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Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第18話.06)

第18話・新島 直美(ニイジマ ナオミ)

**** 18-06 ****


 防衛軍からの一報を受け、その三十分後には作戦参加機は全機、離陸を完了して日本海を目指して高度を上げていた。
 先日の試験飛行と同じくエシュロン編隊で、先頭から F-9 改一号機、二号機、AMF、C号機、B号機の順で最後尾が随伴機である天野重工の社有機である。編隊とは言っても、機体の間隔はそれ程、密ではない。
 外部から見て解る各機の装備は、F-9 改二機は主翼下に中射程空対空ミサイルを四発懸下(けんか)している。又、C号機飛行ユニットの主翼下には、プローブが四基、懸下(けんか)されているのだ。
 F-9 改のウェポン・ベイには四発の中射程空対空ミサイルが収納されているので、F-9 改一機当たりで八発、二機合計で十六発の中射程空対空ミサイルを装備しているのだ。その他にF-9 改は、一機毎(ごと)に短射程空対空ミサイル計四発を、左右胴体側面のウェポン・ベイ内に格納していた。
 武装の搭載量に関して F-9 改は、通常の F-9 戦闘機と何ら遜色(そんしょく)は無いのだ。勿論、それらを使用する局面が有るかどうかは分からない。計画上は使用する予定は無く、それでも装備しているのには『念の為に』と言う以外の理由は無い。
 外見からでは分からないのがB号機の武装に関してで、今迄(いままで)の試験ではレールガンの弾倉(マガジン)には、十発程度しか弾体が装填されていなかったのだが、今回は二十四発と最大容量の弾体が込められているのだった。
 空対空ミサイルは AMF にも F-9 改と同様に、主翼下に懸下(けんか)が可能なのだが、AMF には装備されていない。天神ヶ崎高校と天野重工の編隊で、最も射程の長い装備が AMF に搭載されているレーザー砲なのだが、中射程の脅威に対しては F-9 改の空対空ミサイルか、防衛軍から派遣される護衛機が対処する予定なのだ。AMF に出番があるとすれば、それら中射程の防衛線を突破された際の事で、そうなると当然、AMF は近距離での対処を余儀無くされるのである。従って、中射程空対空ミサイルを装備していても近距離戦で其(そ)れは役に立たず、格闘戦に挑まざるを得ないのであれば AMF は身軽である可(べ)きなのだ。以上が、AMF が空対空ミサイルを装備していない理由である。

