WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第17話.04)

第17話・クラウディア・カルテッリエリとブリジット・ボードレール

**** 17-04 ****


「いいんじゃないですか? 明日の試験は、ほぼ、失敗する様な要素は無いんでしょう?畑中先輩。 これは、試験終了の前祝いって事で。」

「まあ、そうだけどさ。 或る程度は緊張感も必要だよ。事故ってのは、油断してる時に起きるものだからね。」

 畑中の、敢えての苦言に、直美の傍(かたわ)らに居た金子が、冗談めかして立花先生に向かって言う。

「事故と言えば。今回は、実戦になったり、しないですよね?先生。」

「そう毎回、実戦に付き合わされて堪(たま)るもんですか。」

 立花先生は、これ以上は無い位の笑顔で金子に答えたのだ。その反応に苦笑いしつつ、緒美が続いて発言する。

「前回は、電波妨害(ジャミング)に対するエイリアン・ドローンの反応を見る必要が有ったから、実戦でないと検証が出来なかったのだけれど。今回のは、実機で検証する必要は無いから。先(ま)ずは、ダミーで確認する可(べ)きなのよ。」

 緒美の発言を聞いて、畑中は顔を引き攣(つ)らせる様に言うのだ。

「さらっと『ダミー』なんて言うけどさ、海防の艦艇まで引っ張り出して、可成り、大掛かりな試験なんだよ。」

 そこで、右手を肩程の高さに上げて、九堂が緒美に尋ねるのだった。

「あの、鬼塚先輩。 結局、あの『プローブ』って、どう言う物なんですか?」

 その問い掛けに、緒美が答えるよりも先に、茜が声を上げるのだ。

「要(カナメ)ちゃん、仕様書、読んだでしょ?」

「あんな分厚いの、一度や二度読んだだけで、全部頭に入る訳(わけ)、無いじゃない。皆(みんな)が皆(みんな)、茜みたいじゃないんだから。」

 そう言われて、九堂の言う事も尤(もっと)もだと、思い直す茜である。一方で、緒美は微笑んで、部員達に問い掛けるのだ。

「それじゃ、『プローブ』と明日試験について、正確に理解出来ていないって思う人は、手を挙げて?」

 緒美の問い掛けに間を置かず、勢い良く手を挙げたのが直美と金子の二人である。それに続いて、発端である九堂が、そして武東が手を挙げるのだ。
 勢い良く手を挙げた直美に対して、恵は微笑みつつ苦言を呈する。

「副部長がそれじゃ、マズいでしょ~。」

「それじゃ、森村は完璧に説明出来る自信、有るの?」

 そう問い返されて、恵は思い直し、怖ず怖ずと右手を上げるのだ。

「…そう言われると、自信、有りません。」

「正直で宜しい。」

 直美は、ニヤリと笑うのだった。
 その遣り取りを見て、今度は瑠菜が手を挙げる。

「そう言われると、わたしも、ですね。」

「わたしも~。」

 そして、佳奈も続いたのだ。
 その様子を見回して、畑中が声を上げるのだ。

「お、一年生達は優秀だね~。」

 その発言には、ブリジットが応えるのである。

「まあ、わたし達は実際に、試験のオペレーションを実行する立場ですから。打ち合わせで、何度も説明を聞いてますし。」

 続いて武東が、手を挙げていない、茜達の様な HDG のドライバーではない一年生である村上に言及する。

「流石、村上はミリタリー(そっち)系に強いよね。」

「あははは…。」

 村上は、同じ飛行機部の先輩である武東に言われて、唯(ただ)、照れ笑いするのみだった。
 その一方で、立花先生が確認するだ。

「ソフト組も、大丈夫なのね?」

 すると樹里と維月、そしてクラウディアが順番に顔を見合わせ、最後に樹里が代表して応えるのだ。

「わたし達は、Sapphire の検証で試験のオペレーションに参加しますから…ねえ。」

 言葉の最後で、樹里は維月に同意を求めるのだった。そして維月は、樹里に対して頷(うなず)いて見せるのだ。

「はーい、解りました。それじゃ、成(な)る可(べ)く分かり易く、説明する事にしましょうか。」

 そう言うと緒美は、村上を指定して問い掛ける。

「それじゃ、村上さん。御浚(おさら)いだけど、前回の運用試験で検証したのは?」

「あ、はい。…えっと、C号機に依る電波妨害の有効性確認、です。」

 緊張気味に発せられた答えに、緒美は微笑んで頷(うなず)き、言葉を続ける。

「そうね。一先(ひとま)ずは電波妨害(ジャミング)に効果が有る事が、確認されました。そこで『プローブ』は、次の対抗策となります。」

「それよ!」

 そこで突然に大きな声を出したのは、金子である。そして金子は、言葉を続ける。

「電波妨害が有効だったのなら、次の対抗策を準備するの、急ぐ必要は無いんじゃない?」

「そうは、いかないわ。残念だけど、電波妨害(ジャミング)には遠からず対抗策を講じられるだろうから。エイリアン達だって、馬鹿じゃないでしょうし。 それじゃ、金子ちゃん。どうして電波妨害(ジャミング)が有効だったのか、その理由が解る?」

「え?…そりゃ、通信が出来ないから、じゃないの?」

 困惑気味の金子に、隣に立つ武東が言う。

「何(なん)の為の通信か、って事じゃない?博美。」

「あー…無人機(ドローン)だから、って事か。そう?鬼塚。」

 緒美は一度、頷(うなず)いてから話し出す。

「そう。エイリアン・ドローン達は単体でも、可成りのレベルで自律行動は出来るみたいだけど、集団での連携や、高速で飛来するミサイルを回避したり、そんな事が出来るのは、外部から制御されているから、そう考えられるわ。 実際に、その通信を妨害したら、ミサイルの命中率が…エイリアン・ドローン側から言えば、ミサイルの回避率が下がった訳(わけ)だし。これで、エイリアン・ドローンがミサイルを回避出来ていた理由が、外部からの制御に有ったと言う予測は、当たっていたと思うの。ここ迄(まで)は、いいかしら?皆(みんな)。」

 そこで、瑠菜が緒美に尋(たず)ねる。

「あの、部長。電波妨害(ジャミング)への対抗策って、例えば、どんな方法が考えられますか?」

「そうね。単純には通信時間を短く、回数も減らせば、此方(こちら)はエイリアン・ドローン側が使ってる周波数の割り出しに時間が掛かる様になるわよね。その上で、頻繁に周波数を変更されたら、有効に妨害を掛けられなくなるでしょうね。」

 緒美に続いて、樹里が発言する。

「一応、次にエイリアン・ドローン側がどの周波数を使って来るか、パターンを割り出して予測する処理も Sapphire でやってますけど…。」

「それでも、向こうはこっちの予測の裏を掻(か)いて来るでしょう? そんな感じで、電子戦(ECM)って最終的には、『鼬(いたち)ごっこ』にしかならないのよ。」

 その緒美の結論に対して、金子が声を上げる。

「待って、そもそもエイリアン・ドローンは、どこと通信してるの? 月の裏側の、母船?」

 その質問には、茜が疑問を呈するのだ。

「月と地球の距離だと、電波が届くのに一秒程掛かりますから、ミサイル回避みたいな制御を月軌道の向こう側から行うのは、現実的じゃないですよね。そもそもエイリアン母船は月の裏側ですから、直接、地球の様子は見えてない筈(はず)ですし。」

「そう、天野さんの言う通り。だから、エイリアン・ドローンの制御を行っている物は、もっと近くに居る筈(はず)なのよ。その制御機(コントローラー)は、『ペンタゴン』じゃないかって言うのが一部での予想で、わたしもそうだと睨(にら)んでる。」

「『ペンタゴン』…五角形?」

 緒美の説明を聞いて、九堂がポツリと言うのだった。緒美は、くすりと笑い、説明を続ける。

「最近は現れなくなったから、一般的には知られてないけど。一番、数が多いのは、飛行形態が三角形だから『トライアングル』。数は、その十分の一程で、飛行形態が五角形のエイリアン・ドローンが存在するのよ、それが『ペンタゴン』。 どう言う訳(わけ)か、最初の一年目以降、大気圏内では目撃されてはいないんだけど、大気圏突入前に『ヘプタゴン』から放出されている所は、最近でも観測がされてるらしいわ。」

「『ヘプタゴン』?」

 聞き慣れない名称を九堂が聞き返すと、九堂の隣に居た村上が答える。

「七角形、よね。」

 そんな九堂と村上に、茜が解説するのだ。

「月軌道から地球まで、を『ヘプタゴン』が運んで来るらしいのよ。『ヘプタゴン』の中に十二機の『トライアングル』と、一機の『ペンタゴン』が格納されてるらしいわ。」

「成る程、『ヘプタゴン』は輸送機、なのか。」

 一人、納得する九堂の一方で、茜の隣に陣取るブリジットは問い掛ける。

「そもそも茜は、そんな情報、どこで仕入れてるのよ?」

「別に、ネットには普通に出てる情報よ。確かに、一般の報道には、余り乗ってないみたいだけど。」

 平然と茜が答えると、ブリジットは村上に話を振るのだ。

「敦実(アツミ)は、知ってた?」

 村上は頭を横に振って、応える。

「わたしは、エイリアン(そっち)方面の情報は余り見てないから。」

「あははは、敦実は防衛軍の飛行機には詳しいのにね~。」

 九堂は笑って、村上の肩をポンと叩くのだった。
 そんな調子で次第に横道に逸(そ)れつつあった話題の軌道修正をしたのは、金子である。

「それで、その『ペンタゴン』が、最近は目撃されていないって言うのは、どうして?鬼塚。」

「そんなの、エイリアンの考える事なんて知らないけど。でも、地球まで運搬されて来ている筈(はず)なのに姿を現さない、って言うのには、何かしら、意味は有るのでしょうね。 それと関係が有るのか無いのか、エイリアン・ドローン編隊の後方には、謎の電波発信源が度度(たびたび)、観測されているの。」

「謎の電波?」

 問い返したのは、直美である。それには、樹里が応えるのだ。

「前回の運用試験時にも観測されてます。記録を解析した結果、電波のパターンから推測して、エイリアン・ドローンへの制御命令ではないかと。『トライアングル』側も、その電波に反応して返信をしてる様子ですし。」

 その、樹里の説明を聞いて、金子が発言する。

「じゃ、それが『ペンタゴン』って事? でも、そこまで解ってるなら、『謎の』って事もないでしょう?」

 緒美は、少しだけ間を置いて、金子の疑問に答える。

「その発信源、レーダーでも、光学的にも、見えないのよ。電波の発信方向を、幾ら観測しても。」

「ステルスって事?」

 直美が問い掛けて来るので、緒美が返すのだ。

「そうね。それか、物凄く対象が小さいのかも。兎に角、未(いま)だに観測に成功してないから、正体が判らないのよ。」

「それで、『謎の』、なのね。 そうか、そいつが制御機(コントローラー)なら、それを攻撃したい訳(わけ)か。」

 半(なか)ば納得した様な金子の発言を受けて、直美が緒美に問い掛ける。

「でも、電波を出してるのなら、そこを目掛けて攻撃できるんじゃないの?」

「それが出来ないのよ、電波を出してるって言っても、始終出しっ放(ぱな)しって訳(わけ)でもないしね。だから、方向は判っても、距離や高度が解らないの。レーダーに掛からないから、ミサイルの誘導が出来ないし、目視も出来ないから画像誘導も出来ない。何(なん)にしても、先(ま)ずは、相手の位置が解らない事にはね。」

「電波を受信しただけじゃ、発信源の位置は解らない…か。」

「相手との距離が近ければ、受信側が移動してれば相対位置が変わるから、或る程度は位置が推測出来るわ。或いは、発信源が高速で移動してるとか、受信側が相手の周囲をぐるっと回れたら、それでも相手の位置が特定出来る筈(はず)だけど。」

 緒美の説明に続いて、茜が言うのだ。

「『それ』が制御機(コントローラー)なら、おいそれと接近させては呉れないでしょうね。」

「そう言う事。そこで『プローブ』の役割が重要になるのよ。『プローブ』はC号機、Sapphire から離れた位置で、発信源からの電波を受信して、その電波と受信した位置と時刻を Sapphire へ送って来るの。Sapphire 自身が受信したのと、『プローブ』から送られて来たデータとを突き合わせたら、発信源とそれぞれの受信位置での時差が解るから、それで距離の差が解るでしょ? それと受信した方向とを組み合わせれば、発信源の三次元的な位置が計算出来る、そう言う仕掛けなのよ。」

 少し驚いた様に、金子が緒美に問い掛ける。

「『プローブ』が、攻撃するんじゃないの?」

 その問いには、緒美が答えるより先に、瑠菜が声を上げるのだ。

「いえ、金子先輩。『プローブ』に弾頭や炸薬は、搭載されてませんから。」

「そうなの?」

 瑠菜に聞き返す金子に、今度は緒美が声を掛ける。

「そうよ。『プローブ』は作戦空域に一時間ほど滞空して、エイリアン・ドローンの通信電波を受信し続けるの。そのあとは設定された回収ポイントへ自動で帰って行くのよ。」

 続いて、ブリジットが発言するのだ。

「攻撃は、わたしの担当です。飛行ユニットに装備した、レールガンで狙撃する予定です。」

「あの、AMF のレーザー砲では、ダメなんですか?鬼塚先輩。」

 その村上の疑問には、茜が回答する。

「原理は解らないけど『ペンタゴン』のステルス性能が、可視光領域の電磁波までカバーしているとしたら、レーザー攻撃は効果が期待出来ないでしょ。」

「そう…か、見えないって事は周囲の光が屈折してるか何かで、通過してるって事だよね。対レーダー用のステルスなら電波を吸収してるって事も有り得るけど、その原理だと可視光なら黒く見える筈(はず)だし。」

 村上に続いて、金子が納得した様に言うのだ。

「成る程ね。レールガンなら目標の座標が判って、そこに着弾する様に弾道が計算出来れば、物理的に破壊出来るって事か。誘導する必要が無ければレーダーで捕捉出来なくても関係無いし、高価なミサイルを使わないで済むってのは、財布にも優しいよね。」

 そう言って、金子は声を上げて笑ったのである。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第17話.03)

第17話・クラウディア・カルテッリエリとブリジット・ボードレール

**** 17-03 ****


 2072年11月11日は金曜日で、この日からは昼休みの飛行確認の予定は無くなったのだが、放課後の部活は通常通りである。
 翌日の土曜日に『プローブ』の発射試験が予定されており、その試験に向けての整備点検と準備が、この日の活動予定なのだ。とは言え、整備点検の大部分は昼間の内に、畑中達、本社試作工場からの出張組が実施しておいて呉れるので、放課後の部活では HDG 各機の状態に就いて報告を受け、翌日の試験に備えて打ち合わせを行うのである。
 この日の昼過ぎには、翌日の実射試験対応の為に本社開発部から日比野が天神ヶ﨑高校へ移動して来ており、試作工場からの出張組と合流したのだった。

「そう言えば、最近は安藤さんよりも、日比野先輩の方が天神ヶ﨑高校(こっち)に来る事が多くなっちゃいましたね。」

 打ち合わせが終了して樹里は、そう日比野に声を掛けたのである。日比野は自分のモバイル PC の終了作業をし乍(なが)ら応じるのだ。

「ああ~安藤さんは、Ruby 関連でこっちに来る用事も、ほぼ無くなっちゃったみたいよね。今は、本社でやる業務の方が多いみたいなのよ。それに、Ruby とはオンラインで遣り取り出来るしね。」

「そうですね。」

 微笑んで樹里が声を返した所で、打ち合わせの参加者に、緒美が声を掛けるのである。

「すみませんが、皆さん、下のフロアへ一度、お願いします。」

「わたしも?」

 意外そうに、そう聞き返したのは、立花先生である。

「先生も、お願いします。」

 微笑んで緒美が言うのだが、立花先生は苦笑いで応えるのだ。

「何(なん)だか、嫌な予感しかしないんだけど…。」

「大丈夫ですから、いきましょー先生。」

 そう言って、茜は立花先生の背中を押すのだった。
 第三格納庫二階の部室で打ち合わせに参加していたメンバーは、兵器開発部からは部長である緒美、テスト・ドライバーの三名、乃(すなわ)ち茜、ブリジット、そしてクラウディア、それに加えてソフト担当の樹里、最後に立花先生、以上の五名である。本社サイドからはメカ担当の畑中と、電装(エレキ)担当の倉森、ソフト担当の日比野が参加しており、明日の試験で随伴機となる社有機の機長を務める予定の沢渡も参加していたのだ。本社の飯田部長は、ネットワーク経由での遠隔(リモート)参加である。
 そんな一団が、二階から格納庫フロアへと降りて来ると、南北方向へ並べられている HDG のメンテナンス・リグの前側スペースに、長手側を接続した長机三本の上に軽食や飲み物などの準備がされているである。
 そして、恵が声を上げるのだ。

「はーい、今日は城ノ内さんの、お誕生日でーす。」

 格納庫フロアで準備をしていた一同が、拍手で樹里を迎えるのだった。
 続いて、直美が声を上げる。

「それから月曜日が、我らが立花先生の、お誕生日でした~。」

 再(ふたた)び拍手と、その合間に「おめでとう。」の声が上がるのだ。

「わたしのは祝わなくってもイイって、言ったのに。」

 立花先生は隣に立っていた緒美に、そう抗議するのだった。その顔は困った様な、嬉しい様な、複雑な表情である。
 緒美は笑顔で、立花先生に言葉を返す。

「まあ、皆(みんな)が、大好きな立花先生の事、お祝いしたいんだから、それでいいじゃないですか。」

 横目で、少し睨(にら)む様に緒美を見たあと、溜息と共に視線を上へと転じ、気を取り直す様に立花先生は声を上げたのだ。

「はい、はーい。取り敢えず皆(みんな)、ありがとうねー。」

 立花先生の声を聞いて、一同は再(ふたた)び拍手を送るのだった。
 そして、今度は畑中が、申し訳無さそうに声を上げる。

「あ~、オレ達も混ざっちゃっていいのかな?」

「何、言ってるんですか、畑中先輩。」

 間を置かずに声を返したのは、直美である。それに、恵が続くのだ。

「今回は参加人数が多いから、会場をこっちにしたんですから。」

 兵器開発部の部員が九名に、立花先生、飛行機部からの応援要員である金子、武東、村上に、維月と九堂を加えると十五名である。それに出張組である畑中、倉森、新田、大塚に日比野を加えて、更に打ち合わせからの流れで沢渡を追加すると、総勢二十一名となる。流石に、部室では手狭になるのが明白だったのだ。

「まあ、皆(みんな)でケーキを食べるだけの会ですけど。一時間程、付き合ってくださいよ、畑中先輩。」

 そう直美に言われ、畑中は出張組の面々を一度見回してから応える。

「そう言う事なら、遠慮無く…あ、でも会費位(ぐらい)は払うからさ。」

「いいんですよー何時(いつ)もお世話になってる、そのお礼も兼ねてるんですから~。」

 直美に続いて、恵が補足する。

「費用に関しては御心配無く。HDG の関係で、わたし達も手当を頂いてますから。それに~十一月は、倉森先輩も、お誕生日ですよね?」

 急に話を振られて、倉森は少し慌てて声を返す。

「え?わたし…は~来週よ。」

「序(つい)で、で申し訳無いんですけど、一緒にお祝いさせてください、倉森先輩。」

 そう言いつつ、蝋燭(ろうそく)の立てられたカットケーキが乗せられた樹脂製の皿を、同じ学科の後輩である金子が、倉森へと差し出すのだ。
 同じ様に蝋燭(ろうそく)が立てられたカットケーキが、樹里と立花先生にも手渡される。
 それを確認して、恵が声を上げるのだ。

「それじゃ、お馴染みのバースデーソング、行きましょうか~。」

 定番のバースデーソングを皆が歌う中、ケーキの蝋燭(ろうそく)に、金子が順番に火を灯していく。そして樹里と立花先生と倉森の三人は、歌の終わりに其(そ)の小さな火を、一息で吹き消すのだ。その瞬間に、一同はもう一度、大きな拍手を送るのだった。

「じゃあ皆(みんな)で、ケーキ、頂きましょうか。」

 そう恵は言って、武東達と手分けをし、手近な人から順に、カットケーキが乗った皿を配っていく。
 そんな中で、ケーキを受け取った新田が態(わざ)と少し大きな声で、畑中に言うのだ。

「婚約者(みなみ)さんに、誕生日のプレゼントとか、準備してないんですか?畑中さん。」

「そんなの、出張先に持って来てる訳(わけ)、ないでしょ。」

「へえ~って事は、準備はされてるんですねー。どんなの、かな~。」

「ノーコメント。ここでバラしたら、詰まらないでしょー。」

 新田が畑中に絡んでいるのは、単に年下である会社の先輩をからかっているだけである。畑中も、それが悪意からではない事は理解しているので、無難なコメントであしらっているのだ。その様子は、端(はた)から眺(なが)めている限り、ちょっとしたコントである。実際、その遣り取りを聞いて、天神ヶ﨑高校の後輩達はクスクスと笑っているのだった。

「ですって~みなみさん。」

 新田は適当な所で、話を倉森へ振り直すのだ。その倉森も又、畑中と同じ様に二歳年上の後輩である新田をあしらうのだった。

「はいはい、もう、その辺りにしといてね~朋美さん。」

「チッ、もう少し新鮮な反応が見られるかと思ったのに~。」

「んふふ~、残念でした~。」

 そんな試作部側の遣り取りの一方で、日比野は壁際に置いてあった自分の鞄から、二つの包みを手に戻って来る。

「こう言う流れになるんだったら、ちょうど良かったわ。樹里ちゃん宛てに、預かって来た物が有るのよ~。」

 そう言って日比野は、ケーキを食べている樹里に、ラッピングされた包みを差し出す。

「何です?日比野先輩。」

「井上主任と、安藤さんから。お誕生日のプレゼント、預かって来てたのよ。」

「え?…え~と、わたしにですか?どうして、また…。」

 樹里は、唐突(とうとつ)に差し出された贈り物を、受け取るのを躊躇(ちゅうちょ)するのだった。

「どうしてって、井上主任は、維月ちゃんと仲良くして呉れてるお礼、だって。あと、Ruby や Sapphire がお世話になってる事も含めてね。それは、安藤さんも同じなのよ。」

「先生、いいんでしょうか?こう言うの。」

 樹里は何とは無しに、立花先生へ許可を求めるのである。立花先生は、特に気に掛ける事も無く答えるのだ。

「いいんじゃない?特別に高価な物って事じゃなければ。ねぇ、緒美ちゃん。」

 急に話を振られた緒美も、微笑んで言うのだ。

「井上主任や安藤さんからすれば、城ノ内さんは兵器開発(うちの)部の中でも特別な存在なんだから、有り難く頂いておけばいいと思うけど。」

 二人から、そう言われて樹里は、手にしていたケーキの皿を机へと置き、日比野からプレゼントの包みを、丁重(ていちょう)に受け取るのだった。

「それじゃ、折角、用意して頂いた物なので。ありがとうございます…あとで、お二人には、お礼のメール、送っておきますね。」

「そうね、そうして呉れると主任達も、嬉しいと思う。」

 そう日比野が笑顔で答える一方で、樹里の背後から覗(のぞ)き込む様にして維月が問い掛けるのだ。

「麻里姉(ねえ)からのプレゼントって、中身は何?何?」

「ちょっと、維月ちゃん…。」

 樹里は身を捩(よじ)る様にして、手にした包みを維月が伸ばす手から遠ざけ乍(なが)ら、日比野に尋ねるのだ。

「…これ、開けてもいいんですかね?」

「いいんじゃない? 変な物は入ってないでしょう…多分。」

 そう答えて日比野は、くすりと笑う。「それじゃあ。」と、樹里は包みの封を開けるのだ。
 そして中から出て来たのは、綺麗なプリント柄(がら)のハンカチーフのセットだった。

「ああ、それ。わたしが貰ったのと、同じヤツじゃない。」

 維月は、少し落胆した様に声を上げた。それとは間を置かず、樹里が嬉しそうに言葉を返す。

「じゃ、お揃(そろ)いだね。」

 瞬間的に維月は、姉の麻里がギフトの選択に就いて、手を抜いたのだと思ったのだ。だが、樹里の見解を聞いて、麻里が敢えて同じ物を贈った可能性も有るのかと、そう思い直したのだった。そして頬を緩(ゆる)めて、維月は樹里に尋(たず)ねる。

「安藤さんからのは、何?」

「う~ん、感触は本みたいだけど…。」

 樹里が包みの中身を取り出すと、案の定、それは一冊の書籍で、表紙の側を見て、そのタイトルを読み上げる。

「あはは…『難問・プログラミング問題集』だって。 安藤さんらしいチョイスね~。」

「何よそれ。色気、無いなあ…。」

 クスクスと笑う樹里の一方で、維月は呆(あき)れ顔である。そして包みの中に残っている、メッセージカードを樹里は見付け、嬉しそうに文末を読み上げるのだ。

「あ…カードが。え~と『…暇潰しに使ってちょうだい。』だって。」

「え~…。」

 樹里と維月、二人の反応の落差を目の当たりにして、日比野は声を上げて笑うのだった。そして、井上主任から個人的に依頼されていた、もう一つの任務(ミッション)を、思い出したのだ。

「…あ、そうそう。井上主任から、頼まれてたんだ。記念に樹里ちゃんと維月ちゃんの、画像撮って来てって。クラウディアちゃんも一緒にね~。特に、維月ちゃんは最近の姿を、送って来て呉れないから~ってさ。」

「いや、送ってって、頼まれた事、無いですし…。」

 そうは言ってみたものの、維月は、昨年末の手術の際に、思い詰めた末の願掛(がんか)けと、その時の勢いで、バッサリと切ってしまった自分の髪が、或る程度、伸び揃(そろ)う迄(まで)は、写真や画像を残したくはなかったのが正直な所だったのだ。四月の時点では男子の様だった短髪も、半年が経った今の時点では、直美よりは長く、瑠菜よりは短い程度に迄(まで)、頭髪は伸びているのである。
 幾ら伸ばそうとしているとは言え、毎月、バランスを取る為のトリミングが或る程度は必要なので、完全放置と言う訳(わけ)にもいかない。維月はバランスを整え乍(なが)ら、以前の状態を目指して少しずつ髪を伸ばしている最中なのである。
 実の所、脳腫瘍の手術前に、その当時の頭髪をバッサリと切ってしまわなければならない幾分かの事情が、維月には有ったのだった。
 維月に脳腫瘍が発見された当初、その患部の位置が手術を行うには余りにも難しい場所だった為、投薬や放射線治療を組み合わせて、時間を掛けて対処していくと言う治療方針だったのである。そして、その副作用で、維月の頭髪は一部が抜け落ちてしまっていたのだ。
 その事を両親から聞かされた井上主任が、彼女の妹の病状に就いて会社に相談した事から、維月の様な難易度の高いケースでも手術を引き受けて呉れる医師へと繋(つな)がったのである。これは維月が井上主任、詰まり社員の家族である事に加え、維月自身が天神ヶ﨑高校の生徒であり、乃(すなわ)ち天野重工の準社員である事から、福利厚生の一環として会社が動いた結果なのだった。天野重工程の会社であれば、色々な方面からの情報が得られるし、所謂(いわゆる)『名医』に繋(つな)がり易いだろう事も亦(また)、一般個人の比では無い。
 昨年の、あの時点で井上主任が会社に相談していなければ、場合に依っては維月は命を落としていた可能性すら有ったのだ。勿論、その事は維月は両親から聞かされていたし、理解も感謝もしているのである。

「クラウディア、ほら~、いらっしゃーい。」

 少し離れた場所でケーキを食べているクラウディアに、樹里が笑顔で呼び掛ける。クラウディアは、直ぐに声を返すのだ。

「わたしは、関係無いじゃないですか?城ノ内先輩。」

 そのクラウディアの見解に、日比野が説得を試みるのである。

「そんな事無いよー。天神ヶ﨑高校兵器開発部のソフト部隊三名には、うちの課は大いに期待してるんだから~将来の即戦力だからねー。」

「ほらほら、ケーキ持った儘(まま)でイイから、こっちおいで。」

 そう、維月に手招きされると、クラウディアは手にしていた皿を机に置いて言葉を返す。

「それじゃ、丸でわたしが『食いしん坊』キャラみたいじゃない。」

「あはは、其(そ)れは其(そ)れで面白いかもね~。 はい、並んで~クラウディアちゃんが真ん中がイイかな。」

 日比野は自身の携帯端末を取り出し、樹里達にレンズを向ける。
 誕生日的には主役の樹里がセンターに来るべきなのだが、標準的な樹里の身長に対して他二名の身長差が大きい為、構図的には一番背の低いクラウディアを二人が挟んだ方が良いだろうと、そう日比野は判断したのだ。そして維月はクラウディアの肩に手を掛け、自(みずか)ら腰を引いて顔の高さを樹里と合わせるのだった。

