WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第20話.06)

第20話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)と森村 恵(モリムラ メグミ)

**** 20-06 ****


「その言い方は、誤解を招きますよ?桜井一佐。」

 苦笑いしつつ立花先生が、桜井一佐に声を掛けたのだ。
 桜井一佐は微笑んで立花先生へ視線を送り、正面へ視線を戻して言い直す。

「そうですね、今回の作戦に投入するミサイルが足りない、と言う訳(わけ)では、勿論ありません。」

「えーと…どう言う事ですか?」

 そう、素直に聞き返すのは直美である。その問い掛けに、即座に声を上げたのは緒美なのだ。

「今回の作戦にミサイルを使ってしまうと、必要な備蓄が足りなくなるって、そう言うお話でしょうか?」

「流石に、鬼塚さんは察しがいいわね。」

 緒美の発言に応えた桜井一佐は、微笑んで頷(うなず)いて見せるのだ。
 そこで緒美の背後から、恵が声を掛ける。

「備蓄?が、問題なの?」

 その声で恵の方に目を遣った茜は、スッと席を立って言うのだ。

「あ、恵さん。わたしが…。」

「ありがとう、お願いするわ、天野さん。」

 茜は瑠菜の背後を抜けて恵の方へと歩み寄ると、恵が右手に持っていた紅茶のカップが乗せられたトレイを受け取るのだ。その紅茶は来客である三名、詰まり桜井一佐、天野理事長、そして塚元校長の為に淹(い)れられたものである。
 恵がトレイを持って来客達が座って居る部室入口側へ回るには、聊(いささ)か通る経路が窮屈であり、その中間位置に座って居た茜がトレイを受け取りに行ったのである。
 茜の両隣に座って居た瑠菜とブリジットは、一度、席を立って通り道を空け、そして茜は桜井一佐、塚元校長、天野理事長の順で、紅茶の入ったカップを置いて行く。一方で席を立った瑠菜とブリジットは、恵と手分けして他の部員達にカップを配ったのである。

「あら、いい香りね。それじゃ、いただきますね。」

 桜井一佐は一口、紅茶を飲んでカップを机へと戻すのだ。それから、話を戻すのである。

「それで、備蓄の話、だったかしら?」

 そう切り出す桜井一佐に、直美がニヤリとし乍(なが)ら問い掛けるのだ。

「因(ちな)みに『備蓄』って、どの位(くらい)、必要なんです?桜井さん。」

 それには桜井一佐もニヤリと笑い返して、応えるのだ。

「具体的な数や量は、それこそ防衛政策上の重要機密ですから答えられませんけど。常に一定量のストックが無いとマズい事は、解るわよね?」

「それは極端な話、戦闘機が何百機、揃(そろ)ってたとしても、ミサイルが一発も無ければ、戦闘機は役に立ちませんから。」

「そう。それはミサイルに限った話しではなくて、燃料にしても交換部品にしても、搭乗員や整備員、後方の事務担当まで、全部が揃(そろ)ってないと防衛力は維持、発揮が出来ないの。まあ、今回はミサイルに限った話だけど。」

 そこで緒美の後ろに立った儘(まま)の恵が、桜井一佐に問い掛けるのである。

「その備蓄が必要なのは、エイリアン・ドローンの襲撃が今後も、何時(いつ)起きるか分からないから、ですか?」

「勿論、それもあるけれど。防衛軍はエイリアン・ドローンだけを相手にしている訳(わけ)ではないの。 知ってるとは思うけど、日本に対する敵視政策を続けている国が近隣に二つも有って、極東でのロシアの動きには今でも不審な事例が見られるわ。」

 桜井一佐の説明に続いて、茜が尋(たず)ねる。

「今のロシア政府は、西欧との融和政策を取っているのでは?」

 その質問には、天野理事長が答えるのだ。

「ロシアの現政権、今の大統領の意思は信用に値するとは思う、だが、旧来の対立思考や強硬路線を捨てられない政治家や軍人が、まだ少なからず存在している、と言う話だ。そう言う人物の全員が退場しても、政治や社会の思想が入れ替わるのには、順調に行っても、あと五十年は必要だろうな。」

「そう言った人達が、首都(モスクワ)から遠い極東に集まって現政権の転覆を目論んでいる、なんて見立ても有ると聞いていますから、何にしても油断はしないのに越した事は無いでしょう。」

 天野理事長に続いて桜井一佐は、そう言った後でカップに残っていた紅茶を、ぐいと飲み干し、そして言うのだ。

「ともあれ此方(こちら)としては、防衛態勢に僅(わず)かな綻(ほころ)びでも、見せる訳(わけ)にはいかないのです。隙(すき)を見せた結果として、向こうに変な気を起こさせては、あとが厄介ですし、お互いに不幸な事ですからね。」

