STORY of HDG(第19話.13)
第19話・Ruby(ルビィ)と天野 茜(アマノ アカネ)
**** 19-13 ****
「そうなの? でも、学校の方が大事なんだから、会社の仕事は大変だったら断ってもいいのよ、茜ちゃん。無理はしないでね。」
祖母の言っている事は、飽く迄(まで)、一般論なのだと茜は理解していたのだが、聞きように因っては HDG の事を言っている様でもあり、自分から余計な事を言ってしまわない内に、早急に話題を変える必要性を茜は感じたのである。
「うん、分かってるー…あ、お母さん、近くに居る?」
「ええ、代わりましょうか?」
「うん、お願いー。」
暫(しばら)く間が有って、通話の相手が母、薫(カオル)に交代するのだ。
「もしもし、元気?茜ちゃん。」
「うん、大丈夫だよー。」
「何か、あった?」
薫は然(そ)う訊(き)いて来るのだが、茜には特に話題が有った訳(わけ)ではない。
「ああ、いえ、そうでもないけど…えーと、あ、お父さんは?」
「それが、間の悪い事に、今日も出張なのよ。何よ、お父さんに用事だったの?」
「そうじゃないけどー、どうしてるかな、って思って。最近、様子を聞いてなかったし。出張って、どこ?海外?」
「ううん、最近は国内ばっかりよね。今日は、仙台だって。」
「そう、まあ、元気ならいいけど。お母さんも、気を付けてね。」
「あら、ありがと。こっちの心配はいいから、茜も風邪とか引かないようにね。」
「うん、夕食の途中だったから、そろそろ切るね。冬休みの予定とか、決まったら又、連絡するからー。」
「はい、はい、待ってるね。」
「じゃ、切るねー。」
「はい、じゃ、またねー。」
「はーい。」
茜は通話を終えると、携帯端末を手に元の席へと戻るのである。
「お帰りー、茜。」
真っ先に、ブリジットが声を掛けて来る。
茜は微笑んで「ただいま。」と声を返して席に着き、少し急いで、あと少しだった残りの食事を再開するのだが、最初に口に入れた肉片を飲み込んでから、ふと気になった事をブリジットに尋(たず)ねるのだ。
「そう言えば、此方(こちら)のお話しはどうなったの?」
「部長のお話しは、茜が席を立った迄(まで)よ。その後は、茜の姉妹の名前をネタに、一(ひと)盛り上がりしてた所。」
「名前で?」
不思議そうに聞き返した茜に、通路を挟(はさ)んで隣の席から金子が茜に訊(き)いて来るのだった。
「天野さんと妹さんの名前が『光の三原色』が由来だ、って所までは聞いたのだけど、由来に『光の三原色』が出て来る理由は何なの?」
茜は口の中の咀嚼(そしゃく)物を飲み込んで、金子に答える。
「ああ、家(うち)の父方には、『天野』って名字に因(ちな)んで、『星』とか『光』関連の名前を付ける流れが有りまして。それは特に男子の方、なんですけど。」
「因(ちな)みに、お父様のお名前は?」
「光市(コウイチ)です。光(ひかり)の市(いち)、市町村の市(し)、ですね。 あと、わたし達、姉妹の名前が一文字縛りなのは、母方の女子が皆(みんな)そうだったので、って事らしいですよ。」
「へえー。余所(よそ)の家(うち)の、そう言うお話しって面白いよねー。」
金子は感心する様に然(そ)う言って、静かにお茶を飲むのである。
一方、隣の席でブリジットが言うのだ。
「一文字縛りの件は、初めて聞いた気がする。」
「そうだっけ?」
「言われてみれば、茜、碧…お母さんは薫で、叔母さんが洸、さんだっけ? お祖母(ばあ)様は?」
「妙(タエ)、よ。 お祖母(ばあ)ちゃんの姉妹も、一文字の名前だった筈(はず)だけど、忘れちゃった。」
今度は正面の席から、村上が問い掛けて来る。
「茜ちゃんは、御実家は東京よね。御両親も?」
「母方の天野家は東京だけど、父方の天野家は長野なのよ。」
続いて訊(き)いて来たのは、九堂である。
「冬休み中に、そっちへ行ったりするの?」
「ううん、多分、行かない。 冬は寒いし、割と雪も降るから、お父さんが地元に帰るのを嫌がるのよ。だから、冬は東京で母方の祖母とかと過ごして、長野の父方の実家へは夏に行くパターンなのよね。夏は、東京に居るより涼しいから。」
するとブリジットが、微笑んで言うのだ。
「去年は、わたしもご厄介になったのよね、一週間程。」
「へえ、なんで?」
疑問を呈する九堂に、茜が答えるのである。
「受験対策の合宿、みたいな?」
「その節(せつ)は、お世話になりました~。」
ブリジットは敢えて丁寧に、謝意を述べるのだった。
「へえ~楽しそうね、わたしも行ってみたい。勉強は遠慮したいけど。」
微笑んで然(そ)う言う九堂に、茜が言葉を返す。
「山の中だから、山と畑以外には何も無いわよ?」
「受験勉強には、打って付けだったけどね。」
そう補足するブリジットに、真面目な顔で村上が尋(たず)ねるのだ。
「夏休み中に合宿って、ブリジットは塾とかには通わなかったの?」
「だって、茜に教えて貰った方が解り易いんだもん。実際、夏休み明けてからの模試とかでも、結構、得点が上がっててさ、効果は絶大だったのよ。」
「へえ~、流石、茜ちゃん。」
ブリジットの返答に感心する村上だが、そこに茜が異議を唱えるのだ。
「いやいや、頑張ったのはブリジットだからね、敦っちゃっん。」
「あははは、確かに然(そ)うよね。ゴメンね、ブリジット。」
「いいよー。教えて呉れるのが茜じゃなかったら、きっと上手く行ってなかっただろうからさ。」
ブリジットも笑顔で、村上に言葉を返すのである。
そこで、茜が二人に対して提案をするのだ。
「山の中で何(なん)にも無いけど、それでも良ければ、来年の夏休み中にでも二人も遊びに来てみる?」
「えー、いいの?茜。」
茜の提案に、真っ先に食い付いたのは九堂なのだ。
「大丈夫だと思うよ。山の中でお客さんとか、滅多に来ないそうだから。きっと歓迎して呉れるよー。まあ、細かい事は来年になってからの話だけど。」
「あはは、楽しみにしてるー。」
そんな具合に、HDG とは関係の無い話題で、時間は過ぎていくのだ。それは緒美達、三年生のテーブルでも然(そ)うだったし、二年生達のテーブルでも然(そ)うだったのである。
そんな風(ふう)に、彼女達の其(そ)の日は終わっていったのだ。
そして、月軌道から地球へと向かうエイリアン・ドローン『ヘプタゴン』の、今迄(いままで)に類を見ない大集団が観測されたのは、この翌日の事なのである。
- 第19話・了 -
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