WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第16話.11)

第16話・クラウディア・カルテッリエリと城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 16-11 ****


「HDG03、カウントダウン、5…4…3…。」

 緒美は、電子攻撃開始へ向けて秒読みを開始する。

「…2…1…電波妨害、開始。」

「HDG03、電波妨害を開始します。」

 クラウディアの宣言を受け、Sapphire が妨害電波の送信を開始する。HDG-C01 の外見的には頭部、複合センサー・ユニット後部の、一対の巨大な複合アンテナが微少に動作をしている程度しか、動きが見られないのだが、しかしそれは確実に機能しているのだった。
 電波妨害を受けているエイリアン・ドローンの側には、特に変わった動きは見られなかった。だが、実は、その事こそが異常だったのだ。飛来するミサイルに対するエイリアン・ドローン達の回避行動は、その開始が明らかにタイミングを逸しており、日本領空へと接近していたエイリアン・ドローン五十四機の内、実に二十九機がイージス艦の放ったミサイルによって撃墜されたのである。
 これは、57%の命中率を記録した事になり、この数字は従来の倍を超える値だったのだ。
 その事実を受けて、防衛軍の統合作戦指揮管制からの通信が入る。

「統合作戦指揮管制より、HDG03 及び、AHI01 へ。二十九機の標的撃墜を確認した。電波妨害攻撃の効果を引き続き確認したいが、攻撃の継続は可能か?」

 その問い掛けに、緒美がクラウディアに確認するのだ。

「AHI01 より HDG03。状況の報告を。」

「此方(こちら)、HDG03。機能に不調は無し、継続は可能です。目標は先程、使用周波数を変更した模様で、現在、再走査(スキャン)して…はい、傍受(キャッチ)しました。電波妨害を継続します。」

「此方(こちら)、統合作戦指揮管制、了解した。 統合作戦指揮管制より、攻撃位置に有る F-9 各機へ。個別に目標を選択し、対空誘導弾攻撃を開始せよ。」

 指揮管制からの通信を聞き乍(なが)ら、緒美は樹里が操作するモニターを覗(のぞ)き込むのだ。すると、普段であればミサイル攻撃を回避したエイリアン・ドローンは、それ程の間を置かずに編隊を再編するのだが、今回は右往左往している機体が多い様に見られたのである。
 緒美はヘッドセットのマイク部を押さえて、呟(つぶや)く様に言うのだ。

「確かに、効果は有ったみたいね。」

 その言葉に、モニターを操作している樹里と、緒美と同様にモニターを覗(のぞ)き込んでいた立花先生とが、無言で頷(うなず)いて見せるのだった。
 そして立花先生が不審気(げ)に、言うのである。

「さっき、管制は二十九機撃墜って云ってたわよね?確認されたのは。」

「それが、何か?」

 緒美が問い返すと、立花先生はモニター上の敵機シンボルを指差して数え、疑義を呈するのだ。

「…19、20、21、数が合わないのよ、五十四機居て、二十九機撃墜したのなら、残りは二十五機の筈(はず)でしょ? でも、戦術情報画面には二十一機しか表示されてないの。あと四機、どこへ行ったのかしら?」

 それを聞いて、緒美は直ぐに統合作戦指揮管制へ問い合わせるのだ。

「AHI01 より、統合作戦指揮管制へ。敵機の残存数が四機、数が合っていませんが、何か情報は有りますか?」

「此方(こちら)、統合作戦指揮管制。四機、数が合っていない事は承知している。探知を喪失(ロスト)した目標の行方(ゆくえ)は、目下(もっか)、捜索中。」

「AHI01 了解。HDG03、戦術情報に上がっていない目標を、其方(そちら)で検知してない?」

 緒美の問い掛けに、クラウディアは即答するのだ。

「HDG03 です。今の所、検知は無いです。多分、電波的に沈黙してるのだと。」

「そうね。撃墜された他の機体と一緒に、海面近く迄(まで)、降下したんでしょう。上空に居るのとは、違う周波数を使ってるのかも。」

「だとしても、電波を出せば、こっちの走査(スキャン)に引っ掛かる筈(はず)です。まあ、或る程度、長い時間、発信して呉れないと、引っ掛からないかもですが。取り敢えず、走査(スキャン)に使うチャンネルを二つ追加して、引っ掛ける確率を上げてみます。」

