WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第19話.06)

第19話・Ruby(ルビィ)と天野 茜(アマノ アカネ)

**** 19-06 ****


 三日目、2072年11月30日、水曜日。
 この日の昼前には、試作工場より予定通りに『空中撃破装備』が飛来し、天神ヶ﨑高校南側の滑走路へと着陸したのだ。搭載された AI ユニットである『Pearl(パール)』に依る自律制御で、自力移動を実施したのである。勿論、不測のトラブル発生に備えて、外部からの制御が可能な随伴機を同行していたのは、AMF の移動時と同様なのだ。
 『空中撃破装備』と共に飛来した随伴機は、乗客である開発部設計一課の実松(サネマツ)課長を降ろすと、その儘(まま)、蜻蛉(とんぼ)返りで帰路に就いたのだった。実松課長が予定外に急遽(きゅうきょ)来校したのは、本来はこの日に来校の予定だった、飯田部長の都合が付かなくなったからだ。飯田部長にしても実松課長にしても、現場で何らかの実務を担当する訳(わけ)ではないのだが、想定外のトラブルが発生した場合に本社側と対策を折衝する人員が必要で、その為に待機しつつ、現場の状況を監督するのである。勿論、開発部の設計担当者として試運転をチェックする事も業務の一環ではあるのだが、その為に態態(わざわざ)、『課長』が出て来ると言うのも、実松課長個人が『現場が好きである』それ以上に、この試作機、正確に言えば『実験機』であるが、その重要性を表しているのだ。だから当然、この日の都合で来られなかった飯田部長も、日曜日の試験飛行迄(まで)には都合を付けて、来校する予定なのである。

 その日の放課後、緒美と茜は他のメンバー達と同じく、格納庫フロアへと降りて来たのだ。それは、到着している『空中撃破装備』を見る為である。二人が『空中撃破装備』の方へと進んで行くと、ソフトと電気担当の作業者は二手に別れて作業を進めている。一方は AMF から Ruby を取り外す作業で、此方(こちら)は安藤と倉森、そして新田の三名に、飛行機部の金子と武東の二人が作業を手伝っている。もう一方は『空中撃破装備』の搭載 AI である Pearl からの、移設前データ・バックアップ作業で、風間と日比野の二名を、樹里と維月、そしてクラウディアの三名が手伝っている。この Pearl 側の三名に就いては、作業の手伝いと言うより、見学に近いものだったのだが。
 緒美と茜の二人は、『空中撃破装備』から少し離れて全体の作業を監督している三名、つまり実松課長、畑中、そして立花先生の方へと向かったのだった。

