ言っておきます。戦術情報で『敵機』認定されているものは、防衛軍側で確認済みの目標(ターゲット)だから、安心して撃ち落としていいですよ。宜しい?」

「分かりました、ありがとうございます。」

 防衛軍の目標確認は、主に空中早期警戒機で位置を特定し、警戒機に搭載された超望遠カメラで画像を取得して、確認と判定を実施しているのだ。空中早期警戒機で画像が取得出来ない距離の場合、別途、偵察機や観測機を飛ばして、兎に角、画像での確認を行っているのである。その位置特定能力や、画像取得能力、目標判定能力や、それら装備の性能に関する具体的な情報は、重要な軍事上の機密情報であるが故(ゆえ)、明確に明かされる事は無い。
 桜井一佐へブリジットが一礼を述べると、緒美が続いて言うのだ。

「それでは、以上で通信を終了して、行動に移ります。」

「はい、宜しく。」

 緒美は桜井一佐の返事を聞いて、前の席に着いている樹里の右肩に、左手を置いた。
 樹里はパネルを操作して、防衛軍の統合作戦指揮管制を通信相手リストから削除する。これで以降の緒美達の通話が、防衛軍側に聞かれる事は無い。

「通信設定、防衛軍の管制を設定から解除しました、部長。」

「ありがとう、城ノ内さん。」

 そして緒美は視線を飯田部長に向け、問い掛ける。

「飯田部長、桜井さんに『詰めて貰って居た』って、部長から依頼を?」

 緒美は、先刻に飯田部長が桜井一佐に言った言葉を、聞き逃してはいなかった。
 少し苦(にが)そうに口元を動かし、飯田部長は答える。

「さっき言った通り、こう言った事態が起きた場合に、彼方(あちら)側でフォローして貰おうと思って、頼んで置いたんだけどね。今回はどうやら、それが裏目に出た様だ。彼方(あちら)側で、何か有ったのかもしれんね。」

「まあ、有ったんでしょうね。」

 そう返した後で緒美は、又一度、大きく息を吐(は)き、窓の外へ視線を移すとヘッド・セットのマイクへ向かって言うのだ。

「それじゃ、行動を始めましょう。取り敢えず、天野さん、ボードレールさん、この儘(まま)飛行を続けて、一度、試射をしておきましょう。本番で機能しなかったら意味が無いから。日比野さん、撮影機の位置は問題無いですか?」

「ええ、AMF も B01 も、画角に入ってる。大丈夫。」

 日比野の回答を受けて、緒美は直美と金子に声を掛ける。

「TGZ01、鬼塚より、TGZ02、及び TGZ03。現在の位置をキープしててね。それで、試射の撮影が終わったら、両機は現空域を離脱して、ベースへ先に帰投してください。」

 すると、間を置かずに、直美が声を返してくるのだ。

「TGZ02 です。わたし達は、もう用済み?」

「嫌な言い方しないでよ、新島ちゃん。」

 少し困り顔で、そう言葉を緒美が返すと、今度は金子の声が聞こえる。

「まあ、わたし達の機は、エイリアン・ドローンに追い掛けられたら、逃げ切れないものね。」

「それは、解ってるけどさー。」

 不満気(げ)な声を返す直美の発言は無視して、緒美は茜達へ指示を出す。

「それじゃ、天野さん、ボードレールさん、発射準備。」

「HDG01、了解。」

「HDG02、了解。」

 二人の返事を聞いて、緒美は日比野に声を掛ける。

「日比野さん、映像の記録、宜しくお願いします。」

「任せてー。」

 AMF の背部ドアが開くと、レーザー砲が上昇し、砲身が露出する。このレーザー砲には旋回する機構は無く、仰角の微調整が出来るだけである。基本的に AMF 本体の姿勢で照準を合わせなければならないので、近距離の目標を射撃する事は、そもそもが考慮されていないのだ。
 HDG-B01 に追加装備されたレールガンは、飛行ユニットの背面に取り付けられているのだが、これは一門のみが機体中心から右へオフセットして取り付けられており、つまり、最大で二門のレールガンが取り付け可能なのだ。レールガンから撃ち出される弾体は、一門に付き二十四発の装填が可能なのだが、今回は十発のみが弾倉に装填されている。

