WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第17話.10)

第17話・クラウディア・カルテッリエリとブリジット・ボードレール

**** 17-10 ****


 試験に参加していた全機が天神ヶ﨑高校へ帰着した後、参加機それぞれが点検整備を受ける一方で、緒美達はデブリーフィングを実施するのである。これには兵器開発部からは、緒美、恵、直美、樹里、茜、ブリジット、クラウディアに、立花先生を加えた八名が参加する。天野重工側からは、飯田部長、畑中、日比野が参加し、学校側と本社側、双方の立場で天野理事長も同席するのだった。天野理事長は、試験の状況や推移を、第三格納庫で畑中等と共に、送られて来る通信通話や画像をモニターしていたのだ。そして、随伴機パイロットの沢渡と、防衛軍側からオブザーバーとして、桜井一佐もデブリーフィングに立ち会う事になったのだ。
 因(ちな)みに時刻は、午後四時を少し回った所である。

「あの…校舎の会議室にでも移った方が、良くありません?先生。」

 議事録の記録係に任命された恵が、真面目な顔で立花先生に問い掛けたのだ。
 そう、デブリーフィングは兵器開発部の部室で、開催されようとしていたのだった。部室内には総勢で十四名が揃(そろ)い、それだけでも手狭な印象だった上に、天野理事長や飯田部長、桜井一佐と言った『偉い人』も参加しているので、恵としては気を遣ったのである。

「その方が、宜しいでしょうか?部長。」

 立花先生は飯田部長に意向を確認するのだが、飯田部長は事も無げに天野理事長に同意を求めるのだ。

「ここで構いませんよねえ、会長。」

「ああ、我々は構わないが、お客人(きゃくじん)は如何(いかが)ですかな?」

 天野理事長が尋(たず)ねるので、桜井一佐は微笑んで答える。

「わたしはオブザーバーですので、御構(おかま)い無く。」

 その回答を受けて、飯田部長が言うのだ。

「そう言う訳(わけ)だから、気にせず始めて呉れ、立花君。」

 一度、小さく頷(うなず)いて、立花先生は進行役としてデブリーフィングを始めるのである。

「では。本日の試験、お疲れ様でした。試験は成功裡(せいこうり)に終了したものと思いますが、問題点等、有りましたら発言をお願いします。」

 最初に手を挙げたのは、畑中である。早速、立花先生は畑中を指名するのだ。

「畑中君、どうぞ。」

「はい。先(ま)ずは、レールガンの画像照準設定にミスが有った事をお詫びします。ミスの原因は、現時点では不明ですが、試作工場へ戻り次第、作業担当者に状況等、聴取を行い再発防止に努めたいかと。あと、作業手順の見直しを実施します。」

 畑中が言い終えるのを待って、天野理事長が畑中に声を掛ける。

「畑中君、調整作業自体は間違っていなかったんだよね?」

「ああ、はい、そうです。手元のチェックシート通りの数値に再設定した後は、照準通りに命中してますから、工場での調整作業と設定値の割り出し作業に間違いは無かったかと。 それが、どうして実機への入力値が間違っていたのか、が謎でして。作業手順に、作業者が勘違いする様な要素が有った筈(はず)ですので、その辺り、洗い出します。」

「解った。そこは今後に活きていく所だから、しっかりとやって呉れ。但し、呉れ呉れも、犯人捜しみたいには、ならないようにな。」

「それは、承知してます。はい。」

 畑中は、そう天野理事長に応えると、微笑むのである。対して天野理事長は、小さく頷(うなず)いて見せるのだ。
 その一方で、日比野が手を挙げ、発言の許可を求める。

「はい、日比野さん、どうぞ。」

「はい。これはトラブル、と言う訳(わけ)では、ないんですけど。 鬼塚さんからの、依頼ですね。目標が発信する電波が途切れたり、周波数が切り替わった場合に、その直前の位置特定結果をモニター上で保持出来ないか、との要望が有りましたので、これは持ち帰って、検討させて頂きます。」

