WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第16話.13)

第16話・クラウディア・カルテッリエリと城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 16-13 ****


「統合作戦指揮管制より AHI01、了解した。天野重工の、今回の作戦への協力に感謝する。HDG01 から HDG03 は、現空域から直線で、高度三千メートルにて帰投して呉。飛行ルートの確保は、此方(こちら)で申請しておく。」

「HDG01 より、統合作戦指揮管制。御配慮に感謝します。それでは、我々は今より帰投しますが、AHI01 は、どうされます?」

 茜の問い掛けには、緒美が直ぐに答える。

「AHI01 は岩国に寄って、出張所の片付けとか、人員を拾ってから帰投するわ。テスト・ベース側の、貴方(あなた)達の受け入れ人員は手配済みだから、心配要らないわよ。」

 茜達が単独で第三格納庫に戻っても、地上電源の接続や、メンテナンス・リグを操作する人手が居ないと、茜達は HDG の解除が出来ないのだ。因(ちな)みに手配済みの人員とは、飛行機部の金子や武東、村上、そして茜達の友人である九堂の事だった。

「了解、AHI01。それでは、HDG01 はテスト・ベースへ帰投します。HDG02、HDG03 付いて来てね。」

「HDG02、了解。」

「HDG03 も、了解。」

 三機の HDG は茜の AMF を先頭にしたV字形の編隊を組んで東向きの針路を取り、指示された高度へと上がって行くのだ。その途中で、茜は護衛の F-9 戦闘機に呼び掛けるのだった。

「HDG01 より、コマツ01、02。護衛のお役目、ありがとうございました。わたし達はこれで、失礼します。」

「此方(こちら)、コマツ01。大して役に立たなくて、申し訳無かったね。其方(そちら)の、帰路の安全を。」

「ありがとう、コマツ01。貴方(あなた)方は、まだ暫(しばら)く居残りですか?」

「ああ、帰投の命令が出るまでは、現空域で待機だ。多分、暫(しばら)く哨戒を続ける事になると思う。」

 何せ今回は、三十分足らずで迎撃戦が終了してしまったので、防衛軍はレーダーに敵機は捕捉されていなくても、念の為に警戒を続けているのだ。今迄(いままで)なら、相当数の撃ち漏らしたエイリアン・ドローンが防空識別圏や領空を出たり入ったりを繰り返し、第三波、第四派と迎撃戦が続いていたのだ。それが、今回は第一波に対する第一撃で、目標の凡(およ)そ半数を撃墜してしまったのである。そして残存機に対しても、異例のハイペースで対処が進んで、現在の状況に至るのだ。それは、防衛軍側として、そしてエイリアン側に取っても、経験の無い展開だったのである。

「それでは、お気を付けて、コマツ01、02。」

 護衛の F-9 戦闘機に挨拶をすると、続いて茜は緒美に問い掛ける。

「HDG01 より、AHI01。以上で、防衛軍に対する通信を終了しますが?」

「了解、HDG01。防衛軍側に断ってから、通信の設定は此方(こちら)で変更します。それ迄(まで)は、余計なお喋(しゃべ)りはしないでね。」

 それから暫(しばら)くの後、緒美が統合作戦指揮管制に断りを入れて、データ・リンク通話の相手先アドレス・コード、そのリストから防衛軍関係の指定が解除され、天野重工と天神ヶ﨑高校間での通話が、防衛軍側に聞かれる事が無くなったのである。
 こうして実際の迎撃作戦に於ける、HDG-C01 の ECM 戦能力評価実験は、無事にその予定を消化したのだ。


 翌日、2072年10月23日、日曜日。
 休日であると言うのに、午前十時を過ぎた頃には、兵器開発部のメンバー達は当然の様に第三格納庫へと集合していた。

「もう、立派に仕事中毒(ワーカホリック)ですよね、皆(みんな)。」

 立花先生に向かって、そう言って笑ったのは畑中である。
 畑中達、試作部の人員四名と開発部の日比野は、前日の作戦参加の後、岩国基地から天神ヶ﨑高校へと社有機で移動して、学校敷地内の寮に一泊していたのだ。そして日曜日の朝から、HDG 三機の点検と併行(へいこう)して稼働データの吸い出しを行っているのである。
 午前中に其(そ)れらの作業を終え、午後からは社有機にて帰途に就く訳(わけ)なのだが、出張先で休日勤務をし、午後に移動の予定が有るとは言え早朝から作業をしている、そんな(貴方(あなた)達に言われる筋合いは無い)と、先程の台詞(せりふ)を吐(は)いた畑中に対して立花先生は思ってしまうのだ。
 勿論、そんな感想は口には出さず、その場は笑って流した立花先生は大人なのである。

 兵器開発部のメンバー達は、と言うと。緒美と樹里は、昨日の実験に関しての報告書製作を前日に引き続いて行い、維月とクラウディアはソフトの改良と、実験で記録したエイリアン・ドローンの通信電波分析を行うのだった。基本的には Sapphire が自動的に学習の度合いを深めていく仕組みが有るのだが、人がその条件を整える事で学習効率の改善が見込めるのである。
 そして、その他のメンバーは畑中や日比野の、作業補助を行うのだった。

