WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第12話.09)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-09 ****


 仮想 LMF は、百八十度、向きを変えると、再び、仮想トライアングルと正対する。右のブレードを失った仮想トライアングルは、今度は向かって右へと回り込むべく動き続けている。

「外れですか?茜。標的(ターゲット)にダメージを与えましたが?」

 Ruby の問い掛けに、茜は苦笑いで答える。

「胸部を狙ったんだけど。機体のサイズ感とか、距離感がまだ入ってない所為(せい)ね。慣れる迄(まで)、暫(しばら)く掛かりそう。」

「成る程。続けましょう、茜。」

「勿論。」

 茜と Ruby が、そんな会話をしていると、右前方から再度、仮想トライアングルが突進して来る。振り下ろされるブレードを、仮想 LMF の機体を左へと滑らせて躱(かわ)すと、茜はその儘(まま)、機体を右に旋回させつつ左腕を前方へと突き出し、側面から仮想トライアングルの胸部に、突きを入れようとするのだが、その攻撃は空振りに終わるのだった。茜は、もう一度、仮想敵との距離を取る為に LMF を加速させる。
 再び、五十メートル程の距離を取って仮想トライアングルと正対すると、茜は左右の腕を交互に上下左右に振って、自分の腕と、仮想 LMF のロボット・アームとの連動具合と、その距離感を確かめてみる。

「よし、今度こそ。」

 茜は肩の高さに上げた左腕を肘を曲げて前方へ向け、右腕は左下段に構えて、シミュレーションをモニターしている筈(はず)の樹里に尋(たず)ねる。

「樹里さん、このシミュレーター、ビーム・エッジのオーバー・ドライブ・モード、対応してましたっけ?」

「いけるよ~対応してる。」

 樹里の即答を受け、茜は音声コマンドを出す。

Ruby、ビーム・エッジ・ブレード、オーバー・ドライブ。」

 左右のロボット・アームに接続されたシールドの、その先端に展開しているブレードから、荷電粒子ビームで構成される刃(やいば)が、物理刀身の倍程に青白く伸びる。そして、仮想 LMF との間合いを計る様に右へ右へと移動して行く仮想トライアングルの、更に右側へと向けて、茜は仮想 LMF を加速させた。
 一気に間合いを詰めると、迫り来るそれを迎(むか)え撃(う)つべく、仮想トライアングルは左のブレードを振り下ろして来るのだった。仮想 LMF は、そのブレードが描く軌道を回避すると、擦れ違い様(ざま)に右腕を前方へ振り抜く。そして、仮想トライアングルの胸部は両断されたのだった。
 結果は、当然、仮想 LMF の勝利判定である。
 仮想 LMF の行き足を止めた茜は、両腕を降ろし、背筋を伸ばして、大きく息を吐いたのだった。

「オーケー、おめでとう天野さん。このシミュレーターで百五十二戦目にして、LMF の初勝利よ。お疲れ様、第一回戦終了~。」

 樹里の明るい声が、聞こえて来た。続いて、真面目な声色で直美が話し掛けて来る。

「天野、新島だけど。さっきの相手の攻撃を躱(かわ)す動作はさ、どう操縦してるの?」

 茜はヘッド・ギアのフェイス・シールドとゴーグル式スクリーンを上げて、直美の方へ顔を向けて答える。但し、その声は、直美達には LMF の外部スピーカーから聞こえて来る。

「操縦って、手や足で操作は出来ませんので、思考制御ですよ。咄嗟(とっさ)に回避する動作をイメージしたのを、Ruby が拾って、そう言う風(ふう)にコントロールして呉れたんです。」

「イメージって、具体的にはどうすればいいの?」

「そうですね…正直、ほぼ無意識にやってる事なので、説明は難しいんですけど。どっち向きにどう動いて、どこで攻撃を掛けるか、そんな風(ふう)な事に意識が集中しているんだとは思います。」

