WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第16話.08)

第16話・クラウディア・カルテッリエリと城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 16-08 ****


 とは言え、この試験自体には、特にドラマティックな要素は無い。唯(ただ)、事務的に淡々と、試験項目が消化されていくのみなのだ。
 その内容に就いて、大まかに次に記そう。

 ここで確認が計画されているのは、C号機に搭載された電子戦器材の内、電波妨害等の発信能力と、敵側の電波発信源を探知する能力なのである。そこで、AMFとレプリカ零式戦のそれぞれに、C号機が発信する妨害電波の受信器と、敵側の電波源を模擬する発信器とが取り付けられ、それらと送受信する事でC号機に於ける該当機能の確認を行うのだ。
 先(ま)ず、C号機から発信される妨害電波が、設定された周波数や波形、出力であるかを、AMF とレプリカ零式戦の側で受信して、その信号を記録、解析する。その解析自体は、AMF やレプリカ零式戦の機上ではリアルタイムに処理は出来ないので、受信データはデータ・リンクでテスト・ベースへと送られ、そこで暫定的な解析が行われる。詳細な解析は後日、データが送られる本社にて、同時に記録されたC号機の複数のログと照合がされて、その能力が仕様に合致しているかの判断がされる事になるのだ。
 エイリアン・ドローンが機体間の通信に使用している電波の周波数帯は、防衛軍の地道な記録と解析に拠り判明しているので、今回もその範囲から試験で使用される周波数が選定され、検証がされる。
 C号機は妨害電波を妨害対象へ指向して発信する仕様なので、今回は AMF とレプリカ零式戦の二方向へ向けて、設定通りに発信されるかが確認され、更に、二方向で別々に機動する二機それぞれに対し、妨害電波の照射を続けられるかも確認される。因(ちな)みにC号機は、二百五十六機を同時に追跡し電波妨害を実行する能力が、仕様上は予定されている。
 C号機による妨害対象の追跡は、基本的には防衛軍データ・リンクの戦術情報を基礎情報として照射方位の指定が行われているのだが、妨害対象から発信された電波を受信した場合は、それを分析し、その位置を特定する。その能力を確認するのが、AMF とレプリカ零式戦に取り付けられた発信器からの電波を、C号機で受信して解析する試験項目なのである。
 これも、任意に機動する AMF とレプリカ零式戦の、防衛軍が捕捉した戦術情報上の位置データと、各目標機から発信される電波をC号機で受信して特定した位置データとを照合し、その精度を確認する。
 AMF とレプリカ零式戦に取り付けられた発信器には二種類の周波数が設定されており、データ・リンクに因ってベース側から周波数の切り替えが行われる。電波の周波数二種を仮にA、Bと呼ぶならば、二機での、その発信パターンは四種類が考えられ、則(すなわ)ち、AA、AB、BA、BBの組合せとなるが、C号機は全ての組合せで、発信源である二機の位置を特定出来る能力が要求されているのだ。これも、仕様上では十六種の周波数を同時に識別して、位置特定の処理が可能である事になっている。

 これらの試験は順調に消化されていき、ブリジットが心配した様なイレギュラーな事態は起きない儘(まま)、日没前には全機が無事に学校へと帰投したのだった。
 C号機の電子戦能力についての最終的な判定は、本社での詳細なデータの解析を待たなければならないのだが、この日に確認した範囲では大きな問題の発生は無く、クラウディアの実機での飛行慣熟と言う、もう一つの目的も達成され、試験飛行自体は当初の目的を達したと言って良い結果であろう。
 そして、この日の試験飛行を以(もっ)て、C号機の納入に付随する作業の全てが終了したである。
 安藤と日比野は、この日の夜に、社有機で本社へと戻り、畑中達試作部の人員は何時(いつ)も通りに、陸路移動での試作工場へと、翌朝に出立(しゅったつ)したのだった。


