WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第16話.06)

第16話・クラウディア・カルテッリエリと城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 16-06 ****


「そもそも、そんな予定は無かったの。天野さんが HDG を持ち出す迄(まで)は。 ですよね、部長。」

「飯田部長辺りが、そこ迄(まで)読んで、Ruby を兵器開発部(うち)へ寄越(よこ)したのだとしたら凄い話だけど、それは、まあ、有り得ないわよね。」

 そこで、黙って議事の推移を見守っていた立花先生が、声を上げる。

「ちょっと、緒美ちゃん。いいかしら?」

「何でしょう?先生。」

 立花先生は上半身を乗り出す様に前方へ動かし、緒美に尋(たず)ねる。

「さっき迄(まで)の話に、コメントはしないけど。 緒美ちゃんは、いつ頃から、そんな事を考えてたの?」

 緒美は少しの間、立花先生の目を見詰め、そして答える。

「一昨年(おととし)の夏でしたよね、兵器開発部(こちら)に Ruby が来たのは。そのあと、年末頃に掛けて航空拡張装備の仕様を決めていくのに当たって、本社からはA、B両案について、一番最初に提出したレポートの内容に対しての御要望が色々と有りましたので。その辺りのあれこれを総合して、本社や政府が Ruby を何に使おうとしているのか、漠然と見当は付きました。」

「そう言えば…。」

 思い出した様に、突然、樹里が声を上げたのである。

「…わたしが入部する時の面接で、部長がそんな感じの事を仰(おっしゃ)ってましたよね、確か。 その時、立花先生も部室に居ましたけど、覚えてませんか?」

 少しの時間、考えてから立花先生は返事をする。

「ゴメン、ちょっと覚えてないわ。緒美ちゃんは、覚えてる?」

「いえ、わたしも、はっきりと記憶しては…。」

「そうですか。その時、その話で、ちょっと重い空気になったので、わたしは覚えてますよ。まあ、今迄(いままで)、忘れてましたけど。」

 そう言って、樹里は微笑むのだった。そして、緒美が発言を続ける。

「徒(ただ)、見当は付いていましたけど、確信と言える程ではなかったし、Ruby が目論見(もくろみ)通りに使える様になるのかも、その時点では、まだ、判(わか)りませんでしたから。 でも、今年になって試作機のテストを重ねて行く内に、能力的には問題が無い事が見えて来ましたし、何より、LMF が損壊した、あの一件のあとでも此方(こちら)に Ruby が帰って来た事で、推測は確信に変わりました。 あれが別の国家プロジェクト級案件の為に開発されているのであれば、あんな風(ふう)に破損する危険の有る開発案件に貸し出して呉れる筈(はず)がありませんから。」

「そう、分かったわ。 コメントはしないけど、いいかしら?」

「構いませんよ。先生の立場は、理解している積もりです。」

 緒美と立花先生は、互いの顔を見合わせて、ニヤリと笑い合う。そして、立花先生が言うのだ。

「今日のミーティング、後半の話は、わたしは聞かないで退室した方が良かったかしらね?」

「いいえ、聞いて頂いた上で、今日のここでのお話、本社へ報告するかどうか、先生に判断して頂ければ。」

「そうやって、わたしに本社へ事実関係を確認させる積もり? 鎌を掛けてるのなら、その手には乗らないわよ。」

 そんな事を笑顔で言う、立花先生の方が鎌を掛けているのである。
 くすりと笑い、緒美は弁明する。

「そんな積もりは無いですけど。」

「貴方(あなた)達が開発作業の放棄や妨害を考えてないのなら、本社へ連絡する様な事は何も無いわ。想像や推理は自由にして貰って構わないけど、理由や秘密に就いての余計な詮索は止めておきなさい。 本社が理由を伏せたり、秘密に指定したりするのは、大概の場合、意地悪や陰謀じゃなくて、わたしや貴方(あなた)達に、余計な責任を負わせない為だから。そこの所は、勘違いしないで欲しいの。」

 そう語る立花先生に、珍しく強い口調で茜が言うのだ。

「だからって、Ruby を死なせるのが前提の計画なんて、見過ごせる訳(わけ)、無いじゃないですか!」

 それには困った顔で、立花先生は反論する。

「死なせるって…Ruby は人じゃないのよ、茜ちゃん。」

「人でなければ、何やってもいいんですか? やってる事は、昔の戦争の『犬爆弾』とかと、発想は変わりないじゃないですか。」

 すると茜の発言に就いて、樹里が緒美に尋(たず)ねるのである。

「何です?『犬爆弾』って。」

「ああ、訓練した軍用犬に地雷や爆弾を括(くく)り付けて、敵の中へ走り込ませてドカン、って作戦が有ったらしいのよね。」

「うわぁ、酷い…。」

 緒美の説明を聞いて顔を顰(しか)める樹里に、立花先生が声を掛ける。

「ちょっと、ちょっと。Ruby は動物でもないのよ、機械なんだからね。」

「でも、先生。言葉が通じる分、動物なんかよりも人に近い感じがしてますから、わたし達には。」

 そう言葉を返す樹里に続いて、緒美が発言するのである。

「こう言う反応が出るのが分かっていたから、本社は Ruby に関する計画を秘密にしているんだと思いますけどね、わたしは。」

 その緒美のコメントに対しては、立花先生は『イエス』とも『ノー』とも言えないので黙っている。立場上、立花先生が秘密に関する事には『ノーコメント』を貫くしか無い事は、緒美達、三人も理解している。そして彼女達は、この場で立花先生に本社や政府の秘密に就いて、知っている事を聞き出そうと目論(もくろ)んでいる訳(わけ)でもないのである。
 だから緒美達は、自分の見立てを表明する一方で、立花先生に対する追究はしないのだ。
 そして茜は、今度は緒美に向かって意見を投げ掛ける。

