WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第18話.08)

第18話・新島 直美(ニイジマ ナオミ)

**** 18-08 ****


 それに対して、桜井一佐は鼻で笑う様に答えたのだ。

「まさか。そんな事は、全く考えてませんから御心配無く。 仮に、アレにエイリアンが乗っていて、此方(こちら)から見えないのをいい事に『高みの見物』を決め込んでいるのであれば、是が非でも撃ち落として貰いたいわね。 ほら、ここで議論とかしてる暇は無いのよ。計画通りにサクサク、進めて行きましょう、AHI01。」

「了解しました。」

 桜井一佐の口振りに、緒美はくすりと笑い同意したのである。

「HDG02、お待たせしたわね。許可は頂いたわ、射撃準備。」

「HDG02、了解。マスターアーム、オン。弾体を薬室(チャンバー)へ装填します。」

 直様(すぐさま)、ブリジットの声が返って来る。続いて、ブリジットが緒美に尋(たず)ねるのだ。

「あの、部…AHI01、さっきのお話、確認しておきたいんですけど。」

「さっき?何かしら、HDG02。」

「エイリアンが乗ってるかも?って、お話です。目標(ターゲット)は無人機(ドローン)なんですよね?」

 ブリジットの口調は、決(け)して取り乱してはいない。極めて、事務的なトーンである。
 そんなブリジットに、緒美は問い返すのだ。

「エイリアンが乗っていたら、撃てない?」

「状況と必要性は理解してますけど、いい気持ちはしません。わたしは兵隊じゃありませんから。」

 殆(ほとん)ど、間を置かずにブリジットは言葉を返したのだった。それは彼女の、正直な気持ちである。実際、ブリジット自身にはエイリアンに対する、直接的な恨みの様な感情は無いのだ。防衛戦闘で従兄弟が殉職している緒美や、襲撃に因って友人を亡くしたクラウディアとは、その辺りの事情は違うのである。
 そして、それが知的生命体であるなら、それを殺害してしまうのは『殺人』と同じではないのか? 緒美と桜井一佐の遣り取りを聞いたブリジットは、瞬間的に然(そ)う思ってしまったのだ。

「大丈夫よ、HDG02。アレにエイリアンは乗ってない筈(はず)だから。」

 緒美は然(そ)う言ったが、ブリジットは何か納得し難(がた)かった。

「確認が、されてるんですか?」

「それは、無いけど…。」

 少し困った様な緒美の声を聞いて、そこに茜が割って入るのである。

「HDG02、地球に降下して来てるのは『トライアングル』と『ペンタゴン』の二機種だけ。これは観測結果から、間違いないわ。『トライアングル』は姿が見えてるから、姿を隠してるのは自動的に『ペンタゴン』って事。『ペンタゴン』はここ数年間は姿を見せてないけど、最初の頃は『トライアングル』と一緒に行動してたのが記録されてるの。それに拠れば『トライアングル』と同じ様に、『ペンタゴン』も格闘戦形態に変形するのが確認されてるわ。その変形機構の所為(せい)で、人間サイズの生命体が乗れる様なスペースが機体には無いって言うのが、防衛軍や米軍の統一見解なの。オーケー?」

「オーケー、HDG01。安心した。」

 掌(てのひら)を返すが如(ごと)く急変した、ブリジットの態度に拍子抜けした様に緒美は声を掛けるのだ。

「とりあえず、納得してくれたなら良かった。」

 ブリジットは茜の言う事なら素直に聞けるのだと、一瞬、緒美はそんな風に思ったのだが、これは然(そ)う言う事ではなく、茜の説明が簡素乍(なが)らも要点を押さえていたのだと、緒美は思い直したのだ。それはブリジットが納得しそうな説明を瞬時に組み立てた茜が、ブリジットの事を良く理解していたと言う事である。
 説明の中で茜は『人間サイズの生命体』と表現したのだが、エイリアンが実際に何(ど)の様な姿、形態の生命体なのか、それを目撃したり確認した者(もの)は人類の中に存在しない。「知的生命体であれば、人間と同じ様な大きさで、似た様な容姿だろう。」と考えるのは、人間の傲慢でしかないのだが、その事は茜も理解はしていた。だが、ブリジットに然(そ)う言ってしまうとエイリアン・ドローンにエイリアンが搭乗していない事の説明にならなくなるので、茜は敢えて其(そ)の事に触れなかったのである。
 先刻、桜井一佐が言った通りに、ここで長々と議論をしている時間は無いのだ。

「HDG02、目標がもう直ぐレールガンの射程に入るわ。射程に入ったら、ロックオンしてある三機を連続射撃。射撃が終わったら、直ぐに反転して待機ラインへ戻って来てね。」