「ご苦労様です。実松課長、今日はいらっしゃる予定でした?」

 先に声を掛けたのは、緒美である。茜は、小さくお辞儀をして見せたのだ。

「おお、鬼塚君。いや、急に飯田部長が来られなくなったのでね、代役を仰(おお)せ付かったのさ。」

 そう答えて、実松課長は笑ったのだ。対して茜は、真面目な顔で問い掛ける。

「飯田部長、何か有ったんですか?」

「そりゃ、何か有ったんだろうなあ。 アレでなかなか、忙しい人だからね。まあ、急に予定が変わるのは事業統括部じゃ何時(いつ)もの事さ、心配は要らないよ。」

 事も無げに、さらりと答えた実松課長は、続いてニヤリと笑って緒美に尋(たず)ねるのだ。

「それで、どうだい?鬼塚君。実機になった ADF は?取説とか仕様書とかも見てるんだろう?」

 一方で緒美は、『ADF』と言う聞き慣れない言葉を、聞き返す。

「何(なん)です?『ADF』って、実松課長。」

 勿論、それが『空中撃破装備』を指している事に察しは付いていたが、緒美がその呼称を耳にしたのは、これが初めてだったのだ。

「あれ? Aerial Destroy Frame、略して ADF だけど、こっちじゃ然(そ)う言ってないの?」

 驚いた様に説明する実松課長に、今度は立花先生が言うのだ。

「初耳ですね。設計では、そう呼んでいたんですか?」

「ああ、割と早い段階で。一一(いちいち)『空中撃破装備』何(なん)て言ってられないからサ。 試作部じゃ、どうだったの?畑中君。」

 実松課長は、畑中に話を振るのだ。そして畑中は、苦笑いし乍(なが)ら答えるのである。

「あー、試作部(ウチ)では専(もっぱ)ら『D案件』って呼んでましたね。此方(こちら)と連絡を取る時は『空中撃破装備』で統一してましたけど。」

「おーそうか。敢えて呼称を統一しなかったのは、こりゃ、飯田部長辺りが何か、画策してたかな。申し訳無いが、この話は忘れて呉れ。」

 気まずそうに実松課長が言うので、微笑んで緒美が応える。

「それは構いませんけど。 それに、呼び方に就いては、LMF、AMF の流れだと、寧(むし)ろ ADF の方が自然ですし。確かに『空中撃破装備』よりは、言い易いですね。」

「でも部長、急に呼び方を変えたら、皆(みんな)、混乱しませんか?」

「大丈夫でしょう?天野さん。 皆(みんな)、そんなに頭は固くないわ。それに略称に変わるのは、言い易くなる方向なんだし。」

「まあ、部長が宜しければ、構わないと思いますけど。」

 茜にも、特段に反対する理由は、無かったのである。
 そして二人は、『空中撃破装備』改め ADF を暫(しば)し、見詰めるのだった。
 その機体形状は大凡(おおよそ)、次の通りである。
 胴体の基礎形状は単純な円筒で、先端には HDG と接続されるジョイント・ユニットが装備されている。胴体中央側面には小振りな三角翼が取り付けられており、後方には中型ジェット・エンジンが四基、束ねられる様に搭載されているのだ。ジェット・エンジンに空気を導くエア・インテークはエンジン一基に付き一つ、合計四つが円筒形の胴体から突き出す様に開口している。各インテーク後方には尾翼が装備されているのだが、正面や後方から見ればX型に配置された尾翼の内、下側の二枚に就いては着陸時に地面と干渉しないよう、取り付け角が水平へと可変する機構が存在しているのだ。
 胴体は基本的に濃い目のグレーに塗装されているが、機体の姿勢を判別し易くする為、側面には白いラインが入れられている。そのライン上に在る三角形の主翼は、全体が白く塗装されているのだった。
 そんな機体を見た第一印象を、茜は素直に口にするのだ。

「矢っ張りこれは、飛行機って言うよりは、ロケットかミサイル、って感じです、よね。」

「まあ、戦闘機的な機動性は、始めから考えていない仕様だけど。仕様書とか読んでみて改めて考えても、これで良かったのかは、よく解らないわね。」

 その緒美のコメントには、意外そうに実松課長が言うのである。

「おいおい、珍しく気弱じゃないか、鬼塚君。」

「別に、何時(いつ)も自信満々って訳(わけ)じゃないですけど。 それに、これに限って言えば、こう言う仕様にしたかったのは本社サイドの方(ほう)でした気がしますけど?」

 緒美は何時(いつ)もの落ち着いた、真面目な表情で実松課長に言葉を返した。実松課長の方は特に動揺するでもなく、コメントするのだ。

「そうなの? 設計の方(ほう)は要求仕様に従って図面を引くだけ、だからなあ。」

 今度は茜が、実松課長に尋(たず)ねる。

「設計課は、仕様決定には関わらないんですか?」

「こう言う仕様で行きたい、って打診が来れば、それが設計可能かどうか試算位はするよ? それを元に、その仕様やアイデア、方針を採用するか、しないかを決めるのは、上の方(ほう)だからね。」

「へえー、そう言うものなんですか。」

 茜は単純に感心して、声を上げたのだ。一方で緒美の方は、これ以上は鎌を掛けても無駄だと理解して「成る程。」とだけ言ったのである。勿論、実松課長が言葉の通りに、仕様決定に関わっていない可能性も有って、その辺りの判断は出来なかったのだ。
 すると、実松課長が続いて、意外な事を言い始めるのである。

