WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第20話.01)

第20話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)と森村 恵(モリムラ メグミ)

**** 20-01 ****


 前々日に緒美から突然の発表が有った通り、四機目の HDG が予定通りに第三格納庫へと搬入されたのは 2072年12月7日、水曜日の事である。
 月、火曜日と二日間、現地での休暇を過ごしていた畑中達が、搬送されて来た新たな HDG 一式を受け取り、兵器開発部のメンバー達が授業を受けている日中に、現地でのセットアップ作業を行うのだ。そうして午後四時を過ぎると、授業を終えた兵器開発部のメンバー達が第三格納庫へと移動して来て、この日の部活が始まるのである。

「A号機とB号機の動作データから、別の機体へ初期設定を合成できるのか、実証試験を行います。」

 その日の部活開始時に、緒美は部員達に新たな HDG の試験を行う理由を、そう説明したのだ。
 その説明を聞いて、恵と直美、そして応援で来ている飛行機部の金子と武東、彼女達三年生組は緒美の真意を直ぐに察したのである。それが一年生達を実戦に巻き込んでいる現況に対して、上級生としても同じリスクを負わなければならない、そんな覚悟の様な思考なのだろう事は、本人に聞く迄(まで)もなかったのだ。勿論、『実証試験』の件も嘘ではない。
 とは言え、緒美が茜達の役割を完全に代替できるのかと言えば、其(そ)れは不可能で、その事は緒美にも良く分かっていた。茜は剣道で、ブリジットはバスケットボールで、それぞれに鍛えた運動能力が、実戦時に発揮される成果(パフォーマンス)の基礎となっている事に疑いの余地は無いからだ。
 運動能力の一点に限って言えば、緒美とクラウディアに大きな差は無いのだが、クラウディアにはプログラミングや情報処理の特殊技能(スキル)が有り、その点で矢張り、緒美はクラウディアの代替ともなり得ないのである。
 つまり、防衛軍の一部から HDG 各機の能力を事実上『当て』にされている現状で、一年生達三名をテスト・ドライバーの役割から外す事は既に不可能に近く、緒美が一年生達の誰かと交代する事も現実的ではなかった。現状で緒美に出来るのは、一年生三名に加わって現場で指揮を執る、その程度なのである。
 実戦経験の無い緒美が、今更(いまさら)加わっても足を引っ張るだけではないのか? 当然、それは可能性としては有り得る状況なのだ。しかし、幾度かの実戦と積み上げられたシミュレーションからの経験に因り、戦闘経験の無いクラウディアとC号機(サファイア)が、格闘戦で一機の『トライアングル』を撃退して見せたのも事実である。そこから、HDG での運用や機動が素人同然の緒美であっても、同程度に格闘戦が熟(こな)せるのか、先(ま)ずは其(そ)れを模擬戦で確認する、それも『実証試験』の目的の一つとされているのだ。
 素人の様な新兵でも十分(じゅうぶん)に器材の能力が発揮出来る事、それは兵器の能力として確認しておきたい重要な要素ではあるのだ。特別な資質や、特殊な才能、個人の能力に依存している様では、兵器としては『出来損ない』なのである。
 だから緒美は、今回実施される『実証試験』の意義を、その様な文脈で兵器開発部のメンバー達に説明したのだった。
 その説明が終わった後、一人、浮かない表情の恵に、周囲に目が無いのを確認して立花先生は声を掛けたのだ。

「大丈夫?恵ちゃん。」

「先生は御存じだったんですよね?」

 そう問い返してきた恵の顔には、特段の表情は無かったのである。
 立花先生は、苦笑いを浮かべつつ答える。

「それは、先日にも訊(き)かれた気がするけど…恵ちゃんは反対だったのよね?」

 今度は恵が苦笑いをして、言うのだ。

「事ここに至っては、反対するも何も無いんですけど。 何時(いつ)、決まった事なんですか?」

「八月…LMF が大破した、あの時の直後にね。緒美ちゃんが理事長…会長に直訴(じきそ)したのよ。」

「成る程。まあ、あの流れだったから責任を感じたんでしょうね。緒美ちゃんなら…分からないでもないです。」

 そう言って、恵は微笑むのだ。対して、立花先生は申し訳無さそうに言葉を返す。

「ごめんなさいね。恵ちゃんの気持ちは知ってたけど、あの場では強硬に反対も出来なくて。」

「反対されたからって、緒美ちゃんが考えを変えるとは思えませんけど。理事長にしたって、天野さんの負担が減る方向なら、反対する道理も有りませんし。先生が一人、反対しても、それは無理筋って言うものでしょう?」

