WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第20話.10)

第20話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)と森村 恵(モリムラ メグミ)

**** 20-10 ****


 緒美は間を置かず、答えた。

「予備の燃料を全部使っても、あと四十五分が限界です。四十五分後には、ECM02 と HDG02、03 が再進出して来る予定ですが、その前に、三十分後には HDG01 及び ECM01 は帰投させます。」

「了解。御協力に感謝します。」

 空防の迎撃隊運用が、結果的に綱渡り状態になってしまった事を桜井一佐は敢えて説明はしなかったが、当然の様に緒美は気付いていたし、元空防所属だった ECM01 である加納も事情を承知していた。そして HDG01 である茜も、何と無く状況を察していたのだ。
 ここで、作戦空域に四十五分留まれるのに、三十分で帰投させると緒美が答えたのは、帰りの燃料を確保した上で更に十五分の余裕を見込んだからである。岩国基地上空で燃料切れになっては、安全に着陸が行えないのだ。
 そして桜井一佐の謝意を聞いた緒美は、少し俯(うつむ)き、右手の人差し指で眉間を押さえ、目を閉じて数秒の程の間、考え込んでいた。緒美が其(そ)の仕草をするのは、深刻な思考をする時だと知っている恵は声を掛ける。

「部長、何か心配事?」

 緒美は掛けていたヘッド・セットを外し、そして声を返す。

「そうね…。」

 そこでくるりと振り向くと、緒美は少し離れた場所に設置されたモニターで様子を見ていた天野理事長の姿を探すのだった。監視用モニターの側に居るのは天野理事長の他には立花先生や、社有機整備担当の三名と F-9 改の整備担当として本社から派遣されて来ている三名である。

「理事長、ADF を出しますので、許可を願います。」

「緒美ちゃん…。」

 そう声を上げた立花先生を左手を挙げて見せて押し止め、天野理事長は三歩ほど前へ進むと緒美に向かって問い掛けるのだ。

「先刻の、桜井さん…Γ1(ガンマ・ワン)との会話で状況の察しは付くが、どうしても ADF が必要になるのかね?」

「それは、正直(しょうじき)、分かりません。唯(ただ)、最悪のケースを想定すると。」

「最悪の場合、どうなる?」

「詳しく説明している時間はありませんが、予測の結論だけを言いますと、天野さんの AMF は三十機ほどのトライアングルに対処しなければならなくなります。防衛軍が、この後の迎撃隊の編成に失敗した場合ですけど。」

「そうなる前に、HDG01 と ECM01 は帰還させるのだろう?」

 現時点ではエイリアン・ドローン群が ADIZ に到達する迄(まで)に約三十分、その頃には茜達の作戦空域での在空時間は切れる筈(はず)なのだ。その天野理事長の問い掛けに、一呼吸を置いて、緒美は答える。

「素直に帰還すると思います?そうなった時に、天野さんが。」

 苦笑いの後で、大きな溜息を漏らす天野理事長だった。
 エイリアン・ドローン群が ADIZ を越えて侵入して来るタイミングで、必要とされる数の迎撃機が作戦空域に揃(そろ)ってなかった場合、それは九州上空へのエイリアン・ドローン群の侵入を許す事に繋(つな)がるのである。

「ADF は無人で行かせるのかね?」

 天野理事長の問いに、始終、緒美は真面目な表情で答えるのだ。

「わたしが行きます。 99%は Ruby の操縦(コントロール)になりますが、1%位(くらい)は現場での判断が必要となる局面は有るかと。 会社の御都合では Ruby と ADF を、このタイミングで出したくなのだろうとは予想してますが。」

