WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第18話.01)

第18話・新島 直美(ニイジマ ナオミ)

**** 18-01 ****


 天神ヶ﨑高校・兵器開発部と天野重工が防衛軍の協力を得て、C号機の『プローブ』とB号機のレールガンの試験を実施した 2072年11月12日、土曜日。時刻は午後七時を過ぎて、東京へと向かう天野重工所有の社有機、その機内である。
 この日の天野会長は本社や自宅へ移動しない予定だったので、社有機は東京の飛行場に配置されている機体が、本社へと戻る人員を迎えに来たのだった。従って、搭乗したのは飯田部長と担当秘書である蒲田、本社開発部の日比野、そして来客扱いの桜井一佐とその秘書役の士官が一名の、計五名である。
 因(ちな)みに、昼間の試験で桜井一佐が現場へと飛んでいる間、彼女の秘書役である若い士官、小野三尉の相手を努めていたのが、飯田部長の担当秘書である蒲田だったのだ。
 さて、離陸から十五分程が経過した頃、その小野三尉は席を立つと、飯田部長の席まで行き、声を掛けたのである。

「飯田さん、少し宜しいでしょうか? 桜井一佐が、お話をしたい、と。」

「いいですよ。」

 二つ返事で飯田部長が席を立つと、伝言に来た小野三尉は飯田部長が座っていた前の席に着座するのだった。
 迎えの機体は昼間の試験随伴機とは別の機体で、機内の座席は八列十六席の通常仕様である。桜井一佐は最前列のシートに座っており、小野三尉はその右隣に元々は座って居たのだ。
 飯田部長は四列目の右側に座っており、その左側に担当秘書の蒲田が、日比野は一列開けて六列目の左側の席で自身のモバイル PC を開いて、レポートの打ち込みを進めているのである。
 ここで、試作部の畑中達が此(こ)の機に乗っていないのは、例によって彼等は陸路を移動するからだ。その職務の性質上、大量の工具や器材と共に移動しなければならない試作部の面々は、トラックでの移動の方が融通が利くのである。その辺り、身体一つの他には、モバイル PC が一台有れば仕事が出来る日比野達とは、根本的に事情が異なるのだ。

 話を機内に戻して、秘書役の小野三尉が敢えて桜井一佐から離れた席に座ったのは、飯田部長との会話を聞かない為であり、つまり然(そ)う言う内容の話題なのだな、と飯田部長は察したのだった。

「お呼びですか?桜井一佐。」

 飯田部長は通路を挟んで右隣の席に座り乍(なが)ら、桜井一佐に声を掛けた。

「お呼び立てして、申し訳ありませんわね、飯田さん。」

「いえいえ、構いませんよ。それで、ご用件は? 徒(ただ)の世間話では、なさそうですが。」

 そう、飯田部長に切り出されて、苦笑いの後に一呼吸を置いて、桜井一佐は言うのだ。

「天野重工さんは、あの子達に、どこまでやらせるお積もりなのか、そう思いましてね。 まあ、作戦への協力を依頼した口からでは、余り偉そうな事は、言えた義理ではありませんけれど。」

「全く、ですな。」

 一言、応じた飯田部長も、苦い顔をするのだ。

「当方としては、これが最後、その積もりですよ。後は、防衛軍の方で、引き取って頂けますか?」

「あら? 譲って頂けますの?」

「あと三ヶ月程度は、シミュレーターでデータ取りをしなければなりませんが、それが終わったら。 まあ、実際に引き渡すとなれば、色々と条件は付けさせて頂く事になるとは思いますが。」

 桜井一佐は一度、正面に向き直り「う~ん。」と声を上げつつ、宙を見つめ乍(なが)ら暫(しば)し勘案(かんあん)するのだ。そして、飯田部長に語るのだった。

「わたしは、以前の、あの防衛省での会合、あの時、御社の立花さんが仰(おっしゃ)った言葉が、酷(ひど)く記憶に残っているんですよ。」

「立花君が、何か云いましたか?」

「『奇跡の様な存在』、天野さんの事を、そう表現されていた。 それが、今回、実感を持って理解出来た気がしますの。」

「茜君は、今回の試験では、余り目立たなかったと思いますが。」

 飯田部長の切り返しに、くすりと笑って桜井一佐は続ける。

「いえいえ、通信やデブリーフィングでの様子、それに今迄(いままで)の『戦果』。 そう言った事を冷静に振り返ってみると、天野さんが如何(いか)に、HDG の仕様を正確に把握しているのか、それが解ります。」

「成る程。」

「それに、奇跡と言えば鬼塚さんの存在も、間違いなく然(そ)うですわね。勿論、他のテスト・ドライバーの皆さんも、それぞれに皆、優秀ですし。そう言った全体を見て、あの装備の運用を防衛軍に移管するのは、確かに一仕事だな、とは思う様になりました。 あれを移管するとなれば、半年程は移行期間を見込む必要が有るでしょうね。」

「まあ、立花君も移管には長くて半年、最低でも三ヶ月は必要だと云ってたらしいですからね。」

「らしい?」

「ああ、直接聞いた訳(わけ)ではなくて。 以前、会長に立花君が然(そ)う云ったと、伝聞ですよ。」

「そうですか。十分(じゅうぶん)妥当な、見立てだと思います。 ともあれ、防衛軍に移管する為に、何ヶ月も作業が止まってしまうのは、今の段階では得策とは言えませんわね。HDG での技術検証は、どうしても必要な作業ですので。防衛軍側としても、それを阻害する様な動きは、極力したくはないのですけど。」