「HDG02 より AHI01。精度を上げる為、この儘(まま)、目標との距離 100キロ迄(まで)、接近を続けます。 HDG01、援護、宜しく。」

 通信から聞こえて来るブリジットの声は、落ち着いていた。だから緒美は、ブリジットの提案を了承したのだ。

「了解、HDG02。気を付けて。HDG01 も。」

「HDG02、了解。」

「HDG01、了解。」

 返事をしたブリジットと茜の前方上空では、防衛軍戦闘機隊による『トライアングル』に対する迎撃戦が始まっている。水平距離にして大凡(おおよそ)六十キロメートル前方の、高度が一万メートルから八千メートルの空間に『トライアングル』は分散しており、それらに対して中射程空対空ミサイルが逐次(ちくじ)、発射されているのだ。当然、天野重工のF-9 改に因る電波妨害は継続されている。相も変わらず右往左往している様に見える『トライアングル』を、防衛軍は一機、又一機と撃墜していくのだった。
 一方で茜とブリジットが目指す『ペンタゴン』は、『トライアングル』の凡(およ)そ五十キロメートル後方、高度は二万八千メートルに位置して居た。茜達との高度差は、実に二万三千メートルも有ったのだが、それよりも距離が百キロメートル以上も離れているので、ブリジットの目指す射撃位置である百キロメートルの距離にまで接近しても、B号機の取る可(べ)き仰角は 13°に満たない。

「HDG02 より AHI01。射撃位置へ到達、減速して射撃、開始します。」

 ブリジットと茜は、これ以上目標に接近する必要は無いので、速度を半減させたのである。
 緒美は、直ぐに応答する。

「了解、HDG02。其方(そちら)のタイミングで、射撃を開始して。HDG01 は、周囲の警戒を厳重にね。」

「HDG01、了解です。」

「第一弾、射撃…5、4、3、2、1、発射。」

 ブリジットは減速し乍(なが)ら軸線を目標(ターゲット)に合わせると、カウントダウンの後にレールガンの第一射を放ったのである。『軸線を目標(ターゲット)に合わせる』とは言っても、照準画面には空しか映っておらず、HDG03 から送られて来た座標に対して弾道計算が行われ、その標的シンボルを選択指示して発射命令を下しただけだった。実際の射撃に関する機動と其(そ)の操縦は、弾道計算から照準補正までをブリジット達が『Betty』と呼ぶ、HDG-B01 搭載の制御 AI が実行した結果なのである。

「第二弾、薬室(チャンバー)へ装填。発射用キャパシタの、電圧確認。第二ロック目標に照準を指定…。」

 HDG02 は僅(わず)かに、左方向へ向きを変える。しかしブリジットが見ている照準画面には、矢張り空しか映らない。それでも、『Betty』が計算した標的シンボルに照準シンボルが重なり、発射準備が整った事をブリジットに伝えるのだ。

「オーケー、Betty。発射。」

 ブリジット正面のスクリーン右下に、以前、茜が言っていた通り、一瞬『COPY.』のメッセージが表示され、ほぼ同時にブリジットの頭上辺りで破裂音が鳴り響き、機体から振動が伝わるのだ。破裂音は、電磁加速レールである砲身内部で弾体が音速を突破した際の衝撃波が引き起こすもので、発射用の火薬が爆燃している訳(わけ)ではない。因みに、レールガンの砲身は火薬式銃砲類の砲身とは違って、完全な筒状ではない。火薬式銃砲類の砲身は、火薬の燃焼と燃焼ガスの膨張に因って銃弾や砲弾を押し出す(加速する)為に、発射口のみが開口している。レールガンの砲身を同様に製作すると、砲身内部を移動する弾体にとって、弾体前後の空気が加速の抵抗となるのだ。つまり、弾体前方の空気は弾体の前進によって圧縮され、後方の空気は砲身内空間が引き延ばされる為に減圧されるのである。弾体後方のガスが膨張する事で弾体が押し出される火薬式銃砲類とは弾体の加速方式が違うので、これは当然なのだ。その様な抵抗を無くす為に、レールガンの砲身側面にはスリットが開口されていて、弾体前後の砲身内圧力が激しく上下しない様になっているのである。

「第三弾、薬室(チャンバー)へ装填。発射用キャパシタの、電圧確認。第三ロック目標に照準を指定…。」

 同じ様に照準指定を行い、ブリジットは第三弾の発射を命じる。

「発射。」

 第三射を終えた HDG02 は、待機位置へ戻る可(べ)く直ちに左旋回を開始するのだ。だが、茜の HDG01 が追従しない。

「HDG01、一度戻りましょう。」

 そのブリジットの呼び掛けに、茜は応えるのだ。

「先に行って、HDG02。HDG01 より、AHI01。HDG01 は現位置で一分間、着弾を観測します。」

 茜の宣言に、ブリジットが続く。

「それなら、わたしも…。」

「いいえ、二人で危険な前線付近に残る必要は無いわ。逃げ足は AMF(こちら) の方が速いんだから、HDG02 は心配しないで先に戻ってて。」

 ブリジットの発言に、被(かぶ)せる様に茜は言うのである。
 そこで緒美は、茜の意見を採用するのだ。

「此方(こちら) AHI01、了解。HDG01 は観測を継続して、HDG02 は待機位置まで戻ってください。 HDG01 は、トライアングルが接近して来たら、直ぐに退避行動を取ってね。」

