WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第12話.11)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-11 ****


「どうしたんです?それ。」

 続いて、瑠菜が問い掛けて来るので、恵が答える。

「立花先生が手配して呉れてたのよ、リースとか、本社工場の余剰品だって。」

「へえ~、今日も昼前から暑くなりそうだし、助かりますね。」

 そう言って、維月は笑っている。そこで茜が、ふと思った疑問に就いて、恵に訊(き)いてみるのだった。

「そう言えば、恵さん。去年迄(まで)は、どうされてたんです?夏の間。」

「ああー、去年迄(まで)はね、図面と仕様書の作業が中心だったから、格納庫(こっち)での作業は殆(ほとん)ど無かったのよ。特に夏の間には。」

 恵の説明を受けて、直美が口を挟(はさ)む。

「LMF がここに運ばれて来たのが、去年の前期中間試験のあとだっけ? それから、Ruby を LMF に搭載する作業が有ったけど、あの時は、六月の終わり頃だったけど、そんなに暑かった記憶は無いものね。」

 直美の発言を受けて、瑠菜が思い出した様に言った。

「どっちかって言うと、今年の二月に HDG や LMF のプラズマ砲を搬入した時とかの、寒かった印象の方が強いですよね、格納庫(ここ)には。」

「そうね。LMF の動作確認とか、副部長が試運転とかしてたのは、去年の夏休みに入ってからだったけど。あれは格納庫の外での作業だったから、ここの中での記憶って言うか、印象じゃないのよね。」

 何やら染み染みと語る恵に「へぇ~」と感心している茜だったが、その一方で維月が樹里に尋(たず)ねる。

「所で樹里ちゃん、昨夜の Ruby の成績は?」

「ああ、凄い急成長よ。最後の最後に二連勝してるの。」

 樹里の返事を聞き、維月と瑠菜は「おぉ」と感心の声を発し、佳奈は拍手をして声を上げた。

Ruby、おめでと~。」

「ありがとうございます、佳奈。」

 Ruby が、素直に返事をすると、続いて、今度は直美が声を上げる。

「よ~し、Ruby。今日の午前中の分、始めるわよ。キャノピー開けて。」

「分かりました、直美。 キャノピーを開きます。」

 ブリジットと同じく、学校指定のジャージを着ていた直美は、腕まくりしていたジャージのジャケットを脱ぐと、モニターが設定されている長机の上に置き、駆け足で LMF のコックピット・ブロックへと向かった。

「副部長、やる気満満ね~。」

 そう言い乍(なが)ら、恵は直美が脱いで行ったジャージのジャケットを、手早く折り畳むのである。その一方で、緒美や樹里達はシミュレーターのモニター器機の準備を始めた。佳奈と瑠菜、そして茜とブリジットは、立花先生が手配したスポット・クーラーと大型扇風機を配置して、電源配線の接続、動作確認を行ったのである。

 その後、午前中に直美とブリジットが交代で、それぞれが一時間、昼休憩を挟(はさ)んで午後からは、それぞれが二時間の仮想戦を行い、直美の操縦で LMF が六勝、ブリジットが五勝と言うのが、その日の成績である。因(ちな)みに、仮想戦の回数は、午前午後合わせて直美が三十二回、ブリジットが二十九回だった。
 残念乍(なが)ら、直美の目指した、二人それぞれが十勝ずつとの目標には、結果としては届かなかったのだが。それでも、Ruby に因るロボット・アームの制御や、攻撃時の位置取りなどが明らかに改善されていたのは、直美が午前中に行った、その日最初の仮想戦で既に、誰の目にも明らかだったのである。
 午前中に前園先生に釘を刺された事も有り、その日の活動は午後五時過ぎには切り上げ、緒美達は格納庫から引き上げる事にした。勿論、Ruby が前日と同様に、自律制御モードで翌朝まで仮想戦を繰り返したのは、言う迄(まで)もない。
 こうして、暦(こよみ)は八月に突入しても、直美とブリジット、そして Ruby はシミュレーターでの仮想戦を繰り返し、格闘戦の動作データを積み上げていったのである。
 当初の単純な状況設定での勝率が八割に達する迄(まで)に、三日が経過した。そのあとは仮想敵の数を増やしたり、フィールドに起伏や障害物を追加したりと、条件設定を変更して、更に仮想戦を繰り返したのである。


 そして、更に四日が過ぎて、2072年8月7日、日曜日。それは以前、緒美がエイリアン・ドローンに因る襲撃を予測した、その日である。
 「三日位(くらい)、前後するかも。」と、緒美が言っていた事も有り、この二日前から、兵器開発部の一同は避難指示の発令や、一般の報道等にも注意を傾けつつ格納庫内での LMF 仮想戦を続けていた。だが結局、予想当日の夕方、午後六時を回っても、エイリアン・ドローンに因る襲撃が報じられる事は無かった。

「この時間になっても、特に報道が無いって事は、今日も、もう来そうにないね。」

 そう口にしたのは、維月である。その発言に、デバッグ用コンソールのディスプレイを眺(なが)め乍(なが)ら、樹里が応える。

「まぁ、来ないに越した事は無いんだけどね。」

「何か、情報は上がってる?」

 維月は、長机の右端、樹里の隣の席で、自分のモバイル PC を開いているクラウディアの後ろから、ディスプレイを覗(のぞ)き込みつつ、クラウディアに声を掛けた。そのクラウディアは、PC を操作する手を止めず、答える。