「う~ん、雑念が多いのかしら?わたしの場合。」

「って言うより、手足で操縦操作が出来ますからね、コックピット・ブロックの場合。そっちに気を取られてるんじゃないですか? 極端な話、Ruby と思考制御が有ったら、何も手を触れなくても LMF は動かせる様に出来てますから。ペダルやコントロール・グリップからの入力は、補正程度の積もりでいいんですよ、思考制御に慣れたら、ですけど。あ、但し、攻撃のキューを出すのに、トリガーを引く必要だけは有りますよね。」

「分かった。今度、やってみるわ。」

 そう言ったあと、直美は茜に向かって手を振り、ヘッド・セットを緒美に返している姿が、茜からは見えた。続いて緒美がヘッド・セットを装着し、茜に問い掛ける。

「機体の感覚は掴(つか)めた?天野さん。」

「どうでしょうか?まだ少し、怪しいですね。」

「この儘(まま)、続けても大丈夫そう?」

「それは、問題無いです。いけます。」

「それじゃ、もう二、三回、さっきと同じ条件でやってみましょうか。」

「はい、お願いします。」

 茜が前を向き、再びフェイス・シールドを思考制御で眼前に降ろすと、第一回戦と同じ条件で、仮想戦の二回目が始まったのである。


 それから五時間程が経過して、時刻は午後六時を回り、その日の部活は終了と言う運びとなった。
 茜も一時間置きに休憩を挟(はさ)み、合計で約四時間、対戦回数にして二十二回のシミュレーションを行ったのである。結果として、茜は一敗もする事無く、勿論それはシミュレーションの設定が単純であった所為(せい)でもあるが、ともあれ貴重な『勝ちデータ』の積み上げとなったのだ。
 茜の HDG は LMF から切り離され、茜は何時(いつ)も通りに、メンテナンス・リグへ HDG を接続して、その装着を解除した。因(ちな)みに、シミュレーションの合間の休憩時は、メンテナンス・リグでの乗り降り用ステップラダーを LMF の前に持って行き、LMF に HDG を接続した状態で HDG の装着を解除していたのである。
 一方で、LMF の方には明日のシミュレーション実行用に、再びコックピット・ブロックが接続された。
 それら、一通りの片付け作業が終わる午後七時の少し前、Ruby が緒美に提案をするのである。

「緒美、提案したい事が有るのですが、宜しいでしょうか?」

「なあに?Ruby。」

 コマンド用のヘッド・セットは片付けてしまったので、緒美の返事は通常の会話モードで、Ruby に処理されている。

「ハイ、皆さんが帰ったあと、自律制御モードでシミュレーションの実行を継続してもいいでしょうか?」

 Ruby の提案内容を聞いて、緒美は樹里の方へ向き、尋(たず)ねる。

「出来るの?」

 樹里は何時(いつ)もの微笑みで、即答した。

「はい。シミュレーターのソフトを持ってるのは、Ruby ですから。実際(リアル)のロボット・アームを振り回す訳(わけ)でもありませんし、立花先生か部長に自律制御の許可を出してさえ頂ければ。」

 続いて、Ruby が補足説明をする。

「今日、茜にアームの動かし方の正解例を、幾つも直接教示(ダイレクト・ティーチング)して貰いましたので、それを参考に自律制御で更に動作の最適化を試(こころ)みたいと考えます。シミュレーション一回の平均時間を七分と仮定すると、夜間の十二時間で百回程度のシミュレーションが実行可能になります。わたしだけなら、休憩は必要ありませんので。」

 立花先生が、樹里に尋(たず)ねる。

「シミュレーションの設定とか、実行の操作に、誰か着いて無くてもいいの?」

「はい、シミュレーターのインターフェースには、Ruby からもアクセス出来る仕様になってましたから。本社の方(ほう)でも、そう言う使い方は想定していたみたいですね。あとで、安藤さんには確認してみますけど。」

