WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第17話.13)

第17話・クラウディア・カルテッリエリとブリジット・ボードレール

**** 17-13 ****


「これは報道とかで既に御存知とは思いますけれど、先週末、小規模でしたがエイリアン・ドローンに依る襲撃が発生しました。全て、防衛軍にて対処はされましたが、その前回、皆さんに ECM 実験として参加して頂いたケースと比較して、対処効率とか命中率とか、まあ、惨憺(さんたん)たる結果だったと言えるでしょう。勿論、迎撃部隊や地上、海上に被害を出さなかった事で、良しとされてはいますが…。」

 本題を言い辛そうな桜井一佐を見兼ねて、飯田部長が続けるのである。

「まあ、ぶっちゃけ、次回の大規模襲撃の際には、諸君に ECM 支援を依頼したい、そう言うお話だ。」

 桜井一佐の言った『先週末の小規模襲撃』とは 11月4日、金曜日の出来事で、天神ヶ﨑高校では『秋天(しゅうてん)際』が終了した、その翌日である。この日の襲撃事件で飛来したエイリアン・ドローンは六機のみであり、全てが海上で撃墜がされた事も手伝って、それ程、大きなニュースとしては扱われなかったのだった。
 しかし報道はされなかった実情として、防衛軍は対処の開始から終了迄(まで)に、結果として三時間を費やし、その間に投入した迎撃機は延べ二十一機、発射した空対空ミサイルは二十八発にも及んだのである。
 それは、天野重工の実施した ECM 実験以前の結果と比較すれば極端に悪い結果ではなかったが、防衛軍統合作戦司令部にしてみれば ECM 支援の有りと無しとで、これ程の落差が生じるものかと愕然(がくぜん)としたのである。
 一方で、非公表ではありながらも『R計画』を推進する桜井一佐としては、HDG 開発計画は『R計画』に投入するデバイスの要素技術を開発・検証する為に存在するものであり、HDG その物の完成や取得を目的としている訳(わけ)ではない。中でも、ECM や今回試験の電波源特定機能に関しては『R作戦』のデバイスに搭載する予定は無く、桜井一佐の立場的には実際の所、どうでもいい機能だったのだ。
 勿論、先日の ECM 実験に立ち会っていたので、ECM の効果に統合作戦司令部が注目するのは、桜井一佐にも理解は出来るものである。しかし、だからと言って未成年の学生を当てにして作戦に組み込む事には、桜井一佐個人には抵抗が有ったのだった。

「理事長は、承諾(しょうだく)されたのでしょうか?」

 唐突に、立花先生が天野理事長に尋(たず)ねるのだ。
 天野理事長は苦笑いを浮かべ、答える。

「わたしの判断は、取り敢えず保留だな。わたしが判断すると、それが社命になり兼ねんからな。 寧(むし)ろ現場の、キミ達の意見を聞いて判断材料としたいのだが、どうかね?立花先生。」

 天野理事長から伝染した様な苦笑いを浮かべて、立花先生は答えるのだ。

「わたしの立場では、反対しか出来ませんが。態態(わざわざ)、此方(こちら)から危険な方向へ出向くのは、如何(いかが)なものかと。」

「あの、宜しいですか?」

 肩程の高さに右手を挙げて、隣席の緒美が発言の許可を求める。立花先生は小さく溜息を吐(つ)いて、発言を許可するのだ。

「どうぞ、鬼塚さん。」

「はい、では。後方からの ECM 支援だけに限定していいのでしたら、危険度はそれ程、高くないと考えますが?」

「だって、それでも前回、危ない局面は有ったじゃない。」

 間髪を入れずに、立花先生は反駁(はんばく)する。そこに、今度は桜井一佐が口を挟(はさ)むのである。

「勿論、防衛軍として警護を付ける事は、考えていますよ。前回は二機でしたが、次回は四機の枠を確保してあります。」

 その桜井一佐の発言に対して、突然、クラウディアが声を上げるのだ。

「それ、役に立つとは思えません。」

「カルテッリエリさん、言い方。」

 真面目な顔で、直様(すぐさま)、樹里が注意するのだった。
 クラウディアは小さく頭を下げて、「失礼しました。」と一言を告げる。対して桜井一佐は一度、首を横に振って「いえ。」とだけ、短く応じたのだった。結局、クラウディアの発言内容については、互いに敢えて否定はしない儘(まま)なのだ。
 続いて発言したのが、直美である。

