WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第19話.11)

第19話・Ruby(ルビィ)と天野 茜(アマノ アカネ)

**** 19-11 ****


 茜の視界では、百七十キロメートル彼方(かなた)の仮想エイリアン・ドローンの編隊群は、当然だが目視は出来ない。相対速度が毎分 15.8キロメートルの儘(まま)だと、凡(およ)そ十分(じゅっぷん)後には互いの進路が交錯するのである。
 その仮想エイリアン・ドローン編隊は三角形の三機編隊が、先頭から一編隊、その後ろに三編隊、五編隊、七編隊と並んで全体で綺麗な三角形を描き、総数五十機の設定なので最後尾中央に残った二機が並んで続いているのが、戦術情報の画面から読み取れたのだ。しかし、目標の数が多過ぎて表示範囲を広くすると、シンボルの多くが重なってしまうので、各目標を識別する為には、或る程度の拡大表示をする必要があった。

Ruby、目標の識別番号を表示して。それからレーザーの照射時間は、距離に合わせて設定の通りで調整してね。」

「ハイ、識別番号を表示します。」

 Ruby の制御に因り、戦術情報の敵機を示す三角形のシンボル中央に、1 から 50 の番号が表示されたのだった。通常想定されている敵機の数は、三機から五機程度なので、識別番号は非表示なのが初期設定とされているのだ。それは番号が無くても、十分に把握や遣り取りが可能だからだ。しかし、十機を超えると、流石に番号を振らないと管理や指揮管制との遣り取りに、不都合が生じるのだ。

「それじゃ Ruby、目標の先頭、1 から 4 番を目標固定(ロックオン)。有効射程に入ったら、射撃を始めるわよ。マスターアーム、オン。発射用キャパシタの、電圧確認。」

「ハイ、マスターアーム、オン。キャパシタの電圧正常。最大射程での照射時間は五秒の設定になります。有効射程まで、あと二十秒。」

「各レーザー砲バレル、目標を追跡開始。発射準備で待機。」

「ハイ、全バレル、目標の追跡を開始。発射命令まで待機します。目標、有効射程まで、あと五秒…3…2…1…有効射程に入りました。」

「レーザー砲、1 から 4、発射。」

「発射します。」

 Ruby が発射を宣言すると、レーザーの照射中を知らせるブザー音が鳴り響く。
 それに続いて、戦術情報画面では目標を表すシンボルが一斉(いっせい)に動き出すのだ。それは文字通り『蜂の巣をつついたよう』な動きだったのである。
 射撃対象だった四機の目標は、レーザー照射の効果で落下して行くのだが、それ以外の四十六機は大別して三つの方向へと分散して行くのだ。つまり、茜から見て右側、左側、そして下側である。
 茜は比較的、ADF への接近速度が速いと思われる、向かって左側の集団を次の目標に定める。

Ruby、目標 7、12、21、29 を目標固定(ロックオン)。レーザー 1 から 4 で追跡開始。」

「ハイ、7、12、21、29 をロックオン。追跡開始します。」

「レーザー 1、発射。続いて、レーザー 2、発射。レーザー 3、発射。 レーザー 4、発射。」

 茜は順番に、レーザー砲の発射を命じていく。その都度(つど)、Ruby は「発射します。」と応え、続いてレーザー照射を知らせるブザー音が鳴るのだ。
 茜がレーザー砲を、順番に発射しているのは、各レーザー砲には連続発射に対する制限が設けられているからだ。つまり、レーザー砲一門に就いて、発射後に五秒間のインターバルが設定されているのだ。レーザー砲は四門が装備されているので、例えば二秒間隔で順番に発射していけば、レーザー 4 を発射した時点でレーザー 1 は五秒間の照射を終えて一秒が経過している計算となる。そこからレーザー 1 のインターバル期間の残り四秒で次の目標を指定すれば、レーザー 1 のインターバル期間終了後には次の照射が開始出来る訳(わけ)だ。ここでレーザー 1 の発射を一秒待てば、レーザー 2 以降の発射タイミングは二秒間隔で発射が可能なサイクルが出来上がるのである。
 目標の指定は一括で行うのだが、各レーザー砲の照準と目標追跡は、それぞれのインターバル期間五秒の間に実施されるので、茜は二秒間隔での発射指示が可能となるのである。
 そうして、左側から右側、そして下側象限へと分散した目標を、近付いて来る物から順番に ADF は撃墜していき、五十機の目標は二分半程で、全て撃墜されたのだった。結局、仮想エイリアン・ドローンは ADF との距離を、百キロメートル以下に縮める事は無かったのだ。

