WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第17話.05)

第17話・クラウディア・カルテッリエリとブリジット・ボードレール

**** 17-05 ****


 そして、2072年11月12日、土曜日である。
 この日は予定通り、C号機に搭載された『プローブ』の能力試験と、B号機のレールガン実射試験が実施されるのだ。
 土曜日と言う事で、茜達、特課の生徒には、午前中に平常の授業が有り、天神ヶ﨑高校兵器開発部の試験への参加は午後からである。茜達は昼食と休憩の後、HDG 各機が午後一時半に天神ヶ﨑高校を離陸し、高度五千メートルを南南東へと向かうのだ。
 試験の実施エリアは紀伊半島南端から約百キロ程の沖合で、今回の試験に協力する海上防衛軍の艦艇が該当海域に待機し、天野重工と共同で午前中から試験の準備を行っているのである。

 実施される試験の概要は、次の通りだ。
 先(ま)ず、海上防衛軍の艦艇三隻より、一隻に付き一基の気球(バルーン)を上空へと放つ。この気球(バルーン)には其其(それぞれ)に電波の発信機が取り付けられており、これがエイリアン・ドローンの『謎の電波発信源』を模擬するのである。
 この気球(バルーン)は、当初、高度一万五千メートルから高度二万メートルの範囲に滞空させる案が、試験計画の原案を策定した緒美からは要望されていたのだが、気球(バルーン)を繋留するワイヤーの準備や費用が馬鹿にならないとの理由で、気球(バルーン)の高度は十分の一である千五百メートルから二千メートルへと変更された経緯が有るのだ。ここで気球(バルーン)を敢えて艦艇に繋留する理由は、観測された『謎の電波発信源』が殆(ほとん)ど動かないのを再現する為である。とは言え、実際には動力を持たない気球(バルーン)は気流に因って流される訳(わけ)で、同時に繋留している艦艇自身も海流によって移動してしまうのだから、海防艦艇は気球(バルーン)の空中での位置が大きく移動しない様な操艦が、試験の実施中は常に求められるのだった。因(ちな)みに、上空での気球(バルーン)の最大直径は、凡(およ)そ八メートルである。これは、飛行形態の『トライアングル』の横幅が五メートル程であるから、それよりも一回り大きい。
 過去に報告されている『ペンタゴン』の大きさは、『トライアングル』よりも一回り大きく、丁度(ちょうど)、横幅が八メートル程度であるとされているから、今回の試験に使用する気球(バルーン)の大きさはピッタリだったと言えるのだが、これは其(そ)の様な理由で選定された訳(わけ)ではない。簡易に入手が可能な気球(バルーン)の大きさが、偶然、そうだっただけなのである。
 通常、気球(バルーン)に充填されるのは引火や爆発の危険性の無い、ヘリウムが一般的なのだが、今回の試験では敢えて水素が使用されている。これは、この時代の一般的なエネルギー源である水素が、海防艦艇の燃料にも使用されており、コスト的にもヘリウムよりも安価なのが理由でもあるが、今回は気球(バルーン)自体がレールガン射撃の標的でもあるので、爆発的燃焼が起きた方が命中判定がし易いだろう、との理由なのだ。勿論、使用環境が海上上空である事や、取り扱いには有資格者が当たる事が、水素を使用する条件となっているのは言う迄(まで)も無い。
 さて、十キロメートル以上の間隔を空けて配置された艦艇に繋留された合計三基の気球(バルーン)は、それぞれが違う高度に設定され、上空では各機から違う周波数の電波が定期的に発信される。
 試験空域に入ったC号機は、『プローブ』を発射して、発信機からの電波を複数箇所で受信し、それぞれの発信源に就いて位置特定を行う。
 この試験に使用される気球(バルーン)はレーダーでの捕捉が可能なので、C号機に依る位置特定の結果が正確かどうかは、レーダーでの測定結果との比較で確認がされるのだ。
 C号機で電波発信源の位置特定がされると、その座標データはB号機へと渡され、その座標へ向かって弾道計算がされてレールガンが発射される事となる。ここで、B号機と目標との距離は搭載レールガンの仕様上の最大射程である百五十キロメートルを目安として、射撃が実施される。
 これらの一連の操作(オペレーション)を、気球(バルーン)の数、詰まり三回を実施する事になるが、今回、B号機が携行するレールガンの弾体は十二発。マガジン容量の半数、と言う設定である。
 茜の AMF は空中から試験全体を監視、撮影する役割を担(にな)い、別空域で待機する天野重工の社有機は送信されて来るデータの監視と記録を行うのだ。遠く離れた天神ヶ﨑高校でも、データ・リンクに因るモニターが同時に行われ、畑中等、試作部のメンバーは此方(こちら)で待機する。