「まあ、クラウディアが言いたくなるのも、解るけどさ。」

 そして、茜である。

「あの、クラウディアと Sapphire の護衛には、わたしも出ますけど?構わないですよね。」

「茜が出るのなら、当然、わたしも。」

 続いてブリジット迄(まで)もが、そう言い出すので、少し困った顔で立花先生が嘆(なげ)く様に言うのだ。

「ほら、結局、そう言う流れになるじゃない。だからダメだって、言ってるの。」

「いえ、先生。そもそも、クラウディアさんだけを、とは、思ってませんでしたけど。」

 立花先生に対して緒美は、真顔で言葉を返すのだった。

「あー、ちょっといいかな?」

 そこで飯田部長が、割って入る。
 立花先生は視線を飯田部長の方へと転じ、問い掛けるのだ。

「何(なん)でしょうか?飯田部長。」

「まあ、そんな怖い顔しないで聞いて呉れ。本社サイドからの提案なんだが…。」

 引き攣(つ)った笑顔を向けて、立花先生は緒美を挟(はさ)んで左隣に座って居る、恵に尋(たず)ねるのだ。

「そんなに怖い顔してるかしら?恵ちゃん。」

 恵は微笑んで、即答するのだ。

「はい、割と。」

「ちょっと、森村~。」

 恵の素直過ぎるコメントに対して、長机の対角位置から、直美が声を掛けて来るのだった。立花先生の隣で、緒美はクスクスと笑っている。
 一方で立花先生は、一度、眼鏡を外して俯(うつむ)き、眉間(みけん)を摘(つ)まんだり、目頭を押さえたりを、暫(しばら)くの間、繰り返すのだった。

「…あー、いいかな?立花君。続けても。」

 そう、飯田部長に声を掛けられ、立花先生は眼鏡を掛け直して顔を上げると、真面目な表情を作って言うのだ。

「どうぞ、部長。」

「それじゃ。本社側からの提案としては、再来週に到着予定の F-9 改をだな、ECM 支援機として次の迎撃戦に投入したい。まあ、又、実地試験と言う体裁にはなるから、防衛軍側の了承が必要だが。それで諸君には、今日、確認した『ペンタゴン』の位置特定とレールガンでの狙撃、これの実地試験をやって貰いたい。」

 飯田部長の発言に間を置かず、緒美が言葉を続ける。

「確かに、流石に Sapphire でも、電波妨害と『ペンタゴン』の位置特定とを、同時処理は出来ませんからね。 ああ、それで ECM 機能付きの F-9 を?」

「ああ、企画部からの提案でね。まあ、HDG の形態では防衛軍には売れないので、って言う理由も有るが。」

「あら、今でしたら HDG を防衛軍で引き取ってもいいってお話も、可能かも、ですよ。何しろ、実績を上げている装備ですから。」

 そう、冗談めかして桜井一佐は言うのだが、飯田部長は意に介さない。

「現状で移管は、無理ですな。防衛省や政府で、正当な予算が付くとも思えませんし。」

「それは、残念。」

 桜井一佐は、くすりと笑って応えたのだ。

「それで、F-9 改を投入する案、如何(いかが)でしょうか?桜井一佐。」

 飯田部長に問われ、少し考えてから桜井一佐は答える。

「防衛軍としては、ECM 支援の提供が得られるのであれば、問題ありません。必要なのは ECM 支援が実施される事ですから。 但し、新規器材で効果が得られないと判断された場合は、速(すみ)やかに検証済みの器材へスイッチして頂く事は、お願いしたいですね。」

