WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第18話.05)

第18話・新島 直美(ニイジマ ナオミ)

**** 18-05 ****


 その翌日から、天神ヶ﨑高校兵器開発部が防衛軍の迎撃作戦に参加する為の準備が始まったのだが、基本的に準備作業は天野重工本社の主導で進められたのである。
 緒美や茜達は、昼間は普通に授業を受け、放課後の部活時間で本社からの連絡に従って、作戦への参加器材の整備調整やドライバー達への作戦遂行手順に関する打ち合わせを実施したのだ。そうして木曜日と金曜日が終わり、土曜日の朝、事態に変化が起きるのである。
 午前十時を過ぎた頃、兵器開発部のメンバー達それぞれの携帯端末に、一斉にメッセージが配信されたのだ。
 メッセージの送信者は立花先生で、件名は『防衛軍迎撃作戦参加について』である。
 受信した各自の携帯端末は、授業中は当然『サイレント・モード』に設定されており、茜達がメッセージに気が付いたのは二時限目の授業が終わってから、だったのだ。
 そのメッセージの文面は、以下の通りである。

『防衛軍より連絡。エイリアン・ドローンの降下が、見込みより一日早まる可能性有り。緊急時には校内放送で呼び出しますが、それまでは授業を受けていてください。』

 それから結局、校内放送での呼び出しがされる事は無く、土曜日の授業は何時(いつ)も通りに終了したのだった。
 茜とブリジットは取り敢えず昼食を後回しにして、四時限目の授業が終わると直ぐ、部室へ向かったのである。他のメンバー達も考える事は大体が同様で、授業終了から十分と経たずに部室には全員が集合していたのである。その中には維月は言うに及ばず、応援要員である飛行機部の金子、武東に加え、茜の友人である村上と九堂の姿も有ったのだ。

「もう皆(みんな)、部員扱いですか?」

 茜は冗談めかして立花先生に問い掛けた。それに立花先生は、苦笑いで答えたのだ。

「人手が要るかもだから、事情を知ってる人には声を掛けておいたのよ。」

 そして、そこに居る誰もが訊(き)きたかった事を、漸(ようや)く緒美が口にするのだ。

「それで先生、どう言う状況なんです?」

「説明するから、お昼、食べ乍(なが)ら聞いてちょうだい。買っておいたから、好きなのを取って。」

 部室中央の長机の上には大凡(おおよそ)人数分程度の、パックの弁当や惣菜パン等、複数種類の食品が置かれていたのである。直美や維月、そして瑠菜と佳奈の様に、部室へ来る途中でパン等を購入して来ていた者(もの)も居たが、その他のメンバーは部室へ直行していたので、取り敢えず適当に、銘銘(めいめい)が立花先生が用意した品物の中から好みの物を選んだのである。

「ああ、それじゃお茶でも用意しょうか。先生は説明、始めちゃってください。」

 恵が何時(いつ)もの調子でお茶の準備を始めるので、一年生である茜も席を立つのだ。

「あ、お手伝いします。」

 すると、茜を制して武東が言うのである。

「天野さんは、作戦に参加する人なんだから、先生の説明を聞いてなさい。手伝いなら、わたしがするから。」

「流石、さや。分かってる~。」

 透(す)かさず武東に声を掛けるのは、金子である。但し、金子自身は動こうとはしない。

「あ、すいません、武東さん。」

 そう言って、茜は着席するのである。

「それじゃ、始めるわね。あ、時間無いかもだから、遠慮せずに食べ始めちゃって、皆(みんな)。」

 立花先生に然(そ)う言われ、各自が食べ始めるのを見計らって、立花先生は話し始めるのだ。

「…メッセージに書いた通りなんだけど、エイリアン・ドローンの降下が今日中にも始まるかも知れないの。今朝、本社経由で、防衛軍から情報が来たのよ。結果的に、まだ、降下は始まっていない、みたいなんだけど。」

