WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第20話.03)

第20話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)と森村 恵(モリムラ メグミ)

**** 20-03 ****


「取り敢えず、やってみましょうか。」

 緒美の、同意の言葉を受けて、茜は注意事項を話し始める。

「駆け足は、多分、問題無いと思いますが、スピードが上がって来ると、走るって言うより、一歩ずつが跳躍の様になりますから、その点は覚えておいてください。」

「それは貴方(あなた)達の様子を見てたから、理解はしてる積もりよ。」

「はい。それで問題は高速状態からの停止方法だと思うんですけど、減速にしても、脚を使って止まるのには、どうしても転倒の危険が付いて回るので。そこで考えたんです、安全に停止する方法。ちょっと、やって見ますから、見ててください。」

 そう言うと、茜は西向きに身体を回すのだ。

「行きます。」

 身体を少し沈めると、茜は右脚で地面を蹴って一メートル程前方へと飛び出し、左脚で再び地面を蹴るのである。二歩、三歩と地面を蹴る毎(ごと)に、その歩幅(ストライド)を伸ばしつつ加速していくのだ。五歩目を蹴って機体が宙に浮かぶと、茜の声が緒美のレシーバーから聞こえて来る。

「止まります。」

 すると、茜は全身を反り返らせる様な姿勢でスラスター・ユニットを噴射し、それに因って減速し軟着陸して見せたのである。地面に降り立つと、くるりと向き直り、緒美に向かって右手を上げて見せるのだった。

「見えましたか? 今度は、そっち向きに、行きます。」

 そう宣言すると、茜は先刻と同じ様に、今度は東向きに地面を蹴って加速して来るのだ。そして十メートル程前方で、先程と同じ様にスラスター・ユニットで減速し、茜は緒美の手前に降り立つのである。

「こんな感じで。 まあ、スラスター・ユニットが無いと使えない手ですし、燃料も余計に消費しますけど。でも、地面の状態に関係無く減速が出来ますから、安全です。」

「確かに、足の摩擦でブレーキ掛けるのは、路面が荒れてると躓(つまず)いて転倒する危険性が有るけど。」

 緒美が苦笑いで同意すると、茜はくすりと笑って続けるのだ。

「それに、コンクリートアスファルト、舗装路の上で頻繁(ひんぱん)にスライディングをやると、接地部分のパーツが早く消耗しますし。」

「それで、具体的には、どうすればいいのかしら?」

「基本的には思考制御です。空中で減速するのと、着地点を定めるイメージですね。あとは HDG の AI が、全部やって呉れます。」

「あの、後ろに反り返る様な姿勢も?」

「はい。HDG の動きに抵抗しないで、一体になる感覚が大事です。」

「出来るかしら?わたしに。」

 そう言って緒美は、身体を西側へと向ける。

「取り敢えず、最初は余りスピードを上げないで、三歩目で制動を掛けてみましょうか。あと、減速前には前向きよりも、上向きに跳(と)ぶ感覚で踏み切った方が、余裕が有るかも知れませんね。」

「兎に角、やってみるわ。」

 茜の助言に対して右手を上げて応え、緒美は正面に向き直って一度、大きく息を吸って、吐いた。続いて、少し姿勢を低くすると、緒美は右脚で地面を蹴ったのだ。
 緒美の身体は勢い良く前方へと飛び出し、僅(わず)かな滞空の後、左脚から着地すると今度は其(そ)の足で地面を蹴り飛ばし、更に加速する。そして三歩目の右脚での踏切では、先程、茜の助言に有った様に少し上へ向かって飛び出したのである。その勢いは、茜が実演して見せた時の、凡(およ)そ半分程度だったであろう。
 そして、空中で緒美の HDG-O は、茜の A01 と同様に反り返る様な姿勢でスラスター・ユニットを噴射し、ふわりと着地して見せたのだった。HDG-O が A01 と同じ動作が出来るのは、勿論、動作データが移植されているからである。
 茜はスラスター・ユニットを使用した一度の跳躍で、緒美の立って居る地点まで一気に移動すると、緒美の隣に着地して声を掛けるのだ。