「そう。まあ、それなら、問題は無いんじゃない?」

 樹里の説明に納得した様子で、立花先生は緒美に、賛意を告げるのだった。その一方で、苦笑いしつつ直美が言った。、

「でもさ、この間、井上が言ってたみたいに、万単位の動作データを集める必要が有るなら、一晩に百回で実行出来ても百日以上必要になるのよね? やらないよりは優(まし)だけど、先は長そうよね。」

「ああ~、副部長。すみません、語弊の有る言い方でしたね、それ。」

 直美の発言を受け、慌てて、維月が声を上げるのだった。

「シミュレーション一回が、データ一つって訳(わけ)じゃありませんので。」

「え、そうなの?」

 続いて、樹里が解説を加える。

「はい。実行した動作にも因りますけど、大体、シミュレーション一回で五件から十五件位(くらい)の間で、データが取れている筈(はず)ですよ。間を取って一シミュレーションで十件とすれば、現状で約百八十回のシミュレーションを実行済みですから、データ件数で千八百件って事になります。まぁ、超単純計算ですけどね。」

 そう言って、樹里が笑っていると、恵が参加して来る。

「それじゃ、その単純計算でいくと、一晩に百回、シミュレーションが出来れば、データ的には約千件が上積みされるのね。十日続ければ、それだけで一万件に届くじゃない。」

「あはは、まぁ、データの件数が増えればいいって物じゃない、とは思いますけどね。データの内容にも依りますから。」

 その、樹里の返事を聞いて、緒美は声を上げた。

「分かった。Ruby、コマンド用の回線からじゃないけど、わたしの声、認証出来る?」

「ハイ、緒美の発言の識別、認証は可能です。」

「オーケー。それじゃ、現時刻で、自律制御でのシミュレーター実行を許可します。自律制御の許可は明日の朝、八時迄(まで)ね。 それで、自律制御でのシミュレーション、どんな具合になるのか、今からちょっと見せて貰うわ。」

「ハイ、分かりました。自律制御モードにて、シミュレーターを起動します。」

「あ、ちょっと待って、Ruby。」

 突然、樹里が声を上げる。

「コンソール立ち上げ直すから。維月ちゃん、モニターの方、もう一回、電源入れて。」

「あー、はいはい。」

 今日の作業は終了だと言う事で、既に電源が落とされていた観測用の器機に就いて、樹里と維月、そしてクラウディアが、手分けをして再度セットアップを始める。配線は接続された儘(まま)だったので、再セットアップとは言っても作業自体は大した事はなく、五分程の待ち時間の大半は、樹里が使うデバッグ用コンソールの起動時間である。

「はい、オーケー。初めていいよ~Ruby。こっちの方で勝手にログは取ってるけど、気にしないでね。」

「ハイ、樹里。それでは、シミュレーターを起動します。条件は今日迄(まで)の、茜達と同じで実行します。」

 Ruby の確認発言に、緒美が即答する。

「そうね。いいわ、それで。」

 長机上に設置されたモニターには、コックピット・ブロックに表示されている正面状況が表示されており、そこに、仮想トライアングルの姿が一機、映し出された。

「お、始まる。」

 思わず、直美が声を上げる。その場に居た一同は、モニターに注目するのだった。
 仮想戦が開始されて間も無く、仮想トライアングルが突撃を仕掛けて来ると、仮想 LMF は回避する事無く連続してダメージを受け、敗北判定となったのである。その間、開始から三分と経過していなかった。

「あらら…。」

 そう、声を漏らしたのは恵である。直美は苦笑いしつつ、声を上げる。

「そこからか~、何(なん)とも凄いポンコツ感だなぁ。」

 一方で緒美は、冷静に声を掛ける。

Ruby、続けて。」

「ハイ、同じ条件で、シミュレーション第二回戦を開始します。」

 モニターの表示はリセットされ、先程と同じ様に仮想トライアングルが表示された。
 そして突進して来る仮想トライアングルに対し、今度は回避機動を始める仮想 LMF だったが、程無くして、再び仮想トライアングルに捕らえられ、敢え無く撃破されてしまうのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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