WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第17話.07)

第17話・クラウディア・カルテッリエリとブリジット・ボードレール

**** 17-07 ****


 最終的に、パラメータ各種を調整の末(すえ)にレーダー反応から割り出された位置座標との誤差は、凡(およ)そ一メートル程度迄(まで)に、電波発信源の位置特定は追い込む事が出来たのだった。
 誤差が一メートルと聞くと、精度が余り良くない様に思われるかも知れないが、凡(およ)そ百五十キロメートルの距離を隔てての一メートルである。それに、捜索目標の大きさが幅で八メートル程度である事を合わせて考えれば、実用に十分な結果だと言えよう。

「取り敢えず、こんなものかしら? 持ち帰って分析するのに、データは全部記録してあるから。実際のデータを元に、計算式とか見直せば、もう少し精度は上がる筈(はず)だって聞いてるけど。」

 日比野は、緒美と樹里に、そう告げるのだ。
 そこに立花先生が、声を掛けるのである。

「問題が無ければ、次へ進めましょう。」

「そうですね。 TGZ01 より、アカギ・コントロール。器機の初期調整が完了しました。予定通り、フェイズ・ツーへ進みますので、発信器のモード変更をお願いします。」

 緒美が海防側に呼び掛けると、返事は直ぐに有った。

「TGZ01 へ、了解。フェイズ・ツー移行の指示を出す、待機されたい。」

「TGZ01、了解。待機します。」

 試験の第二段階(フェイズ)は、気球(バルーン)が懸下(けんか)している発信器が、三種類の周波数をランダムに切り替えて発信し、C号機の位置特定が追従出来るかの試験である。この試験に用いられている発信器は、天野重工が製作して持ち込んだ物なので、それを操作する為の社員が気球(バルーン)を繋留している各海防艦艇へ派遣されており、海防側の指示で器機の操作を行ったり、稼働状況を監視しているのだ。
 そして間も無くして、クラウディアからの報告が入る。

「HDG03 より TGZ01。目標からの電波受信をロスト。再スキャン、開始します。」

 その報告に、樹里が応える。

「此方(こちら) TGZ01、了解。モニター、継続してる。」

 それから数秒後、樹里が操作しているコンソールのディスプレイに表示されている、MAP モード画面上での HDG03 と各『プローブ』のシンボルが、それぞれに受信状態である通知に変化する。そして、再び位置特定の演算結果が、シンボルとして MAP 上に表示されるのだ。

「演算結果、来ました。…精度は、先程と特に変わらないですね。」

 樹里の報告を、緒美と立花先生は樹里の背後からディスプレイを覗(のぞ)き込んで確認するのだった。
 その後、二度、三度と気球(バルーン)の発信器は異なる間隔で発する電波の周波数を切り替え、その都度(つど)、C号機は電波の発信源位置を特定し直して、その精度を確認したのだ。

「TGZ01 より、アカギ・コントロール。試験内容を、フェイズ・スリーへ移行します。宜しいでしょうか?」

 周波数の変化が、位置特定の検出精度に影響を与えない事を確認して、緒美は海防側に試験を第三段階(フェイズ)へ進める連絡をしたのだ。その返事は、直ぐに返って来た。

「此方(こちら)、アカギ・コントロール。フェイズ・スリー移行を了解。一番艦から、移動を開始。」

 空母『あかぎ』からの返答の後、間も無く、樹里が見詰めるディスプレイ上で、縦に三つ並んでいた気球(バルーン)を表すシンボルの、一番下側の一つが下向きへゆっくりと動き出すのだ。
 それは現在、MAP モードで表示されているので、ディスプレイの上側が磁北である。つまり、気球(バルーン)を繋留した海防艦艇は南向きへ航行を開始したのだ。その速度は航空機に比べれば比較にならない程に遅く、凡(およ)そ時速 30 キロメートル程度である。
 緒美は樹里の背後からディスプレイを覗(のぞ)き込み乍(なが)ら、尋(たず)ねる。