「それで、今やってる電波妨害の処理に、支障は出ない?」

「この位の標的数なら、問題ありません。先程の攻撃で、目標の数も減りましたし。リソースには、十分(じゅうぶん)な余裕が有りますから、大丈夫です。」

「了解、HDG03。念の為、携行している自衛用のジャム・ポッド、起動しておいて。」

「HDG03、了解しました。」

 緒美とクラウディアとの遣り取りの中で言及されていた『自衛用ジャム・ポッド』とは、HDG-C01 の飛行ユニット、その主翼に懸下(けんか)されている、電波妨害(ジャミング)用器機が収められた円筒状の装備である。一見して増槽(落下式の燃料タンク)や爆弾、或いは大型のミサイル等と誤認されそうであるが、そうではない。
 この『ジャム・ポッド』は、HDG-C01 が行っている電波妨害攻撃と同種の機能を持っており、乃(すなわ)ち、周辺の電波を走査(スキャン)してエイリアン・ドローンの通信周波数を割り出し、その周波数帯に対して可変ノイズを送信する事で、エイリアン・ドローンの通信を妨害するのだ。
 HDG-C01 の当該機能との相違点は、完全自動化されている為にオペレーターの操作に因る運用の柔軟性が無い事と、送信電波に指向性が無い事である。HDG-C01 が装備する複合アンテナには指向性が有り、この為、特定の位置に向かって強い電波を遠くに迄(まで)、照射する事が出来るのだ。だが、この特性は目標が近距離に存在する際には不利に働き、目標の移動に合わせて照射を続けるのが、目標の移動速度や位置に依っては困難になるか、或いは照射自体が不可能になるのだ。同じ速度で移動する目標であっても、アンテナとの距離が近い目標は、目標に合わせてアンテナを速く大きく動かす必要が有るからだ。指向性アンテナで動体を追跡するならば、アンテナ自体か、或いは電波ビーム向きを目標に合わせて、動かさなければならないのである。アンテナを機械的に動作させるにせよ、電波のビームを電子的に振り向けるにせよ、その動作には速度や角度に、自(おの)ずと限界が有るのだ。
 その点で『ジャム・ポッド』に内蔵された無指向性のアンテナは、全方位に向かって妨害電波を放射するので、目標の位置を特定する必要が無く、又、目標が占位する位置とは無関係に電波妨害が可能なのである。但し、電波の照射方向を絞れない事は、遠距離に存在する目標に対する電波妨害には不向きで、『ジャム・ポッド』が置かれた比較的狭い空間内でしか効果が期待出来ないのだ。それが『自衛用』と但書(ただしがき)が付けられている所以(ゆえん)である。
 この『自衛用ジャム・ポッド』は、HDG-C01 に搭載される可(べ)く開発されていた機能を、天野重工側で応用して仕立てた装備で、元来は緒美の発案に依る物ではない。エイリアン・ドローンに対する通信妨害が実際に効果が得られるのが確認された折(おり)に、F-9 戦闘機用の装備として航空防衛軍に売り込む事を目的に、HDG-C01 と並行して設計、試作されていた代物(しろもの)なのだ。その装備が今回の実験に持ち込まれたのは、チャンスが有ればその能力を検証しようと言う飯田部長の腹積もりからなのである。
 それが HDG-C01 程、遠距離の目標に対して効果を得られないとは言え、相当数の F-9 戦闘機に当該ポッドを装備させ、適切な間隔で飛行させれば、それに因って相応のジャミング空間を構成する事は可能であり、その場合には、それなりの効果が期待出来るのだ。そして、その天野重工からの提案には、防衛軍側も乗り気なのである。それは勿論、電波妨害による効果が十分(じゅうぶん)に証明される、それが前提なのではあるのだが。
 ともあれ、HDG 開発から得られた技術が何らかの製品になって、それが売上となるのであれば、HDG 開発の為に持ち出した資金の一部でもが回収されると言う事であり、それは天野重工の経営側として当然の企業努力な訳(わけ)である。因(ちな)みに、この案件は立花先生が現在も籍を置く企画部三課の真っ当な業務の結果であるが、立花先生自身は直接には関わってはいない。
 一方で、そう言った本社側の都合を承知した上で緒美は、HDG-C01 の近距離での電波妨害能力の不備を補う意味での『自衛用ジャム・ポッド』の携行を、今回の実験に組み込んだのだった。HDG-C01 の近接防御に就いては A01 と B01 に担当させるのが当初からの案だったので、C01 の電波妨害能力は遠距離を中心に考案されていたのだ。電子戦機である C01 をエイリアン・ドローンが狙って来るとしても、普通に考えれば接近して来る迄(まで)に対処してしまえばいいのだから、電子戦機自身が近接空間での防御を考える必要性は無さそうなのだが、現実にはレーダーによる探知を逃れて敵機が接近して来る状況は幾らでも考えられるのだ。その想定外の脅威に対して備えておく事は、実験に参加する茜達、ドライバーが負うリスクを下げるのに役立つ方策であると、緒美は考えたのだ。
 実際に現在、四機のエイリアン・ドローンの行方(ゆくえ)が不明であり、その四機がレーダーに探知され難い海面すれすれの高度で C01 へ向かって飛来している可能性は高いのである。

