WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第16話.09)

第16話・クラウディア・カルテッリエリと城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 16-09 ****


 そして維月が真っ先に、緒美に声を掛けるのだ。

「あ、鬼塚先輩。今日の飛行訓練は終わりですか?」

「ええ、もう四時になるのよ。今日は日曜日だから、ここも五時には閉めるからね。」

 そう言われて、維月は部室の壁に掛かっている時計で時刻を確認し、「あ、ホントだ。」と思わず声を漏らすのだ。クラウディアと二人で、解析プログラムの作業に没頭していたので、維月は、すっかり時間を忘れていたのである。
 そんな維月に、樹里が尋(たず)ねる。

「それで、進捗はどう?」

 維月は「う~ん。」と唸(うな)ると、苦笑いしてクラウディアに話を振るのだ。

「…どうかな?クラウディア。」

 クラウディアはキーボードを叩く手を止め、樹里の方へと顔を向けて報告する。

「まだ、『海の物とも、山の物とも』って感じですね。取り敢えず、今、改造しているプログラムで六本目ですけど。」

「まあ、初日から、結果なんか出ないよね。慌てる必要は無いから、じっくりとやってちょうだい。」

 樹里は笑顔で、そう返すのだった。それに続いて、緒美が付け加える。

「じっくりやって貰っても構わないけど、今日は、あと一時間位で切り上げてね。」

「は~い。」

「分かりました。」

 維月、クラウディアの順に、それぞれが返事をすると、維月が樹里に問い掛ける。

「…と言う事は、下の方は、もう終了作業中?」

「そうよ~天野さんとボードレールさんは、そろそろ上がって来るんじゃないかな。今日は三機で空戦シミュレーションをやってただけだから、片付けも早く終わると思うけど。」

「そう。じゃあ、あと三十分で、これだけ、やってしまおう。」

 維月は、自分の PC へと向き直ると、キーボードを叩き始めるのだ。樹里は維月の背後へと回り、その作業を眺(なが)めつつ問い掛ける。

「維月ちゃんは、何やってるの?」

「サンプル・データの抽出(サンプリング)モジュールのね、アルゴリズムの変更。ちょっと、思い付いたのが有って。」

「ふうん…。」

 樹里は顔を上げ、正面の席に居るクラウディアにも尋(たず)ねるのだ。

「…カルテッリエリさんの方は?」

「はい。比較検出の処理を、トリプル・トラックにする改造を。」

「三本、並列処理? 目的は高速化?」

「いえ、暗号化通信の先頭マークが、一つだけとは限らないので。二、三種類が存在するのなら、それを同時に引っ掛けてみようかと。」

「成る程…解った。進めてちょうだい。」

「はい。」

 返事をするとクラウディアも、猛然とキーボードをタイプし始めるのだ。
 そんな三人の様子を、笑顔で眺(なが)めている緒美に気付き、樹里が声を掛けるのである。

「部長の方から、何か?」

 緒美は笑顔を崩す事無く、言葉を返すのだ。

「いいえ。其方(そちら)の作業に就いては、統括は城ノ内さんに任せるわ。それが一番、間違いが無さそうだから。」

「それは構いませんけど、御意見が有ったら、遠慮無く言ってくださいね、部長。」

「あはは、実務の具体的な内容になったら、わたしの知識じゃ丸で追い付かないから。仕様書の方向性に沿って、進めて呉れてると信じてるわ。」

 樹里は、微笑んで応える。

「それは、御心配無く。」

 その言葉に、緒美も微笑みを返すのである。
 そこで、不意に維月が、緒美に問い掛けるのだ。

「そう言えば鬼塚先輩、さっきも話してたんですけど、クラウディアみたいな特殊技能(スキル)持ちが、今年、入学して来てなかったら、どうされるお積もりだったんですか?」