 少し厳しい表情で、天野理事長は声を返した。

「お察しの通りだが、キミの事も、この局面で送り出したくはないのだがな。」

「あまり、口論している時間は有りません。許可は頂けませんか?」

 珍しく、緒美は強い口調で訴えるのだった。
 天野理事長はニヤリと笑って、問い掛ける。

「わたしが許可しなかったら、諦(あきら)めて呉れるのかな?」

 緒美もニヤリと笑って、答える。

「その時は、実力行使を。」

 その返答に対して、天野理事長が応えないので三秒ほどして、緒美は声を上げるのだった。

Ruby! ADF の起動準備を。」

 即座に Ruby の合成音音声が格納庫内に響いた。

「わたしの権限で出来る範囲のシステム・チェックは完了しています。エンジンを起動(スタート)して宜しいですか?」

 それに反応したのは、樹里と緒美の中間辺りに立って居た直美だった。慌てて、声を上げたのだ。

「ちょっと待ちなさい、Ruby。そこでエンジン噴かしたら、壁が焦げるから!」

 ADF のエンジンノズルの直ぐ前には、格納庫の壁が存在するのである。

「了解。起動準備で待機します。」

 そう、Ruby が素直に返事をすると、一度息を吐(つ)いてから天野理事長が言うのだ。

「分かった、分かった。取り敢えず、許可はしよう。但し、ADF の運用は狙撃に徹して、格闘戦には入らないように。それでいいかな?鬼塚君。」

 緒美は小さく頭を下げて、顔を上げてから声を返す。

「結構です。そもそも、天野さん程の度胸は有りませんので。」

 そう言って、くすりと笑う緒美に対して、天野理事長は苦笑いをして見せるのだった。

「いや、キミもなかなかに度胸の有る方(ほう)だと思うよ、鬼塚君?」

「そうでしょうか?」

 何時(いつ)もの真面目な顔で緒美が応えるので、天野理事長は一度、頭を左右に振ってから伝えるのだ。

「ともあれ、時間が無いのだろう? 飯田君の方(ほう)へは、わたしから言っておくから。」

「お手数を、お掛けします。」

 もう一度、小さく頭を下げる緒美なのだ。

「では、わたしは支度をして来ますので。」

 緒美は身体の向きを変えると、手近な部員達へ指示を伝える。

「それじゃ新島ちゃん、城ノ内さん、暫(しばら)く此処(ここ)をお願い。森村ちゃんは着替えるの手伝ってね。」

 そう言い残して、緒美はインナー・スーツへと着替える為に、早足で格納庫東側二階の部室へと向かって歩き出すのだ。
 それを追って恵が踏み出そうとした瞬間、恵の左腕を掴(つか)んだ直美が、恵をぐいと引き寄せるのだった。
 驚いて振り向いた恵に、顔を近付けて小さな声で直美は問い掛けるのだ。

「いいの?森村は。」

 一瞬、顔を曇らせて、恵は言葉を返す。

「いいも悪いも、もう理事長が許可しちゃったじゃない。今更(いまさら)、何を言っても無駄でしょ?」

 直美は苦い表情を見せ、息を吐(つ)いて掴(つか)んでいた手を離す。

「まあ、それもそうか。」

「気を遣って呉れた事には、感謝してるわ。」

 そして恵は、駆け足で緒美の後を追ったのである。
 一方で、直美は少し大きな声で部員達へ呼び掛ける。

「瑠菜、古寺、0(ゼロ)号機、起動するよー。」

「はーい。」

 後方で状況を見乍(なが)ら待機していた、瑠菜と佳奈、そして維月も立ち上がり、メンテナンス・リグに接続されている HDG-O へと歩き出す。そこで、立花先生が瑠菜を呼び止めるのだ。

「そう言えば、瑠菜ちゃん。ADF に燃料って、入っているの?」

「あー…」

 立ち止まった瑠菜が答えようとした時、立花先生の背後から、社有機整備担当の藤元が先に答えたのである。

「部長さんから、念の為にって補給を依頼されていたので、昨日の内に入れてありますよ。」

「です。」

 瑠菜は最後の一言を添えた後、小走りで HDG-O へと向かったのだった。
 そんな遣り取りを聞いていた、天野理事長が笑って言うのだ。

「はっはっは、どこまで読んでいたんだろうね、鬼塚君は。」

「まあ、読んでいたって言うよりは、可能な限りの行動オプションを用意していただけで、こうなると予測してた訳(わけ)じゃないとは思いますけれど。」

 苦笑いで、立花先生はコメントを続ける。

「…しかし、司令部に桜井一佐が居て、こんな状況になるとは。もう少し、頼りになる方(かた)だと思ってましたけど。」

「桜井さんは『Γ1(ガンマ・ワン)』だろう? と言う事は、他に『Α1(アルファ・ワン)』と『Β1(ベータ・ワン)』が居る筈(はず)だ。多分、『Α1(アルファ・ワン)』が空防の迎撃隊の指揮管制担当で、『Β1(ベータ・ワン)』が海防のイージス艦試験艦の指揮管制を担当しているんだと思う。」

「と、言う事は、今の状況は『Α1(アルファ・ワン)』の失態、と言う事でしょうか?」

「或いは、更に其(そ)の上に盆暗(ぼんくら)が居るのか、だな。まあ、防衛軍の弁護をすれば、今回はミサイルの在庫を酷(ひど)く気にしていた様子だから、その辺りの関係で運用方針が変化したのが影響したのだろう。だから許されるって話じゃないけどね。」