 天神ヶ崎高校と天野重工の編隊は日本海上空を、高度五千メートルで西向きに飛行して行く。彼等の作戦空域は前回と同じく、対馬の南端から五島列島の北端付近の間を折り返して飛行するエリアだ。
 前回の作戦高度は二千五百メートルと、今回の半分程だった。それは防衛軍の作戦機とのニアミスを防止する為にギリギリ迄(まで)、天野重工側が高度を下げられたのである。
 原理的には、遠く迄(まで)に電波を届かせるには、勿論、電波それ自体の強さが必要だが、もう一つ、発信源の高度が重要なのだ。周知の通り地球は球体なので、電波発信源の位置で水平に電波を発信すると、地平線の向こう側は地球表面は曲率に従って電波面から遠ざかるのである。つまり地平曲面の陰になって、そこから先には電波は届かない。その電波の届く範囲を『見通し距離』と呼ぶ事にすると、観測点が 1.5メートル(人の身長程度)だと、見通し距離は凡(およ)そ四キロメートル程度である。つまり、四キロメートルより遠くの地表面に存在する物体は、地平線に隠れて見えない、と言う事なのだ。ここで、物体の存在する高度が、例えば百メートルだったとすると、見通し距離は四十キロメートル程度まで遠くになるが、それでも見通し距離よりも遠くへ行くと、矢張りその物体は地平線に隠れてしまう訳(わけ)だ。
 では、遠くを見る為、或いは遠くへ電波を届ける為には、どうすればいいか? それは観測者、若しくは電波の発信源の、高度を上げるのだ。
 C号機の ECM 能力の有効半径は凡(およ)そ百五十キロメートルが仕様なので、それだけの見通し距離を確保する為に最低限必要な高度は約千八百メートルである。態態(わざわざ)、仕様ギリギリで運用する必要は無いので、前回は余裕を加えて高度は二千五百メートルに設定され、その場合の見通し距離は凡(およ)そ百八十キロメートルだったのだ。
 実は、前回の実戦試験ではC号機の能力や有効性を防衛軍統合作戦司令部側が信用していなかったので、仕様上で最低限必要な高度で、謂(い)わば『場所を貸すから勝手にやって呉れ』の的な扱いだったのである。それが今回、高度が前回の倍である五千メートルに上がったのは、防衛軍側の期待感の表れでもあるのだ。そしてもう一つ、『ペンタゴン』の位置特定に就いて、その距離がどの程度なのかが不明である事も要因なのである。今回の設定高度、五千メートルからの見通し距離は、凡(およ)そ二百五十キロメートルとなり、その程度の範囲には『ペンタゴン』が発見出来るだろう、と言うのが緒美の『読み』なのである。
 何故なら、エイリアン・ドローン側も電波を使って制御通信を行っている以上、高度と見通し距離の関係性からは原理的に逃れられず、従って制御機(コントローラー)である『ペンタゴン』が極端な遠方に位置する筈(はず)がないからだ。C号機側から検知できない程の遠方に『ペンタゴン』が存在するなら、それらからは前線の『トライアングル』達を電波でコントロール出来ないのである。
 勿論、それらの仮説が正しいかどうかは、これからの作戦実施によって判明するのだ。

「何だ、ありゃあ…。」

 小松基地から発進して来た、茜達の護衛任務を担当する F-9 戦闘機隊四機のリーダーである、入江一尉は思わず呟(つぶや)いたのである。合流空域に接近して目視で天野重工隊の編隊を確認したのだが、彼が目にした機影は、一見すると F-9 戦闘機の様だったが、それは巨大な板状アンテナを背負っていたり、卵を飲み込んだ蛇の如(ごと)く異様に機種が肥大化していたり、機種の代わりにロボットか人形が接続されていたり、挙句(あげく)には F-9 ですらない小型の全翼機の様な機体だったりしたのだ。そして最後尾には民間のビジネス・ジェット機を引き連れているのである。
 勿論、飛行前の打ち合わせで、天野重工の試作機を護衛する機密指定の任務だとは聞かされていたし、実戦を利用して試作機の能力試験を行う事も承知してはいたが、その試作機の詳細や形態に就いての事前情報は一切(いっさい)、与えられてはいなかったのだ。但し、編隊の先頭を飛ぶ F-9 改一号機のパイロットが誰なのか、その事だけは知っていた入江一尉は、その機と交信を試みるのだ。

コマツ01 より、ECM01。応答願います。」

 その呼び掛けには、間も無く返事がされたのだ。

「此方(こちら) ECM01、コマツ01、護衛任務に感謝します。」

 コールサイン『ECM01』が F-9 改一号機の事を示している。『ECM02』が F-9 改二号機で、茜達の HDG 各機は何時(いつ)も通り『HDG01~03』で、随伴の社有機が『AHI01』なのも例の通りだ。
 護衛機側の『コマツ01~04』と言うのも、コールサインとしてはシンプル過ぎるネーミングで、入江一尉は『どうか』と思っていたのだが、民間相手に極力、解り易く配慮した結果だと説明を受けて納得していたのだ。そんな事よりも、通信で返って来た声は、案の定、入江一尉に取っては懐かしく、聞き覚えの有る声だったのである。彼は思わず声を弾ませ、話し掛けるのだ。

