WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第15話.12)

第15話・ブリジット・ボードレールと天野 茜(アマノ アカネ)

**** 15-12 ****


 そうして約三十分の飛行の後、茜達は作戦ポイントへと、到達したのだった。
 防衛軍の戦術情報から、茜はエイリアン・ドローンの動向を確認、報告する。

「HDG01 です。エイリアン・ドローン、機数、針路、共に変化無し。現在高度は一万二千メートル。距離は、約百五十キロ、ギリギリ、最大射程です。」

 それを受け、緒美が指示を伝えるのだ。

「オーケー、全機、速度(スピード)を 6.0 迄(まで)、減速。目標と一気に接近しない様に、相対速度を抑(おさ)えるわ。」

 ここで『速度 6.0』とは、分速 6 キロメートルの事で、時速に換算すると時速 360 キロメートルである。
 エイリアン・ドローンは分速 10 キロメートルで飛行しているので、百五十キロメートルの距離は十五分で翔破してしまうのだ。仮に茜達が同じ速度で向かい合って飛んでいると仮定すると相対速度は倍になるので、最接近する迄(まで)の時間は半分、つまり七分三十秒となってしまう。だから、茜達の側が速度を落として、その時間を稼ぐ意図なのだ。
 ここでは茜達が分速 6 キロメートルまで減速するので、相対速度は分速 16 キロメートルとなり、百五十キロメートルの距離から最接近するのに、九分二十二秒が必要となる計算である。実際は、現時点でエイリアン・ドローンと茜達は向かい合って飛んでいる訳(わけ)ではないので、エイリアン・ドローンが現在のコースを進む限り、茜達とは針路が交錯する事は無い筈(はず)なのだが、勿論、エイリアン・ドローンが何時(いつ)、進路を変えて向かって来るのかは誰にも分からないのだ。

「それじゃ、先手はボードレールさんね。レールガンの第一撃が目標に到達してから、天野さんは射撃を開始して。」

 そんな緒美の指示に、ブリジットは問い返すのだった。

「え、どうしてですか?部長。」

「百五十キロも離れてると、レールガンの弾体が目標に到達するのに、一分程度掛かるのよ。レーザーなら一瞬で届くけど。天野さんとボードレールさんとが同時に発射したら、先にレーザー攻撃を受けたエイリアン・ドローン編隊は回避行動を取るでしょ。そうしたら、一分後に到達するレールガンの弾体は絶対に当たらないでしょ。」

「あー、成る程。確かに。こっちの弾(タマ)を当てるには、奇襲しかないって事ですか。」

「まあ、そう言う事ね。ボードレールさんは、目標が一分以上、直線飛行をするのを見込んで発射してね。火器管制装置が目標の未来位置を計算して照準を補正して呉れる筈(はず)だけど、旋回中の目標を狙っても、先(ま)ず百パーセント当たらないから、気を付けてね。」

「HDG02 了解。マスターアーム、オン。発射準備開始します。 弾体を薬室(チャンバー)へ装填。」

 ブリジットに続いて、茜も発射準備を開始する。

「HDG01、マスターアーム、オン。レーザー砲、射撃準備します。」

 そして、緒美が指示を伝える。

「準備が出来たら、其方(そちら)のタイミングで射撃を開始して。此方(こちら)で時間を計って三分経過したら合図するから、その時は一度、針路を反転して、目標との距離を取り直しましょう。」

