WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第16話.02)

第16話・クラウディア・カルテッリエリと城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 16-02 ****


 安藤も微笑んで、それに応じる。

「構わないわよ~始めてちょうだい。」

「それじゃ、搭乗します。」

 そう言って、クラウディアはC号機の前に置かれたステップラダーを上(のぼ)って行く。そのステップラダー頂部の位置は、標準的な人の背丈よりも更に高い。
 C号機はA号機やB号機とは違って、ドライバーの腕や脚を HDG へ接続して制御をするのではない。だから形状としてはパワード・スーツと言うよりは、搭乗型のロボットに、より近いのだ。ドライバーは音声コマンドや思考制御で、移動する速度や方向、マニピュレータでの作業内容、それらを搭載 AI である Sapphire に伝達し、機体の動作制御それ自体は Sapphire が完全に担当する。これには LMF の設計試作と試験運用で集積されたデータと技術が、惜しみ無く投入されているのである。
 ドライバー用のシートは、C号機の正面側腹部に設置されている。『シート』とは言っても、一般的に想起される様な座席ではなく、ドライバーは半分立った様な状態で背中のパワー・ユニットを機体側に接続するのだ。そしてドライバーの腰部を機体に固定するのは、他の HDG と共通した仕様となっている。
 腰掛け部から前方には斜め下方へと下肢部を支えるクッション付きプレートが突き出しているが、それには操縦用のペダルやフットバーの類(たぐい)は、一切装備されていない。つまり、ドライバーが操縦の為に脚を使う必要は無いのだ。
 ドライバーが腕を置く肘掛けの先端には、複数のスイッチが取り付けられたコントロール・グリップが設けられてはいるが、現状ではそれに何の機能も割り振られてはいない。それはドライバーが必要に応じて、機能を付与出来るオプション扱いの入力制御装備なのだ。それとは別にプログラミング用のキーパッドが、左右の掌(てのひら)の位置に用意されているのだが、ドライバーは肘掛けの外側に設置されているバーを身体を支える為に握るのが通常状態である。
 そうやって『装着』すると言うよりは、『乗り込む』と形容出来る機体であるC号機の、外見的なもう一つの特徴が、人体に例えれば『頭部』とも言える複合センサー・ユニットの後部に装備された、弧状を描く一対の巨大な複合アンテナ・ユニットだろう。
 そのアンテナの大きさは機体全高の半分程度に達するので、長さで二メートル程の長さを有しているのだ。
 この装備こそが、C号機が電子戦を目的に開発された事を雄弁に語っており、又、C号機の機体規模が大型化した理由なのである。その巨大な複合アンテナを取り付けるプラットフォームとして、或る程度の大きさが必要であり、且つ、電子戦用の制御器機と Sapphire の AI ユニットを積み込むのには、普通の人間サイズでは無理だったのだ。

 クラウディアがステップラダーを上がって、C号機に乗り込んでいる間に、茜は安藤に尋(たず)ねるのだった。

「安藤さん、ちょっといいですか?さっきのお話ですけど…」

「なあに?天野さん。」

 安藤が今(いま)だに茜を『天野さん』と呼ぶのは、矢張り会長の孫娘だからである。加えて、緒美や樹里が『天野さん』と呼んでいるのも、多分に影響しているのだ。その事に茜は、少し引っ掛かりを感じつつも、問い掛けを続ける。

「いえ、さっきのお話からすると、Sapphire には Ruby みたいに成長する余地は無いんでしょうか?」

「ああ、全く成長しないって訳(わけ)じゃないのよ。それだったら、会話の為に『疑似人格』を乗っけてる意味が無いから。スムーズに意思疎通が取れる程度には、皆(みんな)に慣れていく筈(はず)だから安心して。徒(ただ)、感情的なニュアンスが、会話には乗って来ないとは思うけど。」

 その答えを聞いて、ブリジットが安藤に問い掛ける。

「AI に感情なんて有るんですか? Ruby だって、それ程、感情的じゃないですよ。」

「そりゃ、そうよ。AI が感情的に泣いたり怒ったりしてたら、危なくって使えないでしょ。だから、そう言ったマイナス方向へ感情が動くのは、意図的に制限してあるのよ。徒(ただ)、感情の振り幅がプラス方向だけって言うのも不自然だし、喜びの余り興奮状態になるのも危険でしょ。だから、自(おの)ずと振り幅全体を抑える方向にならざるを得ないのよね。」