「HDG01、了解。 御心配無く、その辺りは Ruby が上手くやって呉れます。」

 茜の声に続いて、Ruby の合成音声が聞こえて来るのだ。

「ハイ、上手くやります。」

 続いて、ブリジットが不承不承(ふしょうぶしょう)と言った体(てい)で返事をするのだった。

「HDG02 です、了解しました。」

 それからの約一分間、幸いにも茜の方へ『トライアングル』が向かう事は無く、着弾の観測は継続されたのだ。着弾の観測とは言っても、その瞬間までは AMF の複合センサーは最大望遠で第一目標が存在していると思(おぼ)しき空間を撮影し続けていたのである。勿論、映っているのは相変わらず、徒(ただ)の空のみであった。
 最大望遠での撮影とは言え、流石に百キロメートルもの距離が有ると、そこに『ペンタゴン』が存在しているとしてもスクリーン上には計算上、縦横 30ピクセル程度にしか映らない筈(はず)なのだが、勿論そんな事は茜達は理解しているのである。

「…そろそろ、着弾の時間…。」

 茜が呟(つぶや)いた次の瞬間、画面の中央付近で何も映っていない空間に突然、小さな爆発の様な閃光が現れ、爆煙や破片が四散するのだ。そして爆煙の中から現れた黒い塊が、煙を引いて落下して行くのである。これらは先述した通り、画面上で縦横 30~50ピクセル程度に、小さく映っていたのだった。

「複合センサーを第二目標へ向けます。」

 Ruby が宣言すると AMF は機首を第二目標の方へと向け、茜が見詰めるスクリーンの画像も再び、空の画像に切り替わるのだ。しかし複合センサーは間も無く、先程と同様な爆発の瞬間を捕らえるのだった。
 そこで漸(ようや)く、茜は報告を声にしたのである。

「AHI01、第一弾及び、第二弾、直撃の模様。引き続き、第三弾の観測を行います。」

「了解、HDG01。画像は、此方(こちら)でも確認したわ。」

 緒美の声が聞こえる中、茜の見詰める画面には、三つ目の小爆発が映し出されていた。

「第三弾、直撃。…機体が落下して行きます。 HDG02、おめでとう、全弾命中だよ。」

 茜の掛けた言葉に、ブリジットが応答する。

「ありがとー、でも、手柄(てがら)は『Betty』のものよね。わたしは大した事はしてないし。」

 そのブリジットの反応には、緒美がコメントを返すのだ。

「HDG02、その『Betty』も貴方(あなた)が居ないと能力が発揮出来ないのよ。」

「そう、そう。」

 緒美のコメントに追従したのは、茜である。

「はあ、じゃ、まあ、そう思っておきます。」

 照(て)れ気味にブリジットが言葉を返すと、続いて聞こえて来るのは桜井一佐の声だった。

「お手柄よ、多分、『ペンタゴン』を撃墜したのは、世界初の快挙よ。」

「AHI01 より、統合作戦指揮管制。先程の撃墜機、其方(そちら)で機種の判別が出来ましたか? 此方(こちら)の画像だと小さ過ぎて、判別不能だったのですが。」

 緒美の問い掛けに対して、桜井一佐は即答する。

「此方(こちら)は映像で確認が取れてます、安心して。 AHI01、貴方(あなた)の仮説は、これで、ほぼ証明されましたね。 あ、但し、『ペンタゴン』撃墜の事実は、当面、非公表ですので、天野重工さん側も承知しておいてください。」

 そう、釘を刺して来る桜井一佐に、緒美は尋(たず)ねてみるのだ。

「その理由、お訊(き)きしても宜しいですか?差し支(つか)えなければ。」

 対して桜井一佐は、淀(よど)み無く答えるのである。

「基本的に、他国に出来ない事が我々に出来る、って言うのは無駄に警戒されるだけで、いい事が無いのよ。その辺り、米軍なんかとは立場が違うの。こんな回答で、分かって貰えるかしら?」

「まあ、大体、そんな事だろうとは思ってました。了解です。」

「AHI01、貴方(あなた)、物分かりが良くて、助かるわ。」

 その安堵(あんど)した様な桜井一佐のコメントを聞いて、緒美はくすりと笑ったのである。
 そして桜井一佐が、訊(き)いて来るのだ。

「今日の所は、これで天野重工さんの試験は終了かしら?」

「いえ。『ペンタゴン』は、もう一機、居る筈(はず)ですので。 HDG03、スキャンは継続してるわね?」

 緒美の問い掛けに、クラウディアが答える。

「はい、やってますけど、今の所、ヒットしてません。」

「了解。根気よく続けて、絶対にもう一機、居る筈(はず)だから。」

「HDG03、了解。」

 クラウディアの返事を聞いてから、緒美は一度、深呼吸をし、そして通信で各員に語り掛けたのだ。

「AHI01 より各機。あと少し、気を引き締めて行きましょう。」

 

- to be continued …-

 

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