WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第20話.08)

第20話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)と森村 恵(モリムラ メグミ)

**** 20-08 ****


 一週間後の 2072年12月15日、木曜日。午後一時を過ぎた頃には、茜達は九州北部の日本海上空、高度五千メートルを西向きに飛行していた。防衛軍の予測通り、エイリアン・ドローンの降下が開始されたのである。
 先週時点での防衛軍の予測では「早ければ水曜日」だったのだが、水曜日は降下予想空域の天候が良好ではなく、『悪天候は避ける』と謂(い)われている通り、エイリアン・ドローン達は木曜日の天候回復を待って降下して来たのだ。

「Γ1(ガンマ・ワン)より、HDG01。戦術情報は見てる?」

 茜を指名して指揮管制から呼び掛けて来たのは、桜井一佐だ。因(ちな)みに呼び掛けて来た『Γ1(ガンマ・ワン)』とは、本作戦に於(お)ける『統合作戦指揮管制』での桜井一佐のコールサインである。茜達、天野重工からの作戦参加者との遣り取りは、防衛軍側では桜井一佐に一任されているのだ。

「此方(こちら)、HDG01。はい、見てます。」

「そろそろ、目標が ADIZ防空識別圏)に侵入して来るけど、打ち合わせ通りにお願いね。貴方達の担当は、識別記号『A』の目標よ。」

 茜が監視している戦術情報画面は、大きく分けて三つの集団が日本領空へと接近しているのを表示していた。画面上で向かって右側、実際の位置としては北側の集団が識別記号『A』で、中央の集団が『B』、画面上で向かって左(実際の位置として南側)の集団が『C』とされていて、個別には其(そ)の識別記号に続いて三桁の連番が振られているのだ。詰まり『A001、A002、A003…』と言った具合である。
 この日に大気圏下へと降下して来たエイリアン・ドローンは、観測によると『トライアングル』が百四十四機。その内、約半数の六十九機はユーラシア大陸東部上空を南下して東南アジア方面へと向かったと見られる。日本方面へと向かって来たのが残りの七十五機で、これらが九州北部(識別記号A、二十四機)、九州南部(識別記号B、二十七機)、そして沖縄本島(識別記号C、二十四機)と、三隊に分かれて其其(それぞれ)に別の進路を取っている様子だったのだ。勿論、エイリアン・ドローン達が、何時(いつ)、どこで向きを変えるかは、誰にも判らない。
 この様にエイリアン・ドローン編隊が三つに分かれる事は、防衛軍側で事前に想定していた訳(わけ)ではない。事前に取り決めてあったのは、どの目標に対処するかは統合作戦司令部で決定する、参加する各部隊は事前に決められた識別記号の目標に対処する、と言う二項である。そして茜達、天野重工部隊は『識別記号A』に対処する事が決まっていたのだ。因(ちな)みに、『識別記号B』に対しては海上防衛軍のレーザー砲装備実験艦と、レールガン装備実験艦が当たる事になっており、『識別記号C』自体は事前の想定には存在しなかったのである。このC集団が現在のコースの儘(まま)、本当に沖縄本島へと向かった場合は、沖縄に駐留している在日米軍に対処が依頼される事になるだろう。これは『日本の防衛軍が其(そ)の対処能力に不足を来(きた)す場合、在日米軍が戦力を補完する』との取り決めに従うものであるが、それ以前に、在日米軍は自らの基地周辺と彼等の所管する空域に関しては、独自に自衛行動を実行するのだ。
 そしてA、Bの両集団に就いては、ADIZ 境界から日本領空へと向かって五十キロメートルを侵入して来たエイリアン・ドローンに対して海上イージス艦と、それに続いて上空で待機している戦闘機部隊が、それぞれミサイル攻撃を実施すると言う段取りとなっていたのだ。

「HDG01 より TGZ コントロール、射撃位置まで前進します。」

「此方(こちら) TGZ コントロール、了解。気を付けてね、HDG01。」

 茜の呼び掛けに対して返信している声の主は、緒美である。『TGZ コントロール』とは、天神ヶ﨑高校の第三格納庫内に設置された天野重工部隊の臨時指揮所の事で、今回は随伴機を飛ばさずにデータ・リンクを通じて第三格納庫から緒美は指揮を執っているし、樹里は各機の稼働状況をモニターするのと同時に、記録の取得を進めている。
 因(ちな)みに、今回の作戦に参加している天神ヶ﨑高校兵器開発部の面々は、平日昼間の授業を社用で欠席している訳(わけ)だが、例によって後日に補習を受けるとの条件で、この日の授業には出席扱いとなっていた。後期中間試験は来週の月曜日からの開始と、もう目前に迫ってはいるのだが、その試験範囲には此(こ)の週の授業は含まれていない。だから授業や試験に関しては『うるさ型』と目(もく)されているクラウディアも、今回の対応には一切(いっさい)の文句を言わなかったのだった。
 茜達、作戦に直接参加する組は、器材と共に午前中には防衛軍の岩国基地へと移動しており、エイリアン・ドローンの降下と接近を確認して、其処(そこ)から作戦空域へと進出している。岩国基地側には以前と同様に天野重工がスペースを借用しており、そこでは HDG 各機への補給や整備の態勢が調えられていて、現地には畑中や飯田部長達が詰めているのだった。当然、岩国基地の天野重工スペースでもデータ・リンクに依って状況はモニターされているのだ。そのモニターのオペレーションは、本社開発部の日比野が担当していたのだが、これは AMF に搭載された AI ユニット、Pearl(パール) が実戦に初参加であるので、その確認をも兼ねての事だ。

