WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第17話.12)

第17話・クラウディア・カルテッリエリとブリジット・ボードレール

**** 17-12 ****


「それでは、他に何か連絡事項の有る方。」

 立花先生が呼び掛けると、少し間を置いて、今度は天野理事長が手を挙げるのだ。

「では、理事長。どうぞ。」

 立花先生に指名され、天野理事長が口を開く。

「これは連絡事項なのだが、再来週の月曜日に C号機の ECM 機能を搭載した F-9 が二機、此方(こちら)へ配置となる。運用に必要な人員は本社から派遣するが、機能試験等には、兵器開発部の協力を得たい。」

 突然の発表に、茜とブリジット、クラウディアと樹里、直美と恵とが、無言で顔を見合わせるのだった。そして緒美は、立花先生に問い掛ける。

ECM 機能装備の F-9 って、先生は御存じでした?」

 立花先生は一度、ゆっくりと頭を横に振り、答える。

「いいえ、初耳だけど。 貴方(あなた)達は、当然、知ってたのでしょ?」

 そう言って、視線を畑中へ、続いて日比野へと向けるのだ。
 苦笑いで、畑中が応える。

「そりゃ、まあ、試作工場で改造やら、試運転とかやってますから。」

 続いて、日比野が少し申し訳無さそうに。

「新規部分のソフトの開発は、うちの担当ですし。」

 そんな二人を飯田部長が、フォローするのである。

「まあ、職務上の秘密だから、勘弁してやって呉れ。それに、兵器開発部(こちら)とは、開発作業自体は直接関係ない案件だったしね。」

「それは承知していますけれど。」

 立場上、理解を示す発言をする、立花先生なのである。
 そこで、樹里が日比野に問い掛ける。

「その ECM 機能の制御は、Sapphire 級(クラス)の AI ですか?」

 日比野は飯田部長へと、顔を向けて無言で発言の許可を求め、飯田部長は直ぐに其(そ)れを察して、頷(うなず)いて見せるのだ。
 そして日比野が、口を開くのである。

「いいえ、さっきのお話の様に、防衛軍は AI による最終制御は嫌ってるので…。」

 そこに、桜井一佐が口を挟(はさ)む。

防衛省が、ね。」

 そう言って微笑んでいる桜井一佐に、小さく頭を下げてから日比野は発言を続けるのだ。

「…そう言う訳(わけ)で、ECM 機能専用の制御 AI になってるの。だから、会話とか音声入力とか、機上での解析プログラムの更新とか、C号機みたいな機体の制御とかは、一切(いっさい)出来ない単機能仕様よ。」

 続いて、飯田部長が補足する。

「搭乗するオペレーターが全員、城ノ内君やカルテッリエリ君の様なエキスパートって訳(わけ)じゃないからね。機能を絞った方が現場では扱い易いし、開発期間も圧縮出来るってものさ。」

「と、言う事は、ベースになる F-9 は複座型、ですか?」

 その緒美の質問に、飯田部長はニヤリと笑って頷(うなず)く。そして、発言を続けるのだ。

「前回の試験の時に投入した自衛用ジャム・ポッドと基本的には中身は同じなんだが、ジャム・ポッドは全周囲へ妨害電波を放射するが、今度のはC号機と同様に目標を選択して其処(そこ)へ向けて妨害電波を送信する仕様だ。」

「機体は、防衛軍から提供を?」

 続く立花先生からの質問に、飯田部長は酷く苦い顔を作って、一度、無言で桜井一佐へ顔を向ける。それには桜井一佐も苦笑いを返し「申し訳無いですね。」と言葉を返したのだ。
 そして天野理事長が、説明するのだった。

「まあ、防衛軍の予算は国会の承認が必要だからね。そう簡単に、右から左へとは決まりませんですな、桜井さん。」

「ええ、戦闘機を二機分、予算を新規に増やすとなると、なかなか。」

 決まりが悪そうに、桜井一佐は応じるのだった。
 それを受けて、今度は緒美が飯田部長に訊(き)くのだ。

「じゃ、元は試作工場の、試験用の機体ですか?」

「いやいや、それも先先(さきざき)のスケジュールが決まってるから、改造してしまう訳(わけ)にもいかなくてね。結局、二機を新造する事になったんだ。幸い、F-9 の生産は、まだ続いているからね。製造部に無理言って、二機分の製作をラインに捻(ね)じ込んで貰ってたんだよ。」