「それじゃ、その儘(まま)で。撮るよ~…」

 一回、二回と日比野は、樹里達三人の姿を携帯端末に収める。
 そして撮影の終わった日比野に、後ろから茜が声を掛けるのだ。

「日比野先輩。記念って事なら、先輩も一緒に撮りましょうか?」

「あ~そうね、お願い出来る? わたしの携帯端末(PT)で。」

 そうして、日比野がクラウディアの背後の立った状態で、四人の画像を茜が日比野から渡された携帯端末で撮影するのだった。
 そのあとは何と無く、幾つかのグループに分けて其(そ)の場に居た全員の姿を、日比野が撮影していく流れになったのだ。
 そのグループとは、例えば立花先生と三年生の三人とか、維月を加えた二年生組とか、一年生の三人だとか、である。或いは飛行機部の三年生二人を加えた三年生組五名であったり、一年生の応援組二名と茜、ブリジットの機械工学科の一年生四名であったり、試作部からの出張組四名と立花先生の組合せだったり、勿論、日比野自身も被写体に加わったりと、それなりの盛り上がりを見せたのだった。
 因(ちな)みに、それぞれの画像撮影に於いて、背後に HDG 各機が映り込まない様に、留意されていた事は指摘しておきたい。何(ど)れもが秘密指定の器材であるので、技術資料として画像を残す場合以外は、極力、画像データを取得しないのが無難なのである。個人の携帯端末から、うっかり画像データが流出でもしたら、誰も責任が取れないのだ。その辺りの事情は、この場の全員が心得ているのである。
 そんな中で、畑中がポツリと言うのだ。

「しかし、試験の本番は明日なのに、もう打ち上げの様な雰囲気だよね。」

 半(なか)ば呆(あき)れた様な、その、畑中の発言には、直美が反応するのである。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第17話.02)

第17話・クラウディア・カルテッリエリとブリジット・ボードレール

**** 17-02 ****


 ドライバー三人と維月が格納庫フロアへ降りて行くと、三機の HDG は既に起動準備状態で待機している。
 発進時間を短縮する為、昨日の内に各機が其其(それぞれ)の飛行ユニットに接続した状態で、更に機首を大扉の方向へと揃(そろ)えてあるのだ。その上で畑中達が、AMF とC号機飛行ユニットはエンジン始動までを終わらせているのだった。これは AMF は Ruby が、C号機飛行ユニットに就いては Sapphire が、それぞれ制御しているから可能な事である。
 茜は手際良く自身を HDG へ接続するのに続いて AMF の機首部を閉鎖し、恵と直美が押し開けた大扉の方へ向かって、機体の前進を開始する。その儘(まま)、庫外に出ると駐機エリアを横切って滑走路への誘導路に侵入し、行き足を緩(ゆる)める事無く滑走路の東端へ向かって、滑らかに AMF を移動させて行く。それにクラウディアのC号機も、機体三機分程の間隔で追従して行くのだった。
 ブリジットのB号機は、飛行ユニットのメンテナンス・リグに吊られた状態で飛行用メイン・エンジンを起動する所からのスタートだったが、滑走路へと向かう誘導路上の移動や、離陸滑走が不要である特性を活かし、エンジンが起動して機体がメンテナンス・リグから解放されると、直ぐに格納庫内からホバー移動で駐機エリアへと出て、その儘(まま)、上昇を開始する。
 それとほぼ同時に AMF が離陸滑走を開始すると、あっと言う間に離陸を終え、C号機も其(そ)れに続くのだった。

「何だか、空防の緊急発進(スクランブル)訓練みたいだなー。」

 畑中が上昇して行く三機を見送り乍(なが)ら、そんな所感を漏らすと、微笑んで緒美が言うのだ。

「まあ、やってる事は同じですよね。十二時三十八分、まあ、上出来かしら?」

 時刻を確認する緒美に、大扉の方から戻って来た直美が声を掛ける。

「授業終了から、十八分って事でしょ? あと三分は、短縮したいよね。」

「明日(あした)の課題、かしら?」

 恵が苦笑いで直美に応じる一方で、緒美はデバッグ用コンソールを操作している樹里に確認する。

「城ノ内さん、プローブの振動計、データは取れてる?」

「大丈夫です、四基とも正常に稼働してます。今の所、異常値は来てませんね。」

 緒美が言う『振動計』とは『プローブ』に標準装備されているセンサーではなく、今回の確認の為に取り付けられた物である。センサーが計測したデータは、パイロンを介して飛行ユニット側で取り込み、HDG のデータ・リンクに乗せて送られて来るのだ。
 三機の HDG を送り出し終えて一息吐(つ)いた瑠菜は、制服のポケットから先刻の御握(おにぎり)を取り出しつつ、畑中に問い掛けるのだ。

「畑中先輩、あのプローブ一式、試作工場の方でも、F-9 に搭載して試験はやってるんですよね? こっちでも同じ試験、やる必要が有るんですか?」

 そう訊(き)いて瑠菜は、包装を解いた御握(おにぎり)を一囓(ひとかじ)りする。

「C号機の飛行ユニットと F-9 は、主翼は同じ物だけどさ、機首形状が全く違うからね。気流の影響は、実機で確認しないと安心出来なのさ。勿論、問題は無いように設計はされてる筈(はず)だけど、『問題は無い』って事を確認はしないとね。」

 畑中が瑠菜の質問に答えると、その背後で樹里が声を上げるのだ。

「A号機とB号機から、映像来ました。記録、開始しま~す。」

 それを聞いて、直美が緒美に微笑んで言うのである。

「A、B号機が随伴(チェイス)機をやって呉れるなら、わたし達は、もう御役御免(おやくごめん)かな?」

「ケース・バイ・ケースでしょ? 又、必要になる事も有るかもよ。」

 直美と緒美は顔を見合わせると、互いに「ふふふ。」と笑ったのである。
 余談ではあるが、次の日曜日には、緒美と直美に定例の飛行訓練が予定されていた。

 それから暫(しばら)くは、C号機は各種姿勢での飛行や機動を繰り返し、主翼下に懸下(けんか)された『プローブ』に異常が見られないかを、只管(ひたすら)に確認したのだ。そして十五分程が経過した時点で、この日の飛行を切り上げて、帰投の指示が出されるのである。
 この日の飛行は学校の上空付近からは大きく離れなかったので、AMF とC号機は五分程で、相次いで着陸を終えて、第三格納庫へと戻って来る。一番最初に格納庫内に戻って来たのは、当然、着陸滑走が必要でないブリジットのB号機で、第三格納庫前の駐機エリアに降り立つと、その儘(まま)、格納庫内へとホバー移動で戻って来たのだ。
 ブリジットが機体を飛行ユニット用のメンテナンス・リグに接続している間に、クラウディアのC号機が格納庫の中まで自力移動で入って来て停止し、最後に茜の AMF が格納庫内で停止したのである。
 ドライバーの三名は大慌てで HDG と自身との接続を解除すると各機から飛び降り、部室の在る二階通路への階段へと駆け足で向かうのだ。

「三人共、五分で着替えて来て!」

 そんな緒美の声を聞き乍(なが)ら階段を駆け上がると、二階廊下を通って部室を通過し、部室隣の更衣室へと飛び込む。その室内には瑠菜と佳奈と維月が待機していて、彼女達は茜達三人がインナー・スーツを脱ぐのを補助するのだ。
 インナー・スーツを脱ぐには、先(ま)ずは背部のパワー・ユニットを外す必要が有り、続いて腰部と背部のプロテクト・フレームを外さなければならない。このユニットやフレームの着脱作業が独りでは不可能なので、インナー・スーツの脱ぎ着には必ず作業補助の人員が必要なのだ。そして背部のプロテクト・フレームを除去するとスーツ背部が大きく開くので、補助を行う人員がスーツの上半身を前方に向かって引っ張る事で、両側の袖からドライバーの腕を引き抜くのである。インナー・スーツを脱ぐには、この方法が最も手早いのだ。
 ドライバーはインナー・スーツの下に、専用のアンダー・ウェアを着用しているので、インナー・スーツが肌に張り付く事は無い。アンダー・ウェアに因ってドライバーの汗や皮脂が直接、インナー・スーツの内側に付着するのを防止しているのだが、それは生地(きじ)の内部に各種センサーや体温維持システムを組み込んだインナー・スーツが、丸洗いが不可能だからだ。とは言えアンダー・ウェアを着用しても、インナー・スーツ内側への汗や皮脂の付着を完全に防止出来るものではない。肌に触れるアンダー・ウェアには通気性が必要で、そうである以上、アンダー・ウェアが吸収した汗や皮脂は、或る程度は外側へ染みてしまうのである。そんな訳(わけ)でインナー・スーツを着用したあとは、専用の洗浄液を使用して内側を拭き掃除する等のメンテナンスが必要なのだが、流石に今回はそんな時間的な余裕は無い。メンテナンスは後回しである。

上着(ジャケット)とソックスは、あとにしなさい!」

 そう瑠菜に言われて、ドライバー三人が制服のスカートにブラウスを着用した時点で、六人は更衣室を出るのだ。茜とブリジット、そしてクラウディアは、制服上着(ジャケット)のポケットに丸めたソックスを押し込み、裸足で靴を履いて、維月達の後を追って再び階段を駆け下りるのだった。

「こっちよー。」

 階段を降りると其(そ)の下から奥側、格納庫フロア東側の出入り口から、恵の呼ぶ声が聞こえる。茜達六名は呼ばれる儘(まま)に出入り口を通過して格納庫の外へと出ると、そこには学校所有のマイクロバスが待っているのだ。

「早く乗って。」

 今度はマイロバスの乗降ドア内から、恵が声を掛けて来るので、六人は、相次いでマイクロバスの車内へと駆け込む。

「それじゃ、出すよー。」

 運転席から声を掛けて来たのは、倉森である。倉森は兵器開発部のメンバー達全員が乗車したのを確認して、マイクロバスを校舎の方へと走らせるのだった。校舎の前に到着する迄(まで)の数分間には、マイクロバス車内では立花先生が購入したパンや御握(おにぎり)の残りを、テスト・ドライバーの三名や他の希望者で分配したのだ。幾ら女子だとは言え、育ち盛りの若者に昼食としてのパンや御握(おにぎり)が一個だけでは、流石に足りないのである。勿論、五時限目の前に其(そ)れを食べている時間はもう無いので、五時限目と六時限目の間の休み時間にでも、と言う事になるのだが。
 こうして、兵器開発部のメンバー達は午後からの授業に、ギリギリ、間に合ったのである。

 一方で、兵器開発部のメンバー達が午後の授業へと向かったあとの第三格納庫であるが、此方(こちら)は此方(こちら)で、直ぐに暇になる訳(わけ)ではない。
 帰還した三機の HDG、それぞれの停止、終了作業が行われると、直ぐに三機分の整備と点検作業が始まるのである。
 その上で、飛行確認で得られたデータを吸い上げ、整理して、兵器開発部のメンバー達との夕方の打ち合わせ迄(まで)に、明日の昼に実施する飛行(フライト)で確認するべき項目や、飛行プランの素案を作らなければならない。
 畑中達、本社試作工場からの出張組の作業も、なかなかに大変なのである。


 そして翌日、2072年11月9日、水曜日の、お昼時である。
 茜とブリジットが所属する一年A組の四時限目は、数学の授業である。数学担当の大須先生は、授業のペース配分には定評の有る先生で、授業時間終了三分前には其(そ)の授業の締めを開始し、チャイムと同時に必ず、決まり文句を言うのだ。

「よし、今日はここ迄(まで)。授業、終わり~。」

 その何時(いつ)もの宣言を聞いて、茜とブリジットは同時に席から立つのである。
 天神ヶ﨑高校の授業では開始や終了の挨拶、所謂(いわゆる)学級委員に依る「起立。礼。」の様な号令は、行われない。小、中学校で其(そ)の様な習慣が染みついていた一年生達は当初、戸惑ったり違和感を感じたりしたものだが、流石に今では其(そ)れが当たり前になっている。

「天野とボードレール、社用だってのは聞いてるけど、廊下は走るんじゃないぞ。」

 そう声を掛けられて、茜は微笑んで一礼し「はい、お先に失礼します。」と声を返すと、ブリジットと共に駆け足で教室を後にしたのだ。そして、他の生徒達も銘銘(めいめい)に席を立って昼食へと動き始める。
 段々と賑やかになる教室の前方に位置する教卓では、大須先生が持ち帰る資料を纏(まと)め乍(なが)ら苦笑いしつつ呟(つぶや)くのだった。

「だから、走るなって言ったんだけどなあ。」

 そんな様子の教室の一方では、ブリジットと同じバスケ部所属の西本が、学食へ向かおうとする九堂と村上に、教室後方の出入り口手前で声を掛けるのだ。

「九堂さん、村上さん。今日はブリジット達の手伝いは、いいの?」

 九堂と村上の二人が、兵器開発部の活動に協力している事は、西本はブリジットから聞いて知っているのだ。

「うん。本社の方(ほう)から、人が来てるからね~。」

「わたし達の出る幕じゃ無いよね。」

 九堂に続いて、村上も微笑んで言葉を返すのだった。
 西本は、折角呼び止めたのだからと、思い切って訊(き)いてみるのだ。

「二人は、ブリジットと天野さんがやってる事、知ってるんでしょう?」

 九堂と村上は一瞬、顔を見合わせ、そして村上が左手で眼鏡の位置を少し直してから、西本に答えるのだ。

「それは知ってるけど。ごめんなさいね、社外秘の事も絡むから、無闇に話せないの。」

 その返答を聞いて、少し表情が曇る西本に、九堂が説明を補足する。

「同じ特課の生徒でも、秘密関連の事柄は、聞かされる方が迷惑する位(くらい)だからさ。悪く思わないでね。」

「そうそう。わたし達は、うっかり口を滑らして、それが会社にばれたら『これ』だもの。」

 村上は笑って、右手で自分の首を切るジェスチャーをして見せるのだ。
 苦笑いを返して、西本は村上に言う。

「大変なのね。」

「まあ、そう言う立場、って言うか、契約だからね。」

 村上に続いて、九堂が微笑んで言うのだ。

「大変だけど、色々と面白い経験も出来るし。それに特課の生徒でいれば、将来は安泰(あんたい)だし?」

「あはは、西本さん達、普通の皆(みんな)は何(いず)れ大学受験でしょ? そっちの方が大変だよね。」

 その村上の言葉に、西本は言葉を返さず、唯(ただ)、微笑んで見せるのだ。そこで、窓際の席から西本の名前を呼ぶ声が聞こえて来る。

「明理(アカリ)ー。」

 声を掛けて来たのは、教室での昼食に持参したお弁当を広げている二人の女子生徒である。その二人は、西本と同じく、普通課程の生徒だ。
 西本は、其方(そちら)の友人達に右手を挙げて合図をした後で、村上と九堂に言うのだ。

「貴方(あなた)達は、お昼は学食だったよね。呼び止めて、ごめんなさいね。」

「ううん、いいよー気にしないで。」

「じゃあねー。」

 そうして村上と九堂は、教室を出て学食の在る管理棟へと向かったのだ。
 天野重工の準社員待遇である特別課程の生徒と、会社とは無関係である普通課程の生徒との間に、普段から心理的な溝や壁が存在している訳(わけ)ではないのだが、この様に会社の絡む話題が有る時、その立場の違いを互いが意識してしまう事は避けようが無い。特別課程と普通課程、それは『何方(どちら)が上』と言った類(たぐい)の話ではなく、単に『立場が違う』以上の意味は無いのだ。その事を特別課程の生徒達は天神ヶ﨑高校での三年間を通して、学んでいくのである。そして、その経験は天野重工に本採用になった後で、『天神ヶ﨑卒』と『一般卒』と言う社員としての新たな立場の違いを乗り越えるのに役立つのだった。

 さて、この日の飛行確認を実施している茜達であるが、其方(そちら)は昨日と同じ様にバタバタと状況が進み、しかし昨日より幾分かはスムーズに、飛行の予定を終えたのである。
 そして放課後には前日と同様に、昼休み時間に実施した飛行確認で使用した器材の片付けや、翌日の準備、更に昼間のデータを元にした打ち合わせが行われ、この日の活動も全日程が無事に終了したのだった。


 そして更に翌日、2072年11月10日、木曜日の昼休みである。
 この日も前日迄(まで)と同じ様に、四時限目の終了と共に兵器開発部のメンバー達は教室を飛び出し、部室の在る第三格納庫へと向かうのだ。昼休み時間に飛行確認を実施するのは此(こ)の日が最後の予定なのだが、流石に三日目ともなれば色々な事に慣れて来るもので、授業終了から茜達の離陸が完了する迄(まで)、所要時間は十五分を切って見せたのである。
 この日の確認内容は『プローブ』の発射手順の確認で、発射に必要な諸元の入力や、それらに対する『プローブ』からのリターン値を記録して、各機器が正常に機能しているのを確認したのだ。これは発射の最終段階で中断(アボート)が正常に出来る事の確認でもあり、クラウディアは『プローブ』を発射する事無く、無事に飛行確認を終えて学校へと帰投したのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第17話.01)

第17話・クラウディア・カルテッリエリとブリジット・ボードレール

**** 17-01 ****


 天神ヶ﨑高校に於(お)いては、一部で心配されていたエイリアン・ドローン襲撃の発生も無く、『秋天(しゅうてん)際』は其(そ)の全日程を無事に終了したのである。
 展示や発表等で参加する企画の無い兵器開発部の面々は、一般生徒として『秋天(しゅうてん)際』を楽しんだのであるが、唯一(ゆいいつ)ブリジットだけは、彼女が休部扱いとなっているバスケ部の出店(でみせ)運営に参加したのだった。それは、何(いず)れ訪(おとず)れるであろうブリジットのバスケ部復帰を見越した、その為の雰囲気作りを期待した田中部長の配慮である。実際、他の部員からもブリジットの復帰は期待されていたし、別に部員達と仲違(なかたがい)してのブリジットの休部と言う訳(わけ)でも無いので、ブリジットはブリジットで久し振りのバスケ部での、その役割を楽しんだのだ。
 『秋天(しゅうてん)際』開催前日の一日と、終了後の一日が、それぞれ準備と片付けの日程として授業は休止とされていたので、『秋天(しゅうてん)際』開催の二日間と合わせて都合四日間、ブリジットは一時的にバスケ部に復帰した形になったのだった。それは其(そ)の期間中に、兵器開発部の方が活動の一切を休止していたから、でもある。
 一方で其(そ)の四日間、ブリジット以外の部員達はどうしていたか、だが。全員が多かれ少なかれ、人手の足りない他の出し物の準備や片付けを手伝う等、それぞれが級友の要請に応えていたのだった。
 このお話の都合上、兵器開発部の活動ばかりを追い掛けていると言う事情は有るのだが、兵器開発部の面々も其其(それぞれ)のクラスに戻れば、級友達と普通に友人関係を保っており、兵器開発部のメンバー達が他の生徒達から乖離(かいり)した存在と言う訳(わけ)ではないのである。
 『秋天(しゅうてん)際』は11月2日、3日、つまり水曜日と木曜日の開催で、翌日の金曜日は終日が片付けであった。土曜日に授業が無い普通科の生徒に取っては、この週は『秋天(しゅうてん)際』開催準備の火曜日から学校は授業が無かった訳(わけ)だが、茜達、特別課程の生徒達には、土曜日の授業は普通に実施されたのだった。

 ほぼお祭り期間だった一週間が終わり、日曜日を挟(はさ)んで、翌週の月曜日が2072年11月7日である。
 この日は、例によって畑中等(ら)が試作装備の搬入の為、朝から来校していたのだ。この日、持ち込まれたのは、以前に試作工場へと持ち帰ったB号機用レールガンの改修機と、C号機用の『プローブ』と呼ばれる電波発信源位置特定用の拡張装備が五セット、計二十基である。

「何(なん)だか、毎週の様に来てない?貴方(あなた)達。」

 そう畑中に言って笑ったのは、第三格納庫への搬入に立ち会っていた立花先生である。対して畑中も、笑って応えるのだ。

「あはは、毎週って事はないですよ、流石に。前回来たのは二週間前だし、あ、でも。来るのなら先週、来たかったですよね。『秋天(しゅうてん)際』、先週だったんでしょう?」

「あら、良く知ってるわね。」

「そりゃ、これでもOBですから。それに、地上展示用の F-9 は、試作工場(うち)から出してますからね。」

「ああ、そうね。だったら、その F-9 の管理責任者とかの名目で、来れば良かったのに。」

「その役目、毎年、競争率高いんですよ、実は。 まあ、それ以前に、製作三課(うち)は今年、色々と忙しくって、それどころじゃなかったんですけどね。年末に向かって、此方(こちら)へ送り出す試作機を、並行して幾つも作業してますから。」

「そう言えば、そうよね。 あ、所で悪いんだけど。このあと、用事が有るから、ここは暫(しばら)くお任せするけど、いいかしら?」

「ああ、はい。大丈夫ですよ、伊達(だて)に回数、ここに来てる訳(わけ)じゃないので。」

「まあ、もしも何か有ったら、わたしか、前園先生にでも連絡して。」

「はい、了解です。」

「それじゃ、お願いね、畑中君。」

 そう言い残して立ち去って行く立花先生の背中を見送った畑中は振り返り、既にお馴染みとなった出張組の面々に指示を出すのだ。

「それじゃ、B号機飛行ユニットのレールガン搭載から始めようか~。軸線調整まで、午前中に終わらせよー。」


 それから昼休みを挟(はさ)んで、放課後である。
 月曜日は特課の生徒達にも七時限目の授業は無いので、午後三時を過ぎると兵器開発部のメンバー達が次々と第三格納庫へとやって来るのだ。彼女等(ら)は勿論、この日が試作装備の搬入予定日である事は事前に把握しているし、緒美や茜に至っては昼休みに第三格納庫を訪(おとず)れており、その様子を確認済みだったのである。

「あ、レールガンが付いてる。」

 茜と共に第三格納庫へと降りて来た、ブリジットの第一声である。
 階段を降りて、B号機用の飛行ユニットへと歩み寄って来るブリジットと茜に、畑中が声を返すのだ。

「おーう。お待たせしたね、調整もバッチリ終わってるよ。」

 メンテナンス・リグに吊り下げられた飛行ユニットの前に到着すると、茜が畑中に尋(たず)ねる。

「トラブルの原因は、解ったんですか?畑中先輩。」

「ああ、色々とデータが揃(そろ)ってたからね。本体が特定の角度の時に、特定の方向に加速度が加わると、装弾異常が発生するのが解ってね。設計の想定が間違ってたらしくて、送弾経路の部品形状を変更したんだ。これは対策済みのだから、もう心配は要らないよ。」

 続いて、ブリジットが問い掛けるのだ。

「テストも、済んでるんですか?」

「勿論。前回も本体の取り付け角度を何パターンか変更して、連続装弾試験はやってたんだけど。今回はロボット・アームの先端に本体を取り付けて、ブンブン振り回し乍(なが)ら、連続装弾試験をやったからね。問題の組合せ以外にも、色んなパターンで検証済みさ。」

 その回答を聞いて、苦笑いをしつつ、茜が感想を漏らす。

「それは又、大変そうですね。試験の手間が。」

「あはは、まあ、振り回すのも、連続で装弾掛けるのも、プログラムしておけば勝手にやって呉れるから手間は無いんだけど。大変なのは、排出された弾体を拾い集めるのと、弾倉(マガジン)に弾体を再装填するのが、もう、ね。」

「あははは~そこは人手でやるしかないんですね。」

 ブリジットも苦笑いで、同意するのだった。
 そして畑中が言うのだ。

「ま、土曜日の飛行で、試射する予定だろ? その試験には立ち会う予定だから、楽しみにしてるよ。」

「はい。」

 ブリジットと茜は、声を揃(そろ)えて返事をしたのだ。
 丁度(ちょうど)そのタイミングで、背後の階段側から樹里の声が聞こえて来るのである。

「済みませ~ん。ちょっと、遅れました。」

 その場に居た三名、つまり茜とブリジット、畑中が声の方へと視線を向けると、階段を降りて来たのは樹里と維月、そしてインナー・スーツに着替え済みのクラウディアの三名だった。彼女達はC号機と、その飛行ユニットが置かれた方向へと向かって歩いて行く。其方(そちら)側では、緒美や瑠菜達が、飛行ユニットの前で倉森から説明を受けている様子である。
 畑中も、C号機の方へと向かい乍(なが)ら、樹里達へ声を掛ける。

「早速で悪いんだけど、C号機を飛行ユニットとドッキングさせたいんだ。搭載したプローブの機能確認、始めたいから。」

「了解してま~す。」

 畑中の呼び掛けには、先頭を歩く樹里が代表して応えたのだ。
 そこからクラウディアは駆け足でC号機の前へと向かうと、ステップラダーを駆け上がり、自身をC号機へと接続する。瑠菜と佳奈は、その作業を補助したり、メンテナンス・リグの操作をしたりしている。
 間も無く、C号機はメンテナンス・リグから離れ、その儘(まま)、歩行で飛行ユニットの前へ到達すると、瑠菜に誘導されつつ、今度は後ろ向きに進んでC号機が飛行ユニットにドッキングするのだ。
 飛行ユニットの主翼下には、左右に二基ずつの『プローブ』が、既に専用のパイロンを介して取り付けられている。
 『プローブ』は、長さが凡(およ)そ三メートル程の、ミサイル等よりは胴体が一回り程太い、少し扁平な六角形断面の飛翔体である。それは攻撃用の兵装ではなく、C号機の電波受信能力を拡張する為の装備なのだ。
 この日の予定は、C号機用の飛行ユニットへの『プローブ』の物理的な搭載確認と、信号の通信確認、及び、各種制御器機の機能確認である。機能確認は『プローブ』側と、取り付けられる飛行ユニット側、そして統合して制御するC号機と Sapphire、それぞれのレベルに於(お)いて必要で、確認項目を一つずつ消化していくと、それなりに時間が必要になるのだ。
 午後六時頃まで掛けて、予定されていた全ての確認が終わると、兵器開発部の活動は二組に別れる事となる。
 一方は格納庫フロアで、『プローブ』の搭載や取り外し作業の、作業実習や技術的な注意事項のレクチャーである。そしてもう一方の組は、翌日の飛行確認の打ち合わせを行うのだ。
 飛行確認とは言っても、『プローブ』を空中で切り離したり、発射はしない。先(ま)ずは、C号機飛行ユニットに装備した状態での、C号機自体の飛行能力や操縦性に関する影響についての確認である。或いは、搭載された状態での『プローブ』自体の振動や、機能不全が無いかを確認し、投射するまでの手順を確認する予定なのだ。又、『プローブ』を使用しないで搭載した儘(まま)で帰還するケースも当然考えられるので、『プローブ』搭載状態でのC号機飛行ユニットの着陸操作に就いても、悪影響や不具合が無いかを実際に確認しておかなければならない。
 そんな具合で、何か一つ、装備が追加される度(たび)、膨大な項目の確認作業が発生するのである。それを彼女達は、協力し、分担し乍(なが)ら、時間を掛けて一つずつ、淡々と消化していくのだ。


 翌日、2072年11月8日、火曜日の昼休みである。この日は兵器開発部のメンバーが次々と、十二時半頃に部室へと駆け込んで来るのだった。
 天神ヶ﨑高校の四時限目が終了するのが十二時二十分である。それから午後一時十分迄(まで)の五十分間が、昼休みの時間なのだ。その昼休み中に、前日に搭載したC号機用の『プローブ』、その飛行確認作業を実施しなければならないのである。と言うのも、火曜日から水曜日の三日間は、特別課程の生徒達には七時限目の授業がカリキュラムに組まれており、その終了を待っていると午後四時を過ぎてしまうのだった。それから飛行の準備を行うと、どう頑張っても離陸は午後四時半頃となり、十一月も半ばになろうかと言う此(こ)の時期には、辺りは直ぐに薄暗くなってしまうのである。
 勿論、HDG は夜間でも行動や飛行が可能な能力は持っているのだが、装備の飛行確認を態態(わざわざ)、暗闇の中で行うのも妙な話で、映像を記録するにしても明るい日中の方が望ましいのは言う迄(まで)もないだろう。そこで、昼休みの時間を使って、確認飛行を実施する事になったのだ。
 とは言え、特にドライバーの三名には昼食抜きで部活を強要する訳(わけ)にもいかず、一時間程で実施の予定だった確認飛行を二十分間ずつの三日に分けて、火曜日から木曜日の昼休み時間中に実施すると言う運びとなったのである。