「通例だと、『ヘプタゴン』が周回軌道上で一日位、待機してるんですよね?」

 そう確認して来たのは、緒美である。

「流石、緒美ちゃん。良く知ってるわね。 今回は周回軌道から直ぐに降下軌道付近まで降りて来て、そこで『トライアングル』を放出したのが観測されたそうなの。」

「それじゃ、この後、岩国へ移動ですか?」

 直美は立花先生に然(そ)う尋(たず)ねて、自分で購入して来たハンバーガーを囓(かじ)った。

「そこの所は、今、本社と防衛軍とで協議中みたいよ。場合に依っては、ここから直接、作戦空域まで飛んで、帰りに岩国で補給して帰って来るってプランも有りかなって。」

 そこで直美は、今度は緒美に尋(たず)ねるのだ。

「ねえ鬼塚、防衛軍ってさ、どの位、遠くでエイリアン・ドローンの接近を見付けてるの?」

「大気圏突入前の低高度軌道でも、トライアングルの所在は掴んでる筈(はず)よ。米軍との共同だけど。 大陸上空で大気圏に突入したら、そこから日本列島(こっち)に来るのに二、三時間って所かしら? 防衛軍の監視能力だと、防空識別圏の向こう側一時間程度、の筈(はず)だけど。」

 緒美の説明を聞いて、呆(あき)れる様に立花先生が言うのだ。

「良く、そんな事まで調べてるわね。」

「これ位の事は、ネットで調べれば、直ぐに解りますよ。 ねえ、天野さん?」

 突然、話を振られた茜は、食べていたお弁当の米粒を飲み込み損ねて、噎(む)せ返るのだった。吹き出してしまわないように、茜は慌てて両手で口元を押さえる。
 隣席のブリジットが、茜の背中を摩(さす)り乍(なが)ら緒美に言うのだ。

「そうだ、って言ってます。多分。」

 そして微笑むブリジットだった。

「ほら、取り敢えずお茶を飲みなさい。」

 お茶の支度をしていた武東が、茜の前にお茶の入った湯飲みを置いて言うのだ。

「ありがとうございます。」

「熱いから、気を付けてね。」

 武東に掛けられた言葉に頷(うなず)いて茜は湯飲みを手に取ると、お茶を冷まし乍(なが)ら、少量を口に含むのだ。胸元を左手で押さえてお茶を飲み込み、続いて呼吸を整えた茜は、顔を上げて言った。

「あービックリした…何にしても、そう言う事は調べようと思う人が少ないんですよ、部長。」

「あはは、それは知ってる。」

 無邪気に笑った後で、緒美はパンを囓(かじ)るのだった。
 ここで緒美が『調べれば、直ぐに解る』と言ったのは、ネットに其(そ)の儘(まま)ズバリの事柄が書いてある、と言う事ではない。『複数の記事の中に存在する断片的な情報を総合すると』と言った意味合いで、勿論その認識は茜にも共通なのだ。
 そして茜が発言を続けるのだ。

「ここから一旦(いったん)、日本海側へ出て、それから作戦空域へ向かうとしたら、到着まで大体一時間位ですか。防衛軍が防空識別圏まで一時間の所でエイリアン・ドローンの接近を感知するとすれば、ちょっとギリギリですよね。 ECM 担当が後から行っても、余り意味は無いでしょうし。」

「そうね。前回同様に、迎撃第一撃の時に ECM 支援が出来ないと。効果が半減しちゃうわ。」

 緒美に続いて、立花先生は言うのだ。

「取り敢えず、エイリアン・ドローンの降下、大気圏突入が始まったら防衛軍から連絡が入る事になってるから。そのタイミングで現地へ出発できるように、準備をしておいて欲しいのよ。格納庫フロアの方は平田さんや藤元さん達が、午前中に大体の準備はやって呉れてるから。」