 そして翌日、2072年10月16日、日曜日。
 土曜日の試験飛行に於いて、クラウディアに対するC号機への慣熟と言う段階(ステージ)は終了し、翌日からは Sapphire に因る、エイリアン・ドローンの通信電波を解析する為の準備作業へと、クラウディアの作業は移行したのである。
 その一方で、C号機は格納庫内でメンテナンス・リグに接続された儘(まま)となっている訳(わけ)だが、Sapphire はその状態で AMF と B号機とのデータ・リンクを利用した空中戦シミュレーションを続行するのだ。C号機の戦闘機動はドライバーであるクラウディアの存在とは関係無しに機上 AI である Sapphire が制御しているので、実際に機体を動作させないシミュレーションであれば完全自律行動が可能なのである。これは、以前に LMF の格闘戦シミュレーションを Ruby が一晩中実行していたのと同じ事である。今回は、茜とブリジットとの連携を Sapphire に習得させる目的で、これら空戦シミュレーションには茜とブリジットが参加して実施されるのだった。
 C号機の飛行ユニットには、AMF の様な攻撃用の兵装は一切搭載されてはいなかったが、唯一(ゆいいつ)、C号機本体の両腕には、格納式のビーム・エッジ・ソードが用意されていた。これは、超接近戦時の反撃用の装備であり、この装備の為には、LMF で Ruby が学習したロボット・アームを用いた攻撃動作のデータが、Sapphire には移植されていたのである。
 C号機が実戦に投入された際は、可能な限りA号機とB号機でC号機を護衛する方針なのだが、万が一、茜とブリジットの防御ラインを突破された場合を想定して、Sapphire にはクラウディアを守る為に、その装備の使い方を習得させておく必要が有るのだ。シミュレーションのシナリオには、その様な状況も設定されて、二人と一基は空戦シミュレーションを繰り返していったのである。

 それと同時に、部室ではクラウディアと維月の二人が、Sapphire との回線を接続して、電波解析の為のアプリケーション開発を進めていたのである。
 先(ま)ず最初の段階として、受信した電波がエイリアン・ドローンから発信されたものであると言う、証拠になる『マーク』を見付けなければならない。本社を介して防衛軍から提供されていた、エイリアン・ドローンからとされる数十時間分に及ぶ受信データの波形を分析して、特徴的な波形の組合せが存在するかを探し出すプログラムを、クラウディアと維月は開発しているのだ。そのプログラムを試作しては Sapphire に実行させ、防衛軍提供のデータから『マーク』が取り出せるか、そんな作業を二人は、当面の間、繰り返して行くのである。

 これら作業の必要性は、エイリアン・ドローン達が通信に使用しているらしい電波の周波数が、状況に応じて柔軟に変更されて運用がされている事に由来するのだ。もしも、エイリアン・ドローンが使用している電波の周波数が固定、若しくは狭い範囲の帯域であれば、その周波数に対して傍受や妨害を行えば話は済むのである。だが、エイリアン・ドローンは人類が既に使用している電波の周波数は避けて、その場で空いている周波数を使用して互いの通信に利用している事が観測の結果から、推測されているのだ。
 エイリアン・ドローンの襲撃が始まって二年程の間、各国の軍隊はエイリアン・ドローンの通信周波数を突き止めて ECM を行おうとしたのだ。だが、その都度(つど)、エイリアン・ドローン側は使用周波数を『その場で』変更してしまうので、人類側は電子戦攻撃を効果的に行えないのだった。それならば『エイリアン・ドローン側が使用する可能性が有る全ての帯域に対して、電波妨害を実施すれば』と言う、極端なアイデアも出されたが、それを行うには器材(ハードウェア)的な制約と、それ以上に、それを実行すると人類側も通信が出来なくなるのが明白なのである。過去の記録から、エイリアン・ドローンが使用している通信電波の帯域はマイクロ波からミリ波、周波数にして 20GHz から 50GHz と判明しており、その周波数帯は軍民を問わず人類も、既に盛んに使用しているのである。
 各国の軍組織や防衛産業関連企業も、それぞれが対策の研究はしていたが、エイリアン・ドローンに対する ECM に関しては、現状で『諦(あきら)めムード』が支配的なのだったのだ。