 今度は飯田部長が、日比野に問い掛ける。

「日比野君、それは技術的には難しくはないよね?」

「あ、はい。唯(ただ)、撃墜した目標の位置座標が何時(いつ)までも残ってても仕方が無いので、或る程度時間が経過したら、メモリーは消去する方がいいかな、とは考えてますけど。取り敢えず、実装の担当者とも細かい所は相談してみないと。 此方(こちら)で方針が定まったら、又、樹里ちゃんに連絡しますので。いいかしら?それで。」

 緒美は無言で大きく頷(うなず)き、樹里が声を返すのである。

「はい、大丈夫です。それで、お願いします。」

 その答えを聞いて、日比野は議事進行の立花先生に声を掛ける。

「わたしからは、以上です。」

「それでは、他に、何か問題点など、気が付いた事の有る方。」

 立花先生の呼び掛けに、応える者(もの)は居ない。周囲を見回した後、立花先生は茜達一年生に声を掛けるのである。

「ドライバーの三名は、オペレーション中に何か気付いた事は無かったかしら? 天野さん。」

 ドライバー代表として名指しされてしまったので、茜が声を上げる。

「…そうですね、わたしは今回、監視役でしたので、特には。ブリジットは、何か有る?」

「えーっ、ええ…っと、そうですね。先程の画像照準の件以外は、全て予定通りに進んだので、特に引っ掛かる所はありません、はい。 じゃ、次、クラウディア。」

 ブリジットは強制的にクラウディアへ発言の順序を回して、愛想笑いを送るのだった。クラウディアは一瞬、視線だけで隣席のブリジットを睨(にら)むのだが、直ぐに視線を戻して何も無かった様に、澄まし顔で発言を始める。

「C号機と Sapphire、それから『プローブ』も、仕様通りの機能を確認出来たと思います。『プローブ』の帰還コマンド、最終的に回収までに至ったのか、そこは確認したいですね。」

 クラウディアの発言に対して、飯田部長がコメントを返すのだ。

「ああ、それなら、先程、一報が有ったよ。『プローブ』は四基全て、指定通りの座標に帰還して着水。『あかぎ』搭載のヘリで無事に回収されたそうだ。」

 そのコメントには、緒美が逸早(いちはや)く反応する。

「回収された『プローブ』には、損傷とか有りましたか?」

「いや、その辺りの細かい情報までは、まだ不明なんだ。何にしても試作工場へ送り返して、状態の確認と再使用が可能か検査をしないとね。」

「そう、ですね。検査が終わったら、結果を教えてください。」

「勿論、報告書(レポート)は此方(こちら)にも回って来る筈(はず)だよ。」

「宜しくお願いします。」

 緒美は席に着いた儘(まま)で、飯田部長に頭を下げるのである。
 続いて、立花先生は随伴機パイロットの沢渡に、問い掛けるのだ。

「それでは沢渡さん、今日のフライト全般に就いて、何かコメントが有れば。」

 ここで沢渡に話を振ったのは、沢渡が HDG の開発には直接的には関係が無いからだ。フライトに関する注意事項や、申し合わせ事項が無ければ、沢渡はデブリーフィングから離脱する予定なのだ。沢渡自身にも他に業務予定が有るので、無関係な打ち合わせで長時間拘束されるのは避けたいし、会社側としては必要以上に HDG 関連の情報を沢渡に与える必要も無いのである。

「そうですね…今日は、わたしも特にコメントは無いかな。三人共、空中機動(マニューバ)やフォーメイションの位置取りとか、危な気(げ)が無くなって来たし、まあ、B号機だけは通常の航空機とは、ちょっと質が違うから、あれでいいのかは良く解らないけどね。」