 その発言には少し呆(あき)れた様に、直美が声を上げるのだ。

「捻(ね)じ込むって、何時(いつ)から準備してたんですか。それに、結局、費用は会社の持ち出しなんですよね?」

 飯田部長は微笑んで、直美の疑問に答える。

「それは勿論だが、まあ、やりようは有るのさ。全てのパーツを毎回、必要数キッチリで製作してる訳(わけ)じゃないからね。例えば今年の生産計画に対して主要パーツ、フレームとかの構造パーツは、後々の修理、補修の分を見込んで、少し多目に製作したり、協力工場に発注してるんだ。製造中の事故で、パーツが破損する事だって有り得るからね、そもそも或る程度は予備のパーツは必要なのさ。」

 例えば、十個製作すると十万円掛かるパーツが有ると仮定して、それを十二個製作すると、その制作費は単純に十二万円ではない。加工自体の他に、その為の工作機械への設定や素材のセッティング等、付随する諸諸(もろもろ)の手間も全てがコストである。それは一気に製作するのであれば、十個を製作するのも十二個を製作するのも大差は無いので、トータルでの制作費は生産数が十二個でも十二万円を割る事になるのだ。逆に、十個とは別口で二個だけを製作するとすれば、余計に発生する手間の分だけ割高になり、二個を製作するのに掛かる費用が二万円では済まない、そんな事にもなるのだ。
 手間とは無関係な材料費は固定だろうと思われるかも知れないが、加工前の素材も又、工業製品である。従って、その大きさには規格が存在するのだ。その規定の大きさの素材から、六個のパーツが加工出来ると仮定した場合、十個を製作する場合は二個分の端材が発生していたのが、同じ素材の量から十二個迄(まで)なら加工が可能な訳(わけ)で、その際の材料費は十個と十二個とで変わらないと言う事になるのだ。更に、一回り小さい規格の素材から四つのパーツが製作可能ならば、小規格素材三つから十二個のパーツが加工出来る訳(わけ)で、大規格素材二つと小規格素材三つで何方(どちら)の仕入れコストが安いのか?と言う話にもなるのである。
 加えて言うなら、大きな素材からの加工では歪(ひず)みが起き易いと言った場合、これは加工品に要求される精度にも依るのだが、歪(ひず)みが起きないように低速で加工する必要が有るとなれば、小さな素材から加工した方が加工速度が上げられるので生産性が上がり、コストが下がる可能性も有るのだ。勿論、加工装置への素材の取り付けや取り外しの回数や手間が増えれば、それはコスト増の方向なので、最終的なコストが如何(いか)に増減するかは一概には言えないのである。
 以上の様な複数の要素が絡んで、工業製品や加工品のコストは決定されるのだ。同時に、様様(さまざま)な工夫を積み上げる事で、コストが削減されているのである。
 そう言った事柄(ことがら)を、茜達、一年生組は兎も角、緒美達、三年生組には、或る程度の見当が付いたのだ。勿論、彼女等の其(そ)れら知識に実感が伴う様になるのは、本社で正式採用されて以降の事である。

「その予備や補修用のパーツを掻き集めて、二機分を製作した、と?」

 冷静な表情で緒美が問い質(ただ)すと、無邪気に笑って飯田部長は答えた。

「あははは、ま、乱暴に言えば、そう言う事だ。 そんな訳(わけ)だから、新規で二機製造するよりは、安く仕上がってるんだよ。」

 それには、桜井一佐が食い付いて来るのだ。

「ちょっと待ってください、飯田さん。F-9 のパーツには御社以外の装備機器を、防衛軍(うち)から供与している扱いの物品も有った筈(はず)ですけど?」

「ああ、はい、一部の電装品はそうですけど。 今回のは防衛省から、物品的にも予算的にも協力を断られてしまいましたので、必要な装備機器は社内で製作した同等品でリプレイスしてあります。 そう言った事情ですので、今回製作の二機は完全に我が社の資産扱いでの登録となりますし、電子装備の仕様が一部違ってますから、試験結果が良好であっても防衛軍への引き渡しは致し兼ねます。その辺り、ご了承ください。」