 十分程の飛行で、茜の HDG-A01 が接続されている AMF は、ADIZ まで凡(およ)そ百キロメートルの位置にまで前進した。茜は減速する為に AMF を上昇旋回させて、八千メートルまで自機の高度を上げる。旋回と減速を終えると、茜は砲撃の準備を始めるのだ。

「Pearl、レーザー砲準備。」

「ハイ、格納ドア開放、レーザー砲をリフト・アップします。」

 AMF 背部のドアが開くと、レーザー砲の砲身が姿を現す。発射位置へと前進した後に減速したのは、この状態での飛行には速度制限が設定されているからだ。それと同時に、高速飛行を継続する事は、目標との距離を早く失ってしまう事でもある。

「HDG01、マスターアーム、オン。照射時間を五秒に設定。」

「マスターアーム、オン。照射時間を五秒に設定します。」

 文字通り、機械的に指示を復唱する Pearl である。

「HDG01より、Γ1(ガンマ・ワン)。最終確認です、HDG01より攻撃を開始します。」

「此方(こちら)、Γ1(ガンマ・ワン)。HDG01、攻撃を許可します。」

 茜の呼び掛けに、間を置かずに桜井一佐が声を返して来る。

「HDG01 了解、攻撃開始します。Pearl、目標(ターゲット)A001 から順にロックオン。」

「ハイ、戦術情報上の全目標をロックオンします。」

 Pearl の宣言通りに、茜の見ている画面で全ての識別記号Aの目標が、一瞬でロックオン済みのシンボルへと更新されるのだ。

「A001 に照準、発射!」

「発射します。」

 例によって反動も閃光も無く、レーザー砲は発射される。徒(ただ)、茜にはレーザー光線の照射中を知らせるブザーの音だけが聞こえたのだ。
 茜は AMF 前方監視カメラの最大望遠画像を表示させ、レーザー照射の効果を確認する。間も無く、画面中央に小さく捉えられている目標が煙を噴き、そして落下するのが確認されたのだった。

「よし、次!」

「目標(ターゲット)A002 へ照準します。」

 茜は視界の右下へ別に戦術情報画面を新たに開き、エイリアン・ドローン達の動きを確認する。それは案の定、攻撃を受けた直後からバラバラに不規則な回避機動を実行するエイリアン・ドローン達の様子を映していた。

「Pearl、ADIZ の外へ向かう目標(ターゲット)はスキップしていいわ。此方(こちら)へ向かって来る目標(ターゲット)を優先して。」

「ハイ、では目標(ターゲット)A002 及び A003 はスキップ。A004 へ照準します。」

 AMF は、Pearl の操縦により姿勢を微調整して、次の標的へとレーザー砲の軸線を合わせるのだ。その調整に多少の時間が必要なのは、目標であるエイリアン・ドローン達が出鱈目な動きをするからである。勿論、目標までの距離が十分(じゅうぶん)あるので、大きな姿勢の変更は必要無いのだが、各目標が違う向きへ飛行していると『整然と並んでいる目標に対して連続発射』とは行かないのだった。結局、五機目を撃ち落とした所で六分程が経過し、そこで茜には緒美から声が掛かったのだ。

「TGZ コントロール より HDG01、待機ラインまで後退して。目標(ターゲット)は全機、ADIZ の外へ出たわ。」

「HDG01、了解。 Pearl、マスターアーム、オフ。レーザー砲、格納。」

「ハイ、マスターアーム、オフ。レーザー砲を格納します。」

 Pearl の復唱を確認して、茜は緒美に尋(たず)ねるのだ。

「TGZ コントロール、今日の動きは、何時(いつ)もと違いますよね?」

ADIZ を出たり入ったりするのは、珍しい動きじゃないわ。わたし達が対処したのは、真っ直ぐ突っ込んで来るケースばっかりだったけど。この調子が続く様だと、今日は長丁場(ながちょうば)になるのは覚悟しておいた方がいいかもね。」