「どうするも何も、その時の条件で出来る様にやっただろうって、それだけの事よ。今年の一年生達が、別格に特殊だったから、開発作業は異常に進展しているけど、これは想定外の事態よね。わたしの感覚だと、今年に入って二年分位、一気に作業が進んだ様に思うわ。 本社の方(ほう)の思惑は、知らないれけどね。」

「例えば、クラウディアがこの学校に来たのは偶然じゃなくて、学校や本社の側が、人材を確保する為に何かしら手を回した、とか。そんな事は、無いですよね?」

 それは維月の、聊(いささ)か陰謀論めいた思い付きだったのだが、実際、疑問を口にした当の維月も、半笑いでなのである。それには、苦笑いして樹里が言うのだ。

「HDG の、開発作業の為に?」

 その苦笑いは緒美にも伝染し、そして言うのだった。

「さあ、少なくとも、わたしは知らないわね。」

 するとクラウディアが、声を上げるのだ。

「それは、無いわね、イツキ。 この学校に入学する事は、誰かに勧められた訳(わけ)ではないから。わたしに関しては、全くの偶然よ。 アカネの場合は、どうだか知らないけどね。」

 今度は緒美が、微笑んで維月に問い掛ける。

「井上さんは、どうして、そんな風(ふう)に思ったのかしら?」

 維月は視線を上に向けて暫(しば)し考え、そして答えた。

「そうですね。余りにも都合の良い人材が揃(そろ)っている様な気がして、誰かの意図が反映されている…のではないか?と、言った所でしょうか。」

 維月の意見を聞いて、緒美はくすりと笑い、そして言うのだ。

「井上さん、それは考え方が逆なのよ。今、居る人材の能力に合わせて、開発作業の内容が決まっているのが事実なの。今の開発作業が予(あらかじ)め決まっていたと考えるから、人材の能力がそれに合わせて揃(そろ)えられた様に思えるだけで。 さっきも言った通り、揃(そろ)っている人材の能力が今よりも低かったなら、その場合は、その時の能力の総量に見合った開発作業の内容になっただけの事だわ。」

 続いて、樹里が補足する。

「どうして、それだけの能力の人材が、貴方(あなた)を含めて、ここに揃(そろ)ったのか、って言うなら、それは、この学校がそう言う学校だから、って以外に無いですよね。ねえ、部長?」

「まあ、そう言う事でしょうね。」

 緒美は、微笑んで頷(うなず)くのだ。
 そして維月は、一呼吸置いて緒美に問い掛ける。

「あの、鬼塚先輩。この前、クラウディアに訊(き)いてた、防衛軍に協力する件、あれ、本当にやるんですか?」

「その話を、訊(き)きたかったの?井上さん。」

 数秒、維月は応えなかった。すると、クラウディアがキーを叩く指を止めるのだ。
 そして、維月は口を開いた。

「…まあ、そうですね。正直(しょうじき)、クラウディアを戦闘が起きるかも知れない現場に出すと言うのは、賛成出来ません。」

「天野さんと、ボードレールさんなら、構わないの?」

 その、少し意地の悪い緒美の問い掛けに、維月は軽くイラッとして言葉を返す。

「そんな事、言ってませんし、本来なら天野さん達が出るのだって良くないって、鬼塚先輩も思ってるんじゃないですか?」

 緒美は、微笑んで維月の問いに答える。

「そうね。その通りよ。」

 維月は、言葉を続ける。

「今迄(いままで)のは、緊急回避的な防御行動だった筈(はず)ですけど、今度のは違いますよね? わたし達が、そこ迄(まで)付き合う必要性は、無い筈(はず)です。 だったらここで、もう、わたし達は手を離す可(べ)きなんじゃないですか? 部外者のわたしが言う事じゃ、ないかも知れませんけど。」

「成る程。」

 緒美が一言を返すと、今度は樹里が、維月に向かって宥(なだ)める様に言うのである。

「取り敢えず、今、貴方(あなた)達がやってる作業、『マーク』の分析が出来る事が、次の実験…実戦? その、参加条件なんだけどね。エイリアン・ドローンの通信電波が特定出来ないと、照射する妨害電波の周波数を確定出来ない訳(わけ)だし。」

