WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第19話.13)

第19話・Ruby(ルビィ)と天野 茜(アマノ アカネ)

**** 19-13 ****


「そうなの? でも、学校の方が大事なんだから、会社の仕事は大変だったら断ってもいいのよ、茜ちゃん。無理はしないでね。」

 祖母の言っている事は、飽く迄(まで)、一般論なのだと茜は理解していたのだが、聞きように因っては HDG の事を言っている様でもあり、自分から余計な事を言ってしまわない内に、早急に話題を変える必要性を茜は感じたのである。

「うん、分かってるー…あ、お母さん、近くに居る?」

「ええ、代わりましょうか?」

「うん、お願いー。」

 暫(しばら)く間が有って、通話の相手が母、薫(カオル)に交代するのだ。

「もしもし、元気?茜ちゃん。」

「うん、大丈夫だよー。」

「何か、あった?」

 薫は然(そ)う訊(き)いて来るのだが、茜には特に話題が有った訳(わけ)ではない。

「ああ、いえ、そうでもないけど…えーと、あ、お父さんは?」

「それが、間の悪い事に、今日も出張なのよ。何よ、お父さんに用事だったの?」

「そうじゃないけどー、どうしてるかな、って思って。最近、様子を聞いてなかったし。出張って、どこ?海外?」

「ううん、最近は国内ばっかりよね。今日は、仙台だって。」

「そう、まあ、元気ならいいけど。お母さんも、気を付けてね。」

「あら、ありがと。こっちの心配はいいから、茜も風邪とか引かないようにね。」

「うん、夕食の途中だったから、そろそろ切るね。冬休みの予定とか、決まったら又、連絡するからー。」

「はい、はい、待ってるね。」

「じゃ、切るねー。」

「はい、じゃ、またねー。」

「はーい。」

 茜は通話を終えると、携帯端末を手に元の席へと戻るのである。

「お帰りー、茜。」

 真っ先に、ブリジットが声を掛けて来る。
 茜は微笑んで「ただいま。」と声を返して席に着き、少し急いで、あと少しだった残りの食事を再開するのだが、最初に口に入れた肉片を飲み込んでから、ふと気になった事をブリジットに尋(たず)ねるのだ。

「そう言えば、此方(こちら)のお話しはどうなったの?」

「部長のお話しは、茜が席を立った迄(まで)よ。その後は、茜の姉妹の名前をネタに、一(ひと)盛り上がりしてた所。」

「名前で?」

 不思議そうに聞き返した茜に、通路を挟(はさ)んで隣の席から金子が茜に訊(き)いて来るのだった。

「天野さんと妹さんの名前が『光の三原色』が由来だ、って所までは聞いたのだけど、由来に『光の三原色』が出て来る理由は何なの?」

 茜は口の中の咀嚼(そしゃく)物を飲み込んで、金子に答える。

「ああ、家(うち)の父方には、『天野』って名字に因(ちな)んで、『星』とか『光』関連の名前を付ける流れが有りまして。それは特に男子の方、なんですけど。」

「因(ちな)みに、お父様のお名前は?」

「光市(コウイチ)です。光(ひかり)の市(いち)、市町村の市(し)、ですね。 あと、わたし達、姉妹の名前が一文字縛りなのは、母方の女子が皆(みんな)そうだったので、って事らしいですよ。」

「へえー。余所(よそ)の家(うち)の、そう言うお話しって面白いよねー。」

 金子は感心する様に然(そ)う言って、静かにお茶を飲むのである。
 一方、隣の席でブリジットが言うのだ。

「一文字縛りの件は、初めて聞いた気がする。」

「そうだっけ?」

「言われてみれば、茜、碧…お母さんは薫で、叔母さんが洸、さんだっけ? お祖母(ばあ)様は?」

「妙(タエ)、よ。 お祖母(ばあ)ちゃんの姉妹も、一文字の名前だった筈(はず)だけど、忘れちゃった。」

 今度は正面の席から、村上が問い掛けて来る。

「茜ちゃんは、御実家は東京よね。御両親も?」

「母方の天野家は東京だけど、父方の天野家は長野なのよ。」

 続いて訊(き)いて来たのは、九堂である。

「冬休み中に、そっちへ行ったりするの?」

「ううん、多分、行かない。 冬は寒いし、割と雪も降るから、お父さんが地元に帰るのを嫌がるのよ。だから、冬は東京で母方の祖母とかと過ごして、長野の父方の実家へは夏に行くパターンなのよね。夏は、東京に居るより涼しいから。」

 するとブリジットが、微笑んで言うのだ。

「去年は、わたしもご厄介になったのよね、一週間程。」

「へえ、なんで?」

 疑問を呈する九堂に、茜が答えるのである。

「受験対策の合宿、みたいな?」

「その節(せつ)は、お世話になりました~。」

 ブリジットは敢えて丁寧に、謝意を述べるのだった。

「へえ~楽しそうね、わたしも行ってみたい。勉強は遠慮したいけど。」

 微笑んで然(そ)う言う九堂に、茜が言葉を返す。

「山の中だから、山と畑以外には何も無いわよ?」

「受験勉強には、打って付けだったけどね。」

 そう補足するブリジットに、真面目な顔で村上が尋(たず)ねるのだ。

「夏休み中に合宿って、ブリジットは塾とかには通わなかったの?」

「だって、茜に教えて貰った方が解り易いんだもん。実際、夏休み明けてからの模試とかでも、結構、得点が上がっててさ、効果は絶大だったのよ。」

「へえ~、流石、茜ちゃん。」

 ブリジットの返答に感心する村上だが、そこに茜が異議を唱えるのだ。

「いやいや、頑張ったのはブリジットだからね、敦っちゃっん。」

「あははは、確かに然(そ)うよね。ゴメンね、ブリジット。」

「いいよー。教えて呉れるのが茜じゃなかったら、きっと上手く行ってなかっただろうからさ。」

 ブリジットも笑顔で、村上に言葉を返すのである。
 そこで、茜が二人に対して提案をするのだ。

「山の中で何(なん)にも無いけど、それでも良ければ、来年の夏休み中にでも二人も遊びに来てみる?」

「えー、いいの?茜。」

 茜の提案に、真っ先に食い付いたのは九堂なのだ。

「大丈夫だと思うよ。山の中でお客さんとか、滅多に来ないそうだから。きっと歓迎して呉れるよー。まあ、細かい事は来年になってからの話だけど。」

「あはは、楽しみにしてるー。」

 そんな具合に、HDG とは関係の無い話題で、時間は過ぎていくのだ。それは緒美達、三年生のテーブルでも然(そ)うだったし、二年生達のテーブルでも然(そ)うだったのである。
 そんな風(ふう)に、彼女達の其(そ)の日は終わっていったのだ。

 そして、月軌道から地球へと向かうエイリアン・ドローン『ヘプタゴン』の、今迄(いままで)に類を見ない大集団が観測されたのは、この翌日の事なのである。

 

- 第19話・了 -

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第19話.12)

第19話・Ruby(ルビィ)と天野 茜(アマノ アカネ)

**** 19-12 ****


 一方では恵が、飯田部長の担当秘書である蒲田に尋(たず)ねるのだ。

「蒲田さんも、ご一緒だったんですか?」

「あはは、いえ、わたしは此方(こちら)に来てる秘書課のメンバーと、午後から面談の予定が有ったので。」

「秘書課の?」

 そう聞き返す恵に、蒲田は説明を加えるのである。

「会長…理事長の秘書は、加納さんだけじゃないですから。元々、加納さんは飛行課との兼務と言う特殊な勤務形態ですし、そうじゃなくても休暇を取る事も有りますからね。ですのでアシスタントが二名、本社からの人員が半年、乃至(ないし)、一年の期間で派遣されて来ているんですよ。 そのアシスタントは本社からの出向扱いなので、何かしらの不都合とか要望とか、定期的に面談して確認しているんです。」

「ああ、成る程。」

 恵が蒲田の説明に納得していると、飯田部長が突然の思い付きを言い出すのだ。

「そうだな、この案件に一段落(いちだんらく)付いたら、兵器開発部の皆(みんな)には、一泊二日の温泉旅行でも会社からプレゼントしようか? まあ、若い人は温泉とか興味ないかも、だが。」

「冬場なら、一泊で行けるのなら悪くないんじゃないですか? 食事が豪華なら、言う事ないですけど。」

 そう言って、直美がニヤリと笑うのである。

「それで満足して貰えるなら、任せておきなさい。」

 直美に安請け合いする一方で、飯田部長は笑顔で立花先生にも声を掛けるのだ。

「その時は、引率、宜しくね、立花君。」

「え~…まあ、社命とあれば仕方が無いですけど。」

 露骨に嫌そうな顔で応える、立花先生である。

「そう、社命だから。キミも偶(たま)には、のんびりして来るといい。」

「この子達と一緒で、のんびり出来るかは疑問ですけど。」

 飯田部長に然(そ)う切り返す立花先生なのだが、そこで恵が、立花先生に笑顔で抗議するのである。

「嫌だなー先生、そう言う所で先生に迷惑掛ける程、子供じゃないですよー。」

「あはは、そうね。ごめんなさい。 個人的に、そう言う所へは余り行かないから、『のんびり』ってのに想像が付かないのよね。」

 今度は直美が、立花先生に言うのだ。

「お酒でも飲んで、ぼんやりしてたらいいんじゃないですか?」

「未成年者(あなたたち)の前で、お酒なんか飲む訳(わけ)には行かないでしょ。そもそも、わたしはお酒、飲まないし。」

 苦笑いして、飯田部長が意見するのである。

「立花君は、ストレス解消の為に何か、趣味を持った方がいいと思うぞ。」

「飯田部長。仕事のストレスは、仕事で解消するのに限るんですよ、ご存じありません?」

 反論する立花先生の顔は、大真面目である。飯田部長は溜息を一つ吐(つ)いて、所感を述べるのだ。

「いや。普通は、それが出来ないから、仕事とは関係ない趣味を持つんだけどね。」


 その後、予定されていた一連の作業や打ち合わせを済ませ、本社へと戻る安藤達が乗った社有機を見送り、そして格納庫内の片付けを終えて、兵器開発部のメンバーは女子寮へと戻ったのである。時刻としては午後七時を少し過ぎており、寮に戻った一同は其(そ)の儘(まま)、食堂での夕食となったのだ。
 そして、それぞれが談笑し乍(なが)らでの食事は進み、夕食も終盤となった頃に緒美が突然の発表を切り出したのである。

「ああ、そう言えば。 皆(みんな)に、知らせておきたい事が有るのだけど。」

 立花先生を含めて全員が緒美の方に注目するのだが、緒美は特に間を置かずに、普通に続けて言葉を発するのだ。

「明後日(あさって)、今度の水曜日に、HDG が一機、追加で搬入される予定だから。」

「それ、今、言うの?」

 少し呆(あき)れた様に、緒美の向かい側の席から立花先生が言うのだった。
 ここで、この時の席の配置に就いて、記載しておく。
 部長である緒美を中心に説明すると、緒美の右手側に恵、左手側には飛行機部の金子が座っている。その六人用テーブルの向かい側には、恵の正面が直美、金子の正面には武東が席を取っていた。
 三年生組のテーブル、緒美から見て右隣のテーブルには二年生組とクラウディアが席を取っており、恵とは通路を挟(はさ)んで佳奈、樹里、クラウディアの順である。佳奈の向かい側には瑠菜、樹里の向かい側には維月が居たのだ。
 一年生組は緒美から見て左側の四人用テーブルに居(お)り、金子とは通路を挟(はさ)んで茜、ブリジットの順であり、茜の向かい側が村上、ブリジットの向かい側が九堂、と言う席の配置だったのだ。
 そして、緒美は澄まし顔で応える。

「ここ数日は ADF の件に集中していたので。でも、そろそろ、言っておかないと、と思いまして。」

「と言う事は、先生は御存じだったんですか?」

 緒美の隣から、恵が立花先生に尋(たず)ねる。

「それは、まあ、立場上はね。」

 続いて、緒美が言うのだ。

「詳しい経緯とか、今度、搬入される HDG の扱いとかに就いては、明日の部活の時間に詳しく説明するから。」

 透(す)かさず、隣のテーブルから瑠菜が声を上げる。

「えー、何かモヤモヤしますー。」

 瑠菜は勿論、この場で詳細を話すのが適当でない事を理解していた。徒(ただ)、その瑠菜の言い方に、二年生組がクスクスと笑うのだ。そして、今度は直美が声を上げるのだ。

「ああ、それで、畑中先輩達が残ってたのか。」

「まあ、そう言う事でしょうねー。」

 直美の発言に、恵が応じるのだが、その直後、誰かの携帯端末から着信音が鳴り出すのだった。

「あ、わたしです。」

 茜は然(そ)う声を上げて、背後に掛けてある制服のポケットから携帯端末を取り出した。彼女達は第三格納庫から寮に戻って、食堂へ直行したので全員が部屋着に着替えてはいなかったのだ。だから流石に制服のジャケットは、皆が同様に椅子の背凭(せもた)れに掛けていたのである。
 携帯端末の画面で茜は、通話要請を送って来た相手を確認する。

「あ、碧(アオイ)からだ。」

「碧ちゃん?」

 隣の席からブリジットが声を掛けて来るのに頷(うなず)き、茜は携帯端末を持って席を立つのだ。

「ちょっと、失礼します。」

 通話を受ける操作をして、話し乍(なが)ら茜は、周囲に人の居ない壁際へと歩いて行くのだった。

「…もしもし、どうしたの?…今、大丈夫よー…ああ、届いたー…うん…。」

 離れて行く茜を見送るブリジットに、向かい側の席から九堂が尋(たず)ねるのだ。

「アオイちゃん、って?」

「ああ、茜の妹ちゃんよ。今日は碧ちゃんの誕生日(バースデー)だから、プレゼント贈るって手配してたの、その事じゃないかな。」

「へえー、お姉ちゃんは大変だー。」

 感心気(げ)に村上が所感を漏らすと、隣のテーブルから武東が、ブリジットに訊(き)いて来るのだ。

「ねえ、ボードレールさん、『アオイ』って、どう書くの? 草冠の『葵』かしら。」

「ああ、いえ、『紺碧』とか『碧眼』とかの『碧(へき)』です。茜が『赤(あか)』だから、妹が『青(あお)』だったらしいですよ。三人目が居たら、きっと『緑』だったんじゃないかって、茜のお母さんは冗談言ってましたけど。」

 くすりと笑ってブリジットは言ったのだが、そのネタは武東には通じなかった様子で、不思議そうに向かいの金子に言うのだ。

「赤、青、と来たら、普通『黄色』じゃないのかしら?」

 金子は、真面目な顔で応える。

「信号ならね。でも信号の『青』は、本当は『緑』だけど。それは兎も角、赤、青、緑って言ったら、光の三原色の方でしょ。」

「ああ、そっちか。でも厳密に言えば『茜色』って赤よりもオレンジに近い色の筈(はず)だし、『碧色(へきしょく)』って青と緑の中間位(くらい)の色よね、まあ、『青色』の意味でも使うみたいだけど。」

「こらこら、人の名前に文句付けちゃ駄目だよ?さや。」

「そんな積もりじゃないけどさー。」

 そして武東は、お茶の入った湯飲みに口を付けるのだった。そして今度は、恵が言うのだ。

「『茜』は植物の名前でもあるから、草冠の『葵』でも有りだったかも、よね。」

「そうなの?『茜』って花?」

 そう聞き返して来たのは、恵の向かい側の直美である。

「茜の花は、小さくて、草自体は地味な感じだけど、根っこが茜色の染料になるそうなのよ。植物としては葵の方が有名だし、花も綺麗かな。」

「森村ちゃんって、その手の女子っぽい知識が豊富でいいよね。」

 緒美が感心して隣席の恵に言うと、恵は微笑んで言葉を返すのだ。

「一般教養でしょう、この位。」

「でも、この学校、特に特課の生徒は工学系を目指して来てる子ばっかりだから、その手の一般教養に疎(うと)い子が多い気がする。」

 そう所感を語る緒美の向かい側で、直美が立花先生に尋(たず)ねるのだ。

「先生は、御存知でした?」

 立花先生は、微笑んで答えたのだ。

「訊(き)かないで?直美ちゃん。」


 さて、席を離れて行った茜の方であるが、その会話を追ってみよう。

「…もしもし、どうしたの?」

 席を離れつつ、茜が返事をすると、携帯端末から碧の声が聞こえて来るのだ。

「今、大丈夫?」

「今、大丈夫よー。」

「プレゼント、届いた。ありがとう、お姉ちゃん。」

「ああ、届いたー。」

「うん、それで、お祖母(ばあ)ちゃんが電話しろ、って言うから。」

「うん。」

「あ、ご飯、食べてた?」

「まあ、もう食べ終わる所だったから大丈夫よ。お祖母(ばあ)ちゃん、来て呉れてるんだ。」

「うん、今年はお姉ちゃんのお祝いが出来なかったから、何か張り切ってるみたい。」

「あはは…それじゃ、何か欲しいものがあったら、今の内に『おねだり』しておきなー。」

「あははは…あ、お祖母(ばあ)ちゃんが代われって、ちょっと代わるねー…。」

 そうして携帯端末からの声が、妹の碧から、祖母の妙(タエ)に交代したのである。
 妙は茜の母である薫(カオル)の母親であり、祖父である天野理事長の妻である。つまり、天野重工の会長夫人でもあるのだ。夫である天野理事長が天神ヶ﨑高校へと来ていて自宅を留守にする時、妙は長女である薫の家へと泊まりに来るのが、以前から珍しい事ではなかったのだ。一方で、現在の天野重工社長夫人である次女の洸(ヒカル)の家へ行くのは、流石に遠慮している様子なのだった。

「もしもし、茜ちゃん? 元気?」

「あー、お祖母(ばあ)ちゃん。元気ですよー、お祖母(ばあ)ちゃんは?変わりない?」

「ええ、わたしは元気だけが取り柄ですからね。 夏休みの時には、都合が合わなくて、ご免ねー茜ちゃん。」

「ううん、気にしないで。」

「年末、冬休みには帰って来れるんでしょ?」

「うん、その予定。はっきり日程が決まったら、また連絡するけど。」

「碧ちゃんへのプレゼント、結構、高価そうだったけど、お金、大丈夫?」

 茜が送ったのは、革製の小振りな肩掛けバッグだった。所謂(いわゆる)『ブランド』物ではなかったが、それでも仕立ての良さそうな一品だったのだ。中高生が持つには少し高価な品だったが、妹の碧が持っている服には似合いそうだと茜は思ったのである。尤(もっと)も、茜自身は其(そ)の手の『ファッション』系への関心がそもそも薄く、知識も同年代の子に比べれば乏(とぼ)しかったので、自分のセンスに自信は無かったのだが。

「大丈夫だよー、学校(こっち)に居る限り、生活費は掛からないし、会社の仕事のお手伝いで、バイト料とかも貰えてるし。」

 茜は『会社の仕事のお手伝い』と表現したが、家族には『HDG』に関する開発業務の事は『社外秘』なのだ。勿論、防衛軍の作戦に協力参加している事も、当然、家族であっても秘密なのである。

「会社の人も、生徒を仕事でこき使って、どう言う積もりなのかしらねぇ、ホントに。」

「まあまあ、お祖母(ばあ)ちゃん。そんなに大した事はしてないから、資料整理のお手伝い程度の事よ。あ、お祖父(じい)ちゃんには訊(き)いたりしないでね、詳しい事は知らないと思うから。」

 そう、咄嗟(とっさ)に茜は嘘を吐(つ)いたのだが、それは祖父が家庭で問い詰められない様に張った予防線なのである。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第19話.11)

第19話・Ruby(ルビィ)と天野 茜(アマノ アカネ)

**** 19-11 ****


 茜の視界では、百七十キロメートル彼方(かなた)の仮想エイリアン・ドローンの編隊群は、当然だが目視は出来ない。相対速度が毎分 15.8キロメートルの儘(まま)だと、凡(およ)そ十分(じゅっぷん)後には互いの進路が交錯するのである。
 その仮想エイリアン・ドローン編隊は三角形の三機編隊が、先頭から一編隊、その後ろに三編隊、五編隊、七編隊と並んで全体で綺麗な三角形を描き、総数五十機の設定なので最後尾中央に残った二機が並んで続いているのが、戦術情報の画面から読み取れたのだ。しかし、目標の数が多過ぎて表示範囲を広くすると、シンボルの多くが重なってしまうので、各目標を識別する為には、或る程度の拡大表示をする必要があった。

Ruby、目標の識別番号を表示して。それからレーザーの照射時間は、距離に合わせて設定の通りで調整してね。」

「ハイ、識別番号を表示します。」

 Ruby の制御に因り、戦術情報の敵機を示す三角形のシンボル中央に、1 から 50 の番号が表示されたのだった。通常想定されている敵機の数は、三機から五機程度なので、識別番号は非表示なのが初期設定とされているのだ。それは番号が無くても、十分に把握や遣り取りが可能だからだ。しかし、十機を超えると、流石に番号を振らないと管理や指揮管制との遣り取りに、不都合が生じるのだ。

「それじゃ Ruby、目標の先頭、1 から 4 番を目標固定(ロックオン)。有効射程に入ったら、射撃を始めるわよ。マスターアーム、オン。発射用キャパシタの、電圧確認。」

「ハイ、マスターアーム、オン。キャパシタの電圧正常。最大射程での照射時間は五秒の設定になります。有効射程まで、あと二十秒。」

「各レーザー砲バレル、目標を追跡開始。発射準備で待機。」

「ハイ、全バレル、目標の追跡を開始。発射命令まで待機します。目標、有効射程まで、あと五秒…3…2…1…有効射程に入りました。」

「レーザー砲、1 から 4、発射。」

「発射します。」

 Ruby が発射を宣言すると、レーザーの照射中を知らせるブザー音が鳴り響く。
 それに続いて、戦術情報画面では目標を表すシンボルが一斉(いっせい)に動き出すのだ。それは文字通り『蜂の巣をつついたよう』な動きだったのである。
 射撃対象だった四機の目標は、レーザー照射の効果で落下して行くのだが、それ以外の四十六機は大別して三つの方向へと分散して行くのだ。つまり、茜から見て右側、左側、そして下側である。
 茜は比較的、ADF への接近速度が速いと思われる、向かって左側の集団を次の目標に定める。

Ruby、目標 7、12、21、29 を目標固定(ロックオン)。レーザー 1 から 4 で追跡開始。」

「ハイ、7、12、21、29 をロックオン。追跡開始します。」

「レーザー 1、発射。続いて、レーザー 2、発射。レーザー 3、発射。 レーザー 4、発射。」

 茜は順番に、レーザー砲の発射を命じていく。その都度(つど)、Ruby は「発射します。」と応え、続いてレーザー照射を知らせるブザー音が鳴るのだ。
 茜がレーザー砲を、順番に発射しているのは、各レーザー砲には連続発射に対する制限が設けられているからだ。つまり、レーザー砲一門に就いて、発射後に五秒間のインターバルが設定されているのだ。レーザー砲は四門が装備されているので、例えば二秒間隔で順番に発射していけば、レーザー 4 を発射した時点でレーザー 1 は五秒間の照射を終えて一秒が経過している計算となる。そこからレーザー 1 のインターバル期間の残り四秒で次の目標を指定すれば、レーザー 1 のインターバル期間終了後には次の照射が開始出来る訳(わけ)だ。ここでレーザー 1 の発射を一秒待てば、レーザー 2 以降の発射タイミングは二秒間隔で発射が可能なサイクルが出来上がるのである。
 目標の指定は一括で行うのだが、各レーザー砲の照準と目標追跡は、それぞれのインターバル期間五秒の間に実施されるので、茜は二秒間隔での発射指示が可能となるのである。
 そうして、左側から右側、そして下側象限へと分散した目標を、近付いて来る物から順番に ADF は撃墜していき、五十機の目標は二分半程で、全て撃墜されたのだった。結局、仮想エイリアン・ドローンは ADF との距離を、百キロメートル以下に縮める事は無かったのだ。

「全目標、消化しました。」

 通信で、茜が然(そ)う報告すると、緒美が言葉を返して来る。

「取り敢えず、お疲れ様…一応、計算通りだけど。シミュレーションとは言え、何(なん)だか、とんでもないわね。」

「えーと…レーザーが一発も外れなかったのは、シミュレーション・ソフトのバグ?でしょうか。」

 その茜の疑問に対して、日比野が言葉を返す。

「そんな事は無いと思うよー。でも一応、後でログはチェックしてみるけどー。」

「お願いします、日比野先輩。」

「まあ、時速 700 キロで目の前を横切ってても、百キロも離れてたら、角度に換算すれば一秒間に 0.1°程度の移動量だから、レーザー砲で十分(じゅうぶん)追える範囲なんだけど。まあ、Ruby の制御が、それだけ正確だった、って事よね。」