 試験に同行する社有機には、午前中に本社から移動して来た飯田部長と、航空防衛軍の桜井一佐が同乗しており、この二人が海防側との遣り取りの窓口となるのだ。他に、天神ヶ﨑高校側の監督者として立花先生も同乗しており、試験の監視オペレーション自体は緒美と樹里、そして本社開発部の日比野が担当するのである。
 飯田部長と桜井一佐は、共に天野重工の社有機で、お昼前に天神ヶ﨑高校に到着したのだ。二人を運んで来た社有機は、この乗客達を降ろすと蜻蛉(とんぼ)返りで帰路に就き、試験に参加している機体は天神ヶ﨑高校に配置されている機である。これは機内にオペレーション監視用の器材や、防衛軍のデータ・リンク器材を積み込む都合が有るからで、その準備は三日前から始められていたのだ。器材の搭載作業は、天神ヶ﨑高校に常駐している整備担当者である藤元達に依って行われ、積み込んだ機材の動作確認は倉森や日比野に依って実施されたのだ。

 そして、天神ヶ﨑高校の昼休み時、第三格納庫の中で HDG 達の発進準備を眺(なが)めている立花先生に、飯田部長と桜井一佐が声を掛けて来たのである。

「ああ、そう言えば立花君。何時(いつ)ぞやの、防衛省に行った時の。キミの同窓生から、連絡が有ったよ。」

 飯田部長が云う『何時(いつ)ぞや』とは、二ヶ月前の防衛省での会合の事である。

「有賀君から?ですか。何(なん)で又、部長の方(ほう)に…。」

「最初はキミから情報を得ようと思ったらしいんだが、立花君の性格的に、余計な事は話さないだろうと、そう考え直したと云っていたがね。」

「それで、部長に?」

「あの時、名刺を交換してたからね。」

 飯田部長と立花先生が、そんな遣り取りを始めたので、たまたま立花先生の横に居た恵は、黙って其(そ)の場から離れようとしたのである。それを、飯田部長が呼び止めるのだ。

「ああ、森村君にも、聞きたい事が有るんだ。」

「わたしに?ですか。」

 立ち止まって声を返した恵に、飯田部長はニヤリと笑って尋(たず)ねる。

「あの時、彼に就いて何か不審に感じた点は、無かったかね?」

「いえ、特には…記憶に残る程、違和感を感じる人柄では無かったですね。」

 恵は飯田部長に答えてから、視線を立花先生へと向ける。それは、あの時に見たファイルの一部に関して、ここで話す可(べ)きかどうかに迷ったからだ。送った視線に対して、立花先生も視線を返して来たが、その意図に就いては判断が出来ず、取り敢えず恵は『ファイルの件』に就いては言わないでおく事に決めたのである。
 そして立花先生が、飯田部長に問い掛ける。

「それで、彼の用件は、何(なん)だったんでしょうか?」

「それが、今一つ要領を得なくてね。何かを探りたい様子ではあったんだけど、先(ま)ずは先方の上司を交(まじ)えて近い内に会食でも、って事になった。立花君の方で、彼方(あちら)の目的に就いて、何か見当は付かないかな?」