「成る程、そう言うものですか。じゃあ…。」

 続けて質問しようとしたブリジットを、安藤が制して言うのだ。

「あ、ゴメン。この手のお話、詳しい事は企業秘密なんだ。あと、Ruby の聞いてる所で、する話しでもないしね。」

 ブリジットは話し掛けた言葉を、息と一緒に飲み込み、そして納得してから息を吐(は)いた。そんなブリジットの代わりに、茜が安藤に声を返すのだ。

「あー、ですよね。」

 そこで Ruby が、安藤に向かって言うのだった。

「江利佳、わたしは『不愉快』になる事はありませんから、お気遣いは無用ですよ。」

 その Ruby の発言には、日比野が言葉を返すのだ。

「そうだとしてもね、Ruby。相手が怒らないなら、何を言ってもいいって話じゃないでしょ?」

「成る程、そうですね。わたしも今後、注意したいと思います。」

 素直に納得する Ruby に感心して、樹里が声を上げる。

「今の遣り取りで、直ぐに納得出来るって言うのは、ホントに成長を感じますよね、安藤さん。」

「でしょう?樹里ちゃん。」

 そう応じた安藤は、満面の笑みである。それを見て、日比野がからかう様に言うのだ。

「出た~親バカ反応~。」

 安藤は、微笑んで言葉を返す。

「うふふふ、放(ほ)っといてちょうだい。」

 そんな折(おり)、ステップラダーから降りて来た瑠菜が、声を上げるのだ。

「カルテッリエリの接続確認、終わりました。ステップラダー、退(ど)かしますから、C号機の前から移動してください。」

 続いて、緒美が指示を出す。

「皆(みんな)、C号機から離れて。安藤さん、日比野さん、彼方(あちら)へ。」

 兵器開発部のメンバー達が移動を始めると、瑠菜と佳奈がC号機前の搭乗用ステップラダーを押して行く。
 樹里と維月はデバッグ用コンソールの前へと移動し、安藤と日比野を呼ぶのだ。

「安藤さん、日比野さん、此方(こちら)へ~。」

「は~い。安藤さん、行きましょう。」

「はい、はい。」

 C号機の前から人が消えると、瑠菜がメンテナンス・リグの操作パネルに着き、声を上げる。

「じゃ、C号機、降ろしま~す。」

 瑠菜がパネルを操作すると、メンテナンス・リグに因って三十センチ程、リフトアップされていたC号機が床面へと降ろされるのだ。脚部が床面に届いて、一瞬、更に沈む様に機体が動いて見えたのは、脚部に荷重が掛かって腰部や膝(ひざ)部の間接で自身の機体重量を支えたからだ。徒(ただ)、スカート状のディフェンス・フィールド・ジェネレーターに覆われている為、腰部や膝(ひざ)部関節の動き自体は、外部からは見えない。

「接続ロック解放します。」

 瑠菜の操作でC号機背部に接続されている、メンテナンス・リグのアームから解放されると、一度前方へC号機は上半身を揺らすのだ。しかし直ぐにバランスを取って、機体は直立を維持するのである。
 その様子をコンソール側で確認し、樹里が声を上げる。

「HDG-C01、機体バランス制御は良好。カルテッリエリさん、乗り心地はどう?」

 通信経由で樹里に尋(たず)ねられ、クラウディアは答える。その声は、コンソールのスピーカーから出力されるのだ。

「取り敢えず、大丈夫です。それ程、揺れてません。」

 続いて、緒美がコマンド用のヘッドセットで、クラウディアへ指示を伝えるのだ。

「オーケー。それじゃ、その場で屈伸、膝(ひざ)の曲げ伸ばし、やってみようか。」

「操縦は、思考制御、なんですよね?部長。」

 そのクラウディアの問い掛けには、樹里が答える。

「そうよ。屈伸運動するイメージを、頭の中で想像してみて。Sapphire が読み取って、機体を動かして呉れるから。」

「やってみます。」

 そう返事をしたあと、クラウディアは暫(しばら)く黙(だま)り、機体の制御に集中する。数秒経って、C号機は上半身を少し前方へ倒すと同時に、肘を軽く曲げた腕を少し後方へ振り上げてバランスを取り乍(なが)ら、ゆっくりと膝(ひざ)を折って身体を沈めていくのだ。
 或る程度、C号機がしゃがんだ状態になると、緒美が声を掛ける。

「オーケー、そこ迄(まで)。そこから、立って。」

 C号機は、一度、動きを止めると、今度は身体を持ち上げる方向へと、ゆっくりと動き出す。
 結局、一往復の動作に合計三十秒程を掛けて、C号機は元の直立姿勢へと復帰したのだ。