「全目標、消化しました。」

 通信で、茜が然(そ)う報告すると、緒美が言葉を返して来る。

「取り敢えず、お疲れ様…一応、計算通りだけど。シミュレーションとは言え、何(なん)だか、とんでもないわね。」

「えーと…レーザーが一発も外れなかったのは、シミュレーション・ソフトのバグ?でしょうか。」

 その茜の疑問に対して、日比野が言葉を返す。

「そんな事は無いと思うよー。でも一応、後でログはチェックしてみるけどー。」

「お願いします、日比野先輩。」

「まあ、時速 700 キロで目の前を横切ってても、百キロも離れてたら、角度に換算すれば一秒間に 0.1°程度の移動量だから、レーザー砲で十分(じゅうぶん)追える範囲なんだけど。まあ、Ruby の制御が、それだけ正確だった、って事よね。」

「恐縮です。」

 緒美の評価に、Ruby が一言を返すのである。続いて、緒美は茜に問い掛ける。

「それじゃ天野さん、続いて、目標が百機の設定でもいけそうかしら?」

「ああ、はい。やってみましょう。 樹里さん、お願いします。」

「了~解。設定、変更するね…はい、それじゃ、スタートするよ。いい?」

「お願いします。」

「開始地点は、最初の座標に戻るから。それじゃ、はい、スタート。」

 樹里が宣言すると、一瞬、視界の映像で雲の位置などが切り替わり、高度や機体のステータス、戦術情報が更新されるのだ。早速、茜は戦術情報を確認する。
 今度は前方 160 キロメートルに、三つの大きな編隊群が出現している。編隊群を構成する基礎構造は、前回と同じく三角形の三機編成だが、それが前方から一編隊、三編隊、五編隊と三段に並んだ三角編隊二十六機が左右に、そして中央には一編隊、三編隊、五編隊、七編隊の四段に並んだ総数四十八機の三角編隊群となっている。因(ちな)みに、左右編隊群の前方から三段目の内の一編隊は二機での構成となっているが、これは総数が百機での設定になっている所為(せい)で、三機構成を基礎とした場合の不足分が、左右最後尾の編隊に割り振られた結果である。
 基本的にエイリアン・ドローン『トライアングル』は、三の倍数で地球へと投入されるが、大気圏降下後には複数の目標へと割り振られる都合上、必ずしも三の倍数で編成された編隊で運用されるとは限らないのだ。当然、迎撃を受けて機数が減れば『トライアングル』側が三機編成での行動が続けられない事態も発生する訳(わけ)で、その際は柔軟に単機や偶数機編成でも運用がされるのである。

Ruby、中央編隊の先頭から削っていくわよ。目標 27、28、29、30 を目標固定(ロックオン)。マスターアームをオンにして、レーザー 1 から 4 で追跡開始。発射用キャパシタ、電圧確認。」

 そうして二度目の仮想砲撃戦が、開始されるのだ。
 先刻と同じ様に、先頭の四機が砲撃されると、仮想エイリアン・ドローンの編隊各機は即座に分散を開始するのである。その中から、接近して来る目標をロックオンし、茜は次々とレーザー砲の照射を繰り返して行くのだ。
 仮想 ADF がレーザー砲を撃ち続けて三分程が経過すると、当初 150 キロメートル以上有った両者の間隔は、100 キロメートル程度に縮まっている。

Ruby、目標の残りは、あと何機?」

「ハイ、二十八機です。目標までの距離が百キロメートル以内になりますので、ここから照射時間を三秒へ切り替えます。」

「了解。次、72、68、93、47 を目標固定(ロックオン)。」

 原理的に、光は遠くへと進むに連れて弱くなる。一般的には「距離の二乗に反比例する」と言われるが、これは光が全方向へ放射される、つまり点光源での場合である。レーザー光は進行方向が一方向に揃(そろ)えられて放射されるので、単純に距離に反比例して弱くなると考えれば良い。何方(どちら)にせよ、目標との距離が接近すれば、同じ効果を得る為の照射時間を短縮できる訳(わけ)なのだ。大気中での光の減衰は距離の影響の他に、大気分子や水蒸気、浮遊する微細な塵、等による散乱も要因になるので、何(いず)れにしても目標との距離は、近いのに越した事は無い。
 エイリアン・ドローンは時間が経つに従って、三機編成での編隊が広範囲に散らばる状態で ADF へと接近している。距離が遠い場合は、エイリアン・ドローンの布陣が広がっても ADF 自身は直進状態でレーザー砲の角度調整だけで対応が出来たのだが、相互の距離が縮まって来るのに従い、ADF 自体の機軸を左右に振らないと対処が出来なくなって来るのだ。結果、ADF は大きく蛇行する様に飛行し乍(なが)ら、一分(いっぷん)強で残存目標の全てを撃墜したのだった。