「どうです? 感覚は掴(つか)めました?」

 勿論、離れていても通話は可能なのだが、茜も全てを理詰めで行動している訳(わけ)ではない。この時は、自然と身体が動いたのである。
 緒美は、微笑んで茜に応える。

「HDG は身体能力を拡張する、とは考えていたけど。体験してみると、改めて驚かされるわね。 その上で、天野さんもボードレールさんも、普通に使い熟(こな)しているのには感心するしかないわ。」

「あははは~、それは恐縮です。」

 少し戯(おど)けた様に茜は言葉を返すのだが、一方で緒美は真顔で前を向くのだ。

「もう少し、反復してやってみるわね。」

「了解です。」

 茜が其(そ)の場を離れると、緒美はダッシュからの制動を繰り返し、結果、第三格納庫の前を三往復したのだった。
 その間に茜は、格納庫の前へと移動して、瑠菜とブリジットから二本のステンレス製パイプを受け取るのだ。そのパイプは長さが凡(およ)そ二メートル程で、その一端には五十センチメートル程に渡ってゴム製のテープが巻き付けられていた。
 茜は、そのパイプを左右のマニピュレータにそれぞれ一本ずつ持って、第三格納庫の前へと戻って来た緒美の元へと向かったのだ。

「その様子なら大丈夫そうですね。次のメニューへ行きましょう。」

 そう声を掛けると、茜はゴムの巻かれた側を向けて、右手側に持っていたステンレス製パイプを緒美に差し出した。

「オーケー。」

 緒美は右のマニピュレータで、差し出されたゴム巻き部を掴(つか)んで答えたのである。
 続いて、茜が言う。

「それじゃ、昨日やったみたいに、構えと素振りから。」

 茜は緒美の斜向(はすむ)かいに立ち、剣道の竹刀(しない)の様に、ステンレス製パイプを正面に構えて見せる。緒美も茜に続いて、パイプを身体の正面に構える。

「いーち。」

 茜は声を上げ乍(なが)らパイプを頭上へと振り上げ、掛け声の終わりと同時に一歩踏み込んでパイプを真っ直ぐに振り下ろした。緒美も、茜とタイミングを合わせて素振りを実行するのだ。そしてパイプを振り下ろすと、一歩後退して元の位置へと戻るのだった。

「にーい…さーん…よーん…。」

 緒美も体育の授業で剣道の基礎に就いては経験済みではあったが、以前、ブリジットがやっていた様な素振りから打ち合い迄(まで)を、前日の内に二時間程を掛けて茜から講習を受けたのだった。その上で、HDG-O には A01 の動作データが移植されているので、素振り程度の動作は難無く熟(こな)せるのである。

「…きゅーう、じゅーう、はーい、ここ迄(まで)。」

 茜は素振りの終了を告げると、振り下ろしたパイプの先端を後ろに向けて左マニピュレータに持ち替える。剣道で謂(い)う所の『提刀(さげとう)』の所作なのだが、ステンレス製パイプを茜は、無意識に竹刀(しない)の様に扱っているのだ。一方で緒美はパイプを右マニピュレータで持った儘(まま)、先端を下へ向けて身体の前で横に向けている。
 勿論、茜は意識外の事象に就いて迄(まで)、緒美に対して細(こま)かい要求はしない。

「動作的には問題無さそうなので、早速、少し打ち合ってみましょうか? 勿論、最初はゆっくり目で行きますから。」

「昨日の今日で、上手(じょうず)に出来るかしら?」

 冗談っぽく、そう言う緒美の正面へと移動し、茜はパイプのグリップ部を右マニピュレータで掴(つか)むと、先端を緒美の方へと向け、構える。

「HDG が補助して呉れると思いますが、それを確認するのが目的でもありますし。」

「尤(もっと)もだわ。」

 緒美も、パイプの先端をスッと持ち上げ、茜に向かって構えるのだ。お互いが中段の構えで対峙(たいじ)している格好である。

「それじゃ、此方(こちら)から打ち込みますので、昨日やったみたいに、受け止めるんじゃなくて、払う様な感じで。それから、其方(そちら)のタイミングで、何時(いつ)でも反撃を始めてください。」