「了解、兎に角、待機ラインまで戻ります。」

 茜は AMF を旋回させ、東向きに針路を取るのだった。それから間も無く、クラウディアへのブリジットの呼び掛けが、聞こえるのだ。

「HDG02 より HDG03。目標(ターゲット)『P』の捕捉は、まだ?」

 ブリジットの言う『P』とは、『Pentagon(ペンタゴン)』の頭文字である。

「位置特定の出来た反応は、まだ無いわ。待機してて、HDG02。」

「了解、HDG02 待機します。」

 流石に作戦中の通話では口喧嘩(くちげんか)をしない、ブリジットとクラウディアの二人だった。そこに緒美が、クラウディアへ問い掛ける。

「TGZ コントロールより、HDG03。今回は、位置特定は無理そう?」

「そうですね、ミサイルでの同時攻撃と違って今回は個別攻撃ですから、目標(ターゲット)『T』への『P』からの発信量が少ないみたいですね。でも、何度か攻撃を反復していれば、検知の可能性は有ると思います。」

「了解、スキャンを続行して、HDG03。」

「HDG03、了解。」

 そんな遣り取りを聞き乍(なが)ら茜が待機ラインに到着した頃には、エイリアン・ドローン達はバラバラだった編隊を組み直し、二度(ふたたび)、ADIZ へと向かって来ていた。

「HDG01、戻って来て早早(そうそう)で悪いんだけど、第二波、迎撃ラインへお願い。」

「此方(こちら) HDG01、了解。 今日はこのパターンですかね?TGZ コントロール。」

「多分ね。目標(ターゲット)には接近し過ぎないように、気を付けて。」

「了解、HDG01 前進します。」

 茜は AMF が過度に減速しないように大きな旋回で機首を西へ向けると、射撃位置へと機体を加速させたのだ。

 その後、茜は迎撃ラインと待機ラインを二往復し、九機の『トライアングル』撃墜を追加する。エイリアン・ドローンの側は、と言うと、AMF からのレーザー攻撃を受ける度(たび)に最初と同じ様に編隊を解いてバラバラに四散し、ADIZ防空識別圏)から出ては編隊を組み直して向かって来るのだ。そうして最初の攻撃開始から三十分程が経過して、茜の攻撃、三ターン目が終了した時点での撃墜数は合計、十四機。『B』集団への対処を受け持っていた海防の実験艦二隻は、合わせて八機を撃墜していた。
 単純に考えるとエイリアン・ドローン側は、当初二十四機だったA集団は半減し、B集団は三分の一を失った事になるのだが、実際はそうではない。沖縄へと向かうと見られていたC集団二十四機が針路を変え、A、B、両集団へと合流していたのだ。結果、A集団は二十四機と元の数に戻っており、B集団に至っては二十九機と最初より二機が増えていた。

「正(まさ)に『振り出しに戻る』、ね。」

 戦術情報画面で状況を確認した茜がポツリと翻(こぼ)すと、透(す)かさず茜の正面スクリーン右下に『COPY.』のメッセージが表示されるのだ。それを見て茜がくすりと笑うと、Pearl が茜に報告して来るのである。

「ハイ、現在、当機は待機ライン上を飛行中です。」

「あはは、Pearl、『振り出し』って、わたし達の位置じゃなくて。目標(ターゲット)の数、状況の事よ。」

「『慣用句』としての『振り出しに戻る』ですね。しかし、目標(ターゲット)の総数は確実に減っています、茜。『振り出し』ではありません。」

「それは否定しないわ。 引き続き、地道に削っていきましょう、Pearl。」

「ハイ、茜。」

 Pearl の反応が素直なのは Ruby と大差が無いのだが、その遣り取りには機械的な『硬さ』を茜は感じていた。矢張り、Ruby は特別なんだろう、そう茜は思ったのだ。
 そこへ、クラウディアの声が聞こえて来る。

「HDG03 より、TGZ コントロール。目標(ターゲット)『P』一機を位置特定。座標を送ります。」

「TGZ コントロール、了解。HDG02、狙撃位置へ前進。HDG01 は HDG02 の直掩(ちょくえん)を。」

 直ぐに緒美から指示が出されると、ブリジットの返事も聞こえる。

「HDG02、了解。前進します。」

 茜はブリジットの HDG02 の位置を確認し、声を返した。

「HDG01、了解。HDG02 の左、百メートルに付きます。」

「進路を変更します、茜。」

 透(す)かさず、Pearl が AMF の飛行経路を計算、修正して、進路を HDG02 へと向けるのだ。

「ありがとう、Pearl。」

「どういたしまして。」

 間も無く、AMF は HDG-B01 の左翼側に追い付き、速度を合わせた。
 お互いが自由に動けるようにと、両機の間隔を広めに取ったので、茜とブリジットは肉眼では互いの姿は小さくにしか見えない。勿論、双方の HDG には画像センサーが搭載されているので、モニターでは望遠画像で互いの姿が確認出来るのだ。

「HDG02 より HDG01。又、着弾の確認をお願い。」

「HDG01、了解。任せて。」

 茜はブリジットの依頼を、二つ返事で承諾したのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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