「どう、追跡(トラッキング)は出来てる?」

「はい、問題無い、みたいですね。」

 ディスプレイ上では下へ向かって移動するレーダー反応のシンボルと重なる様に、電波発信源の位置特定演算結果を表示するシンボルが移動しているのだ。
 樹里はコンソールを操作して、ディスプレイの表示スケールを何段階か切り替え、拡大して見せるが、重なる二つのシンボルの動きに目立ったズレは無い。
 それを確認して、緒美は不思議そうに、日比野に言うのだ。その際、緒美は発言が通話に乗らないよう、マイク部を指で押さえている。

「位置特定演算の分、表示は少し遅れるものと思ってましたけど?」

「ああ、元々、レーダー反応の方も生データじゃ無くて、データ・リンク経由だから少し遅れてる筈(はず)なの。」

 緒美と同様に声が通信に乗らないように配慮した日比野の解説に、樹里も又、マイク部を指で押さえて問い返すのだ。

「両方とも少し遅れてて、ちょうどピッタリって事ですか?」

「あー、そう単純な話じゃなくてね。現在時刻よりもコンマ何秒か前の位置を表示しても仕方が無いから、データ・リンクで戦術情報を MAP 表示する時は、現在時刻での予想位置を表示してるの。そこの所の考え方は、電波源の位置特定演算でも同(おんな)じで、表示は現在の予想位置なのよ。」

「別々に計算した予想結果が、重なっている、と?」

「そう言う事。」

 少し呆(あき)れた表情の樹里に、日比野は微笑んで答えたのだった。

「そう言う事でしたら、目標を次々、動かして貰いましょうか。」

 くすりと笑って緒美は然(そ)う言うと、マイク部から指を離して空母『あかぎ』に呼び掛けるのだ。

「TGZ01 より、アカギ・コントロール。二つ目の目標、移動をお願いします。」

「此方(こちら)、アカギ・コントロール、了解。」

 返事から間も無く、ディスプレイ上で二番目のシンボルが右斜め下へ、つまり南東方向へと移動を開始する。これも、問題無く位置特定の演算は追従して行くのだった。

「TGZ01 より、アカギ・コントロール。三つ目の目標、移動をお願いします。」

 緒美が再度、依頼の呼び掛けをすると、ディスプレイで上側のシンボルが右へ、つまり東へと進行を開始する。これで、三つの気球(バルーン)は全てが別方向へと移動しているのだが、そのレーダー反応に対して位置特定の演算結果は完全に追従しているのだ。
 それはC号機と『プローブ』は、目標が電波を発している限り、その位置をレーダーと同じレベルで追跡出来る能力を有する事が確認されたのを意味するのだった。

「TGZ01 より、アカギ・コントロール。続いて、フェイズ・フォーに移行します。予定通り、各目標には其(そ)の儘(まま)、移動の継続をお願いします。」

「アカギ・コントロール、了解。発砲の際は、予告をされたい。」

「TGZ01、了解。」

 緒美は空母『あかぎ』に答えたあと、続いてブリジットを呼び出す。

「TGZ01 より、HDG02。お待たせ、出番よ。」

「此方(こちら) HDG02、了解。旋回して、目標の狙撃コースに向かいます。」

 HDG02 は、HDG03 と共に気球(バルーン)との距離を保つ為、南北方向を往復するコースを飛行していた。その儘(まま)だと、B号機に装備したレールガンで気球(バルーン)を狙えないので、B号機は目標に正対する必要が有るのだ。
 ブリジットは、C号機との編隊を解いて、右旋回を開始する。これは目標である気球(バルーン)との距離を試験設定よりも詰めない為に、一旦(いったん)、離れる方向から、ぐるりと回って目標に正対する機動である。そして十分に減速して、向かって一番左側の目標に正対するコースに自身を乗せるのだった。