 そう訊(き)かれて、立花先生は少しの間、考えてみたのだが、矢張り見当は付かないのである。

「申し訳ありません。大学を卒業して以降、約十年間、殆(ほとん)ど連絡を取ってなかったので、今、彼のやってる事は何も知らないんです。 大体、先日の一件に就いて自体、今の今まで、完全に忘れていた位ですから。」

 そこで桜井一佐が、その話題に参加して来るので、立花先生も驚いたのだ。

「そう。 実は、その有賀さんからは、わたしの方にも連絡が有ってね。どこで、どう当たって、此方(こちら)を調べて来たのか。それで、その会食には、わたしも参加する事になってるのよ。」

「桜井一佐も、ですか…と、言う事は、有賀君が探っているのは矢っ張り HDG 関連、でしょうか?」

法務省が HDG に関心を持つとは、思えないのだけれど。ねえ、飯田さん。」

 飯田部長は、一度、鼻から息を吹き出すと、答える。

「桜井一佐に行き当たった、って事は、法務省から防衛省へ照会が行ったって事でしょうから。そうすると HDG の案件しか、考えられませんが。特捜に、汚職でも疑われてるのかな?」

「まあ、怖い。」

 飯田部長と桜井一佐は、声を上げて笑うのだ。それは勿論、事実無根で、有り得ない事だったからだ。
 そして、飯田部長が微笑んで言う。

「まあ、取り敢えず。此方(こちら)は、探られて痛くなる様な腹は持ち合わせていないから、一度、会ってみるよ。それで、向こうの意図も。或る程度は判るだろう。」

「そう、ですか。」

 立花先生が、何か申し訳無さそうに言葉を返すので、思わず恵が声を上げる。

「あの…実は。 あの時の、有賀さん?の行動には、少し引っ掛かる所が。」

「ほう、どんな?」

 飯田部長は直ぐに反応するのだが、恵は一度、立花先生の表情を窺(うかが)い、それが普段と変わらないのを確認して話し始める。

「あの時、落としたファイルの中身を、少しだけ見たんですが。その時は法律が云云(うんぬん)って説明してたのに、わたしが目にしたのは帳簿か、会計報告の様な書式でした。勿論、その詳しい内容とか、全部がそうだったかは判りませんけど。」

「それは確かに、妙ね。」

 桜井一佐は、そう言って視線を飯田部長へと向ける。それに対して、飯田部長は黙って頷(うなず)いたのだ。
 恵は、記憶を辿(たど)って発言を続ける。

「それから、あの時。慌てて立ち去った様子が、少し奇妙でした。桜井さん達とは、顔を合わせたくなかったかの様で。」

「あら、わたしは嫌われてたのかしら?」

 そう言って、桜井一佐は微笑む。一方で、立花先生が疑問を呈するのだ。

「でも、それじゃ、有賀君の方からアクセスして来るのは変じゃないですか? 今度、会食するんでしたよね、桜井一佐。」

「そうよね。」

 そこで飯田部長が、声を上げる。

「あ、いや。ちょっと待て。 あの時、声を掛けて来たのは和多田さんだったじゃないかな?確か。」

「そうだったかしら? 良く、覚えてないわ。」

 流石に、二ヶ月も前の事である。皆、記憶は既に曖昧なのだ。
 それでも、飯田部長と桜井一佐の二人には、有賀が探りたい用件に、何と無く見当が付いたのだった。
 飯田部長は一度、大きく頷(うなず)くと、恵に言うのだ。

「取り敢えず、森村君の御陰で、先方の用事に見当が付いたよ。ありがとう。 あとは会食の際に、直接、聞いてみるさ。」

「そうですわね。」

 桜井一佐も、微笑んで飯田部長に同調するのである。
 納得顔の二人の一方で、今一つ状況の飲み込めない立花先生と恵は、互いの顔を見合わせて苦笑いを交わすのだった。
 そんな折(おり)、格納庫の奥の方から、緒美が飯田部長達に声を掛けて来る。