「以上で、全目標、クリアーです。」

 望遠画像で最後の一機が落下して行くのを確認して、茜は報告したのだ。

「了解。何(なん)だか、順調過ぎて、逆に不安になるわね。」

 笑って、緒美は然(そ)う言ったのである。続いて、日比野の声が聞こえて来る。

「あはは、念の為、後でログは確認しておくから~バグじゃないとは思うけどね。」

 それに対して、茜が言うのだ。

「まあ、距離が百五十キロから始めてますから、お互いが真っ直ぐ進んでも九分の余裕が有ります。どっちかって言うと、実機で、あれだけの連射が出来るかって、其方(そちら)の方が心配になりますけど。発電が追い付くのか、キャパシタへの充電が間に合うのか、あと、レーザー砲の過熱が起きないか、ですね。」

「その辺りは、パーツ単位では性能は確認済みの筈(はず)だけど。何(いず)れ、どこかのタイミングで検証する必要は、有りそうよね。 取り敢えず、次に二百機設定で、もう一回やって、今日は終わりにしましょうか。」

「了解です。樹里さん、設定、お願いします。」

 そうして開始された三度目の戦闘シミュレーションは、エイリアン・ドローン『トライアングル』が二百機と言う、前代未聞の大編隊を ADF が単機で迎え撃つ、無茶苦茶な設定でスタートしたのだ。
 とは言え、茜と Ruby が行う事は、前の二回の戦闘シミュレーションと何(なん)ら変わりは無く、淡々と目標を選択して、レーザー砲で撃ち落としていく、それに尽きるのだった。
 これは、『トライアングル』は飛び道具を持っていない、だからこそ成り立つ構想であり、接近戦となる迄(まで)の間は ADF の側が一方的に攻勢で居られるのだ。
 今回は目標との距離が 100 キロメートルを割る迄(まで)の最初の三分程で六十九機を撃墜した。照射時間が三秒となる目標との距離が 100 ~ 50 キロメートル圏内での三分間に八十七機を撃墜し、照射時間設定が二秒となる距離 50 ~ 25 キロメートル圏内で、目標の残存数四十四機を ADF は一分半程で、全て撃墜して見せたのである。

「お疲れ様、天野さん。今日は、これで上がってちょうだい。」

 その緒美の呼び掛けに、茜は言葉を返すのだ。

「でも、部長。まだ三十分程しかやってませんし、一回だけ、接近戦のシミュレーションも、やってみませんか?」

「気持ちは解るけど、安藤さん達の、この後の予定も有るから。予定通り、ここ迄(まで)にしましょう。接近戦は、明日以降でね。」

 続いて安藤の声が、茜のレシーバーに聞こえて来る。

「やる気になってる所、悪いわね、天野さん。昨日の打ち合わせの通り、わたし達は十八時出発だから。」

 元より、無駄な抵抗だと解っての提案だったので、茜は素直に引き下がるのである。

「はーい、解ってまーす。 そう言う訳(わけ)だから Ruby、続きは、又、明日ね。」

「ハイ、楽しみにしています、茜。 それでは、シミュレーション・モードを解除、スラスター・ユニットを再接続して、HDG を開放位置へ降ろします。」

「はい、お願い。」

 その後、HDG が ADF から切り離されると、安藤と風間が ADF へと駆け寄り、Ruby の、この日のログ回収作業を始めるのだ。一方で日比野は、戦闘シミュレーションの環境、主に二百機もの仮想目標の機動演算を実行していた Emerald のログを回収するのである。
 この時点で時刻は午後四時を少し過ぎており、Ruby と Emerald とのログ回収と ADF のシミュレーション実施後の機体チェック作業とで約一時間を見込み、その後のミーティングを約三十分とすると、十八時出発の予定は割とギリギリなのだ。
 安藤と風間、日比野の三名に加えて、飯田部長と担当秘書の蒲田が、この日の内に社用機で本社へと戻る予定で、そのフライトが十八時出発予定なのである。
 HDG-A01 をメンテナンス・リグへと接続し、HDG と自身との接続を解除して降りて来ると、茜は緒美達に声を掛けるのだ。

