WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第20話.02)

第20話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)と森村 恵(モリムラ メグミ)

**** 20-02 ****


 緒美と茜は、それぞれの身体を HDG へと接続するのだが、その手順に特段の差異は無い。勿論、茜の方が手慣れているので先に接続は完了するのだが、それから二分と遅れずに緒美も接続を完了し、二人は共に HDG 背部のスラスター・ユニットを起動させるのだ。水素を燃料として稼働するジェット・エンジンが組み込まれている背部スラスター・ユニットは、推進器としての機能よりも電源としての意味合いの方が強い事は以前に説明した通りで、ジャンプや飛行をしない場合でも、常にエンジンは発電機として運転されているのだ。
 HDG 側での電源が確保されると、空中で HDG を保持している接続アームが降ろされ、床面に立った HDG がメンテナンス・リグから解放される。メンテナンス・リグに接続されている間は、電力がリグから HDG へと供給されているが、リグとの接続が断たれると HDG は、スラスター・ユニットか或いは内蔵バッテリーからの電力で稼働するのである。

「部長、0(ゼロ)号機、問題無いですか?」

 緒美の装着しているヘッド・ギアから、茜の声が聞こえる。緒美は視線を右隣の茜へと送り、言葉を返す。

「異常無し。 ボードレールさんが言ってた『立ってるのに浮かんでいる様な』って、こんな感じなのね。」

 その返事に茜が微笑んでいるのを確認して、続いて緒美は樹里に問い掛けるのだ。

「城ノ内さん、データは取れてる?」

「はい、部長。データ・リンクは正常です。今の所、リターン値も正常、問題無しですよ。」

 樹里は緒美の正面に置かれているデバッグ用コンソールに着いているが、その声はヘッド・ギアのレシーバーから聞こえて来るのだ。

「了解、それじゃ早速、動かしてみるけど。異常が有ったら、教えてね。天野さん、HDG01 もサポート、よろしく。」

「HDG01、了解。」

「HDG00、前進します。」

 樹里は宣言して、一歩目を踏み出す。
 茜とブリジットの初回起動時は、静止した状態で各間接を順番に動かして、動作範囲の設定や、反応の確認を行っていたのだが、今回は緒美の身体計測データと HDG-A01 及び B01 の動作データを元に合成された初期設定が、既に入力されているのだ。身体計測データに就いては、二年前のインナー・スーツを試作した際の計測値に加え、前日に再計測が行われたのである。
 A01 の設定値と動作データには茜の身体計測データが、B01 の設定値と動作データにはブリジットの身体計測データが紐付(ひもづ)けされており、それらを元データとして緒美の身体計測データに対する初期設定と仮想の動作データが合成されている。これらの設定値と仮想の動作データが予(あらかじ)め入力されている事で HDG-O は最初から或る程度の動作が可能となっており、更に実際の動作データを積み重ねる事で設定の各種値が緒美に合わせて最適化されていくのである。
 そんな構想を証明するかの様に、緒美の HDG-O は二歩、三歩と問題無く歩みを進め、一旦(いったん)、足を止めた。

「どうですか?部長。」

 そう通信で問い掛けて来たのは、樹里である。

「特に抵抗は無いわね。」

 樹里に答えると、緒美は右腕を肩の高さまで上げ、肘を曲げたり、腕を回したりを数回繰り返す。続いて腰を捻(ひね)ったり反らしたりと、上半身の動作具合を確かめるのだ。そして準備運動でもするかの様に膝(ひざ)の屈伸を五回繰り返すと、背中を伸ばして茜に言うのだ。

「それじゃ、外に出てみましょうか、HDG01。」

「了解です、HDG00。」

 茜は右手を上げ、答えた。そして二人は、南側の格納庫大扉へと向かうのだ。
 大扉の前に到着すると、二人共に両腕のマニピュレータを展開し、茜は向かって左側へ、緒美は右側へと大扉を動かしていく。
 大きな音を立て乍(なが)ら扉が開かれる程に、冬の外気が格納庫内へと吹き込んで来る。HDG を装着している二人には気温の変化を感じる事は無かったが、生身である他の部員達は口々に「寒い、寒い。」と言い合い、それぞれが作業用のコートやジャケットを制服の上に羽織るのだった。
 緒美と茜が格納庫の外へ出ると周囲は既に薄暗く、頭上の冬空には星さえ見え始めていた。
 学校南側の滑走路は空港ではないので、照明が明々と灯されている訳(わけ)ではない。夜間に離着陸の予定が有る場合は、第二格納庫からの操作で滑走路の両幅と中心線を示す灯火や誘導路を照らすライトが点けられるのだが、この日にその予定は無いのか、滑走路の方向は真っ暗に見えたのだ。
 滑走路より手前、それぞれの格納庫前に有る駐機場エリアは、格納庫建屋に取り付けられているライトで照らされている。だから、そこでなら活動が可能だったのである。その駐機場を照らすライトも、滑走路への離着陸の予定が無ければ、午後八時には消灯となるのだが。
 HDG に就いて言えば、暗視装備が有るので暗闇の中でも活動は可能だったが、緒美の HDG-O に関しては試運転であり、加えて緒美自身が初心者である事から、行き成りの夜間運用試験と言う訳(わけ)にもいかず、今日の行動は灯りの有る範囲で、となっているのである。
 緒美は駐機場エリアを南に向かって歩いて行き、格納庫から十メートルほど離れると、立ち止まって身体の向きを格納庫の方へと向ける。緒美と格納庫の中間程の位置に立っている茜に、緒美は尋(たず)ねるのだ。