 イージス艦からの第一撃のあと、編隊を再編せず右往左往する様に飛行していたエイリアン・ドローンは、個別に九州やその周辺の島へと接近している機体から順に目標として選択され、在空の F-9 戦闘機からミサイル攻撃を受け、一機、又一機と、戦術情報画面から消えていった。
 この時、九州西方沖上空で迎撃の任務に就いていた F-9 戦闘機は二機編隊が四つ、つまり八機で、一機当たりが八発の中射程空対空誘導弾を搭載しているので、六十四発のミサイルが九州西方沖上空に存在していた事になる。更に、攻撃でミサイルを消費した編隊と交代する編隊が既に離陸しており、作戦空域へと向かっていたのである。
 この第二撃にて、F-9 戦闘機は合計二十五発の中射程空対空誘導弾を発射し、十四機のエイリアン・ドローンを撃墜しており、この命中率も 56%を記録したのだ。これも今迄(いままで)の、倍を超える結果なのだった。この時点で、エイリアン・ドローンの残存数は、確認出来ている物で七機であり、その上で未(いま)だ四機が行方(ゆくえ)不明なのだ。

「これは、わたし達の出番は無さそうね。」

 誰に言うでもなく、そう声を発したのはブリジットである。少し笑って、茜が言葉を返す。

「まあ、それで済めば、それはそれで、いい事じゃない? HDG02。」

「二人共、気を抜かないで。行方(ゆくえ)不明の四機が、気になるから。 警戒を続けてね、HDG01、HDG02。」

 そう呼び掛けて来たのは勿論、緒美である。
 すると、クラウディアが意外な事を言い出すのだ。

「HDG03 より、AHI01。その四機とは別だと思うんですが、西方向に時々、電波の発信源が四つ、出たり消えたりしてるんですが。」

 それには透(す)かさず、緒美が聞き返す。

「位置は特定出来る?」

「いえ、殆(ほとん)ど動いていないって言うか、接近して来ないからか、位置の特定までは。現状で、方角しか判りません。もう少し長時間、電波を出して呉れたら、何とかなったかも知れませんけど。プローブの搭載が間に合わなかったのは、痛いですね。」