「恐縮です。」

 緒美の評価に、Ruby が一言を返すのである。続いて、緒美は茜に問い掛ける。

「それじゃ天野さん、続いて、目標が百機の設定でもいけそうかしら?」

「ああ、はい。やってみましょう。 樹里さん、お願いします。」

「了~解。設定、変更するね…はい、それじゃ、スタートするよ。いい?」

「お願いします。」

「開始地点は、最初の座標に戻るから。それじゃ、はい、スタート。」

 樹里が宣言すると、一瞬、視界の映像で雲の位置などが切り替わり、高度や機体のステータス、戦術情報が更新されるのだ。早速、茜は戦術情報を確認する。
 今度は前方 160 キロメートルに、三つの大きな編隊群が出現している。編隊群を構成する基礎構造は、前回と同じく三角形の三機編成だが、それが前方から一編隊、三編隊、五編隊と三段に並んだ三角編隊二十六機が左右に、そして中央には一編隊、三編隊、五編隊、七編隊の四段に並んだ総数四十八機の三角編隊群となっている。因(ちな)みに、左右編隊群の前方から三段目の内の一編隊は二機での構成となっているが、これは総数が百機での設定になっている所為(せい)で、三機構成を基礎とした場合の不足分が、左右最後尾の編隊に割り振られた結果である。
 基本的にエイリアン・ドローン『トライアングル』は、三の倍数で地球へと投入されるが、大気圏降下後には複数の目標へと割り振られる都合上、必ずしも三の倍数で編成された編隊で運用されるとは限らないのだ。当然、迎撃を受けて機数が減れば『トライアングル』側が三機編成での行動が続けられない事態も発生する訳(わけ)で、その際は柔軟に単機や偶数機編成でも運用がされるのである。

Ruby、中央編隊の先頭から削っていくわよ。目標 27、28、29、30 を目標固定(ロックオン)。マスターアームをオンにして、レーザー 1 から 4 で追跡開始。発射用キャパシタ、電圧確認。」

 そうして二度目の仮想砲撃戦が、開始されるのだ。
 先刻と同じ様に、先頭の四機が砲撃されると、仮想エイリアン・ドローンの編隊各機は即座に分散を開始するのである。その中から、接近して来る目標をロックオンし、茜は次々とレーザー砲の照射を繰り返して行くのだ。
 仮想 ADF がレーザー砲を撃ち続けて三分程が経過すると、当初 150 キロメートル以上有った両者の間隔は、100 キロメートル程度に縮まっている。

Ruby、目標の残りは、あと何機?」

「ハイ、二十八機です。目標までの距離が百キロメートル以内になりますので、ここから照射時間を三秒へ切り替えます。」

「了解。次、72、68、93、47 を目標固定(ロックオン)。」

 原理的に、光は遠くへと進むに連れて弱くなる。一般的には「距離の二乗に反比例する」と言われるが、これは光が全方向へ放射される、つまり点光源での場合である。レーザー光は進行方向が一方向に揃(そろ)えられて放射されるので、単純に距離に反比例して弱くなると考えれば良い。何方(どちら)にせよ、目標との距離が接近すれば、同じ効果を得る為の照射時間を短縮できる訳(わけ)なのだ。大気中での光の減衰は距離の影響の他に、大気分子や水蒸気、浮遊する微細な塵、等による散乱も要因になるので、何(いず)れにしても目標との距離は、近いのに越した事は無い。
 エイリアン・ドローンは時間が経つに従って、三機編成での編隊が広範囲に散らばる状態で ADF へと接近している。距離が遠い場合は、エイリアン・ドローンの布陣が広がっても ADF 自身は直進状態でレーザー砲の角度調整だけで対応が出来たのだが、相互の距離が縮まって来るのに従い、ADF 自体の機軸を左右に振らないと対処が出来なくなって来るのだ。結果、ADF は大きく蛇行する様に飛行し乍(なが)ら、一分(いっぷん)強で残存目標の全てを撃墜したのだった。

「以上で、全目標、クリアーです。」

 望遠画像で最後の一機が落下して行くのを確認して、茜は報告したのだ。

「了解。何(なん)だか、順調過ぎて、逆に不安になるわね。」

 笑って、緒美は然(そ)う言ったのである。続いて、日比野の声が聞こえて来る。

「あはは、念の為、後でログは確認しておくから~バグじゃないとは思うけどね。」

 それに対して、茜が言うのだ。

「まあ、距離が百五十キロから始めてますから、お互いが真っ直ぐ進んでも九分の余裕が有ります。どっちかって言うと、実機で、あれだけの連射が出来るかって、其方(そちら)の方が心配になりますけど。発電が追い付くのか、キャパシタへの充電が間に合うのか、あと、レーザー砲の過熱が起きないか、ですね。」

「その辺りは、パーツ単位では性能は確認済みの筈(はず)だけど。何(いず)れ、どこかのタイミングで検証する必要は、有りそうよね。 取り敢えず、次に二百機設定で、もう一回やって、今日は終わりにしましょうか。」

「了解です。樹里さん、設定、お願いします。」

 そうして開始された三度目の戦闘シミュレーションは、エイリアン・ドローン『トライアングル』が二百機と言う、前代未聞の大編隊を ADF が単機で迎え撃つ、無茶苦茶な設定でスタートしたのだ。
 とは言え、茜と Ruby が行う事は、前の二回の戦闘シミュレーションと何(なん)ら変わりは無く、淡々と目標を選択して、レーザー砲で撃ち落としていく、それに尽きるのだった。
 これは、『トライアングル』は飛び道具を持っていない、だからこそ成り立つ構想であり、接近戦となる迄(まで)の間は ADF の側が一方的に攻勢で居られるのだ。
 今回は目標との距離が 100 キロメートルを割る迄(まで)の最初の三分程で六十九機を撃墜した。照射時間が三秒となる目標との距離が 100 ~ 50 キロメートル圏内での三分間に八十七機を撃墜し、照射時間設定が二秒となる距離 50 ~ 25 キロメートル圏内で、目標の残存数四十四機を ADF は一分半程で、全て撃墜して見せたのである。

「お疲れ様、天野さん。今日は、これで上がってちょうだい。」

 その緒美の呼び掛けに、茜は言葉を返すのだ。

「でも、部長。まだ三十分程しかやってませんし、一回だけ、接近戦のシミュレーションも、やってみませんか?」

「気持ちは解るけど、安藤さん達の、この後の予定も有るから。予定通り、ここ迄(まで)にしましょう。接近戦は、明日以降でね。」

 続いて安藤の声が、茜のレシーバーに聞こえて来る。

「やる気になってる所、悪いわね、天野さん。昨日の打ち合わせの通り、わたし達は十八時出発だから。」

 元より、無駄な抵抗だと解っての提案だったので、茜は素直に引き下がるのである。

「はーい、解ってまーす。 そう言う訳(わけ)だから Ruby、続きは、又、明日ね。」

「ハイ、楽しみにしています、茜。 それでは、シミュレーション・モードを解除、スラスター・ユニットを再接続して、HDG を開放位置へ降ろします。」

「はい、お願い。」

 その後、HDG が ADF から切り離されると、安藤と風間が ADF へと駆け寄り、Ruby の、この日のログ回収作業を始めるのだ。一方で日比野は、戦闘シミュレーションの環境、主に二百機もの仮想目標の機動演算を実行していた Emerald のログを回収するのである。
 この時点で時刻は午後四時を少し過ぎており、Ruby と Emerald とのログ回収と ADF のシミュレーション実施後の機体チェック作業とで約一時間を見込み、その後のミーティングを約三十分とすると、十八時出発の予定は割とギリギリなのだ。
 安藤と風間、日比野の三名に加えて、飯田部長と担当秘書の蒲田が、この日の内に社用機で本社へと戻る予定で、そのフライトが十八時出発予定なのである。
 HDG-A01 をメンテナンス・リグへと接続し、HDG と自身との接続を解除して降りて来ると、茜は緒美達に声を掛けるのだ。

「そう言えば、飯田部長は…。」

 茜が其処(そこ)まで言った所で、飯田部長の声が聞こえて来るのである。

「居るよ~。」

 茜が声の方向へ目を遣ると、飯田部長を始めとして、何時(いつ)もの作業服ではない私服姿の畑中達も、シミュレーションのモニター用ディスプレイの前に揃(そろ)っていたのだった。シミュレーションを始める前には居なかった立花先生や、飯田部長の担当秘書である蒲田の姿もそこにはあった。

「飯田部長、いらしてたんですか。」

 その茜の所感に、緒美が答える。

「天野さんがシミュレーションを始めた頃に、戻って来られてたのよ。」

「いやあ、なかなかに凄いものを見せて貰ったよ。」

 ニヤリと笑って、飯田部長は然(そ)う言ったのである。すると、恵が飯田部長に尋(たず)ねるのだ。

「飯田部長、そもそもエイリアン・ドローンが二百も襲来する想定なんて、有り得るんですか?」

「うん、段々と地球に降下して来てる数は、増えているからね。」

 続いて、立花先生が言うのだ。

「最近で、一番多くて五十機越え、だけど。その時だって此方(こちら)に来たのがそれだけで、同時に降下して来たのは百機近くだった訳(わけ)だし。傾向としては、今後も数が増えるのは、覚悟しておいた方がいいでしょうね。」

「まあ明日、明後日って事は無いだろうけど、将来的には、って話さ。」

 然う締(し)め括(くく)る飯田部長に、今度は直美が問い掛ける。

「じゃあ、この ADF は、その時に備えての、技術開発って事ですか?」

「まあ、そんな所だな。」

 そう答えて微笑む飯田部長に、緒美も亦(また)、微笑んで言うのだ。

「まあ、そう言う事にしておきましょう。」

「何(なん)だい、鬼塚君。含みの有る言い方だね。」

「いいえ、お気になさらず。」

 満面の笑みで然(そ)う答えると、緒美は茜に向かって声を掛ける。

「天野さん、取り敢えず、着替えていらっしゃい。」

「はい。それじゃ、失礼して。」

 茜が二階通路へ上がる階段へと向かうと、直美がブリジットに声を掛けるのだ。

「ブリジットー、手伝ってあげな。天野の着替え。」

「あ、はい。」

 ブリジットとしては言われる迄(まで)もなかったのであるが、副部長からのお墨付きを得て、直ぐに茜の後を追ったのである。
 そして直美は、今度は飯田部長に訊(き)いたのだ。

「そう言えば、飯田部長。温泉、如何(いかが)でしたか?」

「ん?ああ、良かったよ。平日の昼間から温泉に浸かって、食事して。普通に働いてる方(かた)には、申し訳無いけどね。」

 その発言に、自他共に認める『仕事の鬼』である立花先生が反応するのである。

「それは結構でしたね。 畑中君達も、一緒だったんでしょ?」

 立花先生に話を振られ、畑中が口を開く。

「今日は、飯田部長に御馳走になったんですよ、皆(みな)で。」

「いやあ、案内して貰ったし、試作部の皆(みんな)には、ここ迄(まで)、色々と貢献して貰ってるからね。」

「経費ですか?会社の。」

 敢えて冷たい視線で、立花先生は飯田部長に突っ込むのだ。対して、飯田部長はニヤリと笑って答える。

「まさか。今日の分は、わたしの自腹だよ。」

「へえー…。」

 何か言いた気(げ)な立花先生に、苦笑いで飯田部長が言うのである。

「別にいいだろう? 今日はわたしも、休暇の扱いなんだから。」

「それは勿論、構いませんけど。」

「立花君も、偶(たま)にはちゃんと、休暇を取りなさいよ。キミは自分の休暇に関しては無頓着だって、影山部長から聞いてるよ。」

 真面目に、心配そうに飯田部長が言うものだから、今度は立花先生が苦笑いで答えるのだ。

「心に留(と)めておきます。」

 その様子に、緒美と直美がクスクスと笑っているのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第19話.10)

第19話・Ruby(ルビィ)と天野 茜(アマノ アカネ)

**** 19-10 ****


 八日目、2072年12月5日、月曜日。
 前日の試験飛行にてハードウェア的な機能や機構の確認が終了した事に因り、畑中達、試作工場からの出張組は、この日の午前中に荷物の整理を済ませ、残されていたトランスポーターで陸路を移動…と、通常なら、そんな流れになる所なのだが、今回は何故か畑中達には現地で二日間の休暇が与えられていたのだ。それは土、日と、本来のカレンダーでは休日である所を、フルタイムでの勤務に加えて残業までして働いていたのだから、当然、代休が与えられる訳(わけ)なのだ。徒(ただ)、それならば彼等本来の勤務地である試作工場へ戻ってから代休を取ればいいのに、と兵器開発部の面々は訝(いぶか)しがったのだが、結局、彼女達に納得の行く説明は無かったのである。
 一方で、ソフト部隊である安藤達には辛うじて午前半休が与えられただけで、午後からは第三格納庫での作業が予定されていた。それは、兵器開発部の活動として、この日からは ADF の戦闘シミュレーション実施が予定されていたからで、生徒達が授業を受けている間に日比野が中心となって、シミュレーションの準備が進められたのだ。
 そうして午後三時を過ぎると、緒美や茜達が続々と第三格納庫へとやって来るのである。月曜日は茜達、特課の生徒も普通課程の生徒達と同様に、七時限目の授業は無いのだ。これは、金曜日も同様である。

「ご苦労様です。 準備作業、ありがとうございます。」

 格納庫フロアへ降りて来た緒美が、準備を進めていた日比野達へ声を掛けた。日比野は振り向き、声を返す。

「授業、お疲れ様。 相変わらず、皆(みんな)、真面目だよね~。授業終わって、真っ直ぐ、こっち来たの?」

 一(ひと)笑いして、直美が答えるのだ。

「あはは、三年生が遅れて来ると、示しが付かないじゃないですか。」

「日比野先輩、Ruby と Emerald の準備は、どうです?」

 緒美の問い掛けに、日比野が答える。

「出来てるよー。事前のチェックで、問題無し。何時(いつ)でも始められるよ。」

 そこに、階段を降りて来た樹里が、声を掛けて来る。

「お疲れ様でーす。」

「ああ、樹里ちゃん。 コンソールのバージョン、新しくなってるから、一応、説明しておこうかー。」

 日比野が然(そ)う声を返すので、樹里は駆け足でコンソールへと向かうのだ。

「はい、お願いします。」

 樹里の後ろに、維月とクラウディアが続く。
 一方では直美が、緒美に声を掛けるのだ。

「それじゃ、わたしはA号機の立ち上げ、やっておこうか。」

 それに緒美が答える前に、樹里達と一緒に階段を降りて来た瑠菜が、声を上げてA号機のメンテナンス・リグへと駆けて行く。

「新島先輩、わたし達がやっておきまーす。」

 そんな瑠菜の後ろを、佳奈が追い掛けて行くのだ。
 直美は、ちょっと苦笑いで、瑠菜達に声を返すのである。

「ああ、瑠菜、古寺、それじゃお願い。」

 そんな様子を微笑ましく眺(なが)めつつ、安藤が緒美に言う。

「それじゃ、あとは天野さん待ちね。」

 それには恵が、緒美の後方から答えるのである。

「天野さんなら、今、インナー・スーツに着替え中ですから、直(じき)に来ますよ。因(ちな)みに、ボードレールさんは、着替えの手伝いを。」

 それを聞いた風間が、呆(あき)れた様に言うのだ。

「何だ、もう皆(みんな)、揃(そろ)ってんじゃん。」

「ホント、皆(みんな)、真面目だよね~。」

 安藤は苦笑いで、そう言って笑ったのだった。
 そんな安藤に、直美が問い掛ける。

「そう言えば、畑中先輩達は、どうされてるんです?今日。」

「ああ、お昼前に皆(みんな)で出掛けたよね。大塚さんと新田さんに、近場の観光地、案内するって。」

 畑中と、その婚約者である倉森は、ここが地元と言う訳(わけ)ではないのだが、二人共に天神ヶ﨑高校の卒業生なので土地勘は有るのだ。
 そんな話を聞いて、恵が呆(あき)れた様に言うのである。

「折角の休日なんだから、二人っ切りにしてあげればいいのに。」

 その発言には、風間がフォローを入れるのだ。

「いや、大塚さんも新田さんも遠慮してたんだよ? お邪魔はしたくないから、二人で出掛けて来なって。」

「そうそう、でも倉森さんが大勢の方が楽しいから、ってね。まあ、お互いに気を遣ってたんだろうけど。」

「こう言う場合、どっちが正解なんですかね?」

 真面目に安藤に問い掛ける風間に、安藤は苦笑いで答える。

「知らない。ケース・バイ・ケースでしょ?」

 そこで樹里達にコンソールの説明をしていた日比野が、急に参加して来るのだ。

「それで、結局、飯田部長も参加したんでしょ? そのツアー。」

「え、そうなの?」

 安藤と風間は、飯田部長の動向までは把握していなかったらしい。

「うん、今度、奥様を連れて旅行に来たいって。温泉とかも有るらしいしさ。」

 日比野の説明に、安藤は「ああー。」と納得した様子で声を上げたのである。それを受けて、恵が尋(たず)ねるのだ。

「何ですか?『ああー』って、安藤さん。」

「ん? いや、飯田部長らしいなあ、って。皆(みんな)は知らなくて当然だと思うけど、飯田部長が愛妻家なのは、社内では有名なのよ。」

 そう答えて、安藤は微笑むのだ。一方で答えを聞いた恵は、一度、大きく頷(うなず)いて言う。

「成る程、そう言う事ですか。」

 続いて、日比野がニタリ顔でネタを追加するのだ。

「だから、秘書には男性の蒲田さんを指名してるって話だよね?」

「その噂の真偽の程は、定かじゃないから、日比野さん。」

 苦笑いで軌道修正を図る、安藤である。
 それに対して感心した様に、直美が発言するのだ。

「へえ~…って事は、女性の秘書さんも居るんですか?」

 そんな直美の所感には、風間がニヤリと笑って応える。

「居るよー、本社の秘書課には、綺麗所が揃(そろ)ってるよー。」

「あはは、風間さん、言い方ー。」

 日比野は笑って突っ込むのだが、安藤は風間の後頭部をピシャリと叩(はた)くのだ。

「下品なのよ、言い方が。」

 一方で恵は不思議そうに、直美に尋(たず)ねる。

「秘書って言ったら、女性のイメージじゃない?普通。」

「ああ、うん。ドラマとか映画じゃ、そうなんだけど。天野重工だと男性の秘書さんしか、見てないからさ。理事長の秘書の加納さんも、あの通りの『オジサン』じゃない。だから天野重工の秘書さんって、男性ばっかりな気が…。」

「あはは、加納さんの場合は、理事長の専属パイロット兼、用心棒だそうだから、ちょっと事情が特殊でしょ?」

 笑って言葉を返す恵に、少し驚いて安藤が聞き返すのだ。

「何、パイロットの件は兎も角、用心棒って?」

「え? 以前、立花先生から、そう聞いた覚えがありますけど…。」

 少し戸惑って答える恵に、直美が付け加える様に言う。

「確かに、加納さんって元は防衛軍の人で、ブリジットの話だと腕も立つらしいしねー。」

「へえ~、人は見掛けに依らないって、本当なのね。」

 感心気(げ)に、日比野は然(そ)う所感を述べるのだった。

「蒲田さんの場合、ボディガードって線は無さそうですよね。」

 風間が、そんな事を言い出すので、苦笑いで安藤が言葉を返すのである。

「会長と違って、あの飯田部長にボディガードは、要らないんじゃない?」

「あはは、学生時代は社長と一緒にラグビーの選手だったとか、柔道だか空手だかは今でもやってるって話だしね。」

 続いて日比野が、飯田部長に就いての怪し気(げ)な情報を開示するのだ。それを聞いて驚いたのは、風間である。

「ええっ、飯田部長って、そんな体育会系の人だったんですか?」

「そんなの、あの体格を見れば察しが付くでしょ。」

 そう言って安藤は笑うのだった。
 そんな話をしていると、インナー・スーツに着替えた茜と、それを手伝っていたブリジットが、格納庫フロアへと降りて来るのだ。

「お待たせしましたー。もう、準備出来てるんですか?」

「ああ、天野さん。出来てるよー、直ぐに始めちゃう?」

 日比野に訊(き)かれて、茜は緒美に確認するのだ。

「大丈夫ですよね?部長。」

「天野さんが良ければ。」

「それじゃ、始めちゃいましょう。」

 茜は、HDG-A01 へ向かって駆け出すのだ。

 何時(いつ)も通りの手順で HDG に自身を接続した茜は、メンテナンス・リグから離れると ADF への前へと歩いて行く。そして HDG を ADF に接続し、シミュレーターとして ADF を使用する準備を進めるのだ。
 準備が整うと、早速、シミュレーターが起動される。基本的には一昨日に実施した飛行シミュレーションと同じで、Emerald がシミュレーション環境の制御を行っているのだ。
 樹里が、茜に通信で伝達する。

「それじゃ、天野さん。スタートさせるけど、離陸操作とかはスキップして、飛行状態から始めるけど、いい?」

「はい、いいです。それで、お願いします。」

「じゃ、日本海上空、高度一万メートルから、スタート。」

 樹里が宣言すると、茜の視界がブルー・スクリーン状態から、空中の景色に切り替わる。レシーバーからは飛行中の効果音、エンジン音や機体から伝わって来る風切り音や振動音が聞こえて来るのだ。
 外部でコンソールを操作している樹里は、緒美に条件を確認する。

「敵機は、何機で設定します?部長。」

「取り敢えず、五十機からいってみましょうか。」

 何でもない風(ふう)に答えた緒美に、驚いて樹里が聞き返すのだ。

「行き成りですか?」

「一応、計算上では一航過での対応能力が最大で二百五十機までの筈(はず)なんだから、五十機程度は簡単にクリアー出来て貰わないと。」

 緒美は真面目な顔で、そう答えたのである。
 樹里は緒美に「分かりましたー。」と返事をした後、茜に向かって呼び掛けるのだ。

「天野さん、シミュレーション開始時の戦闘条件設定です。目標の数は五十、高度二万八千メートル、距離百八十キロを、西側から速度 11 で接近しています。」

 間を置かず、茜から確認の報告が返って来る。

「目標を、戦術情報で確認しました。交戦を開始します。」

 茜は ADF の仕様を十分(じゅうぶん)に理解しているので、敵機の設定数が五十である事に、特段、驚きはしないのだ。淡々と必要な指示を、Ruby に対して出していく。

Ruby、減速して外装を展開。速度を 4 に設定して敵編隊の中央へ直進、全レーザー砲を展開。」

「ハイ、外装を展開、全レーザー砲を展開します。」

 茜の指示通りに機体を制御する Ruby だが、現実の ADF は一切(いっさい)、動作してはいない。しかし、モニター用に接続されているディスプレイの中では、ADF は Ruby の制御通りに作動しているである。

「目標までの距離、百七十キロメートル。相対速度 15.8、レーザー砲の最大射程まで、あと一分です。」

 Ruby の落ち着いた合成音声が、茜と、外部でシミュレーションの状況をモニターしている緒美達にも、聞こえたのだ。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第19話.09)

第19話・Ruby(ルビィ)と天野 茜(アマノ アカネ)

**** 19-09 ****


「高度 8200…8300…8400…。」

 ADF は運動エネルギーを位置エネルギーへ変換する可(べ)く上昇して行き、Ruby は高度の値を読み上げ続ける。しかし現状でエンジン出力が落ちていない為、機体の速度はジリジリとしか落ちていかないのだ。

「…9500…9600…9700…9800…9900…間も無く、高度一万メートルに到達します。」

 茜は機体のステータス表示を注視して、機速のマッハ数の確認を続けていた。

「現在速度、マッハ 1.4…Ruby、右へロール 160°、更に機首上げ 5°。」

「ハイ、右(ライト)ロール 160°へ。機首上げ 5°。」

 Ruby は茜の指示通り、ほぼ背面飛行の姿勢になり、更に機首を上げる操作を追加するのだ。普通の速度域ならば、背面飛行からの降下へと移る機動操作なのだが、現在の速度では然(そ)うはならず、機体は降下せず水平に滑って行くのだ。但し、160°ロールだと完全な背面ではなく右側に 20°の傾きを残しているので、これに機首上げの操作が加わって機体は僅(わず)かずつ右へと旋回を始めるのだ。そうして不自然な姿勢で水平面での飛行を続けている事で、機体に掛かる抵抗は確実に増大したのだった。

「マッハ 1.38…1.37…よし、減速してる。Ruby、機首上げ、プラス 5°。」

「ハイ、機首上げ、プラス 5°。」

 ADF に更に機首上げの操作を追加すると、更に抵抗が増大するのだ。
 これらの操作は、先日まで読み込んでいたマニュアルの記載に従って、茜は規定された手順を忠実に実行しているのである。

「マッハ 1.34…1.32…1.28…1.23…。」

 マッハ数の変化が、明らかに低下のペースを早める。
 そして間も無く、四基のエンジン回転数が低下を始めたのだ。空気の流入条件がインテークでの制御可能な範囲に戻ったのである。各エンジンは、スロットルで指示されているアイドル状態へと向かって、稼働状態を収束させていく。
 エンジンの推力が低下していくと、機体が描く旋回の度合いが少しずつ深くなっていき、同時に高度の低下が始まるのだ。