 先(ま)ず、茜とブリジット、クラウディアには校舎の出口に自転車を用意しておき、四時限目の授業終了と同時に三人は校舎を出て、自転車で第三格納庫へと移動する計画なのだ。
 茜とブリジットは計画通りに授業が終了すると直ぐに教室を飛び出し、学食や学内の売店へと向かう他の生徒達を擦り抜け乍(なが)ら、自転車が準備されている校舎の出口へと向かったのだ。

「こらー、天野。廊下を走るなー。」

 通り掛かった教師の『お約束』の様な言葉に、茜が「すいませーん。社用でーす。」と応えつつ、茜とブリジットは校舎裏の通用口へと到着する。共有自転車のロック解除を携帯端末で行うと、二人は第三格納庫へと向かって、自転車を走らせるのだ。
 学校の敷地内を南北に走る舗装路が、南へと向かって下りの傾斜となっているのは、その敷地が山腹の斜面を造成しているからである。この事は、茜達が滑走路の方向へ自転車で向かうのには好都合で、それ程の急勾配という訳でもない坂道ではあったが、それでもスピード超過に気を付けねばならないのだった。
 そんな訳(わけ)も有って、徒歩でなら十五分程度掛かる第三格納庫への道のりも、自転車でなら三分程度で到着出来たのだ。
 部室へと上る外階段の下に乗って来た自転車を止めると、茜は視界の端に、近付いて来る別の自転車に気付いた。良く見ると其(そ)の自転車を運転しているのは維月で、彼女の背中にはクラウディアが、しがみ付いているのだった。クラウディアの体格では女子寮の共有自転車に乗るのは難しく、だから維月がクラウディアを運んで来たのだ。勿論、校内でも自転車の二人乗りは禁止である。
 茜は近付いて来る二人に、右手を挙げて振ってみせるのだが、ブリジットは茜の傍(かたわ)らを抜けて階段へ向かい、茜に声を掛けて来るのだ。

「急ぎましょ、茜。」

「うん。」

 そう答えて、茜はブリジットを追って外階段を駆け上がる。
 そして部室のドアを開けると、昼食用の御握(おにぎり)やパンを大量に準備して、立花先生が待機しているのだった。

「御握(おにぎり)でもパンでも、好きなの取って行って。」

「すいません、先生。それじゃ、遠慮無く。」

「いただきま~す。」

 茜は小振りなクロワッサンが二つ入った袋を、ブリジットが鮭の御握(おにぎり)の包みを取ると、二人はインナー・スーツに着替える為、更衣室へと向かったのだ。茜とブリジットが部室奥のドアから出るのとほぼ同時に、維月とクラウディアが少し荒い息遣(いきづか)いで部室へと入って来るのだった。
 ほぼ同じ運動量だった筈(はず)なのに、維月やクラウディアに対して茜とブリジットが平然としていたのは、勿論、二人が其(そ)れなりに身体を鍛えていたから、である。下り道とは言えクラウディアを乗せて自転車を走らせていた維月は未(ま)だしも、クラウディアに至っては外階段を駆け上がっただけなのだから、茜達との体力差が如何程(いかほど)なのかが如実(にょじつ)に表れた瞬間だったと言えよう。

「貴方(あなた)達も、好きなのを取って行ってね。」

「あ、すいません。いただきます。」

「わたしはこれ、いただいて行きます。」

 維月は『ヤキソバパン』を、クラウディアはマヨツナ入りの御握(おにぎり)を、それぞれが手に取ると、茜達と同様に更衣室へと向かったのだ。
 それから少し間を置いて、緒美と恵、直美の三人が部室に到着し、続いて二年生の三人が外階段を駆け上がって来るのだが、皆(みな)、それぞれに息が荒い。それぞれが校舎から、全力疾走ではないにしても、駆け足で第三格納庫へと駆け付けたのだ。
 部室に入った緒美は少し呼吸を整えてから、立花先生に尋(たず)ねる。

「先生、天野さん達は?」

「今、着替え中よ。 貴方(あなた)達も、好きなのを取って行きなさい。早い者勝ちよ。」

「それじゃ、いただきます。」

 緒美はメロンパンと紙パックのコーヒー飲料を取ると、格納庫フロアへと降りる為、そそくさと二階通路へと出て行くのだ。

「あ、待って~。」

 恵はサンドイッチの包みと、紙パックのレモンティーを取って、緒美を追い掛ける。直美は鮭の御握(おにぎり)と緑茶の紙パックを取り、恵を追うのだった。

「先生、チョコ味のパン、有ります?」

 そう訊(き)いて来たのは佳奈である。

「これ、どうかしら?佳奈ちゃん。」

 そう言って立花先生が差し出したのは、楕円形のパンの上面がチョコレートでコーティングされた一品である。中には、クリームも入っているらしい事が、パッケージに表記されている。

「うっわ、甘そー。」

 それは立花先生が提示した品を横から見ていた瑠菜の率直な感想だったが、佳奈は満面の笑みで礼を述べ差し出されたパンを受け取ると、飲み物としてはコーヒー飲料の紙パックを選んだのだ。
 瑠菜と樹里は、共に正統派(オーソドックス)な梅干し入りの御握(おにぎり)を選択し、飲み物は瑠菜が緑茶を、樹里はミルクティーを選ぶのだった。

「それ、合うの?」

 瑠菜に問い掛けられて、樹里は微笑んで答えるのだ。

「気にしないで。お薦めはしないけどね。」

 そして二年生組三人も、準備作業の為に格納庫フロアへと降りて行くのだ。
 その後、インナー・スーツに着替えた三人と、クラウディアの着替えを補助していた維月が、南側のドアから部室内へと戻って来ると、立花先生は茜達に声を掛けるのだ。

「貴方(あなた)達、さっき、飲み物持って行かなかったけど、要らない?」

「わたしは、帰って来てから、いただきます。」

 茜が即答する一方で、ブリジットは中央の長机へと向かうのだ。

「わたしは、お茶を一口だけ。」

 ブリジットは緑茶の紙パックを手に取るとストローを挿し、一口を飲み込んで、その紙パックを机の上に置いたのだ。

「残りは、帰ってから飲みますから。」

「じゃ、取って置くわね。 クラウディアちゃんは? 井上さんも。」

 立花先生に呼び掛けられて、クラウディアは答える。

「わたしも、帰って来てから、いただきます。」

「そう。それじゃ、気を付けて行ってらっしゃい。」

 その送り出しの言葉に、三人は意図せず声を揃(そろ)えて「行ってきます。」と、答えたのだった。

 

- to be continued …-

 

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※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第16話.13)

第16話・クラウディア・カルテッリエリと城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 16-13 ****


「統合作戦指揮管制より AHI01、了解した。天野重工の、今回の作戦への協力に感謝する。HDG01 から HDG03 は、現空域から直線で、高度三千メートルにて帰投して呉。飛行ルートの確保は、此方(こちら)で申請しておく。」

「HDG01 より、統合作戦指揮管制。御配慮に感謝します。それでは、我々は今より帰投しますが、AHI01 は、どうされます?」

 茜の問い掛けには、緒美が直ぐに答える。

「AHI01 は岩国に寄って、出張所の片付けとか、人員を拾ってから帰投するわ。テスト・ベース側の、貴方(あなた)達の受け入れ人員は手配済みだから、心配要らないわよ。」

 茜達が単独で第三格納庫に戻っても、地上電源の接続や、メンテナンス・リグを操作する人手が居ないと、茜達は HDG の解除が出来ないのだ。因(ちな)みに手配済みの人員とは、飛行機部の金子や武東、村上、そして茜達の友人である九堂の事だった。

「了解、AHI01。それでは、HDG01 はテスト・ベースへ帰投します。HDG02、HDG03 付いて来てね。」

「HDG02、了解。」

「HDG03 も、了解。」

 三機の HDG は茜の AMF を先頭にしたV字形の編隊を組んで東向きの針路を取り、指示された高度へと上がって行くのだ。その途中で、茜は護衛の F-9 戦闘機に呼び掛けるのだった。

「HDG01 より、コマツ01、02。護衛のお役目、ありがとうございました。わたし達はこれで、失礼します。」

「此方(こちら)、コマツ01。大して役に立たなくて、申し訳無かったね。其方(そちら)の、帰路の安全を。」

「ありがとう、コマツ01。貴方(あなた)方は、まだ暫(しばら)く居残りですか?」

「ああ、帰投の命令が出るまでは、現空域で待機だ。多分、暫(しばら)く哨戒を続ける事になると思う。」

 何せ今回は、三十分足らずで迎撃戦が終了してしまったので、防衛軍はレーダーに敵機は捕捉されていなくても、念の為に警戒を続けているのだ。今迄(いままで)なら、相当数の撃ち漏らしたエイリアン・ドローンが防空識別圏や領空を出たり入ったりを繰り返し、第三波、第四派と迎撃戦が続いていたのだ。それが、今回は第一波に対する第一撃で、目標の凡(およ)そ半数を撃墜してしまったのである。そして残存機に対しても、異例のハイペースで対処が進んで、現在の状況に至るのだ。それは、防衛軍側として、そしてエイリアン側に取っても、経験の無い展開だったのである。

「それでは、お気を付けて、コマツ01、02。」

 護衛の F-9 戦闘機に挨拶をすると、続いて茜は緒美に問い掛ける。

「HDG01 より、AHI01。以上で、防衛軍に対する通信を終了しますが?」

「了解、HDG01。防衛軍側に断ってから、通信の設定は此方(こちら)で変更します。それ迄(まで)は、余計なお喋(しゃべ)りはしないでね。」

 それから暫(しばら)くの後、緒美が統合作戦指揮管制に断りを入れて、データ・リンク通話の相手先アドレス・コード、そのリストから防衛軍関係の指定が解除され、天野重工と天神ヶ﨑高校間での通話が、防衛軍側に聞かれる事が無くなったのである。
 こうして実際の迎撃作戦に於ける、HDG-C01 の ECM 戦能力評価実験は、無事にその予定を消化したのだ。


 翌日、2072年10月23日、日曜日。
 休日であると言うのに、午前十時を過ぎた頃には、兵器開発部のメンバー達は当然の様に第三格納庫へと集合していた。

「もう、立派に仕事中毒(ワーカホリック)ですよね、皆(みんな)。」

 立花先生に向かって、そう言って笑ったのは畑中である。
 畑中達、試作部の人員四名と開発部の日比野は、前日の作戦参加の後、岩国基地から天神ヶ﨑高校へと社有機で移動して、学校敷地内の寮に一泊していたのだ。そして日曜日の朝から、HDG 三機の点検と併行(へいこう)して稼働データの吸い出しを行っているのである。
 午前中に其(そ)れらの作業を終え、午後からは社有機にて帰途に就く訳(わけ)なのだが、出張先で休日勤務をし、午後に移動の予定が有るとは言え早朝から作業をしている、そんな(貴方(あなた)達に言われる筋合いは無い)と、先程の台詞(せりふ)を吐(は)いた畑中に対して立花先生は思ってしまうのだ。
 勿論、そんな感想は口には出さず、その場は笑って流した立花先生は大人なのである。

 兵器開発部のメンバー達は、と言うと。緒美と樹里は、昨日の実験に関しての報告書製作を前日に引き続いて行い、維月とクラウディアはソフトの改良と、実験で記録したエイリアン・ドローンの通信電波分析を行うのだった。基本的には Sapphire が自動的に学習の度合いを深めていく仕組みが有るのだが、人がその条件を整える事で学習効率の改善が見込めるのである。
 そして、その他のメンバーは畑中や日比野の、作業補助を行うのだった。

 午前中の作業が終わり、各員が昼食を終え、そして本社からの出張組の出発と其(そ)の見送りが終わると、午後からの活動が始まるのだ。
 畑中は『仕事中毒(ワーカホリック)』が云云(うんぬん)と云っていたが、この日は日曜日だと言うのに活動しているのは兵器開発部に限った話ではなく、学校全体で生徒達が忙しそうに作業をしていたのである。
 実は天神ヶ﨑高校では『秋天(しゅうてん)際』、一般的に謂(い)う所の文化祭であるが、その開催が十日後に迫っていたのだ。その準備に、生徒達の多くは大忙しだったのである。
 天神ヶ﨑高校の『秋天(しゅうてん)際』では、学年やクラス単位での『出し物』は一切無く、展示や発表、出店(でみせ)等は各種部活か、或いは有志グループ達に依って催(もよお)されるのである。
 普段は一般の生徒達が寄り付かない滑走路側には、毎年、飛行機部が保有する滑空機(グライダー)や軽飛行機、理事長が使用している社有機等が地上展示され、場合に依っては開発試験用に天野重工が保有している F-9 戦闘機が試作工場から飛来して地上展示されたりで、『秋天(しゅうてん)際』期間中は第一格納庫界隈(かいわい)と滑走路周辺も一般生徒や地元の来客とで賑(にぎ)わいを見せるのだった。飛行機部が実施する、滑空機(グライダー)や軽飛行機での展示飛行(デモフライト)は毎年、注目を集めるのだが、特にレプリカ零式戦の展示飛行(デモフライト)は人気(にんき)が高く、天神ヶ﨑高校『秋天(しゅうてん)際』の『呼び物』の一つとなっていた。
 一方で、兵器開発部であるが。流石に、現在の活動内容、乃(すなわ)ち HDG の開発に関しては、高度な企業秘密や、防衛軍からも機密指定される様な内容も含まれている為、当然、一般への公開は不可能なのだった。そんな訳(わけ)で、『秋天(しゅうてん)際』には兵器開発部として展示や発表で参加出来る事物は無いのである。
 十年以上昔の兵器開発部の記録には、資料室に残されている諸諸(もろもろ)の物品を収集した先輩達に依る、その当時の軍事技術の動向(トレンド)や話題(トピック)を解説する展示とか、『俺の考えた最強の○○』みたいな『ミリヲタ』特有の痛々しさを『敢えて取り込んだノリ』を発揮した発表だとか、日頃の研究成果を公開する真面目な活動も、書き記されてはいたのだ。
 それらの記録を発掘した立花先生の提案で、二年前の事であるが、緒美が一年生の折(おり)に、仮に『エイリアン・ドローンに関する考察』と題した、緒美の個人的な研究成果を『秋天(しゅうてん)際』で展示発表する事が、兵器開発部の発表として企画がされたのだったが、その案は学校と本社側からストップが掛かったと言う経緯(いきさつ)があるのだ。その理由は、展示の内容が『エイリアン・ドローンの脅威と、防衛軍の迎撃任務に対する、一般市民の恐怖心や不安感を助長する恐れが有る』と、判断されたからなのである。
 この点に関しては、マスコミによる一般向けの報道に於いても、民衆が恐慌(パニック)に陥(おちい)るのを避ける目的で、エイリアン・ドローンに関する報道は過度に恐怖心や不安感を煽る演出は避けて、抑制的な報道に努めるようにと、当局からの指導や通達が出されているだ。勿論、報道の自由と称して、そう言った指導に従わない一部週刊誌や、ネットのニュース等も一定数が存在はしているのだが、それらの記事や言説は一般には『与太話』として受け止められており、大きな社会不安の種に、少なくとも日本国内ではなってはいなかった。
 ともあれ、兵器開発部は『秋天(しゅうてん)際』には、基本、不参加なのだが、HDG の開発作業の方が『秋天(しゅうてん)際』とは無関係に予定が詰まっており、兵器開発部が忙しい事に変わりはないのである。寧(むし)ろ、『秋天(しゅうてん)際』の開催一週間程度前から当日まで、第三格納庫の外へ HDG を出せなくなる事に、緒美達は頭を悩ませる事になっているのだ。
 それは、『秋天(しゅうてん)際』準備の関係で、普段は近寄らない一般生徒の目が、滑走路周辺で増えるからである。
 実際、この日曜日からは用心の為に『秋天(しゅうてん)際』が終了する迄(まで)の間、HDG 各機は第三格納庫から引き出さない事になっているのだ。
 その間は、茜達は格納庫内部で HDG の空戦シミュレーションを実施して、Ruby と Sapphire の各種空中機動や格闘戦機動に就いての学習を進める予定なのだった。
 そこで、昼休み明けの部室にて、茜は樹里に提案するのである。

「樹里さん、クラウディア、借りて行っていいですか?

「唐突(とうとつ)ね、天野さん。用件に依るけど?」

 樹里は微笑んで、言葉を返して来る。茜は直ぐに、理由を説明するのだ。

「はい、Sapphire の空戦シミュレーションに付き合って貰おうと思いまして。」

 その茜の説明に、キーボードを叩いていた手を止めて、クラウディア本人が反論する。

「Sapphire のシミュレーションに、わたしは要らないんじゃなかったの?」

 それに対しては、ブリジットが言うのだ。

「Sapphire が単独で学習出来る段階(レベル)は、もう終わったの。このあとは、ドライバーとの連携とか、必要になるんだから。」

「どちらかと言うと、ドライバーの方が Sapphire との連携を取らないとね。」

 その茜の補足に、更にブリジットが付け加えるのである。

「貴方(あなた)が Sapphire の動きを把握してないから、この間みたいな悲鳴を上げる事になるのよ。正直(しょうじき)、再々、あんなのを通信で聞かされるのは、堪(たま)ったもんじゃないわ。」

 そう言われるとクラウディアは、一気に顔を紅潮させ、返す言葉を詰まらせるのだ。昨日の、その状況を思い出し、クラウディアは自身が悲鳴を上げた事が、急に恥ずかしくなったのである。
 そこで、明らかに表情が変わったクラウディアをフォローする積もりで、恵が声を掛けるのだ。

「カルテッリエリさんは、ジェットコースターとか、ライド系は苦手だったかしら?」

 クラウディアは複雑な表情で、その問いに答える。

「苦手って言うか…その、余り、そう言うのに乗った経験が無いもので、森村先輩。」

 遠回しに説明するクラウディアだったが、間髪を入れず維月が言うのである。

「アレでしょ、激しいのには身長制限が有るから。でしょ?」

「その通りだけど、ズバリ言われると、何だか癪(しゃく)だわ、イツキ。」

 苦笑いで、維月に言葉を返すクラウディアである。一方で、恵が声を上げるのだ。

「あー、ごめんなさい、カルテッリエリさん。詰まらない事を聞いちゃったわね。」

 その恵には、からかう様に直美が声を掛ける。

「森村にしては珍しく、配慮(デリカシー)に欠ける発言だったかもね。」

「正直(しょうじき)言って、『その事』は全く気に留めてなかったから。」

 恵の言う『その事』とは、勿論、クラウディアの身長の事である。クラウディアは、少し慌てて恵に告げるのだ。

「いいです、いいです。森村先輩に悪意が無いのは、解ってますから。気にしないでください。」

 そこで、茜が善かれと思って、余計な事を言ってしまうのである。

「大体、ライド系なら、わたしも苦手だけど。それは全然関係無いから、要は慣れの問題よ、クラウディア。」

「もう、ライドの話はいいから、アカネ。」

 被せる様な勢いで、クラウディアは茜に言い返すのだった。
 それに続いて、緒美が意見の収拾を始めるである。

「取り敢えず、構えてない所で急激な機動が加わるのは、怪我の元だから、今日から暫(しばら)く、一、二時間はカルテッリエリさんもシミュレーションに参加しなさい。」

「怪我?ですか。」

 不審気(げ)にクラウディアが聞き返すと、続いて緒美が説明する。

「身体はインナー・スーツを介して固定されているから、まあ大丈夫だと思うけど。一番危険なのは、首、よね。不意に前後左右へGで頭を揺さ振られると、鞭打(むちうち)になる危険が有るわ。 当面は実機での飛行(フライト)が出来ないから、ちょうどいいでしょう。 シミュレーションに慣れて来たら、実機で実際にGを掛けて、経験を積む事にしましょう。 それで、いいかしら?城ノ内さん。」

 緒美に問われ、樹里は頷(うなず)いて言葉を返す。

「そう言う事でしたら。」

 すると、クラウディアが不満気(げ)に「え~。」と声を上げるので、笑って維月が言うのだ。

「あはは、いいんじゃない? 大体、貴方(あなた)、運動不足なんだから。少しは身体を動かした方が、成長するにもプラスってものよ。」

「運動不足って言ったら、貴方(あなた)も同じじゃない、イツキ。」

 そうクラウディアに言い返されると、ニヤリと笑って維月は言うのである。

「だってわたしは、これ以上、成長したくないもの~。」

 その維月の言動に、周囲に居た兵器開発部のメンバー達はクスクスと笑うのだった。

「部長の許可も出た事だし、インナー・スーツに着替えましょう、クラウディア。はい、立って~。」

 茜はクラウディアの背後から両側の脇の下へ腕を差し込むと、ぐいと引っ張り上げるのだ。

「分かったわよ、もう。」

 クラウディアは抵抗する事無く立ち上がると、それから茜に手を引かれて部室奥の、二階通路へと出るドアに向かうのだった。

「それじゃ、わたし達は HDG の立ち上げ準備、しておきましょうか。」

 成り行きを傍観(ぼうかん)していた瑠菜が、そう言って立ち上がると、「は~い。」と応えて佳奈も席を立つのだ。
 そうして此(こ)の日も、何時(いつ)もの様な、兵器開発部の午後の活動が始まったのである。

 

- 第16話・了 -

 

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STORY of HDG(第16話.12)

第16話・クラウディア・カルテッリエリと城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 16-12 ****


Ruby、右側の CPBL を出して。」

「ハイ。右腕側に、CPBL を渡します。」

 茜の指示で、HDG 後方の AMF 機体内から CPBL:荷電粒子ビーム・ランチャーが、茜の脇腹と右腕の間を擦り抜けて前方へと押し出されて来る。茜は HDG のマニピュレータを展開して、荷電粒子ビーム・ランチャーのグリップを掴(つか)むのだ。するとランチャーを解放した武装供給用のアームは、するりと AMF 機体内へと戻って行く。

Ruby、機首ブロック解放。」

 AMF の機首部が開き終わるのを待つ事無く、茜はブリジットに呼び掛ける。

「HDG02、右側の二機をお願い。」

 そして茜はブリジットの返事を待たずに、AMF を横転(ロール)させて機体を裏返しにすると、機首側を下へと向け、一気に高度を下げるのだ。

「了解、アカ…HDG01。続きます。」

 ブリジットは『茜』と言い掛けて『HDG01』と呼び直し、AMF を追う様に急降下へと移行する。そして射撃モードの武装を構えると、緩(ゆる)い旋回を続け乍(なが)ら、目標を正面へと自身を射撃位置へ向かわせるのだ。
 茜の AMF とブリジットの HDG-B01 は、クラウディアの C01 を挟(はさ)んで、それぞれが C01 とは凡(およ)そ二百メートルの距離を取っていた。降下しつつ、茜とブリジットは互いの間隔を二百メートル程へと寄せ乍(なが)ら、眼下に迫る目標へ照準を合わせる。
 真っ直ぐ上昇して来るかと思われたエイリアン・ドローン編隊だったが、急降下を続ける茜の視界下方へ向かって、徐徐(じょじょ)に移動して行くのだ。

「HDG02、目標は矢っ張り、Sapphire を狙ってる。」

 そうブリジットに注意を促(うなが)すと、茜は機体を更に 180°横転(ロール)させて、エイリアン・ドローン編隊を視界に捕らえ直すのだ。目標が射程距離の範囲を通過する迄(まで)、あと数秒である。
 位置関係としては、70°程の角度で上昇して行くエイリアン・ドローン編隊の後方上空から、茜達が射撃する形だ。

「HDG01、目標をロック。射撃のタイミングを指示して。」

 そのブリジットの要請に、茜はカウントダウンを始める。

「オーケー、HDG02。3…2…1…0、発射!」

 茜とブリジットは、照準を合わせた目標へ、荷電粒子ビームを連射したのだ。
 茜は AMF の左インテーク側面に固定された荷電粒子ビーム砲と、右腕に保持しているランチャーのそれぞれで、同時に二機の目標を射撃したのである。AMF の固定荷電粒子ビーム砲は機体の向きを目標に合わせる必要が有るが、右腕のランチャーの射線は AMF の機軸とは関係無く照準が付けられるのである。
 茜とブリジットは、それぞれが一門毎(ごと)に二連射を行い、その結果、一気に三機を撃墜したのだ。

「ああ~、ダメ、逃げられる!」

 通信から、ブリジットの悔(くや)しそうな声が聞こえて来る。
 ブリジットの武装は一門だけなので、AMF の様に複数機を同時に攻撃出来ないのだから、一機を逃してしまったのは、それは無理からぬ事なのだ。
 攻撃を免(まぬが)れたエイリアン・ドローン残存機は、直ぐに回避機動を開始し、それに対しては茜もブリジットも直ぐに対処が出来ない。急降下で行き足の付いた双方の機体は急激に向きを変えられず、機体の降下も直ぐには止められないのだ。茜もブリジットも、飛行軌道を降下から上昇へと引き起こして追撃を試みるが、その時点で、逃走するエイリアン・ドローンとの距離は開いていく一方なのである。
 逃走する敵機が、そのまま彼女達から離れて行って呉れるのなら、護衛の F-9 戦闘機のミサイルで処理されるのを待てばいいのだが、そのエイリアン・ドローン残存一機が目指しているのは、明らかに退避中であるクラウディアの HDG-C01 だったのだ。
 エイリアン・ドローンと HDG-C01 の飛行ユニットとでは、維持が可能な最高飛行速度に大差は無い。しかし茜達が飛行軌道を引き起こしている間に、エイリアン・ドローンは C01 よりも千メートル程は上空へ到達しており、その高度差を利用すれば、エイリアン・ドローンは C01 よりも大きな速度を得られるのだ。
 エイリアン・ドローンの上昇能力は地球側の航空機と比較するならば、それは異次元の性能である。そのエイリアン・ドローンの飛行原理、特に浮揚方法に就いては未(いま)だに、どう言った原理なのかは不明なのだが、それは『重力制御の様な』未知の技術であろうと推測されているのだ。だからと言って所謂(いわゆる)『UFO』の様な非常識な機動や、瞬間移動だとかが可能な訳(わけ)ではない。浮揚に関して重力の影響を免(まぬが)れているとされるエイリアン・ドローンと言えども、大気の抵抗や、慣性の影響は受けているのだ。だからエイリアン・ドローンは水平飛行で音速を突破する能力は保有していないし、旋回する際も普通に円運動になるのである。

「Sapphire! エイリアン・ドローンが、貴方(あなた)の後方上空に占位。何(なん)とか、一撃目を凌(しの)いで。直ぐにそっちへ行くから。」

 茜が声を上げると、Sapphire が応えるのだ。

「この儘(まま)だと、AHI01 の方へエイリアン・ドローンを連れて行く事になりますが、いいのですか? HDG01。」

「だけど、旋回すると速度が落ちるわよ、Sapphire。追い付かれるわ。」

 茜が答えると、更に Sapphire が言うのだ。

「此方(こちら)側で対処するのなら、AHI01 からは少しでも遠い位置の方が、いいのではないかと分析しますが? この儘(まま)で直線飛行を継続しても、最終的には追い付かれます。」

「それはそうだけど、対処出来る?Sapphire。」

「迎撃の指示を頂ければ。その為のシミュレーションも重ねました。」

 そんな茜と Sapphire との遣り取りに、クラウディアが声を上げるのだ。

「ちょっと、わたしを無視して話を進めないで、Sapphire。ドライバーはわたしよ。」

「では、この儘(まま)、退避を継続するか、それとも追撃して来る敵機を迎撃するか、どちらか選択を、お願いします。」

 そう Sapphire が判断を迫るので、クラウディアは緒美にその許可を求めるのである。

「HDG03 より AHI01、こっちで判断していいんですか?」

 それには直ぐに、緒美が言葉を返すのだ。

「いい訳(わけ)ないでしょ。HDG01 が追い付く迄(まで)、全速で直線飛行を続けなさい。こっちはこっちで退避してるから、此方(こちら)の心配はしなくていいわ。」

 緒美の返信の直後、Sapphire が宣言するのである。

「残念ですが、時間的猶予が無くなりました。敵追撃機が、降下接近して来ます。当機はドライバー保護の目的で、自己防衛行動を開始します。」

 Sapphire の宣告を聞いて、緒美は茜に問い掛ける。

「HDG01、間に合わない!?」

「あと、四十秒!」

 超音速巡航が可能な AMF であっても、上昇し乍(なが)らでは全力運転でも追い付くのには時間が必要だった。今以上に速度を上げるには機首ブロックの閉鎖が必要だったが、今は、その時間さえも惜しいのだ。
 実際問題として、AMF の機首ブロックを気流に逆らって閉鎖する為には、飛行速度を時速 300 キロメートル以下に落とす必要が有ったのだ。今は、減速している時間的な余裕は無かった。