「全(まった)く、我乍(われなが)ら無力さに嫌気(いやけ)が差すわ。」

 溜息を吐(つ)く立花先生に、恵が声を掛けるのだ。

「取り敢えず、真(ま)っ新(さら)の状態からではないだけ優(まし)だと思いましょう。 あとはもう、これ以上、実戦に参加しないで済むよう、祈るばかりですよ。」

 そして恵は、格納庫フロアへと降りる可(べ)く、部室奥のドアから出て行ったのだった。
 この遣り取りを知っているのは立花先生と恵の二人だけなのだが、強いて言えば、室内の状況をモニターしていた Ruby を始めとする AI 各機も、それを聞いてはいたのだった。勿論、第三格納庫内部でモニターした会話を、AI 達が許可無く他人に話す事は、規制されている行動なので有り得ない。AI 達が第三格納庫内の会話をモニターしているのは、対人コミュニケーション能力を向上させる為の基礎データの収集が目的なのであって、会話者達のプライバシーは保護される可(べ)きであるからだ。
 そして、仮令(たとえ) AI と言えども、人から信頼を得る為には、『口の堅さ』は重要な要素なのである。

 ともあれ此(こ)の日は、新たに搬入された HDG の調整と確認で、兵器開発部の活動は終わったのだった。

 その翌日、2072年12月8日、木曜日。放課後の第三格納庫には何時(いつ)も通りに兵器開発部のメンバー達が集合しており、この日は新たな HDG の試運転が予定されているのだ。

「それで結局、これの呼称はどうなるんですか?畑中先輩。」

 HDG-A01 の隣に並べられた新しいメンテナンス・リグには、ベースカラーが青紫色の HDG が接続されている。それを指差して、瑠菜が畑中に尋(たず)ねたのだ。

「試作工場じゃ『予備機』とか『リザーブ』って、呼んでたけど。」

「本体に書いてあるのは?『O(オー)』なのか『0(ゼロ)』なのか。」

 次いで維月が言う通り、搬入された機体のディフェンス・フィールド・ジェネレーターには、白文字で『HDG-SYSTEM O』と記入されているのだ。その維月の疑問には、直美が答える。

「ああ、それは『0(ゼロ)』じゃなくって、『O(オー)』の筈(はず)よ。」

 その答えに対して、佳奈が聞き返す。

「『O(オー)』なんですか?『D(ディー)』じゃなくて。」

 茜のA号機、ブリジットのB号機、クラウイディアのC号機、その次ならばD号機だろう、と言うのが佳奈の予想なのだ。今度は、立花先生が佳奈の疑問に答えるのだ。

「『O(オー)』は『原型機』、『Original』の『O(オー)』なのよ。『ゼロ号機』の『0(ゼロ)』とのダブル・ミーニングでもあるけど。」

「あと、『Onizuka(オニヅカ)』の『O(オー)』、でもある。」

 そう付け加えたのは、直美である。すると維月は、直美に尋(たず)ねるのだ。

「鬼塚先輩専用機、って事なんですか?」

「まあ、実質的に然(そ)うなるわね。インナー・スーツはわたし達が一年の時に開発試作したのしか、使えるのが他に無いんだから。それは、その時、鬼塚用に作っちゃったからさ。『HDG-O(オー)』は、その試作スーツに振った型番だったのよ。」

 その直美の説明を聞いて、瑠菜は立花先生に問い掛けるのだ。

「それで部長用に、新規に製作されたんですか?これ。」

「いいえ。開発用に、最初に試作された、五機の内の一機よ。」

「そんなに沢山、作ってたんですか?A号機の前に。」

「それじゃ、まだ四機、有るんだ。」

 瑠菜に続いて、感心気(げ)に佳奈が然(そ)う言うので、苦笑いして立花先生が否定する。

「四機は無いわね、一機は静強度試験の破壊検査で壊しちゃったし、もう一機は疲労強度試験で最終的にフレームが歪(ゆが)んじゃったから、廃棄処分になってる筈(はず)よ。まあ、その二機は元々が強度試験用だから、フレームしか作られてないけどね。」

 ここで言う『静強度試験』とは、設計限界以上の荷重を壊れるまで加えて、構造が耐えられる限界を確認すると言う試験なのだ。
 『疲労強度試験』は設計限界以内の荷重を一定時間、繰り返して構造に対して負荷し、設計の想定通りに耐えられるかを確認する。この場合、試験終了時に見た目で異常は無い様に見えても、構造材内部に素材疲労や歪(ひず)みが残っている場合が有るので、矢張り再使用は出来ないのだ。だから、最終試験で敢えて限界以上の負荷を掛け、構造に可塑性の歪(ゆが)みが発生する限界のデータを取得し、供試材は廃棄するのである。

「残りは三機?」

 そう樹里が確認して来るのに対し、立花先生は頷(うなず)いて説明を続ける。

「その三機は組立や配線の設計確認と修正に利用されて、組み立て完了後にはユニット単位での動作確認、機能確認、ソフト検証とかに二機が使用されてたの。この一機は、その予備扱いだった機体ね。それでA号機、B号機での検証で修正が入ったユニットを、A、B号機の予備パーツと交換して仕立て直したのが、これよ。」