「飯田部長ー。そろそろ、出発の準備、搭乗をお願いしまーす。」

 声の方へと目を遣ると、緒美と樹里、そして日比野が歩いて来ているのだ。
 そして今度は、背後から社有機の、このフライトで機長を務める、沢渡が声を掛けて来るのだった。

「部長、搭乗の準備は出来ております。」

「ああ、ご苦労さん。宜しく頼むよ、沢渡君。」

 格納庫の外へと歩き出す飯田部長と桜井一佐、そして立花先生である。
 飯田部長は態態(わざわざ)と出迎えに来た、沢渡の肩を軽く叩いて、社有機の方へと向かうのだ。そのあとに続く桜井一佐は軽く会釈をして、沢渡に声を掛ける。

「今日は宜しくね、沢渡機長(キャプテン)。」

「はい。桜井一佐に搭乗頂けるなんて、光栄です。 あの、握手、宜しいでしょうか。」

 桜井一佐はクスッと笑って、右手を差し出し言うのだ。

「こんなお婆ちゃんで、宜しくて?」

「とんでもない!」

 桜井一佐は自(みずか)らを『お婆ちゃん』と表現したが、彼女はまだ五十代後半であり、三十代後半の沢渡との年齢差は親子程でしかない。詰まり、桜井一佐が現場で勇名を馳せていた其(そ)の頃、沢渡は十代の飛行機少年であり、桜井の活躍振りをリアルタイムで知っていて、そして憧れていた、沢渡はそんな世代なのだ。
 沢渡は両手で桜井一佐の右手を握り、そして手を離すと深々とお辞儀をしたのだ。

「ありがとうございます。」

 そして顔を上げた沢渡に、桜井一佐は尋(たず)ねる。

「貴方(あなた)は空防の出身かしら?」

「いえ、自分は海防の航空隊でしたが。それでも、一佐の勇名は、良く存じております。」

「そう?嬉しいわね。でも、もう昔の事だから、余り気を遣わないでね。」

 沢渡は、もう一度、今度は浅くお辞儀をすると「では、離陸の準備を致しますので。」と言い残し、駆け足で機体の方へと向かったのだ。その足取りは、明らかに『浮かれて』いるのが判る、そんな足取りだった。
 そんな顛末を、少し先で立ち止まって眺(なが)めていた飯田部長に気付くと、照れた様に桜井一佐は言うのだ。

「何(なん)だか、気恥ずかしいですわね。」

「いやいや、大したものですよ。」

 そんな遣り取りをしている二人に緒美達が追い付き、それ迄(まで)の様子を遠目に見ていた日比野が、飯田部長に問い掛ける。

「あの、飯田部長。桜井さんて、有名な方(かた)だったんですか?」

「そうだよ。防衛軍や、特にパイロットの中ではね。凄腕の戦闘機乗りで、女性で戦闘機飛行隊の隊長になったのは、第一号じゃなかったかな?確か。 結婚して、出産もして、それでも防衛軍に残って出世したってのは、希有(けう)な例だと思うよ、今でも。」

「わたしの場合、たまたま、周囲に応援して呉れる環境が有っただけですよ。運が良かったの。」

 そう、桜井一佐が補足するのだが、日比野は感心した様に「へえ~。」と声を上げるのだ。
 すると桜井一佐は振り向き、日比野や緒美に向かって言うのだ。

「有名だって言っても、昔の事ですから。それこそ、あなた方(がた)が生まれるよりも、前のお話。」

「それでも、今も現役の戦闘機パイロットなんでしょ?桜井一佐。」

 その飯田部長の問い掛けに、桜井一佐は声を上げて笑い、そして答える。

「こんな年寄りでも、いざと言う時に何かに役に立つ様にね、意地で飛行資格(ライセンス)を保持しているんです。まあ、年間の規定時間、飛行するのが精一杯ですけどね。」

 そうして一同は、社有機へと搭乗して行ったのだ。
 以上は、そんな出発前の、一コマである。

 

- to be continued …-

 

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