「HDG02!」

 緒美はブリジットにも呼び掛けるのだが、返って来たブリジットの答えは絶望的だった。

「無理です!」

 HDG-B01 と C01、エイリアン・ドローン、加えて言うなら AHI01 である天野重工の社有機、これらの最高飛行速度は、ほぼ同じなのである。元々、五十キロメートルの距離が有った AHI01 は全力で退避すれば、エイリアン・ドローンに追い付かれる心配は無い。しかし、高度差は有る物の、ほぼ同じ位置へと迫られた HDG-C01 は、例え全力で逃げてもエイリアン・ドローンを振り切る事は出来ない。そして、全力で逃げる C01 とエイリアン・ドローンに、B01 が追い付くのは、それが全力で追い掛けても、能力的に不可能なのである。
 現状で追い付く可能性を有しているのは、茜の AMF のみ、なのだ。勿論、C01 の速度や飛行方向が変われば、話は違う。
 一方でエイリアン・ドローンは、自力での推進力に、高度差を利用した重力に因る加速を上乗せし、HDG-C01 の後方上空から体当たりでも狙っているかの様な勢いで接近していた。
 Sapphire は、クラウディアに向かって注意を促(うなが)すのだ。

「現在の勢いで敵機と接触、衝突すると、機体の安全を確保出来ません。回避機動後に攻撃を受ける様であれば、即座に迎撃行動に移行します。機動時の加速度は最大でプラス・マイナス 3G の範囲内に抑えますが、ドライバーはしっかりと掴(つか)まっていてください。」

「え? Sapphire?」

 クラウディアが同意するか否(いな)かには関係無く、HDG-C01 は右へ機体を傾けると機首を引き上げる様にして右旋回をし乍(なが)ら、機体全体で空気抵抗を利用した急減速を実行する。

「!Aaaaaaaaaaaaa!」

 通信から、クラウディアの悲鳴が聞こえて来るが、Sapphire は流石に躊躇(ちゅうちょ)しない。
 右旋回で急減速した HDG-C01 をエイリアン・ドローンはオーバーシュートするが、通過したエイリアン・ドローンは即座に『格闘戦形態』へと移行し、その変形時の空気抵抗で、此方(こちら)も一気に減速するのだ。そして更に、その余剰な運動量をもう一度、高度に変換して向きを変えると、HDG-C01 へと向かって来るのである。
 Sapphire は推力偏向(ベクタード・スラスト)ノズルを巧みに操って機体の姿勢を制御し、斬撃を挑(いど)んで来るエイリアン・ドローンに対して、C01 の両腕に装備されているビーム・エッジ・ブレードを展開するのだ。この時点で HDG-C01 は時速 200 キロメートル程で空中に在ったが、その飛行ユニットの主翼は完全に失速状態である。C01 の機体は緩(ゆる)やかに落下しつつ、エンジンの推力で姿勢を保っているのだ。
 最接近したエイリアン・ドローンは C01 の正面左上から、鎌状の右ブレードを振り下ろす。しかし、その攻撃は C01 のディフェンス・フィールドに因って弾かれるのだ。

「右ブレード、オーバー・ドライブ。」

 攻撃を受けるのとほぼ同時に宣言された Sapphire の指定で、右腕ビーム・エッジ・ブレードが形成する荷電粒子の刃(やいば)は、その長さを三倍程に引き延ばされると、左側へ構えた右腕を斜め上へと振り抜く。
 クラウディアの眼前に在ったエイリアン・ドローンの胸部が C01 の一撃で上下に分割されると、二つに分かれたそれは、唯(ただ)、落下して行くのだった。

「対処を終了。通常の飛行へ移行します。」

 そう、Sapphire が無感情に告げると、クラウディアは先刻の悲鳴のあと忘れていた呼吸を再開して、大きく息を吸い込み、そして息を吐(は)いた。

「HDG03、大丈夫?」

 漸(ようや)く追い付いた茜が、C01 の左側三十メートル程の位置に AMF を並べ、呼び掛けて来る。

「Sapphire、良くやったわ。Good job よ。」

 ブリジットの B01 は C01 の右手側二十メートル程の位置に付き、声を掛けて来る。C01 が針路を変え、尚且(なおか)つ減速した事で、B01 も追い付く事が出来たのである。
 そして、Sapphire がブリジットに応える。

「ありがとう、HDG02。シミュレーションの通りです。」

 すると、クラウディアが声を上げるのだ。

「貴方(あなた)達? Sapphire に変な事、教えたの。」

 透(す)かさず、ブリジットが言葉を返す。

「『変な事』って何よ。仕様通りの事だし、その御陰で助かったんじゃない。」

 この時点でクラウディアは、茜とブリジットが空戦シミュレーションで Sapphire に空中戦の学習をさせていた、その内容を全く把握していなかったのである。
 ブリジットに続いて、茜が言うのだ。

「取り敢えず、Sapphire を褒めてあげて、HDG03。ドライバー保護の為に、頑張ったんだから。ねえ、Ruby。」

「ハイ。流石は、わたしの妹です。的確な判断と、行動でした。」

 そこに、護衛の F-9 戦闘機からの通信である。

「此方(こちら)、コマツ01 だ。 HDG01、撃ち漏らしは、どこだ?」

 茜はくすりと笑い、応える。

「HDG01 です。全機、此方(こちら)で処理してしまいました。申し訳ありません。」

「いや、此方(こちら)としてはミサイル代が浮いたから文句は無いが、其方(そちら)は無事か?」

「はい。HDG02、HDG03 共に被害はありません。HDG03 のドライバーが、精神的(メンタル)に少々のダメージを受けた様子ですが…。」

 そこにクラウディアが、割って入るのだ。

「HDG03 ですけど、大丈夫ですし、問題ありません。御心配無く。」

「あはは。HDG03 も、元気そうな声だ。コマツ01、了解。」

 続いて、緒美の指示が入る。

「AHI01 より、HDG 各機。目標が存在しなくなったので、当方の実験は現時刻で終了します。思いの外(ほか)早く終了したので、燃料は十分(じゅうぶん)残ってると思うけど、テスト・ベースへ直帰は可能かしら。各機、報告して。」

 緒美の言う『テスト・ベース』とは、天神ヶ﨑高校の事である。この、現場から学校へ直接帰投する事は、予(あらかじ)め想定されていた、言わば『プランB』なのだ。

「AHI01 へ、HDG01 は直帰は可能です。」

 茜に続いて、ブリジットが報告する。

「AHI01。 HDG02 も大丈夫です。」

 そして、クラウディアである。

「HDG03 も直帰は可能です、AHI01。」

「了解。 AHI01 より、統合作戦指揮管制。そう言う訳(わけ)ですので、我々は現場から退去しますが?」

 緒美の連絡に対し、防衛軍側は直ぐに返事を寄越(よこ)すのだ。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第16話.11)

第16話・クラウディア・カルテッリエリと城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 16-11 ****


「HDG03、カウントダウン、5…4…3…。」

 緒美は、電子攻撃開始へ向けて秒読みを開始する。

「…2…1…電波妨害、開始。」

「HDG03、電波妨害を開始します。」

 クラウディアの宣言を受け、Sapphire が妨害電波の送信を開始する。HDG-C01 の外見的には頭部、複合センサー・ユニット後部の、一対の巨大な複合アンテナが微少に動作をしている程度しか、動きが見られないのだが、しかしそれは確実に機能しているのだった。
 電波妨害を受けているエイリアン・ドローンの側には、特に変わった動きは見られなかった。だが、実は、その事こそが異常だったのだ。飛来するミサイルに対するエイリアン・ドローン達の回避行動は、その開始が明らかにタイミングを逸しており、日本領空へと接近していたエイリアン・ドローン五十四機の内、実に二十九機がイージス艦の放ったミサイルによって撃墜されたのである。
 これは、57%の命中率を記録した事になり、この数字は従来の倍を超える値だったのだ。
 その事実を受けて、防衛軍の統合作戦指揮管制からの通信が入る。

「統合作戦指揮管制より、HDG03 及び、AHI01 へ。二十九機の標的撃墜を確認した。電波妨害攻撃の効果を引き続き確認したいが、攻撃の継続は可能か?」

 その問い掛けに、緒美がクラウディアに確認するのだ。

「AHI01 より HDG03。状況の報告を。」

「此方(こちら)、HDG03。機能に不調は無し、継続は可能です。目標は先程、使用周波数を変更した模様で、現在、再走査(スキャン)して…はい、傍受(キャッチ)しました。電波妨害を継続します。」

「此方(こちら)、統合作戦指揮管制、了解した。 統合作戦指揮管制より、攻撃位置に有る F-9 各機へ。個別に目標を選択し、対空誘導弾攻撃を開始せよ。」

 指揮管制からの通信を聞き乍(なが)ら、緒美は樹里が操作するモニターを覗(のぞ)き込むのだ。すると、普段であればミサイル攻撃を回避したエイリアン・ドローンは、それ程の間を置かずに編隊を再編するのだが、今回は右往左往している機体が多い様に見られたのである。
 緒美はヘッドセットのマイク部を押さえて、呟(つぶや)く様に言うのだ。

「確かに、効果は有ったみたいね。」

 その言葉に、モニターを操作している樹里と、緒美と同様にモニターを覗(のぞ)き込んでいた立花先生とが、無言で頷(うなず)いて見せるのだった。
 そして立花先生が不審気(げ)に、言うのである。

「さっき、管制は二十九機撃墜って云ってたわよね?確認されたのは。」

「それが、何か?」

 緒美が問い返すと、立花先生はモニター上の敵機シンボルを指差して数え、疑義を呈するのだ。

「…19、20、21、数が合わないのよ、五十四機居て、二十九機撃墜したのなら、残りは二十五機の筈(はず)でしょ? でも、戦術情報画面には二十一機しか表示されてないの。あと四機、どこへ行ったのかしら?」

 それを聞いて、緒美は直ぐに統合作戦指揮管制へ問い合わせるのだ。

「AHI01 より、統合作戦指揮管制へ。敵機の残存数が四機、数が合っていませんが、何か情報は有りますか?」

「此方(こちら)、統合作戦指揮管制。四機、数が合っていない事は承知している。探知を喪失(ロスト)した目標の行方(ゆくえ)は、目下(もっか)、捜索中。」

「AHI01 了解。HDG03、戦術情報に上がっていない目標を、其方(そちら)で検知してない?」

 緒美の問い掛けに、クラウディアは即答するのだ。

「HDG03 です。今の所、検知は無いです。多分、電波的に沈黙してるのだと。」

「そうね。撃墜された他の機体と一緒に、海面近く迄(まで)、降下したんでしょう。上空に居るのとは、違う周波数を使ってるのかも。」

「だとしても、電波を出せば、こっちの走査(スキャン)に引っ掛かる筈(はず)です。まあ、或る程度、長い時間、発信して呉れないと、引っ掛からないかもですが。取り敢えず、走査(スキャン)に使うチャンネルを二つ追加して、引っ掛ける確率を上げてみます。」

「それで、今やってる電波妨害の処理に、支障は出ない?」

「この位の標的数なら、問題ありません。先程の攻撃で、目標の数も減りましたし。リソースには、十分(じゅうぶん)な余裕が有りますから、大丈夫です。」

「了解、HDG03。念の為、携行している自衛用のジャム・ポッド、起動しておいて。」

「HDG03、了解しました。」

 緒美とクラウディアとの遣り取りの中で言及されていた『自衛用ジャム・ポッド』とは、HDG-C01 の飛行ユニット、その主翼に懸下(けんか)されている、電波妨害(ジャミング)用器機が収められた円筒状の装備である。一見して増槽(落下式の燃料タンク)や爆弾、或いは大型のミサイル等と誤認されそうであるが、そうではない。
 この『ジャム・ポッド』は、HDG-C01 が行っている電波妨害攻撃と同種の機能を持っており、乃(すなわ)ち、周辺の電波を走査(スキャン)してエイリアン・ドローンの通信周波数を割り出し、その周波数帯に対して可変ノイズを送信する事で、エイリアン・ドローンの通信を妨害するのだ。
 HDG-C01 の当該機能との相違点は、完全自動化されている為にオペレーターの操作に因る運用の柔軟性が無い事と、送信電波に指向性が無い事である。HDG-C01 が装備する複合アンテナには指向性が有り、この為、特定の位置に向かって強い電波を遠くに迄(まで)、照射する事が出来るのだ。だが、この特性は目標が近距離に存在する際には不利に働き、目標の移動に合わせて照射を続けるのが、目標の移動速度や位置に依っては困難になるか、或いは照射自体が不可能になるのだ。同じ速度で移動する目標であっても、アンテナとの距離が近い目標は、目標に合わせてアンテナを速く大きく動かす必要が有るからだ。指向性アンテナで動体を追跡するならば、アンテナ自体か、或いは電波ビーム向きを目標に合わせて、動かさなければならないのである。アンテナを機械的に動作させるにせよ、電波のビームを電子的に振り向けるにせよ、その動作には速度や角度に、自(おの)ずと限界が有るのだ。
 その点で『ジャム・ポッド』に内蔵された無指向性のアンテナは、全方位に向かって妨害電波を放射するので、目標の位置を特定する必要が無く、又、目標が占位する位置とは無関係に電波妨害が可能なのである。但し、電波の照射方向を絞れない事は、遠距離に存在する目標に対する電波妨害には不向きで、『ジャム・ポッド』が置かれた比較的狭い空間内でしか効果が期待出来ないのだ。それが『自衛用』と但書(ただしがき)が付けられている所以(ゆえん)である。
 この『自衛用ジャム・ポッド』は、HDG-C01 に搭載される可(べ)く開発されていた機能を、天野重工側で応用して仕立てた装備で、元来は緒美の発案に依る物ではない。エイリアン・ドローンに対する通信妨害が実際に効果が得られるのが確認された折(おり)に、F-9 戦闘機用の装備として航空防衛軍に売り込む事を目的に、HDG-C01 と並行して設計、試作されていた代物(しろもの)なのだ。その装備が今回の実験に持ち込まれたのは、チャンスが有ればその能力を検証しようと言う飯田部長の腹積もりからなのである。
 それが HDG-C01 程、遠距離の目標に対して効果を得られないとは言え、相当数の F-9 戦闘機に当該ポッドを装備させ、適切な間隔で飛行させれば、それに因って相応のジャミング空間を構成する事は可能であり、その場合には、それなりの効果が期待出来るのだ。そして、その天野重工からの提案には、防衛軍側も乗り気なのである。それは勿論、電波妨害による効果が十分(じゅうぶん)に証明される、それが前提なのではあるのだが。
 ともあれ、HDG 開発から得られた技術が何らかの製品になって、それが売上となるのであれば、HDG 開発の為に持ち出した資金の一部でもが回収されると言う事であり、それは天野重工の経営側として当然の企業努力な訳(わけ)である。因(ちな)みに、この案件は立花先生が現在も籍を置く企画部三課の真っ当な業務の結果であるが、立花先生自身は直接には関わってはいない。
 一方で、そう言った本社側の都合を承知した上で緒美は、HDG-C01 の近距離での電波妨害能力の不備を補う意味での『自衛用ジャム・ポッド』の携行を、今回の実験に組み込んだのだった。HDG-C01 の近接防御に就いては A01 と B01 に担当させるのが当初からの案だったので、C01 の電波妨害能力は遠距離を中心に考案されていたのだ。電子戦機である C01 をエイリアン・ドローンが狙って来るとしても、普通に考えれば接近して来る迄(まで)に対処してしまえばいいのだから、電子戦機自身が近接空間での防御を考える必要性は無さそうなのだが、現実にはレーダーによる探知を逃れて敵機が接近して来る状況は幾らでも考えられるのだ。その想定外の脅威に対して備えておく事は、実験に参加する茜達、ドライバーが負うリスクを下げるのに役立つ方策であると、緒美は考えたのだ。
 実際に現在、四機のエイリアン・ドローンの行方(ゆくえ)が不明であり、その四機がレーダーに探知され難い海面すれすれの高度で C01 へ向かって飛来している可能性は高いのである。

 イージス艦からの第一撃のあと、編隊を再編せず右往左往する様に飛行していたエイリアン・ドローンは、個別に九州やその周辺の島へと接近している機体から順に目標として選択され、在空の F-9 戦闘機からミサイル攻撃を受け、一機、又一機と、戦術情報画面から消えていった。
 この時、九州西方沖上空で迎撃の任務に就いていた F-9 戦闘機は二機編隊が四つ、つまり八機で、一機当たりが八発の中射程空対空誘導弾を搭載しているので、六十四発のミサイルが九州西方沖上空に存在していた事になる。更に、攻撃でミサイルを消費した編隊と交代する編隊が既に離陸しており、作戦空域へと向かっていたのである。
 この第二撃にて、F-9 戦闘機は合計二十五発の中射程空対空誘導弾を発射し、十四機のエイリアン・ドローンを撃墜しており、この命中率も 56%を記録したのだ。これも今迄(いままで)の、倍を超える結果なのだった。この時点で、エイリアン・ドローンの残存数は、確認出来ている物で七機であり、その上で未(いま)だ四機が行方(ゆくえ)不明なのだ。

「これは、わたし達の出番は無さそうね。」

 誰に言うでもなく、そう声を発したのはブリジットである。少し笑って、茜が言葉を返す。

「まあ、それで済めば、それはそれで、いい事じゃない? HDG02。」

「二人共、気を抜かないで。行方(ゆくえ)不明の四機が、気になるから。 警戒を続けてね、HDG01、HDG02。」

 そう呼び掛けて来たのは勿論、緒美である。
 すると、クラウディアが意外な事を言い出すのだ。

「HDG03 より、AHI01。その四機とは別だと思うんですが、西方向に時々、電波の発信源が四つ、出たり消えたりしてるんですが。」

 それには透(す)かさず、緒美が聞き返す。

「位置は特定出来る?」

「いえ、殆(ほとん)ど動いていないって言うか、接近して来ないからか、位置の特定までは。現状で、方角しか判りません。もう少し長時間、電波を出して呉れたら、何とかなったかも知れませんけど。プローブの搭載が間に合わなかったのは、痛いですね。」

 ここでクラウディアが言う『プローブ』とは、電波発信源位置特定用の拡張装備の事である。この日の実験には、その使用が、そもそも予定されてはいない。HDG-C01 の能力検証に於いて、次の段階で検証予定の機能なのだ。

「あとで分析出来るかも知れないから、取り敢えず記録だけでもしておいて、HDG03。」

「了解です、AHI01。」

 茜達、三機は対馬の南端から五島列島の北端付近の間を、片道十分程度で折返し飛行を繰り返す。とは言え、迎撃が開始されてからまだ、十五分程しか経過しておらず、待機時を含めても現在は三往復目の南向き往路の途上なのである。
 今回は今迄(いままで)に無い早いペースでエイリアン・ドローンへの対処が進行しており、これは明らかに HDG-C01 に因る電波妨害攻撃の成果なのである。同時に、エイリアン・ドローンは、その相互間の通信と、どこかに存在する上位との通信で連携を取っている事の証明でもあるのだ。この事は、緒美が予想していた通りなのだった。

 エイリアン・ドローンの残存七機も、F-9 戦闘機の各編隊から発射された第三撃、七発の中射程空対空誘導弾に因り、三機が撃墜された。そして残った四機も、引き続き実行された F-9 戦闘機からのミサイル攻撃、十発に因って全て撃墜されるに至ったのだ。
 その間、エイリアン・ドローン側は何度も通信周波数の切り替えを実行したのだが、その都度(つど)、HDG-C01 がその周波数を特定し、電波妨害を繰り返したのである。

「HDG03 より AHI01。妨害対象が消滅したので、発信が停止します。走査(スキャン)は続行中。」

 クラウディアが報告すると、ブリジットが緒美に確認するのだ。

「HDG02 です。これで終わりでしょうか? AHI01。」

 続いて、茜が声を上げる。

「行方(ゆくえ)不明の四機が、まだ見付かってないでしょ? 時間的に、沿岸部に接近しててもおかしくないけど。」

 そして、緒美が言うのだ。

「逆方向、西向きに逃走した可能性も有るけど…兎に角、もう暫(しばら)く警戒を緩めないでね。」

 そう注意を促(うなが)した直後、統合作戦指揮管制からの通報が入るのだ。

「HDG01 から HDG03、キミ達の真下に急上昇して来る敵機を捕捉。至急、退避されたし。護衛機、コマツ01、02 は対処を開始せよ。」

「え!?」

 茜が慌てて戦術情報を確認すると、確かに、自分達と同じ座標に敵機のシンボルが表示されているのだ。咄嗟(とっさ)に茜は声を上げる。

コマツ01、今からミサイルを発射されると、此方(こちら)に被害が出ます。対処は此方(こちら)で行いますので、其方(そちら)には撃ち漏らしの処分をお願いします。 いいですよね? AHI01。」

 エイリアン・ドローンは当然、退避した茜達を追跡して来る筈(はず)なので、そのエイリアン・ドローンを狙ってミサイルを発射されると、茜達の近くでミサイルが爆発する事になるのだ。十分に安全な距離が取れる保証が無く、場合に依っては飛散した破片を被(かぶ)る程度ではなく、爆発に巻き込まれる恐れも有ったのだ。
 瞬時に正確な計算は出来なかったが、エイリアン・ドローンが二千五百メートルを駆け上がって来る時間と、護衛の F-9 戦闘機が発射した中射程ミサイルが約二十五キロメートルの距離を翔破する時間、どちらが早いのかと言う事である。その瞬間、茜にはエイリアン・ドローンが彼女達と同高度に達する方が早いと感じられたのだ。だとすれば、エイリアン・ドローンを狙ったミサイルは、茜達の付近で爆発する事になるのである。
 そして緒美も、咄嗟(とっさ)に茜と同じ計算をしたのだった。

「了解、HDG01。HDG02 と共に、迎撃を。HDG03 は全速で、方位(ベクター) 90 へ退避。」

 緒美の指示を受け、直ぐに茜達は行動に移るのである。

 

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※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG(第16話.10)

第16話・クラウディア・カルテッリエリと城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 16-10 ****


 その様子に、緒美が優しく声を掛ける。

「大丈夫?カルテッリエリさん。」

 クラウディアは目頭と目尻に溜まっていた涙を、人差し指で押さえる様に拭(ぬぐ)うと、敢えて笑顔で応えるのだ。

「大丈夫です。これ位の事で涙が出るなんて、どうかしてますね。」

「そうじゃなくてね…。」

 クラウディアに向かい、微笑んで樹里が言うのだ。

「…多分、貴方(あなた)の心が快復に近付いているのよ。ねえ、維月ちゃん。」

 樹里に同意を求められ、維月は直ぐに応える。

「そうかもね。それは、いい傾向だと思うよ、クラウディア。」

 続いて、緒美が提案するのだ。

「取り敢えず、さっきの話題は御仕舞(おしまい)にしましょうか。」

 すると、維月が樹里に尋(たず)ねるのだ。

「え~と、そもそも何の話だったっけ?」

「それを、貴方(あなた)が訊(き)く?」

 少し大袈裟(おおげさ)に呆(あき)れた体(てい)で樹里が言葉を返すと、クラウディアが維月に向かって問うのだ。

「それで、貴方(あなた)は結局、どうするの?イツキ。HDG の開発に関わるのは、もう止めにする?」

「手伝うわよ、今迄(いままで)通り。クラウディアを放っては、おけないからね。」

 維月はクラウディアの問い掛けに対して、食い気味に答えを返したのだった。
 それには笑顔で、クラウディアは言うのだ。

「そう。それは取り敢えず、助かるわ。」

 そしてクラウディアは、キーボードのタイピングを再開するのだ。
 丁度(ちょうど)その頃、インナー・スーツ姿の茜とブリジットが部室へと戻って来るのだが、二人は部室奥側の北側ドアから入って来ると緒美達に声を掛けつつ、その儘(まま)、向かい合ったドアから南側の二階通路へと出て行くのだ。北側の階段で上がって来ると、部室を通過しなければ南側のインナー・スーツ用の準備室として使用している部屋へ行けないのだ。
 そのあと、立花先生や恵、直美、瑠菜、佳奈、飛行機部の村上や、九堂と言った面々が部室へ次々と戻って来るのだった。
 それから三十分程が経過して、その日の部活は終了となったのである。

 その翌日からも前日と同じ様に、茜とブリジットは Sapphire を含めての空戦シミュレーションを続行し、クラウディアと維月は協力してエイリアン・ドローンの通信電波を特定する為の『マーク』解析を継続していったのだ。
 その努力の甲斐(かい)は有って、三日目である 2072年10月19日、水曜日の部活中に、エイリアン・ドローンの暗号化通信の先頭マークと思われる共通信号の波形パターンを、遂にクラウディアは見つけ出したのである。
 それはクラウディアの予想通り、共通信号のパターンは一つだけではなく、防衛軍が記録したサンプルからは六種類の共通信号のパターンが見付かったのである。勿論、それぞれのパターンが存在する理由や、使い分けの意味、そう言った具体的な事項は一切が不明なのだ。徒(ただ)それは、一つ目の共通パターンに続いて、そのあと任意の波形が現れ、そして二つ目の共通パターンが登場し、もう一度、先のとは別の任意パターンが現れる迄(まで)が一括(ひとくく)りである、と推定されたのだ。
 クラウディアによると、『共通信号A+送信側識別コード+共通信号B+宛先識別コード』と言う型式ではないかとの推測だったが、それを確認する手立ては、現時点では何も無い。それでも取り敢えず、この解析で判明した六種類の『共通信号』の内、二種類が先述のパターンで登場する通信電波は、エイリアン・ドローン達の通信を特定するのに利用出来る、と言う事なのである。
 因(ちな)みに、その分析結果から、防衛軍が記録したサンプルの内、凡(およ)そ三分の一がエイリアン・ドローンの通信ではないと分類されたのだった。それは、それらの中に共通したパターンが、含まれていなかったからである。
 ともあれ、この分析結果は天野重工本社を通じて防衛軍側にも伝えられ、それはつまり、次のエイリアン・ドローンによる襲撃が発生した際の、HDG の迎撃作戦参加に因るC号機の電子戦能力試験の実施条件が整ったと言う事なのである。

 クラウディアの解析が一定の成果を出した、その翌日。2072年10月20日、木曜日には、予(かね)てより予報されていた台風16号が、九州から四国、本州へと上陸し、日本海へと通過して行ったのである。
 幸い、その進路は天神ヶ﨑高校の所在地域には近くはなく、学校の周辺地域に大きな被害が発生する事は無かったのだが、その日、学校の授業は全て中止となり、通学して来る普通科の生徒達は自宅待機となったのである。兵器開発部のメンバー達は全員が特別課程の生徒であり、特課の生徒は学校敷地内の寮で生活しているので、彼女達は当然、学校の寮内で台風の通過を待ったのである。当然、その日は全ての部活動も中止であり、寮生達は全員が一日、寮で待機となった訳(わけ)である。
 周辺に大きな被害は無かったとは言え、それなりに勢いの強い風雨が長時間継続したので、取り分けクラウディアは、来日して初めての台風を存分に堪能(たんのう)したのだった。

 台風一過から一日を空けての、2072年10月22日、土曜日。
 その日、兵器開発部メンバー達は、午前中から山口県に所在する海上防衛軍岩国基地に居た。地球周辺軌道の観測結果から、この日にエイリアン・ドローンが降下して来る事が予測されたからである。勿論、降下して来たエイリアン・ドローンが、必ずしも日本領空へと侵入して来るとは限らないのだが、当然、防衛軍は迎撃を準備するのである。
 地球周辺軌道の監視は、国際的な協力体制の下に実施されている。月から地球への軌道であれ、地球の衛星軌道であれ、エイリアン・ドローンが取り得る軌道は或る程度の幅の中に収まるので、それを観測する事自体は不可能ではない。そして観測が出来れば、地球への降下時期や降下地点の絞り込みも可能になるのだ。
 エイリアン・ドローンの降下ルートは、以前は『北極ルート』の一本だけだったのだが、現在は『アジアルート』、『北ヨーロッパルート』、そして『南米ルート』の三つのルートに分かれている。日本への影響が有るのは、当然『アジアルート』と言う事になり、今回もそのルートでの降下が予測されたので、それに備えているのだ。
 その予測が防衛省で採用されたのが昨日の事で、天神ヶ﨑高校には天野重工本社から作戦への参加が昨日の内に通達されたのだ。
 日本の防衛線は九州北西海上に設定され、天神ヶ﨑高校兵器開発部の面々は岩国基地から発進して、前線からは離れて電子戦支援の実験を実施するのである。