「城ノ内さん、バランス値に異常は無い?」

 緒美に問い掛けられた樹里は、コンソールのディスプレイから目を離さず即答するのだ。

「ありませんね。リターン値は全て、許容値の範囲内。綺麗なものです。」

 樹里の背後からコンソールを覗き込んでいた安藤が、顔を上げ緒美に向かって言う。

「HDG-A01 と B01、それから LMF の動作データの蓄積が有るから、C01 は最初から、可成り動ける筈(はず)よ、緒美ちゃん。」

 それに対して、樹里がコメントするのだ。

「それよりも、カルテッリエリさんのイメージを、Sapphire がどれだけ読み取れるかの方が課題ですよ。そこはお互いに、経験を積んでいくしか。」

「まあ、それはそうなのよね。」

 苦笑いする安藤に、微笑んで緒美が言うのである。

「地道に、少しずつ確認していきましょう、安藤さん。」

 そしてC号機の方へ向き直って、緒美はクラウディアに声を掛ける。

「そう言う訳(わけ)だから、もう三往復、今の屈伸を繰り返してみて、カルテッリエリさん。」

「解りました。」

 クラウディアは返事をすると、再(ふたた)び屈伸運動のイメージに集中する。今度は、直ぐに Sapphire が反応し、先刻よりも少し速く機体が屈伸運動を行うのだ。

「あ、さっきより少し早い。」

 そう、小さく声を上げたのは緒美の背後に居た、直美である。
 C号機の屈伸運動は、二回目が一回目よりも更に早く、スムーズになる。三回目は更に素早く、一往復を五秒程で完了したのだった。

「どうですか?城ノ内先輩。」

 通信でクラウディアが問い掛けて来るので、樹里は一度視線を緒美の方へと向けるのだ。それに気付いた緒美が頷(うなず)いて見せるので、樹里も緒美に対して小さく頷(うなず)いてからクラウディアに答えるのである。

「いい感じよ、カルテッリエリさん。同じ動作を繰り返すと、ちゃんと学習効果も出ているみたいだし。 貴方(あなた)の方(ほう)は、気持ち悪くなったりしてない?」

「あはは、今の上下運動は、動きが速くなると、ちょっと嫌な感じですね、今の所は、まだ大丈夫ですけど。これを繰り返してると、酔うかも知れません。」

 クラウディアの返事を聞いて、緒美は次の指示を出すのだ。

「それじゃ、今度は歩いてみましょうか。」

「歩くのは、自分が歩く動作をイメージすればいいんですか?」

 クラウディアの問い掛けには、安藤がコンソールのマイクから答えるのだった。

「あー、クラウディアさん。脚や腕の動きレベルでイメージする必要は、無いわ。基本的な動作パターンに関しては、基礎データが入ってるから。移動方向と、移動速度、そっちの方に集中してみて。」

「あー、はい。やってみます。」

 クラウディアが答えて間も無く、C号機が右脚から一歩前へと踏み出すのである。その動作にぎこちなさは特に無く、C号機は二歩、三歩と前へと進んで行く。
 そこで、緒美が声を掛けるのだ。

「はい、一旦(いったん)停止。」

 指示通りにC号機が立ち止まると、緒美が次の指示を出すのである。

「じゃあ、向きを変えて南側へ、格納庫の外へ出てみましょうか、カルテッリエリさん。」

「解りました。行きます。」

 クラウディアが返事をすると、再(ふたた)び、C号機は動き出し、直ぐに南側大扉の方向へと機体の向きを変え、一歩ずつ歩いて行く。

「あー、それじゃ大扉開けて来ま~す。」

 そう、声を上げて佳奈が駆け出そうとする所を、緒美が呼び止めるのだ。

「古寺さん、ちょっと待って。 カルテッリエリさん、大扉をC号機で開けられる?」

 大扉へと向かって歩いて行くC号機からの、クラウディアの返事が聞こえて来る。

「どうでしょう?挑戦してみます、部長。」

「やってみて、ゆっくりでいいから。」

 緒美が、そう声を掛けると、クラウディアは「解りました。」と答えたのだ。それと同時に、C号機は左側ロボット・アームを横へと上げ、マニピュレータがサムズアップのサインを形成するのだった。

「あれも基礎データの中に?」

 C号機の仕草を見た樹里が、安藤に尋(たず)ねると、安藤は両の掌(てのひら)を上に向け、苦笑いして「さあ?」とだけ答えたのだ。

 

- to be continued …-

 

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