「それは、構わないよね?鬼塚君。」

 飯田部長が確認して来るので、緒美は頷(うなず)いて答える。

「そうですね。F-9 改?の、もしも ECM が機能しない様でしたら、此方(こちら)の安全にも関わりますから。」

 新規器材である以上、期待通りの機能が発揮されるとは限らないのである。実戦での実地試験と言う運用の性格上、保険は必要なのだ。
 続いて緒美に、落ち着いた声で立花先生が問い掛けるのだ。

「でも、前回みたいに襲撃される危険性は、残るでしょ?」

「いえ、あれは…。」

 緒美が言い掛けた所で、桜井一佐が声を重ねる様に発言するのである。

「前回の事態は、完全に防衛軍側の失態です。接近を許してしまった原因は、低空への監視が甘かった事ですから、次回は警護の機体を ECM 機の前方低空へ配置して警戒に当たらせます。」

 続いて、天野理事長の発言である。

「F-9 改にも、対空ミサイルを装備させるし、HDG と違って機上の捜索レーダーも装備している。前回よりも、早期に接近して来るエイリアン・ドローンを発見出来る筈(はず)だよ。」

 HDG は、その機体の小ささ故(ゆえ)に、レーダーが装備されていない。敵機の探知については、防衛軍のデータ・リンクに拠る戦術情報が頼りなのだ。機体が F-9 戦闘機と同規模である AMF や C号機用の飛行ユニットは、F-9 戦闘機では本来、レーダーが装備されている機首部が HDG との連結ユニットになっているのでレーダーを装備出来ないのだ。AMF は見かけ上は機首ブロックが存在しているものの、内部の HDG-A01 を露出する為の展開機構が内蔵されている為、矢張り機首ブロック内部にレーダーを装備する事が出来ない。C号機飛行ユニットに至っては、機首ブロック自体の存在が無いのだ。
 勿論、F-9 戦闘機の機首捜索レーダーも万能ではない。全周を常に警戒監視出来る訳(わけ)ではないので、敵機の接近ルートを推定して、そこを監視する運用となるのは避けられない。つまり、接近ルートの読みが外れると無意味になるのだが、それでも無いよりは優(まし)なのである。F-9 単機では限られる捜索警戒範囲も、これを複数機で分担すれば、必要な範囲をスキャンする事が可能となるのだ。

「貴方(あなた)達は、それで大丈夫? 特に、カルテッリエリさん。」

 立花先生に声を掛けられ、茜とブリジットは、揃(そろ)って視線をクラウディアへと向けるのだった。
 クラウディアの方は其(そ)の視線を敢えて無視し、特段に表情を変えず立花先生に答えるのだ。

「対応策は考えて頂いている様子なので、大丈夫だと思います。」

「天野さんと、ボードレールさんは?」

 立花先生に問い直されて、茜とブリジットは相次いで答える。

「はい、大丈夫ですよ、先生。」

「わたしも、大丈夫だと思います。」

「そう、なら、わたしからは、これ以上言う事はありません。理事長からは、何か有りますでしょうか?」

 立花先生から話を振られた天野理事長は、一呼吸置いて発言する。

「わたしからも、特には無いな。後の事は任せるよ、飯田君。」

「はい。では、そう言う事で、細(こま)かい事は又、後日に、桜井一佐。」

「そうですわね。今日の天野重工側からの提案の件、統合作戦司令部には伝達しておきますので。後日、詳細の打ち合わせを、となると思います。その際には、わたしも出席しますので。」