「HDG01、了解。」

「HDG02、了解。それでは射撃照準、開始します。」

 ブリジットは戦術情報から、V字型編隊で飛行するエイリアン・ドローンの先頭の一機を選択し、射撃管制モードに切り替えて追跡する目標を指定した。

「目標(ターゲット)、ロックオン。」

 正面の視界には目標の位置を示す十字のシンボルが表示されるが、当然、百五十キロメートル彼方(かなた)のエイリアン・ドローンの姿が目視出来る訳(わけ)ではない。それとは別に、発射後の弾道を示す四角のシンボルも表示され、この二つのシンボルが重なる様に操縦すれば、計算上は発射された弾体が目標に命中するのだ。
 照準上の十字シンボルは、単純に目標の現在位置を表示しているのではなく、現時点での発射機側と目標の相対位置関係と相対運動関係を勘案した、目標の未来位置を予測して表示されている。
 四角シンボルは、発射機側と発射後の弾体の軌道を、双方の運動量や重力、空気抵抗などを考慮して計算し、目標の未来位置までの距離で弾体の通過する座標が表示されているのだ。だから例えば、HDG-B01 自体が水平姿勢を保って右へ旋回すれば、四角シンボルは照準画面上で左へと流れて行く、と言った具合になる。
 現時点でエイリアン・ドローン編隊とブリジットと茜とは、一万メートル以上の高度差が有るので、この状態からの攻撃は、ブリジットはレールガンの弾体を下から打ち上げる格好となる。とは言え、距離も十分(じゅうぶん)離れているので、必要な仰角は四度程で、実際にはレールガンの弾体は目標へ向かっての飛翔中に、重力に引かれて幾分かは落下するので、その落下を考慮して仰角を追加しなければならないが、それは火器管制装置が自動的に計算して照準上の四角シンボル表示に反映されるのだ。
 ブリジットは十字シンボルが四角シンボルの、成(な)る可(べ)く中央になるよう機体をコントロールし、HDG-B01 に搭載された AI も、それを補助するのである。そして、照準が定まった瞬間、音声コマンドを発するのだ。

「発射!」

 閃光と共に、レールガンの砲口から弾体が撃ち出されるのだが、勿論、音速の七倍程の速度で飛び出して行く弾体が見える筈(はず)もなく、飛翔中の弾体は戦術情報画面にも映らないので、あとは命中を祈る他ない。
 一方で、茜は AMF に装備されている前方監視カメラの最大望遠で、エイリアン・ドローン編隊の動向を監視している。とは言っても、百五十キロメートル彼方(かなた)のエイリアン・ドローン一機の大きさは、画面上では十三ピクセル程にしか表示されないのだが、それでもV字型編隊で飛行する様子は確認出来たのだ。その編隊は、まだレールガンが発射された事を関知した様子はなく、直線飛行を継続しているのだ。
 茜はその編隊の中の一機、ブリジットが狙った先頭の機体の、向かって右側の機体を視線で選択し、自機による射撃の目標として指定した。

「目標(ターゲット)、ロックオン。」

 そしてその儘(まま)、茜はブリジットがレールガンを発射してからの経過秒数を数える。

「…三十秒…四十秒…五十秒…六十秒…!」

 突然、小さな点の様に表示されていた編隊中央先頭のエイリアン・ドローンが不自然に揺れ、破片が飛び散っているのか、画面上で更に小さな点が後方へ流れる様に映されたのだ。次の瞬間、編隊が解かれてエイリアン・ドローン達はバラバラの方向へと動き出し、先頭だった一機は不規則に回転し乍(なが)ら落下して行く様に見えた。

「レールガン初弾、命中の模様。HDG01、攻撃に入ります。HDG02 は、右へ展開した目標を。」

 茜は、そう通信で伝えると、先にロックオンしておいた機体を追って、照準を合わせる可(べ)く、AMF の姿勢を制御しようと思考制御へ『イメージ』を入力するのだ。Ruby の操縦補助も有って、間も無くレーザー砲の軸線が標的を捉える。

「発射!」

 透(す)かさず茜は、レーザー砲の発射を指示する。AMF 機内ではレーザー照射中を知らせる電子音が「ビー」と鳴っている。レーザー光はレールガンの弾体と違って、一瞬で目標へ到達するのだが、最大望遠で捉えた敵機の画像では、レーザー攻撃が効果を発揮した様には見受けられない。

Ruby、照射時間を五秒に再設定。」

「照射時間を再設定しました。」

「発射!」

 レーザーを照射してしている間、目標を軸線から外さないように AMF の側は機体を制御し続けなければならないのだが、それは Ruby が操縦を補助している事で実現していた。しかしそれは目標との距離が遠いからこそ可能なのであり、その距離が近ければ目標の移動に対して自機側が動かなければならない角度が大きくなるので、その制御を維持し続けるのは目標との距離が縮まるに連(つ)れて次第に困難になるのだ。
 ともあれ、照射時間を増やしてのレーザー攻撃は効果が有った様子で、目標が煙を引いて落下して行くのが、望遠画像での表示は小さい乍(なが)らも確認出来たのだ。
 茜は戦術情報から、最も近いと思われるエイリアン・ドローンの一機を次の目標として選択し、照準の追跡を指定する。