「正直言って、部長の案でも、Ruby を助ける事になるのか疑問です。『コピーが残せれば、それでいい』って話じゃない、そんな気がしますけど。」

 緒美は真面目な顔で、茜に応えるのだ。

「それは、勿論よ。一番いいのは、Ruby をそんな計画に投入しない事だけど。でも、その計画は Ruby の能力が無いと実行は出来ないだろうし、その計画自体の代替案は、多分、無いわ。 だとすれば、Ruby のコピーを残すのは『次善の策』として、最後の妥協点なのよ。幸か不幸か、立花先生の言う通り Ruby は人間じゃないから、だからこそ選択可能な救出方法でもあるの。」

「それは理解出来ますけど…何か、納得したくありません。」

 苦々しい表情の茜に、樹里が声を掛ける。

「まあ、天野さん。まだ、そうと決まった訳(わけ)じゃないんだから。」

「でも、多分。決まってから、いえ、既に決まっているんでしょうけど。それが判明してからじゃ、遅いんですよね?部長。」

 緒美は小さく息を吐(は)いて、そして言った。

「そうね。でも、それは仕方無い事よ。わたし達は、その意思決定に関われる立場じゃないんだから。 わたし達は、わたし達に出来る範囲で出来る事を考える以外に無いの。」

「出来る事が有るんでしょうか?わたし達に。」

 不安気(げ)な表情で訊(き)いて来る茜に、微笑んで緒美は言うのだ。

「普通に考えたら、出来る事は殆(ほとん)ど無いけど。でも、色んな成り行きで、普通ならやっていない筈(はず)の事を、今はやっているわ。今、出来ている事を地道に続けていれば、何かが出来得る局面が訪(おとず)れるかも知れない。だから、今の状況を安易に放り出しては駄目なのよ。この儘(まま)、HDG の開発に関わっていけば、本社の思惑は兎も角だけど、何時(いつ)かは Ruby を救うのに関わる事になるかも知れない。」

「その『計画』が部長の予想通り、二年先、いえ三年先の実行なら、部長も樹里さんも、卒業して本社採用になってますものね。」

 その茜の発言には、苦笑いで緒美が応える。

「まあ、正式に本社採用になって一年や二年じゃ、そんな発言権は無いでしょうけど。でも、城ノ内さんは多分、井上主任の所に呼ばれるだろうから、案外、Ruby に直接関与出来る可能性は高いかもね。」

 そう言われた樹里はニヤリと笑い、緒美に言うのだ。

「部長だって、引く手数多(あまた)じゃないんですか? まあ、部長の配属先は、わたしには見当が付きませんけど、それでも、在学中の経緯から考えて、引き続き HDG や Ruby に関われる可能性は高いでしょう?」

 そして視線を茜に移し、樹里は言う。

「…それに、立場って言えば、天野さんは理事長…会長の身内なんだから。 説得出来るだけの材料さえ見付けられたら、会社の判断を一気に変える可能性を一番持ってるのは、実は天野さんでしょ?」

「そんな風(ふう)に考えた事は無かったですけど…でも、祖父を動かすのは難しそうだなぁ…『可哀想だから』なんて感情論だけじゃ、絶対に納得しては呉れないだろうし。」

 「う~ん。」と上を向く茜に、微笑んで緒美が言うのだ。

「それはそうよ。これ迄(まで)に相当の費用と時間と人手が掛かってるだろうし、エイリアン・ドローン襲撃の大本(おおもと)を断とうって計画なら、人類や地球の命運も掛かっていると言っても過言じゃないでしょう? だとすれば、天野重工一社の判断で、どうにかなるとも思えないわね。旗を振ってるのは政府で、防衛軍以外にも他に幾つもの企業が関わっているんだろうから。」