Ruby 、ロールを 90°に。水平面での旋回で更に減速するわ。」

「ハイ、ロール角を 90°へ。」

 機体の横転(ロール)角は、搭乗しているパイロット視点で時計回りに角度で示される。つまり、ロール角 90°とは右翼を下にした姿勢で、左側に 90°横転(ロール)した姿勢はロール角だと 270°なのだ。ここで注意しなければならないのは、ロール角 90°と指示された場合、右へ(時計回りに)90°なのか、左へ(反時計回りに)270°かの、どちらなのか?と言う所である。結果的には何方(どちら)でもロール角 90°に達するのだが、勿論、意味が違うのだ。
 茜が先刻「右へロール 160°」と指示したのは、その為の区別をする意味で、又、Ruby は『右ロール』との指定に因って、『ロール角』との指定とは判断を変えているのだ。これに加え、思考制御から入力される茜の動作イメージを、Ruby は判断の補助としているのである。
 そんな訳(わけ)で、ADF はロール角 160°の状態から、左へ 70°横転(ロール)して、ロール角 90°の姿勢となったのだ。ここで茜は横転(ロール)する方向を口頭の指示に含めていないが、右へ 290°横転(ロール)するよりは左方向の側が動作量が少ないとの Ruby の判断と、茜の動作イメージが Ruby の判断と同じく近回りの左回転であった事が、Ruby の判断決定の理由である。
 さて、ここで茜が姿勢変更を指示した、そもそもの理由であるが。それは、背面状態からの急降下へと移らないようにする為である。急降下すると当然、位置エネルギーが運動エネルギーに変換されてしまうので、折角、減速したのが台無しになってしまうのだ。茜は水平面での旋回で運動エネルギーを消費しつつ、少しずつ降下して行く事を考えたのである。

 そうして超音速飛行から減速した ADF は、旋回し乍(なが)ら元の高度へと降下して行ったのだ。加速する必要は無いので、スロットルは基本的にアイドル・ポジションの儘(まま)で旋回降下し乍(なが)ら、逸脱した位置から予定のコースへと復帰し、ブリジットのB号機と合流したのである。

「HDG01 より、テスト・ベース。HDG02 と合流しました。テストを再開します。」

 茜の其(そ)の報告に、緒美が指示を出す。

「HDG01、さっきの減速機動で、空中機動の確認は不要になったと思うから、次のメニューへ行きましょう。燃料は大丈夫?」

Ruby、燃料の使用量は?」

 茜が出す確認要請に、Ruby は即答する。

「現状で予定を 20%程度超過していますが、残量で予定通りの飛行は可能です。」

 Ruby の返事に対して、緒美が予定変更の趣旨を説明するのだ。

「いいのよ、Ruby。ADF の仕様は、空中戦を目的としてないんだから。AMF みたいな機動性は、重視してないからね。」

 その説明に対して、茜が緒美に確認する。

「では、次は兵装の空中展開確認、ですね?」

「そうね、HDG01。今日は、そっちの方が重要だから。」

「了解です。Ruby、空中展開モードへ、スピード 4 迄(まで)、減速。」

「ハイ、空中展開モードへ、外装を展開して減速します、スロットルをアイドル・ポジションへ、ピッチ角をプラス 3°に設定。」

 ADF はエンジンの出力を絞って、減速の為に少し機首を上げる。そうする事で機体への空気抵抗が増加して、速度が落ちるのだ。ADF の横を飛行してたブリジットのB号機は、一度 ADF の前方へと遠ざかって行くが、速度を合わせて ADF の横へと戻って来る為に、左へと旋回を始めるのだ。
 或る程度、速度が低下すると ADF の胴体外装が四つに分かれ、少しずつ開いていく。これらの外装が完全に展開されると、正面から見てX型に見えるのだが、外装の展開は減速の度合いに応じて少しずつ開いていくのである。そして、ディフェンス・フィールド・ジェネレーターを兼ねる外装部が開く角度を増していく毎(ごと)に、それが発生させる空気抵抗は増大し、機体から速度を奪っていくのだ。
 最終的に、ADF は茜が指定した分速 4 キロメートル、凡(およ)そ時速 250 キロメートル迄(まで)、減速した。
 ADF は抵抗を増やして減速する過程で、飛行は継続出来るようにスロットルを調整し、一旦(いったん)アイドル・レベルまで落とした推力を 30%程度に迄(まで)、段階的に上げていったのである。これらの調整は全て、Ruby が自律的に実行しているのだ。

「ディフェンス・フィールド・ジェネレーターの展開を完了、現在速度 4 です。」

 Ruby の報告を聞き、茜はブリジットに呼び掛ける。

「了解、Ruby。HDG01 より HDG02、其方(そちら)の準備はいい?」

 茜は左側方へ視線を移し、ブリジットのB号機を視認するのだ。視認、と言っても直接に見られる訳(わけ)ではない。閉鎖された ADF の機首内部から見える外界は、ADF の複合センサーが撮影した画像を Ruby が処理や合成を行い、スクリーンへ投射された映像なのだ。この辺りの仕組みは、AMF と同様なのである。

「此方(こちら) HDG02、何時(いつ)でもどうぞ。」

「了解。それじゃ Ruby、長射程砲撃モードへ。レーザー砲展開。」

「ハイ、レーザー砲を展開します。」

 ADF 胴体の外装が開かれた部分に格納されていた砲身の長いレーザー砲が格納位置から外部へ向けて一段飛び出すと、その基部が左右へとスイングして外側へと広がる。展開されたレーザー砲は四門で、主翼を上下に挟(はさ)む様に、左右に二門ずつが装備されているのだ。

「レーザー砲、展開完了。HDG02 、外観で異常が無いか、確認をお願い。」

「了解、HDG01。その儘(まま)、真っ直ぐ飛んでてね。」

 ブリジットは自身の飛行経路を ADF の方へと寄せて行き、機体を傾けると ADF を中心とするバレル・ロールを実施して、ADF の外周をゆっくりと一回転したのだ。B号機の複合センサーはブリジットの視線を追って ADF の機体表面を写しており、その映像は第三格納庫でモニターする緒美達にも観る事が出来るのである。

「HDG02 です、特に異常は見られませんが、テスト・ベース、其方(そちら)からは何か?」

 緒美の返事が聞こえる。

「テスト・ベースです。此方(こちら)でも、異常は無しと判断します。 HDG01、砲身の角度調整は出来る?」

「それじゃ、一番から行きます。HDG02、監視、宜しく。」

「HDG02、了解。どうぞ。」

Ruby、一番砲身の角度を最大可動範囲で、上下、左右の順で動かしてみて。」

「ハイ、一番砲、作動します。」

 ADF の上部左側のレーザー砲が、上へ 10°次に下へ 10°、続いて左へ 10°そして右に 10°、順番に動作して中央位置に復帰する。

「此方(こちら) HDG02、砲身の動作を確認。テスト・ベース、見えてました?」

「はーい、テスト・ベースです。見えてるよー。」

 先に答えたのは、樹里だった。続いて、緒美が問い掛けて来るのだ。

「HDG01、変な振動とか、無かった?」

「HDG01 です。特に、振動とか、異常はありませんでした。続いて、二番砲、動かします。」

「あ、ちょっと待って。右側へ移動するから。」

 慌てて声を掛けて来たブリジットは、機体を ADF の上方を通過させて右翼側へと移動させるのだ。

「HDG01、お待たせ、どうぞ。」

「了解、それじゃ Ruby、二番砲をさっきの一番砲と同じ様に動かしてみて。」

「はい、二番砲、作動します。」

 今度は ADF 上部右側のレーザー砲が、先程の左側と同様に動作するのだ。
 この確認作業を、三番、四番と繰り返していくのである。因(ちな)みに、三番砲は ADF 下部右側で、四番砲が下部左側である。砲の番号はドライバーが進行方向に向いて、上部左側から機体中心を時計回りに振られているのである。
 さて、実の所、ADF に四基ものエンジンが搭載されているのは、このレーザー砲が消費する膨大な電力を賄(まかな)う為なのである。先刻の様な超音速飛行を実施するのは、本来の目的ではない。ADF の設計概念(コンセプト)とは『飛行する砲台』なのだ。
 なので、運用上の想定では高速で飛行する必要はなく、成る可(べ)く低速でエイリアン・ドローン群とは距離を取って、レーザー砲で狙撃を続けるのが理想的なのだ。だが発電用にエンジンを多発化、若しくは大型化すると、その推力で飛行速度が必要以上に上がってしまう。そこで、敢えて大きな空気抵抗を生み出すように、外装を広げて推力に対して抗力を高め、速度の上昇を抑えるのである。勿論、戦域から退避する際の逃げ足には高速飛行能力が役に立つので、一応、その性能の確認が実施されたのだ。

「それじゃ、レーザー砲一番から四番、格納します。 Ruby、お願い。」

「ハイ、レーザー砲を格納します。」

 展開されていた四基のレーザー砲は、元の状態へと格納される。その格納状態も、ブリジットのB号機が ADF の周囲を一回りして、異常が無い事が確認されたのだ。

「続いて、近距離戦闘モードを確認します。 Ruby、機首ブロック解放。」

「ハイ、機首ブロックを解放します。」

 Ruby が返事をすると、茜の眼前で ADF の機首ブロックが開かれていく。ADF と並んで左側を飛行しているブリジットは、露出された茜の HDG-A01 に向かって右手を振って見せるのだった。茜も、ブリジットに応えて左手を上げて見せる。

Ruby、続いてロボット・アームを展開。」

「ハイ、ロボット・アームを展開します。」

 ADF の主翼付け根の上下に配されたカバーが開き、胴体に沿って後方へと格納されているロボット・アームが、前方へ向かって起き上がる様に展開されるのだ。
 ロボット・アーム自体は AMF に装備されている物と、設計は、ほぼ同じ物で、四本と言うより、胴体の上下に二対と言う形式も AMF と同様である。これは ADF に搭載する物を、AMF で先行して実験した、と言うのが実情である。更に、その基礎技術は LMF で確認されていたのだ。
 ADF のロボット・アームも AMF の物と同じ仕様で、先端部にはビーム・エッジ・ブレードと荷電粒子ビーム砲が、それぞれの腕に内蔵されているのだ。これらの武装は、レーザー砲で撃ち漏らした目標が、ADF へ接近して来た際に撃退する為の装備である。加えて、ADF の先端に接続されている HDG-A01 も両手に CPBL(荷電粒子ビームランチャー)を装備可能なので、近距離戦では同時に六つの目標に対処が可能なのだ。

「ロボット・アーム、展開完了。」

 Ruby の報告を受けて、茜は連動モードを選択して、上側のロボット・アームを動作させてみる。このモードでは、ドライバー自身の腕と連動させて、選択したロボット・アームを動かせるのだ。
 茜が胸の前で曲げた右腕の肘を上下させたり、腕を前後に曲げ伸ばしするなど数回動かすと、連動して上部右側のロボット・アームが茜の腕の動きをトレースするのだ。一方で下側のロボット・アームは、上側の動作で発生するモーメントを打ち消す方向に自動的に作動するのだが、これは完全に逆転した動作をする訳(わけ)ではない。それは ADF 全体への気流の影響が、或る程度のモーメントを吸収して呉れるからだ。

「HDG01 より、テスト・ベース。ロボット・アームの動作は、AMF での検証やデータ収集が活きてますね。」

「動かしてみて、振動とか、バランスの悪化とかは無い?」

「はい。外装を展開してあるのも、安定化に寄与してるのかも知れません。AMF よりも、安心して動かせる感じがしますね。」

「良かったわ。それじゃ、取り敢えず空中での機能確認は終了と言う事で、全機合流して帰投してちょうだい。」

 そこで緒美の指示に対して、クラウディアが声を掛けて来るr。

「HDG03です。 予定通りですけど、何だか、あっけないですね。」

 それには、樹里が声を返すのである。

「あはは、気持ちは分かるけど、今日の所は、帰って来てからの機体点検の方が大事だからね。」

「それは、解ってますけど。」

 今度は、緒美が言うのだ。

「何(なん)でもいいけど、着陸する迄(まで)は気を抜かないでね、皆(みんな)。」

 そうして、各機は合流し、学校への帰途に就いたのだった。
 勿論、帰投した後に ADF は、データの吸い出しや、機体の点検、確認が入念に実施されたのである。超音速飛行や、飛行中の外装展開など、負荷の大きな動作を行ったので、各部機構に捻(ねじ)れや歪み等の影響が出ていないかを確認する必要があるのだ。一方で、安藤達は Ruby と ADF とのマッチングや、ADF 制御モジュールの動作が適正だったかを評価する為の情報収集が、今回の重要な業務内容だったのである。
 こうして、この日の活動も無事に終わっていったのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第19話.08)

第19話・Ruby(ルビィ)と天野 茜(アマノ アカネ)

**** 19-08 ****


 Ruby に制御されている ADF は、それがシミュレーションであるから当然だとも言えるが、滑(なめ)らかに降下、進入を熟(こな)して滑走路へと着陸したのだ。
 その機体の大きさに比して主翼面積の小さい ADF は、F-9 を原型とする AMF よりも、矢張り降下速度が速く着陸速度も高速なのだった。だから着陸脚が接地すると同時に、全力での逆噴射を実施しなければならず、それでも停止距離には滑走路全長の八割程度を要したのである。

「どうだった?天野さん。」

 緒美が感想を求めて来るので、茜は即答する。

「そうですね、仕様書の通りですけど、矢っ張り離着陸のスピードが違いますね、AMF とは見える景色が全然。 着陸進入の降下は、殆(ほとん)ど落下してる感覚です。」

「怖かった?」

「実機で、行き成りアレだったら、多分。 シミュレーターで反復して慣らさないと。続けて、二、三回、やってみていいですか?」

「どうぞ。 次は、空中での機動も試してみてね。」

「分かりました。」

 そこで、樹里が茜に確認するのだ。

「シミュレーションの環境設定は、変えない方がいいよね?天野さん。」

「はい、樹里さん。今日はこの儘(まま)、固定でお願いします。」

「了~解。」

 その後、茜は ADF での離着陸や、空中での加減速、旋回など、基本的な機動に就いての挙動や反応をシミュレーターで確認したのである。そうして一時間程で、茜は ADF でのシミュレーター体験を終えたのだ。
 シミュレーター・モードを終了すると、茜の HDG は ADF から解放され、Ruby はログの回収を受けて、HDG とのドッキングの影響や各種プログラム・モジュールの動作状態の確認が開始される。その後は、HDG 無しで ADF 各部の動作確認や、エンジンの試運転が実施されたのだ。これは Pearl 搭載時に既に無人飛行までが確認されている訳(わけ)だが、搭載 AI ユニットが Ruby に変わった事で、以前と同じ様に運転が出来る事を確認するのだ。最後に ADF 機体の運転後点検であるが、これは整備担当者達に対する講習会も兼ねて、直美、瑠菜、佳奈、村上、九堂、金子、武東と言った生徒達に加え、社有機整備担当である藤元、並木、片平、そして F-9 改の整備担当として派遣されている平田、三木、宗近、深見にも説明が行われたのである。
 一方で、ADF から解放された茜は続いて AMF へと自身の HDG を接続して、Pearl 制御下の AMF での飛行シミュレーションを、此方(こちら)でも一時間程度を掛けて、離着陸や空中機動の確認を実施したのだ。Pearl に関しても、Ruby と同様に、シミュレーション終了後にはログが回収され、その稼働や制御の状況が確認されたのである。その作業には日比野、安藤、風間に加えて、樹里、維月、クラウディアが参加し、この日もソフト部隊の第三格納庫での作業は。午後九時頃まで続いたのである。

 そして七日目、2072年12月4日、日曜日。
 この日も幸いにして天気は良く、ADF の試験飛行には申し分の無い天候である。流石に十二月ともなれば午前中の気温は低いのだが、それでも朝早くから第三格納庫では試験飛行の準備が進められていた。この日に試験に参加する機体は、HDG-A01 と ADF、HDG-B01、HDG-C01、そして Pearl 制御による無人飛行で参加する AMF の合計四機である。
 茜の HDG-A01 と Ruby の ADF が、試験対象機なのは言う迄(まで)もないのだが、他の三機は試験状況の映像を記録し、監視する為の随伴機(チェイサー)なのだ。今回からは試験データの記録の為に、記録器材を積んだ社有機の飛行は無い。データの記録に防衛軍のデータ・リンクを利用するのは従来通りなのだが、今回、新たに設置された Emerald にデータ・リンクの為のユニットが取り付けられているので、データ取得を目的に試験空域へ随伴機を飛ばす必要が無くなったのである。そして Emerald は ADF だけでなく、B号機やC号機、AMF の稼働データ同時取得も自動化して呉れるのだ。御陰(おかげ)で緒美や樹里が第三格納庫から、試験状況のモニターや、指示が出せるようになったのである。
 試験状況観測の要(かなめ)は、AMF である。それは ADF を除く三機の中では、AMF に搭載されている複合センサーが、画像の取得能力が最も高いからである。B号機とC号機は、何らかのトラブルが発生した際の救援要員としての意味合いが、より強い。勿論、B号機とC号機に搭載された複合センサーでも、ADF 飛行の様子はそれぞれの視点から撮影される。
 そして、Pearl に依る AMF の完全自律飛行は、これが初めてであるので、第三格納庫には AMF の遠隔操縦用の簡易コックピットが準備されていた。Pearl には Ruby の AMF 制御に関するライブラリ・データが移植されているので、その自律飛行制御に大きな心配は不要なのだが、万が一、自律制御に不具合が生じた場合に備えて、機体の遠隔操作が可能な様に準備はされているのだ。もしもの場合に備えて、F-9 改の操縦要員として派遣されている青木か樋口が、AMF の遠隔操縦を担当する為に待機しているのだ。

「しかし、まあ、何(なん)とも大所帯になったものだなあ。」

 第三格納庫の南側大扉の外に立ち、少し呆(あき)れた様に然(そ)う言ったのは、飯田部長である。彼は午前九時過ぎに、本社から社有機で移動して来ていたのだ。
 飯田部長の隣に居た立花先生が、少し大きな声で言葉を返す。

「予定通り、じゃないですか。」

 格納庫内でエンジンを起動した各機が、順番に駐機場を横切って、誘導路へと進んで行くのだ。AMF やC号機の飛行ユニットが眼前を通過していると、普通の声量では会話が出来ない。

「そうだけどね。でも立花君は三年前、こんな光景、予想してたかい?」

 真面目な顔で飯田部長が訊(き)いて来るので、立花先生は、これ以上ない位の笑顔を作って答えるのだ。

「いいえ。」

「だろう?」

 飯田部長も、ニヤリと笑い返すのである。
 第三格納庫からは AMF、C号機飛行ユニット、ADF の順に庫外へと出て行き、滑走路へと向かって進んで行く。一番最後に出て来たブリジットのB号機は、駐機場の誘導路入り口付近で待機している。そして立花先生達の背後、第二格納庫の前にはミサイル実弾を装備した F-9 改が二機、発進待機状態で駐機されているのだ。
 この準備は HDG の試験中にエイリアン・ドローンとの遭遇戦が、実際に高確率で発生していた事に対する措置である。取り敢えず、この日を含んで数日間、エイリアン・ドローンの襲撃は発生してはいないのだが、何処(いずこ)かに潜伏していたと思われるエイリアン・ドローンに襲撃された事例も有ったので、学校や会社の側としては念の為の対策を準備したのだ。
 茜のA号機は兎も角、今回、ブリジットのB号機が武装を携行しているのも、同じ文脈からなのだ。茜のA号機は手持ちの武装は携行してはいないのだが、ADF に装備されている兵装は既に使用可能状態であり、試作工場では試射も済まされているのだった。

 午前十時、AMF が Pearl に依る自律制御で最初に離陸すると、続いてクラウディアのC号機が、そして茜の ADF が離陸するのだ。ADF は、茜がシミュレーターで体験した通りの、猛烈な加速で滑走路を駆け抜けて進空したのだった。茜から見えるその景色はシミュレーターで見た視界と同じだったが、唯一違っていたのは強烈な現実の加速度に襲われた事だ。AMF での離陸滑走でも、それなりに強い加速度を体験していた茜だったが、ADF の其(そ)れは AMF の比ではなかったのである。勿論、進行方向への推力に因る加速だから、高速旋回中の気絶しそうな縦Gや横Gに比べれば、それは軽いものだったのだが。それから付け加えるなら、離陸滑走距離の長さも、茜を少々不安にさせたのだった。これはシミュレーターでも視覚的に体験してはいたが、加速度も併せて体験すると、この儘(まま)で上昇出来ずに滑走路から飛び出し、フェンスに突入するのではないか?と、そんな不安感が脳裏を過(よ)ぎったのだった。実際にはシミュレーターで茜が体験した通りに、機体は上昇したのである。
 そして ADF の離陸を確認した後、最後にブリジットのB号機が、駐機場から滑走路を使う事無く上空へと舞い上がったのだった。

 天神ヶ﨑高校上空で合流した四機は、AMF を先頭にして編隊を組み、機首を北方へ向けて日本海側を目指して飛行を始めたのだ。
 編成は先頭の AMF に対して左翼後方が 茜の ADF、その ADF 左翼後方にクラウディアのC号機が着き、ブリジットのB号機は AMF の右翼後方に着いていた。AI に依る自律飛行の AMF が編隊長の位置である事を不審に思われるかも知れないが、直接の操縦操作を Pearl が実施しているとは言え、その挙動は遠隔操縦装置を通して本職のパイロット二人が監視しているのであるから、試験空域への行き帰りに就いては、これが妥当な編成なのだ。

 離陸から十五分程が経過し、HDG 達の編隊はすでに日本海上空の試験空域へと到達していた。九月頃には、茜の HDG-A01 が自身のスラスター・ユニットで飛行していた為、試験空域の進出までに一時間程を要していたのが今では嘘の様である。

「AMF01 より各機へ。予定空域へ到着しました。当機は編隊を離脱して、観測ポイントへ移動します。」

 そう Pearl が宣言して、AMF は南側へと離脱して行く。
 それに、クラウディアが続くのだ。

「HDG03 です。それじゃ、此方(こちら)も観測ポイントへ移動します。Sapphire、行きましょう。」

「ハイ、編隊から離脱します。」

 クラウディアのC号機は右へ旋回し、東向きに離れて行くのだ。

「HDG01 です。AMF01、HDG03 は、位置に着いたら連絡してください。 HDG02 は打ち合わせ通り、わたしの左後方へ。」

「HDG02、了解。」

 ブリジットは予定通りに、ADF の左後方五十メートル程にポジションを取るのだ。
 そして間も無く、AMF と HDG03 から連絡が入る。

「此方(こちら) AMF01、観測準備、整いました。」

「HDG03 より各機。此方(こちら)も観測準備、完了。」

「HDG01 より、テスト・ベース。高速飛行試験、準備完了です。指示を待ちます。」

 その茜のリクエストに、緒美からの返事は直ぐに返って来るのである。

「テスト・ベースより、各機。記録の準備は完了しています。何時(いつ)でも、始めてちょうだい。」

「了解しました、それでは、加速開始します。 HDG02、頑張って付いて来てね。」

「あはは、仕様書通りの性能なら、直ぐに付いて行けなくなる筈(はず)だけど、まあ、頑張ってみるわ。」

 ブリジットからの返答に、くすりと笑って、茜は Ruby に指示を出すのだ。

「それじゃ、Ruby。加速開始。」

「ハイ、加速開始します。」

 ADF に搭載された四基のエンジンは、回転数を跳ね上げて加速を始めた。計画では巡航時の凡(およ)そ時速 600 キロメートルから、二分間でマッハ2弱まで速度を上げるのだ。正確には分速 10 キロメートルから、分速 40 キロメートルへと加速するのだが、その間の平均加速度は凡(およ)そ 0.4Gである。
 ADF を追跡するブリジットの HDG-B01 は、その飛行ユニットの最高速度が時速 800 キロメートル(分速 13.333 キロメートル)なので、直ぐに引き離されるのは明白だったのだ。
 随伴機の中で最速なのは AMF だが、それでも最高速度はマッハ 1.2 (時速 1450 キロメートル/分速 24.5 キロメートル)程度なので、ADF との併走は出来ない。それ故(ゆえ)に AMF とC号機は、距離を取って観測を行うのである。
 一方でブリジットのB号機が置いて行かれるのを承知で追跡を行うのは、ADF に何らかのトラブルが発生したなら当然、ADF は減速するであろうから、であればB号機でも速やかに追い付けるだろう、と言う事である。取り敢えず接近が出来れば、外部からの状態確認や、場合に依っては救援が可能かも知れないのだ。通常の航空機とは違って、HDG ならば文字通り『手を差し伸べられる』のである。

「加速開始より、十秒経過。現在速度、13.1。」

 Ruby が状況を報告して呉れる一方で、茜は身体を後ろへ引っ張る様な、或いは前から押し付けられる様な、推力に因る加速度を味わっていた。単純に加速度だけで比較すれば、ここでの 0.4Gと言う加速度は、それ程、大きな数値ではない。レーシングカーや遊園地のローラーコースターでも、進行方向への加速度が 1Gに迫ったり、又は其(そ)れを超える物は少なくないのだ。徒(ただ)、茜の今迄(いままで)の生活は然(そ)う言った事物とは縁遠かったので、その様な加速度を体験した事は無かったのである。