「そう言えば…ここだけの話なんだが。」

 そこで実松課長はその場に居た、畑中、立花先生、緒美、そして茜の順に顔を見回して話し始めた。

「…実は、ADF(コイツ)にね、エイリアン・ドローンから取り出した反重力ユニットを乗せるって、設計変更案が出ててね。流石に改設計が間に合わないから、話は流れたんだけどね。」

 そう語る実松課長の表情は、実に楽しそうなのである。その一方で、それを聞かされた四人は一様に不穏な表情を見せたのだった。
 そして真っ先に、立花先生が小さく声を上げたのだ。

「実松課長! そう言うお話は、されない方が宜しいのでは?」

「何、キミらが他の人に話さなければ問題無い。立花君は、もう知ってる話だったか?」

 立花先生は少し身体を引いて、右手を胸の前で数回、激しく振って答えた。

「いえいえ、聞いてませんけど。」

 続いて、ニヤリと笑った実松課長は、緒美と茜に問い掛けるのだ。

「キミ達は、聞きたい?」

「はい、是非。」

 緒美は、二つ返事である。その隣(となり)で茜は、深く頷(うなず)いていた。

「まあ、この話はね、特に二人には聞く権利が有ると思うんだ。何せ、キミ達が居なかったら、エイリアン・ドローンの完璧なサンプルが入手出来なかった訳(わけ)だしな。」

「…と、言われますと?」

 緒美に問われて、間を置かずに実松課長は話を続ける。

「七月の、一番最初に茜君が切り倒したエイリアン・ドローンが有っただろう? あれが一番綺麗なサンプルだったそうでね、防衛軍が回収した残骸を、各方面で分析していたんだが。唯一、機能が判明したのが反重力ユニットなんだそうだ。」

「反重力、なんですか?」

 そう緒美に聞き返されて、実松課長は慌てて訂正する。

「ああ、仮称、だよ。実際に原理や仕組みの解明とかは、まだ出来てないらしい。 兎に角、回収したパーツはブラック・ボックス…現物は黒い球体らしいんだが、それに付いている電極らしき所に電気パルスを入力すると、浮き上がるんだそうだ。」

 その話を聞いて、茜は緒美に声を掛けるのだ。

「どう言う原理なんでしょうね?部長。」

「さあ、反重力、重力制御、或いは慣性制御? SF 的には色々、ネタは有るでしょうけど。 兎も角、そう言う不思議な力で浮揚しているんだろうって、予測はされてたけど…それが確認された訳(わけ)よね。」

 緒美のコメントに対して、実松課長は苦笑いで言うのである。

「原理も仕掛けも解らないのでは、確認された内には入らないかもだが、ね。」

 続いて実松課長に問い掛けたのは、茜だ。

「そのユニット、分解とかX線透視とか、そう言った調査はしてないんでしょうか?」

「ああ、表面上は樹脂状の物質でコーティングされてて、継ぎ目も無くて分解が出来ないそうだ。X線や超音波とか磁気とか、その手の分析器での透視も出来なくって、本当にブラック・ボックス状態らしい。いや、ブラック・スフィア、かな?」

 今度は、立花先生が尋(たず)ねる。

「今迄(いままで)の残骸からは、そのユニットは見付かってなかったんでしょうか?」

「うん、聞く所によると、これ迄(まで)に回収された同じユニットと思しき残骸は、どれも熱で変質しているか炭化してるかだったらしい。だから、機能が確認出来るサンプルが入手出来たのは、キミ達の大きな功績なのさ。」

「ああ、そう言う話なら…。」

 そう言って、畑中が話し始めるのだ。

「…そっち方面の研究をやってる同期の奴から、エイリアン・ドローンには樹脂材料が多用されてるんだけど、従来のサンプルは熱変質が酷くて、どれも資料にならなかったって聞いた事が有る。」