「HDG01、マスターアーム、オン。発射用キャパシタの、電圧確認。照射時間を二秒に設定。」

「HDG02、マスターアーム、オン。弾体を薬室(チャンバー)へ装填します。」

 二人からの報告が、通信から聞こえて来る。緒美は社有機の窓から AMF を眺(なが)め乍(なが)ら、指示を伝える。ブリジットの HDG-B01 は AMF から百メートル程向こう側を飛行しているので、肉眼では可成り見え辛(づら)い。社有機と AMF との間隔も約百メートルである。

「天野さん、ボードレールさん、二人同時に、無照準で発射します。発射準備が出来たら、教えてね。」

 その返事は、直ぐに返って来た。

「HDG01、準備完了。発射の合図を、お願いします。」

「HDG02 も、準備完了。合図を待ちます。」

「TGZ01、了解。記録の準備は、いい?」

 緒美が機内の日比野と樹里に問い掛けると、二人は「はい。」と短く答えるのだ。

「それじゃ、カウントダウン、スタートします。5…4…3…2…1…0、発射。」

 緒美の合図に合わせて、茜とブリジットは「発射!」と、音声コマンドで発射の指示を出すのが、通信から聞こえた。
 ブリジットの HDG-B01 が装備するレールガンは、砲口から火花の様な閃光が発生するのだが、茜の AMF ではレーザー砲には何らの反応も見られない。それは発射の操作を実行した茜自身も同様で、閃光も、爆音も、衝撃も、反動も、振動も、何一つ反応らしい反応が無いのだった。
 レーザーは荷電粒子ビームとは違って、射線上にレーザー光を反射する粒子的な物質が無いと、レーザー光自体は見えないのである。それも、レーザーの波長が可視光範囲である場合の話で、レーザーの波長が赤外線や紫外線、X線等の可視光範囲外だと、レーザー光を反射する粒子状の物質が射線上に存在していても外部から肉眼で観測する事は不可能なのだ。因(ちな)みに、AMF に装備されているレーザー砲は、赤外線レーザーを利用している。

「HDG01 より TGZ01。レーザーの発射は観測されました? 此方(こちら)では、何の反応も無かったので。」

「天野さん、発射時にブザーは鳴らなかった?」

 緒美の問い掛けに、茜は直ぐに答える。

「それは鳴ってましたけど。」

 レーザーの照射中に、それを知らせるブザーが鳴らされる仕様なのは、茜の言う通り、レーザー砲の発射に就いては機内では何も検知が出来ないからである。
 そこで、Ruby が茜に報告する音声が聞こえるのだ。

「バレルの温度は、10℃程、上昇しましたよ、茜。」

「寧(むし)ろ、10℃しか上がらなかったの? Ruby。」

「ハイ。バレルの冷却が、正常に機能しているので。」

「あ、成る程。」

 今度は日比野が、緒美に報告する。

「AMF のレーザー発射は、赤外線カメラの画像で確認出来てます。」

 それを聞いて、緒美は通信で茜に伝える。

「天野さん、日比野さんの方でレーザーの発射は確認出来ているそうよ、赤外線画像で。」

「あ、そうですか。了解です。 では HDG01、マスターアーム、オフにします。バレル、格納。」

 それに続いて、ブリジットも報告して来る。

「HDG02、こちらもマスターアーム、オフにします。」

 間も無く、樹里が両機のステータスを確認し、緒美へ報告する。

「はい。AMF、HDG-B01 両機のマスターアーム・オフを、データ・リンクで確認しました。」

「オーケー、それでは、わたし達は作戦ポイントへ向かいましょう。TGZ02、TGZ03、ここ迄(まで)、ご苦労様でした。ベースへ帰投してください。」

「TGZ02、了解。それじゃ皆(みんな)、気を付けてね。」

「TGZ03、了解。これより帰投します、グッドラック。」

 直美と金子の返事に、緒美も言葉を返すのだ。

「ありがとう、二人も帰り道、気を付けて。」

 続いて、緒美が指示を出す。

「TGZ01 より、HDG01、HDG02。それでは方位(ベクター) 10 へ針路変更。各機の位置(ポジション)は現状を維持で、速度(スピード)を 10.0 へ。天野さん、ボードレールさん、戦術情報で目標の様子に変化が有ったら教えてね。」