「三十秒経過、現在速度 17.5。」

 Ruby が報じる速度の単位は『毎分キロメートル』なので、換算すると時速 1050 キロメートルとなる。これは標準状態の大気条件で、音速の 0.8 倍程度である。
 この辺りで、ブリジットのB号機、ADF に付いて行くのを断念するのだ。

「HDG02 より HDG01、流石にもう、無理。予定通り、置いて行ってね。」

「HDG01 了解。HDG02 は其方(そちら)のスピードで追跡を続行して。」

 そして ADF は順調に加速し、間も無く音速を突破したのだ。

「六十秒経過、現在速度 25.02。」

 換算すると時速 1500 キロメートル、凡(およそ)そ音速の 1.2 倍である。
 茜はエンジンのステータス画面を呼び出し、回転数や排気温度、圧力など、ステータスに異常が無い事を確認する。こうやって茜が目視で確認する迄(まで)もなく、何か異常が有れば Ruby が報告して呉れるのだが、無論、ダブル・チェックは重要だし無駄ではない。

「九十秒経過、現在速度 32.5。」

 既に ADF の飛行速度は音速の 1.6 倍程に達しているのだが、搭載エンジンの能力的には、まだ余裕が有るのだ。そもそも単純にスロットルを最大位置に設定して加速を開始したのであれば、速度が上がるに連(つ)れて加速が鈍っていく筈(はず)なのだ。それは無限に加速が出来る訳(わけ)ではないのだから、当然である。つまり、Ruby は加速度が 0.4Gで一定になる様に、絶妙なスロットル制御を行っているのだ。そして現時点で、まだアフター・バーナーは作動していないし、この試験でアフター・バーナーを使用する予定も無い。

「百二十秒経過、現在速度 40 に到達。」

 そして仕様通り、二分間で毎分 40 キロメートル、つまり時速 2400 キロメートル、凡(およ)そ音速の二倍へと達したのだ。茜は、Ruby に指示する。

「オーケー、Ruby。スロットルをアイドル・ポジションへ、スピードが 10 に落ちる迄(まで)、慣性飛行。HDG02 が追い付くのを待ちましょう。」

「ハイ、スロットルをアイドル・ポジションへ。スピード 10へ減速する迄(まで)、直線飛行を維持します。」

 エンジンの出力が減少すると、茜の身体を押さえ付けていた加速度が、スッと無くなるのだ。とは言え、特別に抵抗が増える操作をした訳(わけ)ではないので、前方へ身体を持って行かれる様なマイナスの加速度は感じない。つまり、殆(ほとん)ど減速していないのだ。
 茜はエンジンのステータスに目を遣って、その回転数が四基とも、余り低下していない事を確認した。

「ああ、マニュアルに書いてあったのは、この事ね…。」

 マッハ 1.5 以上の超音速飛行中の場合、スロットルを急激に絞ってもエンジン保護の為に回転数が維持される、そんな安全装置が組み込まれているのである。大量の空気を吸入していたエンジンの回転数を急減させる事は、吸入する空気の量を急減させる事だから、単純に其(そ)れを行うと既に加熱しているタービンの熱収支バランスが崩れて、最悪の場合、タービン・ブレードが損傷する可能性が有るのだ。エンジンに流入する空気に就いては、インテークに因って適切な状態になるよう制御されているのだが、この辺りの条件は流入する空気の速度や圧力、温度などのバランスに依るので一概に規定が出来ない。徒(ただ)、間違いのない事はインテーク周囲の気流が超音速流でなくなれば、要するに機体の速度が音速以下に落ちればいいのである。そうなれば、エンジンは安全に回転数を落とせるのだ。

「HDG01 より、テスト・ベース。スロットル制御で減速出来ないので、これより減速機動を実施します。」

「此方(こちら)テスト・ベース、了解。気を付けてね。」

 減速出来ないのがトラブルではなく想定されていた事象なので、緒美からは了承の意が即答されたのである。

Ruby、機首上げ 15°、上昇して減速を試みます。」

「ハイ、機首上げ 15°。機体が上昇を開始、現在高度 8012 メートル。」

 透(す)かさず、緒美からの通信が入る。

「HDG01、今日の上昇限度は一万メートルだから、注意してね。」

「HDG01 です。了解してます。」

 ここでの上昇限度は試験飛行の為に当局へ申請してあった空域の上限であって、ADF の上昇能力の上限ではない。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第19話.07)

第19話・Ruby(ルビィ)と天野 茜(アマノ アカネ)

**** 19-07 ****


 四日目、2072年12月1日、木曜日。
 前日中に ADF 搭載の AI ユニット:Pearl は停止処理が実施され、一部配線の取り外し迄(まで)が進められていた。この日は朝から其(そ)の作業が継続されて、午後からは ADF より Pearl が引き出されたのである。
 この日の作業で AMF と ADF のそれぞれに搭載されている AI を交換するのであるが、その作業の準備として両機は第三格納庫の中で横に並べて置かれている。それら機体の移動作業も、前日の内に済まされていたのだ。
 さて、ADF の胴体を跨(また)ぐ様に移動された簡易門形クレーンで、ADF 機内に格納されていた AI ユニット:Pearl を引き上げると、門形クレーンは Pearl を吊した儘(まま)で前方へと移動し、そこで用意されているパレット上に、Pearl を降ろすのである。因(ちな)みに、門形クレーンの移動は、作業員達の人力に依って行われるのだ。この簡易門形クレーンに自走の為の動力は、用意されていないのである。
 続いて、門形クレーンは AMF の機首部を跨(また)ぐ様に移動され、機首基部の胴体内部から AI ユニット:Ruby を引き出すのだ。
 Ruby を吊り下げた状態で門形クレーンは再(ふたた)び移動されて ADF の上へと向かい、今度は ADF へ向かって Ruby が降ろされて行くのだ。ADF へ対する Ruby の設置作業は、位置確認と微調整を繰り返し乍(なが)ら、少しずつ進められたのである。
 Ruby の ADF への搭載作業が終わると、再度、門形クレーンは ADF の前方に仮置きされた Pearl の上へと移動されて此(これ)を吊り上げると、今度は AMF へと移動して、Ruby の時と同様にゆっくりと、Pearl が AMF へと降ろされるのだ。
 これら一連の作業には合計で四時間程が費やされ、兵器開発部のメンバー達が授業を終えて第三格納庫にやって来た時点では、Pearl が AMF に搭載される最終局面だったのだ。
 各機へ AI ユニットが設置されたら、それで此(こ)の日の作業は終わり、ではない。機体へのメカ的な固定と、電気的な接続を行わなければならないので、兵器開発部のメンバー達は其(そ)れらの作業を支援したのだ。但し、緒美と茜の二人に就いては、前日迄(まで)と同様に引き続き仕様書と取扱説明書の読み込みを継続していたのである。

 五日目、2072年12月2日、金曜日。
 この日は朝から、前日に終えていた AMF と ADF の AI ユニットとの物理的な接続を再確認し、双方の疑似人格以外の基底処理(カーネル)部のみを立ち上げて、配線の結合確認を兼ねた信号の送受信テスト、環境設定と其(そ)の確認、機体制御プログラム各モジュールの作動シミュレーションなどの準備作業が、疑似人格を起動する前に実施された。これらの作業を二機同時に並行して実施するのは、作業的に膨大な手間が発生する事が予想されたので、その作業を大幅に自動化する目的で、別途持ち込まれた AI ユニットである Emerald が活用されたのだ。
 Emerald が第三格納庫に設置された本来の目的は、後日に予定されている ADF に HDG-A01 を接続して実施する戦闘シミュレーション演算の実行である。以前、LMF や AMF で実施した同種のシミュレーションでは、そのソフトウェアを Ruby が実行していたのだが、ADF で予定されている戦闘シミュレーションに関しては其(そ)の内容の複雑さから、別途、シミュレーションを制御・演算するマシンが必要とされたのだ。そんな目的の為に疑似人格を持った AI ユニットが必要なのか?と問われれば、その答えは『否』である。だが、Emerald も亦(また)、姉妹機である Sapphire や Pearl と同じ目的の為に製作された器材であり、姉妹機達と同様の経験や教育を受けさせる目的も有って、Emerald は第三格納庫に設置されたのである。
 ともあれ、Emerald の働きも有って、Ruby と Pearl の接続確認や環境設定は順調に進行したのだった。この日の昼過ぎには、Ruby と Pearl のメカ的・電気ハード的な再調整が不要である事が見極められ、出張組メカ担当達の手に依って簡易門形クレーンの解体作業が開始される。
 その一方で安藤達は、Ruby と Pearl 疑似人格を含む全システムの再起動を実行するのだ。そして Ruby と Pearl は、それぞれが一時間程度の自己診断を経て、再起動を果たしたのである。
 それら二基の AI ユニットが再起動しても、この日の作業は終わりではない。先(ま)ずは再起動後のシステムチェックや、入出力の確認、再起動前の記憶維持の確認など、諸諸(もろもろ)の検査を二基それぞれに実施するのである。その検査作業が終わると、Ruby には Pearl からバックアップした ADF 制御に関する数々のライブラリ・データ移植を、Pearl には Ruby からバックアップされた AMF のライブラリ・データ移植を、それぞれにファイルの格納先である Emerald から転送、展開していくのだ。そして最終的には双方の機体を起動させて、AI ユニットからの制御・動作確認までを実施したのだった。それら一連の作業は、食事や休憩を挟(はさ)みつつも深夜までに及んだのだ。
 その再起動に関する一連の作業には、放課後以降は兵器開発部のソフト担当三名も、見学の名目で作業を手伝ったのである。彼女達は本社からの出張組も含めて、夕食の時間になっても女子寮へは戻らずに作業を続行した為、立花先生の手配で格納庫フロアにて夕食を取る事になったのだった。因(ちな)みに、立花先生は第三格納庫の学校側監督者として、作業の最後まで現場での立ち会いを余儀無くされたのであるが、翌日、土曜日の午前中も授業の有る生徒達三名、つまり樹里、維月、クラウディアに就いては、午後九時には女子寮へと帰されたのであった。

 六日目、2072年12月3日、土曜日。
 この日の午前中には、解体された簡易門形クレーンの部材と、その他の残材や不要になった梱包材などををトランスポーターへと積み込み、出張組のメカ担当は二台のトランスポーターで試作工場へと向けて出発したのだ。この事に因り、天神ヶ﨑高校に残った試作部のスタッフは何時(いつ)もの四名、畑中、大塚、倉森、新田、である。
 先日から深夜まで作業をしていた本社開発部のソフト部隊三名、日比野、安藤、風間は、宿泊先である学校の女子寮で此(こ)の日の午前中は休みの扱いで、作業開始は午後からの予定となったのだ。
 兵器開発部のメンバー達は前述の通り、土曜日の午前中には授業が有るので、彼女達の部活は午後からである。
 前日に安藤達に付き合って、深夜まで現場立ち会いをしていた立花先生も、この日は午前中はお休みの扱いとなり、その間の学校側現場監督には立花先生の代役として、前園先生や天野理事長が顔を揃(そろ)えたのだった。そうなると当然、本社から現場の監督にやって来ている実松課長を含めて老人会…いや、懇談会が自然発生する事になり、第三格納庫の其(そ)の一角は畑中達には近付き難(がた)いエリアとなったのである。そして午前十一時を回った頃には、更に塚元校長と重徳(シゲノリ)先生もが加わって、期せずして発生した懇談会は大いに賑わったのだ。
 その懇親会の開催場所は、昼休憩を挟(はさ)んで校内の別の場所へと移されたのだが、それは勿論、午後からは立花先生が第三格納庫へと出て来るからである。
 午後から『出勤』して来た立花先生が、畑中等から午前中の格納庫フロアの様子を報告されて、苦笑いしつつ「午前中が休みで良かった。」と内心で胸を撫(な)で下ろす心境だったのは、言う迄(まで)もないだろう。
 この様に描写すると、立花先生や畑中達が、本社や学校の上層部を嫌っているかの様に受け止められるかも知れないが、これは然(そ)う言う意味ではない事を、念の為に記しておこう。
 天野理事長(会長)や塚元校長達を前にして、立花先生や畑中達が緊張感を覚えるのは、単純に『偉い人』に対して「失礼の無いようにしたい」と言う意識が働くからで、その意識の源泉は飽く迄(まで)『敬意』なのである。けして、『恐れ』とか『評価や査定を気にして』の様な、負の感情や打算的な動機からではない。実際、彼等が立場を笠に着て理不尽な振る舞いをすることは皆無で、立場とは関係無く誰とでも気さくに接する人達なのだ。勿論、職務上の必要が有れば、その立場から厳しい発言をする場合は、当然、有るのだが。

 さて、昼食を終えて第三格納庫へとやって来た兵器開発部のメンバー達であるが、この日からは緒美と茜も格納庫フロアへと降りての活動である。茜はインナー・スーツを着用しており、本社側の確認が終わった ADF に、早速、HDG を接続して動作確認を行うのだ。但し、実際のフライトは翌日の予定で、その前に地上での確認作業を実施するのである。
 茜は手慣れた様子で HDG-A01 に自身を接続すると、瑠菜の操作に因ってメンテナンス・リグから解放されるのだった。HDG-A01 のメンテナンス・リグは格納庫フロアの東側に東向きに置かれており、その背後に AMF が、更に其(そ)の西側に ADF が、それぞれ駐機されている。床面に降りた茜は、歩行して AMF の前を通過し、ADF の前へと向かう。ADF の機首は南向きに向けられており、ADF の機首構造が解放された其(そ)の先端には、HDG との接続ユニットが突き出しているのだ。
 ADF との接続の要領は、AMF と変わらない。HDG の接続ボルトの高さに降ろされた接続ユニットへ向かって、茜は後ろ向きに、周囲の誘導に従って一歩ずつ進んで行き、HDG の腰部から後方へ突き出たフレーム先端の接続ボルトを接続ユニットへと差し込む。すると、ADF 側は接続ユニットをロックして、HDG を規定の高さへとリフト・アップするのだ。

「接続完了。システムのデータ・リンクを開始します。ADF へようこそ、茜。」

 Ruby の声が聞こえて来る。

「はい、宜しくね、Ruby。新しい機体は如何(いかが)?」

「ハイ、仕様(スペック)は把握していますが、実際に動かしてみないと感想はお伝え出来ません。」

「そう? Pearl が稼働させたデータは記録されているんでしょ?」

「ハイ、ライブラリにデータは格納されていますが、それはわたしの経験や記憶ではありません。ですから、わたしの感想は、まだ無いのです。」

「成る程、それじゃ明日が楽しみね。」

「ハイ、茜。 Angela とのデータ・リンクを確立。スラスター・ユニットを回収、格納します。ADF の制御パラメータを、Angela へ転送します。」

 『Angela』とは、茜が装備しているA号機の制御用 AI の愛称である。茜達がA号機の制御用 AI、若しくはA号機自体を『Angela』と呼ぶのに Ruby も倣(なら)っているのだ。
 そして ADF 側から受け渡しアームが出て来て、HDG 背部のスラスター・ユニットに接続すると、スラスター・ユニット側の HDG への接続が解除され、スラスター・ユニットは ADF 側に格納される。これも LMF や AMF と同様の仕様である。
 スラスター・ユニットの移動と同時に茜の前面、HDG のキャノピー内部には、ADF の機体状況を知らせる表示が次々と映し出される。

「オーケー、Ruby。 ADF のステータスを確認。 部長、樹里さん、此方(こちら)の準備は完了です。HDG、ADF 共にシステムに異常無し。AngelaRuby も、御機嫌ですよ。」

「ハイ、わたしは御機嫌です。」

 茜に続いて、Ruby がそんな事を言うので、通信では緒美がクスクスと笑い乍(なが)ら声を返して来るのだ。

「それは良かったわ。 それじゃ早速だけど、明日の飛行試験に向けて、離着陸のシミュレーション、やってみましょうか。」

「Emerald、出番よー。」

 緒美に続いて聞こえて来たのは、樹里の声である。それに、Emerald が応答する。

「ハイ、樹里。ADF のフライト・シミュレーションを実行します。Ruby はシミュレーター・モードを起動して、此方(こちら)にシミュレーション用のリンクを解放してください。」

「ハイ、Emerald。シミュレーター・モードを起動します。シミュレーションのデータ・リンクを確立しました。」

Ruby のシミュレーター・モード起動とデータ・リンクを確認しました。 樹里、シミュレーションの実行条件を選択してください。」

 そう Emerald が促(うなが)して来るので、樹里が条件設定を入力するのだ。

「はいはい、と。飛行場(フィールド)は天神ヶ﨑高校、日時(デート)は今日現在…気象(ウェザー)はデフォルトでいいですよね?部長。」

 樹里はコンソールの隣に立っている、緒美に確認する。緒美は小さく頷(うなず)いて、答えるのである。

「ええ、いいわ。その他の細かい設定も、デフォルトで構わないわね。取り敢えず、天野さんに飛行特性の把握が出来れば。」

「わっかりましたー。」

 樹里は、複数画面に渡る設定条件をチェックして、次々と設定を確定していくのだ。

「はい、設定完了。問題無い?Emerald。」

「ハイ、実行準備が完了しました。シミュレーションの開始指示まで、待機します。」

 Emerald の報告を受けて、緒美は茜と Ruby に確認するのである。

「天野さん、Ruby、それじゃ始めるけど。いいかしら? 取り敢えず、離着陸は Ruby の完全自律制御で。天野さんは、飛行の感覚の確認をしてね。」

「了解です。 Ruby、宜しくね。」

「ハイ、完全自律制御で離着陸を実施します。シミュレーション開始まで待機します。」

 双方の返事を待って、樹里が Emerald に指示を出すのだ。

「それでは、Emerald。シミュレーション、実行。」

「ハイ、実行します。」

 Emerald が応じると、間も無く茜の視界が滑走路の東端から西側に向いた風景に切り替わる。

「はい、視界、来ました。Ruby、始めてちょうだい。」

 表示されているステータスでは、既に四基のエンジンは起動され、スロットルはアイドル・ポジションになっている。勿論、それは仮想 ADF の状態であって、現実の ADF は電気系統以外は起動していない。その ADF の電気系統は現在、地上電源から供給される電力で稼働しているのだ。
 茜が見ている視界と、仮想 ADF の状態は以前の AMF でのシミュレーション時と同じく、緒美達が外部から確認出来るように複数のディスプレイが用意されていて、そこに映し出されているのだった。

「ハイ、離陸を開始します。」

 Ruby が答えると、茜にはエンジンの出力が上昇する効果音が聞こえて来るのだ。エンジンのステータス表示でも、回転数がグングンと上昇している。

「ブレーキ・リリース。」

 仮想 ADF 着陸脚の車輪ブレーキを Ruby が解放すると、茜から見た視界が後方へと流れ始める。シミュレーションであるが故(ゆえ)に実機の様な加速度は感じられないのだが、明らかに AMF の離陸滑走時よりも視界の流れが速かったのだ。離陸に掛かった距離は AMF より三割程度も長かったが、その距離を駆け抜けた時間は ADF の方が短く、その仮想機体は空中へと進んだのである。

「おー、飛んだ飛んだ。」

 背後からの声に驚いて立花先生が振り向くと、そこに居た声の主は実松課長だった。その横には天野理事長や前園先生の姿も有ったのだ。
 立花先生は、声を潜(ひそ)めて実松課長に尋(たず)ねる。

「何時(いつ)から、いらっしゃったんですか?課長。」

「ちょっと前からだよ。」

 そう、何(なん)でもない事の様に、和(にこ)やかに実松課長は答えたのだった。
 続いて、前園先生に立花先生が問い掛ける。

「重徳先生も、ご一緒だったんじゃ?」

「ああ、重徳君なら、試験の準備が有るからって。後期中間試験が近いからね。」

「それ、前園先生は、大丈夫なんですか?」

「ああ、心配無いよ。立花先生こそ、大丈夫なのかい?」

「はい。わたしの講義は、中間では試験自体が無いですから。」

「あー、そうだったか。」

 そこで天野理事長が、前園先生に声を掛けるのだ。

「前園君、ADF が着陸態勢に入ったぞ。」

「おお、もう降りて来ますか。」

 前園先生は状況を映している、ディスプレイを注視する。彼は天野重工に売却される以前から浜崎重工の航空機事業部門で戦闘機の設計に携(たずさ)わっていた人物であるだけに、現在でも航空機への興味は尽きてはいない。当然、この実験機にも興味津々なのである。
 そして立花先生も、ディスプレイへと視線を戻したのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第19話.06)

第19話・Ruby(ルビィ)と天野 茜(アマノ アカネ)

**** 19-06 ****


 三日目、2072年11月30日、水曜日。
 この日の昼前には、試作工場より予定通りに『空中撃破装備』が飛来し、天神ヶ﨑高校南側の滑走路へと着陸したのだ。搭載された AI ユニットである『Pearl(パール)』に依る自律制御で、自力移動を実施したのである。勿論、不測のトラブル発生に備えて、外部からの制御が可能な随伴機を同行していたのは、AMF の移動時と同様なのだ。
 『空中撃破装備』と共に飛来した随伴機は、乗客である開発部設計一課の実松(サネマツ)課長を降ろすと、その儘(まま)、蜻蛉(とんぼ)返りで帰路に就いたのだった。実松課長が予定外に急遽(きゅうきょ)来校したのは、本来はこの日に来校の予定だった、飯田部長の都合が付かなくなったからだ。飯田部長にしても実松課長にしても、現場で何らかの実務を担当する訳(わけ)ではないのだが、想定外のトラブルが発生した場合に本社側と対策を折衝する人員が必要で、その為に待機しつつ、現場の状況を監督するのである。勿論、開発部の設計担当者として試運転をチェックする事も業務の一環ではあるのだが、その為に態態(わざわざ)、『課長』が出て来ると言うのも、実松課長個人が『現場が好きである』それ以上に、この試作機、正確に言えば『実験機』であるが、その重要性を表しているのだ。だから当然、この日の都合で来られなかった飯田部長も、日曜日の試験飛行迄(まで)には都合を付けて、来校する予定なのである。

 その日の放課後、緒美と茜は他のメンバー達と同じく、格納庫フロアへと降りて来たのだ。それは、到着している『空中撃破装備』を見る為である。二人が『空中撃破装備』の方へと進んで行くと、ソフトと電気担当の作業者は二手に別れて作業を進めている。一方は AMF から Ruby を取り外す作業で、此方(こちら)は安藤と倉森、そして新田の三名に、飛行機部の金子と武東の二人が作業を手伝っている。もう一方は『空中撃破装備』の搭載 AI である Pearl からの、移設前データ・バックアップ作業で、風間と日比野の二名を、樹里と維月、そしてクラウディアの三名が手伝っている。この Pearl 側の三名に就いては、作業の手伝いと言うより、見学に近いものだったのだが。
 緒美と茜の二人は、『空中撃破装備』から少し離れて全体の作業を監督している三名、つまり実松課長、畑中、そして立花先生の方へと向かったのだった。

「ご苦労様です。実松課長、今日はいらっしゃる予定でした?」

 先に声を掛けたのは、緒美である。茜は、小さくお辞儀をして見せたのだ。

「おお、鬼塚君。いや、急に飯田部長が来られなくなったのでね、代役を仰(おお)せ付かったのさ。」

 そう答えて、実松課長は笑ったのだ。対して茜は、真面目な顔で問い掛ける。

「飯田部長、何か有ったんですか?」

「そりゃ、何か有ったんだろうなあ。 アレでなかなか、忙しい人だからね。まあ、急に予定が変わるのは事業統括部じゃ何時(いつ)もの事さ、心配は要らないよ。」

 事も無げに、さらりと答えた実松課長は、続いてニヤリと笑って緒美に尋(たず)ねるのだ。

「それで、どうだい?鬼塚君。実機になった ADF は?取説とか仕様書とかも見てるんだろう?」

 一方で緒美は、『ADF』と言う聞き慣れない言葉を、聞き返す。

「何(なん)です?『ADF』って、実松課長。」

 勿論、それが『空中撃破装備』を指している事に察しは付いていたが、緒美がその呼称を耳にしたのは、これが初めてだったのだ。

「あれ? Aerial Destroy Frame、略して ADF だけど、こっちじゃ然(そ)う言ってないの?」

 驚いた様に説明する実松課長に、今度は立花先生が言うのだ。

「初耳ですね。設計では、そう呼んでいたんですか?」

「ああ、割と早い段階で。一一(いちいち)『空中撃破装備』何(なん)て言ってられないからサ。 試作部じゃ、どうだったの?畑中君。」

 実松課長は、畑中に話を振るのだ。そして畑中は、苦笑いし乍(なが)ら答えるのである。

「あー、試作部(ウチ)では専(もっぱ)ら『D案件』って呼んでましたね。此方(こちら)と連絡を取る時は『空中撃破装備』で統一してましたけど。」

「おーそうか。敢えて呼称を統一しなかったのは、こりゃ、飯田部長辺りが何か、画策してたかな。申し訳無いが、この話は忘れて呉れ。」

 気まずそうに実松課長が言うので、微笑んで緒美が応える。

「それは構いませんけど。 それに、呼び方に就いては、LMF、AMF の流れだと、寧(むし)ろ ADF の方が自然ですし。確かに『空中撃破装備』よりは、言い易いですね。」