 樹里に続いて、緒美が維月に問い掛ける。

「協力を継続して貰うのは、難しいかしら?井上さん。」

「心情としては、迷う所ですね。」

「だったら貴方(あなた)は、ここで降りても構わないのよ? 此方(こちら)としては、無理強(むりじ)いは、する積もりは無いから。」

「鬼塚先輩は、どうあっても手を引く気は無い、と?」

「そうね。今、この案件を手放す事は出来ないの。」

 それは、先日の会合に参加した三人が話し合った通りで、緒美は将来的に Ruby の救出を実現する為には、HDG 開発計画への関与は止められないのだ。徒(ただ)、その事情を知っている者(もの)は、この場に居るのは樹里だけなのである。

「それが何故なのか、教えては頂けないんですよね?鬼塚先輩。」

 維月は、少し寂し気(げ)な表情で、緒美に確認するのだった。そして緒美は、ゆっくりと頷(うなず)いて、維月に言ったのだ。

「そうね。今は話せる段階ではないわね、申し訳無いけど。」

 それは緒美と樹里に因る、維月への配慮である。現時点では何の確証も無いにせよ、Ruby をミサイルの誘導装置として使用する計画が緒美の予想した通りなら、維月の姉である井上主任は、その計画を主導する側の人間であるのだ。
 Ruby の開発チームのリーダーである井上主任が『その計画』を知らない筈(はず)はなく、その上で敢えて参画しているからには、それなりの理由が有るのだろう、そう緒美と樹里は考えていた。であれば、その理由が判明する迄(まで)は、維月に対して『その計画』に就いては、伏せておきたいのである。
 勿論、井上主任が『その計画』に参加している理由が、単に『社命だから』と言う、ドライな理由である可能性も有ったが、樹里や緒美がそうだとは思っていないのは、安藤達から聞き及んでいた井上主任の人物像が影響していたし、何よりも維月自身の人柄が、その『維月の姉』を『そんな人物』ではないと想像させたからである。

「少なくとも、カルテッリエリさんは危険を承知で、試験への参加を承諾して呉れてる。彼女の意思も尊重してあげて、維月ちゃん。」

 その樹里の発言に、少なからず驚いて維月は言葉を返すのだ。

「樹里ちゃんが、そんな事、云うなんて思わなかった。」

「そう?」

 短く応え、力(ちから)無く笑う樹里の表情に、或る程度の事情を樹里は知っているのだと、その時、維月は推測したのだ。当然、樹里を問い詰めてみた所で、緒美の様に話しては呉れない事は維月にも容易に想像が付いたし、樹里を困らせる事は維月の望む所では無いのだ。
 そして、続いて声を上げたのは、それ迄(まで)、黙って状況を見ていたクラウディアである。

「イツキ、心配して呉れるのは嬉しいけど、だからって邪魔はしないでね。」

 その言葉を聞いて維月は、冷めた表情のクラウディアに、真面目に問い掛けるのだ。

「クラウディア、貴方(あなた)、まさか敵討(かたきうち)をしたいの?」

 クラウディアは表情を変える事無く、答える。

「それを全く考えてないって言ったら、嘘になるけど。でも、今は冷静だから、安心して呉れていいわ、イツキ。 大体(だいたい)、何をした所で、アンナが帰って来る訳(わけ)じゃないし。」

「そうね。」

 クラウディアの発言を短い言葉で肯定したのは、緒美である。それを聞いて、クラウディアの表情は、ふっと緩むのだった。そして少し笑って、クラウディアは告白するのである。