「目標の座標を、火器管制へ入力。照準用カメラの画像取得。」

 前回、実施したB号機での実射では、長射程でのレールガン使用に於(お)いては、照準時に目標の機影が確認出来ない事で、射撃タイミングを把握し辛いとの問題が判明したのだった。その対策として、レールガン本体に照準対象である目標を撮影する、超望遠カメラが追加装備されていた。それは視野の狭い小型軽量の撮影機材ではあるが、目標の捜索用に使用する目的ではないから射線軸上のみを撮影が出来れば、能力的には事足りると考えられたのだ。
 実際に目標を固定(ロック)して射撃軸線を合わせてみると、最大望遠でも目標は小さくにしか見えないものの、その外形は判別出来る程度には表示がされたのである。その撮影画像は、データ・リンクに因って随伴機側でも確認がされていた。

「HDG02 より、TGZ01。指定座標を照準固定(ロックオン)で、目標を視認。間違いないですよね?」

 ブリジットからの確認に、緒美が答える。

「此方(こちら) TGZ01、それが目標で間違いないわ。」

 画像から判別される形状は、球状物体の下に箱状の物体が有り、そこから下向きに長い棒状の突起物が確認出来る。繋留用のワイヤー迄(まで)は、流石に画像からは確認は出来なかった。因(ちな)みに、球状の物体が気球(バルーン)で、その下の箱状の物が発信器、棒状の突起物が送信アンテナである。
 そこで、ブリジットが妙な事を訊(き)いて来るのだ。

「TGZ01、あのー…ちょっと確認したいんですけど。 画像で、下向きに突き出ているのが、アンテナでいいんですよね?」

「そうだけど、それが何か?」

 そう答えつつ、緒美は樹里と顔を見合わせるのだった。続いて、ブリジットの声が返って来る。

「だとすると、電波発信源の座標、高度はアンテナの高さに合ってないと、オカシクないですか?」

「えーと…どう言う事?」

 困惑気味に、言葉を返す緒美である。だからブリジットは、説明を重ねるのだ。

「現状で照準画像だと、照準は上の方、気球(バルーン)の中心付近に座標指定されているんですけど、それ自体は、今回はいいんです。でも、実際のエイリアン・ドローンは、機体と電波発信源は、こんな離れてませんよね?」

 そこ迄(まで)を説明されて緒美は、ブリジットの言わんとする事に合点(がてん)が行ったのである。

「あー、成る程。言いたい事は解ったわ。」

 そう、ブリジットへ声を返す緒美に、立花先生が問い掛ける。

「どうしたの?」

「HDG02 からの照準画像ですけど、これ、見てください。」

 緒美は日比野がモニターしているディスプレイを指差して、立花先生に言うのだ。隣の席から、樹里もディスプレイを覗(のぞ)き込む。

「レーダーに反応しているのは、上部の気球(バルーン)部分ですから、レーダー反応から割り出されている座標は、気球(バルーン)の中心付近だと考えられます。対して、電波発信源は下部のアンテナ部ですから、位置特定演算の計算結果は、アンテナの中心付近の座標と言う事になります。気球(バルーン)の直径が八メートルなので、中心から下端までの距離は四メートル。その下に発信器とアンテナが有って、アンテナの位置が気球(バルーン)下面から二メートルとすると、気球(バルーン)の中心から電波発信源の位置は縦に六メートル離れている事になります。」

 そこで、樹里も問題の存在に気が付いたのだった。

「あ。さっき、レーダー反応の座標に合わせて、位置特定演算のパラメータ、調整しちゃいましたね。」

 一方で、何が問題なのか、今一つ理解していない日比野が口を挟(はさ)む。

「狙いを付けるのは気球(バルーン)部分なんだから、いいんじゃないの?」

「いえいえ。それは目標が『この形』の場合なら、そうですけど。本来の目標は、エイリアン・ドローンですから。この調整の儘(まま)、本番で使用したら、照準がエイリアン・ドローンの六メートル上になっちゃいますよ。」