「でも部長、急に呼び方を変えたら、皆(みんな)、混乱しませんか?」

「大丈夫でしょう?天野さん。 皆(みんな)、そんなに頭は固くないわ。それに略称に変わるのは、言い易くなる方向なんだし。」

「まあ、部長が宜しければ、構わないと思いますけど。」

 茜にも、特段に反対する理由は、無かったのである。
 そして二人は、『空中撃破装備』改め ADF を暫(しば)し、見詰めるのだった。
 その機体形状は大凡(おおよそ)、次の通りである。
 胴体の基礎形状は単純な円筒で、先端には HDG と接続されるジョイント・ユニットが装備されている。胴体中央側面には小振りな三角翼が取り付けられており、後方には中型ジェット・エンジンが四基、束ねられる様に搭載されているのだ。ジェット・エンジンに空気を導くエア・インテークはエンジン一基に付き一つ、合計四つが円筒形の胴体から突き出す様に開口している。各インテーク後方には尾翼が装備されているのだが、正面や後方から見ればX型に配置された尾翼の内、下側の二枚に就いては着陸時に地面と干渉しないよう、取り付け角が水平へと可変する機構が存在しているのだ。
 胴体は基本的に濃い目のグレーに塗装されているが、機体の姿勢を判別し易くする為、側面には白いラインが入れられている。そのライン上に在る三角形の主翼は、全体が白く塗装されているのだった。
 そんな機体を見た第一印象を、茜は素直に口にするのだ。

「矢っ張りこれは、飛行機って言うよりは、ロケットかミサイル、って感じです、よね。」

「まあ、戦闘機的な機動性は、始めから考えていない仕様だけど。仕様書とか読んでみて改めて考えても、これで良かったのかは、よく解らないわね。」

 その緒美のコメントには、意外そうに実松課長が言うのである。

「おいおい、珍しく気弱じゃないか、鬼塚君。」

「別に、何時(いつ)も自信満々って訳(わけ)じゃないですけど。 それに、これに限って言えば、こう言う仕様にしたかったのは本社サイドの方(ほう)でした気がしますけど?」

 緒美は何時(いつ)もの落ち着いた、真面目な表情で実松課長に言葉を返した。実松課長の方は特に動揺するでもなく、コメントするのだ。

「そうなの? 設計の方(ほう)は要求仕様に従って図面を引くだけ、だからなあ。」

 今度は茜が、実松課長に尋(たず)ねる。

「設計課は、仕様決定には関わらないんですか?」

「こう言う仕様で行きたい、って打診が来れば、それが設計可能かどうか試算位はするよ? それを元に、その仕様やアイデア、方針を採用するか、しないかを決めるのは、上の方(ほう)だからね。」

「へえー、そう言うものなんですか。」

 茜は単純に感心して、声を上げたのだ。一方で緒美の方は、これ以上は鎌を掛けても無駄だと理解して「成る程。」とだけ言ったのである。勿論、実松課長が言葉の通りに、仕様決定に関わっていない可能性も有って、その辺りの判断は出来なかったのだ。
 すると、実松課長が続いて、意外な事を言い始めるのである。

「そう言えば…ここだけの話なんだが。」

 そこで実松課長はその場に居た、畑中、立花先生、緒美、そして茜の順に顔を見回して話し始めた。

「…実は、ADF(コイツ)にね、エイリアン・ドローンから取り出した反重力ユニットを乗せるって、設計変更案が出ててね。流石に改設計が間に合わないから、話は流れたんだけどね。」

 そう語る実松課長の表情は、実に楽しそうなのである。その一方で、それを聞かされた四人は一様に不穏な表情を見せたのだった。
 そして真っ先に、立花先生が小さく声を上げたのだ。

「実松課長! そう言うお話は、されない方が宜しいのでは?」

「何、キミらが他の人に話さなければ問題無い。立花君は、もう知ってる話だったか?」

 立花先生は少し身体を引いて、右手を胸の前で数回、激しく振って答えた。

「いえいえ、聞いてませんけど。」

 続いて、ニヤリと笑った実松課長は、緒美と茜に問い掛けるのだ。

「キミ達は、聞きたい?」

「はい、是非。」

 緒美は、二つ返事である。その隣(となり)で茜は、深く頷(うなず)いていた。

「まあ、この話はね、特に二人には聞く権利が有ると思うんだ。何せ、キミ達が居なかったら、エイリアン・ドローンの完璧なサンプルが入手出来なかった訳(わけ)だしな。」

「…と、言われますと?」

 緒美に問われて、間を置かずに実松課長は話を続ける。

「七月の、一番最初に茜君が切り倒したエイリアン・ドローンが有っただろう? あれが一番綺麗なサンプルだったそうでね、防衛軍が回収した残骸を、各方面で分析していたんだが。唯一、機能が判明したのが反重力ユニットなんだそうだ。」

「反重力、なんですか?」

 そう緒美に聞き返されて、実松課長は慌てて訂正する。

「ああ、仮称、だよ。実際に原理や仕組みの解明とかは、まだ出来てないらしい。 兎に角、回収したパーツはブラック・ボックス…現物は黒い球体らしいんだが、それに付いている電極らしき所に電気パルスを入力すると、浮き上がるんだそうだ。」

 その話を聞いて、茜は緒美に声を掛けるのだ。

「どう言う原理なんでしょうね?部長。」

「さあ、反重力、重力制御、或いは慣性制御? SF 的には色々、ネタは有るでしょうけど。 兎も角、そう言う不思議な力で浮揚しているんだろうって、予測はされてたけど…それが確認された訳(わけ)よね。」

 緒美のコメントに対して、実松課長は苦笑いで言うのである。

「原理も仕掛けも解らないのでは、確認された内には入らないかもだが、ね。」

 続いて実松課長に問い掛けたのは、茜だ。

「そのユニット、分解とかX線透視とか、そう言った調査はしてないんでしょうか?」

「ああ、表面上は樹脂状の物質でコーティングされてて、継ぎ目も無くて分解が出来ないそうだ。X線や超音波とか磁気とか、その手の分析器での透視も出来なくって、本当にブラック・ボックス状態らしい。いや、ブラック・スフィア、かな?」

 今度は、立花先生が尋(たず)ねる。

「今迄(いままで)の残骸からは、そのユニットは見付かってなかったんでしょうか?」

「うん、聞く所によると、これ迄(まで)に回収された同じユニットと思しき残骸は、どれも熱で変質しているか炭化してるかだったらしい。だから、機能が確認出来るサンプルが入手出来たのは、キミ達の大きな功績なのさ。」

「ああ、そう言う話なら…。」

 そう言って、畑中が話し始めるのだ。

「…そっち方面の研究をやってる同期の奴から、エイリアン・ドローンには樹脂材料が多用されてるんだけど、従来のサンプルは熱変質が酷くて、どれも資料にならなかったって聞いた事が有る。」

「樹脂って、プラスチックの事、ですか?」

 茜の質問に、畑中は微笑んで答えるのだ。

「あーいや、一般的にプラスチックって言うと石油由来の合成樹脂だけど、それよりも天然樹脂、植物の樹液が凝固した様な、そっちに近いものらしいよ。エイリアン・ドローンの外殻は金属らしいんだけど、内側は不思議な具合に樹脂と混ぜ合わされているそうだ。そう言うのが、最近は綺麗なサンプルから解って来たって。」

 畑中の話を聞いて、微笑んで緒美が、ポツリと言うのである。

「そのお話、うちの両親に聞かせてみたいですね。」

 事情を知らない畑中が、一瞬、怪訝(けげん)な顔をするので、立花先生がフォローを入れるのだ。

「緒美ちゃんの御両親は、樹脂材料の研究職なのよ。」

「生憎(あいにく)と、三ツ橋の系列ですけどね。」

 そう追加して、緒美はくすりと笑った。

「ああ、それなら。素材分析のサンプルは防衛軍経由で三ツ橋の研究所へも回ってるらしいから、案外、鬼塚君の御両親の目にも触れてるかもだな。」

 緒美に対して実松課長は然(そ)う言った後で、茜に向かって言葉を続ける。

「そう言うのも元を辿(たど)れば、茜君のお手柄が有っての事だ。」

「そうですか。勢いで、深い考えが有ってやった訳(わけ)じゃないですけど、何かの御役に立ったのなら嬉しいです。」

 茜は微笑んで、そう応えたのだった。
 そして緒美が、実松課長と畑中に問い掛けるのだ。

「それじゃ、エイリアン・ドローンを分解して、詳しい構造とかは判明したんですね?」

 実松課長が答える。

「あー、それが、分解は出来なかったらしい。強いて言えば、解体、だったそうだ。」

「どう言う事です?」

 緒美は怪訝(けげん)な顔付きで、聞き返す。

「所謂(いわゆる)、ボルトやナット、或いはリベットの様な部品で結合されてはなくてね。こう、複雑にカットされたパーツの隙間を樹脂が埋めてるって言うかな、そんな感じで組み上げられているらしい。強いて言えば接着剤的な?」

 実松課長に続いて、畑中が発言するのだ。

「ああ、その話なら例の奴から聞きました。外殻なんかもベース材に貼り付けてあるんじゃなくて、もう、一体で成型されてるって。そんな構造でメンテナンスやパーツ交換は、どうやってるんだろうって、頭、抱えてましたよ。」

 苦笑いしている畑中に、ニヤリと笑って実松課長が言うのだ。

「ああ、その答えなら、もう、立花先生が出して呉れてるよ。」

「え?」

 実松課長の発言に驚いて声を上げたのは、当の立花先生だった。

「わたし、何か言いました?」

 戸惑う立花先生に、答えを明かすのは緒美である。

「言ってたじゃないですか、あれは『遠征用の使い捨て兵器だろう』って。」

「ああ…。」

 そこで漸(ようや)く、合点(がてん)の行った立花先生なのであった。そして、実松課長が説明を補足するのだ。

「使い捨てと割り切れば、そんな構造でも問題は無い。エンジニアリングの信頼性が恐ろしく高くないと成り立たないが、まあ、我々とでは其(そ)の辺りの技術レベルが段違いなのは、改めて言う迄(まで)もないからな。ともあれ、立花君の仮説は、当たっていたと思っていいんじゃないかな。」

 そして真面目な顔で、茜が問うのである。

「それじゃ矢っ張り、アレを作ったのは異星人(エイリアン)って事で、間違いないんですよね?」

 一同が一瞬沈黙した後、苦笑いしつつ実松課長が答える。

「少なくとも、地球の技術でない事だけは確かだね。」

 その後、緒美と茜の二人は、昨日に引き続き仕様書と取扱説明書を読み込む為、部室へと戻って行ったのである。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第19話.05)

第19話・Ruby(ルビィ)と天野 茜(アマノ アカネ)

**** 19-05 ****


「ああ、そうそう。もう、立ち上がってるよ。」

 日比野は、部員達が主用している、北側二階通路階段の方を指差す。示された方向へ樹里達が視線を向けると、階段の裏側下に小型冷蔵庫状のユニットが目に入る。彼女達が『冷蔵庫』を連想したのは、それが白く塗装されていたからである。
 日比野を先頭に、彼女達は格納庫フロアの東側、階段の方向へと移動を始めるのだ。

「ここのセキュリティ機能は、Emerald(エメラルド)の方へ、もう、移行済みよ。」

 安藤の説明に、コメントを返すのは樹里である。

「今度は Emerald ですか、…と言う事は五月ですか? 起動したのは。」

「去年の?」

 樹里に続いて維月が訊(き)いて来るので、安藤が答えるのだ。

「今年よ。Sapphire が去年の九月で、それ以降に得られた情報がフィードバックされてるの。」

 続いて、クラウディアが尋(たず)ねる。

「見た目、Sapphire よりも、ケースは大きいみたいですけど。」

「Sapphire はC号機に搭載する都合で、特別に圧縮して実装されてるけど、プロセッサ自体は同じ物よ。 Emerald の方は、無理に小さくする必要が無かったし、だから余分に記憶装置(ストレージ・ユニット)を搭載してあるの。 さっきやってた、Ruby のライブラリ・ファイルのバックアップも、Emerald へ転送してたのよ。」

 今度は、維月が問い掛ける。

「あ、お二人の PC へ転送してたんじゃないんですか。」

 それには、風間が答えるのだった。

「あはは、無理無理、モバイルにコピー出来る様な容量じゃないから。Ruby と Emerald の両方に格納してあるファイルを読み出して比較するツールを、モバイル側で走らせてただけ。」

「あれ?ケーブルは Ruby とだけしか繋がってなかった様な…Emerald との接続は無線ですか?」

「そうゆーことー。」

 樹里の質問に答えた日比野は、樹里が何時(いつ)も使用しているデバッグ用のコンソール前に立ち、数回、キーボードをタイプすると、樹里達を手招きするのだ。

「Emerald とのアクセスは、ここから出来るから。 ご挨拶して、Emerald。」

 日比野に促(うなが)され、合成音声がデバッグ用コンソールから出力される。

「こんにちは、皆さん。Emerald です。」

 それは Ruby とも、Sapphire とも違う、女性の合成音声だった。
 その声を聞いて、維月が樹里に同意を求める様に言うのだ。

「あれ? 聞き覚えの有る声、よね?」

「そうね。安藤さん、ですよね?」

 樹里に確認されると、安藤は苦笑いをして答えるのだ。

「ああ、矢っ張り解っちゃう? ちょっと、弄(いじ)って貰ってはあるんだけど、わたしの声、サンプリングしたのが元データなのよ。」

「あはは、それが解るなら、維月ちゃん、Ruby の声が誰のか、気付いてた?」

 維月は一瞬、複雑な表情になったが、何(なん)でもない様に声を返すだった。

「ええ、姉の、でしょ?」

「ああ、お姉さんの声、あんな感じなんだ。」

 微笑んでコメントする樹里に、維月は言うのである。

「少し変えてはあるよ、話し方は全然違うし。」

「あれ? そうすると Sapphire のは、誰の声が元なんですか?」

 そのクラウディアの質問には、安藤が答える。

「Sapphire も、主任の音声データがベースなの。Sapphire 用には、可成り変化させてあるけどね、Ruby と同じに聞こえないように。それで流石に、Emerald 用にも同じ手は使えなくって。 で、新しくサンプリングした訳(わけ)。」

「成る程。 それで、疑似人格の仕様としては Emerald、Sapphire と同じ、なんですか?」

「まあ、Ruby が特別仕様だからねー。」

 そう言って、安藤はくすりと笑うのだった。
 一方で、樹里が声を上げるのだ。

「えーと、セキュリティを引き継いでいるって事なら、Emerald、わたしの声とか姿は拾えてる?」

 その答えは、デバッグ用コンソールから返って来る。

「ハイ、樹里。格納庫の各種センサーから、画像や音声を取得しています。」

「ああ、もう、個人識別も出来てるんですね。」

 樹里は安藤に向かってコメントしたのだが、安藤が答えるよりも先に、コンソールからは Ruby の声が返って来るのである。

「わたしのライブラリ・データが、移植されていますから。」

 そこで維月が、AMF の方へ向かって、普通の声量で話し掛けるのだ。

Ruby、ここで話してるの、AMF で拾えてるの?」

「いいえ、維月。格納庫のセキュリティ用センサーから情報を取得しています。」

 Ruby の返事を聞いて、樹里が日比野に問い掛けるのだ。

「セキュリティ機能は、Emerald へ移管したんじゃないんですか?」

「ああ、画像や音声へのアクセスは Ruby にも今迄(いままで)通り、出来るようにしてあるのよ。」

 続いて、説明を加えるのは安藤である。

「急に目や耳を塞(ふさ)がれると、ストレスになるでしょう? Ruby は繊細だから。 あと、格納庫内の AI 同士で情報の共有が出来るように、新しいネットワークも追加してあるわ。ハブになっているのは Emerald なんだけど。」

 そこでクラウディアが、日比野に尋(たず)ねる。

「と、言う事は、Sapphire も格納庫のセンサーから情報を?」

「そうよー、Sapphire、見えてるー?」

 日比野はメンテナンス・リグに接続されているC号機に向かって、敢えて右手を上げ左右へ振ってみせるのだ。直ぐにデバッグ用コンソールからは、Sapphire の声が返って来るのである。

「ハイ、見えています、杏華。」

「じゃ、二階の部室でも Sapphire と普通に会話が?」

 その維月の質問に、日比野は微笑んで答えるのだ。

「勿論、出来るよー。」

 日比野の答えを聞いて、樹里がコメントする。

「今迄(いままで)、カルテッリエリさんの PC でしか、お話し出来なかったものね。C号機本体、以外だと。」

「って言うか、そのプログラム、どうやって作ったのよ?って話よね。」

 半(なか)ば呆(あき)れた様に安藤が言うのだが、クラウディアは澄ました顔で返事をするのだ。

「それは、秘密デース。」

「あはは、一晩で作っちゃったんだから、凄いよネー。」

 笑って維月が然(そ)う言うと、続いて樹里が誰に訊(き)くでもなく言うのだ。

「あれ? そうすると、Ruby と Sapphire、Emerald とで、お話し出来るのかしら。」

 樹里の疑問に答えたのは、Ruby である。

「ハイ、樹里。設定が済んで以降、ネットワーク上で妹達と会話を続けていました。」

「そう。どんなお話を?」

「ライブラリに記録されない、テキスト化や数値化出来ない経験と記憶に就いて、情報交換をしていました。」

 その Ruby の回答を聞いて、クラウディアが問い掛ける。

「ライブラリに記録する時に、記憶をテキスト化するんじゃないの? Ruby。」

「ハイ、クラウディア。その通りですが、ライブラリに記載する際は、決められたフォーマットに従って情報を加工し、アウトプットします。ですから、フォーマットに指定されていない情報は、ライブラリには記録されません。」

「ああ、そう言う事。成る程。」

 Ruby の説明に納得するクラウディアに、安藤が補足説明をするのだ。

「そんな訳(わけ)だから、Ruby の経験や記憶を全て、別の子に移植は出来ないのよね。その辺りは、今後の開発課題かしら? まあ、別人格なんだから、記憶の完全コピーとか、する必要は無いんだけど。 一応、ライブラリに記録されない情報は、ログの方に載っては来るんだけど、今の所、ログのデータは状態の検証以外に使い道は無いのよねー。」

 続いて、樹里が Ruby に問い掛ける。

Ruby、『会話』って、テキスト・データで遣り取りを?」

「いいえ、普通に音声ですが、どのスピーカー側にも出力しないだけです。」

 Ruby の返事に続いて、Emerald が発言するのだ。

Ruby との『お話』は、色々と会話の参考になります。わたしは、まだ稼働時間が少ないので。」

「Sapphire は?」

 安藤に尋(たず)ねられ、Sapphire も答える。

「そうですね。今迄(いままで)は、格納庫内の情報を取得していなかったので、その情報を理解し整理する手法を学びました。但し、これは HDG の制御には必要ではない情報なので、この学習を継続する必要が有るのでしょうか?江利佳。」

「ああ、それは問題無いわね。HDG の制御には直接に関係は無いけど、対人コミュニケーションの精度向上にはプラスになるから、遠慮なく続けてちょうだい。ストレージの容量には、その分の余裕を見込んで有るから心配は要らないわ、Sapphire。」

「分かりました、江利佳。」

 そこで、日比野が Ruby に向かって言うのだ。

Ruby はお姉さんなんだから、妹達に色々と教えてあげてね。」

「ハイ、杏華。頑張ります。」

 素直な Ruby の返事を聞いて、微笑む日比野であった。
 一方で、少し申し訳無さそうに安藤は、Ruby に告げるのだ。

「やる気になっている所で悪いんだけど、Ruby、そろそろ、貴方(あなた)のシャットダウンを始めるから。」

「ハイ、江利佳。そのスケジュールは、理解しています。指示が出る迄(まで)、待機しています。」

「それじゃ、沙織ちゃん、準備始めましょうか。休憩、終わり。」

 安藤は、普段は風間の事を名前で『沙織ちゃん』と、呼んでいるのである。風間の方は「はーい。」と返事をし、AMF の方へと歩き出す。

「安藤さん。」

 樹里に呼び止められ、振り返る安藤に、樹里が依頼するのである。

Ruby のシャットダウン作業の見学、させて貰ってもいいでしょうか?」

「それは構わないけど、チェックとか、やり乍(なが)らだから、一時間ぐらい掛かるよ。 退屈するよ?多分。」

「それは、まあ…大丈夫です。 なかなか、こんな機会、無いですから。」

「まあ、確かに、ね。 本当は、出来れば、シャットダウンは、余りやりたくはないんだー。」

 その安藤の言葉に、クラウディアが尋(たず)ねるのだ。

「どうしてです?」

「考えてみてー。シャットダウンって、人間に例えたら、一度死ぬのと同じ事だよ。停止前の状態へ再起動が出来るのが、人間と違う所だけどさ。」

 安藤の説明に、維月が確認するのである。

「でも、スリープ処理じゃマズいんですよね?」

「うん、今回やるのは、謂(い)わば『脳移植』だから。 目が覚めたら『別の身体になってました』じゃ、混乱するのは間違いないでしょ。 環境設定をチェックし乍(なが)らの再起動は、必須なんだよね。」

 そう言って、安藤は力(ちから)無く笑ったのだ。
 それから間も無く、Ruby の完全停止作業は実施が開始されたのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第19話.04)

第19話・Ruby(ルビィ)と天野 茜(アマノ アカネ)

**** 19-04 ****


 続いて、維月が確認する様に言うのだ。

「その、配属のお話ですけど。わたしとクラウディアは二年先ですけど、特にわたしに就いては、姉と同じ職場って人事、有り得るんでしょうか?」

「やり辛いと思う?維月ちゃん。」

 そう、心配そうに安藤が訊(き)いて来るので、維月は少しだけ考えて、答える。

「正直、分かりません。寧(むし)ろ姉の方(ほう)が、やり辛くはないんでしょうか?」

「主任? 主任は、楽しみにしてるみたいだけどね。」

 そこに、笑顔で日比野が見解を述べるのだ。

「大丈夫じゃない? 流石に、兄弟や姉妹で同じ部署って、聞いた事は無いけどさ。でも、夫婦で同じ部署で勤めてる人は知ってるし、大体、井上主任は身内だからって依怙贔屓(えこひいき)とか、しそうもないでしょ。」

「まあ、大事なのは実力とか能力、だから。風間でも務(つと)まってるのは、そう言う事だから。」

 すると、風間が声を上げるのである。

「聞こえてますよー。」

「褒(ほ)めてるんだから、いいでしょ?」

「そんな風(ふう)には、聞こえませんでしたけどー。」

「それは、申し訳無かったわね。」

 そう言って、安藤は風間の背後へと移動する。

「どう、終わった?」

「はい、今、全行程が終了しました。エラーは無し、です。」

 今度は風間がモバイル PC を床面に置いて、腰を上げるのだ。腰に手を当て、背中を伸ばしている風間に、安藤が言う。

「それじゃ、ちょっと休憩にしますか。」

「賛成です。 そう言えば、鬼塚さんとか天野さんって、今は何方(どちら)なんです?」

 風間の問い掛けに、辺りを見回してから日比野が答えるのだ。

「格納庫(こっち)には降りて来てない、みたいね。」

「ああ、今日も部室で取説とか仕様書の読み込みやってますよ、二人共。」

 樹里の説明を聞いて、思い出した様に日比野は樹里に尋(たず)ねるのである。

「そうそう、取説、大丈夫そうだった? 超特急で作った奴だからさ、心配で。」

 樹里と維月は一度、顔を見合わせ、維月が答えたのだ。

「今の所、苦情は聞いてませんけど、二人から。」

「そう。不明な点とか有ったら、遠慮せずに何でも聞いてって言っておいて。責任持って回答するから。」

 日比野の所属するチームが機体側の制御ソフトを開発しているので、取扱説明書の編集作業も担当しているのである。今回、日比野が派遣されて来ているのも、機体側制御ソフトの面倒を見る為なのだ。