 午前中の作業が終わり、各員が昼食を終え、そして本社からの出張組の出発と其(そ)の見送りが終わると、午後からの活動が始まるのだ。
 畑中は『仕事中毒(ワーカホリック)』が云云(うんぬん)と云っていたが、この日は日曜日だと言うのに活動しているのは兵器開発部に限った話ではなく、学校全体で生徒達が忙しそうに作業をしていたのである。
 実は天神ヶ﨑高校では『秋天(しゅうてん)際』、一般的に謂(い)う所の文化祭であるが、その開催が十日後に迫っていたのだ。その準備に、生徒達の多くは大忙しだったのである。
 天神ヶ﨑高校の『秋天(しゅうてん)際』では、学年やクラス単位での『出し物』は一切無く、展示や発表、出店(でみせ)等は各種部活か、或いは有志グループ達に依って催(もよお)されるのである。
 普段は一般の生徒達が寄り付かない滑走路側には、毎年、飛行機部が保有する滑空機(グライダー)や軽飛行機、理事長が使用している社有機等が地上展示され、場合に依っては開発試験用に天野重工が保有している F-9 戦闘機が試作工場から飛来して地上展示されたりで、『秋天(しゅうてん)際』期間中は第一格納庫界隈(かいわい)と滑走路周辺も一般生徒や地元の来客とで賑(にぎ)わいを見せるのだった。飛行機部が実施する、滑空機(グライダー)や軽飛行機での展示飛行(デモフライト)は毎年、注目を集めるのだが、特にレプリカ零式戦の展示飛行(デモフライト)は人気(にんき)が高く、天神ヶ﨑高校『秋天(しゅうてん)際』の『呼び物』の一つとなっていた。
 一方で、兵器開発部であるが。流石に、現在の活動内容、乃(すなわ)ち HDG の開発に関しては、高度な企業秘密や、防衛軍からも機密指定される様な内容も含まれている為、当然、一般への公開は不可能なのだった。そんな訳(わけ)で、『秋天(しゅうてん)際』には兵器開発部として展示や発表で参加出来る事物は無いのである。
 十年以上昔の兵器開発部の記録には、資料室に残されている諸諸(もろもろ)の物品を収集した先輩達に依る、その当時の軍事技術の動向(トレンド)や話題(トピック)を解説する展示とか、『俺の考えた最強の○○』みたいな『ミリヲタ』特有の痛々しさを『敢えて取り込んだノリ』を発揮した発表だとか、日頃の研究成果を公開する真面目な活動も、書き記されてはいたのだ。
 それらの記録を発掘した立花先生の提案で、二年前の事であるが、緒美が一年生の折(おり)に、仮に『エイリアン・ドローンに関する考察』と題した、緒美の個人的な研究成果を『秋天(しゅうてん)際』で展示発表する事が、兵器開発部の発表として企画がされたのだったが、その案は学校と本社側からストップが掛かったと言う経緯(いきさつ)があるのだ。その理由は、展示の内容が『エイリアン・ドローンの脅威と、防衛軍の迎撃任務に対する、一般市民の恐怖心や不安感を助長する恐れが有る』と、判断されたからなのである。
 この点に関しては、マスコミによる一般向けの報道に於いても、民衆が恐慌(パニック)に陥(おちい)るのを避ける目的で、エイリアン・ドローンに関する報道は過度に恐怖心や不安感を煽る演出は避けて、抑制的な報道に努めるようにと、当局からの指導や通達が出されているだ。勿論、報道の自由と称して、そう言った指導に従わない一部週刊誌や、ネットのニュース等も一定数が存在はしているのだが、それらの記事や言説は一般には『与太話』として受け止められており、大きな社会不安の種に、少なくとも日本国内ではなってはいなかった。
 ともあれ、兵器開発部は『秋天(しゅうてん)際』には、基本、不参加なのだが、HDG の開発作業の方が『秋天(しゅうてん)際』とは無関係に予定が詰まっており、兵器開発部が忙しい事に変わりはないのである。寧(むし)ろ、『秋天(しゅうてん)際』の開催一週間程度前から当日まで、第三格納庫の外へ HDG を出せなくなる事に、緒美達は頭を悩ませる事になっているのだ。
 それは、『秋天(しゅうてん)際』準備の関係で、普段は近寄らない一般生徒の目が、滑走路周辺で増えるからである。
 実際、この日曜日からは用心の為に『秋天(しゅうてん)際』が終了する迄(まで)の間、HDG 各機は第三格納庫から引き出さない事になっているのだ。
 その間は、茜達は格納庫内部で HDG の空戦シミュレーションを実施して、Ruby と Sapphire の各種空中機動や格闘戦機動に就いての学習を進める予定なのだった。
 そこで、昼休み明けの部室にて、茜は樹里に提案するのである。

「樹里さん、クラウディア、借りて行っていいですか?