 今回の件に就いては、F-9 用には其(そ)のエンジンをも天野重工が生産を担当しているからこそ出来得る、力業(ちからわざ)であると言えよう。因(ちな)みに、防衛軍経由で供与を受けている電子装備とは、レーダーと無線器機、そしてデータ・リンクの制御器機である。レーダー関連器機は三ツ橋電機製、無線通信とデータ・リンク関連器機は JED(Japan Electronics Developments Co. Ltd.:日本電子開発株式会社)製なのである。
 これは天野重工に、レーダーや通信器機を設計・製作する能力が無い、と言った意味では、勿論ない。天野重工は会社の規模的に、一社の中に機体部門、発動機部門、電子器機部門が混在していて、それが或る意味で『強み』ではあるのだが、電気器機の製造を専業とする三ツ橋電機や JED とでは、生産コストの面では太刀打ちが出来なかったのである。そして防衛省側には、『一つの事業を、一社で独占させず分散させたい』と言う意図が有るのも事実なのだ。それには防衛産業育成と言う側面と、競争に拠る装備品の品質向上とコストダウンを計るとの側面が存在するのである。

「それは、仕方無いですわね。」

 苦笑いで、桜井一佐は飯田部長に返事をするのだった。
 そこでブリジットが、飯田部長に問い掛けるのである。

「あの、飯田部長。態態(わざわざ)『会社の資産だ』って断るのは、何か意味が有るんですか?」

「ん? ああ、試作工場に有る二機の F-9 試験機の方は、実は会社の資産、所有物じゃないのさ。」

 続いて、畑中が説明する。

「あれは防衛軍の開発予算で製作した試作一号機と、四号機。四号機の方が、復座型の一号機だから。どっちにしても、所有と登録は防衛軍で、天野重工(うち)が防衛軍からレンタルしてる体裁になってるんだよ、法律上は。 だから、あの機体は、こっちの都合で勝手に改造する訳(わけ)にもいかないんだな。」

 畑中の解説を聞いて、茜とブリジットは「へえ~。」と声を揃(そろ)えるのだった。
 そして説明をしていて自身が気付いた事を、畑中が飯田部長に尋(たず)ねる。

「あれ? そう言えば、兵装関連設備や火器管制とか防衛軍納入のと同じ仕様で製作してましたけど、あれで良く、民間登録が通りましたね。」

 畑中の質問には、一笑いした天野理事長がコメントするのである。

「あははは、防衛省が予算(カネ)は出さんと言うからな。代わりに、防衛省経由で特例の登録を認めさせたんだよ。オマケにミサイルと機銃弾を一式、供与して貰った。」

 為(し)て遣(や)ったりと言った面持ちの天野理事長に対し、苦笑いの桜井一佐が言うのだ。

「その件では空幕でも、事務方が大量の書類を持って右往左往してましたよ。」

 ニヤリと笑って、天野理事長は言葉を返す。

「それは、ご迷惑をお掛けしましたかな。しかし、今迄(いままで)の経緯を考えれば、それ位の汗は掻(か)いて貰わないと。」

「まあ、致し方ないですわね。」

 天野理事長に同意した桜井一佐は、溜息を一つ、吐(つ)いたのだった。
 その一方で、厳しい視線で茜は、天野理事長に問い掛けるのだ。

「あの、理事長? ミサイル一式って?」

「お、おう。今迄(いままで)の事例も有る。今後の能力試験で復(また)、実戦に巻き込まれないとも限らないからな、自衛用の備えだよ。 キミ達が触る必要は無いが、第二格納庫に搬入されるから、その事だけは承知しておいて呉れ。一応、危険物だから、管理は本社が派遣して来る人員が担当する。 あと、F-9 改造機の機体の方は、第三格納庫に配置する予定だ。」

 天野理事長の説明に、頷(うなず)いて緒美が言う。

「そうですね、AMF とC号機の飛行ユニットは、整備上は F-9 と共通部分が多いですから。同じ場所に置いた方が、都合はいいでしょうね。」

「そう言う事だ。流石、鬼塚君は物分かりがいいな。」

 そう言うと、天野理事長は再(ふたた)び「わははは。」と、一笑いするのである。

「いいんですか?立花先生。」

 少し困惑気味に、茜は立花先生に意見を求めるのだが、それには立花先生は苦笑いで答えるしか無いのだ。

「もう今更(いまさら)、わたしが何を言っても無駄でしょう?」

 立花先生の立場は理解出来るので、茜も苦笑いを返す以外無かった。
 一方で、緒美が相変わらずの冷静さで、天野理事長に確認するのである。

「所で、理事長。先程、わたし達に協力を、と言う事でしたが。具体的には何をすれば、宜しいのでしょうか?」

 緒美の問い掛けには、桜井一佐が答えるのだった。

「それに関しては、防衛軍からのお願いも有りますので、わたしの方から。」

 そう切り出した桜井一佐の表情は、それ迄(まで)とは打って変わって、厳しい表情だったのである。

 

- to be continued …-

 

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