 ここでクラウディアが言う『プローブ』とは、電波発信源位置特定用の拡張装備の事である。この日の実験には、その使用が、そもそも予定されてはいない。HDG-C01 の能力検証に於いて、次の段階で検証予定の機能なのだ。

「あとで分析出来るかも知れないから、取り敢えず記録だけでもしておいて、HDG03。」

「了解です、AHI01。」

 茜達、三機は対馬の南端から五島列島の北端付近の間を、片道十分程度で折返し飛行を繰り返す。とは言え、迎撃が開始されてからまだ、十五分程しか経過しておらず、待機時を含めても現在は三往復目の南向き往路の途上なのである。
 今回は今迄(いままで)に無い早いペースでエイリアン・ドローンへの対処が進行しており、これは明らかに HDG-C01 に因る電波妨害攻撃の成果なのである。同時に、エイリアン・ドローンは、その相互間の通信と、どこかに存在する上位との通信で連携を取っている事の証明でもあるのだ。この事は、緒美が予想していた通りなのだった。

 エイリアン・ドローンの残存七機も、F-9 戦闘機の各編隊から発射された第三撃、七発の中射程空対空誘導弾に因り、三機が撃墜された。そして残った四機も、引き続き実行された F-9 戦闘機からのミサイル攻撃、十発に因って全て撃墜されるに至ったのだ。
 その間、エイリアン・ドローン側は何度も通信周波数の切り替えを実行したのだが、その都度(つど)、HDG-C01 がその周波数を特定し、電波妨害を繰り返したのである。

「HDG03 より AHI01。妨害対象が消滅したので、発信が停止します。走査(スキャン)は続行中。」

 クラウディアが報告すると、ブリジットが緒美に確認するのだ。

「HDG02 です。これで終わりでしょうか? AHI01。」

 続いて、茜が声を上げる。

「行方(ゆくえ)不明の四機が、まだ見付かってないでしょ? 時間的に、沿岸部に接近しててもおかしくないけど。」

 そして、緒美が言うのだ。

「逆方向、西向きに逃走した可能性も有るけど…兎に角、もう暫(しばら)く警戒を緩めないでね。」

 そう注意を促(うなが)した直後、統合作戦指揮管制からの通報が入るのだ。

「HDG01 から HDG03、キミ達の真下に急上昇して来る敵機を捕捉。至急、退避されたし。護衛機、コマツ01、02 は対処を開始せよ。」

「え!?」

 茜が慌てて戦術情報を確認すると、確かに、自分達と同じ座標に敵機のシンボルが表示されているのだ。咄嗟(とっさ)に茜は声を上げる。

コマツ01、今からミサイルを発射されると、此方(こちら)に被害が出ます。対処は此方(こちら)で行いますので、其方(そちら)には撃ち漏らしの処分をお願いします。 いいですよね? AHI01。」

 エイリアン・ドローンは当然、退避した茜達を追跡して来る筈(はず)なので、そのエイリアン・ドローンを狙ってミサイルを発射されると、茜達の近くでミサイルが爆発する事になるのだ。十分に安全な距離が取れる保証が無く、場合に依っては飛散した破片を被(かぶ)る程度ではなく、爆発に巻き込まれる恐れも有ったのだ。
 瞬時に正確な計算は出来なかったが、エイリアン・ドローンが二千五百メートルを駆け上がって来る時間と、護衛の F-9 戦闘機が発射した中射程ミサイルが約二十五キロメートルの距離を翔破する時間、どちらが早いのかと言う事である。その瞬間、茜にはエイリアン・ドローンが彼女達と同高度に達する方が早いと感じられたのだ。だとすれば、エイリアン・ドローンを狙ったミサイルは、茜達の付近で爆発する事になるのである。
 そして緒美も、咄嗟(とっさ)に茜と同じ計算をしたのだった。

「了解、HDG01。HDG02 と共に、迎撃を。HDG03 は全速で、方位(ベクター) 90 へ退避。」

 緒美の指示を受け、直ぐに茜達は行動に移るのである。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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