 そこで緒美が右手を肩程に上げ、そして発言する。

「それで、そもそもミサイルが不足しそうになっている原因、それは矢っ張り、エイリアン・ドローンの飛来数が、ですか?」

「ええ、そうよ。」

 桜井一佐は大きく頷(うなず)いて見せ、言葉を続ける。

「防衛軍、防衛省も政府のお役所の一つだから、基本的には年度初めに決定される予算に基づいて活動してるのだけれど。当然、ミサイルの購入数も、その予算で枠が決定されるわ。その予算は、昨年度の実績をベースに今年度に必要になるであろう数量を予測して決定される訳(わけ)だけど…。」

「今年は、予測よりもエイリアン・ドローンの飛来数が多かった、と?」

 先回りして発言した緒美に続いて、恵が呆(あき)れた様に言うのだ。

「それで年度末が近くなって、予算が足りなくなったんですか?」

 それには流石の桜井一佐も苦笑いを浮かべ、反論するのである。

「予測よりも、実際の方が多かったのは事実だけど。だからと言って、目前(もくぜん)の防衛行動に必要な装備品を購入する予算が組めない、なんて事は無いわよ。見通しが立った時点で其(そ)の都度、備蓄に不足が起きないように追加の発注は掛けているのだし。 徒(ただ)、今年は以前よりも飛来の間隔が短い上に、一回当たりの飛来数も増加が激しくてね。」

「まあ、発注したからって三日や四日で納入される様な、そんな品物でもないでしょうし。」

 溜息混じりに緒美が言うので、苦笑いし乍(なが)ら天野理事長が桜井一佐に向かって言うのだ。

「あれで、なかなかの精密器機ですからな。国内の製造担当各社も、現状で受注残を熟(こな)すのに一杯一杯だと、聞いていますよ。」

「それでも、調達する算段は付いているんでしょう?」

 塚元校長に然(そ)う尋(たず)ねられ、一度、息を吐(は)いて、桜井一佐は答える。

「まあ、一応。在日米軍の在庫を供与して貰うとか、米軍向けの発注の一部を振り向けて貰うとか。 米軍も、それ程、余裕が有るって訳(わけ)でもないらしいのですが、こう言う時の為の同盟関係ですから。」

「米軍から、ですか?」

 少し意外そうに、直美が聞き返した。

「戦闘機は完全国産化しましたが、搭載兵装の半数に敢えて米英製を採用して共通性を確保しているのは、こんな時の為です。別に、同盟国に対する『お付き合い』だけで、ミサイルとかを米国や英国から購入している訳(わけ)じゃ無いのよ。」

「へえ。」

 直美は一言、気の抜けた様な、感心した様な声を返すのだった。
 それに対して天野理事長が、追加の説明をする。

「それに、機械である以上、製造不良や設計ミスでリコールが掛かる危険性は常に有る。同じ製品で統一してあると、そう言った時に一度に全部が使用不可になる。詰まり、防衛力が一気にゼロだ。」

 脅かす様な天野理事長の解説に、緒美の後ろに立った儘(まま)の恵が一言を返すのだ。

「それは怖いですね。」

 今度は桜井一佐が、苦笑いで言うのである。

「なかなか、そう言った事が理解されなくて。装備品は国産で統一する可(べ)きだ派と、国産はコスト高だから全て輸入にしろ派って、両極端な派閥が今(いま)だに居てね、何時(いつ)も色々と面倒臭(めんどうくさ)いのよ。」

「あはは、お察しします。」

 笑って労(ねぎら)いの言葉を贈る恵であるが、そんな彼女に立花先生が声を掛けるのだ。

「それはそうと、恵ちゃん。そろそろ、座ったら?何時(いつ)までも立ってないで。」

 立花先生の発言を受けて、樹里が一つの空席を挟(はさ)んで座って居る維月に、手招きをしてみせるのだ。

「ああ、ゴメン。気が付かなくて。」

 そう言って維月が樹里の隣の席へと移ると、続いて維月の隣だったクラウディアが、維月が居た席へと移るのだった。
 クラウディアの隣に居たのが畑中だったのだが、畑中に対しても立花先生は無言で手招きをして見せる。

「あー、俺もですか。」

 畑中が席を移ると、緒美の右隣の席が、一つ空くのだ。

「あ、なんだか、すいません。」

 そう言いつつ、恵は緒美の隣の席にと着く。
 そんな一方で、桜井一佐が発言するのだ。

「さて、話題が少々、回り道したけれど。そう言った事情を鑑(かんが)みて、天野重工さんには、次の迎撃作戦で積極的な、AMF からのレーザー砲狙撃をお願いしたいの。」