「お久し振りです!隊長。“ドラゴンフライ”です!」

 返信は、直ぐに返って来る。

「おー、“ドラゴンフライ”か。今は小松に居るのかい?」

「はい、三年目になります。隊長もお元気そうで。 もう一度、隊長とご一緒出来て、嬉しいです。」

 そこで加納は“ドラゴンフライ”こと、入江一尉に尋(たず)ねるのだ。

「所で“ドラゴンフライ”、これに俺が乗ってると、知ってたのか?」

 入江一尉の返事は、明快である。

「はい。桜井一佐から、伺(うかが)いました。」

「そうか。了解した。」

 加納は内心で(あの婆さん、余計な事を)と思ったのだが、流石に其(そ)れを通信で口にはしない。何故なら、ほぼ百パーセント、彼等の通信を桜井一佐が統合作戦司令部でモニターしているからである。

「この儘(まま)、作戦空域まで右翼側に付いて行って宜しいでしょうか?隊長。」

 通信で入江一尉が、そう訊(き)いて来るので、加納は苦笑いして答える。加納が右側に視線を遣ると、護衛機隊は既に加納機の横へ一線に並んで飛行しているのだ。

「それは構わないが“ドラゴンフライ”、わたしは今は民間だからな。『隊長』呼ばわりは止めて呉れ。それから、説明は受けてるとは思うが、ミッション・コマンダーは AHI01 だからな。 挨拶なら、其方(そちら)へ、先にするのが筋だ。」

「ああ、失礼しました。コマツ01 より、AHI01。宜しくお願いします。」

 入江一尉の通信に、緒美は即座に言葉返す。

「はい、此方(こちら) AHI01 です。護衛、宜しくお願いします。」

 その予想外に若い女子の声を聞いて、入江一尉は面食らったのである。

「え? あれ?今の声…。」

「その様子だと、そっちの事は聞いてないんだな?“ドラゴンフライ”。」

「どう言う事です?隊…ECM01。」

 加納に問い返す入江一尉だが、そこにもう一度、緒美が声を掛けるのだ。

「そう言う事でしたら。 AHI01 より各機へ、護衛隊の皆さんに一言、声を聞かせてあげて。もしもの時、土壇場で混乱されたら、洒落にならないから。」

 その呼び掛けに、茜が質問する。

「HDG01 より AHI01。一言って、何を言えばいいんです?」

「別に、気の利いた事を言う必要は無いわよ。但し、個人情報は言わなくていいから。じゃ、HDG01 から。」

 緒美に指名されて、茜は一瞬考えて声を上げるのだ。

「え~と。既に、声は聞いていらっしゃると思いますけど、HDG01 です。宜しくお願いします。 じゃ、次、HDG02。」

 茜に指名されて、ブリジットは慌てて声を出す。

「えっ?あ、はい、HDG02 です。お願いします? HDG03!」

 ブリジットも茜と同様に、クラウディアへと強制的に順番を回すのだ。クラウディアは意外にも落ち着いて、声を出した。

「はい、HDG03 です。Sapphire も何か言っておきなさい。」

「HDG03 搭載の AI ユニット、Sapphireです。」

 それを聞いて、茜が割り込んで来るのだ。

「ああ、HDG01 にも AI ユニットが搭載されてます。Ruby。」

「ハイ、HDG01 搭載の AI ユニット、Ruby です。宜しくお願いします、コマツ01。」

 そして最後に、F-9改二号機の沢渡が言うのである。

「最後、ECM02 です。宜しく、コマツ01。」

「以上、四名プラス二基と、わたし、AHI01、それから ECM01 の声が通信から聞こえて来ると思いますので、以降、混乱の無い様にお願いします、コマツ01。それから 02 から 04、各機の皆さん。」