 この時代、日本に駐留する在日米軍は大幅に整理されており、北海道、神奈川県、沖縄県の一道二県に在日米軍は集約されているのだ。従って、この時代の岩国基地には、米軍は駐留していない。
 天神ヶ﨑高校と天野重工には、岩国基地の一角が囲い付きで提供され、そこには基地の人員の出入りも制限される等の配慮がされていた。これは、特に天神ヶ﨑高校の生徒が作戦に参加している事を防衛軍内部、主に現場部隊に対して秘匿する為の施策で、そして同時に、民間人である生徒達に、勝手に基地内を移動させない為の対策でもあるのだ。
 岩国基地には天野重工から、畑中等と言った兵器開発部メンバーとは顔馴染みである人員が派遣され、HDG の展開運用を支援していたが、それも、兵器開発部のメンバー達が現地の基地人員と顔を合わせない様にする為の方策だったのだ。基地側が天神ヶ﨑高校と天野重工に提供していたのは場所と電力と燃料だけで、それ以外の資材は全て、天野重工が持ち込んだのである。
 作戦の打ち合わせに関しても、HDG の護衛に飛ぶパイロット達と直接に顔を合わせる事はせず、借用した部屋と小松基地のブリーフィング・ルームとをオンラインで結んで、リモートでミーティングを行ったのだ。茜達の護衛を行う戦闘機二機は、小松基地から派遣されるのである。
 ブリーフィングに於いては当然、茜達の姿は映されなかったのだが、流石に声の加工まではしなかったので、茜達の声を聞いた防衛軍側のパイロットは、当初、聊(いささ)か動揺していたのだった。ここで声の加工をしなかったのは、HDG と戦闘機との間で通信通話を行う際に、声の加工をしないからだ。打ち合わせの時だけ加工をしてみた所で意味が無いし、通信の音声まで加工した場合、肝心の通話内容が聞き取り難くなっては、それは又、都合が悪いのだ。
 パイロット達には打ち合わせの前に、「試作機ドライバーの身元については詮索しない様に。」と厳命されていたので、それに類する質問等は一切がされなかった。彼等には茜達の身分は「若い、天野重工の社員である。」とだけ、説明がされていたのである。それは事実の一面であり、嘘ではない。

 天野重工からの人員は前日中に岩国基地に入り、天神ヶ﨑高校兵器開発部の受け入れ準備を、基地側の担当者と協議しつつ進めていたのである。
 そして当日の午前九時には、HDG 各機が空路での自力展開に因り岩国基地へ到着したのだ。
 HDG のドライバー以外の兵器開発部メンバーは、天野重工の社有機が移送を担当し、今回は兵器開発部の正式な部員ではない維月も、展開メンバーに含まれていた。
 所で、この日、土曜日は平日なので、学校では授業が行われていたのであるが、緒美を始めとして作戦に参加した兵器開発部のメンバー達に就いては、社用での授業不参加であると言う事で、後日に補習を受ける条件で、授業は出席扱いとなっていたのだ。
 岩国基地に到着した HDG 各機は、目隠しのされたエリアで点検と燃料補給が行われ、その間、茜達はドライバー三名と、指揮役の緒美、監督者の立場である立花先生の五名は、リモートでのミーティングに参加したのである。
 その後は、エイリアン・ドローンの動向を待って、防衛軍統合作戦指揮管制からの出動指示が有る迄(まで)、待機となったのだ。

 そして午前十一時の少し前、東シナ海を東進するエイリアン・ドローンの編隊が探知され、迎撃の為に待機している全ての部隊に手動の命令が下されたのである。
 兵器開発部の HDG 三機の作戦空域は対馬から五島列島を結ぶ直線上で、この空域を往復し乍(なが)ら、防空識別圏から領空に向かって接近して来るエイリアン・ドローンの通信を探知し、電波妨害を実施するのだ。直掩機を務める小松基地の F-9 戦闘機二機とは、作戦空域で合流する予定で、実際に茜達が現場に到着すると間も無く、接近して来たのである。

コマツ01 より、HDG01。其方(そちら)を視認した。一度、上空を通過する。」

 小松基地の F-9 戦闘機からの通信、第一声である。茜は、直ぐに返事をするのだ。

「此方(こちら)、HDG01。戦術情報にて、其方(そちら)の接近を確認。護衛の任務、ご苦労様です。」

 茜達はクラウディアのC号機を中央に、右側に AMF、左側にB号機と、三機が横並びで南向きに五島列島方向へと、高度二千五百メートルを飛行していた。因みに、五十キロ程東側には随伴機である天野重工の社有機が飛行している。随伴機の機長は加納が務めており、機内には飯田部長と立花先生、緒美と樹里、そして本社開発部から日比野が参加し、搭乗していた。当然、日比野と樹里は機内で HDG 各機のデータを受信し記録しているのである。
 同時に岩国基地では、維月がデバッグ用コンソールの操作を担当して、HDG 各機の状態をモニターしつつ、受信データの記録を並行して行っているのだ。点検、整備を支援していた畑中や倉森、新田、大塚、そして兵器開発部の恵、直美、瑠菜、そして佳奈の八名には、各機を送り出してしまって以降は、もう、無事の帰りを待つ事以外に出来る事は無いのだ。
 一方で、天野重工の待機場所には三台のモニターが置かれ、A号機からC号機のメインセンサーが捕らえた映像と機体の状態を表す各種諸元の数値が映し出されており、その画像から異常が発生していないかを監視するのも、実は待機組の重要な仕事なのだ。監視の目は、多いに越した事は無いのである。
 因(ちな)みに今回、兵器開発部のメンバー達は学校の制服ではなく、本社から借用した天野重工の女性用作業服を着用している。流石に、高校の制服姿が展開先である基地内で目撃されるのは、回避する必要が有ったのだ。

 茜達の上空を通過した二機の F-9 戦闘機は、大きく旋回して茜達の前方を横切り、東方向へと移動して行く。

コマツ01 より、HDG01。それでは、打ち合わせ通りの位置へ着きます。脅威の接近が有れば、直ぐに対処しますので、安心してください。実験の成功を。」

「此方(こちら)、HDG01。ありがとう、御協力に感謝します。」

 茜が応えると、随伴機からの飯田部長の通信が聞こえるのだ。

「此方(こちら)、随伴機、AHI01 より、コマツ01 へ。天野重工を代表して、防衛軍の協力に感謝する。頼りにしてるよ、宜しく。」

「此方(こちら)、コマツ01。打ち合わせ通り、当方は HDG01 編隊と、AHI01 の中間位置にて待機する。宜しく。」

 直掩機とは言っても、速度に余裕の有るジェット戦闘機なので、護衛対象機にピッタリとくっついて飛行する必要は無い。作戦空域は空中と地上の両方から、或いは海上からもレーダーで空域全体が監視されているので、敵機の接近が有れば直ぐに捕捉が可能なのである。加えて、F-9 戦闘機はエイリアン・ドローンとは、機銃を用いた空中戦(ドッグファイト)は極力避ける方針なので、主用兵装はミサイルなのだ。だから、レーダー監視を掻(か)い潜(くぐ)って、突然、護衛対象機の近傍(きんぼう)にエイリアン・ドローンが出現した場合、その近くに F-9 戦闘機が居てもミサイルの使用出来る距離まで離れなければならず、それでは却(かえ)って対処に時間が掛かってしまうのである。無論、その儘(まま)、機銃に頼った空中戦(ドッグファイト)に突入するのは無謀でしかなく、その場合、一気に距離を詰められた F-9 戦闘機はエイリアン・ドローンの斬撃を受ける事になるのだ。そうなったら、F-9 戦闘機に反撃する術(すべ)は、何一つ無いのである。
 そう言った訳(わけ)で、茜達の前方で迎撃の為に待機している、他の F-9 戦闘機も密集した編隊で飛行している訳(わけ)ではない。数百メートルの間隔を取った二機編隊が一組となり、それぞれの編隊が数十キロメートルの間隔を空けてポツリ、ポツリと作戦空域に分散しているのだ。それら編隊の間隔など、中射程ミサイルで迎撃を実施するのであれば無きに等しいし、寧(むし)ろ密集していた場合は何か有った際に、被害が拡大する可能性が高くなるだけで、一つの利も無いのである。
 唯(ただ)、十数機が横並びになった戦闘機から一斉にミサイルが発射されると言った、映画の様に勇壮な場面が見られない事が一部関係者の間で残念がられていたのではあるが、そんな事は防衛作戦上は『どうでもいい事』なのだった。

「AHI01 より、HDG03。それじゃ、エイリアン・ドローンの通信、走査(スキャン)開始して。」

 緒美から、クラウディアへ向けての指示である。ここで、HDG01~03、AHI01、そしてコマツ01、02、合計六機の通話は全てが各機に聞こえており、加えて防衛軍統合作戦指揮管制と、岩国基地でモニターしている維月達にも聞こえていた。これらは全てが、防衛軍のデータ・リンクで接続されているのだ。
 そう言った都合で、今回の作戦行動中、兵器開発部の各自は、名前で呼び掛けないようにと、前日から何度も、緒美や立花先生から注意を受けているのである。

「HDG03、了解。走査(スキャン)、開始します。」

 クラウディアから返事が有って十数秒後、再(ふたた)び、クラウディアが声を上げる。

「HDG03 です。エイリアン・ドローンの通信を傍受(キャッチ)、現在の周波数を特定しました。ロックして、攻撃対象の追跡を開始します。」

「AHI01、了解。思ったよりも、早かったわね。戦術情報と、通信から検出した座標は合いそう?HDG03。」

「はい。大きなズレは、無さそうですね。それよりも、想像以上に相互に通信しているみたいです。もっと静かにしてるのかと、思ってましたけど。」

「そう。記録出来る物は、記録しておいてね、HDG03。」

「勿論です、AHI01。 データは多い方が、検出の精度が上がりますから。」

「オーケー、HDG03。 その儘(まま)、防衛軍の攻撃が始まる迄(まで)、待機しててね。」

「HDG03、了解。」

 これは天野重工、或いは天神ヶ﨑高校兵器開発部にとっては実験だが、防衛軍には実戦なのである。だから、電子攻撃に於いても、最大の効果を狙わなければならないのだ。そこで、C号機による電波妨害攻撃はイージス艦による迎撃第一波の、着弾のタイミングを狙って開始する計画が採用されたのだ。
 電波妨害の効果が有るのか無いのか、有るとして何(ど)れ程の時間持続するのか、そう言った事柄が不明な中で最初だけでも効果を得ようとするなら、最初の攻撃タイミングは敵の行動が一番、慌ただしくなる時間帯に仕掛けるのが効果的だろう、と言う訳(わけ)である。
 イージス艦から発射されたミサイルが敵編隊に到達する際に、それを回避する為にエイリアン・ドローン側は各機体間や、その上位との間で、膨大な通信を行うのではないか? であれば、それを妨害する事が出来れば、ミサイルの命中率が改善されるのではないか? そんな緒美の仮説を検証する実験であり、実際の戦果が期待される作戦なのである。

「HDG01 より各機へ。戦術情報より、イージス艦がミサイルを発射した模様です。」

「此方(こちら)、AHI01。情報を確認。HDG03、電子攻撃、準備。」

「HDG03、攻撃準備します。攻撃開始の合図(キュー)をください、AHI01。」

「了解、HDG03。待機してて。」

 クラウディアの要請に対し、緒美の冷静な声が返って来るのだ。
 作戦では、ミサイルが敵編隊に到達する十秒前に、電波妨害を開始する計画である。
 社有機の機内で緒美は、樹里が操作するモニターに映し出された戦術情報画面を見詰め、画面上の各目標に向かって縮んでいく線の長さで、電子攻撃開始のタイミングを計っているのだ。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第16話.09)

第16話・クラウディア・カルテッリエリと城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 16-09 ****


 そして維月が真っ先に、緒美に声を掛けるのだ。

「あ、鬼塚先輩。今日の飛行訓練は終わりですか?」

「ええ、もう四時になるのよ。今日は日曜日だから、ここも五時には閉めるからね。」

 そう言われて、維月は部室の壁に掛かっている時計で時刻を確認し、「あ、ホントだ。」と思わず声を漏らすのだ。クラウディアと二人で、解析プログラムの作業に没頭していたので、維月は、すっかり時間を忘れていたのである。
 そんな維月に、樹里が尋(たず)ねる。

「それで、進捗はどう?」

 維月は「う~ん。」と唸(うな)ると、苦笑いしてクラウディアに話を振るのだ。

「…どうかな?クラウディア。」

 クラウディアはキーボードを叩く手を止め、樹里の方へと顔を向けて報告する。

「まだ、『海の物とも、山の物とも』って感じですね。取り敢えず、今、改造しているプログラムで六本目ですけど。」

「まあ、初日から、結果なんか出ないよね。慌てる必要は無いから、じっくりとやってちょうだい。」

 樹里は笑顔で、そう返すのだった。それに続いて、緒美が付け加える。

「じっくりやって貰っても構わないけど、今日は、あと一時間位で切り上げてね。」

「は~い。」

「分かりました。」

 維月、クラウディアの順に、それぞれが返事をすると、維月が樹里に問い掛ける。

「…と言う事は、下の方は、もう終了作業中?」

「そうよ~天野さんとボードレールさんは、そろそろ上がって来るんじゃないかな。今日は三機で空戦シミュレーションをやってただけだから、片付けも早く終わると思うけど。」

「そう。じゃあ、あと三十分で、これだけ、やってしまおう。」

 維月は、自分の PC へと向き直ると、キーボードを叩き始めるのだ。樹里は維月の背後へと回り、その作業を眺(なが)めつつ問い掛ける。

「維月ちゃんは、何やってるの?」

「サンプル・データの抽出(サンプリング)モジュールのね、アルゴリズムの変更。ちょっと、思い付いたのが有って。」

「ふうん…。」

 樹里は顔を上げ、正面の席に居るクラウディアにも尋(たず)ねるのだ。

「…カルテッリエリさんの方は?」

「はい。比較検出の処理を、トリプル・トラックにする改造を。」

「三本、並列処理? 目的は高速化?」

「いえ、暗号化通信の先頭マークが、一つだけとは限らないので。二、三種類が存在するのなら、それを同時に引っ掛けてみようかと。」

「成る程…解った。進めてちょうだい。」

「はい。」

 返事をするとクラウディアも、猛然とキーボードをタイプし始めるのだ。
 そんな三人の様子を、笑顔で眺(なが)めている緒美に気付き、樹里が声を掛けるのである。

「部長の方から、何か?」

 緒美は笑顔を崩す事無く、言葉を返すのだ。

「いいえ。其方(そちら)の作業に就いては、統括は城ノ内さんに任せるわ。それが一番、間違いが無さそうだから。」

「それは構いませんけど、御意見が有ったら、遠慮無く言ってくださいね、部長。」

「あはは、実務の具体的な内容になったら、わたしの知識じゃ丸で追い付かないから。仕様書の方向性に沿って、進めて呉れてると信じてるわ。」

 樹里は、微笑んで応える。

「それは、御心配無く。」

 その言葉に、緒美も微笑みを返すのである。
 そこで、不意に維月が、緒美に問い掛けるのだ。

「そう言えば鬼塚先輩、さっきも話してたんですけど、クラウディアみたいな特殊技能(スキル)持ちが、今年、入学して来てなかったら、どうされるお積もりだったんですか?」

「どうするも何も、その時の条件で出来る様にやっただろうって、それだけの事よ。今年の一年生達が、別格に特殊だったから、開発作業は異常に進展しているけど、これは想定外の事態よね。わたしの感覚だと、今年に入って二年分位、一気に作業が進んだ様に思うわ。 本社の方(ほう)の思惑は、知らないれけどね。」

「例えば、クラウディアがこの学校に来たのは偶然じゃなくて、学校や本社の側が、人材を確保する為に何かしら手を回した、とか。そんな事は、無いですよね?」

 それは維月の、聊(いささ)か陰謀論めいた思い付きだったのだが、実際、疑問を口にした当の維月も、半笑いでなのである。それには、苦笑いして樹里が言うのだ。

「HDG の、開発作業の為に?」

 その苦笑いは緒美にも伝染し、そして言うのだった。

「さあ、少なくとも、わたしは知らないわね。」

 するとクラウディアが、声を上げるのだ。

「それは、無いわね、イツキ。 この学校に入学する事は、誰かに勧められた訳(わけ)ではないから。わたしに関しては、全くの偶然よ。 アカネの場合は、どうだか知らないけどね。」

 今度は緒美が、微笑んで維月に問い掛ける。

「井上さんは、どうして、そんな風(ふう)に思ったのかしら?」

 維月は視線を上に向けて暫(しば)し考え、そして答えた。

「そうですね。余りにも都合の良い人材が揃(そろ)っている様な気がして、誰かの意図が反映されている…のではないか?と、言った所でしょうか。」

 維月の意見を聞いて、緒美はくすりと笑い、そして言うのだ。

「井上さん、それは考え方が逆なのよ。今、居る人材の能力に合わせて、開発作業の内容が決まっているのが事実なの。今の開発作業が予(あらかじ)め決まっていたと考えるから、人材の能力がそれに合わせて揃(そろ)えられた様に思えるだけで。 さっきも言った通り、揃(そろ)っている人材の能力が今よりも低かったなら、その場合は、その時の能力の総量に見合った開発作業の内容になっただけの事だわ。」

 続いて、樹里が補足する。

「どうして、それだけの能力の人材が、貴方(あなた)を含めて、ここに揃(そろ)ったのか、って言うなら、それは、この学校がそう言う学校だから、って以外に無いですよね。ねえ、部長?」

「まあ、そう言う事でしょうね。」

 緒美は、微笑んで頷(うなず)くのだ。
 そして維月は、一呼吸置いて緒美に問い掛ける。

「あの、鬼塚先輩。この前、クラウディアに訊(き)いてた、防衛軍に協力する件、あれ、本当にやるんですか?」

「その話を、訊(き)きたかったの?井上さん。」

 数秒、維月は応えなかった。すると、クラウディアがキーを叩く指を止めるのだ。
 そして、維月は口を開いた。

「…まあ、そうですね。正直(しょうじき)、クラウディアを戦闘が起きるかも知れない現場に出すと言うのは、賛成出来ません。」

「天野さんと、ボードレールさんなら、構わないの?」

 その、少し意地の悪い緒美の問い掛けに、維月は軽くイラッとして言葉を返す。

「そんな事、言ってませんし、本来なら天野さん達が出るのだって良くないって、鬼塚先輩も思ってるんじゃないですか?」

 緒美は、微笑んで維月の問いに答える。

「そうね。その通りよ。」

 維月は、言葉を続ける。

「今迄(いままで)のは、緊急回避的な防御行動だった筈(はず)ですけど、今度のは違いますよね? わたし達が、そこ迄(まで)付き合う必要性は、無い筈(はず)です。 だったらここで、もう、わたし達は手を離す可(べ)きなんじゃないですか? 部外者のわたしが言う事じゃ、ないかも知れませんけど。」

「成る程。」

 緒美が一言を返すと、今度は樹里が、維月に向かって宥(なだ)める様に言うのである。

「取り敢えず、今、貴方(あなた)達がやってる作業、『マーク』の分析が出来る事が、次の実験…実戦? その、参加条件なんだけどね。エイリアン・ドローンの通信電波が特定出来ないと、照射する妨害電波の周波数を確定出来ない訳(わけ)だし。」

 樹里に続いて、緒美が維月に問い掛ける。

「協力を継続して貰うのは、難しいかしら?井上さん。」

「心情としては、迷う所ですね。」

「だったら貴方(あなた)は、ここで降りても構わないのよ? 此方(こちら)としては、無理強(むりじ)いは、する積もりは無いから。」

「鬼塚先輩は、どうあっても手を引く気は無い、と?」

「そうね。今、この案件を手放す事は出来ないの。」

 それは、先日の会合に参加した三人が話し合った通りで、緒美は将来的に Ruby の救出を実現する為には、HDG 開発計画への関与は止められないのだ。徒(ただ)、その事情を知っている者(もの)は、この場に居るのは樹里だけなのである。

「それが何故なのか、教えては頂けないんですよね?鬼塚先輩。」

 維月は、少し寂し気(げ)な表情で、緒美に確認するのだった。そして緒美は、ゆっくりと頷(うなず)いて、維月に言ったのだ。

「そうね。今は話せる段階ではないわね、申し訳無いけど。」

 それは緒美と樹里に因る、維月への配慮である。現時点では何の確証も無いにせよ、Ruby をミサイルの誘導装置として使用する計画が緒美の予想した通りなら、維月の姉である井上主任は、その計画を主導する側の人間であるのだ。
 Ruby の開発チームのリーダーである井上主任が『その計画』を知らない筈(はず)はなく、その上で敢えて参画しているからには、それなりの理由が有るのだろう、そう緒美と樹里は考えていた。であれば、その理由が判明する迄(まで)は、維月に対して『その計画』に就いては、伏せておきたいのである。
 勿論、井上主任が『その計画』に参加している理由が、単に『社命だから』と言う、ドライな理由である可能性も有ったが、樹里や緒美がそうだとは思っていないのは、安藤達から聞き及んでいた井上主任の人物像が影響していたし、何よりも維月自身の人柄が、その『維月の姉』を『そんな人物』ではないと想像させたからである。

「少なくとも、カルテッリエリさんは危険を承知で、試験への参加を承諾して呉れてる。彼女の意思も尊重してあげて、維月ちゃん。」

 その樹里の発言に、少なからず驚いて維月は言葉を返すのだ。

「樹里ちゃんが、そんな事、云うなんて思わなかった。」

「そう?」

 短く応え、力(ちから)無く笑う樹里の表情に、或る程度の事情を樹里は知っているのだと、その時、維月は推測したのだ。当然、樹里を問い詰めてみた所で、緒美の様に話しては呉れない事は維月にも容易に想像が付いたし、樹里を困らせる事は維月の望む所では無いのだ。
 そして、続いて声を上げたのは、それ迄(まで)、黙って状況を見ていたクラウディアである。

「イツキ、心配して呉れるのは嬉しいけど、だからって邪魔はしないでね。」

 その言葉を聞いて維月は、冷めた表情のクラウディアに、真面目に問い掛けるのだ。

「クラウディア、貴方(あなた)、まさか敵討(かたきうち)をしたいの?」

 クラウディアは表情を変える事無く、答える。

「それを全く考えてないって言ったら、嘘になるけど。でも、今は冷静だから、安心して呉れていいわ、イツキ。 大体(だいたい)、何をした所で、アンナが帰って来る訳(わけ)じゃないし。」

「そうね。」

 クラウディアの発言を短い言葉で肯定したのは、緒美である。それを聞いて、クラウディアの表情は、ふっと緩むのだった。そして少し笑って、クラウディアは告白するのである。

「…敵討(かたきうち)って話なら…実は、その当時、わたしが考えていたのは、ドイツ空軍への復讐でしたけどね。エイリアンに、ではなくて。」

「どうして?…」

 その意外な発言に、真意を質(ただ)したのは維月だった。クラウディアは間髪を入れず、答える。

「だって、アンナを死なせたのは、直接的には空軍の爆撃よ? だから、色々と調べたわ。」

「非合法な手段で?」

 樹里の問う『非合法な手段』とは、勿論、『ハッキング』の事である。
 クラウディはくすりと笑い、樹里に向かって頷(うなず)くと言うのだ。

「空軍のシステムに侵入して、クラッキングする事も出来ただろうし、あの日、爆撃した戦闘機のパイロットを突き止めて、そっちを攻撃する事も考えました。」

「でも、やらなかったのよね?」

「はい。冷静に考えれば、空軍がアンナを殺したかった訳(わけ)では無いだろうし、ミサイルを発射したパイロットだって命令に従ってただけだろうし。じゃあ、命令を下した上官に責任が有るのか…誰に責任が有るのかなんて、結局、判りませんでした。それで仮に、本当に空軍のシステムを破壊してたら、防空の任務が果たされず、エイリアン・ドローンの襲撃が有った時に、別の、もっと多くの被害が出てたでしょうし。そんな事は、誰も、わたしも望んでいませんから。 それに、結局…直ぐに、わたしが手を下す必要も無くなりましたから。」

 樹里の確認に答えた最後、クラウディアの顔から、表情が消えたのである。だから緒美は、クラウディアに尋(たず)ねたのだ。

「何か有ったの?」

 緒美の方へ視線を移し、クラウディアは感情の籠(こ)もっていない口調で答えたのである。

「そのパイロットが、自殺したんですよ。自分が発射したミサイルの標的、わたし達が埋まったビルには、彼の奥さんと娘が来ていて…。」

「その人達も、助からなかったのね。」

 緒美は、クラウディアが最後までを云う前に、話の結末を確認をしたのである。クラウディアは、静かに唯(ただ)、頷(うなず)いて答えたのだった。そして、緒美はクラウディアに問い掛けるのだ。

「その事件、どんな展開だったのか、聞いてもいいかしら?カルテッリエリさん。 話すのが嫌だったら、言わなくてもいいけれど。」

 クラウディアは力(ちから)無く笑って「いいですよ。」と答え、それから語り始める。

「わたしが住んでいた町に、エイリアン・ドローンの襲撃が有った、あの日は土曜日でした。あとで聞いた当局の発表だと、降下してきたのは三機で、空軍の迎撃を擦り抜けて来た一機が、街の中まで入って来ました。わたし達は行政からの避難指示を聞いて、その時に居たショップが入っていたビルの地下へ避難しましたから、直接、状況の推移を目撃した訳(わけ)じゃありません。」

「あとで、その、『調査』して仕入れた情報なのね?」

 樹里が敢えて『調査』と云ったのは、当然、『ハッキング』を意味している。クラウディアは素直に「はい。」と答えると、語りを続けるのだ。

「それで、街の中に侵入して来たエイリアン・ドローンは、地上に降りて商業ビルの一つ、地上階に天井の高い展示スペースが有るビルの中に入ってしまったんです。だから、その現場に到着した空軍機からは、エイリアン・ドローンの姿は視認が出来ず、目標のビルは司令部の管制官が指示しました。その時点で、指示されたビルが通り一つ間違っていましたが、パイロットは目標の確認をしないで対地ミサイルを発射したんです。それで、わたし達が避難して居たビルが倒壊した、そんな流れです。」

 緒美は溜息を一つ吐(つ)き、呟(つぶや)く様に言うのだ。

「成る程…そもそもは管制官の指示ミスが原因だけど、パイロットが注意深く確認をしていれば、誤射は回避出来たかも知れない、って事よね。その誤射で自分の家族も死んでいたとなると、ホント、悲劇よね…。」

「悲劇…ですか。当時、その報道を聞いた時、わたしは一人で笑っちゃいましたけど。でも…今、改めて考えると、確かに、酷(ひど)い偶然で…悲劇的ですよね。」

 そう、独り言の様に言ったクラウディアの目からは、一筋の涙が零(こぼ)れたのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第16話.08)

第16話・クラウディア・カルテッリエリと城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 16-08 ****


 とは言え、この試験自体には、特にドラマティックな要素は無い。唯(ただ)、事務的に淡々と、試験項目が消化されていくのみなのだ。
 その内容に就いて、大まかに次に記そう。

 ここで確認が計画されているのは、C号機に搭載された電子戦器材の内、電波妨害等の発信能力と、敵側の電波発信源を探知する能力なのである。そこで、AMFとレプリカ零式戦のそれぞれに、C号機が発信する妨害電波の受信器と、敵側の電波源を模擬する発信器とが取り付けられ、それらと送受信する事でC号機に於ける該当機能の確認を行うのだ。
 先(ま)ず、C号機から発信される妨害電波が、設定された周波数や波形、出力であるかを、AMF とレプリカ零式戦の側で受信して、その信号を記録、解析する。その解析自体は、AMF やレプリカ零式戦の機上ではリアルタイムに処理は出来ないので、受信データはデータ・リンクでテスト・ベースへと送られ、そこで暫定的な解析が行われる。詳細な解析は後日、データが送られる本社にて、同時に記録されたC号機の複数のログと照合がされて、その能力が仕様に合致しているかの判断がされる事になるのだ。
 エイリアン・ドローンが機体間の通信に使用している電波の周波数帯は、防衛軍の地道な記録と解析に拠り判明しているので、今回もその範囲から試験で使用される周波数が選定され、検証がされる。
 C号機は妨害電波を妨害対象へ指向して発信する仕様なので、今回は AMF とレプリカ零式戦の二方向へ向けて、設定通りに発信されるかが確認され、更に、二方向で別々に機動する二機それぞれに対し、妨害電波の照射を続けられるかも確認される。因(ちな)みにC号機は、二百五十六機を同時に追跡し電波妨害を実行する能力が、仕様上は予定されている。
 C号機による妨害対象の追跡は、基本的には防衛軍データ・リンクの戦術情報を基礎情報として照射方位の指定が行われているのだが、妨害対象から発信された電波を受信した場合は、それを分析し、その位置を特定する。その能力を確認するのが、AMF とレプリカ零式戦に取り付けられた発信器からの電波を、C号機で受信して解析する試験項目なのである。
 これも、任意に機動する AMF とレプリカ零式戦の、防衛軍が捕捉した戦術情報上の位置データと、各目標機から発信される電波をC号機で受信して特定した位置データとを照合し、その精度を確認する。
 AMF とレプリカ零式戦に取り付けられた発信器には二種類の周波数が設定されており、データ・リンクに因ってベース側から周波数の切り替えが行われる。電波の周波数二種を仮にA、Bと呼ぶならば、二機での、その発信パターンは四種類が考えられ、則(すなわ)ち、AA、AB、BA、BBの組合せとなるが、C号機は全ての組合せで、発信源である二機の位置を特定出来る能力が要求されているのだ。これも、仕様上では十六種の周波数を同時に識別して、位置特定の処理が可能である事になっている。