「目標(ターゲット)、ロックオン。」

 ロックオンしたエイリアン・ドローンは四千メートル程、一気に降下して元の飛行コースへ復帰しようと旋回している様子だった。茜は目標を示す十字シンボルを、射線軸を示す四角シンボルへ合わせ込むように姿勢をコントロールしていく。射線軸を示す四角シンボルは、ブリジットの操る HDG-B01 に装備されたレールガンの照準の様に、表示が正面中央から大きく動く事はない。それは、レーザー光が光速で目標に到達するからで、発射機側の運動が弾道には殆(ほとん)ど影響を与えないからである。レーザー光の伝播に影響を与える可能性を有するものとしては、大気の揺らぎと、強力な電磁場が考えられる。原理的には重力もレーザー光の伝播に影響を与え得るが、地球上に存在出来る程度の重力場なら、その影響は無視していいだろう。
 大気の揺らぎは、気圧や温度、湿度などの気象情報で或る程度は補正が可能で、実際、火器管制装置にはその為の補正機能が備わっていた。電磁場に就いては、レーザー光の伝播に影響を与える程の強力な電磁場が、自然現象として地球上で発生する可能性は無いので、これは重力の影響と同様に無視されているのだ。

「発射!」

 茜は照準に目標を捉え、「ビー」と言う電子音を聞き乍(なが)らレーザーの照射を三秒、四秒と続ける。そして最大望遠の画面上で十五ピクセル程に表示されたエイリアン・ドローンが発火し、破片を散らせ乍(なが)らガクンと姿勢を崩すのを確認したのだ。
 そこで、緒美からの通信である。

「三分経過。HDG01、HDG02、反転して随伴機の左右に集合。 沢渡さん、方位(ベクター) 190 へ向けてください。一分間程、南下しましょう。」

「TGZ01、沢渡。了解です、方位(ベクター) 190 へ。」

 沢渡機長の声に続いて、茜とブリジットの声が聞こえて来る。

「HDG01、了解。随伴機の右側へ付きます。マスターアーム、オフ。レーザー砲、格納。」

「HDG02、了解。それじゃ、わたしは左側だね。針路反転します。マスターアーム、オフ。」

「TGZ01、鬼塚より、HDG01。エイリアン・ドローンの様子はどう?状況を教えて。」

 緒美のリクエストに従い、茜は戦術情報から読み取れる、エイリアン・ドローン編隊の動きを報告するのだ。

「取り敢えず、HDG02 の初弾で一機、HDG01 の射撃で二機、合計三機が撃墜。残りは九機ですが、此方(こちら)に向かって来る様子はありませんね。向こうは、飽く迄(まで)も能登半島を目指すみたいです。高度八千メートル程で、元のコースに復帰しつつあります。」

「了解、HDG01。 もう一回位(ぐらい)は仕掛けられそうね。 HDG02、ボードレールさん。」

「はい、HDG02 です。何でしょうか?部長。」

「目標が自由に機動してると、やっぱり難しい?」

「そうですね。B号機の画像センサーだと、最大望遠でも相手が『点』にしか見えませんから、目標の姿勢が判別出来ません。直進が続くのか判断出来ないと、射撃のタイミングが、どうにも掴(つか)めないですね。 茜の方は、向こうの様子が、もう少し大きく見えてるの?」

 ブリジットに問い掛けられ、茜が答える。

「ギリギリ、外形とか姿勢の判別が付く程度だけどね。此方(こちら)で見えてる最大望遠の画像は、随伴機の方でも見えてますよね?部長。」

「そうね、データ・リンクで送られて来てるから。最低でも、AMF の前方監視カメラ程度の能力が無いと、B01 のレールガンで長射程攻撃は、使いようが無いって事よね。」

 その緒美の意見に、ブリジットがコメントを返すのだ。

「そうですね、最大射程だと最初の一回、奇襲なら使えそうですけど、そのあとは、ちょっと無理そうですね。今の五分の一、三十キロ辺りまで接近すれば、B号機のカメラでも最大望遠で、そこそこの大きさに捉えられる筈(はず)ですし、弾体の到達時間も短くなりますから、それなら使い道は有ると思いますけど。」

 ブリジットに続いて、茜が意見を述べる。

「そうね、レールガンは中距離の方が使い勝手がいいでしょうね。逆に、レーザー砲は中距離だと、多分、照射時間が稼げなくなるケースが増えそうですから、中射程では使い難(にく)そうですね。まあ、近付けば長射程の時よりも照射時間が短くても効果が出るのかも知れませんけど。 取り敢えず、現在の距離では五秒程度は照射を続けないと、効果が得られない様子です。」