 今度はガクンと下を向いた茜は、「は~。」と息を吐(は)き、顔を上げると言った。

「わたし達、そんな重大な計画に絡んでいたんですか?」

「何よ。今頃、自覚したの?天野さん。」

 呆(あき)れた様に言葉を返す緒美に、茜は反論する。

「だって今迄(いままで)、そんな説明、して呉れなかったじゃないですか。 樹里さんは、知ってました?」

 急に茜に問い掛けられ、樹里は力(ちから)無く笑って答える。

「いえ、わたしも聞いてはいなかったけど。 でも、今日の話みたいに超具体的ではないにしても、漠然とは『そう言う事』なんだろうな、位には思ってたよ。」

「因みに、他の二年生は、貴方(あなた)の目から見て、その辺り、どうかしら?城ノ内さん。」

 ニッコリと笑って、緒美が樹里に問い掛ける。樹里は、少し考えてから答えるのだ。

「そう…ですね。瑠菜ちゃんと佳奈ちゃんは、多分、そう言う事は何も考えていないと思います。あの二人は、目の前の作業に集中する方を優先している、って言うか。でも多分、維月ちゃんは、薄(うっす)らとですけど、考えていると思いますよ。 今思えば、Ruby の事も薄々、感付いていたかもですね。兵器開発部の事と井上主任、お姉さんとは一定の距離を取ろうとしてたのは、その所為(せい)かも知れません。これは、考え過ぎかも知れませんけど。」

「そう…。」

 一度、頷(うなず)いた緒美は、その笑顔を保った儘(まま)、言ったのだ。

「…矢っ張り、次期部長は城ノ内さんにお願いしたいわね。で、副部長は天野さん。天野さんには再来年の部長を、お願いって事で。」

「え?」

 二の句が継げない茜の一方で、樹里は落ち着いて言葉を返す。

「今ここで、そのお話ですか?」

 緒美は直ぐに、言葉を続ける。

「返事は急がないから、考えておいて。又、来年になったら、全員揃(そろ)った所で、正式に決めましょうか。いいかしら?それで。 その時迄(まで)に、二年生、一年生の間で相談しておいて呉れてもいいわよ。」

「いいえ、それも面倒臭(めんどうくさ)いので。部長が発議する迄(まで)、黙っている事にします。 天野さんも、それでいいよね?」

 樹里に同意を求められ、慌てて茜は答える。

「え? あ、はい。はい、いいです、それで。」

「何、動揺してるの?天野さん。」

 そう樹里に訊(き)かれ、茜は素直に答えるのだ。

「いえ、あの…『長』の付く様な役職って、そう言えば、やった事が無いなぁ、って。」

 その発言に緒美は、心底意外だという風(ふう)に言うのである。

「天野さんなら、学級委員なんか、何度も経験してそうだけど。」

 続いて、樹里が茜に尋(たず)ねる。

「成績とか、良かったんでしょ?天野さん。」

「え~と…。」

 そう声を上げ、少し間を置いて、茜は答えるのだ。

「…その成績の所為(せい)で、極一部から凄い反感を買っていた様子でして。そう言った役回りは、もっと人気(にんき)の有った子の方へ回ってましたね、幸か不幸か。」

 その茜のコメントに、立花先生を含めて三名が、同時「ああ~。」と声を上げるのである。

「別に、そう言った事を進んでやりたいと思うタイプでもないので、気にした事は無かったんですが。…こう言うと、負け惜しみみたいで、嫌なんですけど。」

「天野さん、貴方(あなた)って、割と理不尽な目に遭ってるのね…。」

 樹里のコメントを受け、真面目な顔で茜は言う。

「結局、要領が悪いんでしょうね。」

 すると、立花先生が心配そうに訊(き)いて来るのだ。

「この学校では、大丈夫?茜ちゃん。」

「ああ、それは、もう。皆(みんな)、常識が通じるし、おかしな反感とか、向けられた事は無いです。あ、唯一(ゆいいつ)、例外と言えばクラウディアですけど。まあ、クラウディアも、今は大丈夫ですね。 ともあれ、そう言った意味でも、この学校に来て、良かったと思ってます。」

 笑顔で答える茜に、立花先生も微笑んで「そう、なら、良かった。」と、安心のコメントを返すのだ。
 続いて、緒美が茜に対して言うのである。

「そう言う事なら、部活の部長も、経験しておくといいんじゃない? その、将来を見据えて。」

 その含みの有る言い方に、茜は聞き返すのだ。

「何(なん)です?将来って。」

 それには樹里が、半分、茶化す様に言うのである。

「日比野先輩から、本社の方で噂になってるって聞いたよ。天野さんが将来、社長になるの、期待されてる、って。」

「何年先の話ですか、それ。 大体、おじ…会長が、世襲みたいなのは認めてないですし。」

 反論する茜に、立花先生が別の見解を提示する。

「まあ、三十年か四十年先の事だろうから、その頃には色々と状況も変わってるでしょ。それに、創業家出身の者(もの)が、社内に居たらね、何(いず)れ『そう言う時』に担ぎ上げられる事になるは、覚悟しておいた方がいいわよ。」

「ええ~、家(うち)は天野重工の天野家とは、別の天野家なんですけど…。」

 再(ふたた)び反論を試みる茜だったが、それに被せる様に樹里がコメントを加えるのだ。

「名字よりも、血縁の方でしょ?大事なのは。」

「わたしも、期待してるからね。天野さん。」

 樹里に続いて緒美が、嫌味ではない無邪気な笑顔でそう言うので、茜は思わず声を上げるのだった。

「もう、妙なプレッシャー、掛けないでください!」

 それから間も無く、この会合は終了したのである。

 

- to be continued …-

 

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