「それじゃ、今度は、この条件で走らせてみましょうか。 はい、実行。お願いね、Sapphire。」

 クラウディアが、そう言って愛用の PC のエンター・キーを叩くと、クラウディアのモバイル PC から Sapphire の声が響くのだ。

「ハイ、解析プログラム No.5 を実行します。」

「それじゃ、暫(しばら)くは結果待ちね。お茶にしましょうか?クラウディア。」

 維月は席を立つと、部室の奥側へカップを取りに行く。

「紅茶でいい?クラウディア。」

「ああ、ありがとう、イツキ。いいわ、紅茶で。でも、勝手に使って、大丈夫? 森村先輩のじゃないの?」

「大丈夫よ~許可は貰ってる。」

 維月は手際(てぎわ)良く、紅茶を淹(い)れる支度を進める。そして、ティーポットにお湯を注ぐと、カップと共に部室中央の長机へと運んで来るのだ。

「そう言えば、下の空戦シミュレーションも同時に処理してるんでしょ? 大変ね、Sapphire。」

 カップを並べつつ、クラウディアの PC へ向かって、維月は語り掛ける。

「問題ありません、維月。この程度の並列処理であれば、十分(じゅうぶん)に実行可能なように設計されていますから。」

 Sapphire の返事を聞いて、クラウディアは微笑んで言うのだ。

「それはそうよね。実際に飛行ユニットの操縦をし乍(なが)ら、ECM の処理をやらないといけない仕様なんだから。」

「ハイ、クラウディア。その通りです。」

 維月はカップに紅茶を注ぐと、クラウディアの前へと置いた。

「はい、どうぞ。」

「Dank.」

 クラウディアは敢えてドイツ語で維月に礼を言うと、カップを取り口元に運んで息を吹くのだ。

「まだ熱いから、気を付けてね。」

「解ってる。」

 くすりと笑い、クラウディアは更に三回、息を吹き掛けて、それから口を付けた。
 維月も紅茶に口を付け、そしてクラウディアに問い掛ける。

「これで、十分(じゅっぷん)程待って、様子見?」

「そうね。 まあ、そう簡単にお目当てのパターンが見付かるとは思えないから、地道に、気長に進めましょう。まだ、始めたばかりじゃない。」

「それでも、今ので五つ目のプログラムでしょ? このあとの、解析プログラムを改造するアイデア、まだ当てが有るの?」

「勿論。あと十や二十は、試してみるだけのネタは持ってるわ。」

 そう答えたクラウディアは、維月に向かってニヤリと笑ってみせるのだった。それには呆(あき)れた様に苦笑いを返して、維月は尋(たず)ねるのだ。

「それって、ハッカー的な引き出しなの?」

「まあ、そうね。やってる事は、暗号解読(デコード)の手法(テクニック)の応用よ。」

「エイリアン・ドローンの通信が解読出来るの?」

「まさか、それは無理。時間を掛ければ、信号的には暗号化前の信号へ変換までは出来るだろうけど、向こうの使ってる文字コードとか想像も付かないからテキストには出来ないし、辞書が無いから翻訳も不可能だわ。」

「だよね。だから鬼塚先輩の云う通り、信号の共通したパターンを見付ける程度までしか出来ない。」

「そう。徒(ただ)、暗号解読(デコード)を進めるには、共通した信号のパターンを見付けるのが第一歩なのよ。だからその方法が、今回の解析に利用出来る、ってだけ。」

「ふうん、ま、『餅は餅屋』って事か。凄いよね、わたしには無理な芸当だな。」

 そう言って、維月はカラカラと笑うのだ。
 すると、真面目な顔でクラウディアが言うのである。

「凄いのは、部長さんの方(ほう)よ。 通信波形の解析をベースにして、ECM へ応用する仕掛けを、これだけ思い付くんだから。世界中の大人達は、何をやってるんだって話よ?」