「…敵討(かたきうち)って話なら…実は、その当時、わたしが考えていたのは、ドイツ空軍への復讐でしたけどね。エイリアンに、ではなくて。」

「どうして?…」

 その意外な発言に、真意を質(ただ)したのは維月だった。クラウディアは間髪を入れず、答える。

「だって、アンナを死なせたのは、直接的には空軍の爆撃よ? だから、色々と調べたわ。」

「非合法な手段で?」

 樹里の問う『非合法な手段』とは、勿論、『ハッキング』の事である。
 クラウディはくすりと笑い、樹里に向かって頷(うなず)くと言うのだ。

「空軍のシステムに侵入して、クラッキングする事も出来ただろうし、あの日、爆撃した戦闘機のパイロットを突き止めて、そっちを攻撃する事も考えました。」

「でも、やらなかったのよね?」

「はい。冷静に考えれば、空軍がアンナを殺したかった訳(わけ)では無いだろうし、ミサイルを発射したパイロットだって命令に従ってただけだろうし。じゃあ、命令を下した上官に責任が有るのか…誰に責任が有るのかなんて、結局、判りませんでした。それで仮に、本当に空軍のシステムを破壊してたら、防空の任務が果たされず、エイリアン・ドローンの襲撃が有った時に、別の、もっと多くの被害が出てたでしょうし。そんな事は、誰も、わたしも望んでいませんから。 それに、結局…直ぐに、わたしが手を下す必要も無くなりましたから。」

 樹里の確認に答えた最後、クラウディアの顔から、表情が消えたのである。だから緒美は、クラウディアに尋(たず)ねたのだ。

「何か有ったの?」

 緒美の方へ視線を移し、クラウディアは感情の籠(こ)もっていない口調で答えたのである。

「そのパイロットが、自殺したんですよ。自分が発射したミサイルの標的、わたし達が埋まったビルには、彼の奥さんと娘が来ていて…。」

「その人達も、助からなかったのね。」

 緒美は、クラウディアが最後までを云う前に、話の結末を確認をしたのである。クラウディアは、静かに唯(ただ)、頷(うなず)いて答えたのだった。そして、緒美はクラウディアに問い掛けるのだ。

「その事件、どんな展開だったのか、聞いてもいいかしら?カルテッリエリさん。 話すのが嫌だったら、言わなくてもいいけれど。」

 クラウディアは力(ちから)無く笑って「いいですよ。」と答え、それから語り始める。

「わたしが住んでいた町に、エイリアン・ドローンの襲撃が有った、あの日は土曜日でした。あとで聞いた当局の発表だと、降下してきたのは三機で、空軍の迎撃を擦り抜けて来た一機が、街の中まで入って来ました。わたし達は行政からの避難指示を聞いて、その時に居たショップが入っていたビルの地下へ避難しましたから、直接、状況の推移を目撃した訳(わけ)じゃありません。」

「あとで、その、『調査』して仕入れた情報なのね?」

 樹里が敢えて『調査』と云ったのは、当然、『ハッキング』を意味している。クラウディアは素直に「はい。」と答えると、語りを続けるのだ。

「それで、街の中に侵入して来たエイリアン・ドローンは、地上に降りて商業ビルの一つ、地上階に天井の高い展示スペースが有るビルの中に入ってしまったんです。だから、その現場に到着した空軍機からは、エイリアン・ドローンの姿は視認が出来ず、目標のビルは司令部の管制官が指示しました。その時点で、指示されたビルが通り一つ間違っていましたが、パイロットは目標の確認をしないで対地ミサイルを発射したんです。それで、わたし達が避難して居たビルが倒壊した、そんな流れです。」

 緒美は溜息を一つ吐(つ)き、呟(つぶや)く様に言うのだ。

「成る程…そもそもは管制官の指示ミスが原因だけど、パイロットが注意深く確認をしていれば、誤射は回避出来たかも知れない、って事よね。その誤射で自分の家族も死んでいたとなると、ホント、悲劇よね…。」

「悲劇…ですか。当時、その報道を聞いた時、わたしは一人で笑っちゃいましたけど。でも…今、改めて考えると、確かに、酷(ひど)い偶然で…悲劇的ですよね。」

 そう、独り言の様に言ったクラウディアの目からは、一筋の涙が零(こぼ)れたのだった。

 

- to be continued …-

 

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