「成(な)る可(べ)くミサイルを節約したい、と。」

 少し意地悪に、茜が確認するのだが、それは意に介さない様子で桜井一佐はキッパリと答える。

「そう言う事。 今回は海防も、イージス艦に加えてレーザー砲とレールガンの搭載実験艦を、参加させる方針なの。」

「九月の終わり頃に一度、試験的に投入してましたよね? 実戦投入が出来る段階(レベル)に、開発が進行したのでしょうか?」

 興味津々と言った体(てい)で、立花先生が食い付いて来るのだ。しかし桜井一佐は微笑んで、話を天野理事長に振り直すのである。

「さあ、わたしは空防の所属ですので、詳しい事は知りませんが。海防の担当者は、自信満々だったそうですよ。 その辺りの事情は、わたしどもよりも会長さん達の方が、お詳しいのではありません?」

「いや、他社が受注した案件ですから、わたしも詳しくは知りませんな。」

 天野理事長も微笑んで、即座に否定するのである。これが本当に知らないのか、或る程度は知っているが敢えて知らないと言っているのか、それは天野理事長本人にしか判らない。だから桜井一佐も、深くは追求しないのである。

「そうですか。 さて、防衛軍から明かせる事情としては、以上です。我々としては、十月の初めに見せて頂いた AMF の狙撃能力に、大いに期待しているのですが、御協力を願えますか?」

 桜井一佐に言われ、思わず茜は緒美の方へ視線を送る。緒美と茜が返事に逡巡(しゅんじゅん)している僅(わず)かな間(ま)に、ブリジットが右手を机の上から小さく挙げ、桜井一佐に問い掛けるのだ。

「あの、AMF のレーザー砲だけ、当てにされてる様子なんですが、B号機のレールガンは計算には入ってないんでしょうか?」

 ブリジットにニッコリと笑い掛け、桜井一佐は答える。

「B号機のレールガンは装弾数に限度が有る仕様ですから、前回と同じく『ペンタゴン』の狙撃に専任で、お願いします。『ペンタゴン』が居るか居ないかで『トライアングル』の動き、特に回避機動に大きな差が出る事は、前回までの迎撃作戦で実証されたものと判断していますから、B号機の任務は重要ですよ。その任務に関しては、『ペンタゴン』の位置を特定する、C号機も同様に重要です。『ペンタゴン』の排除が出来れば、『トライアングル』に対するミサイル命中率の向上が期待出来ますからね。」

「分かりました。」

 桜井一佐の説明にブリジットが納得する一方で、緒美が声を上げるのだ。

「桜井さん。それでは、HDG 各機は基本的に後方からの長距離狙撃と電子戦で参加、と言う事でいいんですね?」

「勿論です。民間協力者を盾にする様な作戦は、考えていません。但し、それでも前回の様に、気付かない内にエイリアン・ドローンに接近される危険性は、完全に否定は出来ません。極力、その様な事態にならないよう、援護態勢は整えたいと考えていますが。」

 緒美は視線を茜に向け、尋(たず)ねるのだ。

「どうかしら?天野さん。」

「いいんじゃないですか? もしも接近されたら、其(そ)の時は其(そ)の時で、柔軟に対処するだけです。予(あらかじ)め、そんな細かい状況まで想定するなんて、そもそも不可能ですから。」