「唐突(とうとつ)ね、天野さん。用件に依るけど?」

 樹里は微笑んで、言葉を返して来る。茜は直ぐに、理由を説明するのだ。

「はい、Sapphire の空戦シミュレーションに付き合って貰おうと思いまして。」

 その茜の説明に、キーボードを叩いていた手を止めて、クラウディア本人が反論する。

「Sapphire のシミュレーションに、わたしは要らないんじゃなかったの?」

 それに対しては、ブリジットが言うのだ。

「Sapphire が単独で学習出来る段階(レベル)は、もう終わったの。このあとは、ドライバーとの連携とか、必要になるんだから。」

「どちらかと言うと、ドライバーの方が Sapphire との連携を取らないとね。」

 その茜の補足に、更にブリジットが付け加えるのである。

「貴方(あなた)が Sapphire の動きを把握してないから、この間みたいな悲鳴を上げる事になるのよ。正直(しょうじき)、再々、あんなのを通信で聞かされるのは、堪(たま)ったもんじゃないわ。」

 そう言われるとクラウディアは、一気に顔を紅潮させ、返す言葉を詰まらせるのだ。昨日の、その状況を思い出し、クラウディアは自身が悲鳴を上げた事が、急に恥ずかしくなったのである。
 そこで、明らかに表情が変わったクラウディアをフォローする積もりで、恵が声を掛けるのだ。

「カルテッリエリさんは、ジェットコースターとか、ライド系は苦手だったかしら?」

 クラウディアは複雑な表情で、その問いに答える。

「苦手って言うか…その、余り、そう言うのに乗った経験が無いもので、森村先輩。」

 遠回しに説明するクラウディアだったが、間髪を入れず維月が言うのである。

「アレでしょ、激しいのには身長制限が有るから。でしょ?」

「その通りだけど、ズバリ言われると、何だか癪(しゃく)だわ、イツキ。」

 苦笑いで、維月に言葉を返すクラウディアである。一方で、恵が声を上げるのだ。

「あー、ごめんなさい、カルテッリエリさん。詰まらない事を聞いちゃったわね。」

 その恵には、からかう様に直美が声を掛ける。

「森村にしては珍しく、配慮(デリカシー)に欠ける発言だったかもね。」

「正直(しょうじき)言って、『その事』は全く気に留めてなかったから。」

 恵の言う『その事』とは、勿論、クラウディアの身長の事である。クラウディアは、少し慌てて恵に告げるのだ。

「いいです、いいです。森村先輩に悪意が無いのは、解ってますから。気にしないでください。」

 そこで、茜が善かれと思って、余計な事を言ってしまうのである。

「大体、ライド系なら、わたしも苦手だけど。それは全然関係無いから、要は慣れの問題よ、クラウディア。」

「もう、ライドの話はいいから、アカネ。」

 被せる様な勢いで、クラウディアは茜に言い返すのだった。
 それに続いて、緒美が意見の収拾を始めるである。

「取り敢えず、構えてない所で急激な機動が加わるのは、怪我の元だから、今日から暫(しばら)く、一、二時間はカルテッリエリさんもシミュレーションに参加しなさい。」

「怪我?ですか。」

 不審気(げ)にクラウディアが聞き返すと、続いて緒美が説明する。

「身体はインナー・スーツを介して固定されているから、まあ大丈夫だと思うけど。一番危険なのは、首、よね。不意に前後左右へGで頭を揺さ振られると、鞭打(むちうち)になる危険が有るわ。 当面は実機での飛行(フライト)が出来ないから、ちょうどいいでしょう。 シミュレーションに慣れて来たら、実機で実際にGを掛けて、経験を積む事にしましょう。 それで、いいかしら?城ノ内さん。」

 緒美に問われ、樹里は頷(うなず)いて言葉を返す。

「そう言う事でしたら。」

 すると、クラウディアが不満気(げ)に「え~。」と声を上げるので、笑って維月が言うのだ。

「あはは、いいんじゃない? 大体、貴方(あなた)、運動不足なんだから。少しは身体を動かした方が、成長するにもプラスってものよ。」

「運動不足って言ったら、貴方(あなた)も同じじゃない、イツキ。」

 そうクラウディアに言い返されると、ニヤリと笑って維月は言うのである。

「だってわたしは、これ以上、成長したくないもの~。」

 その維月の言動に、周囲に居た兵器開発部のメンバー達はクスクスと笑うのだった。

「部長の許可も出た事だし、インナー・スーツに着替えましょう、クラウディア。はい、立って~。」

 茜はクラウディアの背後から両側の脇の下へ腕を差し込むと、ぐいと引っ張り上げるのだ。

「分かったわよ、もう。」

 クラウディアは抵抗する事無く立ち上がると、それから茜に手を引かれて部室奥の、二階通路へと出るドアに向かうのだった。

「それじゃ、わたし達は HDG の立ち上げ準備、しておきましょうか。」

 成り行きを傍観(ぼうかん)していた瑠菜が、そう言って立ち上がると、「は~い。」と応えて佳奈も席を立つのだ。
 そうして此(こ)の日も、何時(いつ)もの様な、兵器開発部の午後の活動が始まったのである。

 

- 第16話・了 -

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。