「あー。でも、それは目視で照準を修正すれば、いい話じゃない?」

 樹里の説明に対する日比野の問い掛けに、緒美は頭を横に振って答える。

「『ペンタゴン』は、光学ステルスで姿が見えませんから。画像での照準修正は出来ないと思った方が。」

「ああ、そう言う事ね、解った。パラメータを再調整しましょう。縦方向の補正だけだから、大した手間にはならいと思う。」

 日比野は、再(ふたた)びパラメータの調整マニュアルを取り出し、クラウディアに呼び掛けるのだ。

「HDG03、今の話、聞こえていたでしょう? もう一度、パラメータの調整をします。」

「HDG03、了解。準備しますから、ちょっと待ってください。」

 そして緒美は、ブリジットに呼び掛ける。

「TGZ01 より、HDG02。パラメータの再調整をする間、待機コースに戻って。 それにしても、良く気が付いたわね。お手柄よ、HDG02。」

「いえ、照準画像を見る迄(まで)、こんな事、思いもしませんでした。HDG02、取り敢えず、待機コースへ戻ります。」

 ブリジットからの通話の後、日比野はクラウディアと、パラメータの再調整の為の遣り取りを始めるのだ。
 一方で緒美はマイク部を押さえて、傍(そば)に居た立花先生に言うのだった。

「うっかりしてました。ボードレールさんが気付いて呉れて、助かりましたね。」

 すると立花先生が、緒美に確認するのだ。因(ちな)みに、立花先生は通話用のヘッドセットを着けてはいない。

「単純に、位置特定演算の高度座標から六メートル引けば、いいって事ではないの?」

「どうでしょう? 計算式を見てないので詳しい事は解りませんけど、パラメータが角度に効いて来るものだと、距離に対して影響度が変わるでしょうから。その辺りは、日比野先輩の方が解っているんだと。」

「そうね。」

 立花先生は一言だけを発して、頷(うなず)いたのだ。
 一方で飯田部長と桜井一佐は、特に声を発する事無く、そこ迄(まで)の様子を、機内後方の座席から眺(なが)めていた。『この二人が海防側との遣り取りの窓口である』と前述したが、それはトラブルが有った際の交渉担当と言う事である。
 事前に計画され、提出された『試験実施要綱』に従って試験が進行している限り、オペレーションに関する連絡は主に緒美が担当するのだ。又、緒美と樹里、そして日比野と HDG 各機との通話は、全て防衛軍側にも聞こえており、だから先程来、通話に個人名を出さないよう各人が注意しているのだった。
 ともあれ、前述の理由で飯田部長と桜井一佐も、立花先生と同様に通話用のヘッドセットを装着していない。
 そんな二人の前の空席に、立花先生は腰を下ろした。それは当面、彼女が口を出す必要が無さそうだったからだ。
 すると、後ろの席から桜井一佐が声を掛けて来る。

「わたし達は当面、出る幕は無さそうね。本当に皆さん、優秀だわ。」

 立花先生は振り向き、微笑んで応える。

「恐縮です。でも、試験計画は本社の人間も目を通して準備して来た筈(はず)なのに、さっきみたいな事に誰も、事前に気が付かないなんて、間抜けと言うか、お恥ずかしい限りです。」

 その立花先生の自嘲(じちょう)的な発言には、飯田部長が笑顔でコメントするのだ。

「そんな事はないさ。所詮(しょせん)、人間のやる事だからね、何時(いつ)まで経っても、この手の『うっかりミス』は無くならないよ。だからこそ、こうやって試験とか、確認が必要なのさ。」

「全くです。」

 飯田部長のコメントには、桜井一佐も大きく頷(うなず)いて同意したのだった。
 そうこうする内、C号機位置特定演算のパラメータ調整が終了し、緒美が再(ふたた)びブリジットを呼び出すのである。

「TGZ01 より、HDG02。再度、射撃コースへ。」

「HDG02、了解。」

 HDG02 は、改めて HDG03 との編隊を解き、右旋回から東向きの飛行コースへと進むのだ。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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