 そんな沢渡のコメントに、茜が言葉を返すのだ。

「そう云って頂けるのは嬉しいですけど、AMF に関して言えば、実際に操縦しているのは Ruby ですから。」

 続いて、クラウディアが発言する。

「それを言ったら、C号機の飛行ユニットを操縦してるのは Sapphire ですよね。」

 ブリジットも、クラウディアに続くのだ。

「B号機の飛行制御は、Betty(ベティ) よね。」

 そのブリジットの発言を、飯田部長が聞き返すのである。

「Betty?」

 飯田部長の疑問に答えるのは、樹里であった。

「ああ、AI ユニットの Ruby と Sapphire には呼び名が有るので、A号機とB号機の制御 AI にも名前を付けよう、って最近なりまして。特に近頃は、Sapphire がC号機自体の呼び名みたいになって来てるので。」

「B号機だから、頭文字がBで『Betty』って事かい?」

 飯田部長の確認に、ブリジットが笑顔で答える。

「そんな感じです。」

「だから、『Betty』は『Elizabeth(エリザベス)』の別称なんだから、変だって言ってるんですけど。」

 からかう様に、クラウディアはブリジットに突っ込みを入れるのだった。

「いいのよ、そう言う細かい事は。」

 ブリジットはニヤリと笑って、一歩も引かない構えである。
 そんな様子に微笑み乍(なが)ら、飯田部長は茜に尋(たず)ねるのだ。

「成る程ね。それじゃ、A号機の愛称は?」

「一応、『Angela(アンジェラ)』って事に。」

 その回答を受け、沢渡が提案する。

「ああ、いいじゃないですか。次回から、フライト時の識別コードは、そっちを使ったらどうです? HDG01、HDG02 よりは Angela01、Betty02、Sapphire03 の方が、解り易いんじゃないかな。」

 その提案には、微笑んで緒美が応じるのだ。

「それは又、別途検討したいと思います。」

 立花先生が、そこでブリーフィングに区切りを入れるのである。

「それでは、フライト関係で特に問題が無ければ、沢渡さんの参加はここ迄(まで)、としますが宜しいでしょうか?」

 その立花先生の進行に、参加者からは特に異論は出ない。
 その事を確認して、先(ま)ずは緒美が沢渡に言うのである。

「では沢渡さん、今日は、ありがとうございました。」

「ああ、本日は此(これ)で、御役御免(おやくごめん)ですか。」

 そう言うと、沢渡は席を立ち、天野理事長に声を掛けて一礼するのだ。

「それでは理事長、第二格納庫へ戻りますので。」

「ああ、沢渡君。ご苦労様だったね。」

 そして沢渡は、部室内の一同に対して「それでは皆さん、お先に失礼します。」と声を掛けると、部室の奥側出口から退室して行ったのである。
 その直後、突然声を上げて恵が立ち上がったのだ。

「ああ、そう言えば。 お茶位(くらい)、お出しすれば良かったのに!」

 立ち上がった恵に、慌てて天野理事長は声を掛ける。

「いいから、森村君。気を遣わなくて。」

 天野理事長は差し出した右の掌(てのひら)を上下に動かし、恵に席に座るよう促(うなが)すのである。そして立花先生に向かって、言うのだ。

「立花先生、議事の進行を再開して呉れ。」

「すみません、うっかりしてました…。何でしたら、今から準備を?」

 そう言い乍(なが)ら、申し訳無さ気(げ)に恵が座り直すので、宥(なだ)める様に立花先生が声を掛けるのである。

「いいから、いいから、恵ちゃん。…え~っと、それじゃ議事を再開します。今日の試験に関しては、特に新たに議題は無さそうなので、今後の予定とか全般的に、何か有れば。」

 そこで、手を挙げたのが桜井一佐である。

「ちょっと、伺(うかが)いたいのですけれど、宜しい?」

「はい、どうぞ、桜井一佐。」

「では…B号機装備のレールガンに就いて、なのですけれど。前回の件も合わせて、天野重工さんのレールガンは、その命中率が驚異的なんですけれど。この辺り、どう言う仕組みなのか、差し支えなければ教えて頂きたいのです。」