「HDG01、動作の感覚を確かめるのには、矢っ張り最初はジャンプがいいかしら?」

「そうですね。」

「それじゃ何時(いつ)もの通り、垂直跳びからやってみましょう。」

 そう言って緒美が少し腰を落とすと、茜が注意を促(うなが)すのである。

「HDG00、余り本気でジャンプすると、スラスター・ユニットが機能するかもですから、注意してください。まあ、飛行や滑空をイメージしてなければ大丈夫だとは思いますけど。」

「成る程、天野さんの動作を学習してるから、それも有り得る訳(わけ)ね。注意する。」

「逆に、ジャンプで跳(と)びすぎた場合には、スラスター・ユニットが着地の補助をして呉れる筈(はず)ですけど。」

「あははは、それなら安心だわ。」

 緒美は一笑(ひとわら)いした後、少し膝を沈め、続いて軽く地面を蹴ったのだ。すると緒美の身体を含めた機体は四十センチメートル程、地面から浮き上がり、間も無く音を立てて着地したのである。

「如何(いかが)です?」

 そう茜が訊(き)いて来るので、緒美は一言を返すのだ。

「成る程ね。」

 そして先刻よりも深く膝を曲げ、もう一度、空中へと跳(と)び上がる。今度は一メートル程まで地面から離れた後、再び音を立てて着地したのだ。今度は着地の瞬間に膝を曲げ、腰を落として衝撃を吸収したのである。
 緒美は、その姿勢から一気に全身を伸ばす様にして、再度、垂直にジャンプし、今度は三メートルを超える跳躍を見せたのだ。機体が最高点から降下を始めると、背部のスラスター・ユニットが噴射を強め、今度はふわりと、緒美は着地したのだった。

「成る程、色々と AI が補助して呉れてるのね。」

 それは緒美の、素直な感想である。
 その感想に対して、樹里がくすりと笑って突っ込みを入れるのだ。

「その仕様を考えたの、部長ですよ。」

 緒美も、くすりと笑い、言葉を返す。

「そうだけど、頭で理解してるのと経験するのは、矢っ張り、違うものよね。 それに、わたしが仕様で決めたのは大きな方向性だけで、具体的で細かい制御に就いては本社のソフト開発部隊の仕事だし、動作データの蓄積に関しては天野さんとボードレールさんの功績だわ。」

「それは兎も角、感覚は掴(つか)めそうですか? HDG00。」

 そう茜が尋(たず)ねるので、緒美は応えるのだ。

「貴方(あなた)達と違って、わたしは運動は得意な方じゃないから、もうちょっと慣れるのに時間は掛かると思うけど。 でも、動作補助が上手い具合に効いているみたいだから、取り敢えず大丈夫そうね。続けましょう。」

「分かりました。それじゃ、ランニングの前に前方跳躍を経験して、脚力の違いを体感しておいた方がいいですよね。」

 そう言い乍(なが)ら、茜は緒美まで約二メートル程の距離へと歩み寄って来るのだ。

「先ずは、片脚で、これ位、跳(と)んでみてください。」

 茜は右脚で踏み切って、五十センチメートルほど前方へ跳(と)び、左脚から着地してみせるのだ。跳躍と言うよりは、大きめの水溜まりを跨(また)いで飛び越えた、そんな動作である。
 続いて、緒美は茜を真似て、右脚で踏み切って飛び出すのだが、結果的に茜の位置よりも身体一つ程、遠くに着地したのだった。

「あら。」

「思ったよりも、遠くに行くでしょう? 普通に動く感覚よりも、力を入れないで、軽めに。」

 茜は歩いて緒美の隣まで移動すると、もう一度、先程と同じ程度の片足跳びをしてみせるのだ。

「わたしの隣に着地するイメージで、跳(と)んでみてください。飛距離は力(ちから)加減で制御するより、着地点を意識すれば、AI が出力を制御して呉れますから。」

「やってみるわ。」

 再び、緒美は右脚で踏み切って前方へと跳(と)び、今度は茜の隣へと着地するのだ。これは跳躍の目標着地点を思考制御で読み取った HDG-O の AI が、最適な脚力で踏み切った結果なのである。そして、一度のトライで其(そ)の制御が成功したのは、A01 と B01 による動作データの蓄積が有ったからなのだ。