「いいえ~平和な物です。」

 クラウディアは勿論、ハッキングではなく、普通にネットに上がって来るニュースを検索している。
 そんな情報処理科組の遣り取りを聞いて、直美は緒美に言うのだった。

「流石の鬼塚の読みも、今回は外れたかな~。」

 緒美は微笑んで、言葉を返す。

「こう言う予想は、外れて呉れた方が嬉しいわ。」

 その言葉に対して、樹里がコメントする。

「でも、三日位(ぐらい)は前後するんでしょう?部長。 まだ、油断は出来ないのではないかと。」

「まぁ、そうだけど。取り敢えず、今日でなくて、良かったじゃない?ねぇ、井上さん。」

「あはは、まあ、そうですね~。」

 維月は緒美に話を振られると、明るく笑って答えた。コンソールに向かっている樹里も、クスクスと笑っている。
 それから間も無く、ブリジットが行っていた仮想戦が LMF の勝利判定で終了した。四機の仮想敵からの攻撃を、障害物や地形の起伏を利用し乍(なが)ら回避しつつ、一機ずつ格闘戦で倒していくと言う、当初に比べれば可成り複雑なシミュレーションとなっていたが、それでも何とかクリアーする事が出来る様になっていたのである。

「お疲れ様、ボードレールさん。今日はここ迄(まで)にしましょう。降りてらっしゃい。」

「はい、部長。」

 緒美がヘッド・セットのマイクに向かって、今日の活動の終了を伝えると、ブリジットからの返事は、直ぐに返って来た。
 コックピット・ブロックのキャノピーが開き、ブリジットが降りて来ると、茜が声を掛けるのだ。

「お疲れ~ブリジット。」

「最後の、どうだった?茜。」

「わたしからは、もう、特に言う事は無いわ~。」

「じゃ、免許皆伝って所かしら?」

「あはは、かもね。」

 そう言って茜が笑っていると、直美が口を挟(はさ)んで来る。

「甘いよ、天野。ブリジットは、もうちょっと手早く、相手を倒せる様になった方がいいんじゃない?」

 それには、茜が意見するのだった。

「いいえ、副部長のは、突っ込みが強引過ぎます。」

「ええ~っ、そうかななぁ…。躱(かわ)せてるんだから、いいんじゃない?」

「三回に一回位(ぐらい)は、躱(かわ)せてないじゃないですか。リスキー過ぎですよ、アレ。」

 そこに、樹里が参加して来る。

「まぁ、新島先輩のそのリスキーな戦法も、Ruby には貴重な行動データになってるから、シミュレーターでやってる分には、いいんじゃない?天野さん。」

「そうそう、敢えて、なのよ。」

 樹里の弁護を受けて、直美が弁明すると、透(す)かさず緒美が楽し気(げ)に声を上げた。

「嘘(うっそ)だ~。」

 苦笑いする直美を余所(よそ)に、緒美は正面を見た儘(まま)、Ruby に指示を出す。

Ruby、昨日と同じで、明日の朝八時迄(まで)、自律制御でのシミュレーター実行を許可します。今夜も頑張ってね。」

「ハイ、ありがとうございます、緒美。自律制御モードにて、シミュレーターを起動します。」

 Ruby が、そう返事をすると、コンソールの操作を終えた樹里が、Ruby に声を掛ける。

「こっち側で勝手にロガーを走らせてるけど、もしも途中でロガーが止まっても気にしないでいいからね、Ruby。」

「ハイ、承知しています、樹里。」

 そして、緒美がその場に居た、全員に声を掛けるのだった。

「それじゃ、片付けが済んだら、皆(みんな)、上がりましょうか。」

 そこで、ふと、ブリジットが気付き、茜に尋(たず)ねる。

「あれ?そう言えば、恵先輩と立花先生…あと佳奈さんも、姿が見えないけど。」

「ああ…そう言えば。」

 二人の遣り取りを聞いて、瑠菜も不審気(げ)に言う。

「わたしも気が付いたのは一時間ほど前だけど、どこ行ったのかしら?」

 一同は二階通路へ上がる階段に向かって歩いていたが、瑠菜の発言を聞いた維月がぎこちなく笑って言うのだった。

「あ~ははは、大丈夫、大丈夫。心配無い、無い。」

「何よ、維月。あなた、何か知ってそうな態度ね。」

「え?あ~うん、まぁ、直ぐに解るから~。」

 そんな遣り取りを聞いて、緒美と樹里はクスクスと笑っている。一方で、直美とクラウディアの二人は、過度に無関心を装っている様子に見えて、茜とブリジットは無言で顔を見合わせるのだった。
 そして、一同が部室に戻ると、そこに立花先生と恵、そして佳奈の三人が居た。部室中央の長机には、ケーキや飲み物、軽食類が並べられており、それを見た瑠菜は直ちに、その状況を察したのである。そう、その日は、瑠菜の誕生日だったのだ。

「♪ハッピーバースデー、トゥーユー♪」

 維月がバースデーソングを歌い出すと、他の者達も声を合わせて歌い出すのだが、瑠菜と同様に、事前にこの事を知らされていなかった茜とブリジットの二人は、戸惑いつつも、皆と調子を合わせるのだった。

「♪ハッピーバースデー、ディア、瑠菜~♪ハッピーバースデー、トゥーユー♪」

 瑠菜へ向けてのバースデーソングが終わると、直様(すぐさま)、「ハッピーバース、トゥーユー♪」と、バースデーソングの二巡目が始まる。状況が飲み込めない、瑠菜と茜、そしてブリジットの三人は、唯(ただ)、戸惑っていた。


 

- to be continued …-

 

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