「そう言えば、飯田部長は…。」

 茜が其処(そこ)まで言った所で、飯田部長の声が聞こえて来るのである。

「居るよ~。」

 茜が声の方向へ目を遣ると、飯田部長を始めとして、何時(いつ)もの作業服ではない私服姿の畑中達も、シミュレーションのモニター用ディスプレイの前に揃(そろ)っていたのだった。シミュレーションを始める前には居なかった立花先生や、飯田部長の担当秘書である蒲田の姿もそこにはあった。

「飯田部長、いらしてたんですか。」

 その茜の所感に、緒美が答える。

「天野さんがシミュレーションを始めた頃に、戻って来られてたのよ。」

「いやあ、なかなかに凄いものを見せて貰ったよ。」

 ニヤリと笑って、飯田部長は然(そ)う言ったのである。すると、恵が飯田部長に尋(たず)ねるのだ。

「飯田部長、そもそもエイリアン・ドローンが二百も襲来する想定なんて、有り得るんですか?」

「うん、段々と地球に降下して来てる数は、増えているからね。」

 続いて、立花先生が言うのだ。

「最近で、一番多くて五十機越え、だけど。その時だって此方(こちら)に来たのがそれだけで、同時に降下して来たのは百機近くだった訳(わけ)だし。傾向としては、今後も数が増えるのは、覚悟しておいた方がいいでしょうね。」

「まあ明日、明後日って事は無いだろうけど、将来的には、って話さ。」

 然う締(し)め括(くく)る飯田部長に、今度は直美が問い掛ける。

「じゃあ、この ADF は、その時に備えての、技術開発って事ですか?」

「まあ、そんな所だな。」

 そう答えて微笑む飯田部長に、緒美も亦(また)、微笑んで言うのだ。

「まあ、そう言う事にしておきましょう。」

「何(なん)だい、鬼塚君。含みの有る言い方だね。」

「いいえ、お気になさらず。」

 満面の笑みで然(そ)う答えると、緒美は茜に向かって声を掛ける。

「天野さん、取り敢えず、着替えていらっしゃい。」

「はい。それじゃ、失礼して。」

 茜が二階通路へ上がる階段へと向かうと、直美がブリジットに声を掛けるのだ。

「ブリジットー、手伝ってあげな。天野の着替え。」

「あ、はい。」

 ブリジットとしては言われる迄(まで)もなかったのであるが、副部長からのお墨付きを得て、直ぐに茜の後を追ったのである。
 そして直美は、今度は飯田部長に訊(き)いたのだ。

「そう言えば、飯田部長。温泉、如何(いかが)でしたか?」

「ん?ああ、良かったよ。平日の昼間から温泉に浸かって、食事して。普通に働いてる方(かた)には、申し訳無いけどね。」

 その発言に、自他共に認める『仕事の鬼』である立花先生が反応するのである。

「それは結構でしたね。 畑中君達も、一緒だったんでしょ?」

 立花先生に話を振られ、畑中が口を開く。

「今日は、飯田部長に御馳走になったんですよ、皆(みな)で。」

「いやあ、案内して貰ったし、試作部の皆(みんな)には、ここ迄(まで)、色々と貢献して貰ってるからね。」

「経費ですか?会社の。」

 敢えて冷たい視線で、立花先生は飯田部長に突っ込むのだ。対して、飯田部長はニヤリと笑って答える。

「まさか。今日の分は、わたしの自腹だよ。」

「へえー…。」

 何か言いた気(げ)な立花先生に、苦笑いで飯田部長が言うのである。

「別にいいだろう? 今日はわたしも、休暇の扱いなんだから。」

「それは勿論、構いませんけど。」

「立花君も、偶(たま)にはちゃんと、休暇を取りなさいよ。キミは自分の休暇に関しては無頓着だって、影山部長から聞いてるよ。」

 真面目に、心配そうに飯田部長が言うものだから、今度は立花先生が苦笑いで答えるのだ。

「心に留(と)めておきます。」

 その様子に、緒美と直美がクスクスと笑っているのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。