 桜井一佐の問い掛けに、驚いた様に緒美が聞き返す。

「『驚異的』、ですか?」

「ええ、わたし達の常識からすれば、異常です。物理的な砲弾の命中率が、ほぼ 100%だなんて、有り得ません。テスト・パイロットの…ボードレールさん? 彼女は何か、特別な訓練でも?」

 そんな事を言われて、当のブリジットは茜と顔を見合わせるのだった。
 その一方で飯田部長は「わははは。」と声を上げて笑い、そして言うのだ。

「それに関しては、鬼塚君の名言が有りますな。『当たる様に撃ったから、当たっただけ』だそうだ。だよな、鬼塚君?」

「はい。」

 緒美は短く応えると、くすりと笑うのである。
 桜井一佐は怪訝(けげん)な表情を、飯田部長へと向けて尋(たず)ねるのだ。

「どう言う事です?」

「つまり、当たるのに理由は無いけど、当たらないのには理由が有る、そう言う事だろう?鬼塚君。」

 飯田部長から話を振られたので、続いて緒美が説明を始める。

「要するに、目標の軌道と砲弾の弾道が交差していれば、必ず当たる訳(わけ)ですから、そのタイミングで発射がされれば、命中しない訳(わけ)がないんです。それで命中しないのは、発射後に大きな外乱要因が有る場合で、第一に目標の軌道が変わる事、第二に砲弾の弾道が変化する事、ですね。 第一要因である目標の軌道は、射撃側からは制御出来ないので、これはもう運に任せるしか無いのですが、前回と今回の試験では目標が等速直線運動を続ける前提で発射していますから、この第一要因は影響していません。 第二要因の外乱は、電磁場や重力場の大きな変動とかが有れば影響を受けるでしょうけれど、地球大気圏内でそれは無視出来ますから、後は大気状態だけが問題です。これも前回と今回の試験では大気状態が安定していたので影響を受けませんでした。そもそもレールガンから発射された弾体は非常に高速なので、大気状態の影響は受け難いと言う事も有りますし、大気状態の影響は急激な変化はし辛いので、火器管制装置で十分(じゅうぶん)補正が可能ですから、最初から心配はしてません。 そう言った訳(わけ)ですので、命中するか否(いな)かは、発射時に目標と弾道とが一致しているか、その一点に掛かっています。」

「その理屈からすると、命中しない理由は大きく二つで、第一に目標の軌道予測の失敗、第二は、そもそも発射時に弾道が目標の未来位置と交差していない、と。そう言う事かしら?」

「はい。」

 緒美は一度頷(うなず)いて、微笑むのだ。

「目標の軌道は射撃側から制御不能って言うのは、全くその通りだから置いておくとして。すると、HDG の火器管制は特別に精度がいいって事かしら?」

 眉間に皺(しわ)を寄せ乍(なが)ら、桜井一佐が然(そ)う問い掛けて来るので、困惑しつつ緒美は日比野に尋(たず)ねるのである。

「そんな事はないですよね?日比野さん。」

「そうですね…火器管制機能を持っているのは HDG 搭載の AI なんですが、計算している内容は、例えば F-9 戦闘機のものと同等の筈(はず)ですけど。ですから、特別に精度がいいって訳(わけ)では、ないと思いますよ、桜井さん。」

 日比野に続いて、緒美が説明を試みる。

「HDG が特別だとすれば、先程も話が出ていましたけど、最終的に操縦を各機搭載の AI が担当している事だと思います。火器管制が求める機体姿勢に、AI 操縦だと正確に合わせる事が出来ますから。その点、人が操縦している現用の戦闘機は、火器管制の要求に人の操縦が合わせ切れてないと言うか、そこはパイロット個人の練度の差が出て来るんだと思います。」

「成る程。」

 桜井一佐は、小さく頷(うなず)くのだった。

 

- to be continued …-

 

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