 今度は樹里が、立花先生に確認する。

「それじゃ、地上ベースは第三格納庫(こっち)と言う事で?岩国じゃなくて。」

「そうね。データの遣り取りは、防衛軍のデータ・リンクだから、国内なら場所は関係無いし。」

「分かりました。 じゃ、ベースの方は、お願いね、維月ちゃん。」

 樹里は、維月に話を向けるのだ。維月は恵が置いて行った紅茶を一口飲み、応える。

「オーケー、任せて。」

 そこで、立花先生の携帯端末が鳴り始めるのだ。それが何を告げているのか、その場に居た全員には瞬時に見当が付いたのである。

「はい、立花です。…はい、分かりました。」

 立花先生が手短に通話を終えると、席に着いていた一同が、立花先生を残して立ち上がる。
 立花先生は全員の顔を見回してから席を立つと、口を開いたのだ。

「お察しの通り、エイリアン・ドローンの降下が始まったそうよ。」

「防衛軍から直接、ですか?今の連絡。」

 真面目な顔で緒美が尋(たず)ねると、立花先生は微笑んで答える。

「まさか。 本社…蒲田さんからよ、飯田部長の担当秘書の。」

「だよねー。」

 そう言って、直美はクスクスと笑う。
 茜は湯飲みに残っていたお茶を一息に飲み干し、ブリジットとクラウディアに向かって言う。

「それじゃ、着替えて来ましょうか。」

 茜は二人の返事を待たずに、部室奥の通路出口へ向かって歩き出す。ブリジットは「はーい。」と声を上げ、茜を追うのだ。そしてクラウディアも、後に続く。

「それじゃ、わたし達は HDG の起動準備だ。」

 そう言って瑠菜は食べ終えたパンの包みを丸めて部室角のゴミ箱へと放り、カップに残っていた紅茶を胃に流し込む。そして佳奈と共に部室奥の出口へと進むのである。
 その二人を村上と九堂の二人が追う様に、部室から出て行くのだった。

「それじゃ、わたしも着替えて来ますか。」

 直美は両腕を振り上げて背筋を伸ばし、そう言った。
 直美が『着替える』と言ったのは、F-9 改に搭乗する為の飛行服へ、と言う事である。
 これは昨日の打ち合わせで、作戦への参加人員と役割が次の様に決定されていたからだ。

 HDG-A01:天野(茜)。 役割は B01、C01 の護衛。
 HDG-B01:ボードレール(ブリジット)。 同、レールガンによるエイリアン・ドローン『ペンタゴン』狙撃。
 HDG-C01:カルテッリエリ(クラウディア))。 同、エイリアン・ドローン『ペンタゴン』位置特定。
 F-9 改一号機:操縦・加納、ECM 操作・新島(直美)。 同、防衛軍迎撃部隊への ECM 支援。
 F-9 改二号機:操縦・沢渡、ECM 操作・樋口。 同、防衛軍迎撃部隊への ECM 支援。
 随伴機:操縦(正)・青木、操縦(副)榎本。 同、監督・立花、指揮・鬼塚(緒美)、観測記録・城ノ内(樹里)。

 F-9 改の操縦者が加納と沢渡なのは、防衛軍で正規の ACM(空中戦機動)訓練の経験を持つ防衛軍出身者である二人の方が、もしもの場合には、より安全だろうと言う判断である。そこで、樋口には二号機の ECM 操作に就いて貰い、青木は沢渡に代わって随伴機の機長を務めて貰う事になったのだ。
 一方で緒美には作戦指揮を任せる必要が有るので、消去法で F-9 改一号機の ECM 操作は直美に、となる訳(わけ)である。
 余談だが、随伴機にはもう一人の監督者として飯田部長が、そして観測記録要員としてソフトウェア・エンジニアである日比野が搭乗する予定だったのだが、エイリアン・ドローンの降下が当初の見込みより一日早まってしまった結果、都合が付かなくなってしまったのだ。勿論、観測記録要員は樹里一人でも十分熟(こな)せる作業量、と言う判断ではある。

「新島ちゃんにも危ない役回りを押し付ける事になって、ごめんなさいね。」

 緒美は力(ちから)無く、そう直美に告げるのだ。
 それを笑い飛ばす勢いで、直美は言葉を返すのである。

「何、言ってんの、今更(いまさら)。一年生達には、もっと危ない事させて来たんだからさ。」

「それは、そうだけど…。」

 緒美は苦笑いで、続けて立花先生に提案する。

「先生、矢っ張り一号機にはわたしが乗った方が。一号機からでも、指揮は出来るかと…。」

「もう、昨日、話した通りよ。貴方(あなた)は指揮に専念しなさい、緒美ちゃん。」

「そうそう、ECM の操作し乍(なが)ら、片手間じゃ正面(まとも)な指揮なんて出来ないでしょ。それに、貴方(あなた)が指揮に専念した方が、皆(みんな)が安心出来るんだし。」

 直美はニヤリと笑って、緒美の肩を叩くのだ。

「あんまり、無茶はしないでね。」

 緒美が心配そうに言うので、直美は笑って返すのだ。

「あはは、それは操縦する加納さんに言って。 ま、大丈夫でしょう?天野達も居るし、防衛軍も守って呉れるって言ってるんだから。」

 そして直美は机の上に残っていたハンバーガーの包み紙を丸めて捨てると、もう一度、伸びをして言うのだ。

「それじゃ、準備して来ます。指揮の方、頼んだわよ、鬼塚。」

「了解。」

 直美は、駆け足で部室を出ると、茜達が使用している装備室へと向かったのだ。

 

- to be continued …-

 

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