 これらの試験は順調に消化されていき、ブリジットが心配した様なイレギュラーな事態は起きない儘(まま)、日没前には全機が無事に学校へと帰投したのだった。
 C号機の電子戦能力についての最終的な判定は、本社での詳細なデータの解析を待たなければならないのだが、この日に確認した範囲では大きな問題の発生は無く、クラウディアの実機での飛行慣熟と言う、もう一つの目的も達成され、試験飛行自体は当初の目的を達したと言って良い結果であろう。
 そして、この日の試験飛行を以(もっ)て、C号機の納入に付随する作業の全てが終了したである。
 安藤と日比野は、この日の夜に、社有機で本社へと戻り、畑中達試作部の人員は何時(いつ)も通りに、陸路移動での試作工場へと、翌朝に出立(しゅったつ)したのだった。


 そして翌日、2072年10月16日、日曜日。
 土曜日の試験飛行に於いて、クラウディアに対するC号機への慣熟と言う段階(ステージ)は終了し、翌日からは Sapphire に因る、エイリアン・ドローンの通信電波を解析する為の準備作業へと、クラウディアの作業は移行したのである。
 その一方で、C号機は格納庫内でメンテナンス・リグに接続された儘(まま)となっている訳(わけ)だが、Sapphire はその状態で AMF と B号機とのデータ・リンクを利用した空中戦シミュレーションを続行するのだ。C号機の戦闘機動はドライバーであるクラウディアの存在とは関係無しに機上 AI である Sapphire が制御しているので、実際に機体を動作させないシミュレーションであれば完全自律行動が可能なのである。これは、以前に LMF の格闘戦シミュレーションを Ruby が一晩中実行していたのと同じ事である。今回は、茜とブリジットとの連携を Sapphire に習得させる目的で、これら空戦シミュレーションには茜とブリジットが参加して実施されるのだった。
 C号機の飛行ユニットには、AMF の様な攻撃用の兵装は一切搭載されてはいなかったが、唯一(ゆいいつ)、C号機本体の両腕には、格納式のビーム・エッジ・ソードが用意されていた。これは、超接近戦時の反撃用の装備であり、この装備の為には、LMF で Ruby が学習したロボット・アームを用いた攻撃動作のデータが、Sapphire には移植されていたのである。
 C号機が実戦に投入された際は、可能な限りA号機とB号機でC号機を護衛する方針なのだが、万が一、茜とブリジットの防御ラインを突破された場合を想定して、Sapphire にはクラウディアを守る為に、その装備の使い方を習得させておく必要が有るのだ。シミュレーションのシナリオには、その様な状況も設定されて、二人と一基は空戦シミュレーションを繰り返していったのである。

 それと同時に、部室ではクラウディアと維月の二人が、Sapphire との回線を接続して、電波解析の為のアプリケーション開発を進めていたのである。
 先(ま)ず最初の段階として、受信した電波がエイリアン・ドローンから発信されたものであると言う、証拠になる『マーク』を見付けなければならない。本社を介して防衛軍から提供されていた、エイリアン・ドローンからとされる数十時間分に及ぶ受信データの波形を分析して、特徴的な波形の組合せが存在するかを探し出すプログラムを、クラウディアと維月は開発しているのだ。そのプログラムを試作しては Sapphire に実行させ、防衛軍提供のデータから『マーク』が取り出せるか、そんな作業を二人は、当面の間、繰り返して行くのである。

 これら作業の必要性は、エイリアン・ドローン達が通信に使用しているらしい電波の周波数が、状況に応じて柔軟に変更されて運用がされている事に由来するのだ。もしも、エイリアン・ドローンが使用している電波の周波数が固定、若しくは狭い範囲の帯域であれば、その周波数に対して傍受や妨害を行えば話は済むのである。だが、エイリアン・ドローンは人類が既に使用している電波の周波数は避けて、その場で空いている周波数を使用して互いの通信に利用している事が観測の結果から、推測されているのだ。
 エイリアン・ドローンの襲撃が始まって二年程の間、各国の軍隊はエイリアン・ドローンの通信周波数を突き止めて ECM を行おうとしたのだ。だが、その都度(つど)、エイリアン・ドローン側は使用周波数を『その場で』変更してしまうので、人類側は電子戦攻撃を効果的に行えないのだった。それならば『エイリアン・ドローン側が使用する可能性が有る全ての帯域に対して、電波妨害を実施すれば』と言う、極端なアイデアも出されたが、それを行うには器材(ハードウェア)的な制約と、それ以上に、それを実行すると人類側も通信が出来なくなるのが明白なのである。過去の記録から、エイリアン・ドローンが使用している通信電波の帯域はマイクロ波からミリ波、周波数にして 20GHz から 50GHz と判明しており、その周波数帯は軍民を問わず人類も、既に盛んに使用しているのである。
 各国の軍組織や防衛産業関連企業も、それぞれが対策の研究はしていたが、エイリアン・ドローンに対する ECM に関しては、現状で『諦(あきら)めムード』が支配的なのだったのだ。

「それじゃ、今度は、この条件で走らせてみましょうか。 はい、実行。お願いね、Sapphire。」

 クラウディアが、そう言って愛用の PC のエンター・キーを叩くと、クラウディアのモバイル PC から Sapphire の声が響くのだ。

「ハイ、解析プログラム No.5 を実行します。」

「それじゃ、暫(しばら)くは結果待ちね。お茶にしましょうか?クラウディア。」

 維月は席を立つと、部室の奥側へカップを取りに行く。

「紅茶でいい?クラウディア。」

「ああ、ありがとう、イツキ。いいわ、紅茶で。でも、勝手に使って、大丈夫? 森村先輩のじゃないの?」

「大丈夫よ~許可は貰ってる。」

 維月は手際(てぎわ)良く、紅茶を淹(い)れる支度を進める。そして、ティーポットにお湯を注ぐと、カップと共に部室中央の長机へと運んで来るのだ。

「そう言えば、下の空戦シミュレーションも同時に処理してるんでしょ? 大変ね、Sapphire。」

 カップを並べつつ、クラウディアの PC へ向かって、維月は語り掛ける。

「問題ありません、維月。この程度の並列処理であれば、十分(じゅうぶん)に実行可能なように設計されていますから。」

 Sapphire の返事を聞いて、クラウディアは微笑んで言うのだ。

「それはそうよね。実際に飛行ユニットの操縦をし乍(なが)ら、ECM の処理をやらないといけない仕様なんだから。」

「ハイ、クラウディア。その通りです。」

 維月はカップに紅茶を注ぐと、クラウディアの前へと置いた。

「はい、どうぞ。」

「Dank.」

 クラウディアは敢えてドイツ語で維月に礼を言うと、カップを取り口元に運んで息を吹くのだ。

「まだ熱いから、気を付けてね。」

「解ってる。」

 くすりと笑い、クラウディアは更に三回、息を吹き掛けて、それから口を付けた。
 維月も紅茶に口を付け、そしてクラウディアに問い掛ける。

「これで、十分(じゅっぷん)程待って、様子見?」

「そうね。 まあ、そう簡単にお目当てのパターンが見付かるとは思えないから、地道に、気長に進めましょう。まだ、始めたばかりじゃない。」

「それでも、今ので五つ目のプログラムでしょ? このあとの、解析プログラムを改造するアイデア、まだ当てが有るの?」

「勿論。あと十や二十は、試してみるだけのネタは持ってるわ。」

 そう答えたクラウディアは、維月に向かってニヤリと笑ってみせるのだった。それには呆(あき)れた様に苦笑いを返して、維月は尋(たず)ねるのだ。

「それって、ハッカー的な引き出しなの?」

「まあ、そうね。やってる事は、暗号解読(デコード)の手法(テクニック)の応用よ。」

「エイリアン・ドローンの通信が解読出来るの?」

「まさか、それは無理。時間を掛ければ、信号的には暗号化前の信号へ変換までは出来るだろうけど、向こうの使ってる文字コードとか想像も付かないからテキストには出来ないし、辞書が無いから翻訳も不可能だわ。」

「だよね。だから鬼塚先輩の云う通り、信号の共通したパターンを見付ける程度までしか出来ない。」

「そう。徒(ただ)、暗号解読(デコード)を進めるには、共通した信号のパターンを見付けるのが第一歩なのよ。だからその方法が、今回の解析に利用出来る、ってだけ。」

「ふうん、ま、『餅は餅屋』って事か。凄いよね、わたしには無理な芸当だな。」

 そう言って、維月はカラカラと笑うのだ。
 すると、真面目な顔でクラウディアが言うのである。

「凄いのは、部長さんの方(ほう)よ。 通信波形の解析をベースにして、ECM へ応用する仕掛けを、これだけ思い付くんだから。世界中の大人達は、何をやってるんだって話よ?」

「あはは、立花先生辺りが聞いたら、『耳が痛い』って言いそうな台詞よね、それ。 まあ、鬼塚先輩のアイデアは確かに凄いんだけど、それも、クラウディアが入学して来てなかったら、どうなってたかって事だよね。」

「その時は、本社か防衛軍の、その筋の人の所へ、この作業が回ってただけでしょう。 わたしだって、この作業を遣り切れるか、まだ判らない訳(わけ)だし。」

「クラウディア的には、ミッション達成の可能性は何パーセント位だと思ってるの?」

「五十パーセント?かな。 でも、『ストローブ信号』的なものは、必ず存在する筈(はず)なのよ。通信が暗号化されてるなら、その先頭が判らないと解読(デコード)のやり様が無いから。」

「そうよね。データの遣り取りやってるのに、信号を垂れ流しってのは、ちょっと考えられないよね。何なら、『ストローブ信号』を受け取ったら『ACK(アック)信号』返して、ハンドシェイクが確立してからデータ受信開始って位、念入りにやってるかもだし。」

「幾らエイリアンの技術が進んでいるからって、その手の原理的な手続きを無視して、それで効率的なデータの送受信が出来てるとは考えられないよね。『ACK(アック)信号』が存在するかは判らないけど、最低でも暗号通信の始めと終わりには、何かしらのマークが無いと。 まあ、そのマークが一種類だけ、とは限らないかな。」

 そこで、クラウディアの PC から、Sapphire の合成音声が聞こえて来るのだ。それは、実行していた解析プログラムの、途中経過の報告である。

「クラウディア、解析プログラム No.5 のプレビューが終わりましたので、結果を表示します。全体スキャンに移りますか?」

「あー、ちょっと待って。確認するから。」

「ハイ、待機します。」

 クラウディアがモバイル PC のスクリーンを覗き込むと、向かい側の席に着いていた維月は席を立ち、クラウディアの背後へと回って、クラウディアの頭越しに PC のスクリーンに注目するのだ。

「Oh! 今度は三十八件、ヒット判定が出てる。五つ目で、やっと当たりかな~ああ、でも、一致率が四十二パーセントかぁ…まだまだ、改善の余地有りね。」

「プレビューって、サンプル・データからランダムに百箇所抽出(サンプリング)して、共通パターンの検出を掛けてるのよね?」

「そうだけど、抽出(サンプリング)した百箇所に、必ず通信の始まりと終わりが入っているとは限らないから。問題はヒット判定パターンの、一致率の方よね。 もう少し比較の精度を上げて、抽出(サンプリング)箇所の時間を延ばしてみようかな。」

「今は、何秒?」

「三秒。 五秒位まで、延長してみようか?」

「それよりもさ、クラウディア。切り出す時間を固定してやるよりも、信号の切れ目を検出して、切れ目から切れ目迄(まで)を抽出(サンプリング)した方が良くない?」

「アイデアは解るけど、イツキ。その条件組むのは、可成り面倒(めんどう)よ。」

「サンプリングのモジュール、わたしが弄(いじ)ってみてもいい?クラウディア。」

 維月は元居た席へ戻ると、机の上に置いてあった自分のモバイル PC を開くのである。
 クラウディアは、少し遠慮気味に維月に応える。

「それは、構わないけど。」

「じゃ、こっちに送ってちょうだい。」

 維月は両手の指を組んで、解(ほぐ)す様に左右に動かしている。

「それじゃ、お願い。こっちは比較検出のトラックを複数化してみるわ。」

「了~解。」

 二人がプログラムの修正を始めて間も無く、部室の奥側、二階通路に繋(つな)がるドアが開き、緒美と樹里が入って来たのだ。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第16話.07

第16話・クラウディア・カルテッリエリと城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 16-07 ****


 翌日、2072年10月12日、水曜日。その日からの三日間、放課後の兵器開発部では HDG-C01 を飛行ユニットに接続しての、飛行シミュレーションが行われる予定である。
 それは AMF の納入時に茜が実施したのと基本的には同じ事で、初日はクラウディアに対する、飛行への慣熟を目的として実施されるのだ。

 ここで、C号機用の飛行ユニットに就いて解説をしておく。
 C号機用の飛行ユニットの基本的なシステムは、A号機用の AMF が基礎となっており、HDG 本体の大きさが違うとは言え、飛行ユニットの機首部に HDG を接続して運用する方式は AMF と同仕様である。機体の設計や使用部品等、共通となっている項目は多いのだが、外見的には HDG 本体を格納する機首部外殻構造が存在しない事が AMF との大きな差異となっている。それ故(ゆえ)に、同じ型式のエンジンを同数搭載しているので出力は同等であっても、AMF の様な超音速飛行は出来ない。その他の機体の特徴としては、AMF の様なロボット・アームやレーザー砲等の武装は、一切(いっさい)が搭載されていない。但し、主翼下のハードポイントに就いては、AMF と同じく、F-9 戦闘機と同仕様で残されている。
 AMF の場合は操縦制御を担当する AI ユニット『Ruby』が、AMF の機体側に搭載されているのだが、C号機用の飛行ユニットの場合は、接続される HDG 側に搭載されている AI ユニット『Sapphire』の方が飛行ユニットの操縦制御を担当する仕様が、AMF とのシステム上の大きな違いである。
 単純に考えるならば、武装が施されていないのに AMF と同じ規模の飛行ユニットは不要な様に思えるが、そうではない。C号機が満足に電子戦を実施する為には、巨大な電源が必要なのである。つまり、C号機の飛行ユニットは空中での移動能力を付与する事以上に、電子戦能力を維持する為の電源としての意味合いが、より大きいのだ。
 飛翔体としてのシステムや機構の設計的・技術的な意味では、HDG-A01 と AMF の組合せで確認済みの技術を水平展開したものであると言えるので、C号機と飛行ユニットの飛行能力自体に関しては、試作工場の方での Sapphire 制御下に於(お)ける無人飛行にて、殆(ほとん)どが検証済みなのであった。だからこその、天神ヶ﨑高校への無人での自力移動の実施であった、と言う事である。勿論、その際も AMF の時と同様に、念の為に外部からの操縦操作が可能な随伴機が同行して来ていたのだ。但し、C号機の移動完了を見届けた後、随伴機は点検及び燃料補給を受けて、当日の午後には試作工場へと帰投したのだ。

 クラウディアに対する飛行シミュレーションに拠る慣熟の目的は、茜の時とは、少し意味合いが違っている。
 A号機の場合は実施する空中戦機動を積極的に思考しなければならないので、直接的な操縦操作を Ruby に任せるにしても、飛行自体の主導権は茜が持っているのだ。一方でC号機の場合、クラウディアは電子戦オペレーションの管理を遂行するのが主任務であり、飛行に関する操作は Sapphire に一任されるのだ。勿論、飛行に関する各種諸元の指定や変更の権限はクラウディアに有るのだが、その飛行の実施は、ほぼ全般的に自動操縦となるのだ。
 だから、飛行シミュレーションによる慣熟は、クラウディアの場合は受動的な経験を積む事に重きが置かれているのである。
 実際に、初日に行われた飛行シミュレーションでは、観光施設に設置されている『ライド型アトラクション』の様に、離着陸、上昇や降下、旋回等の基本的な空中機動をドライバーであるクラウディアが体験して終わったのだった。

 二日目の飛行シミュレーションには、茜とブリジットの HDG も参加して三機での編隊飛行をシミュレートし、加減速に因る編隊を維持する感覚や、距離感の把握、散開や集合等の体験を実施したのである。これは同時に、各機に搭載された四基の AI が連携する試験でもあり、特に Ruby と Sapphire の二基の連携が、本社開発部からは注目されていたのだ。今回、安藤が来校していたのは、この二機の連携に関連するデータの取得が目的なのである。

 三日目の飛行シミュレーションでは三機の HDG の連携に加えて、仮想エイリアン・ドローンを登場させ、A、B両機に因る敵機撃退と、C号機の安全な退避行動の体験を目的として実施がされたのである。これは、仮想エイリアン・ドローンの数や位置、或いは HDG 側のフォーメイション等を変更して、何度も繰り返し行われたのだ。

 そうして四日目、2072年10月15日、土曜日。
 この日は土曜日なので兵器開発部のメンバー達が出席する授業は、午前中のみである。昼休み後から二時間程度の準備時間を経て、午後三時より、C号機の実機に因る飛行試験が実施されたのだ。
 因(ちな)みに、この日は元々が緒美と直美の飛行訓練が予定されていた日だったので、その為に準備されていたレプリカ零式戦は、C号機の飛行試験に随伴機として投入されたのだ。今回の操縦士は直美で、緒美は格納庫に残って試験状況の監視と指揮を担当する事になったのだ。その為、緒美の飛行訓練は翌日の日曜日へと、順延されたのである。

 この日の、天神ヶ﨑高校周辺の天気は、問題無く晴れていたのだが、遙(はる)か南の海上には、台風16号の接近が予報されていた。
 この台風16号は、この年、初めて本州方向へと進路を取った台風なのであった。これ迄(まで)に発生した台風は、春から夏に掛けては南の海上から太平洋の東方向へと遠ざかり、夏以降はインドネシアからベトナム方向へと進む物が多かったのである。それらの内、日本に直接的な影響が有ったのは、小笠原諸島を通過したものが三つ、沖縄諸島を通過して大陸方向へと進んだものが四つで、合計七つだけだったのだ。
 この時点での台風16号の予想進路は、九州から本州の南端を抜けて日本海へ、と予測されていたのだが、その進路予測には当然、まだ幅が有るのだ。これが予測コースの東側を進行した場合、天神ヶ﨑高校の所在する中国地方を直撃する恐れも有ったのである。とは言え、本州に最接近するのは五日後の木曜日と目(もく)されており、あと二、三日は本州上空に台風の影響は無いとされていたのだ。


「TGZ01 よりテスト・ベース。それじゃ、離陸します。」

 直美の声が、データリンクの通信に因って聞こえて来ると、試験の指揮を執る緒美が答える。

「テスト・ベースです。離陸、開始してください。気を付けて。」

「TGZ01、了~解。」

 滑走路の東端から動き出したレプリカ零式戦は、エンジン音を響かせて滑走を開始すると、間も無くふわりと浮き上がり、着陸脚を収納すると一気に上昇して行くのである。

「HDG01、続いて離陸します。」

 次に控えているのは、茜の AMF である。

「はい、どうぞ天野さん。貴方(あなた)も気を付けてね。」

「了解です。」

 茜は短く答えると、AMF を一気に加速させ、あっと言う間に上空へと駆け上がって行くのだ。徒(ただ)、先に離陸した直美のレプリカ零式戦とは違い、AMF はそれ程高度を上げる事無く、東方向へと旋回を開始するのだった

「HDG03 よりテスト・ベース。離陸開始します。」

 続いて聞こえて来るのは、クラウディアの声である。それに、緒美が言葉を返す。

「カルテッリエリさん。初飛行だけど、リラックスしてね。」

「大丈夫ですよ。操縦するのは、わたしじゃなくて、Sapphire ですから。」

 そうクラウディアが言葉を返して来るので、樹里がコンソールのマイクを取って伝えるのだ。

「宜しくね、Sapphire。」

「ハイ。プログラムとシミュレーションの通りに、実行します。」

 Sapphire の合成音声に続いて、クラウディアが発信の指示を出す。

「それじゃ、出発よ、Sapphire。」

「ハイ、離陸操作を実行します。クラウディア。」

 そしてC号機の飛行ユニットが離陸滑走開始に向けてエンジンの出力を上げると、ブリジットからの通信が入るのだ。

「HDG02、HDG03 の離陸滑走を追跡しま~す。」

「はい。お願いね、ボードレールさん。」

 緒美が返事をすると、滑走路上でC号機が動き出し、AMF の時と同じ様にC号機の後方をブリジットのB号機が、距離を取り追走するのである。滑走路の南側には茜の AMF が西向きに滑走路と並行に飛行しており、茜もC号機の離陸の状況を併走し乍(なが)ら監視しているである。
 問題無くエアボーンしたC号機は、上昇し乍(なが)ら予定通りに北へと針路を向ける。

「テスト・ベースより HDG01、02、03。それじゃ、予定通りに高度二千メートルで、先行している副部長と合流してね。」

「HDG01、了解。」

 AMF はC号機の左側五十メートルに、B号機はC号機の右側五十メートルに位置を取り、三機が並んで高度を上げて行くのだ。その間に、茜がクラウディアに声を掛ける。

「大丈夫?クラウディア。 怖くない?」

「それ程、怖くはないけど…シムと違って、風が凄いわね。機首が密閉されてる AMF が、羨(うらや)ましいわ。」

 ここでクラウディアの云う『シム』とは、『シミュレーター』の略語である。
 C号機のドライバー正面には情報表示用のスクリーンが風防(ウィンド・シールド)も兼ねて取り付けられているのだが、操縦席として密閉されている訳(わけ)ではないので、少なからぬ風が吹き込んで来るのだ。
 そこで、茜が問い掛ける。

「ディフェンス・フィールドは有効になってる?クラウディア。」

「Ah! そうだ、忘れてた。 Sapphire、ディフェンス・フィールドを有効(イネーブル)に。」

「ハイ、ディフェンス・フィールドを有効にします。」

 するとC号機の前方に、薄(うっす)らとディフェンス・フィールドのエフェクト光が浮かぶのだ。

「どう?クラウディア。」

 そう茜が訊(き)いて来るので、クラウディアは答えるのだ。

「そうね、確かに随分と優(まし)になったわ。」

「あとは、C01 が直立した状態だけど、少し前傾姿勢にした方が風の流れ方が良くなるかもよ? まあ、その辺りは、自分で落ち着くポジションを探して、工夫してみて。」

「一応、助言(アドバイス)には感謝しておくわ、アカネ。」

「どういたしまして。」

 そう返事をして、茜は少し笑うのだった。そうこうする内、先行していたレプリカ零式戦の姿を、茜は前方右手上空に確認したのである。

「HDG01 より、テスト・ベース。TGZ01 を視認しました。これより合流します。」

「テスト・ベース、了解。」

 緒美の返事が聞こえると、次に直美の声が通信に乗って来るのだ。

「此方(こちら)TGZ01。もう、追い付かれた? やっぱ、ジェットは速いわ~。」

 そうして彼女達は、四機で編隊を組み直し、日本海上空へと向かったのである。
 そんな折(おり)、ブリジットが冗談なのか本気なのか、判断に迷う様なトーンで言うのだ。

「今日は大丈夫かな? 何だか、初物の試験飛行の時は、エイリアン・ドローンに出会(でくわ)すのが、ジンクスみたいになってるけど。」

 その発言に、真っ先に反応したのが直美である。直美は敢えて、茶化す様に言ったのだ。

「そんなジンクス、有って堪(たま)るか~。」

 直美の反応に「あはは。」と笑い、そして茜がブリジットに言うのだ。

「この前の二回は、元々、九州方面で襲撃が起きている時に、こっち側で飛行試験を強行したから、だから。今日は、どこにもエイリアン・ドローンは来てないから大丈夫よ、ブリジット。」

 続いて、クラウディアも発言するのだった。

「そうよ。そう言う事、言ってると却(かえ)って、フラグが立っちゃうから。止めてよね、ボードレール。」

「何よ?フラグって。」

 クラウディアに云われた意味が解らず、ブリジットは聞き返したのだが、当のクラウディアは説明するのが面倒(めんどう)なので、誤魔化す様に言葉を返すのだ。

「フラグは、フラグよ。解らないなら、別にいいわ、気にしないで。」

 クラウディアが逃げる様に、そう言うものだから、ブリジットは敢えて食い下がってみるのだ。

「ええ~何よ、気になるじゃない。教えてよ、クラウディア。」

 勿論、ブリジットは『フラグ』の意味が解っていて絡んでいるのではない。
 すると、『フラグ』の説明を、茜が始めるのだ。

「ブリジット、『フラグ』は『フラッグ』、『旗』の事よ。プログラムとかで、条件が揃(そろ)った事を示すのに『旗を上げる』代わりに、変数に数値を格納したり、信号をオンにしたりするらしいんだけど。その変数や信号の事を『旗』、つまり『フラグ』って謂(い)うのよね。 つまり『旗が立った』、『フラグが立った』って事は、条件が揃(そろ)ったって意味で、そこから派生して、何かが起きる条件が揃(そろ)ったり、何かが起きる前触れが確認されると、『フラグが立った』って言う様になったのよ。」

「いいから、アカネ、そんな説明しなくても。恥ずかしいから。」

 そうクラウディアが声を上げるので、茜は通信で樹里に尋(たず)ねるのだった。

「え~。 樹里さん、何か説明、間違ってました?」

「いいえ、由来の説明としては、大体、合ってると思う。」

 樹里が答えると、ブリジットが聞き返すのだ。

「それだと、『ジンクス』と同じ様な意味じゃないの?茜。」

 そのブリジット発言に反応したのは、クラウディアである。

「違うわよ! 貴方(あなた)、漫画(コミック)や小説(ノベル)で、『死亡フラグ』とかって言葉、見た事、有るでしょ?」

 そうクラウディアに云われて、漸(ようや)くブリジットは合点(がてん)が行ったのである。ブリジットは、小説の類(たぐい)は好きで、良く読んでいるのだった。

「ああ~あの『フラグ』って、語源はコンピューターとかの用語だったんだ。」

 納得したブリジットに続いて、茜も言うのである。

「あはは。クラウディアの事だから、わたしはてっきり、プログラム用語の意味で云ってるんだと思ってたわ。」

 実は茜も、勘違(かんちが)いをしていたのだった。
 そこで、通信から緒美の声が、聞こえて来るのだ。

「はーい、それは兎も角、そろそろテストを初めて貰ってもいいかしら?」

 緒美の声を聞いて、茜は少し慌てて声を返す。

「あ、はい、部長。HDG01、テスト位置、西へ一キロ迄(まで)、移動します。」

 茜の AMF は左旋回し、編隊から離れて行く。

「はい、お願いね、天野さん。副部長も、宜しく。」

「TGZ01、了解。東へ一キロ、移動します。」

 直美のレプリカ零式戦は、右旋回で編隊を離脱するのだ。

「HDG02 も予定通りに。HDG03 から離れないでね、ボードレールさん。」

「HDG02、了解です。」

 斯(か)くして、HDG-C01 電子戦器材の、能力確認試験が開始されるのである。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG(第16話.06)

第16話・クラウディア・カルテッリエリと城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 16-06 ****


「そもそも、そんな予定は無かったの。天野さんが HDG を持ち出す迄(まで)は。 ですよね、部長。」

「飯田部長辺りが、そこ迄(まで)読んで、Ruby を兵器開発部(うち)へ寄越(よこ)したのだとしたら凄い話だけど、それは、まあ、有り得ないわよね。」

 そこで、黙って議事の推移を見守っていた立花先生が、声を上げる。

「ちょっと、緒美ちゃん。いいかしら?」

「何でしょう?先生。」

 立花先生は上半身を乗り出す様に前方へ動かし、緒美に尋(たず)ねる。

「さっき迄(まで)の話に、コメントはしないけど。 緒美ちゃんは、いつ頃から、そんな事を考えてたの?」

 緒美は少しの間、立花先生の目を見詰め、そして答える。

「一昨年(おととし)の夏でしたよね、兵器開発部(こちら)に Ruby が来たのは。そのあと、年末頃に掛けて航空拡張装備の仕様を決めていくのに当たって、本社からはA、B両案について、一番最初に提出したレポートの内容に対しての御要望が色々と有りましたので。その辺りのあれこれを総合して、本社や政府が Ruby を何に使おうとしているのか、漠然と見当は付きました。」