「こんな感じかしら?」

「いいですね。どんどん行きましょう。」

 茜は、今度は一メートル程前方へと、同じ様に片足踏切で跳(と)んでみせる。そして、それを追って緒美は茜の隣へと跳(と)ぶのだ。続いて、二メートル、三メートルへと、飛距離を伸ばして跳躍を繰り返すと、その都度(つど)、緒美は茜の隣を狙って片脚踏切を繰り返し、狙った位置への跳躍を反復したのである。
 そんな動作を西向きに、次いで東向きへと、合計で十回程度繰り返した後、第三格納庫の前に戻って茜は言うのだ。

「じゃ、次は両脚踏切、一足(いっそく)飛びでやってみましょうか。この場合、両脚着地になりますけど、着地の時に重心が前へ行っちゃうと、慣性で前方へ転倒しますから注意してください。HDG を装着してると、当然、慣性が生身の時よりも大きくなりますから、着地の瞬間に、絶対に重心を前に行かせないように。前へ転倒する位なら尻餅を突く方が、怪我も装備の破損も、まだ優(まし)ですから。」

「了解、気を付けるわ。」

「まあ、多分、AI が転ばないように補助して呉れるとは思いますけど。取り敢えず、こんな感じで。」

 そう言って、茜は両脚で軽く踏み切ると、前方へ五十センチメートル程、跳(と)んで見せたのである。

「オーケー、やってみる。」

 続いて緒美が、茜の動きを真似て跳躍を行うが、特に危な気(げ)無く着地したのだった。

「いいですね。続いて行きます。」

 今度は一メートル程も前方へと跳(と)んだ茜は、空中で両脚を前方へと振り出し、その儘(まま)、蹲(しゃが)み込む様に着地する事で上体が前方へと振られる慣性を相殺するのだった。そして立ち上がると振り向いて、緒美に向かって右手を上げて見せたのだ。

「それじゃ、行きます。」

 そう宣言して、緒美は茜に続くのだ。
 茜と同様にジャンプをした緒美だったが、着地時の腰の落とし具合が足りなかったのか、勢いで上体が前方へ押し出される様に振れたのである。その瞬間に肝を冷やしたのは、当人である緒美よりも、周囲で其(そ)の様子を見ていた部員達の方だった。
 緒美はと言うと、咄嗟(とっさ)に右脚を一歩前に出し、無事に踏み止まったのである。

「ナイス・リカバリー。」

 緒美のレシーバーからは、茜の声が聞こえて来る。

「今のは、ちょっと危なかったわね。」

 そう言って、緒美は腰を伸ばした。そして、今(いま)し方(がた)の挙動が、自身の反射的な動作だったのか、或いは HDG の動作に緒美の身体が追従したものなのか、緒美自身にも判然としない事に、聊(いささ)か驚いていたのである。少なくとも脚を動かす時の抵抗感や、逆に脚が機体に引っ張られる様な感覚、その何方(どちら)をも感じなかった事は確かだったのだ。
 インナー・スーツが装着者(ドライバー)の筋肉の動きを検出し、その情報を元に HDG は FSU を動作させているのだが、単純に其(そ)れだけであれば制御処理の時間の分、HDG 側に動作の遅れが生じる筈(はず)である。実際にブリジットが B01 を最初に起動した時に『動かすのが硬い、重い』とコメントしていたのが、それなのだ。なので HDG の制御 AI は、装着者(ドライバー)の次の動作を予測し、自発的に FSU の動作(ドライブ)を実行し、その上でインナー・スーツからの情報で動作量や速度の過不足を調整しているのである。その動きの中で、必要が有れば HDG が其(そ)の動作を以(もっ)て姿勢や手足の挙動に就いて、装着者(ドライバー)に補正を促(うなが)しもするのだ。例えば、先程の緒美の跳躍でも、踏み切った後の空中での姿勢変化に就いては緒美は意識していなかったものの制御 AI に因る補正が掛かっていたし、茜が PCBL(荷電粒子ビーム・ランチャー)で射撃をする際の腕の動きに対する照準補正にも、同様の仕組みが働いているである。
 その動作予測や補正の源泉(ソース)としては、A01 と B01 で得られた動作データが利用されている訳(わけ)なのだが、であれば何故、先程の緒美の跳躍で着地後にバランスを崩したのか? それは、単純に『個人差』が原因なのだ。
 A01 とB01 で得られた動作データは、それぞれが茜とブリジットの身体が前提条件となっており、それを体格や筋力の違いを差し引いて一般化したとしても、HDG-O で利用するのに於(お)いて緒美の身体に完全適合しないのは当然の事である。だから時間を掛けて HDG を緒美が動かしていく事で各種パラメータを最適化し、緒美に適合した動作データを HDG-O の中に構築する必要が有るのだ。
 今現在のA01 とB01 が、それこそ自在と言える程に動けるのは、茜とブリジットがゼロの状態から地道に動作領域を拡張して行った成果であり、寧(むし)ろ初起動である HDG-O が緒美に違和感の無い程度に動作可能である事の方が驚異的なのである。

「その様子なら大丈夫そうですから、次は駆け足からダッシュまで、やってみましょうか。」

 茜の其(そ)の提案は、少しだけ緒美を不安にさせたが、ここは HDG を信頼する事にして承諾(しょうだく)したのである。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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