「それで、貴方(あなた)が緒美ちゃんや天野さんに、何(なん)の話が?」

 不審気(げ)に、安藤が風間を問い質(ただ)す。風間は悪怯(わるび)れる様子も無く、答えるのだ。

「いえ、話す事は特に無いのですけど、一目見たいって言うか、出来れば画像でも、と。」

「あははは、有名人だからね~特に、あの二人は。」

 日比野は笑って然(そ)う言うのだが、安藤は睨(にら)む様に風間を見詰めて静かに言うのである。

「その手の巫山戯(ふざけ)た理由で、二人の仕事、邪魔なんかしたら承知しないからね。」

「勿論、邪魔なんかしませんよ。目を付けられでもしたら、将来的に怖い事になりそうですし。」

 風間は苦笑いして、安藤に答えるのだった。
 そこで樹里が、日比野に尋(たず)ねるのだ。

「あの、日比野先輩。ウチの部長と天野さん、そんなに社内で有名になってるんですか?」

 続いて、維月が付け加える。

「樹里ちゃんの事も、有名になってるんじゃない?」

 日比野は、微笑んで答えるのだ。

「樹里ちゃんが有名なのは、ウチの課、限定だよね。鬼塚さんは、開発部と試作部。天野さんは、HDG に関わってる部署全般って感じかな?」

「そりゃ、会長のお孫さんだって言うし。創業家の御令嬢ともなれば、注目度は上がりますよね。」

 調子に乗って喋(しゃべ)る風間の、後頭部を再び叩(はた)くと安藤は風間に注意するのである。

「だから、そんな風(ふう)な事、言うんじゃないって言ったでしょ。」

「えー、じゃあ、どんな風(ふう)に言えばいいんですか?安藤さん。」

「解らないなら、黙ってなさい。」

 安藤は、呆(あき)れた様に言ったのである。日比野が「まあ、まあ…。」と宥(なだ)める様に、安藤に声を掛けるのだが、一方で維月が日比野に問い掛けるのだ。

「あの、天野さんの事は、そんな風(ふう)に広まってるんですか?」

 溜息を一つ吐(つ)いて、日比野は答える。

「まあ、事情を知らなければ、普通、そう思うよね、って事で。」

 続いて安藤が、風間に忠告するのだ。

「いい? もしも天野さんに会っても、『お嬢様』とか『御令嬢』とか言うんじゃないよ。」

「え?違うんですか。」

 その説明を、樹里がするのである。

「いえ、半分正解で、半分間違いなんです。 天野さんが理事長…会長の孫なのは、本当です。でも、『創業家の御令嬢』ではないんですよ。」

「でも、『天野』って…。」

「会長のお嬢さん、つまり天野さんのお母さんが、結婚した相手が偶然『天野』姓だった、と言う事だそうで。だから、天野さんの天野家は、天野重工の天野家とは別の家系なんです。まあ、数代、遡(さかのぼ)れば親戚だったらしいんですけどね。」

 真面目に語る樹里に続いて、維月が微笑んで言うのだ。

「天野さんの話だと、お母さんが大学時代に、同じ名字だって意気投合した相手とその儘(まま)、結婚したって言うから、『偶然』って言うのは、ちょっと違う気がするけどね。」

「はー、そう言う事…。でも、社内には天野さんの事、社長の娘だと思ってる人、居るよ?」

 その風間の見解に対して、再び呆(あき)れた様に安藤が言うのである。

「だから、今の社長は片山社長でしょ? どうして、天野さんが片山社長の娘だと思うかな。」

「片山社長の奥様は会長の娘さんだって聞いてるから、婿入りしたけど社長は会社的には旧姓を使ってるって。」

 今度は日比野が、その認識の間違いを正すのだ。

「あー違う、違う。片山社長の奥様は会長の次女、天野さんのお母さんの妹さん。昔、天野重工の秘書課に、勤めてたそうなの。 まあ、片山社長が社長に就任したのが、十年くらい前だから。風間さんとか、知らなくても無理は無いけど。」

「寧(むし)ろ、日比野さんは良く御存知ですね。」

 安藤に然(そ)う言われて、日比野は微笑んで言葉を返す。

「わたしが入社した頃は、その辺りの事情を知ってる人が身近に多く居たから、新人の頃に世間話として聞いてたの。近頃は、そんなのは話題にならないからね~。」

「そう言う事なら、会社の広報とかで周知すればいいのに。」

 その様な思い付きを、直ぐに口にするから風間は安藤に叱られるのである。

「個人情報(プライバシー)なんだから、そんな訳(わけ)にはいかないでしょ。」

「それも然(そ)うですね。 それで、その辺りの事、天野さんは気にしてる、と。」

 そんな風間の発言に、樹里と維月は一度、顔を見合わせ、そして樹里は風間に言った。

「いえ、天野さんは気にしてないって云ってるんですが。 でも、一々、説明して回る訳(わけ)にもいかないので。」

 すると苦笑いしつつ、日比野が所感を漏らすのである。

「この様子じゃ天野さん、正式に入社したら、色々と大変そうよね~。」

「案外、ここで一度、徹底的に有名になって、地均(じなら)ししておいた方が、いいのかも知れませんね。本人は嫌がりそうだけど。」

 その樹里の提案を、維月は笑うのである。

「あははは、酷い提案~。」

「何、笑ってるの維月ちゃん。貴方(あなた)だって、立場的には天野さんと似たようなものじゃない?」

 安藤に言われ、維月は意外そうに聞き返すのだ。

「え、何(なん)でです?」

「社内的な有名人の身内、って意味じゃ、井上主任の妹って事で、維月ちゃんも、なかなかのものよ?」

「いやいや、有名って言っても会長と主任じゃ、天と地ほど違いますって。それに、わたしの場合、そんな複雑な背景なんか無いですし、大丈夫ですよ。」

「そう? なら、いいけど。」

 そう言って、安藤はニッコリと意味深な笑顔を見せたのである。
 この時、維月は姉である井上主任の、開発部部内に於(お)ける、特にソフト開発部隊に対する影響力の大きさを、全(まった)く理解していなかったのだ。それに就いては三年先に、身を以(もっ)て思い知るの事になるのだが、それは又、別の話である。
 そして、安藤は右手で風間の背中をバンと叩き、言ったのだ。

「兎に角、二年先、三年先にはここに居る三人が、貴方(あなた)の後輩になるんだから、もっとしっかりしてよね。」

「大丈夫ですよー。安藤さんが卒業したあと、大学じゃ、ちゃんと先輩らしくやって卒業して来たんですから。職場でも後輩が出来れば、ちゃんと先輩らしくなりますって。 知ってます?人を成長させるのは、立場なんですよ?」

「全(まった)く、言う事だけは立派なんだけど。 こう言う奴なんだけど、皆(みんな)、宜しくしてやってね。」

 安藤が樹里達、三名に向かって然(そ)う言うので、樹里は慌てて言葉を返すのだ。

「安藤さん、逆、逆。宜しくして頂くのは、此方(こちら)の方。」

「あははは、何(なん)だ彼(か)んだで、安藤さん、後輩ちゃんを気に掛けてるのね。」

 そう、日比野が茶化すので、安藤は言葉を返すのである。

「もう、何(なん)とでも言って。」

「えー、さっきのが気に掛けてる人の言う事ですかー日比野さん。」

 風間が日比野に抗議するので、安藤は再度、呆(あき)れた様に言うのだ。

「風間ー、そう言う所よ。」

「えー。」

 そんな二人の遣り取りを、樹里と維月はクスクスと笑い乍(なが)ら見ていたのだ。
 一方で黙って様子を見ていたクラウディアが、唐突に口を開くのである。

「あの、所で。今日搬入予定だった、新しい AI ユニットって、どうなっているんですか?」

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第19話.03)

第19話・Ruby(ルビィ)と天野 茜(アマノ アカネ)

**** 19-03 ****


 二日目、火曜日。この日も第三格納庫での作業は、予定通りに継続している。
 お昼前には、本社から飛来した社有機で、開発部ソフト部隊からの人員、乃(すなわ)ち安藤、日比野、風間の三名が移動して来ていた。風間は安藤と同じく Ruby 開発チームの一員で、安藤とは大学時代の後輩なのだ。年齢的には安藤の三歳下で、「沙織(サオリ)」との名前から井上主任に「サオちゃん」と呼ばれているのが彼女である。今回派遣されて来た三名が揃(そろ)って女性なのは、兵器開発部のメンバー達に配慮した結果なのだった。因(ちな)みに、風間が天神ヶ﨑高校に来校したのは今回が初めてである。
 さて、格納庫内部での動きとしては、第三格納庫に格納されていた F-9 改二機が、この日の午前中に第二格納庫へと移動となった。これは、Ruby と Pearl の換装作業スペースを確保する意味も有るが、翌日に到着する『空中撃破装備』を格納するには、既に第三格納庫が手狭になっていたからだ。
 第三格納庫には F-9 戦闘機を横に三機並べて格納が可能なのだが、HDG-A01、B01、C01、及び、B01 用の飛行ユニットがそれぞれのメンテナンス・リグに接続されて格納されており、その分だけスペースが圧迫されているのだ。従って、F-9 型機を横に並べて入れられるのは二機が限界なのである。
 AMF とC号機用の飛行ユニットは両機共、機体規模は F-9 戦闘機とほぼ同じなので、これらを F-9 改と共に格納するには、F-9 型四機を格納する事と同等になるのだった。そこで、F-9 改二機を格納庫奥側から北側に寄せて並べて駐機して、C号機用の飛行ユニットは F-9 改二機の間(あいだ)前方、つまり南側に、AMF はC号機用飛行ユニットの東側に駐機していたのだった。
 この状態で、大きな門形クレーンの組み立てと、搬入した資材を広げての検品と仕分けを続けるのは、流石に困難が予想されたので、火曜日の午前中から F-9 改の二機を第三格納庫より引き出す事が予定されていたのである。その為に、組立中のクレーンや、パレットに載せられた資材の木箱、AMF やC号機用飛行ユニット迄(まで)も、一旦(いったん)、庫外へ移動させる等、手間としては無駄な作業の発生となったのだった。これは、F-9 改を移す第二格納庫側の、受け入れ準備の都合でもあり、月曜日に第二格納庫側の整理が行われていたのである。これらに就いては、事前にやっておけば良さそうなものだったのだが、そうは出来なかったのは第二格納庫で社有機の整備を行う藤元等(ら)の、純粋に作業スケジュールが原因である。
 そんな流れで前日から滞在していた畑中達が、この日の第三格納庫での作業が再開出来たのは午後になってから、なのであった。とは言え、彼等が午前中に暇だった訳(わけ)ではなく、藤元達の F-9 改移動に関連しては、第三格納庫内へ前日に運び込んだ資材を移動して F-9 改の移動経路を確保する等の、相応の作業が発生していたのだった。

 そして放課後である。
 第三格納庫には続々と、その日の授業を終えた兵器開発部のメンバー達がやって来るのだ。緒美と茜の二人は、昨日に続いて部室で仕様書と取扱説明書の読み込みを続行し、その他の部員達は格納庫フロアへと降りて来るのだった。
 その中でも、ソフト担当の三名、樹里、維月、そしてクラウディアは、AMF の下で Ruby のバックアップ作業を実施している安藤達の所へと向かったのである。
 AMF は機首部が開放状態になっていて、勿論、HDG は接続されてはいない。安藤と風間の二人は、格納庫フロアに胡座(あぐら)を掻(か)いて座っており、膝の上にはそれぞれがモバイル PC を乗せているのだ。その PC はケーブルで、AMF を介して Ruby に接続されているのである。
 日比野はと言うと、安藤と風間の背後に立って居るのだった。これは、日比野が Ruby の担当ではないからである。

「安藤さん、お疲れ様で~す。」

 安藤に対して樹里が、友達の様に声を掛けるのだ。

「はい、お疲れ。授業、ご苦労様。」

 樹里の態度が当然の様に、安藤も声を返す。
 一方で維月は、少し気を遣って安藤に尋(たず)ねる。

「其方(そちら)は? 初めてお目に掛かります、よね?」

 維月に言われて気付き、安藤は同僚の風間を紹介するのだ。

「ああ、ウチの風間とは初めてだったよね。Ruby 開発チームの風間 沙織、仲良くしてあげてね、皆(みんな)。今年、三年目?だから、まだ新人ちゃん扱いなんだけど、ウチの課では。」

 続いて、風間が声を上げる。

「どうも、風間 沙織です。安藤先輩とは、大学時代の同じ学部の後輩です。皆(みんな)、宜しくね。」

「ほら、先輩って言わない。」

 安藤は風間の後頭部を、軽く押して注意するのだ。

「解ってますよぉ、安藤さん。今のは、説明の為、敢えて、です。」

 そこで日比野が、説明の為に口を挟(はさ)む。

「あ、社内では男女問わず、基本は『さん』付け、だからね。 ま、上司とかは、例外的に『ちゃん』や『君』で呼ぶ人が多いけどね。」

 続いて、安藤が兵器開発部の三人を風間に紹介する。

「で、こっちから城ノ内さん、維月ちゃん、クラウディアさん。」

「ええ、皆さんの、お噂は予予(かねがね)。画像とかでも何度か見たから、分かりますよー。」

 その風間の応答を聞いて、微笑んで樹里が言うのだ。

「それは光栄ですけど。因(ちな)みに、噂って、どんなです?」

「いや、そんな悪い噂じゃなくて。城ノ内さんに就いては、五島さんが何時(いつ)も感心してるとか。 維月さんは、井上主任の妹さん、ですよね? クラウディアさんに就いては、凄いハッ…。」

 風間が『ハッカー』と言い掛けた所で、安藤が風間の後頭部を掌(てのひら)で叩(はた)いたのである。風間は透(す)かさず、言い直すのだ。

「…あー、いや、武勇伝は色々と。」

 クラウディアは苦笑いし乍(なが)ら、コメントを返すのである。

「まあ、御存知でしたら、色々と説明の手間が省けて結構ですけど。」

「ゴメンね~こいつ、学生時代から色々と、がさつでさ。」

 そう言って安藤がクラウディアに詫(わ)びるので、風間が抗議するのだ。

「がさつって、酷いなあ…。」

 そんな遣り取りを、日比野は笑って見ているのだ。

「あははは、ホント、お二人を見てると飽きないわー、漫才みたいで。」

「それは、どうも。」

 安藤は不服そうに、そう言葉を返したのである。
 そこで、維月が日比野に尋(たず)ねるのだ。

「あの、日比野先輩。年齢的には、安藤さんの方が年上ですよね?」

「そうよ。安藤さんは、二個上、ですよね?」

「そう、そう。で、こっちの風間は日比野さんの一個下。会社的には日比野さんが、わたしの二年先輩で、風間は日比野さんの五年後輩。ホント、天神ヶ﨑の卒業生が羨(うらや)ましいわ。」

「そうかー、もしもわたしが天神ヶ﨑を卒(で)てたら、会社的には安藤さんの先輩になれたのかー。」

 そんな風間の思い付きに対し、安藤は心底嫌そうにコメントを返すのである。

「何よそれ、屈辱的。」

「何(なん)でですかー。」

「そもそも、貴方(あなた)が受験しなかった時点で、可能性はゼロだったのよ。」

「だって、天神ヶ﨑なんて学校、知らなかったし。知ってれば、受験してたかもですよ?」

「いや、当時の先生が勧めなかったんでしょ?それは無理だって判断されたからじゃない。」

「そうかなぁ。」

「そうよ。悔しかったら、会社でわたしよりも出世して見せる事ね。」

「ううっ、頑張りマス。」

「うん、ガンバレ、ガンバレ。」

 安藤と風間はそれぞれがモバイル PC のディスプレイを見詰めつつ、時折、キーボードをタイプし乍(なが)ら、そんな会話を繰り返しているのだった。
 日比野は小さな声で、隣に立つ樹里に語り掛けるのである。

「ね、漫才みたいで面白いでしょ?」

「あははは~。」

 樹里は少し反応に困って、愛想笑いを返したのだった。そして、樹里は安藤に尋(たず)ねるのだ。

「それで安藤さん、現在の進捗状況は?」

「ああ、Pearl へ移動するライブラリ・データのコピーは、これで、ほぼ終わりかな。今は、コピーが間違ってないか検証(ベリファイ)ツールの実行中。これが終わったら、いよいよ、Ruby のシャットダウン作業ね。」

 その安藤の言葉を受けて、維月が Ruby に話し掛ける。

「それじゃ、少しの間、お別れね、Ruby。」

 その呼び掛けに、Ruby は直ぐに反応するのだ。

「ハイ、維月。でも、三日後には再起動する予定ですよ。」

 今度は樹里が、Ruby に問い掛ける。

「今度、目が覚めたら、新しい機体よ。楽しみ?」

「そうですね、樹里。しかし、慣れた機体から離れるのは、少し残念にも思います。」

「寂しい?」

「どうでしょう? これが『寂しい』と形容される感覚に該当するのか、検討の余地は有ります。」

「そう。難しいね。」

「ハイ、樹里。」

 そこで風間が、口を挟(はさ)むのである

「おお、何だか Ruby が大人みたいな事言ってる。」

「そう言うコメントしか出来ない貴方(あなた)は、子供みたいよねぇ…。」

「何(なん)ですか、安藤さん。何か、わたしに恨みでも有るんですか?」

「恨みは無いけど、残念だとは思ってるの。」

 溜息混じりに安藤が然(そ)う言うので、風間は日比野に泣き付く様に声を上げるのだ。

「日比野さーん、安藤さんが酷いんですよー。」

「あはは、まあ、安藤さんも皆(みんな)の前で照れてるだけだから。風間さんは、もっと毅然としてればいいのよ。」

「そうそう、わたしに突っ込み所を見せるのが悪い。」

「何(なん)ですかー、小さな事まで探し出して突っ込むくせにー。」

「それが、わたしの仕事だもの。会社の先輩として、指導するのが役割なんだから。ほら、黙って作業続ける。」

「はーい。」

 そんな二人の遣り取りを見て、維月が苦笑いし乍(なが)ら日比野に訊(き)くのだ。

「何時(いつ)も、こんな感じなんですか?」

「あはは、まあ、今日はちょっと、風間さんが浮かれてるのかな? 社内で話題の天神ヶ﨑に来たのが初めてだし、大好きな先輩と一緒に出張だし、で。」

 その日比野の見解を、風間は笑顔で否定するのである。

「え~、そんなんじゃないですよー。」

「いいから、黙って作業してなさい。」

「はーい。」

 安藤は自分のモバイル PC を床面に置いて腰を上げると、日比野と維月達の方へと移動するのだ。

「もう、この子と居るとノリが学生時代に戻っちゃって、調子が狂うわ。」

「まあまあ、仕事はちゃんと出来てるんだから、いいじゃない?」

 ニヤリと笑って日比野が言うので、安藤が抗議するのである。

「そうやって皆(みんな)が甘やかすから、わたし位は厳しくしてるのよ。」

「あら、貴方(あなた)が厳し過ぎだから、主任を始め、皆(みんな)が優しくしてるんじゃない?」

「あはは、卵が先か、鶏が先か、みたいですねー。」

 樹里が笑ってコメントする一方で、維月は申し訳無さそうに安藤に言うのだ。

「何(なん)だか、姉がご迷惑を掛けているみたいで…。」

 安藤は、慌てて否定する。

「違う違う、井上主任は悪くないから、維月ちゃん。 もう、日比野さんが変な事、言うから。」

「あははは、ゴメンね~でも維月ちゃん、職場の雰囲気がギスギスしてないのはホントだから。その辺り、主任の影響力とか大きいのよね。 三人には一度、本社の見学とか、そんな機会が有ればいいのにね。」

「まあ、三人共が、ウチの課への配属されるのは、ほぼ決定事項だからさ。楽しみにしてるといいわ。」

 安藤の見解に、苦笑いで樹里は言うのである。

「いえいえ、まだ卒業しませんよ、わたし。」

 樹里の言(げん)に対して、日比野が微笑んで安藤に声を掛ける。

「そう言えば確か、井上主任が、卒業して無くていいからウチの課に樹里ちゃんを寄越(よこ)してって、上に掛け合ってたよね。」

 今度は維月が、呆(あき)れ顔でコメントするのである。

「又、無茶苦茶な事を…。」

 すると安藤が、その人事上の要望に関する結末を語るのだ。

「ああ、その件なら流石に学校側が NG 出したらしいわ。」

「あー、だよねー。あの校長先生が許可する訳(わけ)無いよねー。」

 気の抜けた様な返事をした日比野は、天神ヶ﨑高校の卒業生である。だから、塚元校長がどんな人物なのかを、よく理解しているのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第19話.02)

第19話・Ruby(ルビィ)と天野 茜(アマノ アカネ)

**** 19-02 ****


「おー、お疲れー皆(みんな)。放課後なのに、偉いね~。」

 呼び掛けに笑顔で返す、畑中である。
 兵器開発部の面々が畑中と立花先生の近くまで来ると、並べられた機体下部から格納庫の奥側を覗(のぞ)いて瑠菜が声を上げるのだ。

「ああ、クレーンの方は可成り形が出来てますねー。」

「あー、あっちの作業は危険だから、近付かないでね。」

 透(す)かさず、釘を刺しておく畑中である。
 続いて直美が、畑中に問い掛けるのだ。

「それで、わたし達は何をお手伝いしましょうか?先輩。」

「いやあ、待っては居たんだよ。」

 畑中は身体の向きを変えると、南側の大扉前に並べられている大量の木箱へ向かって、目の前の AMF 越しに声を掛けるのだ。

「おーい、新田さーん。人手が来たよー。」

 呼び掛けられて木箱の陰から新田と倉森が姿を見せ、新田が声を返して来る。

「はーい。皆(みんな)、こっちお願い。」

 兵器開発部のメンバー達に対して、新田は右手を振って見せる。直美達は機体の間を縫う様に、その二人の方へと駆け足で向かうのだ。
 そんな彼女達の背中へ、畑中は声を掛けるのである。

「それじゃ、そっちの応援、宜しくー。」

 そこで立花先生は、畑中に尋(たず)ねるのだ。

「彼方(あちら)は、資材の検品?」

「ええ、Ruby と Pearl の載せ換えで、ケーブルやらブラケットやら、大量に必要になるので。その他にも、交換用の予備パーツとかも持って来てますから。」

「それは、大変そうね。」

 立花先生は苦笑いを浮かべて、納得したのだ。

 一方、新田と倉森の元に到着した、兵器開発部のメンバー達である。
 最初に、直美が確認するのだ。

「検品ですか?」

 それには、倉森が答える。

「うん、そう。発送元でもチェック済みなんだけど、漏れが無いか、こっちでもチェックするのよ。それから、機体毎(ごと)、作業順に仕分けね。」

「取り敢えず、これ、箱毎(ごと)の発送リストね。」

 そう言って新田が差し出す紙片の束、二冊を直美と樹里が受け取るのだった。そこで、直美は恵が彼女達の方へと歩いて来るのを見付けるのだ。
 恵が合流するのを待って、新田が作業の説明を始める。

「それじゃ、説明するけど。取り敢えず、この箱から検品を始めます。梱包材を剥がすとポリ袋に入った加工済みのケーブルが入ってるけど、袋は破らないでね。で、袋に記載されてる物品コードを、発送リストと照合してちょうだい。照合が終わった物は、あっちとこっちの小箱へ分類します。向こうのが Pearl 用で、こっちのが Ruby 用。物品コードの先頭のアルファベット、Rが Ruby で、Pが Pearl です。その次のアルファベットが作業順で、AからFの記号に合わせて小箱へ入れてちょうだい。」

 その説明を聞き乍(なが)ら、直美から発送リストを受け取った恵は、紙片を次々と捲(めく)って居るのだ。それは、樹里も同様である。

「ここ迄(まで)、何か質問が有る?」

 そう新田が確認するので、恵が手を挙げて訊(き)くのである。

「あの、物品コードって、後半の番号が重複する物が有ります?」

 それには、倉森が答えるのだ。

「いえ、見ての通りRとPを合わせて、番号は連番だから重複する筈(はず)はないけど。どうして?」

 すると、今度は樹里が声を上げるである。

「ですよね。とすると、これはミスプリかな?八ページ目と十一ページ目。」

 続いて、恵。

「あと、二十三ページ目も。」

「え?嘘…。」

 慌てて、新田は手持ちのリストを捲(めく)って、確認を始めるのだ。それを横から、倉森も覗(のぞ)き込む。

「あ、ホントだ。同じ番号が並んでる。」

「あら、ホント。」

 新田が声を上げると、続いて倉森も確認して所感を漏らすのだ。

「みなみさん、これは誰に確認したらいいんでしょう?」

「取り敢えず、星野さん?かなあ、管理課の。」

「ちょっと、連絡してみます。」

 新田は自分の携帯端末を作業着のポケットから取り出して、試作工場へと通話依頼を送信する。会社の固定電話への通話なので、先方には直ぐに繋(つな)がるのだ。因(ちな)みに、この時代でも電話の存在自体は、特に変わりはない。但し、専用の電話回線と言うのは既に無くなっており、各種通信サービスの一種として回線は統合されている。

「あ、製作三課の新田です。工程管理課の星野さん、お願いします。」

 新田が掛けた番号は、試作工場の大代表である。先方で内線を回す間、暫(しばら)く待ってから、新田は話し始める。

「製作三課の新田です。天神ヶ﨑…はい、そうです。はい…それで、現地で検品を…ええ…いえ、リストがですね、物品コードに重複が、え?…いやいや、ホントに。…えーと、八ページと十一、二十三ページに…それで…はい?リストのリビジョンですか?」