「了解。」

「じゃ、行きます。」

 そう緒美に断ってから、茜はパイプを頭上に振り上げ、一歩を踏み込んで振り下ろす。緒美は一歩下がりつつ、茜が振り下ろしたパイプを、自身が手に持つパイプを右から左へと振って払い除けるのだ。軌道を逸(そ)らされたパイプを引き上げ、茜は最初と同じ軌道で真っ直ぐに第二打を振り下ろす。今度は左から右へと、緒美は打ち込みを払うのである。
 そんな具合に、一秒に一打程度の間隔で、茜は同じ様に打ち込みを十回、二十回と続けるのだが、打ち込む度(たび)に茜が一歩を踏み込み、緒美が一歩を後退するので、二人は一歩ずつ第三格納庫の前から西向きに離れて行くのだった。
 そして三十打目の打ち込みで茜は緒美の右側を擦り抜け、緒美の背後へと回り込むのである。緒美は身体を回して、茜に正対しパイプを中段に構え直す。

「取り敢えず、動作に問題は無さそうですね。今度はスピードを上げて行きます。」

「了解。」

 緒美の返事を聞いて、茜は再び一歩を踏み込んで、先程と同じく上段から真っ直ぐの打ち込みを入れるのだ。緒美も先程と同じ様に払うのだが、今度は半分程の間隔で第二打が打ち込まれる。それにも難無く緒美の HDG-O は対応し、続く打ち込みも右へ左へと払い続けるのである。カン、カン、とステンレス製パイプの衝突音がリズミカルに響き、その間隔は少しずつ短くなっているのだった。そして三十打目で、前回と同じ様に茜は緒美の右側を擦り抜けて、再び緒美の背後に回るのである。

「今度は、打ち込みの軌道を変えていきますよ。 遠慮無く、打ち返してくださって構いませんからね。」

「努力はしてみるわ。」

 向き直った緒美の返事を聞いて、茜は最初に真っ直ぐの打ち込みを加えるのだ。それを右側へと払われると、その儘(まま)、腕を引いて切り返し右上から斜めに、茜はパイプを振り下ろす。向き合った緒美に対しては、向かって左上方から振り下ろされるパイプを、咄嗟(とっさ)に左下から右上へと払い除けたのである。すると、茜は緒美の右横から水平にパイプを走らせ、緒美はパイプの先端を地面に向ける様に構えて水平に打ち込まれる攻撃を凌(しの)いだのだ。
 そうやって茜は切れ目無く、軌道を変え乍(なが)ら打ち込みを繰り返し、緒美も其(そ)れを払い続けたのである。そして今回も三十打目で茜が緒美の背後へと抜け、打ち込みは一旦(いったん)終了となる。

「打ち込みを捌(さば)く方は、問題無いみたいですけど、矢っ張り、反撃は難しいですか?」

「具体的なイメージが、ね。単純に、経験不足なんでしょうけど。」

「HDG に関して言えば、受けるのも打ち込むのも、制御は同じですよ。相手の攻撃を払うのは、打ち込まれる軌道に自分の攻撃を当ててる訳(わけ)ですから、寧(むし)ろ制御的にはハードルが高い筈(はず)です。 目標を軌道上の武器から、相手の身体に変えて、自分から打ち込んでいくイメージが出来れば、そこからは HDG が動いて呉れます。あとはタイミングが全て、ですね。」

「その、タイミングは、どう掴(つか)めばいいのかしら?」

「基本的には、相手の攻撃と攻撃の合間とか、相手が引いた瞬間とか、ケース・バイ・ケースなので明確に言語化するのは難しいですけど。」

 そこに、直美からの通信が入るのである。

「あー鬼塚、聞こえる?新島だけど。」

「なにかしら?新島ちゃん。」

「今の話だけどサ、反撃を仕掛けるタイミング、こっちで見て指示してあげるから、やってみて。」

「分かるの?」

「貴方(あなた)よりはね。 どうかな?天野。」

 直美が意見を求めるので、茜は即答する。

「いいと思いますよ。 少なくとも、打ち込んでいる、わたしには出来ないので。」

「あははは、違いない。」

 茜の返答に、直美は明るく笑って同意するのだ。

「解った、試しにやってみましょう。」

 そう言って、緒美はステンレス製パイプを正面に構えるのである。続いて、茜も緒美と同じ様に中段に構える。

「それじゃ、始めます。」

「どうぞ。」

 緒美が答えると、茜は直ぐに一歩を踏み込み、正面からの真っ直ぐな一打目を放ったのである。

 

- to be continued …-

 

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