「そう言えば…。」

 思い出した様に、突然、樹里が声を上げたのである。

「…わたしが入部する時の面接で、部長がそんな感じの事を仰(おっしゃ)ってましたよね、確か。 その時、立花先生も部室に居ましたけど、覚えてませんか?」

 少しの時間、考えてから立花先生は返事をする。

「ゴメン、ちょっと覚えてないわ。緒美ちゃんは、覚えてる?」

「いえ、わたしも、はっきりと記憶しては…。」

「そうですか。その時、その話で、ちょっと重い空気になったので、わたしは覚えてますよ。まあ、今迄(いままで)、忘れてましたけど。」

 そう言って、樹里は微笑むのだった。そして、緒美が発言を続ける。

「徒(ただ)、見当は付いていましたけど、確信と言える程ではなかったし、Ruby が目論見(もくろみ)通りに使える様になるのかも、その時点では、まだ、判(わか)りませんでしたから。 でも、今年になって試作機のテストを重ねて行く内に、能力的には問題が無い事が見えて来ましたし、何より、LMF が損壊した、あの一件のあとでも此方(こちら)に Ruby が帰って来た事で、推測は確信に変わりました。 あれが別の国家プロジェクト級案件の為に開発されているのであれば、あんな風(ふう)に破損する危険の有る開発案件に貸し出して呉れる筈(はず)がありませんから。」

「そう、分かったわ。 コメントはしないけど、いいかしら?」

「構いませんよ。先生の立場は、理解している積もりです。」

 緒美と立花先生は、互いの顔を見合わせて、ニヤリと笑い合う。そして、立花先生が言うのだ。

「今日のミーティング、後半の話は、わたしは聞かないで退室した方が良かったかしらね?」

「いいえ、聞いて頂いた上で、今日のここでのお話、本社へ報告するかどうか、先生に判断して頂ければ。」

「そうやって、わたしに本社へ事実関係を確認させる積もり? 鎌を掛けてるのなら、その手には乗らないわよ。」

 そんな事を笑顔で言う、立花先生の方が鎌を掛けているのである。
 くすりと笑い、緒美は弁明する。

「そんな積もりは無いですけど。」

「貴方(あなた)達が開発作業の放棄や妨害を考えてないのなら、本社へ連絡する様な事は何も無いわ。想像や推理は自由にして貰って構わないけど、理由や秘密に就いての余計な詮索は止めておきなさい。 本社が理由を伏せたり、秘密に指定したりするのは、大概の場合、意地悪や陰謀じゃなくて、わたしや貴方(あなた)達に、余計な責任を負わせない為だから。そこの所は、勘違いしないで欲しいの。」

 そう語る立花先生に、珍しく強い口調で茜が言うのだ。

「だからって、Ruby を死なせるのが前提の計画なんて、見過ごせる訳(わけ)、無いじゃないですか!」

 それには困った顔で、立花先生は反論する。

「死なせるって…Ruby は人じゃないのよ、茜ちゃん。」

「人でなければ、何やってもいいんですか? やってる事は、昔の戦争の『犬爆弾』とかと、発想は変わりないじゃないですか。」

 すると茜の発言に就いて、樹里が緒美に尋(たず)ねるのである。

「何です?『犬爆弾』って。」

「ああ、訓練した軍用犬に地雷や爆弾を括(くく)り付けて、敵の中へ走り込ませてドカン、って作戦が有ったらしいのよね。」

「うわぁ、酷い…。」

 緒美の説明を聞いて顔を顰(しか)める樹里に、立花先生が声を掛ける。

「ちょっと、ちょっと。Ruby は動物でもないのよ、機械なんだからね。」

「でも、先生。言葉が通じる分、動物なんかよりも人に近い感じがしてますから、わたし達には。」

 そう言葉を返す樹里に続いて、緒美が発言するのである。

「こう言う反応が出るのが分かっていたから、本社は Ruby に関する計画を秘密にしているんだと思いますけどね、わたしは。」

 その緒美のコメントに対しては、立花先生は『イエス』とも『ノー』とも言えないので黙っている。立場上、立花先生が秘密に関する事には『ノーコメント』を貫くしか無い事は、緒美達、三人も理解している。そして彼女達は、この場で立花先生に本社や政府の秘密に就いて、知っている事を聞き出そうと目論(もくろ)んでいる訳(わけ)でもないのである。
 だから緒美達は、自分の見立てを表明する一方で、立花先生に対する追究はしないのだ。
 そして茜は、今度は緒美に向かって意見を投げ掛ける。

「正直言って、部長の案でも、Ruby を助ける事になるのか疑問です。『コピーが残せれば、それでいい』って話じゃない、そんな気がしますけど。」

 緒美は真面目な顔で、茜に応えるのだ。

「それは、勿論よ。一番いいのは、Ruby をそんな計画に投入しない事だけど。でも、その計画は Ruby の能力が無いと実行は出来ないだろうし、その計画自体の代替案は、多分、無いわ。 だとすれば、Ruby のコピーを残すのは『次善の策』として、最後の妥協点なのよ。幸か不幸か、立花先生の言う通り Ruby は人間じゃないから、だからこそ選択可能な救出方法でもあるの。」

「それは理解出来ますけど…何か、納得したくありません。」

 苦々しい表情の茜に、樹里が声を掛ける。

「まあ、天野さん。まだ、そうと決まった訳(わけ)じゃないんだから。」

「でも、多分。決まってから、いえ、既に決まっているんでしょうけど。それが判明してからじゃ、遅いんですよね?部長。」

 緒美は小さく息を吐(は)いて、そして言った。

「そうね。でも、それは仕方無い事よ。わたし達は、その意思決定に関われる立場じゃないんだから。 わたし達は、わたし達に出来る範囲で出来る事を考える以外に無いの。」

「出来る事が有るんでしょうか?わたし達に。」

 不安気(げ)な表情で訊(き)いて来る茜に、微笑んで緒美は言うのだ。

「普通に考えたら、出来る事は殆(ほとん)ど無いけど。でも、色んな成り行きで、普通ならやっていない筈(はず)の事を、今はやっているわ。今、出来ている事を地道に続けていれば、何かが出来得る局面が訪(おとず)れるかも知れない。だから、今の状況を安易に放り出しては駄目なのよ。この儘(まま)、HDG の開発に関わっていけば、本社の思惑は兎も角だけど、何時(いつ)かは Ruby を救うのに関わる事になるかも知れない。」

「その『計画』が部長の予想通り、二年先、いえ三年先の実行なら、部長も樹里さんも、卒業して本社採用になってますものね。」

 その茜の発言には、苦笑いで緒美が応える。

「まあ、正式に本社採用になって一年や二年じゃ、そんな発言権は無いでしょうけど。でも、城ノ内さんは多分、井上主任の所に呼ばれるだろうから、案外、Ruby に直接関与出来る可能性は高いかもね。」

 そう言われた樹里はニヤリと笑い、緒美に言うのだ。

「部長だって、引く手数多(あまた)じゃないんですか? まあ、部長の配属先は、わたしには見当が付きませんけど、それでも、在学中の経緯から考えて、引き続き HDG や Ruby に関われる可能性は高いでしょう?」

 そして視線を茜に移し、樹里は言う。

「…それに、立場って言えば、天野さんは理事長…会長の身内なんだから。 説得出来るだけの材料さえ見付けられたら、会社の判断を一気に変える可能性を一番持ってるのは、実は天野さんでしょ?」

「そんな風(ふう)に考えた事は無かったですけど…でも、祖父を動かすのは難しそうだなぁ…『可哀想だから』なんて感情論だけじゃ、絶対に納得しては呉れないだろうし。」

 「う~ん。」と上を向く茜に、微笑んで緒美が言うのだ。

「それはそうよ。これ迄(まで)に相当の費用と時間と人手が掛かってるだろうし、エイリアン・ドローン襲撃の大本(おおもと)を断とうって計画なら、人類や地球の命運も掛かっていると言っても過言じゃないでしょう? だとすれば、天野重工一社の判断で、どうにかなるとも思えないわね。旗を振ってるのは政府で、防衛軍以外にも他に幾つもの企業が関わっているんだろうから。」

 今度はガクンと下を向いた茜は、「は~。」と息を吐(は)き、顔を上げると言った。

「わたし達、そんな重大な計画に絡んでいたんですか?」

「何よ。今頃、自覚したの?天野さん。」

 呆(あき)れた様に言葉を返す緒美に、茜は反論する。

「だって今迄(いままで)、そんな説明、して呉なかったじゃないですか。 樹里さんは、知ってました?」

 急に茜に問い掛けられ、樹里は力(ちから)無く笑って答える。

「いえ、わたしも聞いてはいなかったけど。 でも、今日の話みたいに超具体的ではないにしても、漠然とは『そう言う事』なんだろうな、位には思ってたよ。」

「因みに、他の二年生は、貴方(あなた)の目から見て、その辺り、どうかしら?城ノ内さん。」

 ニッコリと笑って、緒美が樹里に問い掛ける。樹里は、少し考えてから答えるのだ。

「そう…ですね。瑠菜ちゃんと佳奈ちゃんは、多分、そう言う事は何も考えていないと思います。あの二人は、目の前の作業に集中する方を優先している、って言うか。でも多分、維月ちゃんは、薄(うっす)らとですけど、考えていると思いますよ。 今思えば、Ruby の事も薄々、感付いていたかもですね。兵器開発部の事と井上主任、お姉さんとは一定の距離を取ろうとしてたのは、その所為(せい)かも知れません。これは、考え過ぎかも知れませんけど。」

「そう…。」

 一度、頷(うなず)いた緒美は、その笑顔を保った儘(まま)、言ったのだ。

「…矢っ張り、次期部長は城ノ内さんにお願いしたいわね。で、副部長は天野さん。天野さんには再来年の部長を、お願いって事で。」

「え?」

 二の句が継げない茜の一方で、樹里は落ち着いて言葉を返す。

「今ここで、そのお話ですか?」

 緒美は直ぐに、言葉を続ける。

「返事は急がないから、考えておいて。又、来年になったら、全員揃(そろ)った所で、正式に決めましょうか。いいかしら?それで。 その時迄(まで)に、二年生、一年生の間で相談しておいて呉れてもいいわよ。」

「いいえ、それも面倒臭(めんどうくさ)いので。部長が発議する迄(まで)、黙っている事にします。 天野さんも、それでいいよね?」

 樹里に同意を求められ、慌てて茜は答える。

「え? あ、はい。はい、いいです、それで。」

「何、動揺してるの?天野さん。」

 そう樹里に訊(き)かれ、茜は素直に答えるのだ。

「いえ、あの…『長』の付く様な役職って、そう言えば、やった事が無いなぁ、って。」

 その発言に緒美は、心底意外だという風(ふう)に言うのである。

「天野さんなら、学級委員なんか、何度も経験してそうだけど。」

 続いて、樹里が茜に尋(たず)ねる。

「成績とか、良かったんでしょ?天野さん。」

「え~と…。」

 そう声を上げ、少し間を置いて、茜は答えるのだ。

「…その成績の所為(せい)で、極一部から凄い反感を買っていた様子でして。そう言った役回りは、もっと人気(にんき)の有った子の方へ回ってましたね、幸か不幸か。」

 その茜のコメントに、立花先生を含めて三名が、同時「ああ~。」と声を上げるのである。

「別に、そう言った事を進んでやりたいと思うタイプでもないので、気にした事は無かったんですが。…こう言うと、負け惜しみみたいで、嫌なんですけど。」

「天野さん、貴方(あなた)って、割と理不尽な目に遭ってるのね…。」

 樹里のコメントを受け、真面目な顔で茜は言う。

「結局、要領が悪いんでしょうね。」

 すると、立花先生が心配そうに訊(き)いて来るのだ。

「この学校では、大丈夫?茜ちゃん。」

「ああ、それは、もう。皆(みんな)、常識が通じるし、おかしな反感とか、向けられた事は無いです。あ、唯一(ゆいいつ)、例外と言えばクラウディアですけど。まあ、クラウディアも、今は大丈夫ですね。 ともあれ、そう言った意味でも、この学校に来て、良かったと思ってます。」

 笑顔で答える茜に、立花先生も微笑んで「そう、なら、良かった。」と、安心のコメントを返すのだ。
 続いて、緒美が茜に対して言うのである。

「そう言う事なら、部活の部長も、経験しておくといいんじゃない? その、将来を見据えて。」

 その含みの有る言い方に、茜は聞き返すのだ。

「何(なん)です?将来って。」

 それには樹里が、半分、茶化す様に言うのである。

「日比野先輩から、本社の方で噂になってるって聞いたよ。天野さんが将来、社長になるの、期待されてる、って。」

「何年先の話ですか、それ。 大体、おじ…会長が、世襲みたいなのは認めてないですし。」

 反論する茜に、立花先生が別の見解を提示する。

「まあ、三十年か四十年先の事だろうから、その頃には色々と状況も変わってるでしょ。それに、創業家出身の者(もの)が、社内に居たらね、何(いず)れ『そう言う時』に担ぎ上げられる事になるは、覚悟しておいた方がいいわよ。」

「ええ~、家(うち)は天野重工の天野家とは、別の天野家なんですけど…。」

 再(ふたた)び反論を試みる茜だったが、それに被せる様に樹里がコメントを加えるのだ。

「名字よりも、血縁の方でしょ?大事なのは。」

「わたしも、期待してるからね。天野さん。」

 樹里に続いて緒美が、嫌味ではない無邪気な笑顔でそう言うので、茜は思わず声を上げるのだった。

「もう、妙なプレッシャー、掛けないでください!」

 それから間も無く、この会合は終了したのである。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第16話.05)

第16話・クラウディア・カルテッリエリと城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 16-05 ****


「『普通の』って、それじゃ『普通じゃない』ミサイルって?」

「例えば、長射程攻撃用にレーザー砲、中射程用にレールガン、短射程用に荷電粒子ビーム砲、近接格闘戦用にロボット・アームとビーム・エッジ・ソード、更に防御用にディフェンス・フィールドを持っていて、それらを AI が統合制御する、そんなミサイルですよ。」

「何、言ってるの、天野さん。そんなミサイル……あ。」

 呆(あき)れた様に樹里は言葉を茜に返そうとしたのだったが、何かを思い出し、そして続けて言うのだ。

「…それって、HDG の航空拡張装備、B案の事? 来月、試作機が来る予定の。」

 樹里が視線を緒美の方へ向けると、緒美は大きく頷(うなず)いて見せる。
 因(ちな)みに、HDG の仕様書に記載されている『航空拡張装備A案』が、『AMF』なのである。

「B案、『空中撃破装備』は圧倒的多数のエイリアン・ドローンに対処する状況を考慮したものだけど、HDG の代わりに弾頭を接続すれば、確かにミサイルになるのよね。」

「ちょっと、待ってください…えーと…。」

 樹里は困惑して、思考を整理し乍(なが)ら、発話するのだ。

「…つまり、『空中撃破装備』にミサイルの弾頭を取り付けて打ち上げ、迎撃に飛来するエイリアン・ドローンを撃破し乍(なが)ら月軌道まで飛んで、エイリアンのマザー・シップに突入させる、そう言う事ですか。」

「そう言う事になるわね。」

 笑顔で答える緒美に、茜が問い掛ける。

「つまり、部長が書いた仕様書のアイデアを、そう言う風(ふう)に転用しようと、本社が考えている、と?」

「時系列的に考えて、わたしの書いた仕様書が元になったって事は無いと思うわ。Ruby の開発は、わたしが仕様書を書き上げるよりも、遙(はる)か前にスタートしてた筈(はず)だから。 わたしとは別に、エイリアン・ドローンの防御網を突破してマザー・シップへ到達する方法を、同じ様に考えていた人が居たのよ。それが本社の人か、政府の人なのかは、知らないけど。」

「偶然、同じアイデアだった、と?」

「そうね。地球から月軌道までの間、隠れられる様な場所は無いし、選択し得る軌道にも、それ程幅が有る訳(わけ)でもない。それだけ条件が限定されしまえば、同じ様なアイデアに帰結するのは、寧(むし)ろ必然でしょ。 そもそもがB案は、数百機のエイリアン・ドローンを突破して、エイリアン・シップに到達する想定で考えていたの。わたしの場合は飽く迄(まで)、有人で考えていたから、余り現実感(リアリティ)が無かったんだけど。まあ、地球から打ち上げて月まで行こうとなると、無人でって考えるのが普通よね。」

「道理で。あの案だけ他のと微妙にベクトルが違うって言うか、矢鱈(やたら)と仕様が攻撃的なのは、そう言う事でしたか。」

 茜は少し呆(あき)れる様に言って、納得するのだった。その様子に微笑む緒美へ、今度は樹里が問い掛ける。

「要するに、本社が欲しかったのは『B案』の機体、って事ですか?」

 それには、緒美は補足する様に答えるのだ。

「『B案』の試作機その物、ではないわ。そこ迄(まで)の開発作業で検証された技術と、それから、完成した Ruby よね。本番で使用する機体は、又、別途、本社の方(ほう)で設計が進んでいるんでしょう。」

「それにしたって、Ruby のユニットは一基しか無いんですよ? ミサイル一発で、どれだけの効果が有るんでしょう?」

 樹里の、その問いに対して、緒美は微笑んで言うのだ。

「その特殊なミサイルが、一機だけの筈(はず)は無いでしょう。目標がとんでもなく大きいんだから、二十や三十は打ち上げる計画なんじゃない?」

「ああ、そうか。だから最初に、部長は二年か三年先って仰(おっしゃ)ったんですね?」

 茜に、そう言われて、緒美は頷(うなず)いて付け加える。

「必要な数を揃(そろ)えるのに、或る程度の時間は必要な筈(はず)だから。」

 すると、樹里が訊(き)いて来るのだ。

「じゃあ、Ruby もミサイルの数だけって事に? それはちょっと、流石に無理な気がしますけど。」

「全部が Ruby と同じスペックである必要は無いでしょ? 多分、他のは Sapphire と同じクラスのユニットになるんじゃないかしら。」

 その緒美の見解を聞いて、樹里は唐突(とうとつ)に合点(がてん)が行ったのである。

「そうか、それで Ruby が上位に設定されていて、Sapphire を制御出来る仕様だったんだ。成る程。」

 樹里が何やら納得する事頻(しき)りである一方で、茜は神妙な面持(おもも)ちで、緒美に声を掛ける。

「あの…部長。」

「何かしら?天野さん。」」

「…部長は、その…HDG が評価されていない事に就いては、それでいいんですか?」

 その問い掛けに、緒美は一度、少し驚いたのだが、敢えて笑顔を作って茜に答える。

「評価…されていない訳(わけ)ではないと思うの。採用される見込みが無いのは、唯(ただ)、仕様が政策に合致していないから、だから。」

「政策?ですか。」

「そうよ。HDG の仕様はエイリアン・ドローンを迎撃する事に主眼を置いていて、特に現用兵器では手薄な接近戦を重視しているわ。拡張装備で、中距離から長距離まで、対応範囲を広げているけど、その領域は既に存在する兵器でも代用が可能だし。 政府の防衛政策は、中、長距離での洋上迎撃が基本だから、元々 HDG が見向きもされないのは、解っていた事なのよ。実際に HDG を数百機、揃(そろ)えたとしても、エイリアン・ドローンの襲撃自体が無くなる訳(わけ)ではないしね。」

「それは、そうですけど。」

「勿論、現実の現場で接近戦になった時、防衛軍側が不利になる状況は何とかしたいし、HDG は、その為の回答ではあったけど。わたしの考えていた HDG では、結局、対処療法的な効果しか期待出来ないの。 だから、本社や政府の大人達が、根本的な問題の解決を考えているのなら、その事に就いては、わたしは嬉しいと思っているのよ。 そして、その計画に HDG で開発された事が一部でも利用されて、それが役に立つのなら HDG に関わった事は無駄ではなかったと思うの。」

 そこで、今度は樹里が問い掛けるのだ。

「でも、部長。本当に、その計画で根本的な解決に繋(つな)がるんでしょうか?」

 その問いに、緒美は一度、頭を横に振り、そして答える。

「それは、判(わか)らないわね。やってみないと。 でも、それ位の事はやらないと、状況は変わらないんだわ、多分。」

「それじゃ取り敢えず、部長は、その『計画』に就いては、賛成なんですね?」

 茜の問い掛けに、真面目な顔で頷(うなず)いた緒美は言うのである。

「そうね。但し、Ruby の事は、何とかして助けたいの。」

「そうですね。 例えば、わたし達がこれ以降の検証作業を放棄したとしても、それは無駄なんでしょうね?多分。」

 その茜の提案に、緒美は小さく頷(うなず)いてコメントする。

「無駄でしょうね。時間は掛かっても、残りの作業を本社と防衛軍とで進めるだけ、でしょうから。それに、その計画自体を妨害したい訳(わけ)じゃないのよ、わたしは。」

「そうですよね。そうすると、突入する際に弾頭だけを切り離すか、逆に Ruby のユニットを切り離すか、そう言う設計に変えて貰いますか?」

 続いてアイデアを出す茜に、頭を横に振って緒美は言うのだ。

「本社や政府は、仕掛けが複雑化するのを嫌うでしょう? それに、上手く切り離しが出来るとしても、Ruby を地球へ帰還する軌道へ乗せないといけないし、回収する方法も考えないといけない。そう言う手間やコストを掛けない為の、言わば使い捨てにする為の AI 制御の筈(はず)なんだから。」

「ですよね。多分、相当に進んでいる筈(はず)の計画や機構の設計を、今から大幅に変更して呉れる事は有り得ないですよね。」

 そう言って、茜は両腕を組んで考え込むのだった。そして緒美は、樹里に問い掛けるのだ。

「城ノ内さん、例えば、Ruby を丸ごとコピーとかって出来ないのかしら?」

「え~…。」

 樹里は少しの間、考えてから緒美に答えた。

「…安藤さんに、以前聞いた話だと、丸ごとって言うのは無理らしいです。Ruby を完全に停止させれば、可能かも知れませんけど。」

 その答えを聞いて、茜が尋(たず)ねるのだ。

「でも、樹里さん。Sapphire がライブラリの移植受けた~みたいな事、云ってたじゃないですか。」

「テキストや数値で格納してある情報は、コピーも出来るし、他のマシンでも利用出来るの。でも、『疑似人格』を構築している『記憶』は、そうはいかないらしいのよね。詳しい事は、わたしにも解らないけど。」

「『記憶』と『情報』って、意味が違うんですか?」

 そう茜に問い掛けられ、樹里は腕組みをして「う~ん。」と唸(うな)り乍(なが)ら、天井へ視線を遣るのだ。そして視線を茜に戻すと、説明を始める。

「例えば、青色に塗られた壁を見たとしましょう。その経験を日記に、『今日、青い壁を見た。』と記録します。その日記の記載が『情報』で、それを他の人が読めば『ああ、青い壁を見たんだな。』って情報が共有出来るよね?」

「ああ、はい。そうですね。」

「日記に、もっと詳しい情報、場所とか時刻とか、壁の大きさとか、記載を詳しくすれば、それだけ共有出来る情報が多くなるのは、解るよね?」

「はい。」

「でも、『記憶』って謂(い)うのは、もっと幅が広くて、他の情報と関連付いているの。例えば『青』って色から連想する印象、冷たいだとか、爽やかだとか、清潔、空気、空、水、海、そんな風(ふう)に色だけでも沢山の他の情報と関連していて、その『青い壁』を見た瞬間の印象なんかは、色んな方向へ広がっているの。その印象だとか連想だとか迄(まで)、日記に、つまり『情報』として書き出すのは、流石に無理だよね。 それ以外にも、その経験をした時の状況、光の具合だとか温度、湿度、聞こえていた音や、その壁に触れていれば、その感触、あと、臭(にお)いとかも、そう言った五感全部が経験と関連付けされて情報と情報との関連の重み付けが変わって行く、そんな処理をやっている訳(わけ)。」

「えーと、樹里さん。そのお話は、Ruby のシステムの話ですか? それとも、人間の脳の事ですか?」

 困った様に訊(き)いて来る茜に、樹里は微笑んで答えるのだ。

「どっちも、よ。Ruby の記憶処理は、人間の脳活動をソフト的に再現したものだそうだから。 そうやって、色んな情報の関連付けと、その重み付けがされた『記憶』を積み上げて、Ruby の『疑似人格』が出来上がっているんだって。 わたしはこんな説明を聞いたんだけど、解って貰えたかな?」

「まあ、何と無く。はい。」

 苦笑いで、茜は返事をするのだった。
 それに続いて、緒美が訊(き)く。

Ruby って、定期的にシステムのバックアップとか、取ってないのかしら?」

「書き出せるライブラリのバックアップは、リモートで定期的に開発の方で保存してる筈(はず)ですけど。明日にでも、安藤さんに詳しく訊(き)いてみましょうか。」

「そうね、どこまで教えて呉れるかは判(わか)らないけど。」

「まあ、トライしてみますよ。」

 すると、茜が疑問を口にするのだ。

「でも、部長。Ruby のシステムがコピー出来たとしても、ハードのユニットが無くなっちゃったら、お仕舞いなんじゃないですか?」

 それには、樹里が見解を提示する。

「いえ、天野さん。Ruby の役割がそれ程に重要だとすれば、絶対にハードのバックアップ・ユニットも用意されてる筈(はず)よ。」

「バックアップ・ユニットが用意されているなら、システムをコピーする方法だって、何かしら用意されているんじゃありませんか?」

 茜の意見を聞いて、緒美と樹里は互いに顔を見合わせるのだ。そして、緒美が言う。

「普通に考えれば、そうよね。」

「その辺り、井上主任に直接、訊(き)いてみたいですよね。」

 その、樹里の所感に頷(うなず)いて、そして緒美は微笑んで言うのだ。

「取り敢えず、少しは希望が有るみたいだわ。矢っ張り、貴方(あなた)達と話して良かった。 まあ、その計画が実行される迄(まで)、あと一年や二年は猶予が有る筈(はず)だから。ここでの話は、申し訳無いけど誰にも言わないで、頭の中に入れておいて欲しいの。直ぐに、わたし達でどうにか出来る問題でもないし。」

「それはいいですけど。」

 そう前置きをして、茜が懸念を述べるのである。

「…部長の予想が当たっているとして、Ruby がそう言う用途なのを、安藤さんや、Ruby 自身は知ってるんでしょうか?」

 それには、樹里が即答するのだ。

「安藤さんは、先(ま)ず間違いなく知ってるでしょうね。何せ、井上主任のアシスタントなんだから。日比野さんは、多分、知らないでしょうけど、Ruby は…どうでしょう? ちょっと、判(わか)らないな。」

「ああ、それで。このお話は談話室(ここ)で、だったんですか?部長。」

 そう茜に問われて、緒美は答える。

「まあね。第三格納庫だと、間違いなく Ruby に聞かれるから。」

「成る程、そうですね。」

 茜が納得している一方で、樹里が緒美に話し掛けるのだ。

「しかし、部長。ここ迄(まで)のお話、部長の推理で辻褄は合っていると思いますけど。一つだけ、誘導装置に使う筈(はず)の Ruby が、どうして『疑似人格』なんて、或る意味厄介な仕様なのか。それが理解出来ないんですが。 戦闘用途に特化するなら、A号機やB号機に組み込んである、名前も付けられていない様な制御用 AI でいいのではないでしょうか? 人と会話する汎用 AI である必要性って、何でしょう?」

「それに関しては専門外だから、わたしにも解らないわ。寧(むし)ろ、その理由を城ノ内さん、貴方(あなた)に教えて貰いたい位よ。」

 真面目に言葉を返して来る緒美に、苦笑いで樹里は言うのだった。

「ひょっとしたら、Ruby は動作データの集積に使用されてるだけで、本番では『疑似人格』とかが無い、制御用の AI が使われるのかも知れませんよ。 そもそも、どうして Ruby が兵器開発部(うち)に預けられているのか、その意図が今(いま)だに理解出来ません。」

「それは、HDG での実戦データを収集する為じゃないんですか?」

 事も無げに、そう言い放つ茜に、樹里は呆(あき)れ顔で言葉を返すのだ。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第16話.04)

第16話・クラウディア・カルテッリエリと城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 16-04 ****


「まあ、結論から言うと。次にエイリアン・ドローンの襲撃が発生したら、わたし達も実戦に参加して、そこでC号機の能力を検証してはどうか、と。防衛軍側の許可とか協力とか、話は通してあるってね。 勿論、命令でも強制でもないから、必ずしも従う必要は無いんだけれど。」