「全(まった)くです。」

「ともあれ、鬼塚君の現場行きが無駄足になる事を、今は願っているよ。」

 天野理事長は、そう言って懐(ふところ)から携帯端末を取り出すと、パネルを操作して岩国基地に詰めている飯田部長を呼び出すのである。
 その背後では、藤元らの社有機整備担当メンバー三名と、F-9 改の整備担当の三名が ADF を駐機エリアへと移動させる可(べ)く動き出していた。

 それから凡(およ)そ十分程が経過すると、緒美は HDG のインナー・スーツに着替えて格納庫フロアへと降りて来たのである。
 HDG-O と ADF の両機とも、既にシステムは起動して接続待機状態となっている。
 臨時指揮所まで来ると、緒美は樹里と直美に問い掛けるのだ。

「状況に変化は?」

「特には。」

 そう短く答えた樹里が、続ける。

「防衛軍側、Γ1(ガンマ・ワン)へは飯田部長から話が通ってます。コールサインは HDG04 で登録されいますので。」

「了解、ありがとう。」

 続いて、直美が説明する。

「飛行経路とか高度とか、超特急で計画(プラン)をでっち上げたから、問題があったら飛び乍(なが)ら修正をリクエストしてって。緊急時だから大目に見て呉れるだろうってさ、Γ1(ガンマ・ワン)が。計画(プラン)の詳細は Ruby に渡してあるから、そっちで確認して。」

「了解、桜井さんには足を向けて寝られないわね。」

 そう言ってくすりと笑った後、緒美は続けて言った。

「それじゃ城ノ内さん、新島ちゃん、こっちはお願いね。必要が有れば、データ・リンクで此方(こちら)からも指示は出すけど。」

「お願いします。」

 真面目な顔で樹里がそう言った一方で、直美は微笑んで言うのだ。

Ruby が付いているから心配はしてないけど、気を付けて行ってらっしゃい。 まあ、案外、防衛軍が残りを全部片付けて、現地に行っても何もする事が無いかもだけど。」

「正直(しょうじき)、それを願ってるわ。」

 緒美も笑顔で、直美には然(そ)う応じて、それから振り向いて恵にも声を掛ける。

「じゃ、森村ちゃんも、こっちは任せたから。」

「任されても、わたしに出来る事は、あまり無いけど。無理はしないでね、緒美ちゃん。」

 力(ちから)無く微笑む恵の頬へと右手を伸ばし、緒美は言った。

「大丈夫よ、それ程、自惚(うぬぼ)れてはいない積もりだから。」

 二人は互いにくすりと笑い、そして緒美は身体の向きを変えて、天野理事長と立花先生に声を掛ける。

「それでは、行って参ります。」

 天野理事長は一度、頷(うなず)いて声を返した。

「申し訳無いが、茜と加納君を、頼む。」

 続いて立花先生も言うのだ。

「必ず、帰って来なさい、いいわね。」

「勿論ですよ、先生。」

 緒美は笑顔で然(そ)う応えて、彼女の接続を待つ HDG-O へと向かったのである。

 その後、緒美は自身を HDG-O に接続し、HDG と一体となってメンテナンス・リグから降ろされると、今度は駐機エリアに引き出されている ADF へと移動して HDG-O を接続し、ADF のエンジンを始動した。そして其(そ)の儘(まま)、Ruby の操縦(コントロール)で ADF は滑走路へと進み、一気に離陸して行ったのだった。
 ADF が進空した時点で、桜井一佐から HDG01 の滞空時間を訊(き)かれてより、約二十分が経過していた。つまり、エイリアン・ドローン群が ADIZ に到達する迄(まで)の残り時間は約十分であり、それは茜の HDG01 が作戦空域に留まれる残り時間として緒美が指示した時間でもあったのだ。
 単純計算ならば、天神ヶ崎高校上空から ADF の最高速度で一直線に飛行すれば、十分足らずで現地に到着する事も可能になるのだが、実際には加速と減速の時間が必要で、それらを含めると到着までには倍の二十分は見込まなければならない。
 その二十分間に、状況が緒美の想定した最悪に近付くのか、或いは離れて行くのか、それを制御する術(すべ)を緒美は持ってはいない。緒美には、現地へ向かって只管(ひたすら)に飛行を続ける中で、戦術情報を監視して状況の推移を把握しておく事しか出来ないのである。

 

- to be continued …-

 

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