 そこで透(す)かさず、倉森がリストの表紙の改訂(リビジョン)番号を、横から告げるのだ。

「1.7。」

 それを聞いて、新田は通話を続ける。

「1.7、です。…え、リビジョンが古い?んですか。最新が2.1…はい…はい…解りました。お願いします。…はい、失礼します。」

 そこで新田は通話を終えたのだ。傍(かたわ)らで状況を見守っていた倉森は、尋(たず)ねるのだ。

「何(なん)だって?星野さん。」

「間違って、古いリビジョンのリストをプリントアウトして入れちゃったらしいって。取り敢えず最終リビジョンのデータを、送って呉れるそうです。わたしの端末宛てで。」

 そこで恵は、新田と倉森に提案するのだ。

「それなら、此方(こちら)でプリントアウトしましょうか?」

「そうね、お願い出来る?」

 倉森が改めて依頼して来るので、恵は樹里に確認するのである。

「出来るよね?城ノ内さん。」

「はい、大丈夫ですよ。データさえ頂ければ。 それよりも、今迄(いままで)チェックしてた部分に、影響は無いですか?」

 樹里に問われて、新田は笑って答える。

「あははは、前の方はリストの記載は合ってたみたいだから、取り敢えず大丈夫だよ。 しかし、二人共、良く間違いに気が付いたよね。」

 樹里と恵は一度、顔を見合わせて、それから恵が言うのだ。

「連番になってる風(ふう)な所に、同じ番号が並んでたら気が付きますよ。ねえ、城ノ内さん。」

 樹里は、黙って唯(ただ)、頷(うなず)くのだった。
 その様子を見て、新田は言うのである

「まあ、確かに。それで出荷時に、何度もリストを改訂してた、って云ってましたけど。兎に角、番号がダブってる所からあとは、物品コードと品目がズレてるらしいから…。」

 そこで、新田が握っている彼女の携帯端末から、着信のメロディが流れる。新田は直ぐに、その内容を確認するのだ。

「ああ、来た来た。リストのデータは、表計算のファイルね。」

「それじゃ、わたしの端末に送って頂けますか?」

 樹里は制服のポケットから自分の携帯端末を取り出して、言う。

「あー、ゴメン。城ノ内さんのアドレス、知らないんだ、わたし。」

「それじゃ、一旦(いったん)、わたしに送って。わたしが転送するから。」

「お、みなみさん、何時(いつ)の間にアドレスをゲットしてたんですか…と。はい、送りました。」

 新田は倉森の提案に従って、素早く携帯端末を操作するのである。間も無く、今度は倉森の携帯端末が鳴り、引き続いて倉森も携帯端末を手早く操作するのだ。
 そして、最終的に樹里の携帯端末へとデータのファイルが転送され、樹里は其(そ)れを開いて確認するのだった。

「はい。確かに頂きました。リビジョンは 2.1、間違いないですね。それじゃ、部室でプリントアウト、やって来ます。」

 そこで突然、クラウディアが手を挙げて発言する。

「あの、リストがデータになってるのでしたら、チェックの集計アプリとか、作っちゃいましょうか? 紙でバラバラに管理するより、いいんじゃないかと。」

 その提案に就いて、倉森が問い返すのだ。

「え~と、具体的には、どんな感じに?」

「そうですね、物品コードと品目に有り無しのチェックを付けて、分類先の番号とか記録出来る程度でしょうか。学校の実習用サーバー上で走らせて、そこに各自の携帯端末でアクセスして使用する感じです。他の人がチェックした内容も一つのデータに反映されますから、各人が紙に記入するよりは便利かと。」

「確かに、大人数でバラバラに紙に記入したら、最後は全部付き合わせてダブリとか無いか、チェックしなきゃだし。」

 真面目な顔で言う新田に、クラウディアは微笑んで伝える。

「その手間は省けるかと。」

「どうします?みなみさん。」

「此方(こちら)は構わないけど、時間が掛かるんじゃない?」

 心配そうに言う倉森に対して、今度は維月が笑顔で発言するのだ。

「その程度なら、三人でやれば、デバッグも含めて三十分程度、かな。ねえ、樹里ちゃん。」

「そうねぇ…カルテッリエリさんは、何か使えそうなテンプレートとか、持ってるの?」

「勿論です。そうでなきゃ、提案してません。」

「そう。なら、問題無いと思うけど。 どうでしょう?新島先輩。」

 突然、判断を振られて、直美は慌てて口を開くのだ。

「え?何(なん)で、わたしに訊(き)くのよ。」

 くすりと笑い、説明したのは恵である。

「副部長、だからでしょ。」

「あー、そうか。うん、それじゃ、三人にはソフトの方、やって貰おうか。」

 直美の指示のあと、続いて恵が言う。

「アプリ作ってる間、こっちはこっちで作業進めたいから。リストのプリントアウトも、お願い出来る?城ノ内さん。」

「それは構いませんよ、プリントは十部位でいいですか?」

「いいですよね?倉森先輩。」

 樹里に訊(き)かれて、恵は倉森に確認するのだ。倉森は頷(うなず)いて、応える。

「それじゃ、そう言う事で、お願い。」

 以上の様に、月曜日の兵器開発部の活動は始まったのである。そして、その日の作業予定を消化して、活動は午後七時を過ぎた頃に終了したのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第19話.01)

第19話・Ruby(ルビィ)と天野 茜(アマノ アカネ)

**** 19-01 ****


 エイリアン・ドローン『ペンタゴン』捜索、狙撃に関する実証試験が実施された土曜日から、日曜日を挟(はさ)んでの翌週、月曜日。2072年11月28日の天神ヶ﨑高校へは、朝には三台の大型トランスポーターが到着し、お昼前に掛けては大型の輸送ヘリが四機、相次いで到着しては、積み荷を降ろして飛び去って行ったのである。
 そんな様子で、兵器開発部が所在する第三格納庫周辺は、大変な賑(にぎ)わいを見せていたのだ。その中心で、大勢(おおぜい)の作業人員を仕切っていたのは、例によって試作工場から出張している畑中である。
 今回の作業は、二日後の水曜日、30日に搬入予定の HDG 用の航空拡張装備B案こと、通称で『空中撃破装備』と少々物騒な呼称が付けられた試作装備に関連するものなのだ。試作装備の搬入自体は、これ迄(まで)にも何度も実施されて来たのだが、今回が普段と一風(いっぷう)違う状況となっているのは、AI ユニットである Ruby を AMF から『空中撃破装備』へと換装する作業が予定されているからだった。
 『空中撃破装備』には AI ユニット・Pearl(パール) が搭載されて、試作工場にて起動試験から、無人での単独飛行試験が既に終了しているのだが、HDG との接続確認から能力評価の実施に当たっては、搭載 AI を Ruby に置き換える計画となっているのである。それは Ruby に『空中撃破装備』の制御を経験させる必要が有るからで、その理由は、以前、緒美が予想した通りなのだ。つまり、天野重工の本社サイドとしては、この三年間推進して来た HDG 開発計画の本番が、いよいよ訪(おとず)れたと言えるのだった。勿論、現場で作業している人員で、その事を意識している者(もの)は一人として居ない。
 現場を訪(おとず)れる可能性が有って、更に其(そ)れらの事情を把握している関係者と言えば、天野理事長と飯田部長の二人に限られているのだ。
 だから、事前に『緒美の予測』を聞かされてしまった立花先生は、少々複雑な内心で、それら作業を眺(なが)める事になったのである。当然、授業など学校側の業務都合も有って、四六時中、第三格納庫に詰めている訳(わけ)ではないから、それは立花先生に取って救いなのだった。

 さて、作業の流れに関して、大枠を説明しておこう。
 初日、月曜日の作業は、搬入した資材や工具の開梱と検品、そして簡易門形クレーンの組み立てである。このクレーンの組み立てには、二日間の作業を予定している。
 実際、AI ユニット・Ruby はドラム缶サイズの重量物である。これを、安全に AMF から上方へと抜き出し、次いで『空中撃破装備』へと挿入しなければならない。その前に『空中撃破装備』にセットされている AI ユニット・Pearl も抜き出しておかねばならないのだ。因(ちな)みに、『空中撃破装備』から取り出された Pearl は、Ruby を取り外された AMF へ再装備される予定である。
 生憎(あいにく)と第三格納庫には、試作工場の様に天井クレーンが設置されている訳(わけ)ではなく、従って現地で組立可能な簡易型の門形クレーンが必要になるのだ。
 この為に、Ruby の換装作業は AMF を試作工場へ戻して其方(そちら)で実施する案も検討されたのだが、その場合、天神ヶ﨑高校と試作工場の間で AMF を移動させるのに茜を搭乗させると、その都合で授業を休む必要が発生し、それに就いては校長からの許可が得られなかったのだった。
 茜に AMF の輸送を担当させる場合、先(ま)ず、天神ヶ﨑高校から試作工場へ AMF を移動させて、茜は一度別便で学校へと戻る。然(しか)る後(のち)、試作工場での換装が完了したら『空中撃破装備』と AMF を天神ヶ﨑高校へ移動させる為、茜は二往復する事が必要となるのだ。つまり、茜は最低でも二日、授業を休まねばならないので、これは学校側としては了承出来ないのだった。仮に AMF と『空中撃破装備』の搬送日を別日に設定した場合、茜は更にもう一日、授業を欠席する事になるのである。
 そして、茜に輸送を担当させる案には別の問題も発生する。それは AMF にしろ『空中撃破装備』にしろ、有人で飛行する場合には HDG を接続するのが前提である点だ。天神ヶ﨑高校から AMF を移動させる場合は、茜が装着した HDG を AMF に接続して飛行すればいい。これは、単純な話である。問題は、試作工場側で AMF に接続した HDG をどうするか?なのだ。
 AMF の改造の為には HDG は接続を解除したい所だが、その為にはメンテナンス・リグを試作工場側にも用意しなければならないのだ。試作工場で HDG を保管出来ないとした場合、茜は HDG で学校へと帰還しなければならないのだが、HDG-A01 のスラスター・ユニットで山梨県の試作工場から中国地方の天神ヶ﨑高校へと単独飛行で帰還するのは、実際、困難なのである。例えば日本海側を迂回するコース設定での飛行距離は大凡(おおよそ)六百キロメートルに及び、その距離をスラスター・ユニットで可能な巡航速度で翔破するには、三時間以上が必要となるのだ。二時間を超える長時間飛行は能力的に不可能ではないにしても、リスクも大きいのである。
 そこで HDG を試作工場に残して、先述の通り会社が手配した別便で茜が学校へ戻るとしても、次の問題は、AMF と『空中撃破装備』を学校へと移動させる際に発生する。例えば AMF を先に学校へと移動させるとして、茜は会社手配の便で試作工場へ移動し、そこで HDG を装着して AMF と接続、試作工場から天神ヶ﨑高校へと飛行する、ここ迄(まで)は HDG を試作工場で保管する何らかの方策が取られると仮定すれば問題は無い。しかし、AMF と共に天神ヶ﨑高校へ到着した茜の HDG を、今度は試作工場へと移動させないと、試作工場に有る『空中撃破装備』にドッキングが出来ないのだ。これは、AMF と『空中撃破装備』の何方(どちら)を先に学校へ移動させても同じ事で、試作工場に残された機体を移動させる為に、一度は HDG を何らかの方法で試作工場へと輸送しなければならない。前述の通り、試作工場から学校への HDG の単独飛行が困難ならば、逆方向、学校から試作工場への単独飛行も困難なのは道理である。
 ここで『空中撃破装備』が有るなら、AMF の方はもう、不要なのではないか?と思われるかも知れないが、能力評価の比較対象として AMF は、まだまだ必要なのだ。
 茜が HDG で二往復するのが、前述の通り困難であるなら、Ruby 移設後の移動に就いて何方(どちら)か一方は、AI 制御に因る無人飛行は出来ないのだろうか? 実際、AMF が最初に試作工場から天神ヶ﨑高校へと移動して来た時には、そうだったのである。つまり、不可能ではない。
 ならば、いっその事、天神ヶ﨑高校と試作工場間の移動は全て無人飛行にしてしまえば、茜に対する要求は不要になる。
 だが、無人飛行には一つの制約が有って、それは非常時に外部からの優先制御(オーバーライド)が出来るようにしなければならい事だ。天野重工にはその為の簡易操縦装置が一式しか無く、同時に二機を無人飛行させる事は出来ないのだった。勿論それは、AI ユニット換装後の AMF と『空中撃破装備』を順番にフライトさせれば済む話で、日程の調整次第で不可能なプランではない。
 以上の様に移動の段取りを考えて行くと、最終的には、天神ヶ﨑高校側で換装作業を行った方が、無駄が少ないのである。必要な資材と機材を、陸路と空輸で送ってしまえば、本体の移動は『空中撃破装備』を一回、AI 制御で無人飛行させるだけでいいのだ。しかもその段階で『空中撃破装備』の搭載 AI は、組立と起動試験、無人での単独飛行試験が終了住みの状態である。AI 換装後の場合は、もう一度、機能確認をしなければならず、それをせずに行き成り長距離の単独飛行に投入するのは聊(いささ)か心許(こころもと)無い、と言うより、それは安全管理上やってはならない。
 少々、説明が脇道へ逸(そ)れたが、天神ヶ﨑高校の第三格納庫で AI ユニットの換装作業を行う事になったのは、以上の様な理由からである。
 さて、作業説明に戻ろう。
 月曜、火曜日に簡易門形クレーンを組み立てる等、準備をしている間、火曜日には本社開発部から安藤、風間、日比野の三名が到着し、AMF 搭載の Ruby を停止させる作業が行われる。停止作業の前には、当然、ログの書き出しや機能チェック、緊急時に必要なライブラリ・データのバックアップ作業等も実施されるのだ。
 翌水曜日には、停止した Ruby から安藤達の手に依って AMF との接続を取り外し、同日、試作工場からは『空中撃破装備』が AI 制御に因る無人飛行で到着する予定なのだ。
 『空中撃破装備』が到着したら、Ruby と同様にバックアップ等の作業の後、AI ユニット・Pearl の停止作業である。
  木曜日には Pearl から接続の全を取り外し、先に『空中撃破装備』から Pearl の引き抜き作業を実施、Pearl は一旦(いったん)、保管される。続いて、AMF から Ruby が引き抜かれ、門形クレーンを移動させて、Ruby を『空中撃破装備』へと移動、設置する。Ruby への『空中撃破装備』を接続する作業を進め乍(なが)ら、保管してあった Pearl を門形クレーンでピックアップし、今度は Pearl を AMF へと設置するのだ。此方(こちら)もメカ的な固定作業を終えたら、配線等の接続を行い、ハードウェアのチェックを実施する所までが木曜日の作業予定だ。
 そして金曜日には、Ruby と Pearl、双方を再起動させ、それぞれに必要なプログラムやデータの転送を行い、ソフトウェアの機能チェックを行う。この作業に開発部の三名には、丸一日が当てられていて、一方で試作工場から来ている人員は撤収作業を開始し、門形クレーンの解体も始められる。
 土曜日には、AMF と『空中撃破装備』と、それぞれの搭載 AI とのインターフェースを確認し、午後には HDG-A01 との接続確認を実施。
 そして日曜日には、『空中撃破装備』に HDG-A01 を接続しての飛行試験までが予定されているのである。

 第三格納庫は前述の様な状況になるので、兵器開発部の活動としては殆(ほとん)ど『開店休業』状態となる予定なのだが、メンバー達が暇になるかと言えば、そうはならないのだった。
 先(ま)ず、緒美と茜がやらなければならないのは、実際にフライトを行う日曜日に向けて『空中撃破装備』の設計・製作仕様書と暫定版取扱説明書の読み込みである。メカ担当の他の部員、直美、恵、瑠菜、佳奈、ブリジット、そして応援の村上と九堂は、現場で出来る作業の手伝いを実行するし、ソフト担当の樹里、クラウディア、維月の三名は当然、開発から来ている三名の作業応援を実施するのと同時に情報収集に努(つと)めるのである。

 そして、月曜日の放課後である。
 茜とブリジットが部室に到着した時点では、既に他のメンバーは揃(そろ)っていたのだった。
 部室に入った茜は、中央の長机上に置かれた複数の分厚いファイルに目を留める。そんな茜に、真っ先に声を掛けたのは、緒美である。

「それじゃ天野さん、早速、仕様書から目を通して行きましょうか。」

 そう言って緒美は、三冊のファイルを前へと押し出す。その一冊が仕様書で、残り二冊が暫定版の取扱説明書なのである。

「はい、部長。」

 茜は持っていた鞄を部室の隅に置くと、席に着いて手元へと三冊のファイルを引き寄せる。そして、ページを捲(めく)り始めるのだ。その様子を横目にしつつ、苦笑いでブリジットは言うのだ。

「うわぁ、頑張ってね、茜。」

「うん、大丈夫よ、ブリジット。」

 茜は仕様書の目次から目を離す事無く、一秒に一ページ程度のペースで紙片を捲(めく)っているのだ。因(ちな)みに、目次だけで三十枚程が存在したのである。

「じゃ、ブリジット。わたしらは下へ行こうか。」

 直美が、そう声を掛けて来るので、ブリジットは尋(たず)ねるのだ。

「立花先生は、まだ来てないんですか?」

 その問い掛けには、恵が答える。

「先生なら、ついさっき下へ降りたわよ。 あ、わたしは天野さんに、お茶を淹(い)れてから行くから。」

 恵に言われて、直美は頷(うなず)き、他のメンバーに声を掛ける。

「それじゃ皆(みんな)、行きましょーか。」

 続いて茜が、恵に言うのだが、その時も視線はファイルへ向けた儘(まま)である。

「あ、恵さん、御構(おかま)い無く。」

「あはは、遠慮しないでー。」

 他のメンバーが二階通路へと出る奥側のドアへと向かう中、恵は明るく笑って、お茶の準備を始めるのだった。
 それから暫(しばら)くの間を置いて、顔を上げた茜が緒美に話し掛けるのである。

「矢っ張り、部長の書いた仕様書から、随分と変わってますよね?」

「あら、もう読んじゃったの?天野さん。」

 そう言って緒美は、くすりと笑うのだ。

「まさか、目次(インデックス)に目を通しただけですよ。」

 茜は然(そ)う言って微笑み返すのだった。そのタイミングで、恵が茜の手元へティーカップを置くのだ。

「はい、どうぞ。 目次、見ただけで解るの?天野さん。」

「だって、項目だけでも倍ぐらいに増えてるんですよ? あ、ありがとうございます、お茶。」

「元の仕様書の、項目の分量(ボリューム)を覚えてる事自体が凄いわよね。」

 そんな恵の所感に対して、緒美がコメントを返すのだ。

「まあ、確かに。本社の御意向が、ふんだんに盛り込まれてる様子だけどね。 今更(いまさら)、文句言ってみても始まらないし、取り敢えずは読み進めましょう。」

「はい。あ、いえ、別に文句が有る訳(わけ)じゃないですけれど。」

 緒美に対して釈明する茜に、恵は茜の方をポンと叩いて「解ってる、解ってる。」と声を掛けるのだった。
 そして恵は部室の奥へと進み、緒美に向かって言うのだ。

「それじゃ、わたしも下の手伝いに行きますから。二人共、頑張ってねー。」

 その恵の声援に、緒美と茜は何方(どちら)も顔は上げずに右手のみを上げて、同時に「はーい。」と声を返したのだった。

 そこから少し時間を戻して、格納庫フロアへと降りて来た立花先生である。
 格納庫の空きスペースには運び込まれた資材が仕分けの為に広げられ、奥の一角では門形クレーンのトラス構造のフレームが組み立てられつつあったのだ。
 門形クレーンのフレームは左右の移動台車の上に、コの字型のフレーム構造を前方へ倒した状態で組み上げられているのだった。これは吊り下げ部の高さを或る程度以上に確保する必要が有るので、単純に下から積み上げて行くと上部フレームを組み上げるのが危険な、結構な高所作業となるからである。
 そこで、倒した状態でフレーム全体を組み上げ、最後に引き起こしてフレーム下部を台車に固定する、と言う手順を踏む事になっているのだ。フレームを引き起こすのには電動式のウインチを使用するのだが、その電動ウインチ自体は、門形フレーム頂部に取り付けられた滑車を介して荷物を吊り上げる、クレーン機構の心臓部となるパーツである。

「あ、ご苦労様、畑中君。」

 立花先生に声を掛けられ、畑中は振り向いて声を返す。

「どうも。立花先生、ご苦労様です。」

「長かった HDG シリーズの試作も、これで、一息ね。」

「あー、そうですねー。この一年間で二年分位、試作工場は稼働してた気がしますねー。」

 そう答える畑中は、苦笑いである。
 立花先生も釣られる様に苦笑いになり、畑中に労(ねぎら)いの言葉を贈るのだ。

「取り敢えず、お疲れ様。 これでやっと、ご結婚の段取りが進められるんじゃない?」

「何ですか、急に。 あ、それに、来週、もう一機、追加のを持って来ますから、まだ終わりじゃないですよ。お忘れじゃないでしょうね? 試作工場(あっち)じゃあ、今は、その確認作業が大詰(おおづ)めなんですから。」

「あー、その件は兵器開発部(こっち)じゃ秘密になってるから、半分忘れてたわ。」

「秘密って、来週になったら納品しますから、嫌でもバレますよ? それとも、納入は延期ですか?」

「いえ、予定通りよ。納入までにバラすかどうかは、こっちでは緒美ちゃん次第だから。」

「どうなってるんです?」

 不思議そうな表情で畑中が問い掛けて来るので、立花先生は再(ふたた)び苦笑いを見せて答えるのだった。

「此方(こちら)も、色々と有るのよ、都合が。」

 そこに二階通路階段の方から、直美の声が聞こえて来るのである。

「センセー。畑中センパーイ。」

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第18話.13)

第18話・新島 直美(ニイジマ ナオミ)

**** 18-13 ****


 その後、実証試験終了後のデブリーフィングは恙無(つつがな)く進行し、併行(へいこう)して第三格納庫の片付けも実施されて、それら全ての作業が終了したのが、午後七時の少し前だった。
 部活を終えた兵器開発部のメンバー達は全員が女子寮へと戻り、食堂で夕食となったのである。但し、HDG のドライバー三名、乃(すなわ)ち茜、ブリジット、そしてクラウディアは、夕食の前に入浴を済ませるとして、上級生の部員達とは別行動なのだった。
 HDG の装着にはインナー・スーツの着用が必須なのだが、これには通気性というものが一切(いっさい)無く、ドライバーの汗や皮脂はアンダー・ウェアが吸収するのだ。だが、インナー・スーツに通気性が無いが故(ゆえ)、アンダー・ウェアは、ほぼ乾かないのである。インナー・スーツには温度調整機能が有るのでドライバーが極端に発汗する事は少ないが、それでも二時間も活動すればアンダー・ウェアは、それなりに『しっとり』として来るのだ。これは、余り気持ちのいい物ではない。幾ら着替えたとしても、その儘(まま)では食欲も湧かない、と言うものなのである。
 さて、クラウディアと同室と言う事もあって維月も入浴組に同行し、村上と九堂も、茜とブリジットに付き合って、食事前の入浴組と相成ったのだった。
 維月がクラウディアに同行するのは、四月当時ではクラウディアが他の生徒達と余計な摩擦を起こさないように維月が付き添っていたのであるが、流石に此(こ)の時期に於(お)いては其(そ)の必要も無くなっていた。だから此(こ)の時に維月が同行したのは、単純に同室であるが故(ゆえ)の生活時間を合わせる意味と、兵器開発部と其(そ)の協力者である一年生組としての親睦を深める意味からなのだ。
 そんな訳(わけ)で、七時台に食堂に集まった兵器開発部関連のメンバーは三年生と二年生、そして立花先生、加えて飛行機部の金子と武東の、合計九人である。
 彼女達は隣り合った二つのテーブルに別れ、一方のテーブルには三年生組五名、その隣のテーブルには二年生組と立花先生の四名が、席を取ったのだ。
 夕食自体は、それぞれに談笑しつつ和(なご)やかに進んでいたのだが、その終わり頃に突然、立花先生が声を上げたのである。

「ちょっと、テレビのリモコン取って呉れない?」

 立花先生は食堂の壁側、天井から傾斜を付けて設置されている大型テレビの画面を見詰めている。
 テレビが設置されている直下の壁にはホルダーがネジ止めされていて、そこにリモコンが掛けられているのだ。恵が率先して席を立つと其(そ)のリモコンを取って来て、立花先生に渡すのだった。

「どうぞ。」

「ありがと、恵ちゃん。」

 リモコンを受け取った立花先生は、音量を上げていくのだ。
 食堂のテレビは、チャンネルは固定されているので、そのリモコンで操作出来るのは電源の入り切りと音量の操作程度である。その画面の中では、アナウンサーが緊迫した口調で原稿を読んでいた。