「HDG01、了解。」

「HDG02 も了解しました。」

 天野重工の社有機と AMF、HDG-B01 の三機は、それぞれが百メートルの間隔を空けて横並びの儘(まま)、日本海を北上して行くのだった。
 そんな折(おり)、加納が茜とブリジットに呼び掛けるのだ。

「TGZ01、加納より、HDG01、及び HDG02。両機共、燃料の残量を出来るだけ正確に計算して、報告してください。残量が二時間分だとすると、余裕が無さ過ぎです。」

 その通信に、茜が問い返す。

「ここから三十分で作戦ポイント、そこから帰投するのに一時間と見積もれば、作戦ポイントで三十分の余裕が有るんじゃないですか?加納さん。」

「いえ、それだと、ベースに辿り着いた所で燃料不足になる恐れが有ります。ベース上空で三十分程度は燃料が残ってないと安心出来ませんが、そうすると作戦ポイントでの滞空時間がゼロになってしまいます。」

 元々の計画では、テスト空域への進出に三十分、テスト空域での飛行確認に一時間、ベースへの帰投に三十分と言うのが、大凡(おおよそ)の飛行プランで、想定される合計二時間の飛行に対して、安全を見て倍の四時間分の燃料を用意していたのだ。
 この四時間と言うのは、標準状態で飛行を続けて四時間の飛行が出来る、と言う目安である。大気の状態、つまり気温や気圧の条件が変われば、エンジンが同じパワーを得るのに必要な燃料の消費量は変わるし、加速や減速を繰り返したり、飛行経路が向かい風だったり、AMF の様にロボット・アームを展開するなどして空気抵抗の大きな状態であるなど、燃料の消費量が増える要因は幾らでも有るのだった。それ故(ゆえ)に、燃料は計画に対して多目に積み込んであるのだ。しかも、AMF も HDG-B01 も、共に試作機なのである。想定外の原因で燃料を余分に消費してしまう可能性も否定は出来ず、だからこそ計算値に対して倍の燃料を搭載して来たのだ。

「えー、ちょっと待ってください。」

 茜は燃料管理の画面を開き、残燃料の確認を始めるのだ。Ruby の計算に拠れば、実際に消費した燃料は、これはエンジンへの燃料の流量を積算して計測されているのだが、それは、ほぼ飛行計画通りの値だった。つまり、消費した燃料は実際の飛行時間と同じ、一時間半の分量だったのである。
 それを画面で確認した茜は、通信で答える。

「HDG01 です。燃料の残量は二時間半、ですね。」

 続いて、ブリジットの声が聞こえる。

「此方(こちら) HDG02。 此方(こちら)は正確には残量、二時間四十分、です。」

 二人の報告を踏まえ、加納が言うのだった。

「了解、HDG01、HDG02。 そうすると、作戦ポイントでの滞空時間は十分程度が妥当でしょうか。」

「え? 三十分は余裕が有る計算には、ならないんですか?」

 驚いて茜が聞き返すと、冷静な声で加納が答えるのだ。

「いえ、帰途も一時間きっかりで飛べるとは限りません。十分や二十分の余裕は残しておく可(べ)きです。」

 そこに、緒美が発言するのである。

「TGZ01、鬼塚です。加納さんの進言通り、現地滞空時間は十分を限度としましょう。防衛軍からの依頼とは言え、それに長々と付き合って、エイリアン・ドローンとの距離が詰まってしまったら、又、近接格闘戦にもなり兼ねません。そうなったら、本当に帰投する燃料が足りなくなりますから。いいですね、天野さん、ボードレールさん。」

 その緒美の意見には、茜もブリジットも、何の異論も無かったのだ。

「HDG01、了解です。」

「HDG02、了解しました~。」

 そして二人の返事に続いて、緒美は加納に謝意を伝える。

「加納さん、アドバイス、ありがとうございます。助かりました。」

「いいえ、お気遣い無く。これが、わたしの仕事ですので。」

 そう言葉を返す加納の方へ、緒美は視線を向ける。加納は AMF の外部操縦装置用シートに着き、彼の正面に備えられたディスプレイから視線を外す事無く、AMF のモニターを続けていた。

 

- to be continued …-

 

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