 入江一尉は、緒美のコメントに答える。

「此方(こちら)コマツ01、何だか分からないけど、取り敢えず了解しました。要は『詳細は機密事項』って事ですよね?」

「まあ、そう言う事だ、コマツ01。兎に角、お嬢さん方の護衛、宜しく頼むぞ。」

 加納は然(そ)う言って、左手の親指を立てて、横を飛んでいる コマツ01 へ見せるのだ。対して入江一尉は右手で素早く『挙手の礼』を返し、護衛隊各機へ指示を出す。

コマツ01 よりコマツ各機、右エシュロンで作戦空域まで、天野重工隊に同行する。」

 その指示を受け、コマツ隊が素早く隊列を整えると、結果として一つのV字編隊となるのである。
 一方、ECM01 、つまり F-9 改一号機のコクピットでは、直美が後席からインカムで加納に尋(たず)ねるのだ。

「加納さん、さっきから云ってる“ドラゴンフライ”って?」

「ああ、TAC(タック) ネームの事ですか?パイロット個人を識別する、愛称(ニックネーム)みたいなものですよ。」

コールサイン、とは違うんですか?」

コールサインは基本的に作戦を立案した司令部が決めるので、作戦毎(ごと)に変わるのが普通なんです。TAC ネームはパイロット同士が相手を識別する為に自分達で勝手に決めるので、基本、変わりません。まあ、名前が気に入らなかったり、縁起が悪かったりすると、変えてしまいますけどね。あと、TAC ネームは司令部で管理してる訳(わけ)じゃないので、作戦中に TAC ネームで呼び掛けても司令部には通じません。」

「へえ~成る程。“ドラゴンフライ”さんとは、お知り合いだったんですね?隊長って…。」

「ええ、空防時代に部下だった男ですよ。もう、十年以上昔の話です。」

「そうですか。」

 直美は一瞬、加納が防衛軍を辞めた理由を聞こうかと思ったのだが、直ぐに思い直したのだ。それは世間話の序(つい)でに聞いていい類(たぐい)の話ではない様に、直美には思えたからだ。
 その後、直美は ECM 器材の操作マニュアルと、試験実施要綱とを交互に読み直して、作戦空域までの時間、凡(およ)そ二十分を潰したのである。

 作戦空域に到着すると、隊は四つに分けられるのだ。
 基本的には対馬の南端から五島列島の北端付近の間を直線で結ぶ区間が彼等彼女等の作戦空域であるが、そこを往復するのが F-9 改一号機及び二号機と、クラウディアのC号機である。
 試験の指揮を執る随伴機が、ECM 作戦機から五十キロメートル程東側に位置するのは、前回と同様だった。
 茜とブリジットの二人は、『ペンタゴン』狙撃に備えて、ECM 作戦機達とは別行動で待機となる。茜の AMF の役割は、狙撃中のB号機を護衛する事である。
 そして小松基地からの護衛部隊は、高度を千五百メートルまで下げ、三十キロメートル程度西向きに二基一組で進出したのである。前回の様な低空からのエイリアン・ドローン接近を阻止する為、海面付近の警戒と捜索を只管(ひたすら)、続けるのだ。

「HDG03 より、AHI01。予定のルートに乗りましたので、プローブを発射しますが、宜しいでしょうか?」

 早速、クラウディアからの通信である。緒美は即座に、それを許可する。

「了解、HDG03。プローブの発射を許可します。」

 緒美達は防衛軍の迎撃作戦が開始される前に、『ペンタゴン』の捜索準備を整えておかなければならないのだ。

「HDG03、プローブの発射方向へ旋回。安全装置、解除。」

「プローブ発射の安全装置、解除します。」

 通信からはクラウディアの、手順を暗唱する声が聞こえて来る。それには漏れなく Sapphire の復唱が続くのだ。

「プローブ1 から 4。発射。」

「プローブ1 から 4、発射します。」

 先日の試験と同様に、C号機飛行ユニットの主翼から切り離された四基のプローブは、それぞれがロケット・モーターを点火して、散らばり乍(なが)ら西向きへと飛んで行ったのだ。
 そして、C号機はプローブを発射すると間も無く、南北を往復する元のルートへと復帰したのである。

 

- to be continued …-

 

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