 茜の返事を聞いて、緒美はブリジットとクラウディアにも意思を確認するのである。

ボードレールさん、カルテッリエリさんも、大丈夫?」

「はい。」

「問題無いです。」

 ブリジットとクラウディアも、相次いで承諾の返事をするのだった。
 それを確認して、桜井一佐はスッと席から立ち上がるのだ。

「いい返事が聞けて、来た甲斐が有ったと言うものだわ。作戦の詳細に就いては、又、後日に連絡させて頂きます。宜しいかしら?」

 そう桜井一佐が緒美に向けて言うので、緒美は応える。

「その辺りの遣り取りは、従来通り、本社の方(ほう)と、お願いします。それで、いいですよね?理事長。」

「ああ、構わないよ。皆は詳細が決まる迄(まで)は、学業の方に専念してて呉れたらいい。」

 頷(うなず)いて然(そ)う言う天野理事長に、桜井一佐が告げるのだ。

「それでは、その様に。其方(そちら)側の窓口は、今迄(いままで)通り飯田さんで?」

「そうですな、いいでしょう。飯田君には、わたしの方からも一言、言っておきますよ。」

「宜しくお願いします。」

 桜井一佐は小さく頭を下げると、「では、わたしはこれで。」と告げて部室の出入り口へ向かうのだ。

「もう、お帰りですか。宜しければ、このあと食事でも?」

 そう天野理事長に声を掛けられて、ドアの前で立ち止まった桜井一佐は振り向いて応える。

「いえ、今日中に空幕へ戻らないとならないので。帰りの足も手配済みですし。」

 天野理事長も席から立ち、言葉を返す。

「そうですか、なら、下までお見送りしましょう。 校長。」

「そうですわね。」

 促(うなが)され、塚元校長も席を立つのだった。
 そして振り向き、天野理事長は緒美達へ声を掛けるのである。

「又、キミ達には無理をさせる事になって申し訳無く思っているが、宜しく頼むよ。現状で、キミ達に頼るしかないのは、大人として情け無い限りではあるが。」

「いえ、わたし達に出来る事でしたら。」

 緒美が短く言葉を返すと、天野理事長は唯(ただ)「そうか。」とだけ、呟(つぶや)いたのだった。

「それでは皆さん、又、後日。 あ、紅茶、ご馳走様。」

 桜井一佐は微笑んで礼を述べ、ドアを開けて部室から出て行く。続いて天野理事長と塚元校長も、退室していくのだ。

「それじゃ立花先生、あとはお願いね。皆さんも、あまり遅くまで部活を頑張り過ぎないように。 美味しい紅茶をありがとう、森村さん。」

 そう言い残して、塚元校長はドアを閉めた。
 三人が外階段を降りて行く、足音が部室の中に聞こえていたが、間も無く其(そ)れも聞こえなくなるのである。

 部室の外、第三格納庫東側の外階段の下には、黒塗りの自動車が二台、駐まっている。先頭の一台は理事長と校長が乗ってきた物で、後側の一台は陸上防衛軍所有の車輌である。車外には理事長秘書である加納と、桜井一佐の秘書担当である航空防衛軍の若い士官とが、立ち話をしていた。陸防車輌の運転席には、車輌を貸し出した陸防に所属する下士官が、車輌の管理担当兼運転手として待機しているのだ。
 加納と秘書役の士官は、上司上官が出て来た事には直ぐに気が付き、それぞれの持ち場に戻る。
 桜井一佐の秘書役の士官は、階段を降りて来た桜井一佐の為に車輌のドアを開けた。

「ありがとう、お待たせしたわね。」

 乗り込もうとする桜井一佐に、天野理事長が声を掛けるのだ。

「その車で東京まで?」

「あはは、まさか。近くの駐屯地で借用しただけですよ、運転手付きで。 駐屯地に戻ったら、そこに連絡機が迎えに来る予定です。」

「そうですか、では、お気を付けて。」

「はい。重ねて、御社の協力には感謝致します。」

「会社に対しては兎も角だが、あの子達の功労には、何らかの形で報いてやりたいですな。」

「ええ…でも、防衛軍に出来る事は、あまり思い付きませんが。 個人的にでも何か、考えてあげたいですね。」

「そう言うお気持ちで居て頂けるのであれば、有り難いです。」

「では、今日はこれで、失礼します。」

 桜井一佐は天野理事長に一礼して、陸防車輌の後席に腰を下ろす。秘書役の士官がドアを閉めると、彼は車輌の前を左側へと回り、助手席へと乗り込むのだ。
 陸防の車輌は、そこで二度三度と前後し乍(なが)ら切り返してUターンを行い、車体が逆方向へと向いた所で加納が助手席の側へと歩み寄り、窓ガラスをコンコンとノックするのだった。
 秘書役の士官が窓ガラスを降ろすと、加納は言うのだ。

「帰り際、出口で警備の担当者に入場証を返すのを忘れないでくださいね。」

「ああ、はい、了解です。 それでは加納さん、お元気で。お会い出来て良かった。」

「又、何時(いつ)か機会が有りましたら。」

 二人は握手を交わし、そして加納が車輌の傍(そば)から離れると、窓ガラスが上げられ車輌は走り出すのである。

「知り合いだったかね?加納君。」

「いえ、何故だか彼方(あちら)が一方的に、わたしの事を知っていた様子でしたが。」

 天野理事長の問い掛けに、少し照(て)れたように加納が答えると、塚元校長が笑って言うのだ。

「加納さんも、なかなかに有名人みたいですわね。」

「知られているのは、『悪名』だと思いますけど。」

「あはは、そうでもないだろう? さて、それじゃ我々も引き上げるとするかな。」

 そうして三人が乗り込んだ自動車は、校舎の方へと走り去ったのである。

 

- to be continued …-

 

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