「流石に、何方(どちら)も一長一短、有るわね。」

 苦笑いで緒美が、そう感想を漏らしていると、社有機の左右に五十メートル程の距離を取って、AMF と HDG-B01 が並ぶのだった。
 そこで、社有機操縦席の沢渡が言うのだ。

「TGZ01、沢渡です。南下開始して一分は経過してますが、どうしますか。」

 緒美はくすりと笑い、指示を伝える。

「TGZ01、鬼塚より全機へ。それでは、三機揃(そろ)ったので、第二撃を実施します。時間的に、これが今日は最後の攻撃になりますから、その積もりで。 三機揃(そろ)って方位(ベクター) 10 まで左旋回したら、先程と同じ様に HDG02 が、先にレールガンを発射。HDG02 はタイミングが掴(つか)めたら第二射をする積もりで、弾体を装填して待機してください。HDG02 の第一射が目標に到達したら、HDG01 が射撃を開始。HDG01 と HDG02 とで一機ずつ処理出来れば、第一撃の三機と合わせて五機ですから、残りは七機になりますが、まあ、それで良しとしましょう。そこで、わたし達は帰投します。天野さん、深追いはしなくていいから、いいわね。」

「HDG01、了解。」

「HDG02、了解。」

「それでは、方位(ベクター) 10 へ、左旋回開始。」

 緒美が指示を出すと、社有機は少し機体を左に傾けて旋回を始める。AMF と HDG-B01 も、社有機に合わせて旋回を開始するのだ。茜とブリジットは旋回し乍(なが)ら、戦術情報を確認してエイリアン・ドローン編隊の様子を確認する。エイリアン・ドローン編隊は再(ふたた)び、V字型編隊を組み直して能登半島へ向かって飛行を続けていた。

「HDG02、マスターアーム、オン。目標(ターゲット)を先頭の一機に設定します。」

 ブリジットは旋回中に、射撃の準備を開始する。弾体は前回の発射後に、再装填済みである。そして旋回が終了すると、直ぐに照準を合わせるのだ。

「目標(ターゲット)、ロックオン。」

 射撃管制画面で十字シンボルを四角シンボルの中央へと合わせ、ブリジットは音声コマンドを発した。

「発射!」

 再び HDG-B01 のレールガンが閃光を放つが、弾体の目標到達には矢張り、一分程度が必要なのだ。
 その一方で、茜はレーザー砲の発射準備を始め、ブリジットは第二射の可能性に備えるのだった。

「第二射、発射準備。 弾体、薬室(チャンバー)へ装填。」

 ブリジットが次弾の装填を音声コマンドで指示するのだが、間も無く、エラーコードが返って来るのだ。

「え、何?…チャンバー閉鎖不良!? えっと、HDG02 よりテスト・ベース、レールガンのエラーで『コード 409、チャンバー閉鎖不良』って出ているんですけど。これは、再装填命令を掛ければ、クリアー出来ますか?畑中先輩。」

 その呼び掛けに、慌てて畑中が声を返して来る。

「ちょっと待って、ちょっと待って、ブリジット君! その儘(まま)、その儘(まま)で帰って来て呉れないかな。多分、ジャムってる…弾体がチャンバーに入り切らずに、ボルトが途中で止まってるんだと思うけど。どんな風(ふう)に引っ掛かってるのか確認したいんだ。」

「え~、でも、この儘(まま)じゃ、次が撃てませんよ。部長~どうしましょうか?」

 ブリジットが緒美に指示を求めると、畑中は緒美に向かって言うのだ。

「頼むよ、鬼塚君。ジャムなんて地上での試験じゃ、二千回連続でやっても発生しなかったんだ。これがもしも、一万回に一回の低頻度トラブルだったら、トラブル解消の貴重な事例(サンプル)になるんだよ。」

 緒美は直ぐに、判断を下す。

「了解です、畑中先輩。 HDG02 は、その儘(まま)で待機して。HDG02 は攻撃への参加を終了。あとは HDG01 に任せて。」

「え~。 HDG02、了解しました。」

 一言、拒否的な反応を示したブリジットだったが、最終的には畑中と緒美の意を汲(く)んで承諾(しょうだく)するのだった。そして続いて、茜が声を上げる。

「HDG01 です。間も無く、レールガンの弾体が目標へ到達します。」

 

- to be continued …-

 

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