「あはは、立花先生辺りが聞いたら、『耳が痛い』って言いそうな台詞よね、それ。 まあ、鬼塚先輩のアイデアは確かに凄いんだけど、それも、クラウディアが入学して来てなかったら、どうなってたかって事だよね。」

「その時は、本社か防衛軍の、その筋の人の所へ、この作業が回ってただけでしょう。 わたしだって、この作業を遣り切れるか、まだ判らない訳(わけ)だし。」

「クラウディア的には、ミッション達成の可能性は何パーセント位だと思ってるの?」

「五十パーセント?かな。 でも、『ストローブ信号』的なものは、必ず存在する筈(はず)なのよ。通信が暗号化されてるなら、その先頭が判らないと解読(デコード)のやり様が無いから。」

「そうよね。データの遣り取りやってるのに、信号を垂れ流しってのは、ちょっと考えられないよね。何なら、『ストローブ信号』を受け取ったら『ACK(アック)信号』返して、ハンドシェイクが確立してからデータ受信開始って位、念入りにやってるかもだし。」

「幾らエイリアンの技術が進んでいるからって、その手の原理的な手続きを無視して、それで効率的なデータの送受信が出来てるとは考えられないよね。『ACK(アック)信号』が存在するかは判らないけど、最低でも暗号通信の始めと終わりには、何かしらのマークが無いと。 まあ、そのマークが一種類だけ、とは限らないかな。」

 そこで、クラウディアの PC から、Sapphire の合成音声が聞こえて来るのだ。それは、実行していた解析プログラムの、途中経過の報告である。

「クラウディア、解析プログラム No.5 のプレビューが終わりましたので、結果を表示します。全体スキャンに移りますか?」

「あー、ちょっと待って。確認するから。」

「ハイ、待機します。」

 クラウディアがモバイル PC のスクリーンを覗き込むと、向かい側の席に着いていた維月は席を立ち、クラウディアの背後へと回って、クラウディアの頭越しに PC のスクリーンに注目するのだ。

「Oh! 今度は三十八件、ヒット判定が出てる。五つ目で、やっと当たりかな~ああ、でも、一致率が四十二パーセントかぁ…まだまだ、改善の余地有りね。」

「プレビューって、サンプル・データからランダムに百箇所抽出(サンプリング)して、共通パターンの検出を掛けてるのよね?」

「そうだけど、抽出(サンプリング)した百箇所に、必ず通信の始まりと終わりが入っているとは限らないから。問題はヒット判定パターンの、一致率の方よね。 もう少し比較の精度を上げて、抽出(サンプリング)箇所の時間を延ばしてみようかな。」

「今は、何秒?」

「三秒。 五秒位まで、延長してみようか?」

「それよりもさ、クラウディア。切り出す時間を固定してやるよりも、信号の切れ目を検出して、切れ目から切れ目迄(まで)を抽出(サンプリング)した方が良くない?」

「アイデアは解るけど、イツキ。その条件組むのは、可成り面倒(めんどう)よ。」

「サンプリングのモジュール、わたしが弄(いじ)ってみてもいい?クラウディア。」

 維月は元居た席へ戻ると、机の上に置いてあった自分のモバイル PC を開くのである。
 クラウディアは、少し遠慮気味に維月に応える。

「それは、構わないけど。」

「じゃ、こっちに送ってちょうだい。」

 維月は両手の指を組んで、解(ほぐ)す様に左右に動かしている。

「それじゃ、お願い。こっちは比較検出のトラックを複数化してみるわ。」

「了~解。」

 二人がプログラムの修正を始めて間も無く、部室の奥側、二階通路に繋(つな)がるドアが開き、緒美と樹里が入って来たのだ。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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