 桜井一佐は、そこで一度。溜息を吐(つ)いた。
 『R作戦』を所管する立場としては、次の作戦で兵器開発部に協力を求める事は、本来ならしたくはないのだ。それは未成年者云云(うんぬん)と言う事それ以前に、作戦に投入した HDG に被害が発生して、『R作戦』投入用デバイスの開発、或いは其(そ)の技術検証に影響や遅延が発生するのを避けたいからである。
 一方で統合作戦司令部からの依頼を無下(むげ)に断る事が出来ないのは、防衛軍の内部でも『R作戦』に関しては秘密裏に進められているからである。
 その辺りの事情は飯田部長にも見当は付いていて、だから苦笑いで桜井一佐に声を掛けるのだ。

「ご心労、お察ししますよ。」

 すると桜井一佐は微笑んで、飯田部長に尋(たず)ねるのだ。

「天野重工さんこそ、今回の依頼、どうしてお受けになったのかしら?」

 飯田部長はニヤリと笑い、桜井一佐に聞き返す。

「桜井一佐は、鬼塚君の仮説、どう思われます? 『ペンタゴン』が『トライアングル』を指揮管制してる説だとか、『ペンタゴン』の光学ステルス説だとか。」

 桜井一佐は横目でちらと、飯田部長に視線を遣った後で答える。

「これはわたしの個人的な所感であるとお断りしておきますけど。 正直、最初は懐疑的でしたが。でも、今は、そうでもありませんよ。 実際、ECM に関しては、驚く程、効果的でしたからね。防衛軍内部でも、あれ程の効果があるとは、予想も期待もしてはいませんでしたから。」

「わたしも個人的な事を言いますとね、鬼塚君の仮説が証明されるのを見たいのですよ。それを鬼塚君にも、見せてやりたいですしね。」

「それで、ですか?」

 今度は顔を向けて、桜井一佐は飯田部長に訊(き)いたのだ。
 だから飯田部長は笑顔を桜井一佐へ向けて、応える。

「勿論、半分は商売ですよ。」

 今度は桜井一佐がニヤリと笑い、言うのだ。

「仮に、本当に、見えない『ペンタゴン』が撃墜出来て、結果、『トライアングル』が ECM を受けたのと同じ効果が得られるのなら、防衛軍としては HDG よりも、そのシステムが欲しいですわね。 探知システムとレールガン、F-9 に搭載出来るレベルに落とし込めますか?」

「検討中です。」

 飯田部長は、微笑み返す。それに桜井一佐が、言葉を続けるのだ。

「流石ですわね。 今日、発表されていた F-9 の改造機の件、あれは、その一環ですの?」

「あはは、お察しの通りです。 今の所は、機能は ECM に限定されていますが。探知システムを乗せるなら、そのプラットフォームには、なるでしょうな。 問題は、レールガンの方ですよ。」

「どうしてです? 今日、見せて頂いた限りでは、レールガンのシステムも完成の域ではありませんの?」

 不思議そうに尋(たず)ねる桜井一佐に、飯田部長は苦笑いを見せて答える。

「今日の話題にも有りました通り、B号機のレールガンは AI の火器管制と統合してでの性能ですから。 防衛省は AI がトリガーを引くシステムは、許可して呉れないでしょう?」

「ああ、そうでしたわね。成る程。」

 落胆の色を隠さない、桜井一佐である。飯田部長は、続けて言うのだ。

「場合が場合ですから、防衛省が特例なり例外なり、認めて呉れればいいですが。そうでなければ、何か、丸め込む仕掛けを考えなければいけませんな。」

「丸め込む?」

「別に、買収しようって話じゃないですよ。 技術的に AI がトリガーを引いている様に見えない仕組みと言うか、何か、そう言ったものですね。今はまだ、具体的なアイデアはありませんが。」

 桜井一佐は、少し呆(あき)れた様に言葉を返す。

「なかなかに、厄介そうですわね。」

「まあ、何とでもしますよ。ウチにはいい技術者が揃(そろ)ってますから。」

 明朗な飯田部長に対して、桜井一佐は極めて真面目な表情で語るのだ。

「少なくとも、あと、二、三年は現在の様な状況が続く事になるでしょうから、それが実用化されれば有効な装備になるでしょう。HDG よりも、政府が予算を付け易いんじゃないかしら? まあ、予算に関しては管轄外の事ですので、保証は致し兼ねますけど。 何(いず)れにせよ、次の機会に鬼塚さんの仮説、これが証明されなければ、話は始まらない訳(わけ)ですけれど。」

 桜井一佐の言う『二、三年』とは、『R計画』の実行が現時点で二年先に設定されているから、である。『R計画』が目論見(もくろみ)通りに成功したとしても、それで月の裏側に存在する『エイリアン・シップ』が一気に排除される事までは見込まれてはいない。その契機になる事を、期待されているだけなのである。であれば、『R計画』実施以降にも更に数年、現在の様な状況が継続する可能性の方が高いのだった。それでも、何もしないよりは優(まし)なのだと、日米の当局者は考えたのだ。

「ええ、それは承知してますが。 しかし、幾ら商売の為とは言え、彼女達の安全には代えられませんので、そこの所は、改めて宜しくお願いしますよ、桜井一佐。」

「それは、勿論。」

 桜井一佐は、大きく頷(うなず)いて見せたのだった。

 

- to be continued …-

 

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