「樹脂って、プラスチックの事、ですか?」

 茜の質問に、畑中は微笑んで答えるのだ。

「あーいや、一般的にプラスチックって言うと石油由来の合成樹脂だけど、それよりも天然樹脂、植物の樹液が凝固した様な、そっちに近いものらしいよ。エイリアン・ドローンの外殻は金属らしいんだけど、内側は不思議な具合に樹脂と混ぜ合わされているそうだ。そう言うのが、最近は綺麗なサンプルから解って来たって。」

 畑中の話を聞いて、微笑んで緒美が、ポツリと言うのである。

「そのお話、うちの両親に聞かせてみたいですね。」

 事情を知らない畑中が、一瞬、怪訝(けげん)な顔をするので、立花先生がフォローを入れるのだ。

「緒美ちゃんの御両親は、樹脂材料の研究職なのよ。」

「生憎(あいにく)と、三ツ橋の系列ですけどね。」

 そう追加して、緒美はくすりと笑った。

「ああ、それなら。素材分析のサンプルは防衛軍経由で三ツ橋の研究所へも回ってるらしいから、案外、鬼塚君の御両親の目にも触れてるかもだな。」

 緒美に対して実松課長は然(そ)う言った後で、茜に向かって言葉を続ける。

「そう言うのも元を辿(たど)れば、茜君のお手柄が有っての事だ。」

「そうですか。勢いで、深い考えが有ってやった訳(わけ)じゃないですけど、何かの御役に立ったのなら嬉しいです。」

 茜は微笑んで、そう応えたのだった。
 そして緒美が、実松課長と畑中に問い掛けるのだ。

「それじゃ、エイリアン・ドローンを分解して、詳しい構造とかは判明したんですね?」

 実松課長が答える。

「あー、それが、分解は出来なかったらしい。強いて言えば、解体、だったそうだ。」

「どう言う事です?」

 緒美は怪訝(けげん)な顔付きで、聞き返す。

「所謂(いわゆる)、ボルトやナット、或いはリベットの様な部品で結合されてはなくてね。こう、複雑にカットされたパーツの隙間を樹脂が埋めてるって言うかな、そんな感じで組み上げられているらしい。強いて言えば接着剤的な?」

 実松課長に続いて、畑中が発言するのだ。

「ああ、その話なら例の奴から聞きました。外殻なんかもベース材に貼り付けてあるんじゃなくて、もう、一体で成型されてるって。そんな構造でメンテナンスやパーツ交換は、どうやってるんだろうって、頭、抱えてましたよ。」

 苦笑いしている畑中に、ニヤリと笑って実松課長が言うのだ。

「ああ、その答えなら、もう、立花先生が出して呉れてるよ。」

「え?」

 実松課長の発言に驚いて声を上げたのは、当の立花先生だった。

「わたし、何か言いました?」

 戸惑う立花先生に、答えを明かすのは緒美である。

「言ってたじゃないですか、あれは『遠征用の使い捨て兵器だろう』って。」

「ああ…。」

 そこで漸(ようや)く、合点(がてん)の行った立花先生なのであった。そして、実松課長が説明を補足するのだ。

「使い捨てと割り切れば、そんな構造でも問題は無い。エンジニアリングの信頼性が恐ろしく高くないと成り立たないが、まあ、我々とでは其(そ)の辺りの技術レベルが段違いなのは、改めて言う迄(まで)もないからな。ともあれ、立花君の仮説は、当たっていたと思っていいんじゃないかな。」

 そして真面目な顔で、茜が問うのである。

「それじゃ矢っ張り、アレを作ったのは異星人(エイリアン)って事で、間違いないんですよね?」

 一同が一瞬沈黙した後、苦笑いしつつ実松課長が答える。

「少なくとも、地球の技術でない事だけは確かだね。」

 その後、緒美と茜の二人は、昨日に引き続き仕様書と取扱説明書を読み込む為、部室へと戻って行ったのである。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。