「宜しくお願いします。」

 飯田部長は桜井一佐に応えた後、立花先生と緒美の方へ向いて言うのだ。

「防衛軍側との打ち合わせは、本社サイドで行うから、詳細が決まったら連絡する。それでいいかな?立花君、鬼塚君。」

「はい、結構です。」

「宜しくお願いします。」

 緒美の返事を聞いたあと、一度、参加者を見回して、立花先生は言うのである。

「それでは、今回のデブリーフィングは以上で、宜しいでしょうか?」

 その呼び掛けに対して、全ての出席者から発言は無く、立花先生はデブリーフィングの終了を宣言するのだ。

「では、以上で終了とします。お疲れ様でした。」

 終了の宣言を受けて出席者、特に来客組の一同は直ぐに席を立ち、部室奥側の出口へと向かうのだ。
 茜達も席を立って、格納庫フロアの作業応援へ行く可(べ)く、来客組が階下へ降りて行くのを待つのだった。
 一方で立花先生は議事の進行役を終えて一息吐(つ)いており、そんな先生にお茶を出す可(べ)く恵は動き出していた。緒美と直美は、来客組に明け渡していた何時(いつ)もの席へと移動して、座り直すのである。
 そして、恵が淹(い)れた紅茶を受け取り、立花先生は愚痴(ぐち)るのだ。

「何(なん)だかな~…理事長も部長も、もう、感覚が麻痺してるんじゃないかしら?」

 緒美は、くすりと笑って、立花先生へコメントを返す。

「そうかも、知れませんね。」

「まあ、防衛軍に恩が売れるのなら、売っておく方が後後(あとあと)、得するからじゃないですか。」

 ニヤリと笑い、直美が然(そ)う言うのである。

「飯田部長には、そんな計算も有るかもだけど、理事長は違うでしょ? 天野さんも居るんだし。はい、お茶。」

 恵はコメントしつつ、直美の前にも紅茶のカップを置くのだった。そして、一年生組に声を掛ける。

「貴方(あなた)達も、お茶して行く?」

 それには、茜が即答するのだ。

「ああ、いえ。わたしは下の作業、手伝って来ますので。」

「下の片付けが終わってから、頂けますか?恵さん。」

 ブリジットの提案に、恵は笑顔で答えるのだ。

「そうね。皆(みんな)の分、支度しておくわね。」

「お願いします。」

 茜が然(そ)う返事をして、ブリジットと部室を出ようと動き始める所を、立花先生が呼び止めるのだ。

「茜ちゃん、防衛軍も含めて、もう、大人達の感覚がオカシクなってるかも知れないんだから、嫌だったら『嫌だ』って、言っていいのよ?」

 真面目な顔の立花先生に、茜は微笑んで言葉を返すのだ。

「大丈夫ですよ、先生。 わたし達は、大人に言われるから、やってる訳(わけ)じゃなくて。やる事の意義も、危険も、ちゃんと理解してやってますから。ねえ、ブリジット。」

「あはは、ゴメン。わたしは難しい事は、分かんないけど。でも、茜と部長を信じてる、それだけ。 あ、勿論、立花先生の事も信じてますよ~。」

 立花先生はくすりと笑い、「そうかー。」と一言を発すると、ティーカップを口元へと運んだ。

「それじゃ、部長。わたし達、下の片付け、手伝って来ます。」

 茜が声を掛けると、緒美は言うのだ。

「うん、わたし達も一服したら降りるから。」

「はい。」

 そして茜達に付いて部室を出ようとするクラウディアを、樹里が呼び止めるのだ。

「あー、カルテッリエリさんは、ちょっと、こっち、手伝って貰えるかな?」

「ああ、はい。」

 クラウディアは踵(きびす)を返すと、何やら PC の操作をしている樹里の席へと駆け寄って行く。そして樹里は、茜に依頼するのだ。

「天野さん、下に降りたら維月ちゃんに、上がって来るように声を掛けて貰えるかな?」

「は~い。分かりました~。」

 そう返事をして、茜はブリジットと共に部室を出たのだ。

 

- 第17話・了 -

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。