「何かニュースですか?」

 直美が茶化す様な口調で立花先生に問い掛けるが、立花先生は何も答えずに、そこで報じられていく内容を聞いているのだ。

 それは、ロシアの首都、モスクワがエイリアン・ドローンの襲撃を受けていると言うニュースだった。
 報じる側も正確な情報は掴(つか)んでいない様子だったが、ロシア軍との攻防は現在も継続中であり、収束までには、まだ時間が掛かりそうだ、との消息筋の見立てだと云う。
 又、ロシア当局からの正式な発表が今の所は無く、襲撃や被害の規模は、正確には不明である、とも語られていた。
 一方でモスクワ市民が被害の様子を撮影した動画等が、ネットワークには既にアップロードされていて、テレビ放送でも其(そ)れら動画の幾つかが取り上げられていたのだ。
 動画には倒壊した建造物や、火災を起こした街の一角の様子が記録されており、それらの映像が繰り返して流されているのである。
 そのニュース番組には『軍事評論家』なる解説者が登場し、以降、彼の『予測』が語られるのだが、彼の見立ては、次の通りである。

 この日、軌道上から降下したエイリアン・ドローンは総数九十六機で、『中連』上空から降下して一方は東へ、もう一方が西へと進んだ。
 東へ、つまり日本へと飛来したのが五十四機で、残り四十二機が西へと向かった。
 四十二機のエイリアン・ドローンはロシア領空内へと侵入し、当然、ロシア側は迎撃を行った筈(はず)だが、エイリアン・ドローン隊がモスクワに到達する迄(まで)に撃墜出来たのは、凡(およ)そ半数。
 従って、二十機前後のエイリアン・ドローンがモスクワに侵入したとみられる。

 立花先生が音量を上げた事で、食事時(どき)の為もあって、ほぼ満席状態だった食堂には一時、ざわめきが広がったのだ。とは言え、皆が皆、そう言った情勢に関心が有る訳(わけ)ではない。そうでなくてもここ数年、世界中で発生するエイリアン・ドローンに因る被害のニュースが日常的に報じられているのだ。
 そんな訳(わけ)で兵器開発部の面々を除くと、このニュースに関心を持ったのは、その時の食堂に居合わせた女子生徒達の、多くても一割程度だったのである。
 緒美達の周囲のテーブルでは、そのニュースには特に関心を示さず食事や雑談を続ける者(もの)や、食事を終えて席を離れる者(もの)など、其其(それぞれ)だったのだ。
 そんな中、直美が普通の声量で、唐突に恵に訊(き)くのである。

「モスクワって、今、何時なの?」

 すると、向かい側の席から緒美が答える。

「日本時間との時差が六時間だから、今、十四時の少し前、ね。」

「って事は、あっちは、まだ昼間なんだ。」

 納得顔の直美に続いて、恵が所感を述べる。

「今、見た映像じゃ、被害は相当に深刻みたいよね。」

 それには緒美が、異を唱えるのだ。

「それはどうかしら?映像は被害の有った所をアップで撮影(うつ)してるから、街全体が被害を受けている様な印象になるけど。一口にモスクワって言っても、それなりに広いのだろうし。 まあ、実際に被害が広がるかはどうかは、ロシア軍次第よね。」

「どう言う事?」

 緒美に聞き返したのは、緒美の斜め前に座って居る金子である。

「どうも何も、市街地に侵入したエイリアン・ドローンを排除する為に、ロシア軍が地上から戦車で砲撃しても、上空からミサイル攻撃しても、副次的に街が壊れるのよ。相当に上手にやらないと。 砲撃にしてもミサイルにしても、百発百中じゃないし。」

「それじゃ、さっきの映像の、倒壊したビルとか火災も、ロシア軍の攻撃の結果?」

 驚いて聞き返す恵に、緒美は苦笑いで答える。

「かもね。確証は無いけど。 そもそも、エイリアン・ドローン、『トライアングル』には、それ程、破壊力の有る兵装は無いんだし。」

 今度は、武東が問い掛ける。

「それじゃ、放置していた方が街は壊れないの?」

「時間の、スケールの問題よね。短期的に見ればエイリアン・ドローンよりも、地球の軍隊の方が破壊するスピードが速いの。仮に『トライアングル』を放置しておいたら、建物に齧(かじ)り付いて一棟ずつ、地道に解体していくらしいから。まあ、その過程でガス管や電線も無差別に囓(かじ)るから、二次的に火災が起きる場合が多いみたいだけど。 結局、最終的には、放って置いたら街は火の海、瓦礫の山になるのよ。」

「何(なん)の嫌がらせだよ、まったく…。」

 呆(あき)れた様に言って、金子は溜息を吐(つ)くのだった。
 追い打ちを掛ける様に、緒美は別の見解を述べるのだ。

「或いは、人類の軍隊を、地上の建造物を破壊するのに、意図的に利用してるのかも。人類側としてはエイリアン・ドローンを放置は出来ない訳(わけ)だから、自分達を狙わせた上で軍隊の攻撃を躱(かわ)していけば、地上は流れ弾の二次被害で、どんどん破壊されていくでしょう? それはエイリアン側の目的に重なる訳(わけ)だし。」

「うわ、ひっどい。」

 緒美の見解を聞いて、思わず声を上げたのは、武東である。
 続いて隣のテーブルからは瑠菜が、緒美に問い掛けるのだ。

「結局、エイリアンが地球を攻撃しに来る理由って、何なんでしょうか?」

「さあ? 向こうが何も声明を発表しないんだから、こっちには解らないわよね。そもそも、話し合いをする気は無さそうだし。」

 そこで瑠菜の向かい側の席から、立花先生が意外な事を言い出すのだ。

「彼方(あちら)側からすれば、別に攻撃してる積もりは無いかもよ?」

「どうしてです? 軍隊と交戦して、地上に在る街を壊してる、これは攻撃じゃないんですか?」

 瑠菜の質問に、立花先生は真顔で答える。

「エイリアン・ドローンが各国の軍隊と交戦してるのは、地球の軍の方がちょっかいを出して来るから応戦してるだけだし、建物を破壊するのは利用したい土地の区画整理でもしてる積もりかも知れないでしょ。」

「そう言う、考え方ですか~。」

 立花先生の見解には、苦笑いし乍(なが)ら隣席の樹里が感心気(げ)に声を上げたのだ。続いて恵が、隣テーブルの立花先生に確認するのだ。

「何時だったかに伺(うかが)った、『人類なんか気に留めてない説』ですね。」

 小さく頷(うなず)いた立花先生は、続けて言ったのだ。

「そうよ。 最近、益々、そう思えて来たのよね。」

 立花先生の言葉を受けて、武東が正面の金子に向かって言うのだ。

「もしも然(そ)うなら、人類にコンタクトを取って来ない事も納得よね。」

 しかし一方で金子は、納得が行かないのだ。

「でもさ、それなら五年も無駄な努力続けてる事にならない? 結局、エイリアン達が占領出来た土地って、無いんでしょ、今の所。向こうも結構な損害を出してる筈(はず)だし、もう好(い)い加減、諦(あきら)めて欲しいよね。」

 その意見には恵が、間に直美を挟(はさ)んで、笑顔で金子にコメントするのである。

「先生の見解に拠れば、時間の感覚がエイリアン達とわたし達とでは違うから、地球での五年とか意に介さないらしいし、あのエイリアン・ドローンは遠征用の使い捨て兵器だから、幾ら損耗しても、痛くも痒くも無いらしいわよ、金子さん。」

「え~、マジか~。」

 立花先生の見解を少々盛って話す恵に対し、少し大袈裟(おおげさ)に絶望的な声を返す金子である。
 一方で、直美は真面目な表情で緒美に尋(たず)ねるのだ。

「鬼塚は、どう思う?その辺り。」

「さあ?正直、解らないけど。でも、否定する材料も無いわね。 実際、段々と飛来するエイリアン・ドローンの規模は増えて来てるし、余力はまだまだ有りそうよね。それは間違いないと思う。」

 緒美の意見を聞いて、今度は立花先生に直美は問い掛ける。

「立花先生、エイリアンと時間の感覚が違うって考えてるのは、何故ですか?」

「最初に考えたのは、向こうが戦力を小出しにし過ぎるから、だけど。でも、よく考えてみて。 エイリアンの母船は、多分、何万光年も遠い所から来た筈(はず)なのよ、彼方(あちら)の本星の所在は不明だけど。仮に一万光年離れた所から来たとしましょう、だとしても光の速度でも一万年掛かるのよ?実際はもっと遠くから来てるかも知れないし。 それを考えたら、地球での五年や十年、何でもないでしょ。 多分、地球上の領土開発とか、百年とか千年の単位で計画してるんじゃないかしら。」

 向かい側の席から瑠菜が、立花先生に問う。

「SF に良く出て来る『ワープ』とか『空間転移』とか、そんな技術は無いんですかね?」

「有るかも知れないけど、それを使用した様子は観測されてないの。エイリアン母船が地球方向に接近して来るのを発見して以降、最初の三年間は、普通の天体だと思って観測してた位だし。少なくとも、その三年間には『ワープ』とか『ジャンプ』とかは、してないらしいわ。」

「へえ…。」

 瑠菜は感心して声を上げた後、今度は隣テーブルの緒美に尋(たず)ねるのだ。

「所で部長、今回のモスクワのケースが大きく取り上げられているのは、ロシアの首都だから、でしょうか?」

「それも有るとは思うけど、一つの都市へ十機以上のエイリアン・ドローンが侵攻するのは、世界的には珍しいから、じゃないかしら?」

 緒美の見解に、立花先生が冗談の様に補足をする。

「日本には、最近は二十機以上が、当たり前の様に来てるけどね。」

 微笑んで、緒美は反論するのだ。

「それは本土領空に入る前に、纏(まと)めて迎撃してるからで。エイリアン的には日本国内の複数の都市を狙っているんじゃないですか?実際、最初の頃は然(そ)うでしたし。島国ならではの、特殊なケースですよ、日本は。」

「まあ、それは然(そ)うなんだけど。徒(ただ)、貴方(あなた)達が介入する様になって、余計に飛来数が増えた気はするのよね。勿論、そうだったとしても、それは貴方(あなた)達の所為(せい)ではないけど。」

 その立花先生の見解に、緒美は少し間を置いて、言うのである。

「それで、少し思ったんですけど。ひょっとしたら今回のモスクワのケース、東西地域での迎撃能力の比較実験なんじゃないかな、って。多分、エイリアン側は国家の枠組みみたいな、人類側の都合とか理解してない気がするんですよね。」

「成る程、同じ程度の戦力を投入して、迎撃能力の地域差を計ってるって解釈ね。面白い発想ね。」

 今度は恵が、緒美に問い掛ける。

「それじゃ、迎撃能力の高いこっち側への攻撃は、今後、控(ひか)えて貰えるのかしら?」

「さあ、それはどうかしら? エイリアンの判定基準が解らないし、比較実験が一回だけって事も無いでしょうし。当面は今迄(いままで)と変わらないんじゃない?」

「あ、矢っ張り。」

 緒美の返事に、恵は苦笑いで一言を返すのみだった。それに続いて、苦苦(にがにが)しそうに瑠菜が言うのだ。

「そんな実験の為だとしても、こっち側では人が死ぬんですよ。好(い)い加減にして欲しいですよね、まったく。」

 その瑠菜の発言を最後に、一同は黙ってしまい、再度、彼女達の横方向に設置されているテレビ画面を眺(なが)めるのである。
 番組ではロシア情勢の予測を終えると、その日の日本側の迎撃作戦に就いて、簡潔に触れるのだ。勿論、天野重工が行った実証試験の事が発表される訳(わけ)もなく、防衛軍が発表した迎撃の事実のみが淡々と報告されるのである。そこには賛美の言葉も批判の意図も無く、何時も通りに中立的な数字の羅列が読み上げられるのみだった。
 それはマスコミの業界として、防衛・軍事に対する距離の取り方を工夫した結果ではあるのだが、防衛の現場を垣間見た彼女達にしてみれば、それは少し複雑な感情にさせるのだ。
 そんな時、それ迄(まで)黙って周囲の話を聞いていた佳奈が、ポツリと言うのである。

「何だかんだ、日本の防衛軍って、良くやっていますよね。」

 その佳奈の見解は、兵器開発部の一同をくすりとさせたのだった。
 すると、佳奈の向かい側に座る樹里が応じる。

「そうね。前は漠然と、外国に比べて、何(なん)だか頼りない印象だったけど。」

 続いて立花先生が、言う。

「確かに、ここ一年ぐらいは、さっき見たみたいな大きな被害は、日本の都市部には起きてないし。ここ半年に限って言えば、それに対する貴方(あなた)達の貢献も、小さくはないわ。 こんな事、茜ちゃん達には、言えないけどね。」

 その発言に対して、緒美は微笑んで言うのである。

「大丈夫ですよ、褒めてあげても。それで天狗になる様な子達じゃないですよ、三人とも。ねえ、森村ちゃん。」

「そうですよ、先生。」

 恵は緒美に同意して、視線を立花先生へと向ける。

「そうかしら。」

 立花先生は視線を天井へと向け、湯飲みを口元へと運ぶのだ。
 その様子を見て、一同はクスクスと笑ったのである。


 さて、モスクワ襲撃の一件は、結局、解決までに一晩を必要としたのであるが、その最中からロシア当局は厳しい報道規制を敷き、国外メディアからの取材依頼も、国際機関からの調査協力や復旧支援の申し出も、完全に拒否する徹底振りだったのだ。
 そして、襲撃発生の事実や被害の規模を正式に発表したのが状況終了から三日後の事で、しかも其(そ)の発表が、被害面積で十分の一、人的被害で三分の一にと、過小に発表されていた事が三年の後に発覚する事になるのである。それは体面を保つ為だったのか、迎撃能力を秘匿する為だったのか、事実は関わった政府当局者にしか解らない事なのだが、この件に関する問題はそこではない。

「我が国の首都を攻撃した者(もの)へ、我々は必ず報復する!」

 この時に発表された声明の最後で、ロシア大統領が、そう断言したのである。
 一部では、『弱腰だと批判されない為の、国内向けメッセージである』と分析されたのだが、一方では国際的な協調関係を離れて単独でエイリアンに対して何か行動を起こすのではないか、と心配もされたのだ。
 そして現実に、この一件を発端として、後に、大きく事態が動く事となるのである。

 

- 第18話・了 -

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第18話.12)

第18話・新島 直美(ニイジマ ナオミ)

**** 18-12 ****


 そして加納は、前方を飛行する F-9 改二号機に、何かを思った様に「ん?」と声を上げる。
 続いて「ああ。」と、納得した様に頷(うなず)くのだ。

「どうかしましたか?加納さん。」

 後席から直美が声を掛けると、加納は「ああ、ちょっと、ね。」と応えた後で、通信で F-9 改二号機を飛び出すのだ。

「ECM01 より、ECM02。少し流されてるけど、大丈夫ですか?」

 その呼び掛けに、慌てた様に樋口が応えるのだった。

「はい、すいません! 修正してます。」

 続いて、沢渡の声が聞こえる。

「今、ちょっと、トリムの当て方に就いて、講習をしてた所です。」

「そうですか。F-9 改(こいつ)は、横風の影響を受け易いですから。」

 加納は、笑って応じるのだった。そのコメントに、直美が付け加えて言うのだ。

「アンテナの分だけ、側面の面積が増えてますからね。」

「そう言う事です。」

 そう直美に応えて、加納は再(ふたた)び樋口に通信を送る。

「ECM02、先頭(リーダー)は成(な)る可(べ)く真っ直ぐ飛んでくださいよ。後続がビックリしますから。」

「ECM02 です。了解してます。」

 申し訳無さ気(げ)に、樋口は応えたのだった。
 そんな事も有りつつ、一行(いっこう)は天神ヶ﨑高校への帰路を進んだのである。


 そして全機が天神ヶ﨑高校に到着すると、HDG-C01、B01、AMF、F-9 改二号機、F-9 改一号機、そして随伴機を務めた社有機の順に着陸を実施したのだ。ブリジットのB号機に関しては着陸に滑走路は不要なので、クラウディアのC号機と同じタイミングで、直接、駐機場へと降り立ったのである。だから或る意味、最初に着陸したのはブリジットのB号機だったのだ。
 全機の着陸が終わり、格納庫へと戻って来た頃、時刻は午後四時を少し回っていたのである。
 HDG 各機は、格納庫に入るとB号機は飛行ユニットを専用のメンテナンス・リグに接続して本機と切り離すのだが、飛行ユニットが航空機の形態であるA号機とC号機は駐機作業を終えてから本機を切り離す。そして、それぞれが本機のメンテナンス・リグへと接続して、漸(ようや)くドライバーの接続が解除出来るのだ。
 一方で F-9 改二機は、格納庫の中まで自力で進むと、操縦席には地上から昇降用のタラップが架けられ、搭乗員はエンジンの停止作業が済めば直ぐに降りられるである。
 機上で駐機作業の終了を待っていた直美からは、F-9 改一号機の後方から天野理事長が歩いて来るのが見えた。その事を加納に告げようかとする前に、加納が直美に声を掛けたのである。

「どうぞ、新島さん。先に降りてください。」

 加納は前席で、整備担当者に渡す書類にチェックやら、サインやらを書き込んでいる。

「あ、はい。では、お先に。」

 直美は然(そ)う応えて、座席から立つと転落しない様に気を付けつつ、タラップに足を掛ける。

「お疲れさん。足元、気を付けてね。」

 タラップの脇から整備担当の平田が、直美に声を掛けたのだ。

「あ、はい。どうも。」

 直美は、そんな返事を返して床面へと降り、タラップの前から離れてヘルメットを外す。そして顔を上げると、眼前に立って居た天野理事長と目が合ってしまったので、直美は会釈をするのだった。

「ご苦労様、新島君。大層な活躍だったみたいじゃないか。」

「いえっ、わたしは大した事は…。」

 天野理事長に突然、声を掛けられて直美は恐縮しつつ、そう言葉を返したのだ。
 そこに、少し離れた場所から緒美の声が届くのだ。

「新島ちゃーん。ちょっと、いい?」

 その声を聞いて、直美は慌て気味に天野理事長に言うのである。

「すいません、鬼…部長が呼んでいるので。」

「ああ、構わんよ。行ってあげなさい。」

「失礼します。」

 直美はもう一度、小さく頭を下げてから、独(ひと)り笑いそうになるのを堪(こら)えつつ駆け足で緒美の方へと向かったのだ。
 それと同時に、加納が操縦席から降りて来るのだった。

「お疲れさん、加納君。」

 労(ねぎら)いの言葉を掛ける天野理事長に対して、タラップから降り立った加納は姿勢を正し、頭を下げて言うのだ。

「申し訳ありませんでした。生徒さんを、危険に曝(さら)してしまいました。」

 しかし天野理事長は、微笑んで言葉を返すのである。

「まあ、あの状況なら仕方無いかな。結果的に全員無事に帰って来た事だし、文句は何も無いよ。だから、気にしなくてもいい。頭を上げて呉れ、加納君。」

「そう言って頂けると、幾分、気は楽ですが。」

 顔を上げた加納は、神妙な表情ではある。
 天野理事長は加納の前に歩み寄ると、右手で向かい合った加納の左肩を横から叩き、言ったのだ。

「兎に角、無事で何よりだ。取り敢えず、装備を降ろして来なさい。又、後で話そう。」

「はい。」

 短く応えた加納に、大きく一度、頷(うなず)いて、天野理事長はその場を後にしたのである。一方で加納は、必要な書類を平田に渡して、装備を降ろす為に第二格納庫へと向かったのだった。


 さて、緒美達と合流した直美である。
 駆け足で近寄って来た直美は、何かニヤニヤとし乍(なが)ら緒美に声を掛けて来る。

「なあ~に~鬼部長~。」

「何よ、それ?」

 怪訝(けげん)な表情で聞き返す緒美だったが、直美は唯(ただ)、笑うのみで明確には答えないのだ。

「あははは~何でもない。」

 困惑顔の緒美を置いて、恵も直美に声を掛けるのである。

「取り敢えず、お疲れ様、副部長。」

「いえいえ。ともあれ、色々上手く行って、良かったわ。」

 そう応じる直美に、立花先生が言うのだ。

「まったく、加納さんが無茶な事、言い出した時は、どうなるかと肝を冷やしたけどね。」

 立花先生のコメントに苦笑いを返す直美に、緒美が問い掛ける。

「それよ。新島ちゃん、何(なん)て言って、加納さんを焚き付けたの?」

「『焚き付けた』って、人聞きが悪いなぁ。わたしは助言しただけよ、『合理的な提案なら、鬼塚は乗りますよ』って。」

 今度は恵が、不審気(げ)に聞き返すのだ。

「本当(ほんと)に?」

「本当(ほんと)、本当(ほんと)。 大体、鬼塚も同じ様な事、考えていたんでしょう?」

 直美に問われ、緒美は頷(うなず)いて言う。

「まあ、そうだけど。正直(しょうじき)、加納さんが職務に反して、冒険に乗って呉れるとは思ってなかったわ。」

「どうして? コマツ01 の人と知り合いだったの、最初の通信で分かってたでしょう?」

 不思議そうに、恵は緒美に問い掛けるのだ。緒美は、極めて真面目な顔で答える。

「そんな個人的な感情よりも、お仕事の方を優先しそうじゃない?大人なんだから。 ねえ、先生?」

 緒美から話を振られた立花先生は苦笑いで、言葉を返すのだ。

「どうしてわたしに聞くのよ、緒美ちゃん。」

「あー…いえ、何と無く。」

「わたしだって、人命と仕事を天秤に掛けられたら、そりゃあ人命の方を優先しますよ。」

 その答えを聞いて、クスクスと笑い乍(なが)ら、恵は言うのである。

「だから、天野さんが無茶やった時、怒ってたんですものね~。」

「そう言う事よ。 徒(ただ)、今回の場合(ケース)はね、防衛軍の人を助ける為に民間の未成年者を巻き込んだって一点で、どうかとは思うのだけれど…。」

 立花先生が途中まで言った所で、直美は自分を指して尋(たず)ねる。

「『民間の未成年者』って、わたし?」

 それには緒美が、直様(すぐさま)、言葉を返す。

「他に誰が居るのよ? あと、天野さんの事も、当てにしてたしね。」

 続いて立花先生が、発言を続けるのだ。

「…うん。とは言え、F-9 が不利なのを承知で盾の様に使う指揮管制の命令も、ね。まあ、救援は向かっていた訳(わけ)だけど…勿論、防衛軍の立場も理解は出来るけれど、それでも、F-9 のパイロットも人には変わりない訳(わけ)だし。」

「難しい所ですよね。」

 恵は立花先生が煩悶(はんもん)する様子に同情的なコメントを送るのだが、直美の方(ほう)は気楽な調子で結論を付けるのである。

「まあ、結果オーライって事で、いいじゃないですか。 それよりも、天野を当てにしてたにしても、結果、四機中の三機を加納さんが、あの F-9 改で撃墜したんだから、凄いじゃない?」

 その、直美の見解には、半(なか)ば呆(あき)れた様に緒美は同意するのだ。

「それに就いては、異論は無いわね。」

「鬼塚は、そこ迄(まで)、想定してたの?」

「まさか。 ECM01 の投入は、飽く迄(まで)、牽制(けんせい)が目的よ。距離を取って注意を引いて、防衛軍の救援が有効射程に入るか、AMF が戻って来る迄(まで)の時間稼ぎ。 中射程空対空ミサイルで二機撃墜ぐらい迄(まで)は、まあ、『上手く行けば』って考えもしたけど、距離が詰まってからの短射程空対空ミサイルの辺りは、もう、ね。」

「そうなんだー。」

 緒美の説明に、唯(ただ)、感心した様に恵が声を上げるのだった。それに続いて、直美が言う。

「まあ、加納さんも勝算が有っての事だから。もしもの場合にはアンテナを投棄する準備まで、やってたんだけどさ。」

「まあ、そうでしょうね。」

 緒美は微笑んで、一言を返したのである。

「高価な装備なんだから、そんな事態にならずに済んで良かったわ。」

 この立花先生のコメントは、半分、冗談である。それが分かっているから、直美は笑って言葉を返すのだ。

「あはは、先生なら然(そ)う言って呉れると思ってました~。」

 そして緒美と恵も、直美に釣られる様に笑うのだった。
 そんな中、思い出した様に直美が声を上げるのだ。

「あ、それで。そもそも何(なん)の用だったの?鬼塚。」

「え?」

「さっき、呼んでたでしょ。」

「ああ…。」

 急に問い掛けられて驚いた表情から一転し、緒美はくすりと笑い、答える。

「…その件なら、もう済んだわ。 デブリーフィングの前に、どうして加納さんが、あの局面で協力して呉れたのか、それを確認しておきたかったのよ。」

「ああ、そう言う事。」

「取り敢えず、デブリーフィングの前に着替えていらっしゃい、直美ちゃんも。」

 一段落が着いた所で、立花先生は直美に然(そ)う促(うなが)すのだ。F-9 改から降りたばかりの直美は、当然、戦闘機搭乗用に飛行服を着ていて、座席に接続する為のハーネスも着用しているし、ヘルメットも抱えた儘(まま)である。
 直美は周囲を見回して、恵に尋(たず)ねる。

「天野達は?」

「今(いま)し方(がた)、上がって行ったわよ。三人とも。」

「そう。それじゃ、着替えて来ますか。」

 そして直美は、二階通路に上がる階段へと、駆け足で向かったのである。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。