「先週の一件で、防衛軍側のハードルが下がっちゃった感じでしょうか? 以前なら、民間が~って云われてたでしょうけど。」

 茜の意見に、立花先生がコメントを返す。

「まあ、その可能性も有るけど。この件に関しては桜井一佐が、防衛軍(あちら)側で可成り動いて呉れたみたいなのよ。」

 続いて樹里が、少し具体的な問題を提起するのだ。

「仮に参加するとして、ですよ。次の襲撃が何時(いつ)なのか、予定は立たないですよね? 平日の授業中だったりしたら、どうなるんでしょうか。放課後とか、休日に発生した襲撃のケースを選んで、わたし達が参加する、とか?」

 その疑問には苦笑いで、立花先生が答える。

「飯田部長が云うには、その時はこの地域に避難指示を発令させて、学校の方は授業を中断させることも出来るだろう、だって。」

「無茶、云うな~飯田部長。 大体、襲撃されるのは九州の西側からなのに。ここの辺りに避難指示を出させるなんて、そんな事、可能なんでしょうか?」

 茜も苦笑いで問い掛けるので、今度は緒美が真面目な顔で答えるのだ。

「いえ、無理な話じゃないわ。自治体の危険度判定は、結局は防衛軍の発表に左右されるから。だから防衛軍が『危ない』って云えば、自治体の側は、それを無視出来ないわね。 それに、学校の周辺が避難態勢になって呉れていれば、HDG が学校から出て行くのが、人目に付き難いって効果も期待出来るし。」

「あと、前回みたいに、日本海側からこっちに向かって飛んで来るケースも、まだ可能性としては有るからね。」

 立花先生の補足コメントに続いて、再(ふたた)び緒美が説明する。

「器機の性能や機能が、仕様に合致しているかだけで良ければ、まあ、設定した電波が、仕様通りの出力で発信されているかを測定すればいい話なんだけど。徒(ただ)、それは相手に対して効果が有るかどうかの判定にはならないのよね。その判定を、わたし達がやらないといけないのか、と言うのは、又、話が違うのかも知れないんだけど。」

 そこで樹里が、ソフト担当者としての見解を表明するのだ。

「でも、例えば ECM 機能だけにしても、エイリアン・ドローンが使っている周波数帯を割り出して、それに追従して妨害電波を出すのを Sapphire に自動化させる部分、机上設計だけで完成とはいきませんから。現場で使ってみないと、どこに手を入れたらいいのかも解りませんし。その辺りのプログラム修正や調整の為に、カルテッリエリさんにC号機のドライバーになって貰った訳(わけ)ですし。 勿論、わたしだって、一年生達に実戦参加しろなんて、言いたくはありませんけど。何か、いい方法は無いものでしょうか?」

「開発を進めている内に、何かいい評価方法を考えるつもりでいたのだけれど。そこの所は、わたしの見通しが甘かった、としか言えないわね。 矢っ張り、C号機の電子戦機能は器機の能力が設計仕様に合致しているか確認する迄(まで)を、此方(こちら)で行って、最終的には防衛軍に試験運用を移管してから、最後の仕上げは防衛軍と遣り取りし乍(なが)ら、時間を掛けて本社の方で進めるて貰うしかないかしらね。」

 そう言って、緒美は溜息を吐(つ)くのだった。それには、茜が声を上げるのだ。

「ちょっと待ってください、部長。何も、C号機を単機で前線に放り込もうって、そんな話じゃないんでしょ?」

「勿論、空防が護衛の戦闘機を付けて呉れるとは云ってるし、A号機やB号機を参加させるのも、防衛軍側は拒否はしないそうだけど。」

「でしょう? 基本的に電子戦機は、攻撃や格闘戦には直接参加しないんですから、それ程心配しなくても。向こうは、飛び道具を持ってないんだし、距離に気を付けてさえいれば大丈夫ではないでしょうか。」

「そうは言うけど、天野さん。ECM に効果が有った場合は、妨害電波の発信源が、真っ先に狙われる可能性が有るわ。そう言う危険性は、過小評価しては駄目よ。」

ECM に効果が有るのなら、向こうの能力(パフォーマンス)は相当に落ちてる筈(はず)です。勿論、敵の数にも拠りますけど、対処が出来ないとは限りません。 試験参加中の危険度判定に就いては此方(こちら)の判断で、退避や撤退が出来る条件にして貰えるなら、受けてもいいと思います。当然、わたしも護衛に出ますよ。ブリジットは、訊(き)いてみないと解りませんけど。」

 すると、樹里が笑って言うのだ。

「あはは、そんなの訊(き)かなくったって。 天野さんが参加するって聞いた時点で、ボードレールさんが黙ってる訳(わけ)がないでしょ。ねぇ、部長。」

「事の善し悪しは兎も角、そうでしょうね。」

 そう、緒美も微笑んで応えるのだ。「ええ~。」と声を上げる茜を置いて、緒美は樹里に問い掛ける。

「仮に、だけど。実戦の後方にC号機を参加させて評価試験を行う方針として、カルテッリエリさんは引き受けて呉れるかしら? 彼女が嫌だって云ったら、勿論、やらない訳(わけ)だけど。」

 樹里はくすりと笑い、答える。

「まあ、二つ返事で『オーケー』ですよね。」

「それは、あの…『恨み』的な動機でしょうか?クラウディアの友達の。」

 心配気(げ)な顔で問い掛ける茜に、樹里は頭を横に振って、応える。

「まあ、それも有るだろうけど。今は、貴方(あなた)への対抗意識の方が強いでしょ。 何時(いつ)だったか、『自分も役に立ちたい』って云ってたし、ね。」

 続いて、立花先生が真面目な顔で言うのだ。

「茜ちゃんやブリジットちゃんと違って、クラウディアちゃんの場合、戦闘とか不慣れだと思うし、そう言う事に向いた子じゃないでしょう? 大丈夫かしら。」

 その懸念に対して、気休めにもならない見解を示すのが緒美である。

「そもそもが、C号機は格闘戦には向かない機体ですから。カルテッリエリさんも、それは理解してるでしょう?」

 そして、茜が続く。

「仕様的には、アレが人型(ひとがた)をしている必要も、余り無いんですよね。戦闘機とかに AI のユニットと、電子戦用の機材を積み込んだ形式でも良かった様に思うんですが。」

 その茜の疑問には、微笑んで緒美が答えるのだ。

「まあ、そこはね。自力で最低限の反撃が出来る様にして、生存性を向上させようって意図ではあるんだけど。最終的には格闘戦の能力は Sapphire 次第ではあるから、当面は LMF の時みたいに Sapphire に格闘戦のシミュレーションをやらせて、経験値を上げておく可(べ)きよね。」

「取り敢えず、C号機に物理攻撃の装備が無い事に、わたしとしては安心してるんですけどね。攻撃能力が有ると、流石のカルテッリエリさんでも、余計な事を考えてしまうかも知れないので。」

 緒美に続いて発言した樹里に、立花先生が怪訝(けげん)な顔付きで尋(たず)ねる。

「エイリアン・ドローンに対する復讐、的な?」

「仲の良かった幼馴染みを亡くした事、二年や三年で消化できる訳(わけ)、無いじゃないですか。能力や機会が有ったら、誰だって『復讐』や『敵討(かたきうち)』は考えるでしょう?」

 そう話す樹里に、緒美が問い掛ける。

「カルテッリエリさんと、そんな話を? 城ノ内さん。」

「いえ。その手の話題に就いて直接的な話は、した事は無いですけど。でも内心に、そんな『怒り』を、カルテッリエリさんが抱えた儘(まま)なのは、多分、間違いないですよ。それは、見てれば解ります。」

 答えた樹里の表情は、少し遣(や)る瀬無(せな)いのだった。そして同じ様な顔で緒美は、「そう。」とだけ返したのである。
 そこで、議事を進める為に立花先生が提案するのだ。

「取り敢えず、樹里ちゃん。一応、クラウディアちゃんの意思を確認して呉れる? 実戦でのC号機の評価試験をやるかどうか。その答えを聞いてから、さっきの茜ちゃんの条件も入れて、本社と交渉してみるから。

「わたし、何か提案しましたっけ?」

 唐突(とうとつ)に立花先生に引き合いに出され、何(なん)の事か咄嗟(とっさ)に思い当たらなかった茜は、立花先生に聞き返す。
 すると、立花先生は微笑んで答えるのだ。

「言ってたじゃない。退避や撤退の判断は此方(こちら)で、って。重要な提言よ。」

「あ~、それですか。思い出しました、はい。 拾って頂いて、ありがとうございます、先生。」

 そんな二人の遣り取りに、くすりと笑って、緒美が声を上げる。

「それでは、C号機の能力検証の方針に就いては、その様にしたいと思います。 じゃ、次の件ね。実は、今日、集まって貰ったのは、こっちが本題なのだけれど…。先に言っておきますけど、立場上、立花先生は一切コメントしてくださらなくて結構ですから。」

「何(なん)の話かしら、怖いわね。」

 眉を顰(しか)めて立花先生が返した言葉に、一瞬、苦笑いを浮かべた緒美は、話を続けるのだ。

「何(なん)の話かと言うと、本社、或いは政府が、HDG の開発を容認している理由と、Ruby の開発目的、使用用途に就いて、そんな話です。」

「ちょっと、緒美ちゃん!…」

 勢いで少し大きな声を出す立花先生を、緒美も少し大きな声で制するのだ。

「以降は全部、わたしの個人的な予想ですから。先生はコメントしないでくださいね。」

 そう緒美に釘を刺され、立花先生は上半身を引いてソファーへと預け、胸の前で腕組みをした右手の指先を唇に当てる様にして口を噤(つぐ)み、それ以降は口を出さずに聞き取る事にしたのだ。
 その一方で、茜が緒美に問い掛ける。

「予想、なんですか?部長。」

 緒美は、微笑んで簡潔に答える。

「そうよ。全部、状況証拠から積み上げた、徒(ただ)の仮説。一切(いっさい)、確証は無いわ。」

 今度は樹里が、緒美に尋(たず)ねるのだ。

「それを、どうしてわたし達に?」

「最初はわたしも、この思い付きを誰にも話すつもりは無かったのだけど。貴方(あなた)達なら、冷静に聞いて呉れるだろうと思ったのよ。もしかしたら、何か解決策も、アイデアが得られるかも知れないし。」

「解決しないといけない、何かそんな用件が有るんですか?」

 茜が、そう問い掛けると、緒美の表情から笑みが消え、そして緒美は答えたのだ。

「この儘(まま)、計画が進行すると、二年か三年先に、Ruby はミサイルの誘導装置として消費されてしまうわ。」

「誘導装置? Ruby が?」

 驚いて聞き返す茜に、緒美は黙って、唯(ただ)、頷(うなず)く。
 次に声を上げたのは、樹里である。

「え~と…どうして、そう言う話になるんでしょうか?部長。」

「そうね。順を追って話さないと、理解出来ないでしょうね。」

 緒美は一度、深く息を吐(は)き、再(ふたた)び話し始める。

「先(ま)ず、HDG に就いてだけど。 政府は HDG を将来的に採用する積もりは無いし、本社も売り込む気は無い。それなのに本社は開発を続けてるし、防衛軍は協力をして呉れてる。何故だと思う?天野さん。」

「それは、完成すれば利用価値がって言うか、採用される可能性が少しでも有るから、では?」

「それは無いわね。HDG の生産コストが物凄く安くなれば、可能性が有るのかも知れないけど。実際には、それは有り得ない話だわ。」

 そこで、樹里が口を挟(はさ)む。

「でも、何かしらメリットが有るから、開発が進められているんですよね?部長。」

「勿論よ。だからその『メリット』は完成した HDG その物じゃなくて、そこで開発された技術の方、それが、本社も防衛軍も政府も、欲しいのだと思うの。」

 茜が、緒美に確認する。

「例えば、ディフェンス・フィールドとか、ビーム・エッジ・ソードとか、ですか?」

「そう言った、個別の技術は HDG とは関係無く、元から有ったものだから。価値が有るとすれば、そう言ったものが統合(インテグレート)されたシステムの方でしょうね、この場合。 この間の、AMF 搭載のレーザー砲みたいに、Ruby から火器管制を作動させる事で、命中精度が格段に向上してたでしょう? そう言う話よ。」

「そう言う事ですか。 そこで Ruby の話に繋(つな)がる訳(わけ)なんですか?」

「そう、単純な話ではないわね。HDG のシステムにしても、結局は襲撃して来るエイリアン・ドローンを撃退する為の仕様だから、それ自体を本社や政府が欲しがっているのではない筈(はず)なの。」

 今度は樹里が、緒美に尋(たず)ねる。

「結局、本社や政府は、何を計画しているんです?」

 その質問に、緒美は一息を吐(つ)いてから、答えたのである。

「多分、エイリアンのマザー・シップ、そこへの直接攻撃。」

 緒美の発言を聞いて、茜と樹里は顔を見合わせ、一瞬、息を呑んだ。
 そして最初に、樹里が声を上げたのである。

「直接って、月の裏側ですよ?」

「そうよ。」

 冷静に言葉を返す緒美に、何か気付いた様に茜が問い掛けるのだ。

「それで Ruby 搭載のミサイルって話、ですか?」

「流石、天野さんは見当が付いたみたいね。」

 緒美は一瞬、「ふっ」と笑ってみせる。だが、まだ納得のいかない樹里が、緒美に訊(き)くのだ。

「いや、待てください。地球からミサイル打ち上げたって、月の裏側に到達する前に、撃墜されるんじゃないですか?」

「そうね。普通のミサイルなら、地球から月軌道に到達する迄(まで)に、エイリアン側に対処する時間は十分(じゅうぶん)有るわ。だから、誰もそんな事は考えなかったんだけど。」

「ですよね。ミサイルの軌道計算が出来たら、そこへ何か障害物を運んで来れば、飛んで来るミサイルの処分は出来ますよね。」

「別に態態(わざわざ)、障害物を運んで来なくたって、エイリアン・ドローンをミサイルの軌道上に配置しておけば、それで済むでしょう?」

「え? そうなるんですか?」

 意外そうに聞き返す樹里に、微笑んで緒美は言う。

「立花先生の分析に拠れば、エイリアン・ドローンは遠征用の使い捨て兵器だそうですから。マザー・シップを守る為なら、惜しくも何ともないでしょう?多分。」

「成る程。 それにしたって、そのお話だと、ミサイル攻撃では満足な効果は得られない、そう言う事では?」

 そこで樹里に、茜が助言するのだ。

「ですから、普通のミサイルでは、って事ですよ、樹里さん。」

 

- to be continued …-

 

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※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第16話.03)

第16話・クラウディア・カルテッリエリと城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 16-03 ****


 コンソールのマイクに向かって、維月が問い掛ける。

「クラウディア、今のサムズアップは?」

 すると直ぐに、クラウディアの声が返って来る。

「一瞬、想像(イメージ)したのかも知れない。無意識よ、ホントに。」

 今度は安藤が、Sapphire に尋(たず)ねるのだ。

「Sapphire、さっきのマニピュレータの動きは、何か入力が有ったの?」

「ハイ、江利佳。 思考制御からの入力に従いましたが、不適切でしたか?クラウディア。」

「あー、まあ、いいけど。ちょっと敏感過ぎるかも?」

 Sapphire の問いに対するクラウディアの答えを聞いて、樹里が提案する。

「思考制御の検出レベル、閾値(しきいち)の設定をこっちで少し上げてみるわ。」

「お願いします、城ノ内先輩。」

 クラウディアが樹里に返事をすると、続いて Sapphire も言うのだ。

「お手数を、お掛けします、樹里。」

 樹里はコンソールを操作し乍(なが)ら、Sapphire に話し掛ける。

「あら、自己紹介は、まだだった筈(はず)だけど、わたしの事、解るの?Sapphire。」

「ハイ。皆さんの個人識別に就いては、Ruby のライブラリからデータ移植を受けていますので。改めて、自己紹介をして頂く必要は、ありません。」

「成る程、それは便利ね…はい、設定変更完了。これで様子を見ましょうか。」

 そうこうする内、C号機は大扉の前に到達し、ロボット・アームが届く程度の距離で立ち止まるのだ。

「それじゃ、開けますね。」

 そうクラウディアが宣言すると、C号機は一旦(いったん)、左膝(ひざ)を突く形で姿勢を低くすると、左側のマニピュレータを前方へ差し出して大扉のハンドルに指を掛ける。そして大扉の一枚を少し左へと動かすと今度は立ち上がり、正面に出来た扉の隙間に両側のマニピュレータを差し入れ、ロボット・アームを左右に広げる様に動かして、大扉を押し開いたのだ。
 その一連の動作を眺(なが)めていたブリジットは、誰に言うでもなく呟(つぶや)くのだった。

「ああ、同じ動作、LMF でもやった事、有ったなぁ…。」

 それが染(し)み染(じ)みとした語感に思えて、隣に立っていた茜はブリジットに言うのだ。

「ごめんなさいね、LMF、壊しちゃって。」

「茜が壊した訳(わけ)じゃないでしょ。」

 間を置かずに言葉を返すと、ブリジットは微笑んで続けて言うのだ。

「それに LMF のデータが、あれで活かされているなら、無駄になってないって事だし。」

「そうね。」

 短く同意して、茜も微笑んだのだ。
 C号機は、押し開けた扉を通って、駐機場へと歩みを進めるのだった。

 十月も半ばともなると夕方の日暮れは早く、格納庫の外へ出ると太陽は既に西側の山陰(やまかげ)に入っていた。空はまだ、明るさを保ってはいたのだが、周囲が明るい時間は、このあと一時間も持たないのだ。
 その一時間で、C号機は歩行から駆け足、移動し乍(なが)らの加速や減速、制動、跳躍と言った具合に、C号機の脚部を使った動きと全体のバランス制御に関して、安全を確保しつつ丁寧に動作領域の確認と、搭乗するクラウディアに対する慣熟が行われていったのである。
 外が薄暗くなるとC号機は格納庫へと戻され、クラウディアは接続を解除した。以降は畑中や日比野達が、稼働後の点検やデータの吸い出しを行い、瑠菜や佳奈達メンテ担当のメンバーには取り扱いに関するレクチャーが実施されると言う流れは何時(いつ)も通りなのだ。その取り扱いレクチャーには、遅れて到着した応援の人員である金子、武東、村上、そして九堂らも参加したのである。
 約一時間、C号機に搭乗していたクラウディアは、と言うと。初めての事に緊張も有ったのか、流石に疲労感が隠せず、又、C号機の試運転で相当に揺られた所為(せい)も有って、聊(いささ)かぐったりとしていたのだった。
 一方で茜とブリジットの二人は、今日はインナー・スーツに着替える事も無く、HDG 装着者(ドライバー)として外部からC号機の様子を監視し、必要が有れば思考制御での入力方法や操作に就いて助言をする役割を振られていたのだが、C号機の仕上がりが思いの外(ほか)良かったのか、それともクラウディアが上手に Sapphire を扱ったからなのか、兎に角、茜もブリジットも出番は全く無くて、唯(ただ)、始終見学をしているだけだったのだ。
 そんな訳(わけ)でブリジットと二人、新装備の整備レクチャーが行われている傍(かたわ)らで現場の片付け作業をしていた茜の所に、緒美がやって来て声を掛けるのである。

「天野さん、ちょっといいかしら。」

「あ、はい。何でしょうか?部長。」

「このあと、夕食後…九時位から一時間程、時間取れるかしら。この先の試験内容に就いて、少しお話ししたいの。」

 茜は箒(ほうき)を手にした儘(まま)、緒美の方へ向き直り問い返す。

「それじゃ、ブリジットと二人で?」

「あ、いえ。今回は、天野さんだけ。連絡じゃなくて、相談しておきたい事が有るの。」

「わたしだけ、って珍しいですね。」

「ああ、あと城ノ内さんと、立花先生にも声を掛けるから、ミーティングに参加するのは四人ね。」

「そうですか、分かりました。それで、場所は…。」

「寮の談話室、第二の方を予約してあるから、九時に来てね。」

「はい。 それで、どう言った内容なんです?」

「内容は…まだ決定事項じゃないから、ここでは言わないわ。 じゃ、あとで、宜しくね。」

 そう言って踵(きびす)を返した緒美は、その足でデバッグ用コンソールへと向かうのだ。そこでは安藤と日比野に、樹里が新装備のソフト関連に就いてのレクチャーを受けているのだ。
 茜とブリジットが緒美の動きを視線で追い掛けていると、緒美は樹里に声を掛け、茜と同じ様な遣り取りをしている様子なのである。
 そんな状況を目にしたブリジットが、訝(いぶか)し気(げ)にポツリと言った。

「何だか、妙よね。」

「わたしと樹里さん、って言う取り合わせは、珍しいよね。議題はソフト仕様の絡みかしら? まあ、行ってみるわ。」

 そう言って微笑み、茜は床面を掃くのを再開するのだった。


 その日の部活が終わったのは午後七時を大幅に過ぎた頃で、それから兵器開発部のメンバー達は寮に帰り、夕食を取ったのである。
 そして茜は緒美に言われた通り、午後九時に女子寮二階の、ほぼ中央に在る第二談話室へと向かった。
 第二談話室は個室になっており、主に込み入った話をする際に利用されるのだが、それは使用者と使用理由を届け出た上での完全予約制で、生徒が使用する場合は教師の許可か同伴が条件となっている。これは周囲の目が届かない個室内で飲酒や喫煙、或いは『いじめ』等の、非行行為が行われる事を防止する為に設けられている条件なのであるが、この天神ヶ﨑高校の女子寮に於いて、過去にその様な事例が実際に起きたと云う訳(わけ)ではない。
 第二談話室の入り口脇に設置されている小型のホワイトボードには、午後九時からの使用者として『兵器開発部・鬼塚、城ノ内、天野』との記入が有り、使用理由の欄には『部活ミーティング』、許可・同伴者の欄には『特許法講師・立花』と、それぞれ緒美の筆跡らしき文字で書かれていたのだ。それを確認して、茜はドアをノックする。
 暫(しばら)く反応を待っていると、ドアが内側へと開かれる。

「どうぞ~。」

 ドアを開けて呉れたのは、樹里だった。

「あ、すいません、樹里さん。中から声を掛けて頂ければ…。」

「取り敢えず、入って~天野さん。」

 茜が室内に入り、入り口のドアが閉められると、廊下側から聞こえていた音が、ふっと静かになるのだ。
 樹里が茜に尋(たず)ねる。

「天野さんは、第二談話室は初めて?」

「はい。防音、なんですか?ここ。」

 室内には既に緒美と、立花先生も来ており、それぞれがソファーに座っている。ソファーは三人掛け程度の大きさのものが四脚、二脚ずつ対面にボックス状に並べられている。入口側から正面に見えるソファーに緒美が、入り口から見て向かって右手側のソファーには立花先生が既に座っており、向かって左側のソファーに樹里が座ると、茜は入り口を背にしたソファーに腰掛けるのだった。
 茜が座ったのを見計らって、緒美が口を開く。

「ここは、先生が寮生を個人指導する時に、周りに聞かれると不味(まず)い様な『お話』をする為に使うお部屋だから、音が漏れない様になってるのよ。まあ、そう言った本来の目的で使用される事は、滅多に無いけど。」

 微笑んで、立花先生が補足する。

「何せ、この学校の生徒は優等生ばっかりだから。」

「はあ。」

 何と無く、呆(あき)れた様な相槌(あいづち)を打つ茜である。
 続いて、樹里が説明するのだ。

「そんな訳(わけ)だから、大抵はこうやって部活のミーティングとかに使われてるんだけど。一番多い利用目的って、何だと思う?天野さん。」

「さあ、何でしょう。試験勉強、とか?」

「あー、それも有るけど。一番多いのはね、楽器の練習よ。」

「ああ、成る程。音楽(そっち)方面は興味が薄かったので、気が付きませんでした。」

 すると、立花先生が茜に問い掛けるのだ。

「天野さんは、ピアノとか、習い事はやらなかったの?」

「そうですね、わたしは剣道の道場に通ってたので。他にやらされたのは、書道位(くらい)ですね、小学生の最初の頃、三年程。 音楽関係は、普通に聴くのは好きですけど、自分で演奏しようなんて、考えた事も無かったです。あ、妹の方(ほう)はやってましたよ、ピアノ。」

 そこで、樹里が提案する。

「そうだ、その内、部の皆(みんな)でカラオケとか行ってみるのも、面白いかもですね。」

「いいですね、楽しそう。」

 普通に乗り気な茜に対し、緒美は特に表情も変えず、普通に言うのである。

「そうね、皆(みんな)で行って来るといいわ。」

「部長は、お嫌いですか?カラオケ。」

 そう問い掛ける樹里に、少し困惑気味に緒美は答えた。

「う~ん…行った事が無いから、よく分からないわね。今、流行ってる歌とかも知らないし。」

 緒美の答えを聞いて、微笑んで立花先生が言うのである。

「そう言う所、緒美ちゃんは浮世離れしてるのよね。わたしは、嫌いじゃないけど。」

「浮世離れ、ですか。まあ、自覚はしてますけど。 実際、その手の『遊び』とか、やってる時間が無かったものですから、ずっと。」

 緒美は小学校を卒業する頃から、エイリアン・ドローンと兵器や軍事に関する情報収集と研究に、自由時間の殆(ほとん)どを注(つ)ぎ込んで来たのである。勿論、学校の勉強や宿題も抜かりなくやっていたからこその、現在の成績なのであるが。寧(むし)ろ、定まった答えの無いエイリアン・ドローン対策の研究に比べれば、答えの定まっている学校の勉強や宿題は、緒美にとっては『いい息抜き』だったと言っても過言ではなかったのである。
 そんな緒美に、茜も尋(たず)ねてみる。

「部長は、音楽とか、どんなのを聴くんですか?」

「だから、聴かないんだってば。家(うち)の両親は二人共、研究一本の人だったから、ネットやテレビの放送でだってニュース程度しか見ないし、両親が家に居る時はクラッシクの音楽が良く掛かってたけど、ロックとかポップスとかをしっかりと聴いた事は無いのよね。両親は、映画とかも観ない人達だったからなあ。あの二人の唯一の娯楽は、研究だったのよね。」

「なかなかに凄い御家庭ね。」

 流石に立花先生も、苦笑いである。
 そこで思い出し笑いをし乍(なが)ら、緒美が言うのだ。

「そう言えば、パワード・スーツの参考資料として、SF 映画やロボットもののアニメとか観てたら、そんなわたしを見た両親が、『ウチの子が普通の子みたいに、映画を観てる』って喜んでたのよね。普通の女の子は、そんなテーマの映画は普通、観ないでしょって、その辺りからズレてるのよ、わたしの両親。」

 その緒美が語るエピソードに、緒美の正面に座っている茜はクスクスと笑っているのだが、樹里と立花先生は互いの顔を見合わせての、どう反応したものかと困り顔だった。そんな事には構わず、緒美は茜に尋(たず)ねるのである。

「そう言えば、天野さんも同じ様な映画とかアニメとか、一通り観てるのよね。 御両親は何も言わなかった?」

「家(うち)ですか? うちの母は、そう言ったものに全く興味が無いので、反応は何も無かったですね。父の方は、SF とかアクション系の作品は、結構、好きだったみたいで、わたしと一緒に観て、楽しんでましたよ。寧(むし)ろ、妹の方が何か言いた気(げ)でしたけどね。」

 そして茜は「あははは。」と笑うのだが、左右の二人は、矢張り困り顔なのである。
 それから緒美は座り直して姿勢を整え、口を開くのだ。

「それじゃ、そろそろ本題に入りましょうか。」

 その宣言を受けて、他の三名も座り直す。そして、改めて立花先生が問うのだ。

「それで、本題って何かしら?緒美ちゃん。」

「大きく分けて二つ、有るんですけど。先(ま)ずは、C号機の能力確認、試験方法に就いて。」

 真面目な顔で緒美が言うと、立花先生の表情が少し曇るのだ。

「ああ、今朝、打診が有った件ね。」

「はい。その件です。」

 二人が深刻な表情なので、樹里がその理由を尋(たず)ねるのだ。

「打診、と言うのは…本社から、ですか? その、『連絡』ではなく。」

「そう。今の所は『打診』なのよ。 C号機の電子戦…最初は ECM、電波妨害の能力検証なんだけど。いえ、電子戦の能力は何(ど)れにしても、シミュレーターとか模擬的な方法では確認が出来ないって言うか、意味が無いって言うか。」

 そこで茜が、コメントを挟(はさ)む。

「それで、検証方法に就いては保留(ペンディング)になってたんですよね?」

「本社は、何(なん)て云って来たんですか?部長。」

 続いて樹里が尋(たず)ねると、一息を置いて緒美は答えるのだ。

 

- to be continued …-

 

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