「それで、見た目がA号機と似てるんですか。」

 納得した様に、直美は言うのだった。
 続いて立花先生に、樹里が疑問を投げ掛ける。

「あれ?ソフトの検証は、シミュレータ上で済ませてるって聞いてましたけど。」

「実装前の最終検査を、実機の回路で入出力検証をやってるそうなのよ。こっちでやってるみたいな、動作まではさせない筈(はず)だけどね。」

「成る程、そう言う事ですか。」

 樹里が納得する一方で、瑠菜が所感を述べるのだ。

「わたし達の見えない所で、色々と手間が掛かってるんですね。」

「そりゃそうよ、本社の開発部だけで HDG 関連に、百人単位で人が関わってるんだから。試作工場もでしょ?畑中君。」

「それは、もう。」

 急に話を振られた畑中は、苦笑いである。
 そこで声を上げたのが、飛行機部の金子だった。

「おー、鬼塚。イカしてるじゃん。」

「何よ?『イカしてる』って。」

 金子の隣に居た武東が、肘で金子を突(つ)っ突(つ)き乍(なが)ら苦言を呈するのだ。一方で他の部員達は、階段の方から歩いて来る緒美へと視線を向けるのだった。
 搬入された HDG の起動試験の為、緒美はインナー・スーツに着替えていたのだ。緒美の HDG の相手をする為、茜も HDG-A01 を起動する可(べ)く、インナー・スーツを着用している。その二人の後ろには、着替えを手伝っていた恵と、ブリジットの姿も有ったのである。

「緒美ちゃん、インナー・スーツは久し振りだと思うけど、大丈夫だった?サイズとか。」

「はい。幸か不幸か、一年生の時から身長とか、服のサイズとか、殆(ほとん)ど変わってませんから。もう、成長は止まっちゃったみたいです。」

 朗(ほが)らかな笑顔で緒美が答えるので、立花先生も笑顔で言葉を返すのだ。

「まあ、二十歳(はたち)過ぎてから、急に伸びる人も居るから。」

「いえ、身長は今の儘(まま)で十分(じゅうぶん)なので。もう成長しなくても、いいんですけど。」

 真面目に応える緒美に、その横から恵が言うのである。

「これからは脚とか、おなかとか、そっちの成長が心配よね。」

「そっちのサイズとか、特に変わってないんでしょ? 羨(うらや)ましいわ~。」

 そう言い乍(なが)ら、立花先生は緒美の腹部や腰の周りを一撫(ひとな)でするのだ。緒美の方は触られるのに特段の反応はせず、唯(ただ)、言葉を返すのだ。

「別に運動とか、してないんですけどね。昔から脂肪が付きにくいのは、多分、母の体質に似たんだと思います。」

「緒美ちゃんのお母さん、スラッとした方(かた)だもんね。」

 中学生時代に数回、緒美の母親とは会った事が有る、恵の感想である。緒美は頷(うなず)いて、そして言うのだ。

「うん。 でも、その所為(せい)で、子供の頃は病気勝ちだったらしいんだけどね。」

「緒美ちゃんも?」

 心配そうに立花先生が訊(き)いて来るので、緒美は顔の前で右手を左右に振り、答えた。

「いえいえ。 その辺り、上手い具合に父の遺伝子がブレンドされたみたいで、わたしは全(まった)く病気とかには縁が無かったですね。風邪すら、滅多に引かない位(ぐらい)でしたから。」

「そう。なら、良かったわ。」

 立花先生へ笑顔を返した後、緒美は茜に向かって声を掛ける。

「それじゃ、今日の試験を始めましょうか。天野さん、お願いね。」

「はい、部長。」

 返事をして茜は、A号機の前へと向かう。
 一方で緒美は、瑠菜に尋(たず)ねるのだ。

「此方(こちら)の準備はいい?瑠菜さん。」

「はい。もう立ち上げてあります。 あ、部長、それで新型?の呼称なんですけど、どうしますかって、話してたんです。『O(オー)号機』になるんでしょうか?」

「流石に『O(オー)号機』は、ちょっと言い難いわね。」

「はい。」

 そこで、立花先生が提案するのである。

「なら、『0(ゼロ)号機』で、いいんじゃない? 元々、そう言う意味なんだし。」

「そうですね。」

 あっさりと同意した緒美に、拍子抜けした様に瑠菜が聞き返す。

「いいんですか?それで。」

「いいのよ。別に名前に拘(こだわ)りは無いし。識別さえ出来れば、何でもいいのよ。」

「アバウトだな~。」

 緒美と瑠菜との遣り取りを聞いていた直美が、そう言って笑うのだった。
 緒美も、くすりと笑い、『0(ゼロ)号機』の前へと向かったのである。

 

- to be continued …-

 

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